文書送付嘱託

第0 目次

第1   総論
第2   文書送付嘱託の手続
第3の1 診療録(カルテ)等の文書送付嘱託
第3の2 診療録(カルテ)を取り寄せる場合における,「文書の表示」の記載方法
第3の3 労働基準監督署が作成した労災保険の書類を取り寄せる場合における,「文書の表示」の記載方法
第4の1 刑事記録の文書送付嘱託
第4の2 民事裁判所から不起訴事件記録の文書送付嘱託等がなされた場合の取扱い
第5   労働基準監督署に対する文書送付嘱託
第6   文書送付嘱託に応じないように働きかけることはできないこと(平成29年8月16日追加

*1 「文書提出命令」及び「交通事故事件の刑事記録の入手方法」も参照して下さい。
*2 山口地裁HPに「文書送付嘱託申立書」が載っています。

第1 総論

1(1) 文書送付嘱託というのは,裁判所が,当事者からの申立てにより,文書の所持者に対し,文書の送付を嘱託する手続であり(民事訴訟法226条),裁判所に送付された文書については,相手方にも閲覧・謄写の機会を与えられます。
(2) 文書送付嘱託は文書提出命令とは別個独立の制度ですから,文書提出義務を負う者に対して文書送付嘱託の申立てをすることも許されます。
   つまり,文書送付嘱託は文書提出義務を負っていない者に対してだけでなく,文書提出義務を負っている者に対しても用いることができます。
   ただし,当事者が法令の規定に基づき,文書の正本又は謄本の交付を求めることができる場合,文書送付嘱託の申立ては利用できません(民事訴訟法226条ただし書)。

2 東弁リブラ2008年10月号に掲載されている「民事訴訟における証拠収集手続-文書送付嘱託,文書提出命令を中心に-モデル書式付き」が非常に参考になります。

3 文書の所持者から強制的に文書を提出させるためには,文書提出命令(民事訴訟法223条)を利用する必要があります。
   しかし,文書提出命令に対して即時抗告された場合,訴訟記録が抗告審に送付されてしまう結果,基本事件の審理が一ヶ月以上ストップしていまいます。
   また,裁判所から文書送付嘱託があった場合,特段の事情がない限り,医療機関等の嘱託先はすんなり文書を提出してくれます。
   そのため,文書提出命令よりも文書送付嘱託を利用することの方が多いです。
 
4 裁判所が官庁・その他の団体に対して行う,民事訴訟法186条や家事審判規則8条に基づく調査嘱託,民事訴訟法226条に基づく送付嘱託,刑事訴訟法279条や医療観察法24条3項に基づく照会,家庭裁判所調査官が行う家事審判規則7条の2に基づく事実の調査等については,「法令に基づく場合」として,あらかじめ本人の同意を得なくても,個人情報を第三者に提供できることとされています「裁判所における個人情報保護に関する問題事例について」(平成18年7月4日付の最高裁判所事務総局総務局第一課文書総合調整係の依頼)参照)。

5 受訴裁判所が属する裁判所に保管中の訴訟記録については,同じ裁判所内の記録ですから文書送付嘱託の申立てをする必要はなく,記録取寄せの申請を行えばいいです。

6 家事事件手続法258条1項・64条1項において民事訴訟法の証拠調べの規定が準用されていますから,家事調停及び家事審判においても,文書送付嘱託を利用することができます。

第2 文書送付嘱託の手続

1 文書送付嘱託の申立てをする場合,以下の事項を記載します(民事訴訟法221条1項,民事訴訟規則99条1項参照)。
① 文書の表示
② 文書の所持者
③ 証明すべき事実 

2(1) 申立手数料は不要ですから収入印紙を貼付する必要はありません。
(2)ア 裁判所と文書の所持者との間のやりとりに必要な切手を納付する必要がありますから,その限度で費用がかかります。
   ただし,訴訟が終了した後に余った切手を返してもらえます。
イ   大阪地裁の場合,500円1枚,310円2枚,100円4枚,82円2枚,20円5枚,10円4枚,5円1枚の合計1829円の切手を納付する必要があります。

3 文書送付嘱託の申立書は相手方に副本を直送する必要があり(民事訴訟規則99条2項),裁判所が相手方の意見を電話等で確認します。
   相手方が採用に反対する場合,書面で意見書を提出してくることが多いです。

4 文章送付嘱託の申立ては期日に採用されるかどうかが決まることもあれば,期日外に採用されるかどうかが決まることがあります。

5 嘱託文書が裁判所に届いた場合,裁判所から代理人弁護士に対し,電話等で到着した旨の連絡があります。
   そして,その後の期日で,嘱託文書が提示されますものの,証拠とするためには,当事者が嘱託文書をコピーした上で,それを書証として提出する必要があります。

