公判手続

第0 目次

第1  総論
第2  起訴状における身柄関係の記載方法
第3  検察官請求予定証拠の閲覧・謄写等
第4  公判期日の指定及び変更
第5  事前準備
第6  冒頭手続
第7  証拠調べ手続
第8  証拠調べに関する異議
第9  被告人質問
第10 弁護人の書類及び証拠物の閲覧・謄写権,証拠等関係カード並びに公判調書
第11 弁論手続
第12 判決
第13 刑の執行猶予
第14 裁判結果票
第15 裁判員裁判の合憲性に関する最高裁判例
第16 家庭裁判所が取り扱う成人の刑事事件(平成20年12月14日までの取扱い)

*1 冒頭手続きから判決までの流れについては,検察庁HPの「公判について」が分かりやすいです。
*2 「被告人の保釈」「刑事裁判の書証の証拠能力」及び「刑事裁判の証人尋問」を参照してください。
*3 裁判員制度はいらないインコのウェブ大運動HPに,裁判員制度に対する批判的意見が書いてあります。
*4 証拠等関係カードに関する以下の最高裁判所の通達を掲載しています(平成29年7月30日追加)。
① 証拠等関係カードの様式等について(平成12年8月28日付の最高裁判所事務総長通達)
② 証拠等関係カードの記載要領について(平成12年8月28日付の最高裁判所刑事局長及び総務局長の依命通達)

第1 総論

1 被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有します(憲法37条1項)。

2 公判手続は,①冒頭手続,②証拠調べ手続,③弁論手続及び④判決の四段階に分かれます。
   犯罪事実について争いがない自白事件の場合,①ないし③の手続が40分以内に終わり,次の期日で判決が言い渡されます。

3(1) 公判には裁判官,裁判所書記官,検察官が出席することとされていますし(刑訴法282条2項),原則として被告人が出頭しなければ法廷を開けないことになっています(刑訴法286条)。
   また,一定の重大事件(死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件)については,弁護人も出頭しなければ法廷を開くことはできません(刑訴法289条1項)。
(2) 刑訴法278条の2第1項による公判期日等への出頭在廷命令に正当な理由なく従わなかった弁護人に対する過料の制裁を定めた同条の2第3項は,訴訟指揮の実効性担保のための手段として合理性,必要性があるといえ,弁護士法上の懲戒制度が既に存在していることを踏まえても,憲法31条,37条3項に違反するものではありません(最高裁平成27年5月18日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和33年4月30日判決,最高裁大法廷昭和33年10月15日決定)。

4 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件についても,弁護人の出頭が必要とされています(刑訴法316条の29)。

5 公判廷においては,被告人の身体は拘束されていない(刑訴法287条1項)ものの,身体拘束中の被告人の場合,両脇に2人の看守が座っています(刑訴法287条2項参照)。

6 被告人は,裁判長の許可がなければ,退廷することができません(刑訴法288条1項)。

7 裁判長は,被告人を在廷させるため,又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができます(刑訴法288条2項)。

8 公判期日における訴訟の指揮は,裁判長が行います(刑訴法294条)。

9 裁判長は,必要と認めるときは,訴訟関係人に対し,釈明を求め,又は立証を促すことができます(刑訴規則208条1項)。
   陪席の裁判官は,裁判長に告げて,訴訟関係人に対し,釈明を求め,又は立証を促すことができます(刑訴規則208条2項)。
   訴訟関係人は,裁判長に対し,釈明のための発問を求めることができます(刑訴規則208条3項)。

10(1) 訴訟手続内における審理の方法,態度などは,それ自体としては裁判官を忌避する理由となりませんから,公判期日前の打合せから第一回公判期日終了までの裁判長の訴訟指揮権,法廷警察権の行使の不当を理由とする忌避申立は通常,刑事訴訟法24条に基づき簡易却下されます(最高裁昭和48年10月8日決定参照)。
(2) 裁判所が事件の審理を終えて判決を宣告した後においては,右事件の担当裁判官に対する忌避申立てを簡易却下する裁判を取り消す実益が失われます(最高裁平成9年10月27日決定)。

第2 起訴状における身柄関係の記載方法

事件事務規程(平成28年10月19日最終改正のもの)別表によれば,起訴状における身柄関係の記載方法は以下のとおりです。
在   宅:身体の拘束を受けていない被疑者について公訴を提起するとき。
在宅求令状:身体の拘束を受けていない被疑者について公訴を提起する場合において,その者を勾留する必要があると認めるとき。
逮捕中求令状:逮捕中の被疑者について逮捕の基礎となった犯罪事実につき公訴を提起する場合において,その者を勾留する必要があるとき,又は,逮捕中の被疑者について公訴を提起する場合において,公訴事実が逮捕の基礎となった犯罪事実と同一でないため,その犯罪事実について被疑者を釈放し,かつ,公訴事実について新たに勾留する必要があると認めるとき。
勾留中:勾留中の被疑者について公訴を提起するとき。
勾留中求令状:勾留中の被疑者について公訴を提起する場合において,公訴事実が勾留の基礎となった犯罪事実と同一でないため,その犯罪事実について被疑者を釈放し,かつ,公訴事実について新たに勾留する必要があると認めるとき。
別件勾留中:別件で勾留中の被告人について公訴を提起するとき。
別件勾留中求令状:別件で勾留中の被告人について公訴を提起する場合において,公訴事実について更に勾留する必要があると認めるとき。
保釈中:別件で保釈中の被告人について公訴を提起するとき。
受刑中:別件で受刑中の被疑者について公訴を提起するとき。
事件事務規程別表

第3 検察官請求予定証拠の閲覧・謄写等

1 弁護人は,第1回の公判期日前に,検察官が取調べを請求する予定の証拠書類及び証拠物を閲覧する機会を与えられます(刑訴法299条,刑訴規則178条の6第1項1号参照)。
   ただし,平成16年5月28日法律第62号(平成17年11月1日施行)による改正後の刑訴法に基づき,検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠(=開示証拠)に係る複製等を,刑事裁判以外の目的で,人に交付し,又は提示し,若しくはインターネットに載せることは禁止されており(刑訴法281条の4),違反があった場合,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(刑訴法281条の5)。

