労働法関係

第0 目次

第1 時間外労働,休日労働及び深夜労働並びに残業代請求
第2 時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)
第3 歩合給
第4 就業規則
第5 労働協約及びユニオン・ショップ協定
第6 労使協定
第7 労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存
第8 国際自動車に関する訴訟等
第9 最低賃金
第10 最高裁判所の労働実務研究会の結果概要
第11 期間の定めのない労働契約
第12 労働組合
第13 労働委員会による不当労働行為救済制度
第14 解雇
第15 有給休暇

*1 「タクシー業界に対する規制」も参照してください。
*2 経営ハッカーHPに「労働基準監督官が実施する「臨検(りんけん)」では、具体的に何が調査されるのか 」及び「労働基準監督官とは,どのような権力を持っている人物なのか」が載っています。
*3 働き方改革研究所HP「労基法改正に向けて、今知っておきたい「フレックスタイム制」の基礎知識」が載っています。
*4 厚生労働省HPに「労働基準法に関するQ&A」が載っています。
*5 労働基準監督署対策相談室HPが参考になります。
*6 icare HPに「フレックスタイム制の基本が8分でわかる!」が載っています。

第1 時間外労働,休日労働及び深夜労働並びに残業代請求

1 総論
(1) 使用者は,労働者に時間外労働,休日労働,深夜労働を行わせた場合,法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払う必要があります(時間外労働又は休日労働につき労働基準法37条1項・労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年1月4日政令第5号),深夜労働につき労働基準法37条4項。)。
(2)ア 割増賃金率は時間外労働が25%以上(1か月60時間を超える時間外労働については50%以上),休日労働が35%以上,深夜労働が25%以上です。
イ 休日労働の割増賃金が35%となったのは平成6年4月1日です。
ウ   1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金が50%となったのは平成22年4月1日です(厚生労働省HPの「労働基準法の一部改正法が成立~平成22年4月1日から施行されます~」参照)。
(3) 割増賃金は,1時間当たりの賃金額×時間外労働,休日労働又は深夜労働を行わせた時間数×割増賃金率で計算されます。
(4) 残業時間の削減方法につき,社会保険労務士はなだ事務所HPの「ノー残業の労務管理術」が参考になります。
(5)ア 平成11年3月31日までは,女性労働者については原則として,一定の時間を超える時間外労働のほか,休日労働及び深夜労働が禁止されていましたが,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等のための労働省関係法律の整備に関する法律(平成9年6月18日法律第92号)により,これらの制限が撤廃されました。
イ やまがた労働情報HPに,「3.労働時間などに係る女性保護規定について」が載っています。

2 時間外労働
(1)ア 1日8時間,1週間40時間が法定労働時間です(労働基準法32条)から,それを超過した分が法定時間外労働となります。
イ 法定労働時間は,週48時間(昭和22年)→週46時間(昭和63年)→週44時間(平成3年)→原則として週40時間(平成6年)→週40時間(平成9年)と推移しています(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。
(2)ア 就業規則等で定められた労働時間が所定労働時間です。
   そして,所定労働時間を超過するものの,法定労働時間を超過しない場合,法内時間外労働(法定内残業)となります。
イ いわゆる残業は所定外労働のことであり,法内時間外労働及び法定時間外労働の両方が含まれます。
(3) 25%以上の割増賃金が発生するのは法定時間外労働だけです。

3 休日労働
(1) 休日労働には,割増率が35%となる法定休日労働と,割増率が25%又は0%となる法定外休日労働があります。
(2)ア   就業規則で法定休日が定められている場合,その日が法定休日となります(労働基準法35条1項参照)。
   そのため,例えば,就業規則で日曜日が法定休日と定められている場合,日曜日に働いた分が法定休日労働となります。
イ   就業規則で法定休日が特定されていない場合で,歴週(日~土)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合,当該歴週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となります(厚生労働省HPの「改正労働基準法に係る質疑応答」(平成21年10月5日付)のA10参照)。
(3)ア 就業規則等で定められた休日に働いた分のうち,法定休日労働に当たらないものが法定外休日労働となります。
イ 法定外休日労働のうち,1週間40時間を超える分については法定時間外労働(法定外残業)として割増率が25%となり,1週間40時間を超えない分については法内時間外労働(法定内残業)として割増率が0%となります。
(4)   予め休日と定められていた日を労働日とし,その代わりに他の労働日を休日としたという振替休日の場合,あらかじめ休日と定められた日が「労働日」となり,その代わりとして振り返られた日が「休日」となりますから,もともとの休日の労働させた日については「休日労働」とはならず,休日労働に対する割増賃金の支払義務は発生しません。
   これに対して休日労働が行われた後に,その代償としてその後の特定の労働日を休日としたという代休の場合,前もって休日を振り替えたことになりませんから,休日労働に対する割増賃金の支払義務が発生します(厚生労働省HPの「振替休日と代休の違いは何か。」参照)。

