交通事故の示談をする場合の留意点

第0 目次

第1  総論
第2  自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと
第3  示談とは別枠で支払を受けることができるお金
第4  示談金における主な項目等
第5  任意保険会社との示談の形式(示談書・免責証書)
第6  労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談
第7  人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと
第8  金員仮払いの仮処分命令
第9  交通事故紛争処理センターのメリット・デメリット
第10 裁判所に訴訟を提起した場合,事前交渉提示額より下がる場合があること
第11 自賠責保険の消滅時効
第12 民法709条の損害賠償請求権の消滅時効
第13 交通事故の損害賠償金と所得税
第14 高度障害保険金等は非課税所得となること
第15 交通事故の損害賠償金等と相続税

*1 労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案の場合,「労働者災害補償保険法,厚生年金保険法及び国民年金法に基づく過去及び将来の給付金」を除外する必要があります。
*2 以下のページも参照して下さい。
① 任意保険の示談代行制度
② 保険会社の説明義務
③ 人身傷害補償保険
④ 第三者行為災害としての交通事故
→ 被災者が労働基準監督署に提出する念書には通常,「相手方と示談を行おうとする場合は必ず前もって貴職に連絡します。」などと書いてあります。
*3 市況かぶ全力2階建ブログ「自動車保険会社のイメージ、被害者側の弁護士目線でみるとこうなる 」が載っています。
*4 誰でも分かる交通事故示談HP「交通事故示談とは?知らなきゃ損する!示談の流れや交渉時期、時効、弁護士へ依頼のタイミング等を一挙解説!」が載っています。
*5 元示談担当者が教える交通事故の示談術HP「事故後、相手の保険会社からの電話で言ってはいけない3つの言葉」が載っています。
*6 The Goal ブログ「自動車事故の示談における,損保の恐ろしい実態」には,「自動車保険の落とし穴(朝日新書)」からの引用として,「損保会社がやっている示談交渉サービスには,真実追及とか原因究明なんて高尚な理念はありません。一言で言うなら,いかに会社側の損害を抑えられるかってことですね。」などと書いてあります。
*7 保険会社のインターネット上の苦情窓口は以下のとおりです(保険契約者が苦情を伝える場合,証券番号を入力する必要があります。)。
① 東京海上日動HP「お問い合わせ」
→ 問い合わせフォームがあります。
② 三井住友海上HP「お問い合わせ」
→ 問い合わせフォームがあります。
③ あいおいニッセイ同和損保HP「「お客さまの声」にお応えするために」
→ 問い合わせフォームがあります。
④ 損保ジャパン日本興亜HP「お客さま相談室(保険金支払ご相談窓口)」
→ 電話対応だけみたいです。
⑤ AIG損保HP「事故・病気・ケガ・災害時のご連絡」
→ 電話のほか,メールによる問い合わせに対応しているみたいです。
*8 1番安い自動車保険教えますHP「自動車保険19社の苦情窓口とクレームの入れ方|そんぽADRセンターとは? 」が載っています。

第1 総論

1(1) 後遺障害の等級認定結果に不服がない場合,等級認定結果を基準として,①示談交渉,②公益財団法人交通事故紛争処理センターへの和解斡旋の申立て(同センターHPの「法律相談,和解あっ旋および審査の流れ」参照),③裁判所に対する訴訟提起により,損害賠償額を確定することとなります。
(2) 裁判所に対する訴訟提起に関しては,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」を参照して下さい。

2 裁判所に対する訴訟提起をした後に,交通事故紛争処理センター(略称は「紛セン」です。)を利用することはできません。

3 「交通事故紛争処理センター体験レポート」には,交通事故紛争処理センターを利用した人の体験談が載っています。

4 任意保険会社が示談交渉で示す示談金は,裁判基準に基づく金額を下回ることはもとより,弁護士が介入した後に示す金額よりも低いことが通常です。
   そのため,任意保険会社から示談金を示された場合,弁護士に相談することが非常に望ましいです。

5   
弁護士費用特約を利用できる場合,加害者に対する損害賠償請求について,依頼者となる被害者に弁護士費用の自己負担が発生することはありません(「弁護士費用特約」参照)。