2 弁護士は,開示証拠の複製等を被告人に交付等するときは,被告人に対し,複製等に含まれる秘密及びプライバシーに関する情報の取扱いに配慮するように注意を与えなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程(平成18年3月3日会規第74号)(平成18年4月1日施行)3条1項)。
   また,弁護士は,開示証拠の複製等を交付等するに当たり,被告人に対し,開示証拠の複製等を審理準備等の目的以外の目的でする交付等の禁止及びその罰則について規定する刑訴法281条の4第1項及び281条の5第1項の規定の内容を説明しなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程3条2項)。

3 証人等の安全が害されるおそれがある場合,弁護人は,被告人を含む関係者に対し,証人等の安全について配慮を求めることができます(刑訴法299条の2)。
   また,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の安全が著しく害されるおそれがある場合において,検察官から配慮を求められたときは,弁護人は,被告人その他の者に被害者特定事項を知られないように配慮しなければなりません(刑訴法299条の3)。

4 弁護人は,検察官請求予定証拠について,なるべくすみやかに,刑訴法326条の同意をするかどうか,又はその取調の請求に関して異議がないかどうかの見込みを検察官に通知しなければなりません(刑訴規則178条の6第2項2号)。

第4 公判期日の指定及び変更

1 公判期日の指定
(1) 裁判長は,第1回公判期日を指定します(刑訴法273条1項)。
(2) 公判期日には,被告人を召喚しなければなりません(刑訴法273条2項)。
(3) 被告人に対する召喚状の送達(刑訴法57条,刑訴規則67条参照)は,起訴状謄本の送達(刑訴規則176条)前にはこれをすることができません(刑訴規則179条1項)。
   そのため,裁判長は,被告人に起訴状謄本が送達された旨の送達報告書が戻った時点以降に,第1回公判期日の指定を行うのが一般的です。
(4) 第1回公判期日の指定については,被告人を召喚するための召喚状の送達と第1回公判期日との間に,原則として少なくとも5日間(簡易裁判所の場合,3日間)の猶予期間があるようにしなければなりません(刑訴法275条,刑訴規則179条2項)。
(5) 公判期日に召喚を受けた被告人その他の者が正当な理由がなく出頭しない場合,被告人の勾引,保釈の取消等,証人に対する制裁等の規定の活用が考慮されます(刑訴規則179条の3)。
(6) 公判期日が指定された場合,その公判期日を検察官及び弁護人に通知し(刑訴法273条3項),その通知がなされたことを記録上明らかにしなければなりません(刑訴規則298条3項)。
(7) 裁判所の構内にいる被告人に対し公判期日を通知したときは,召喚状の送達があった場合と同一の効力を有します(刑訴法274条)。
   そのため,公判期日において次回の公判期日が通知された場合,被告人に対する召喚状の送達はありません。
2 公判期日の変更
(1) いったん指定された公判期日を変更する場合,期日指定と異なり,裁判所が行います(刑訴法276条1項)。
   期日変更は,職権で行う場合のほかは,検察官,被告人又は弁護人の請求によって行うものでありますところ,請求があれば必ず変更を認めなければならないものではなく,変更するについて,やむを得ないと認められる事由が必要であり,こうした事由が認められなければ,裁判所は公判期日の変更請求を却下しなければなりません(刑訴規則179条の4第2項,182条1項)。
   これは,裁判の遅延,引き延ばしを目的とする不当な期日変更を防止しようとするものです(刑訴法277条,刑訴規則303条参照)。
(2) 被告人,弁護人の病気は原則としてやむを得ない事由に当たります(刑訴法278条参照)。
   ただし,①病名及び病状の他,②その精神又は身体の病状において,公判期日に出頭することができるかどうか,③自ら又は弁護人と協力して適当に防御権を行使することができるかどうか,及び④出頭し又は審理を受けることにより生命又は健康状態に著しい危険を招くかどうかの点に関する医師の具体的な意見が記載された,裁判用診断書を提出しなければなりません(刑訴規則183条,184条参照)。
   また,裁判所は,医師が裁判用診断書を作成するについて,①虚偽記載,②方式違反,③不明瞭記載その他相当でない行為をした場合,厚生労働大臣なり,日本医師会及び都道府県単位の医師会なりに対し,適当と認める処置(医師免許の取消し,医業の停止)をとることができるようにその旨を通知することができますし,法令によって認められている他の適当な処置(例えば,虚偽診断書作成罪(刑法160条)を理由とする告発)をとることができます(刑訴規則185条)。

第5 事前準備

1 裁判所の措置
(1) 裁判所は,検察官及び弁護人の訴訟の準備に関する相互の連絡が,公訴の提起後速やかに行われるようにするため,必要があると認めるときは,裁判所書記官に命じて,検察官及び弁護人の氏名を相手方に知らせる等の適当な措置をとらせなければなりません(刑訴規則178条の3)。
(2) 裁判所は,第1回公判期日を定めるについては,その期日前に訴訟関係人がなすべき訴訟の準備を考慮しなければなりません(刑訴規則178条の4)。
(3) 裁判所は,公判期日の審理が充実して行われるようにするため相当と認めるときは,あらかじめ,検察官又は弁護人に対し,その期日の審理に充てることのできる見込みの時間を知らせなければなりません(刑訴規則178条の5)。
(4) 裁判所は,裁判所書記官に命じて,検察官又は弁護人に訴訟の準備の進行に関して問い合わせ又はその準備を促す処置をとらせることができます(刑訴規則178条の9)。
(5) 裁判所は,適当と認めるときは,第1回公判期日前に,検察官及び弁護人を出頭させた上,公判期日の指定その他訴訟の進行に関し必要な事項について打ち合わせを行うことができます。
   ただし,事件について予断を生じさせるおそれのある事項にわたることはできません(刑訴規則178条の10第1項)。
2 訴訟関係人の事前準備
(1) 訴訟関係人は,第1回の公判期日前に,できる限り証拠の収集及び整理をし,審理が迅速に行われるように準備しなければなりません(刑訴規則178条の2)。
(2) 検察官は,第1回公判期日前に,以下のことをしなければなりません(刑訴規則178条の6第1項)。
① 刑訴法299条1項本文に基づき,被告人又は弁護人に対し,請求予定証拠の閲覧の機会を与えること
② 閲覧の機会を与えられた弁護人請求予定証拠について同意の見込み等を弁護人に通知すること
(3) 弁護人は,第1回公判期日前に,以下のことをしなければなりません(刑訴規則178条の6第2項)。
① 被告人その他の関係者に面接するなど適当な方法によって,事実関係を確かめておくこと。
② 閲覧の機会を与えられた検察官請求予定証拠について同意の見込み等を検察官に通知すること。
③ 刑訴法299条1項本文に基づき,検察官に対し,請求予定証拠の閲覧の機会を与えること。
(4) 検察官及び弁護人は,第1回公判期日前に,相手方と連絡して以下のことを行わなければなりません(刑訴規則178条の6第3項)。
① 起訴状に記載された訴因若しくは罰条を明確にし,又は事件の争点を明らかにするため,相互の間でできる限り打ち合わせておくこと。
② 証拠調べその他の審理に要する見込みの時間等裁判所が開廷回数の見通しをたてるについて必要な事項を裁判所に申し出ること。
(5) 第1回公判期日前に,刑訴法299条1項本文に基づき,訴訟関係人が,相手方に対し,証人等の氏名及び住居を知る機会を与える場合には,なるべく早い時期に,その機会を与えるようにしなければなりません(刑訴規則178条の7)。
(6) 検察官及び弁護人は,証人として尋問を請求しようとする者で第1回公判期日において取り調べられる見込みのあるものについて,これを在廷させるように努めなければなりません(刑訴規則178条の8)。
(7) 検察官は,公訴の提起後は,その事件に関して押収している物について,被告人及び弁護人が訴訟の準備をするにあたりなるべくその物を利用することができるようにするため,押収物の還付又は仮還付(刑訴法222条1項・123条)の活用を考慮しなければなりません(刑訴規則178条の11)。