4 深夜労働
(1) 1日8時間以内又は1週間40時間以内であっても,午後10時から午前5時の時間帯に働いた場合,深夜労働時間となります。
(2) 法定時間外労働が深夜労働となった場合,割増率は50%以上となり,休日労働が深夜労働となった場合,割増率は60%以上となります。
(3) NPO法人長崎人権研究所HPに「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年労働省告示第21号)及び「深夜業に従事する女性労働者の就業環境等の整備に関する指針」(平成10年6月11日付の労働省女性局長通達)が載っています。

5 割増賃金の基礎となる賃金
(1) 割増賃金の基礎となるのは,所定労働時間の労働に対して支払われる1時間当たりの賃金額です。
   例えば,月給制の場合,各種手当も含めた月給を1か月の所定労働時間で割って,1時間当たりの賃金額を算出します。
   その際,以下の①ないし⑦は,労働と直接的な関係が薄く,個人的事情に基づいて支給されていることなどから,基礎となる賃金から除外できます(労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条)。
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
(2) 厚生労働省HPの「割増賃金の基礎となる賃金とは?」が参考になります。

6 残業代請求
(1) 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解されています(最高裁平成29年7月7日判決。なお,先例として,最高裁昭和47年4月6日判決参照)。
(2) 外部HPの「正しく計算されていますか?~残業代の計算方法」のほか,「従業員の未払い残業代請求における企業側の反論の重要ポイントを弁護士が解説」が参考になります。
(3) 退職労働者の賃金に係る遅延利息は年14.6%となっています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条)。
(4)ア 賃金請求権の消滅時効は2年であり,退職金請求権の消滅時効は5年です(労働基準法115条)。
イ 昭和63年4月1日施行の労働基準法の一部を改正する法律(昭和62年9月26日法律第99号)による改正前は,退職金請求権の消滅時効も2年でした(最高裁昭和49年11月8日判決)。
(5)   労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)等の解説が厚生労働省HPの「労働時間等の設定の改善」に載っています。
(6) 残業代請求請求訴訟を提起した場合,京都第一法律事務所が作成した「きょうとソフト」を使用するように裁判所からいわれることがあります(ダウンロードページにつき,京都第一法律事務所HPの「残業代計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」」参照)。
   ただし,変形労働時間制には対応していません。
(7)   二弁フロンティア2017年7月号「残業代請求事件対応の基礎と最新実務~労働者側から~(前編)」が載っていて,二弁フロンティア2017年8月号「残業代請求事件対応の基礎と最新実務~使用者側から~(後編)」が載っています。
(8) 浦部孝法弁護士ブログに「残業代請求するよりも職探しした方がよい件」(平成26年5月2日付)が載っています。
(9)   残業代請求の実体験談HPの「労働基準監督署は動いてくれるのか?」には以下の記載があります。
   証拠が充分に揃っていて違法性が高く、複数の人が関係する案件では動いてくれますが、個人の案件では動いてくれない様な感じですね。後で弁護士さんから聞いたんですが、時間管理を行っていない事自体が問題で、厳しい対応をしなければいけないはずなんです。担当弁護士さんも呆れてましたね。結局、のらりくらりでかわされて時間だけ無駄に使ってしまいました。