第3の1 診療録(カルテ)等の文書送付嘱託

1(1) カルテ等を甲号証として提出せずに訴訟提起した場合,被告訴訟代理人弁護士が文書送付嘱託の申立てをすることで,カルテ等の写しが裁判所に送付されることとなります。
   また,カルテ等を甲号証として提出して訴訟提起した場合であっても,カルテ等が一部抜かれた状態で裁判所に提出された可能性があるということで,被告訴訟代理人弁護士が文書送付嘱託の申立てをしてくることがあります。
(2) 医療機関との関係で患者となる原告の場合,自分でカルテを取り寄せることができること
「初診時の留意点,公的医療保険,診療録及びレセプト」参照)にかんがみ,民事訴訟法226条ただし書との関係で,原告が文書送付嘱託を利用する必要はないと判断する裁判官もいます。

2 レントゲン,MRI等の画像記録を送付してもらった場合,1枚当たり540円ぐらいかかる反面,必ずしも画像記録まで必要となるわけではありません。
    また,とりあえずカルテ等の文書だけを取り寄せた上で,画像記録についてはカルテ等の記載に基づき個別に取り寄せることで足りる場合が多いです。
    そのため,文書送付嘱託の申立てをする場合,画像記録は省略されることがあります。
 
3 過去の既往症が事故に基づく症状に影響していると考えられる場合において,被害者が事故日以前の初診日からのカルテ等の文書送付嘱託に同意しなかったとしても,当該カルテ等について医師が職務上知り得た事実で黙秘すべきものと認めてもらえない限り(民事訴訟法220条4号ハ・197条2号参照),最終的には,裁判所の文書提出命令(民事訴訟法223条)によって証拠として提出されることになります。

第3の2 診療録(カルテ)を取り寄せる場合における,「文書の表示」の記載方法

○診療録(カルテ)を取り寄せる場合,文書送付嘱託における「文書の表示」は以下のとおり記載します。
   ただし,交通事故とは関係のない内科等のカルテは取り寄せたくない場合,「整形外科の診療に際して作成された」という文言を追加しておいた方がいいです。
 
1 事故日からカルテ等の文書のみの送付を求める場合
   下記患者に関する,平成○○年○○月○○日(本件交通事故日)以降に,診療に際して作成されたカルテ,看護記録,各種検査記録,その他一切の書類(ただし,レントゲン,MRI等の画像記録は除く。)

患者氏名 甲野太郎(こうのたろう)
生年月日 昭和○○年○○月○○日
住所   大阪市北区西天満4丁目7番3号
 
2 事故日からカルテ等の文書+レントゲン等の画像資料の送付を求める場合
   下記患者に関する,平成○○年○○月○○日(本件交通事故日)以降に,診療に際して作成された
① カルテ,看護記録,各種検査記録,その他一切の書類
② レントゲン,MRI等の画像記録(CD-Rによる送付は可)

患者氏名 甲野太郎(こうのたろう)
生年月日 昭和○○年○○月○○日
住所   大阪市北区西天満4丁目7番3号
 
3 事故日以前の初診日からカルテ等の文書のみの送付を求める場合
   下記患者に関する,事故日以前の初診日以降に,診療に際して作成されたカルテ,看護記録,各種検査記録,その他一切の書類(ただし,レントゲン,MRI等の画像記録は除く。)

患者氏名 甲野太郎(こうのたろう)
生年月日 昭和○○年○○月○○日
住所   大阪市北区西天満4丁目7番3号
   本件訴訟において,既往症が問題となっているため事故日以前の初診日からの記録を求めます。
 
4 事故日以前の初診日からカルテ等の文書+レントゲン等の画像資料の送付を求める場合
   下記患者に関する,事故日以前の初診日以降に,診療に際して作成された
① カルテ,看護記録,各種検査記録,その他一切の書類
② レントゲン,MRI等の画像記録(CD-Rによる送付は可)

患者氏名 甲野太郎(こうのたろう)
生年月日 昭和○○年○○月○○日
住所   大阪市北区西天満4丁目7番3号
   本件訴訟において,既往症が問題となっているため事故日以前の初診日からの記録を求めます。

第3の3 労働基準監督署が作成した労災保険の書類を取り寄せる場合における,「文書の表示」の記載方法

○労働基準監督署が作成した労災保険の書類を取り寄せる場合における,「文書の表示」の記載方法は以下のとおりです。

(業務災害の場合)
甲野太郎(こうのたろう)(昭和○○年○月○○日生)(住所:大阪市北区西天満4丁目7番3号)が平成29年7月12日に大阪市北区西天満で被災した業務災害に関して,○○労働基準監督署において実施した災害調査及び労災保険給付に関する一切の資料