第6 冒頭手続

1 冒頭手続は,主として,「誰が,いつ,どこで,どのような犯罪を行ったことに関する裁判を行うのか」ということを明らかにしようとする手続です。

2 人定質問とは,裁判長が被告人に対して氏名や本籍地・住所地等を質問し,出廷している被告人が誰であるかを確認する手続をいいます(刑訴規則196条)。
   この手続により,起訴状に記載されたとおりの被告人が出廷していることを確認します。

3 人定質問の後,検察官が「起訴状朗読」,つまり,被告人がどのような犯罪行為を行ったものとして起訴されているのかを記載した書面の音読を行い,「被告人が,いつ,どこで,どのようなことを行い,その行為が何罪に該当するとして起訴されているのか」を述べることで,これから行う裁判の対象を明示します(刑訴法291条1項)。

4 被害者特定事項の非公開決定(刑訴法290条の2)があった場合,検察官は,被害者特定事項を明らかにしない方法で起訴状の朗読を行います(刑訴法291条2項)。
   この場合,裁判所は,必要があると認めるときは,被害者の氏名その他の被害者特定事項に係る名称に代わる呼称を定めることができます(刑訴規則196条の4)。

5 起訴状は,公訴提起の時点で裁判所に提出され(刑訴法256条1項),遅滞なく裁判所から被告人に起訴状の謄本が送達される(刑訴法271条1項)ので,裁判官,被告人とも公判の前に起訴状の内容を知ることができます。

6 起訴状の朗読によって裁判の対象が明らかになると,裁判長は,被告人に対し,黙秘権(刑訴法311条1項)等の権利があることを告知します(刑訴法291条3項前段,刑訴規則197条)。
   そして,被告人と弁護人に対し,起訴状に書かれた事実に間違いがないかどうか,つまり,被告人が起訴状に書かれた犯罪を行ったかどうかを質問するなどして,被告人らに事件に関する陳述の機会を与えます(刑訴法291条3項後段。罪状認否)。
公判調書(手続)
公判調書(手続)記載例