7 ホワイトカラーエグゼンプション
(1) ホワイトカラーエグゼンプションとは,従来の管理監督者に加え,仕事や時間管理において自己裁量の高いホワイトカラー労働者に対し,労働時間等の規制の適用を免除することをいいます。
   この場合,ホワイトカラーとして裁量的業務の従事者であり,かつ,一定以上の年収の労働者であれば,労使協定の締結等により時間管理のエグゼンプト(適用除外)を行えることとなります。
(2) 日本経済団体連合会は,平成17年6月21日付の「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」において年収400万円以上のホワイトカラーについてホワイトカラーエグゼンプションを適用すべきと主張しています。

第2 時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)

1(1)ア 使用者が労働者に時間外労働又は休日労働を行わせるためには,労働基準法36条に基づき,時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)を労働組合又は労働者の過半数代表者(労働基準法施行規則6条の2)との間で締結し,36協定を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法36条1項)。
イ この場合における休日労働は,法定休日における労働のことです。
(2) 使用者は,36協定をする場合,時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由,業務の種類,労働者の数並びに一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日について,協定しなければなりません(労働基準法施行規則16条1項)。 
(3) 36協定は就業規則と同様に,①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,②書面を交付すること等の方法により,労働者に周知する必要があります(労働基準法106条1項・労働基準法施行規則52条の2)。
(4) 36協定は,労働協約による場合を除き,有効期間を定める必要があります(労働基準法施行規則16条2項)。
   原則として1年以上の有効期間を設定する必要がありますところ,有効期間の上限に関する定めはありません。

2(1)   労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年10月28日労働省告示第154号)(通称は「限度基準告示」です。)によれば,一般の労働者の場合,延長時間の限度は以下のとおりです。
1週間当たり 15時間
2週間当たり 27時間
4週間当たり 43時間
1か月当たり 45時間
2か月あたり 81時間
3か月当たり120時間
1年間当たり360時間
(2) 臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合,特別条項付き協定を結べば,限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。
   ただし,特別の事情は,臨時的なものに限られるのであって,例えば,予算・決算業務,ボーナス商戦に伴う業務の多忙,納期のひっ迫,大規模なクレームへの対応,機械のトラブルへの対応があります。
(3) 限度基準告示が制定される以前は,昭和57年制定の目安指針があるだけでした(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。

3 労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき,使用者が,当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し,これ
を所轄労働基準監督署長に届け出た場合において,使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,それが具体的労働契約の内容をなすから,右就業規則の規定の適用を受ける労働者は,その定めるところに従い,労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負います(最高裁平成3年11月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和43年12月25日判決最高裁昭和61年3月13日判決参照)。

4   日本労働組合総連合会(連合)HP「世論調査」に掲載されている「36協定に関する調査2017」(2017年7月7日掲載)には以下の趣旨の記載があります。
① 「残業を命じられることがある」6割強、1ヶ月の残業時間 平均22.5時間
② 「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」
③ 認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
④ 勤め先が36協定を「締結している」4割半ば、
⑤ 「締結していない」2割弱、「締結しているかどうかわからない」4割弱
⑥ 心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間 平均46.2時間

5 厚生労働省HPの「時間外労働の限度に関する基準」が参考になります。

第3 歩合給

1 歩合給は出来高払制その他請負制によって賃金が定められている場合に該当しますから,歩合給時間額は,歩合給を総労働時間で除することで計算します(労働基準法施行規則19条1項6号)。
   また,歩合給に対する時間外手当は,歩合給時間額×時間外労働時間×25%を支給すれば足りますし,歩合給に対する休日手当は,歩合給時間額×休日労働時間×35%を支給すれば足ります(外部HPの「歩合給制」参照)。

2 タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に,時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは,右歩合給の支給によって労働基準法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできません(高知県観光事件に関する最高裁平成6年6月13日判決)。

第4 就業規則

1 就業規則の作成義務 
   常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成し,労働基準監督署に届け出なければなりませんし,絶対的記載事項又は相対的記載事項を変更した場合も同様です(労働基準法89条柱書)。

2 就業規則の記載事項
(1) 就業規則の絶対的記載事項は以下のとおりです。
① 始業及び終業の時刻,休憩時間,休日,休暇,就業時転換に関する事項
② 賃金の決定,計算及び支払の方法,賃金の締め切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇事由を含む。)
(2) 就業規則の相対的記載事項は以下のとおりです。
① 退職手当について,適用される労働者の範囲,決定,計算及び支払の方法並びに支払の時期に関する事項
② 臨時の賃金及び最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品その他の労働者の負担に関する事項
④ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰・制裁の定めについてその種類・程度に関する事項
(3) 労働基準法89条に列挙された事項以外の事項であっても,使用者は就業規則に任意の事項を記載することができます。