(通勤災害の場合)
甲野太郎(こうのたろう)(昭和○○年○月○○日生)(住所:大阪市北区西天満4丁目7番3号)が平成29年7月12日に大阪市北区西天満で被災した通勤災害に関して,○○労働基準監督署において実施した災害調査及び労災保険給付に関する一切の資料

第4の1 刑事記録の文書送付嘱託

1 東京地裁民事第27部(交通部)の場合,交通に関する事件の専門部であることから,病院等の医療機関を嘱託先とする医療記録(レントゲン写真等を含む。)の送付嘱託,検察庁を嘱託先とする刑事事件記録等の送付嘱託の申立てが非常に多くされます。
   東京地裁27民としては,事故態様や過失割合が争点となることが予想される場合,第1回口頭弁論期日前の事前準備として,原告に対し,刑事事件記録の入手の有無を確認した上で,入手していないときは,その送付嘱託の申立てを促し,期日外に裁判官の判断により,採用して嘱託を行うなどして審理の促進を図ることとしています(東弁リブラ2013年8月号「東京地裁書記官に訊く-交通部編-」8頁)。

2 不起訴事件の供述調書については,裁判所の文書送付嘱託を利用する必要があるものの,不起訴事件の実況見分調書等及び刑事確定記録については,裁判所の文書送付嘱託を利用しなくても入手できます(「交通事故事件の刑事記録の入手方法」参照)。

3 刑事事件関係書類が法律関係文書(民事訴訟法220条3号)に該当しない限り,文書提出命令を利用することができません(民事訴訟法220条4号ホ参照)。

4 文書送付嘱託により実況見分調書を取り寄せる場合,本文の記載は下記のような感じで書けばいいです。

第1 文書の表示
平成29年10月17日午前10時00分頃,大阪市北区西天満4丁目7番3号で発生した交通事故(当事者は甲野太郎及び乙野次郎)(検番は○○○○○)に関して,大阪府天満警察署が作成した実況見分調書
第2 文書の所持者
〒553-8512
大阪市福島区福島1丁目1-60
大阪地方検察庁 記録担当
第3 立証趣旨
本件事故の状況
第4 関連事情
実況見分調書のカラーコピーを送ってもらえるようにしてもらいたい。


現場の見分状況書(簡約特例書式)
実況見分調書1/2(特例書式)
実況見分調書2/2(特例書式)
交通事故現場見取図(特例書式)

第4の2 民事裁判所から不起訴事件記録の文書送付嘱託等がなされた場合の取扱い

○以下の記載は,「被害者等に対する不起訴事件記録の開示について」(平成20年11月19日付の法務省刑事局長依命通達)の該当部分を丸写ししたものです。
○①損害保険料率算出機構,②財団法人交通事故紛争処理センター,③全国共済農業協同組合連合会及び④財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構からの照会については,民事裁判所からなされた不起訴事件記録の文書送付嘱託に関して客観的証拠の送付に応じる場合と同様に取り扱われます。
○目撃者の特定のための情報提供については,裁判所からの調査嘱託が想定されています。
○通達の要旨は,法務省HPの「不起訴事件記録の開示について」に載ってあります。

1 不起訴事件記録中の客観的証拠の開示 
   被害者等が被害回復のため提起した民事訴訟が係属している裁判所からの文書送付嘱託に対しても,前記第1,2,(4),アにいう必要性が認められる場合,客観的証拠の送付に応じるのが相当である。
   この場合の文書送付嘱託は,被告(被疑者)の申立てによって行われる場合もあるが,民事訴訟において真実を明らかにすることは,被害者等の権利関係の適正な認定に資するものであるから,被害者等である原告の申立てによる場合に準じて取り扱うのが相当である。ただし,民事訴訟記録は,刑事事件記録に比べ,より広く一般人の閲覧が可能である(民事訴訟法第91条及び第9 2条)ので,原告のプライバシー等にかかわる証拠について,原告の同意等を嘱託に応じる条件とすることやその必要性・当事者間の公平性を十分に吟味することも考慮すべきである。
   なお,被害者等であると主張している者が,真の被害者等であるか否か慎重に見極める必要があることや,嫌疑なし又は嫌疑不十分等で不起訴とされた事案であっても,民事的な観点から被害者等の救済が図られるべき場合もあり得ることは,前記第1, 2, (1)と同様である。