第7 証拠調べ手続

1 総論
(1) 刑事裁判においては,検察官が証明責任を負う,つまり検察官が証拠によって犯罪の証明を行う責任を負うとされており,もし検察官による犯罪の証明が不十分であれば,裁判所は無罪の判決を下さなければなりません(刑訴法336条)。
(2) 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人に対し,証拠の証明力を争うために必要とする適当な機会を与えなければなりません(刑訴法308条)。
   そのため,裁判長は,裁判所が適当と認める機会に検察官及び被告人又は弁護人に対し,反証の取調べの請求その他の方法により証拠の証明力を争うことができる旨を告げなければなりません(刑訴規則204条)。
2 冒頭陳述
(1) 証明責任を負う検察官が,「これから証拠によって証明しようとする事実」を述べますところ,これを検察官による冒頭陳述と呼びます(刑訴法296条本文)。
   通常,起訴状には,被告人が行ったとされる犯罪に該当する具体的な行為のみを必要最小限度記載する(例えば「何月何日,どこで,被害者Vの胸部を包丁で2回突き刺し,その場で直ちに外傷性ショックにより死亡させた。」など)のに対して,冒頭陳述では,犯行の動機や計画性,犯行の具体的な状況,犯行前後の行動等犯罪事実に関連する事実に加え,被告人の生い立ちや生活状況等,量刑の判断に必要となる事情(情状)まで,証拠によって証明する予定の事実を広く記載します。
(2) 裁判所の許可がある場合,弁護人も,証拠により証明すべき事実を明らかにできますところ,これを弁護人による冒頭陳述といいます(刑訴規則198条1項)。
(3) 冒頭陳述は,いずれも「証拠により証明すべき事実」を述べなければなりませんから,証拠によって証明することができない事実又は証明する予定のない事実で,しかも裁判官に偏見又は予断を抱かせる事実は,冒頭陳述で述べることができません(刑訴法296条ただし書)。
(4) 証拠は,犯罪事実やこれに関連する事実を証明するためのものばかりでなく,情状を証明するためのものもあります。
   証拠には,大きく分けて①証拠物(物証),②証拠書類(書証),③証人(人証)があります。
   そして,物証とは,犯行に使われた包丁等であり,書証とは,被害者の供述調書,実況見分調書,鑑定書等であり,人証とは,例えば,被害者本人や目撃者本人等です。
3 証拠調べ請求
(1) 冒頭陳述の後,検察官が証拠調べの請求をします(刑訴法292条本文参照)。
   その際,検察官は,事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調べを請求しなければなりません(刑訴規則193条1項)ものの,必要があるときは,更に証拠を取り調べることを妨げられません(刑訴規則199条2項)。
(2) 証拠書類その他の書面の取調べを請求するときは,その標目を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則188条の2第2項)。
(3) 証拠調べの請求は,証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示してしなければなりません(刑訴規則189条1項)。
   また,証拠書類その他の書面の一部の取調べを請求する場合,特にその部分を明確にしなければなりません(刑訴規則189条2項)。
   これらの場合において,裁判所は,必要と認めるときは,証拠調べの請求をする者に対し,これらの事項を明らかにする書面の提出を命じることができ(刑訴規則189条3項),これに従わないでなされた証拠調べ請求を却下することができます(刑訴規則189条4項)。
(4) 証拠調べの請求は,証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して,これをしなければなりません(刑訴規則189条の2)。
(5) 検察官は,公判廷供述と異なり,かつ,相対的特信状況が認められる検察官面前調書(刑訴法321条1項2号後段)を必ず証拠調べ請求しなければなりません(刑訴法300条)。
   その関係で,証人等の尋問が終了した後に,当該証人等の検察官面前調書が証拠調べ請求されることがあります。
(6) 検察官の証拠調べ請求に続いて,被告人側も証拠調べ請求を行うことができます(刑訴規則199条1項)。
4 書証等の証拠調べ
(1) 証拠決定
ア 書証についての同意(刑訴法326条1項)があること等を理由として,裁判所が証拠として取り調べることを決定した場合(刑訴規則190条1項。証拠決定),法廷において証拠調べを実施します。
イ 裁判所は,証拠決定をするについては,証拠調べ請求に基づく場合には,相手方又はその弁護人の意見を,職権による場合には,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければなりません(刑訴規則190条2項)。
   具体的には,裁判所は,刑訴法326条1項の同意の対象となる書面又は供述については,相手方に証拠とすることに同意するかどうかの意見を求めます。
   これに対して刑訴法326条1項の同意の対象とならない場合,つまり,証拠物,検証,証人尋問,鑑定に関する証拠調べ請求については,相手方は,その証拠調べ請求に対し,「異議なし」,「しかるべく」,「不必要」といった意見を述べます。
   また,刑訴法326条1項の同意の対象となる書面又は供述であっても不同意となった場合,刑訴法321条ないし324条又は328条を根拠として証拠調べ請求がなされることがありますところ,この請求に対して相手方は,「異議なし」,「しかるべく」,「特信性がない」,「任意性を争う」といった意見を述べます。
ウ 刑訴法326条1項の同意がなければ証拠とすることができない書面については,相手方が不同意であれば,請求者は通常,撤回します。
   そして,その請求者は,必要に応じ,その書面の供述者,作成者を証人として尋問請求することとなります。
エ 裁判所は,証拠決定をするについて必要があると認めるときは,訴訟関係人に証拠書類又は証拠物の提示を命じることができます(刑訴規則192条。提示命令)。
提示命令は証拠の証拠能力を判断するために認められたものであり,この判断をするのに必要な限度において証拠の内容を見ることができると解されています。
(2) 証拠調べの実施
ア 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,証拠調べの範囲,順序及び方法を定めることができます(刑訴法297条1項)。
イ 裁判所は,適当と認めるときは,いつでも,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,いったん決定した証拠調べの範囲,順序及び方法を変更することができます(刑訴法297条3項)。
ウ ①人証は「尋問」により(刑訴法304条),②書証は「朗読」により(刑訴法305条1項),③物証は「展示」により(刑訴法306条)行うのが原則です。
   ただし,書証については,裁判長が訴訟関係人の意見を聴き相当と認めた場合に限って「要旨の告知(要点だけを説明する方法)」によることができます(刑訴規則203条の2第1項)。
エ 刑訴規則203条の2は,昭和25年12月20日最高裁判所規則第28号(昭和26年1月4日施行)による改正後の刑訴規則に基づき,設けられた条文です。
   なお,刑訴規則203条の2は,刑訴法305条の定める証拠書類に対する証拠調べの方式を合目的的に簡易化したにとどまります(最高裁昭和29年6月19日決定)。
オ 被告人の自白調書の取調べは,犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後に実施されます(刑訴法301条)。
カ 刑訴法301条の「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後」とは,すべての補強証拠が取り調べられた後という意味ではありません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和26年6月1日決定)。
   また,共同被告人の検察官に対する供述調書は,他の被告人との関係においては刑訴法301条の「犯罪事実に関する他の証拠」にあたり,これを最初に取り調べても違法であるとはいえません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年3月23日決定参照)。
キ 犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは,できる限り,犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければなりません(刑訴規則198条の3)。
ク 証拠調べが終わった証拠書類及び証拠物は,遅滞なくこれを裁判所に提出しなければなりません。
   ただし,裁判所の許可を得たときは,原本に代え,その謄本を提出することができます(刑訴法310条)。
ケ 一部にしか同意がなかった書類について不同意部分の証拠調べ請求が撤回された場合,証拠調べは原本に基づき行った上で,抄本提出許可に基づき,裁判所には抄本が提出されます(刑訴法310条ただし書)。
コ 証拠のうち,被告人の自白を記載した供述書・供述調書及び被告人の自白を内容とする第三者の伝聞供述の証拠調べについては,他のすべての証拠についての証拠調べが終わった後に行うこととされています(刑訴法301条)。

第8 証拠調べに関する異議

1 検察官,被告人又は弁護人は証拠調べに関し,異議を申し立てることができます(刑訴法309条)。
   その趣旨は,証人調べの順序及び方法等に見られるように,証拠調べ等の手続に関する規程が複雑であり,かなり当事者主義かされていることにかんがみ,これらの手続における一方の当事者の行き過ぎや過誤の是正もできるだけ相手方の申立てを待ち,チェック・アンド・バランスの原理によって手続を適法かつ妥当に勧めるという点にあります。

2 証拠調べに関する異議の対象は証拠調べ全般に及び,冒頭陳述,証拠調べの請求,証拠決定,証拠調べの範囲・順序・方法を定める決定,証拠調べの方式,証明力を争う機会の付与,更に尋問の制限等の証拠調べに関する裁判長の処分(これに対する異議は刑訴法309条2項の異議ではなく,同条1項の異議に当たります。)など証拠調べに関するすべての訴訟行為を含みます。
   裁判所,裁判官の行為に対してでもよく,また,作為・不作為を問いません。

3 証拠調べに関する異議は,法令の違反があることだけでなく,相当でないことを理由としてでもすることができます(刑訴規則205条1項本文)ものの,証拠調べに関する決定(証拠決定,証拠調べの範囲・順序・方法を定める決定)に対する異議は,相当でないことを理由としてすることはできません(刑訴規則205条1項ただし書)。