3 就業規則の作成手続
(1)ア 使用者は,就業規則の作成又は変更について,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。 
イ 労働者の過半数を代表する者は以下のいずれにも該当する者であり(労働基準法施行規則6条の2第1項)
① 管理監督者(労働基準法41条2号)ではないこと
② 労使協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
→ 「過半数代表者の選出方法として、(a)その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、(b)当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続が採られていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること」とされています(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の締結の適正手続」参照)。
ウ 使用者は,労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第3項)。 
(2) 使用者は,労働基準監督署に就業規則を届ける際,労働組合又は労働者の過半数代表者の意見を記した書面を添付しなければなりません(労働基準法90条2項)。
   また,その書面は,労働者を代表する者の署名又は記名押印のあるものでなければなりません(労働基準法施行規則49条2項)。

4 就業規則の周知及びその法的効果
(1) 使用者は,就業規則を以下の方法により,労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2)。
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること。 
② 書面を労働者に交付すること。 
③ 磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。 
(2) 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合,労働契約の内容は,別段の合意がない限り,その就業規則で定める労働条件によるものとされます(労働契約法7条)。
(3) 平成24年8月10日付の労働契約法の施行通達10頁及び11頁には以下の記載があります。
ア 法第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなるものであること。
   就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第7条本文によっても労働契約の内容とはならないものであること。
イ 法第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第89条の「就業規則」と同様であるが、法第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第89条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれるものであること。
ウ 法第7条の「周知」とは、例えば、
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
② 書面を労働者に交付すること
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
   等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものであること。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第7条の「周知させていた」に該当するものであること。
   なお、労働基準法第106条の「周知」は、労働基準法施行規則第52条の2により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、法第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものであること。

5 就業規則に基づく懲戒
(1) 使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最高裁平成15年10月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和54年10月30日判決参照)。
(2) 就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁大法廷昭和43年12月15日判決)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要します(最高裁平成15年10月10日判決)。
(3) 使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効となります(労働契約法15条)。

6 就業規則の変更
(1) 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,労働契約において別段の合意が存在していた場合を除き,当該変更後の就業規則に定めるところによることとなります(労働契約法10条)。
(2) 55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例として,第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決があります。
(3) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものです(最高裁平成28年2月19日判決)。
(4) 外部HPの「労働条件の不利益変更」が参考になります。

7 就業規則で定める基準に達しない労働条件
   就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効となります。この場合,無効となった部分は,就業規則で定める基準によります(労働契約法12条)。

8 公序良俗違反で就業規則が無効となった事例
   会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳,女子55歳と定めた場合において,担当職務が相当広範囲にわたっていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく,労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず,少なくとも60歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく,一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど,原判示の事情があって,会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは,右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は,性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効です(最高裁昭和56年3月24日判決)。 

第5 労働協約及びユニオン・ショップ協定

1 労働協約
(1)ア 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによってその効力を生じます(労働組合法14条)。
イ 労使間の合意文書の表題が「覚書」,「了解事項」等の名称であっても,労働組合法14条に該当すれば,労働協約となります。
   また,団体交渉議事録であっても,労使双方が署名したものであれば,その内容によっては労働協約と解されることがあります。
(2) 労働協約には,3年を超える有効期間の定めをすることができませんし(労働組合法15条1項),3年を超える有効期間の定めをした労働契約は,3年の有効期間を定めた労働協約とみなされます(労働組合法15条2項)。
(3) 有効期間の定めがない労働協約は,90日前に予告することで解約できます(労働組合法15条3項及び4項)。
(4) 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となります。この場合において無効となった部分は,基準の定めるところによります。労働契約に定めがない部分についても同様です(労働組合法16条)。 
(5) 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至った場合,当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても,当該労働協約が適用されます(労働組合法17条)。
   ただし,労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,右労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,労働協約を右労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,その効力を右労働者に及ぼすことはできません(最高裁平成8年3月26日判決)。
(6) 就業規則が法令又は労働協約に反する場合,法令又は労働協約が優先します(労働契約法13条)。
(7) 労働協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合,労働協約の規範的効力が否定されることがあります(朝日火災海上保険事件に関する最高裁平成9年3月27日判決参照)。