第2 自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと

1 平成14年3月11日付の国土交通省自動車交通局保障課長通知「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」(国土交通省HPの告示・通達検索参照)に基づき,任意保険会社は,被害者と初期に接触した時点で,一括払の金額は自賠責保険支払限度額内では自賠責保険の「支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示)(自動車損害賠償保障法16条の3)による積算額を下回らないことを記載した書面を交付することにより,任意保険会社の支払額は自賠責保険の「支払基準」を下回らないことが義務づけられています。
   これは,任意保険会社が過失相殺なり損害算定なりについて厳しい主張をする場合がありますところ,被害者が自賠責保険会社に自分で請求手続をとれば,「支払基準の水準で損害賠償額の支払を受けられるのに,任意保険会社から直接,賠償金を受け取ることにより,「支払基準」に達しない賠償しか受けられなくなるという事態を回避するためのものです。
   つまり,任意保険会社が示談をする場合,自賠責保険の「支払基準」(自動車損害賠償保障法16条の3)を下回る金額で被害者と示談することはできません。

2 一般のHPとしては,「自賠責保険金の支払基準」の記載が分かりやすいです。

第3 示談とは別枠で支払を受けることができるお金

   最高裁判例によれば,以下の保険金は,加害者からの損害賠償金,自賠責保険金等とは別枠で支払を受けることができます。
① 生命保険の死亡保険金(最高裁昭和39年9月25日判決
② 生命保険の傷害給付金及び入院給付金(最高裁昭和55年5月1日判決
→ 最高裁判例はないものの,医療保険の入院給付金及び通院給付金,並びに都道府県民共済(大阪府の場合,大阪府民共済)の入院給付金及び通院給付金についても同様の取扱いを受けると思われます。
③ 搭乗者傷害保険の保険金(最高裁平成7年1月30日判決参照)
④ 労災保険から受領した特別支給金(最高裁平成8年2月23日判決

第4 示談金における主な項目等

1 任意保険会社が示談交渉で示す示談金のうち,金額の大きな項目は通常,以下のとおりです(重次法律事務所HP「交通事故」参照)。
   ただし,自賠責保険の後遺障害等級認定がない場合,④後遺障害逸失利益及び⑤後遺障害慰謝料を支払ってもらうことはできません。
① 治療費
② 休業損害
③ 入院慰謝料及び通院慰謝料
④ 後遺障害逸失利益
→ 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間によって計算します。
⑤ 後遺障害慰謝料

2(1) 義肢,歯科補てつ,義眼,眼鏡(コンタクトレンズを含む。),補聴器,松葉杖等の買換費用は治療関係費に含まれますから,物損に関する示談が成立している場合であっても請求できます。
   自賠責保険の場合,眼鏡(コンタクトレンズを含む。)は5万円が上限とされていますが,任意保険の場合,こうした上限はありません。
(2) 眼鏡等は身体の機能を補完するために必要なものである点で眼鏡等の損傷は人損ですし,交通事故時と同じ眼鏡等を再調達するのに必要な費用が損害となる点で減価償却は不要です。

3 痛み,しびれ等の後遺障害が14級に該当する場合,労働能力喪失期間は2年から5年であり,12級に該当する場合,労働能力喪失期間は5年から10年です。

4 弁護士に依頼して訴訟を提起して判決をもらった場合,遅延損害金(年5%)及び弁護士費用(損害額の10%)を追加で支払ってもらえます。
   ただし,訴訟を提起した後に和解をした場合,遅延損害金の半分ぐらいがプラスされますものの,弁護士費用(損害額の10%)を加害者から支払ってもらうことはできません。

第5 任意保険会社との示談の形式(示談書及び免責証書)

1 総論
(1)   加害者(=被保険者)側の任意保険会社と示談をする場合,被害者にも過失があるときは示談書を作成し,被害者に全く過失がないときは免責証書を作成します。
(2) 過失割合に争いがない場合,まずは物損について示談をし,症状固定となった後に人損について示談することとなります。
(3) 示談書及び免責証書は通常,3枚複写となっており,示談金の振込口座となる被害者又はその代理人弁護士の預貯金口座は2枚目及び3枚目にだけ記載されるのであって,加害者側の控えとなる1枚目には記載されません。

2 示談書
(1) 示談書とは,加害者及び被害者がお互いに対していくら支払うことで交通事故を解決するかを記載した書面であり,加害者及び被害者の両方の署名押印がなされます。
   つまり,示談書の場合,加害者及び被害者の両方の署名押印が必要となる点で作成に手間が掛かります。
(2)   被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が加害者との間で示談書を作成した場合,加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できることとなります。