4 異議の申立ては,個々の行為,処分又は決定ごとに,簡潔にその理由を示して,直ちにしなければなりません(刑訴規則205条の2)。

5 裁判所は,異議の申立てについては,遅滞なく決定をしなければなりません(刑訴規則205条の3)。

6 裁判所は,時機に遅れてされた異議の申立て,訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな異議の申立て,その他不適法な異議の申立てについては,決定で却下しなければなりません(刑訴規則205条の4本文)。
   ただし,時機に遅れてされた異議の申立てについては,その申し立てた事項が重要であってこれに対する判断を示すことが相当であると認めるときは,時機に遅れたことを理由として却下することはできません(刑訴規則205条の4ただし書)。

7 裁判所は,異議の申立てを理由がないと認めるときは,決定で棄却しなければなりません(刑訴規則205条の5)。

8 裁判所は,異議の申立てを理由があると認めるときは,異議を申し立てられた行為の中止,撤回,取消又は変更を命ずるなどその申立てに対応する決定をしなければなりません(刑訴規則205条の6第1項)。
   また,取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立てを理由があると認めたときは,その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければなりません(刑訴規則205条の6第2項)。

9 異議の申立てについて決定があったときは,その決定で判断された事項については,重ねて異議を申し立てることはできません(刑訴規則206条)。

10 裁判所は,取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることが判明したときは,職権でその証拠の全部又は一部を排除する決定をすることができます(刑訴規則207条)。

第9 被告人質問

1 被告人に対する質問(刑訴法311条2項及び3項)は,その当事者たる地位に照らし,証拠調べとはいえませんが,その任意の供述は証拠となります(刑訴法322条2項,刑訴規則197条1項参照)。

2 裁判長は,被告人が任意に供述する場合には,いつでも必要とする事項について被告人の供述を求めることができます(刑訴法311条2項)。
   また,陪席の裁判官,検察官,弁護人,共同被告人又はその弁護人は,裁判長に告げて,被告人から任意の供述を求めることができます(刑訴法311条3項)。

3 検察官の被告人質問は,主に争点を明確にし,自白調書の任意性を明らかにする場合や,情状立証のためにする場合等に行われます。
   その時期について,刑訴法は特別の制限をしていないものの,自白調書の取調べ時期を制限する刑訴法301条の趣旨から,他の証拠を取り調べる前に,犯罪事実の細部にわたって被告人の供述が求められることはありません。

4 被告人質問は,証人尋問と同様,いたずらに追及的な質問をしたり,威嚇的,侮辱的な質問はもとより,重複質問や,意見を求め,議論にわたる質問をしたりすることもできません(刑訴法295条,刑訴規則199条の13参照)。

5 被告人の容貌体格をその同一性を確認する資料とするような場合においては,裁判官が直接五官によって認知するものであるから,その性質は検証に属するところではあるが,公判廷において裁判官が特段の方法を用いずに当然に認知でき当事者もこれを知り得るような場合においては,原則として証拠物の取調又は公判廷における検証として特段の証拠調手続を履践する必要がありません(最高裁昭和28年7月8日決定)。

6 被告人質問の場合においても,傍聴人の退廷を求めることができます(刑訴規則202条)。

7 被告人の公判廷における伝聞供述が証拠となりうるかどうかについては規定がないものの,①被告人に不利益なものであるときは刑訴法322条類推適用により,②被告人に利益なものであるときは刑訴法324条2項類推適用により証拠能力が認められると解されています。

第10 弁護人の書類及び証拠物の閲覧・謄写権,証拠等関係カード並びに公判調書等

1 弁護人の書類及び証拠物の閲覧・謄写権
(1) 弁護人は,公訴の提起後は,裁判所において,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ謄写することができます。
   ただし,証拠物を謄写するについては,裁判長の許可を受けなければなりません(刑訴法40条1項)。
(2) 検察官については刑訴法270条で書類及び証拠物の閲覧・謄写権が認められており,刑訴規則301条の適用もあります。
   しかし,弁護人の場合,①場所が裁判所に限定されていること,及び②証拠物の謄写に裁判所の許可が必要であることが検察官の場合と異なっています。
(3) 弁護人は,裁判長の許可を受けて,自己の使用人その他の者に訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧又は謄写させることができます(刑訴規則31条)。
2 証拠等関係カード
(1) 証拠等関係カードには,①検察官請求にかかる証拠関係の手続を記載した検察官請求分,②弁護人請求にかかる証拠関係の手続を記載した弁護人請求分,及び③裁判所による職権証拠調べの関係を記載した職権分があります。
(2) 証拠等関係カードには,以下の欄があります。
① 証拠の標目を記載する標目欄
→ 標目以外に,供述者,作成年月日,証人の住居,尋問時間等が記載されます。
② 立証趣旨を記載する欄
③ 証拠調べを請求した期日欄
④ 証拠調べ請求に対する相手方の意見欄
→ 刑訴法326条1項の同意・不同意等の意見が記載されます。
⑤ 証拠調べ請求についての結果欄
→ 採用の場合は「決定」,取調済みの場合は「済」,不同意等により請求を撤回した場合は「撤回」等と記載されます。また,当該公判期日における取調順序についても併せて記載されます。
⑥ 備考欄
(3) 被告人質問の結果は公判調書の必要的記載事項であります(刑訴規則44条1項19号)ところ,証拠等関係カードの「職権分」に記載されます。
   その理由は,①被告人質問は広い意味で証拠調べの性質を持ちますから,これを他の証拠調べ手続の経過とともに一覧できると便利であるからであり,また,②それが「職権分」に記載されるのは,訴訟関係人に被告人質問の請求権があるわけではないからです。
 