2 ユニオン・ショップ協定
(1) ユニオン・ショップ協定は,労働協約の一種でありますところ,労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に,使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものです。
(2) ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,民法90条により無効です(日本シェーリング事件に関する最高裁平成元年12月14日判決)。

第6 労使協定と労働協約の違い

1(1) 労使協定は,労働協約と同様,労働者代表と使用者間の交渉によって締結される合意文書ですし,その内容は労働条件や労働者の待遇についてのものです。
(2) 労使協定は,労働協約の形式で締結できます(労働基準法施行規則16条2項,24条の2第2項参照)から,労働組合法14条の要件を満たして締結された場合,労働協約としての効力を有することとなります。

2 労使協定は以下の点で労働協約と異なります(外部HPの「労働協約と労使協定」参照)。
① 趣旨・目的
・   労働協約は,組合員を代表する労働組合が,労働者と使用者間に存在する交渉力格差を集団的交渉によって解消し,よりよい労働条件を獲得しようとするものであり,組合員の労働契約の規律を本来の目的としています。
   労働組合が労働協約によって労働条件を独自に設定する自由(協約自治)は憲法28条により保障され,労働協約には労働組合法16条によって規範的効力が付与されています。
・ 労使協定は,国家が定める最低労働条件を全面的・一律に適用することが実務上不都合と考えられる事項について,事業場の全従業員のために最低労働条件規制の例外を認めるための手段として,法政策上導入されたものです。
   例えば,労働時間は,1日8時間・週40時間が上限である(労働基準法32条)が,いついかなる場合もこの法定労働時間を超えてはならないとすると,業務上の必要性に対応できず,また労働者の意向にも反することがあるため,現場の労使の判断を尊重する趣旨で,労働者代表との合意(労使協定)による労働時間延長が許容されているのである(労働基準法36条1項)。
② 締結主体
・ 労働協約は労働組合(労働組合法2条)が締結主体であり,多数組合(過半数組合)か少数組合かに関わらず,すべての労働組合が締結権限を持ちます。
・ 労使協定は,当該事業場で過半数を組織する労働組合が存在する場合にはその労働組合,そうした労働組合が存在しない場合には,過半数を代表する者(過半数代表者)が締結主体となり,「過半数」の代表であることが要件です。
   ただし,労使協定は,労働組合が組織されていない事業場でも,過半数代表者を1名選出すれば,その者が締結できるという点では,締結主体の選択肢が広いです。
③ 効力要件
・ 労働協約の効力要件は書面で作成されていること及び両当事者の署名又は記名押印です(労働組合法14条)。
・ 労使協定の効力要件は書面で作成されていることのほか,法所定の事項が記載されていることです。
   また,36協定のように,一部の労使協定については,労働基準監督署への届出が効力要件とされています。
④ 効力範囲
・ 労働協約は労働組合を単位として適用されるものであり,原則として当該協約を締結した組合の組合員にのみ適用されます。
・ 労使協定は事業場を単位として適用されるものであり,当該事業場の全労働者に適用することが予定されています。
⑤ 規範的効力の有無
・ 労働協約は労働契約を規律する規範的効力を有します(労働組合法16条)。
・ 労働基準法上の労使協定の効力は,その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものであり,労働者の民事上の義務は,当該協定から直接生じるものではなく,労働協約,就業規則等の根拠が必要です(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の効力」参照)。

第7 労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存

1 労働者名簿
(1) 使用者は,各事業場ごとに労働者名簿を各労働者について調製し、労働者の氏名,生年月日,履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければなりませんし(労働基準法107条1項),記入すべき事項に変更があった場合,遅滞なく訂正しなければなりません(労働基準法107条2項)。
(2)ア 労働基準法施行規則53条1項によれば,労働者名簿には労働者の氏名,生年月日及び履歴のほか,以下の事項を記載しなければなりません。
① 性別
② 住所
③ 従事する業務の種類
④ 雇入の年月日
⑤ 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては,その理由を含む。)
⑥ 死亡の年月日及びその原因
イ 常時30人未満の労働者を使用する事業においては,従事する業務の種類を記入することを要しません(労働基準法施行規則53条2項)。

