交通事故の示談をする場合の留意点

第0 目次

第1  総論
第2  自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと
第3  示談とは別枠で支払を受けることができるお金
第4  示談金における主な項目等
第5  任意保険会社との示談の形式(示談書・免責証書)
第6  労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談
第7  人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと
第8  金員仮払いの仮処分命令
第9  交通事故紛争処理センターのメリット・デメリット
第10 裁判所に訴訟を提起した場合,事前交渉提示額より下がる場合があること
第11 自賠責保険の消滅時効
第12 民法709条の損害賠償請求権の消滅時効
第13 交通事故の損害賠償金と所得税
第14 高度障害保険金等は非課税所得となること
第15 交通事故の損害賠償金等と相続税
第16 自賠責保険金と生活保護の取扱い
第17 保険会社のインターネット上の苦情窓口

*1 労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案の場合,「労働者災害補償保険法,厚生年金保険法及び国民年金法に基づく過去及び将来の給付金」を除外する必要があります。
*2 以下の記事も参照して下さい。
① 任意保険の示談代行制度
② 保険会社の説明義務
③ 人身傷害補償保険
④ 第三者行為災害としての交通事故
→ 被災者が労働基準監督署に提出する念書には通常,「相手方と示談を行おうとする場合は必ず前もって貴職に連絡します。」などと書いてあります。
⑤ 弁護士依頼時の一般的留意点
⑥ 陳述書
⑦ 証人尋問及び当事者尋問

第1 総論

1(1) 後遺障害の等級認定結果に不服がない場合,等級認定結果を基準として,①示談交渉,②公益財団法人交通事故紛争処理センターへの和解斡旋の申立て(同センターHPの「法律相談,和解あっ旋および審査の流れ」参照),③裁判所に対する訴訟提起により,損害賠償額を確定することとなります。
(2) 裁判所に対する訴訟提起に関しては,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」を参照して下さい。

2 裁判所に対する訴訟提起をした後に,交通事故紛争処理センター(略称は「紛セン」です。)を利用することはできません。

3 「交通事故紛争処理センター体験レポート」には,交通事故紛争処理センターを利用した人の体験談が載っています。

4 任意保険会社が示談交渉で示す示談金は,裁判基準に基づく金額を下回ることはもとより,弁護士が介入した後に示す金額よりも低いことが通常です。
   そのため,任意保険会社から示談金を示された場合,弁護士に相談することが非常に望ましいです。

5   
弁護士費用特約を利用できる場合,加害者に対する損害賠償請求について,依頼者となる被害者に弁護士費用の自己負担が発生することはありません(「弁護士費用特約」参照)。

6 交通関係訴訟の実務(著者は東京地裁27民(交通部)の裁判官等)123頁ないし132頁に「被害者が長期間に渡って治療を継続し,加害者から債務不存在確認訴訟が提起された場合における諸問題」載っています。
   また,367頁ないし381頁に「共同不法行為の諸問題1(交通事故と交通事故の競合1-同時事故)」が載っていて,382頁ないし394頁に「共同不法行為の諸問題2(交通事故と交通事故の競合2-純粋異時事故)」が載っていて,395頁ないし409頁に「共同不法行為の諸問題3-交通事故と医療事故の競合」が載っています。
   さらに,447頁ないし463頁に「消滅時効」が載っていて,464頁ないし480頁に「示談等に関する諸問題」が載っています。

第2 自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと

「任意保険の示談代行」に移転させました。

第3 示談とは別枠で支払を受けることができるお金

「損益相殺」に移転させました。

第4 示談金における主な項目等

「任意保険の示談代行制度」に移転させました。

第5 任意保険会社との示談の形式(示談書及び免責証書)

「任意保険の示談代行制度」に移転させました。

第6 労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談

「労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談」に移転させました。

第7 人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと

「任意保険の示談代行制度」に移転させました。

第8 金員仮払いの仮処分命令

1 交通事故の被害者において相手方から直ちに損害賠償金を回収しないと生活に困窮するといった事情がある場合,民事保全法23条2項所定の「仮の地位を定める仮処分命令」の一種である,金員仮払いの仮処分命令を利用することができます。

2 金員仮払いの仮処分命令を利用するためには,①被保全権利(例えば,交通事故に基づく損害賠償請求権)の疎明(民事保全法13条2項参照),及び②「争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)に該当することを疎明する必要があります。
   ②については,(a)直近2ヶ月分の家計簿を提出するとともに,(b)依頼者名義の預貯金通帳をすべて開示し,預貯金の残高がほとんど残っていないことを裁判所に説明する必要があります。

3 金員仮払いの仮処分命令は,原則として,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ない限り,発令してもらうことができません(民事保全法23条4項)。

4 交通事故事件において人身傷害補償保険を利用できる場合,民事保全法23条2項所定の事由がありませんから,金員仮払いの仮処分を利用することはできません。

第9 交通事故紛争処理センターのメリット・デメリット

1 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのメリットは以下のとおりです。
① 訴訟と比べると,手続が簡単です。
② 和解斡旋後に出される審査会の裁定には拘束力がありますから,訴訟提起した場合よりも早く解決することが多いです。
③ 法律相談,和解斡旋及び審査に関する費用を交通事故紛争処理センターに支払う必要はありません。

2 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのデメリットは以下のとおりです。
① 後遺障害の等級認定結果について争うことはできません。
② 遅延損害金及び弁護士費用を請求できません。
③ 損害賠償請求権の消滅時効を中断することはできません。