3 免責証書
(1) 免責証書とは,被害者が一方的に加害者及び任意保険会社宛に金○○円を受領することにより,加害者に対する損害賠償請求権を放棄することを宣言して署名押印する書面をいい,加害者の署名押印,及び任意保険会社の記名押印はなされません。
   つまり,免責証書の場合,被害者の署名押印だけで足りますから,示談書の作成ほどは手間が掛かりません。
(2)   損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が免責証書を作成した場合, 加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できるということです。
(3)ア 東京海上日動火災保険株式会社と示談をする場合,免責証書の本文は以下のような文面になっています。
「上記事故によって乙の被った一切の損害に対する賠償金として,乙は「甲・丙」の保険契約に基づき丁より既払額○○万円の他に○○万円を受領後には,その余の請求を放棄するとともに,上記金額以外に何ら権利・義務関係の無いことを確認し,甲・丙および丁に対し今後裁判上・裁判外を問わず何ら異議の申立て,請求および訴えの提起等をいたしません。」
イ   甲及び丙は加害者であり,乙は被害者であり,丁は甲及び丙が被保険者となっている任意保険会社のことです。
   ただし,加害者が1人だけの場合,丙はいません。

第6 労災保険又は障害年金を支給される可能性がある事案における示談

1(1) 交通事故が労働災害に該当する場合,被災者は,使用者とは別の第三者の加害行為によってケガをしたこととなりますから,第三者行為災害となります(「第三者行為災害としての交通事故」参照)。
(2) 第三者行為災害の場合,労災保険は,被災者である交通事故被害者に支払った障害補償給付等を,被災者の過失割合に応じて損害保険会社に請求します。

2(1)   示談が真正に成立し,かつ,その示談内容が,受給権者の第三者に対する損害賠償請求権(保険給付と同一の事由に基づくものに限る。)の全部の填補を目的とするものである場合,放棄した損害賠償請求権について,労災保険からの支給を受けることができなくなります(最高裁昭和38年6月4日判決参照)。
   また,慰謝料「以外の」名目で加害者から損害賠償金を支払ってもらった場合,その分,労災保険からの支給が減ります(労災保険法12条の4第2項)。
   そのため,労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があります。
(2) 実務上は,以下の文言にしておけば特に問題はないです。
   乙は,甲に対し,本件事故に関して,労働者災害補償保険法,厚生年金保険法及び国民年金法に基づく過去及び将来の給付金並びに乙の甲に対する既払金とは別に,解決金として,金○○万円の支払義務があることを認める。

3 第三者行為災害事務取扱手引61頁及び62頁によれば,労災保険の支給決定前に示談が成立している場合の取扱いは以下のとおりです。
(1) 真正な全部示談が成立している場合の取扱い
   第一当事者等と第二当事者等の間で真正な労災保険給付を含む全損害の填補を目的とする示談(以下「全部示談」という。)が行われたと判断された場合には,それ以後の労災保険給付を行わないこと。
   労災保険給付を行わない場合の要件は,次の2点である。
ア 当該示談が真正に成立していること
   なお,次のような場合には真正に成立した示談とは認められないこと。
① 当該示談の成立が錯誤,心裡留保(その真意を知り,又は知り得べかりし場合に限る。)に基づく場合
② 当該示談の成立が詐欺又は強迫に基づく場合
イ 当該示談の内容が,第一当事者等の第二当事者等に対して有する損害賠償請求権(労災保険給付と同一の事由に基づくものに限る。)の全部の填補を目的としていること
   次のような場合には,損害の全部の填補を目的としているものとは認められないものとして取り扱うこと。
① 損害の一部について労災保険給付を受けることを前提として示談している場合
② 示談書の文面上,全損害の填補を目的とすることが明確になっていない場合
③ 示談書の文面上,全損害の填補を目的とする旨の記述がある場合であっても,示談の内容及び当事者の供述等から判断し,全損害の填補を目的としているとは認められなかった場合
   また,示談が真正な全部示談と認められるかどうかの判断を行うに当たっては,示談書の存在及び示談書の記載内容のみにとらわれることなく,当事者の真意の把握に努める必要があること。
(2) 真正な全部示談とは認められない場合の取扱い
   当該示談が真正な全部示談とは認められない場合には,労災保険給付を行う必要性が認められる限りにおいて労災保険を給付することとなるが,示談の成立に伴い,第一当事者等が第二当事者等又は保険会社等より損害賠償又は保険金を受領している場合には,受領済みの金額を控除して労災保険給付を行うこと。
   また,示談書は存在するが,調査の結果真正な全部示談とは認められなかったため労災保険給付を行うこととした場合には,示談締結時の状況や真正な全部示談とは認められないと主張する理由を,第一当事者等から書面によりあらかじめ徴しておくこと。
   なお,第一当事者等から書面を徴する目的は,真正な全部示談ではないことを第一当事者等が主張したという事実を文書で確認し保管しておくことにあるため,その趣旨が十分に記載されていれば書面は任意の様式で差し支えないこと。