2 賃金台帳
(1) 使用者は,各事業場ごとに賃金台帳を調製し,賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません(労働基準法108条)。
(2)ア 労働基準法施行規則54条1項によれば,賃金台帳には労働者各人別は以下の事項を記入しなければなりません。
① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数
⑦ 基本給,手当その他賃金の種類ごとにその額
⑧ 労働基準法24条1項によって賃金の一部を控除した場合には,その額
イ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数については,就業規則に基づいて算定する労働時間数をもってこれに代えることができます(労働基準法施行規則54条1項)。
(3) 賃金台帳の様式は,労働基準法施行規則55条及び様式第20号によって定められています(厚生労働省HPの「労働基準法関係主要様式」参照)。
(4) 使用者は,労働者名簿及び賃金台帳をあわせて調製することができます(労働基準法施行規則55条の2)。
3 記録の保存
(1) 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。 
(2) 記録の保存期間の始期は以下のとおりです(労働基準法施行規則56条)。
① 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日 
② 賃金台帳については、最後の記入をした日 
③ 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日 
④ 災害補償に関する書類については、災害補償を終つた日 
⑤ 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日

4 労働基準法施行規則が定める様式と異なる様式を用いてもいいこと
   労働基準法施行規則が定める労働者名簿,賃金台帳等に用いるべき様式は,必要な事項の最小限度を記載すべきことを定めるものであって,横書き,縦書きその他異なる様式を用いることを妨げるものではありません(労働基準法施行規則59条の2第1項)。

第8 国際自動車に関する訴訟等

1 国際自動車第1次訴訟
(1) 国際自動車第1次訴訟に関する最高裁平成29年2月28日判決の裁判要旨は以下のとおりであり,国際自動車の賃金規程が公序良俗に違反するとして無効であるとした東京高裁平成28年4月21日判決(第一審は東京地裁平成27年7月16日判決(担当部は東京地裁11民))を破棄差戻しとしました。
   歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であると判断するのみで,当該賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かや,そのような判別をすることができる場合に,当該賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が同条その他の関係法令に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく未払賃金の請求を認容すべきものとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,審理を尽くさなかった違法がある。 
(2) 国際自動車の賃金規則の給料計算は簡略化すれば,給料=基本給+歩合給+割増金であり,歩合給=(揚高-控除額)×歩率-割増金でした。
   そのため,給料=基本給+((揚高-控除額)×歩率-割増金)+割増金=基本給+(揚高-控除額)×歩率となる結果,時間外労働に基づく割増金がいくら増えても給料が変わらないというものでした(外部HPの「残業代請求訴訟(国際自動車事件)最高裁平成29年2月28日判決」参照)。

2 国際自動車第2次訴訟 
   国際自動車第2次訴訟に関する東京地裁平成28年4月21日判決(担当部は東京地裁19民)は,国際自動車の賃金規定は労働基準法37条及び公序良俗に違反しないとしました(外部HPの「国際自動車(第2・歩合給等)事件」参照)。

3 関連判例
   最高裁平成6年6月13日判決最高裁平成24年3月8日判決及び最高裁平成29年7月7日判決があります。

4 東京地裁労働専門部等
(1)   東京地裁の場合,11民,19民及び36民が労働専門部となっています(東京地裁HPの「労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い」参照)。
(2) 全国の地裁の専門部については,「現職裁判官の分布表,全国の地裁の本庁及び支部ごとの裁判官数」を参照してください。

第9 最低賃金

1(1) 使用者は,最低賃金の適用を受ける労働者に対し,その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法4条1項)。
(2) 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは,その部分については無効となります。この場合,無効となった部分は,最低賃金と同様の定をしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。
(2) 最低賃金の適用を受ける使用者は,当該最低賃金に関する以下の事項を,常時作業場の見やすい場所に掲示し,又はその他の方法で,労働者に周知させるための措置をとらなければなりません(最低賃金法8条,最低賃金法施行規則6条)。
① 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額
② 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
③ 効力発生年月日