3 公判調書等
(1) 総論
ア 公判期日における訴訟手続については,公判調書が作成されます(刑訴法48条1項)。
イ 公判調書には,刑訴規則の定めるところにより,公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければなりません(刑訴法48条2項)。
ウ 公判廷において,裁判所は,証人等の尋問及び供述並びに訴訟関係人の申立て又は陳述については,裁判所速記官その他の速記者にこれを速記させ,又は録音装置を使用してこれを録取することができます(刑訴規則47条1項・40条)。
   検察官,被告人又は弁護人は,裁判長の許可を受けて,同様の処置をとることができます(刑訴規則47条2項・1項・40条)。
エ 公判調書には,裁判所書記官が署名押印し,裁判長が認印をしなければなりません(刑訴規則46条1項)。
オ 調書には,書面,写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し,訴訟記録に添付して,これを調書の一部とすることができます(刑訴規則49条)。
カ 調書は,記載事項により区分して訴訟記録に編てつすることができます(刑訴規則49条の2前段)。
   この場合,調書が一体のものであることを当該調書上に明らかにしておかなければなりません(刑訴規則49条の2後段)。
キ 裁判所速記官は,速記をしたときは,速やかに速記原本を反訳して速記録を作らなければなりません(刑訴規則52条の3本文)。
ク 公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは,公判調書のみによってこれを証明することができます(刑訴法52条)。
   そのため,刑訴法の定める適法な証拠調べがなされていないと上訴審で主張するためには,公判調書の記載に対する異議の申立てをしておかなければなりません。
(2) 公判調書の記載の省略
   訴訟関係人が同意し,かつ,裁判長が相当と認めるときは,公判調書には,被告人に対する質問及びその供述並びに証人等の尋問及び供述の記載に代えて,これらの者の供述の要旨のみを記載することができます(刑訴規則44条2の前段。要旨調書)。
   この場合,その公判調書に訴訟関係人が同意した旨を記載しなければなりません(刑訴規則44条の2後段)。
(3) 公判調書の整理時期等
ア 公判調書は,各公判期日後速やかに,遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければなりません(刑訴法48条3項本文)。
イ 公判調書が次回の公判期日までに整理されなかったときは,裁判所書記官は,検察官,被告人又は弁護人の請求により,次回の公判期日において又はその期日までに,前回の公判期日における証人の供述の要旨を告げなければなりません(刑訴法50条1項前段)。
   この場合において,請求をした検察官,被告人又は弁護人が証人の供述の要旨の正確性について異議を申し立てたときは,その旨を調書に記載しなければなりません(刑訴法50条1項後段)。
ウ 裁判所書記官が公判期日外において前回の公判期日における証人の供述の要旨又は審理に関する重要な事項を告げるときは,裁判長の面前でこれをしなければなりません(刑訴規則51条)。
エ 公判調書が次回の公判期日までに整理されなかったときは,裁判所は,検察官,被告人又は弁護人の請求により,次回の公判期日において又はその期日までに,前回の公判期日を録音した録音体について,再生する機会を与えなければなりません(刑訴規則52条の19第1項)。
   この場合,これをもって刑訴法50条1項の規定による要旨の告知に代えることができます(刑訴規則52条の19第2項)。
(4) 録音反訳による公判調書等
ア 公判廷における証人等の尋問及び供述,被告人に対する質問及び供述並びに訴訟関係人の申立て又は陳述を録音させた場合において,裁判所が相当と認めるときは,録音体を反訳した公判調書を作成しなければなりません(刑訴規則52条の17)。
イ 録音反訳により公判調書を作成する場合において,供述者の請求があるときは,裁判所書記官にその供述に関する部分の録音体を再生させなければなりません(刑訴規則52条の18前段)。
   この場合において,尋問された者が増減変更の申立てをしたときは,その供述を録音させなければなりません(刑訴規則52条の18)。
(5) 公判調書の記載の正確性についての異議の申立て
ア 検察官,被告人又は弁護人は,公判調書の記載の正確性について異議を申し立てることができます(刑訴法51条1項前段)。
   異議の申立てがあったときは,その旨を調書に記載しなければなりません(刑訴法51条1項後段)。
イ 裁判所は,公判期日における証人の供述の要旨の正確性又は公判調書の記載の正確性についての異議の申立てがあったときは,申立ての年月日及びその要旨を調書に記載しなければなりません(刑訴規則48条前段)。
   この場合,裁判所書記官がその申立てについての裁判長の意見を調書に記載して署名押印し,裁判長が認印をしなければなりません(刑訴規則48条後段)。
ウ 公判調書に対する異議の申立ては,遅くとも当該審級における最終の公判期日後14日以内にしなければなりません(刑訴法51条2項本文)。
証拠等関係カード(被告人が1人の場合)
証拠等関係カード(被告人が複数の場合)

第11 弁論手続

1 証拠調べ手続が終わると,検察官,被告人側が,それぞれ事件に関する意見を述べます(検察官側につき刑訴法293条1項,被告人側につき刑訴法293条2項)ところ,これを弁論手続といいます。
   なお,「事件に関する意見」というのは,①有罪か無罪かという点,②犯罪の悪質性や被告人の更生可能性等情状に関する点,③有罪だとすれば,どれくらいの刑に処すべきかという点に関する意見です。

2 検察官及び弁護人は,証拠調べの後に意見を陳述するに当たっては,証拠調べ後できる限り速やかに,これを行う必要があります(刑訴規則211条の2)。

3 検察官の述べる意見は,「論告」と呼ばれ,刑の重さに関する意見(「被告人を,懲役何年に処すべき」などの部分)は特に「求刑」と呼ばれます。

4 弁護人の述べる意見は,「弁論」と呼ばれます。

5 被告人側が「有罪である」と認めて争わない場合,論告も弁論も情状に関する意見が中心となります。
   その場合,弁論では,「被告人を何年に処すべき」などと具体的な年数を述べることはなく,「検察官の求刑は重すぎるので,もっと軽くすべき」とか「執行猶予にすべき」などと述べるにとどまるのが普通です。

6 検察官及び弁護人は,証拠調べの後に意見を陳述するに当たり,争いのある事実については,その意見と証拠との関係を具体的に明示して行う必要があります(刑訴規則211条の3)。

7 裁判長は,必要と認めるときは,検察官,被告人又は弁護人の本質的な権利を害しない限り,検察官の論告及び弁護人の弁論の時間を制限することができます(刑訴規則212条)。

8 検察官の論告及び弁護人の弁論の要旨は,公判調書に別紙引用という形で記載されます(刑訴規則44条1項41号)。

9 弁護人の弁論の後,被告人は最後に陳述することができ(刑訴規則211条),その後に弁論が終結し,判決が宣告されます。

10 裁判所は,適当と認めるときは,検察官,被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で,決定で,終結した弁論を再開することができます(刑訴法313条1項)。

11 被告人又は弁護人から弁論の再開請求がなされたときは,裁判所は,弁論を再開するか否かについてはその裁量によって決すべきものでありますものの,請求を容れて再開するか,又はその必要なしと認めて却下するか,いずれかの決定を与えなければなりません(最高裁昭和36年5月26日判決)。
   ただし,裁判所は,終結した弁論の再開の請求を却下する決定を送達する必要がありません(刑訴規則214条)。