第7 人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと

1 被害者に過失がある事故であっても,被害者について人身傷害補償保険が適用される場合,示談の前後を問わず,過失部分について人身傷害補償保険からの給付があります。
   具体的にどのような場合に適用されるかについては,「人身傷害補償保険」を参照して下さい。

2 加害者に対する損害賠償請求訴訟をした上で,判決又は訴訟上の和解により損害賠償金を回収した場合,自分の過失部分について,金額が少ない人身傷害基準ではなく,金額が多くなる訴訟基準に基づく保険金を支払ってもらえます。

   そのため,自分の過失割合が少ない場合,実質的に自分に過失がなかった場合と同額の損害賠償金を受領できることとなります「人身傷害補償保険」参照)。

3 人身傷害補償保険の内容によっては,
自分又は家族について,他の自動車に乗車中に交通事故が発生したり,歩行中や自転車運転中に交通事故が発生したりした場合であっても,過失部分について人身傷害補償保険から給付されることがあります
「人身傷害補償保険」参照)

第8 金員仮払いの仮処分命令

1 交通事故の被害者において相手方から直ちに損害賠償金を回収しないと生活に困窮するといった事情がある場合,民事保全法23条2項所定の「仮の地位を定める仮処分命令」の一種である,金員仮払いの仮処分命令を利用することができます。

2 金員仮払いの仮処分命令を利用するためには,①被保全権利(例えば,交通事故に基づく損害賠償請求権)の疎明(民事保全法13条2項参照),及び②「争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)に該当することを疎明する必要があります。
②については,(a)直近2ヶ月分の家計簿を提出するとともに,(b)依頼者名義の預貯金通帳をすべて開示し,預貯金の残高がほとんど残っていないことを裁判所に説明する必要があります。

3 金員仮払いの仮処分命令は,原則として,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ない限り,発令してもらうことができません(民事保全法23条4項)。

4 交通事故事件において人身傷害補償保険を利用できる場合,民事保全法23条2項所定の事由がありませんから,金員仮払いの仮処分を利用することはできません。

第9 交通事故紛争処理センターのメリット・デメリット

1 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのメリットは以下のとおりです。
① 訴訟と比べると,手続が簡単です。
② 和解斡旋後に出される審査会の裁定には拘束力がありますから,訴訟提起した場合よりも早く解決することが多いです。
③ 法律相談,和解斡旋及び審査に関する費用を交通事故紛争処理センターに支払う必要はありません。

2 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのデメリットは以下のとおりです。
① 後遺障害の等級認定結果について争うことはできません。
② 遅延損害金及び弁護士費用を請求できません。
③ 損害賠償請求権の消滅時効を中断することはできません。

3 交通事故紛争処理センターは,訴訟と示談の中間みたいな手続です。

第10 裁判所に訴訟を提起した場合,事前交渉提示額より下がる場合があること

   以下のような事情があるため,裁判所に訴訟を提起した場合,訴訟上の和解又は判決での認容額が事前交渉提示額より下がることがあります。
① 訴訟提起後に実況見分調書,被害者のカルテ等を確認した結果,被害者に不利な事実が訴訟提起後に判明する場合があること。
→ 例えば,(a)交通事故の時に被害者がシートベルトをしていなかった事実,(b)治療中に事故の負傷部位にさらに別の事故での負傷が加わった事実,(c)後縦靱帯骨化症(OPLL)が治療の長期化・後遺障害の程度に大きく影響している事実があります。
② 早期解決ができることを条件として,訴訟では認められない可能性のある損害を任意保険会社が争っていない場合があること。
→ 例えば,介護のための家族の高額なホテル代があります。
③ 最終的に決裂した事前交渉中に,タクシー代支払の合意,休業損害額の合意といった,一部の事項だけの合意が成立していた場合
→ 訴訟提起後に合意の事実を被告が争った場合,決裂した合意の中の一部の中間的な合意については「法的に」成立していたという主張は非常に認められにくいです。 