2 不起訴事件記録中の供述調書の開示 
   不起訴事件記録中の供述調書について,民事裁判所から文書送付嘱託がなされた場合,開示による弊害を回避しつつも,犯罪被害者等の保護を図るとともに民事訴訟が適切に行われるようにするため,次に掲げる要件をすべて満たす場合には,これを開示するのが相当である。
(1)   民事裁判所から,不起訴事件記録中の特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされた場合であること。
   供述調書の開示については,一般に捜査・公判への支障又は関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあると認められることから,特にその開示の必要性が高い場合である必要があり,民事裁判所からの文書送付嘱託がなされた場合とすべきである。
(2)   当該供述調書の内容が,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって,かつ,その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことができない場合であること。
   供述調書を開示することが相当と考えられるのは,当該民事訴訟において当該供述調書が必要不可欠な場合であると思われる。そこで,開示すべき供述調書は,第1に,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものである必要がある。「民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点」とは, 例えば,交差点における交通事故において,当事者双方が青色信号を主張している場合の交差点信号機の信号表示状況等のような場合が考えられる。これに対し,民事訴訟において取り調べられた証人の供述の信用性などは,要証事実に対する間接証拠であって,通常は,「重要な争点」には当たらないものと考えられる。第2に,開示すべき供述調書は,その争点に関するほぽ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことのできない場合である必要がある。その争点に関し,他に証拠があり,当該供述調書はこれを単に補強するにすぎないようなときは,これに該当しないと思われる。
(3)   供述者が死亡,所在不明,心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により, 民事訴訟においてその供述を顕出することができない場合であること,又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること。
   供述者が民事訴訟において供述することができる場合には,その供述者の供述調書に代替性が認められるので,これを開示する必要はない。しかし, 供述者が死亡,所在不明,心身の故障又は深刻な記憶喪失等により,民事訴訟において,証人尋問又は当事者尋問で供述できない場合には,その供述者の供述調書を利用する必要性が高い。また,いったん当該供述者を民事訴訟において供述させたものの,当該供述者については刑事事件の捜査において取調べを受け,そこで作成された供述調書には,民事訴訟における供述とは実質的に相反する供述をしている場合には,やはり,その供述調書を利用する必要性が高いと考えられる。そこで,これらの場合には,代替性を欠くものとして取り扱うことが適当と考えられる。
   なお,当該供述調書の内容が,「供述者の民事訴訟における証言内容と実質的に相反する場合」については,民事裁判所があらかじめ供述調書の内容を了知しているわけではないことを考えると,供述調書の内容と証言内容とが実質的に相反すると判断するについて相当の理由がある場合で足りると思われる。逆に,供述調書の内容と証言内容とが相反していれば開示されたい等の模索的な理由によるものは,前記相当の理由があることを明らかにしたとは言えないので,その点の検討が十分に行えるよう,民事裁判所に対し, 十分な情報の提供を要請することが必要である。
(4) 当該供述調書を開示することによって,捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく,かつ,関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること。
   上記載(2)及び(3)に該当する特段の必要性が認められる場合であっても,開示による具体的な支障が生じるおそれがあると認められる場合には,開示は相当ではない。なお,供述調書を開示した場合には,今後の他事件における参考人の事情聴取一般に対するものという抽象的な意味では,支障が生じるおそれは常に認められるのであろうが,そうだとしても,捜査・公判への具体的な支障が認められない場合には,原則として,開示して差し支えないと考えられる。

3 供述調書の開示に関する留意事項について
(1) 開示の可否判断のための情報収集 
   検察官は,通常,前記2,(2)及び(3)の要件に関する情報を有していないことから,民事裁判所から文書送付嘱託がなされた場合において,上記各要件を判断するための具体的な情報が不十分であると認められるときは,民事裁判所に対し,文書送付嘱託に応じるか否かを判断するため,必要な情報の提供を求めることが望ましい。
(2) 開示した供述調書の取扱い 
   民事裁判所の文書送付嘱託に応じて供述調書を開示する場合には,民事訴訟の当事者においても慎重な取扱いが必要である旨を送付書に明記するなど注意喚起した上で送付する。
(3)   マスキング 
   供述調書を開示する場合であっても,一部の記載について,開示することにより関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるなどの支障があるときは,当該部分にマスキングを行うなどの措置を講じる。
(4)   その他 
   捜査中の事件記録又は公判請求した事件の裁判所不提出記録中の供述証拠については,通常,刑事訴訟法第47条の規定により捜査・公判に対する具体的な支障があると考えられ,原則として開示しない扱いとする。
 