3 交通事故紛争処理センターは,訴訟と示談の中間みたいな手続です。

第10 裁判所に訴訟を提起した場合,事前交渉提示額より下がる場合があること

  「任意保険の示談代行」に移転させました。

第11 自賠責保険の消滅時効

「消滅時効に関するメモ書き」に移転させました。

第12 民法709条の損害賠償請求権の消滅時効

「消滅時効に関するメモ書き」に移転させました。

第13 交通事故の損害賠償金と所得税

1(1) 所得税法9条1項16号は,「損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で,心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税所得としており,詳細については,所得税法施行令30条で定められています。

2(1) 所得税法9条1項16号の趣旨は,損害賠償が他人の被った損害を補てんし,損害がないのと同じ状態にすることを目的とするものであって,その間に所得の観念を入れることが酷であるから,これを非課税所得とし,他方,損害賠償金の名目で支払われたとしても,そのすべてが非課税所得になるわけではなく,本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは,喪失した所得(利益)が補てんされるという意味においてその実質は所得(利益)を得たのと同一の結果に帰着すると考えられるから,それを非課税所得としないとするものです(平成17年9月12日付の国税不服審判所の裁決平成22年4月22日付の国税不服審判所の裁決参照)。
(2) 交通事故に基づく損害賠償金の場合,非課税所得であることに争いが生じることはまずありません。

3 交通事故等の加害者から被害者の死亡に対する損害賠償金を遺族が受け取った場合,所得税はかかりません(国税庁HPのタックスアンサー「No.1705 遺族の方が損害賠償金を受け取ったとき」参照)。

*4 国税庁HP「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取り扱い等について」(平成11年10月4日付の文書回答事例)が載っています。

第14 高度障害保険金等は非課税所得となること

1 疾病により重度障害の状態になったことなどにより,生命保険契約又は損害保険契約に基づき支払を受けるいわゆる高度障害保険金,高度障害給付金,入院費給付金等(一時金として受け取るもののほか、年金として受け取るものを含む。)は,所得税法施行令30条1号の「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当しますから,非課税所得となります(所得税基本通達9-21)。

2  被保険者の傷害又は疾病により当該被保険者が勤務又は業務に従事することができなかったことによるその期間の給与又は収益の補てんとして損害保険契約に基づき当該被保険者が支払を受ける所得補償保険金は,所得税法施行令30条1号の「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当しますから,非課税所得となります(所得税基本通達9-22)。
    ただし,業務を営む者が自己を被保険者として支払う所得補償保険金に係る保険料は,当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することはできません。

3 葬祭料,香典又は災害等の見舞金で,その金額がその受贈者の社会的地位,贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては,所得税法施行令30条に基づき非課税所得となります(所得税基本通達9-23)。

第15 交通事故の損害賠償金等と相続税

1 国税庁HPのタックスアンサー「No.4111 交通事故の損害賠償金」には,以下の記載があります。
   交通事故の加害者から遺族が損害賠償金を受けたときの相続税の取扱いは次のとおりです。
被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません。
 この損害賠償金は遺族の所得になりますが、所得税法上非課税規定がありますので、原則として税金はかかりません(遺族の方の所得税の課税関係は、関連コード1700又は1705を参考にしてください)。
 なお、被相続人が損害賠償金を受け取ることに生存中決まっていたが、受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利すなわち債権が相続財産となり、相続税の対象となります。

2 業務災害によって死亡した場合,会社によっては,慶弔見舞金規程に基づき,労災保険とは別に,弔慰金,花輪代,葬祭料等(=弔慰金等)を支給してくれることがあります。
   そして,弔慰金等のうち,ボーナスを除く給料の3年分以下の部分は,税務上も弔慰金等としての取扱いを受ける結果,相続税の対象とはなりません(相続税基本通達3-20)。

第16 自賠責保険金と生活保護の取扱い

1(1) 示談をした上で交通事故に基づく自賠責保険金を受領した場合,生活保護法63条に基づき,交通事故発生日「以降に」受領した生活保護費を福祉事務所に返還する必要があります(厚生労働省HPの「第三者加害行為による補償金、保険金等を受領した場合における生活保護法第六十三条の適用について」(昭和47年12月5日付の厚生省社会局保護課長通知),及び生活保護法63条に基づく費用返還請求の対象となる資力の発生時点(生活保護問答集からの抜粋)参照)。。
(2) 生活保護法63条は以下のとおりです。
   被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。

2 福岡交通事故弁護士相談窓口HP「賠償金を受けとると、生活保護を打ち切られる?」が載っています。

第17 保険会社の苦情窓口

1 保険会社のインターネット上の苦情窓口は以下のとおりです(保険契約者が苦情を伝える場合,証券番号を入力する必要があります。)。
① 東京海上日動HP「お問い合わせ」
→ 問い合わせフォームがあります。
② 三井住友海上HP「お問い合わせ」
→ 問い合わせフォームがあります。
③ あいおいニッセイ同和損保HP「「お客さまの声」にお応えするために」
→ 問い合わせフォームがあります。
④ 損保ジャパン日本興亜HP「お客さま相談室(保険金支払ご相談窓口)」
→ 電話対応だけみたいです。
⑤ AIG損保HP「事故・病気・ケガ・災害時のご連絡」
→ 電話のほか,メールによる問い合わせに対応しているみたいです。

2 1番安い自動車保険教えますHP「自動車保険19社の苦情窓口とクレームの入れ方|そんぽADRセンターとは? 」が載っています。

3 おすすめ資格情報館HP「損害保険会社に対する苦情の申立てについて詳しく解説」が載っています。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。