第11 自賠責保険の消滅時効

1 総論
(1) ①加害者請求の場合の保険金,及び②被害者請求の場合の損害賠償額の消滅時効は3年間です(①につき自賠法23条・商法663条,②につき自賠法19条)。
(2)   平成22年3月31日までに発生した事故については,保険金等の消滅時効は2年間でした。

2 消滅時効の期間
① 加害者請求の場合
    加害者が被害者に損害賠償金を支払った日の翌日から3年間。
② 被害者請求の場合
    (a)傷害による損害については,事故発生日の翌日から3年間であり,(b)後遺障害による損害については,症状固定日の翌日から3年間です。
③ 一括払事案の場合
    任意保険会社が最後に治療費の立替払をし,又は被害者に損害賠償金を支払って,自賠責保険会社から保険金の支払を受けた日の翌日から3年間です。
   そのため,堅く見積もっても,任意保険会社が最後に治療費の立替払をした日から2年間は,自賠責保険の消滅時効は完成しません。

3 自賠責保険における消滅時効の中断
(1) 加害者に対する損害賠償請求権と,自賠責保険会社に対する被害者請求の権利は,別個独立の権利であり,加害者に対し損害賠償請求訴訟を提起しても,自賠責保険会社に対する被害者請求の権利については,時効中断の効果が生じません。
(2) 消滅時効が完成するまでに,それぞれの自賠責保険会社所定の書式による時効中断申請書を自賠責保険会社に提出すれば,提出された時点で消滅時効が完成している場合を除き,無条件で承認され,これによって消滅時効は中断します(民法147条3号)。
   そして,その時からさらに3年間は,消滅時効は完成しません。

4 その他
(1) 被害者請求権が時効消滅した場合であっても,被害者が加害者に対する判決を得て,加害者の自賠責保険会社に対する保険金請求権を差押え,転付命令(民事執行法159条)を得ることで,加害者請求権による回収を図るという手段はあります(最高裁昭和56年3月24日判決参照)。
(2) 加害者が任意保険に加入している場合,仮に被害者請求権について消滅時効が完成したとしても,被害者請求ができなくなるだけにすぎず,被害者が加害者の任意保険会社から損害賠償金を受領することはできます。
    そして,加害者の任意保険会社は,被害者に対する支払をしてから3年以内であれば,自賠責保険会社に対し,保険金の請求ができることとなります。

第12 民法709条の損害賠償請求権の消滅時効

1 総論
(1)   民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は3年です(民法724条前段)。
(2) 後遺障害の場合,遅くとも,症状固定の診断を受けた時点が消滅時効の起算点とされています。

2 すべての種類の損害項目について訴訟提起しないと消滅時効が中断しないこと
(1) 被害者が不法行為に基づく損害の発生を知った以上,当時その損害との関連において当然その発生を予見することが可能であったものについては,すべて被害者においてその認識があったものとして,民法724条所定の時効は前記損害の発生を知つた時から進行を始めます(最高裁昭和43年6月27日判決)。
(2) 不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において被害者が一定の種類の損害に限り裁判上の請求をすることを明らかにし,その他の種類の損害についてはこれを知りながらあえて裁判上の請求をしない場合には,それらの損害が同一の不法行為に基づくものであっても訴えの提起による消滅時効中断の効力は請求のなかった部分には及びません(最高裁昭和54年3月9日判決(判例秘書)。なお,先例として,最高裁昭和43年6月27日判決参照)。

3 弁護士費用の賠償請求に関する消滅時効
(1) 不法行為の被害者が弁護士に対し損害賠償請求の訴を提起することを委任し,成功時に成功額の一割五分の割合による報酬金を支払う旨の契約を締結した場合には,右契約の時が民法724条にいう損害を知った時にあたり,その時から右請求権の消滅時効が進行します(最高裁昭和45年6月19日判決)。
(2) 不法行為の加害者に対する弁護士費用の賠償請求についてはその消滅時効の起算点は報酬金支払契約締結の時です(最高裁昭和54年3月9日判決(判例秘書))。