2(1) 厚生労働省に中央最低賃金審議会が置かれ,都道府県労働局に地方最低賃金審議会が置かれています(最低賃金法20条)。
(2) 最低賃金審議会は,専門部会を置いたうえで,最低賃金の決定又はその改正の決定について調査審議を行います(最低賃金法25条2項,最低賃金審議会令6条)。
(3) 中央最低賃金審議会の議事録,資料等及び開催案内は,厚生労働省HPの「中央最低賃金審議会」に載っています。
(4)ア 平成28年7月28日付の「平成28年度地域別最低賃金額改定の目安について」によれば,大阪府の引上げ額の目安はAランクの25円でした。
イ 平成29年7月27日付の「平成29年度地域別最低賃金額改定の目安について」によれば,大阪府の引上げ額の目安はAランクの26円でした。

3(1) 大阪府最低賃金の推移は以下のとおりです(大阪労働局HPの「大阪府最低賃金額の推移」参照)。
25年10月18日~:時間額819円(25年9月18日発表)
26年10月 5日~:時間額838円(26年9月 5日発表)
27年10月 1日~:時間額858円(27年8月 6日発表)
28年10月 1日~:時間額883円(28年8月23日発表)
(2) 大阪府最低賃金は,大阪府最低賃金審議会の大阪労働局長に対する答申を経た後,大阪労働局労働基準部賃金課によって発表されています。

4(1) タクシー,トラック運転者の賃金が最低賃金に違反していないかどうかを確認する方法については,鳥取労働局HPの「タクシー,トラック運転者の最低賃金について」が分かりやすいです。
(2) 月給制,日給月給制,日給制等については,外部HPの「日給月給制って何?知らないと損をする給与体系」が分かりやすいです。

第10 最高裁判所の労働実務研究会の結果概要

〇最高裁判所の平成25年度労働実務研究会の結果概要を以下のとおり掲載しています。
①   「労働事件の一般的問題」結果概要
→ 時間外手当(実労働時間),時間外手当(審理運営),時間外手当(固定残業代),定年後の再雇用拒否,セクハラ・パワハラ,労働契約法18条,降格,就業規則の不利益変更,普通解雇及び懲戒解雇に関する裁判官の議論が載っています。
②   「労働事件を巡る実務上の諸問題」結果概要
→ 休職,使用者がとるべき対応,業務起因性,労働時間の認定方法,時間外手当,定年後の再雇用拒否,労働契約法20条,労働審判(セクハラ・パワハラ等の審理運営),労働審判(テレビ会議システム等)及び労働審判(適正な手続選択)に関する裁判官の議論が載っています。

第11 期間の定めのない労働契約

○私立大学の教員に係る期間1年の有期労働契約は,①当該労働契約において,3年の更新限度期間の満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,これを希望する教員の勤務成績を考慮して当該大学を運営する学校法人が必要であると認めた場合である旨が明確に定められており,当該教員もこのことを十分に認識した上で当該労働契約を締結したものとみることができること,②大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていること,③当該学校法人が運営する三つの大学において,3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった教員も複数に上っていたことなど判示の事情の下においては,当該労働契約に係る上記3年の更新限度期間の満了後に期間の定めのないものとなったとはいえません(最高裁平成28年12月1日判決)。

第12 労働組合

1 労働組合が他の労働組合の闘争支援資金として徴収する臨時組合費,及び労働組合がその実施したいわゆる安保反対闘争により民事上又は刑事上の不利益処分を受けた組合員を救援する費用として徴収する臨時組合費については,組合員はこれを納付する義務を負う。
   これに対して, 労働組合がいわゆる安保反対闘争実施の費用として徴収する臨時組合費,及び労働組合が特定の立候補者の選挙運動支援のためその所属政党に寄付する資金として徴収する臨時組合費については,組合員はこれを納付する義務を負わない(最高裁昭和50年11月28日判決(国労広島地本事件判決))。