第12 判決

1 判決の宣告
(1) 判決は,公判廷において,宣告により告知されます(刑訴法342条)。
(2) 判決宣告のための公判期日は必ず公開しなければなりません(憲法82条1項)。
(3) 判決の宣告は,すでに内部的に成立している判決を告知して,これを外部的にも成立させる手続にすぎません(最高裁昭和47年4月5日決定)。
   そのため,裁判官がかわっても,公判手続を更新することなしに判決の宣告をすることができます(刑訴法315条ただし書参照)。
(4) 裁判の宣告は,裁判長が行います(刑訴規則35条1項)。
   また,判決の宣告をするには,主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げる必要があります(刑訴規則35条2項)。
(5) 有罪の判決の宣告をする場合,被告人に対し,上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければなりません(刑訴規則220条)。
(6) 裁判長は,判決の宣告をした後,被告人に対し,その将来について適当な訓戒をすることができます(刑訴規則221条)。
(7) 判決宣告当時,少なくとも主文だけは書面に作成されていなければならないものの,理由については必ずしも書面に作成されていなければならないものではありません(最高裁昭和45年4月20日決定)。
(8) 判決の宣告にあたり,裁判長が主文の刑を懲役1年6月と朗読すべきところを誤って懲役1年2月と朗読し,次いで理由の要旨を告げ上訴期間等の告知を行ない,席を立ちかけたところ,弁護人から質問があったので,即座にその場で懲役1年6月と主文の刑を朗読し直した場合には,被告人に対する宣告刑は懲役1年6月としてその効力を生じます(最高裁昭和47年6月15日判決)。
(9) 裁判長がいったんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了し,以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものではないのであって,判決の宣告は,全体として一個の手続であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,完了するものではありません(最高裁昭和51年11月4日判決)。
(10) 判決は,宣告により,宣告された内容どおりのものとして効力を生じ,たとい宣告された内容が判決書の内容と異なるときでも,上訴において,判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が法令違反として破棄されることがあるにとどまります(最高裁昭和51年11月4日判決)。
2 有罪の判決書
(1) 有罪の判決書には,①罪となるべき事実,②証拠の標目,③法令の適用のほか,④法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは,これに対する判断が記載されます(刑訴法335条)。
   しかし,量刑の理由は判決書の必要的記載事項ではありませんから,正式な判決書であっても量刑の理由が記載されていないことがあります。
(2) 地方裁判所又は簡易裁判所においては,判決書には,起訴状に記載された公訴事実又は訴因若しくは罰条を追加若しくは変更する書面に記載された事実を引用することができます(刑訴規則218条)。
   なお,刑訴法335条1項は有罪判決には罪となるべき事実を記載すべきことを要件とするだけで,その記載の方法等についてはなんらの制限を設けていないのであるから,刑訴規則218条がその記載方法として起訴状記載の公訴事実等を引用することができると規定しても有罪となるべき事実の記載としては充されたものというべく,刑訴規則が刑訴法335条1項を変更したものとはいえません(最高裁昭和28年2月10日判決)。
(3) かつての刑事訴訟法(大正11年5月5日法律第75号)(=旧刑事訴訟法)360条1項は「有罪ノ言渡ヲ為スニハ罪ト為ルヘキ事実及証拠ニ依リ之ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スヘシ」と規定し,戦時刑事特別法(昭和17年2月24日号法律第64号)26条は「有罪ノ言渡ヲ為スニ当リ証拠ニ依リテ罪ト為ルベキ事実ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スニハ証拠ノ標目及法令ヲ掲グルヲ以テ足ル」と規定していました。
   戦時刑事特別法が戦時刑事特別法廃止法律(昭和20年12月20日法律第47号)により昭和21年1月15日に廃止された後,旧刑事訴訟法を全部改正するものとして,昭和24年1月1日から,刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)(=現行刑事訴訟法)が施行されたところ,現行刑事訴訟法の国会審議における政府説明等によれば、旧刑事訴訟法に規定する「証拠ニ依リ之ヲ認メタル理由」の説明(=証拠理由の説明)が形式に堕しており,また,裁判官の重大な負担となって,審理が遅延するという結果もあったこと等から,判決を書く手数をなるべく省き,実際の公判において事実の真相を発見する面において裁判官の主力を用いるとの趣旨により,現行刑事訴訟法335条1項において,有罪の言渡しをするには証拠の標目を示さなければならない旨が規定されるに至りました(参議院議員峰崎直樹の質問主意書に対する,平成20年1月15日付の内閣答弁書参照)。
(4) 判決書を含む裁判書は,裁判官がこれを作らなければなりません(刑訴規則54条)。
(5) 判決書を含む裁判書には,裁判をした裁判官が署名押印をしなければなりません(刑訴規則55条)。
(6) 刑事裁判における有罪の認定に当たっては,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ,情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても,直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではない(最高裁平成19年10月16日決定参照)。
   しかし,直接証拠がない場合,情況証拠によって認められる間接事実中に,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要します(最高裁平成22年4月27日判決)。
3 調書判決
(1) 地方裁判所又は簡易裁判所においては,上訴の申立てがない場合には,裁判所書記官に判決主文並びに罪となるべき事実の要旨及び適用した罰条を判決の宣告をした公判期日の調書の末尾に記載させ,これをもって判決書に代えることができます(刑訴規則219条1項本文)ところ,これを調書判決といいます。
(2) 当事者が,判決宣告の日から14日以内でかつ判決の確定前に判決書の謄本の請求をした場合,調書判決は許されません(刑訴規則219条1項ただし書)から,正式な判決書を作成してもらえます。

第13 刑の執行猶予

1 初の執行猶予を付けるための要件は以下のとおりです(刑法25条1項)。
① 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しをする場合
② 執行猶予を相当とするに足りる情状が存すること
③ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがないか,前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
2 再度の執行猶予を付けるための要件は以下のとおりです(刑法25条2項)。
① 1年以下の懲役又は禁錮の言渡しをする場合
② 情状に特に酌量すべきものがあること
③ 前に禁錮以上の刑に処せられ,その執行猶予中であること
   ただし,その執行猶予が保護観察付きで,その保護観察期間内に更に罪を犯した場合は除きます(憲法14条1項に違反しないことにつき最高裁昭和37年11月16日判決)。