4 後遺障害に関する消滅時効
(1) 不法行為の被害者につきその不法行為によって受傷した時から相当の期間経過後に当該受傷に基因する後遺症が現われた場合には,当該後遺症が顕在化した時が民法724条にいう損害を知った時にあたり,後遺症に基づく損害であって,その当時において発生を予見することが社会通念上可能であったものについては,すべて被害者においてその認識があったものとして,当該損害の賠償請求権の消滅時効はその時から進行を始めます(最高裁昭和49年9月26日判決)。
(2) 損害保険料率算出機構による等級認定は,自賠責保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず,被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたとしても,消滅時効の起算点には影響を与えません最高裁平成16年12月24日判決参照)。
(3) 民法724条後段所定の除斥期間の起算点は,「不法行為の時」と規定されており,加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には,加害行為の時がその起算点となると考えられます。
   しかし,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となります(乳幼児期に受けた集団予防接種によるB型肝炎ウィルスへの感染に関する最高裁平成18年6月16日判決。なお,先例として,石炭鉱山におけるじん肺発生に関する最高裁平成16年4月27日判決,水俣病に関する最高裁平成16年10月15日判決参照)。

第13 交通事故の損害賠償金と所得税

1(1) 所得税法9条1項16号は,「損害保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で,心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税所得としており,詳細については,所得税法施行令30条で定められています。

2(1) 所得税法9条1項16号の趣旨は,損害賠償が他人の被った損害を補てんし,損害がないのと同じ状態にすることを目的とするものであって,その間に所得の観念を入れることが酷であるから,これを非課税所得とし,他方,損害賠償金の名目で支払われたとしても,そのすべてが非課税所得になるわけではなく,本来所得となるべきもの又は得べかりし利益を喪失した場合にこれが賠償されるときは,喪失した所得(利益)が補てんされるという意味においてその実質は所得(利益)を得たのと同一の結果に帰着すると考えられるから,それを非課税所得としないとするものです(平成17年9月12日付の国税不服審判所の裁決平成22年4月22日付の国税不服審判所の裁決参照)。
(2) 交通事故に基づく損害賠償金の場合,非課税所得であることに争いが生じることはまずありません。

3 交通事故等の加害者から被害者の死亡に対する損害賠償金を遺族が受け取った場合,所得税はかかりません(国税庁HPのタックスアンサー「No.1705 遺族の方が損害賠償金を受け取ったとき」参照)。

*4 国税庁HP「人身傷害補償保険金に係る所得税、相続税及び贈与税の取り扱い等について」(平成11年10月4日付の文書回答事例)が載っています。

第14 高度障害保険金等は非課税所得となること

1 疾病により重度障害の状態になったことなどにより,生命保険契約又は損害保険契約に基づき支払を受けるいわゆる高度障害保険金,高度障害給付金,入院費給付金等(一時金として受け取るもののほか、年金として受け取るものを含む。)は,所得税法施行令30条1号の「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当しますから,非課税所得となります(所得税基本通達9-21)。

2  被保険者の傷害又は疾病により当該被保険者が勤務又は業務に従事することができなかったことによるその期間の給与又は収益の補てんとして損害保険契約に基づき当該被保険者が支払を受ける所得補償保険金は,所得税法施行令30条1号の「身体の傷害に起因して支払を受けるもの」に該当しますから,非課税所得となります(所得税基本通達9-22)。
    ただし,業務を営む者が自己を被保険者として支払う所得補償保険金に係る保険料は,当該業務に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することはできません。

3 葬祭料,香典又は災害等の見舞金で,その金額がその受贈者の社会的地位,贈与者との関係等に照らし社会通念上相当と認められるものについては,所得税法施行令30条に基づき非課税所得となります(所得税基本通達9-23)。

第15 交通事故の損害賠償金等と相続税

1 国税庁HPのタックスアンサー「No.4111 交通事故の損害賠償金」には,以下の記載があります。
   交通事故の加害者から遺族が損害賠償金を受けたときの相続税の取扱いは次のとおりです。
被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません。
 この損害賠償金は遺族の所得になりますが、所得税法上非課税規定がありますので、原則として税金はかかりません(遺族の方の所得税の課税関係は、関連コード1700又は1705を参考にしてください)。
 なお、被相続人が損害賠償金を受け取ることに生存中決まっていたが、受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利すなわち債権が相続財産となり、相続税の対象となります。

2 業務災害によって死亡した場合,会社によっては,慶弔見舞金規程に基づき,労災保険とは別に,弔慰金,花輪代,葬祭料等(=弔慰金等)を支給してくれることがあります。
   そして,弔慰金等のうち,ボーナスを除く給料の3年分以下の部分は,税務上も弔慰金等としての取扱いを受ける結果,相続税の対象とはなりません(相続税基本通達3-20)。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。