2 最高裁平成15年12月22日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 日本国有鉄道改革法6条2項所定の旅客鉄道株式会社及び同法8条2項所定の日本貨物鉄道株式会社の設立委員ひいては上記各社は,その成立の時の職員の採用について,日本国有鉄道がその職員の中から上記各社の職員となるべき者を選定してその名簿を作成するに当たり専らその意思により組合差別をしたという場合には,労働組合法7条にいう使用者として不当労働行為の責任を負わない。
② 雇入れの拒否は,それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り,労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらない。

3 最高裁平成18年12月8日判決の裁判要旨は以下のとおりです。
① 労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には,使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも,当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができる。
② 労使協調路線を採るA労働組合の組合員である新幹線運転所の指導科長(助役)が,A労働組合と対立するB労働組合の組合員である同運転所の従業員に対し,B労働組合からの脱退を勧めたり,B労働組合の組合員に対する使用者の働き掛けを容認するよう求めたりする発言をした場合において,(1)同運転所の科長は現場長である所長に次ぐ職制上の地位にあったこと,(2)A労働組合から脱退した者らがB労働組合を結成し,両者が対立する状況において,使用者はA労働組合に対し好意的であったこと,(3)上記発言には使用者の意向に沿って上司としての立場からされた発言と見ざるを得ないものが含まれていたことなど判示の事情の下では,上記発言がA労働組合の組合員としての発言であることが明らかであるなどの特段の事情が存在することについて首肯すべき説示をすることなく,上記発言をもって使用者の不当労働行為と認めることはできないとした原審の判断には,違法がある。 

4 従業員と使用者との間において従業員が特定の労働組合に所属し続けることを義務付ける内容の合意がされた場合において,同合意のうち,従業員に上記労働組合から脱退する権利をおよそ行使しないことを義務付けて脱退の効力そのものを生じさせないとする部分は,公序良俗に反し無効です(最高裁平成19年2月2日判決)。

5(1) 住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する受託者は,上記会社との関係において労働組合法上の労働者に当たることがあります(最高裁平成23年4月12日判決参照)。
(2) 年間を通して多数のオペラ公演を主催する財団法人との間で期間を1年とする出演基本契約を締結した上,各公演ごとに個別公演出演契約を締結して公演に出演していた合唱団員は,上記法人との関係において労働組合法上の労働者に当たることがあります(最高裁平成23年4月12日判決参照)。

第13 労働委員会による不当労働行為救済制度

1 自ら救済を申し立てなかった労働者がその所属する労働組合の救済申立てに係る救済命令の取消訴訟に行政事件訴訟法22条1項に基づく参加をすることは,当該救済命令の内容が当該労働者に対する賃金相当額の支払を命じるものであるなど当該労働者個人の雇用関係上の権利にかかわるものであっても,許されません(最高裁平成14年9月26日決定)。

2 労働委員会による不当労働行為救済制度は,労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし,これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を不当労働行為として禁止した労働組合法7条の規定の実効性を担保するために設けられたものです。
   そのため,使用者が同条3号の不当労働行為を行ったことを理由とする救済申立てをするには,当該労働組合のほか,その組合員も申立て適格を有します(最高裁平成16年7月12日判決)。

第14 解雇

○従業員が職場で上司に対する暴行事件を起こしたことなどが就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして,使用者が捜査機関による捜査の結果を待った上で上記事件から7年以上経過した後に諭旨退職処分を行った場合において,上記事件には目撃者が存在しており,捜査の結果を待たずとも使用者において処分を決めることが十分に可能であったこと,上記諭旨退職処分がされた時点で企業秩序維持の観点から重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況はなかったことなどといった事情の下では,上記諭旨退職処分は,権利の濫用として無効です(最高裁平成18年10月6日判決参照)。 

第15 有給休暇

○事業遂行に必要な技術者の養成と能力向上を図るため,各職場の代表者を参加させて,一箇月に満たない比較的短期間に集中的に高度な知識,技能を修得させ,これを職場に持ち帰らせることによって,各職場全体の業務の改善,向上に資することを目的として行われた訓練の期間中に,訓練に参加している労働者から年次有給休暇が請求されたときは,使用者は,当該休暇期間における具体的な訓練の内容がこれを欠席しても予定された知識,技能の修得に不足を生じさせないものであると認められない限り,事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができます(最高裁平成12年3月31日判決)。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。