3 執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過し刑の言渡しがその効力を失っても,その言渡しを受けたという既往の事実そのものを量刑の資料に参酌しても違法ではありません(最高裁昭和33年5月1日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年3月11日判決参照)。

4 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過した場合,刑の言渡しに基づく法的効果が将来に向かって消滅します(刑法27条。なお,最高裁昭和45年9月29日決定参照)。
   そのため,例えば,執行猶予期間経過の日以降は,当該受刑の事実はもはや執行猶予言渡しの欠格事由とされることはありません(刑法25条)し,執行猶予期間中,禁錮以上の刑に処せられた事実に基づいて受けていた職業資格等の制限を受けることもありません。

5 刑法27条によって,執行猶予を言い渡した確定裁判による刑の言渡しがその効力を失っても,そのことは,刑法45条後段の併合罪関係の成否とは相関しません(最高裁昭和45年9月29日決定)。

第14 裁判結果票

1 地方検察庁段階の裁判結果票(甲)等について定めた事件事務規程139条は以下のとおりです。
① 終局裁判の宣告があったときは,公判立会検察官は,直ちに裁判結果票(甲)(様式第183号)に裁判要旨その他所定の事項を記入し,速やかに公判担当事務官に送付する。
② 前項の規定により裁判結果票の送付を受けたとき,又は決定による終局裁判の告知があったときは,公判担当事務官は,検察システムにより裁判結果に関する事項を管理するとともに,その裁判結果を速やかに執行担当事務官(執行事務規程(平成25年法務省刑総訓第2号大臣訓令)第3条に規定する執行担当事務官をいう。)に通知する。

2 高等検察庁段階の裁判結果票(乙)等について定めた事件事務規程179条は以下のとおりです。
   高等検察庁における公判関係事務手続については,第174条から前条までの規定によるほか,第2編第4章の規定を準用する。この場合において,第94条において準用する場合における第33条中「移送指揮書(甲)(様式第57号)」とあるのは控訴に係る事件については「移送指揮書(乙)(様式第217号)」と,第98条第1項第2号中「併合,移送又は差戻しの裁判」とあるのは「控訴の申立て又は併合,移送若しくは差戻しの裁判」と,第110条第1項及び第2項中「併合又は移送の決定」とあるのは「併合,移送又は差戻しの裁判」と,第139条第1項中「裁判結果票(甲)(様式第183号)」とあるのは控訴に係る事件については「裁判結果票(乙)(様式第218号)」と,それぞれ読み替えるものとする。
裁判結果票(甲)1/2
裁判結果票(甲)2/2
裁判結果票(乙)1/2
裁判結果票(乙)2/2

第15 裁判員裁判の合憲性に関する最高裁判例

1 裁判員裁判は,憲法31条,32条,37条1項,76条,80条1項に違反しません(最高裁大法廷平成23年11月16日判決)。

2 裁判員裁判における審理及び裁判の特例である区分審理制度は,憲法37条1項に違反しません(最高裁平成27年3月10日判決)。

第16 家庭裁判所が取り扱う成人の刑事事件(平成20年12月14日までの取扱い)

1 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による改正前の少年法37条は,以下に掲げる成人の刑事事件については,公訴は,家庭裁判所にしなければならないと定めていました。
① 未成年者喫煙禁止法(明治33年3月7日法律第33号)違反の罪
→ 未成年者に対してタバコを販売した者は50万円以下の罰金に処せられます(同法3条)。
② 未成年者飲酒禁止法(大正11年3月30日法律第20号)違反の罪
→ 未成年者に対して業として酒類を販売又は供与した者は50万円以下の罰金に処せられます(同法3条1項)。
③ 未成年者を被害者とする,労働基準法違反の一定の罪
→ 例えば,(a)除外事由がないのに満15歳未満の児童を使用した場合(同法56条・113条),及び(b)満18歳に満たない者に坑内労働をさせた場合(同法63条・113条)です。
④ 児童福祉法60条及び62条2号の罪
→ 例えば,(a)身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為,(b)児童にこじきをさせ,又は児童を利用してこじきをする行為,(c)公衆の娯楽を目的として,満15歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為,(d)満15歳に満たない児童に戸々について,又は道路その他これに準ずる場所で歌謡,遊芸その他の演技を業務としてさせる行為及び(e)満15歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為(同法34条1項1号ないし4号・60条2項)並びに(f)児童に淫行をさせる行為(同法34条1項6号・60条1項)があります。
⑤ 学校教育法144条(旧90条)及び145条(旧91条)の罪
→ (a)保護者が6歳に達した子を小学校又は特別支援学校の小学部に就学させない場合(同法144条・17条1項),(b)保護者が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した子を中学校,中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させない場合(同法144条・17条1項)及び(c)学齢児童又は学齢生徒を使用する者が,その使用によって,当該学齢児童又は学齢生徒が,義務教育を受けることを妨げた場合(同法145条・20条)です。

2 ①ないし⑤の事件については,家庭裁判所が管轄権を有していた理由は以下のとおりです。
① この種の事件は,少年事件を専門に扱って少年に理解のある家庭裁判所が取り扱うのが適当である。
② この種の事件は少年事件の調査の過程で発覚することが多く,証拠関係も少年事件と大部分が共通することから家庭裁判所が扱うのが便宜である。

3 平成20年6月18日法律第71号が,①ないし⑤の事件を地方裁判所に移管したのは以下の理由です(平成20年5月30日付の衆議院法務委員会における大野恒太郎法務省刑事局長の答弁参照)。
① 刑事事件担当の裁判官も少年に対する理解を十分に有しており,適切な対応が可能である。
② 少年保護事件と少年の福祉を害する成人の刑事事件の証拠関係が共通であるからといっても,少年保護事件の証拠が自動的に刑事事件の証拠となるわけではない。
③ 当該成人については,家裁が管轄権を有する少年法37条1項所定の事件と,それ以外の地裁が管轄権を有する事件がいわゆる併合罪の関係にある場合,家裁と地裁に別々に訴えを提起することとなる結果,審理期間が不当に長くなったり,又は併合して一括して審理された場合とは異なる刑が言い渡されたりするという不都合がある。
④ 家裁管轄の成人の刑事事件については,家裁に起訴されるということで,簡易裁判所で出されることとなる略式命令による処理ができないという不都合がある。

4 被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁大法廷昭和49年5月29日判決参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあります(最高裁平成21年10月21日決定)。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。