4 民事裁判所から目撃者の特定のための情報の提供を求められた場合
(1) 目撃者の特定のための情報の提供の必要性 
   不起訴事件に関して民事訴訟が提起されている場合において,例えば,交通事故の状況を直接目撃した者(以下「目撃者」という。)の証人尋間を実施することが不可欠であるにもかかわらず,民事裁判所及び訴訟当事者において目撃者の特定に関する情報がなく証人尋問を実施することが困難な場合に,裁判所から検察庁に対し,目撃者の特定のための情報の提供を求められる場合がある。
   このような場合において,不起訴事件記録中に,当該目撃者の特定に関する情報があり,かつ,民事裁判所から証人尋問のために必要であるとの理由で,調査の嘱託により照会がなされたときは,証人義務が広く一般に課せられており,民事訴訟における真実解明に資することを考慮すると,相当な範囲で調査の嘱託に協力する必要があると考えられる。
(2)そこで,次に掲げる要件をすべて満たす場合には,当該刑事事件の目撃者の特定に関する情報のうち,氏名及び連絡先を民事裁判所に回答するのが相当である。
ア 民事裁判所から,目撃者の特定のための情報について調査の嘱託がなされた場合であること。
イ 目撃者の証言が,当該民事訴訟の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって,かつ,その争点に関するほぼ唯一の証拠であるなど,その証明に欠くことができない場合であること。
   「重要な争点」の意義については,前記第2, 2, (2)と同様である。
ウ 目撃者の特定のための情報が,民事裁判所及び当事者に知られていないこと。
   「民事裁判所及び当事者に知られていない」とは,民事訴訟の当事者において,目撃者の存在を把握しているが氏名が不明の場合,目撃者の氏名は判明しているが連絡先が不明の場合,又は目撃者が存在すると認めるに足りる相当の事情があるが,氏名等が不明の場合などがある。
エ 目撃者の特定のための情報を開示することによって,捜査・公判への具体的な支障又は目撃者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく,かつ, 関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがないと認められる場合であること。
(3)   情報提供についての留意事項 
   検察官は,通常,前記(2),イ及びウの要件に関する情報を有していないことから,民事裁判所から調査の嘱託がなされた場合には,上記各要件を判断するための具体的な事情及びこれに該当する目撃者が存在すると認められる相当な理由が不十分であると認められるときは,民事裁判所に対し,調査の嘱託に応じるか否かを判断するための情報の提供を求めることが望ましい。
   なお,目撃者の連絡先とは,原則として,住所を回答すれば足りる。
(4)   目撃者の情報の取扱い 
   目撃者の連絡先等は,本人のプライバシーに属する情報であるので,裁判所に対して回答する場合は,民事訴訟の当事者においても慎重な取扱いが必要である旨を回答書に明記するなど注意喚起した上で送付する。
被疑者供述調書1/2(特例書式)
被疑者供述調書2/2(特例書式)
被害者供述調書1/2(特例書式)
被害者供述調書2/2(特例書式)

第5 労働基準監督署に対する文書送付嘱託

1 労働基準監督署に対する文書送付嘱託の取り扱いについては,裁判所からの文書送付嘱託等への対応に係る標準事務処理要領(平成27年5月付の厚生労働省労働基準局安全衛生部の文書)に詳しく書いてあります。

2 「裁判所等からの文書提出命令等に関する労基署の取扱い」も参照してください。

第6 文書送付嘱託に応じないように働きかけることはできないこと

1 調査嘱託に関するものではありますが,平成29年5月25日に効力が発生した戒告処分に関する「処分の理由の要旨」として以下の記載があります(自由と正義2017年8月号71頁)。
   そのため,代理人弁護士が嘱託先に対して文書送付嘱託に応じないように嘱託先に働きかけることはリスクを伴います。
 
   被懲戒者は,Aから同人を被告とする離婚等請求訴訟事件を被懲戒者の法律事務所の所属弁護士と共に受任したところ,裁判所がA名義の資産内容に関する調査嘱託を決定し,裁判所書記官が2013年6月17日付けで調査嘱託書を発送すると,同日,Aの代理人弁護士として,上記嘱託先である全26社に対し,上記嘱託先との契約者であるAが契約に関わる一切の情報について裁判所その他の第三者に対して開示することを望んでいないこと,上記情報が開示されたことによるAの不利益が極めて大きいこと,諸事情を踏まえて適正かつ慎重な判断を求める旨が記載された文書を発送し,上記嘱託先に回答しないことを働きかけた。
   被懲戒者の上記行為は,弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき飛行に該当する。

2 私の経験では,全国健康保険協会(いわゆる協会けんぽ)の都道府県支部は,本人の同意がない限り,調査嘱託であっても回答してきません。

3 「弁護士の懲戒」も参照してください。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。