○労災保険給付事務取扱手引1/3・16頁ないし18頁には,「2 調査結果復命書の適正な作成」として以下の記載があります。
(1) 調査結果復命書
調査結果復命書(以下「復命書」という。)は、保険給付の支給決定等の事務に当たり、 調査官が①請求書の記載内容についての確認調査、②関係事業場、医療機関等に対する実地調査、③請求人、事業主、同僚労働者、現認者等からの聴取調査、④主治医、地方労災医員等に対する意見照会等の調査を行った場合、並びに調査の最終段階において、調査結果を取りまとめ、署長に報告するための文書である。
調査の最終段階においてその結果をとりまとめる復命書については、(2)ないし(7)に示すところにより適正に作成すること。
(2) 復命書作成の基本的な考え方
署長が的確な保険給付の決定等を行うためには、その決定等の基礎となる復命書に、必要な情報を理由と根拠を示して記載する必要がある。
保険給付に関する決定は行政処分であり、法令・通達等に定められた要件を満たした場合に、法令に定められた効果が生じるという関係にあるから、定められた要件を満たしているかどうかについて、要件ごとに、理由と根拠を明示しつつ、調査結果を明らかにする必要がある。
このため、復命書には次の事項を明記すること。
① 調査すべき要件の概要
② 各要件に係る調査結果
③ ②の結果に基づく結論(処理方針)等
(3)調査すべき要件の概要
結論を出すために必要な調査に係る各要件の概要を記載すること。
認定基準が定められている傷病であれば、当該認定基準の概要を示し、どのような調査結果になった場合に、支給決定等を行うのかを明示すること。
なお、請求人が保険給付の要否等の判断について、認定基準に定められていない事項を考慮すべきであると主張している場合には、その主張の概要を記載すること。
(4)各要件に係る調査結果
各要件に係る調査結果を明示すること。
その際、まず、結論である要件の充足の有無の判断を先に書き、次にその根拠となる事実認定を根拠ととともに記載すること。
また、以下に留意して記載すること。
ア 要件の充足の有無の判断
全体としての結論のみを記載するのではなく、要件ごとに調査結果に基づいて、当該要件を充足しているか否かの判断を記載すること。
なお、請求人が、認定基準に定められていない事項を保険給付の要否等の判断において考慮すべきであると主張している場合には、当該事項についても、その該当の有無や、 当該事項を考慮することの適否を記載すること。
イ 事実認定と根拠
(6)に留意して事実認定とその根拠を記載すること。
(5)結論としての処理方針案
法令・通達に定める支給要件ごとの充足の有無の判断をもとに、結論として支給決定するのか、不支給決定するのか等の処理方針案を記載すること。
(6) 復命書作成に当たっての留意事項
ア 合理的な事実認定
事実認定は、できる限り客観的な資料を収集した上で、始業前の準備作業や休憩時間における労働の実態等、供述によらなければ確定しがたいものがあることに留意し、関係者の供述や同業他社の実態等を踏まえて、合理的な事実認定を行い、その結果を記載すること。
イ 関係者の供述の取扱い
関係者の供述は、支給要件等の充足等の有無を判断する上で必要なものについて、簡潔にその要点を摘示すること。関係者の供述が異なっており、一方の供述を採用する場合には、必ず当該供述を採用する理由を記載すること。
また、聴取書の内容と調査結果復命書の内容が整合性を有しているか必ず確認し、整合性に欠ける場合には、追加の聴取等必要な調査を行うこと。
ウ 医証の取扱い
医証については、その要点を正確に引用するとともに、業務上外の判断等について複数の医証の見解が異なっており、一方の医証を採用する場合には、必ず当該医証を採用する根拠を明らかにすること。
なお、医証に用いられている専門用語は、医師に確認すること等により、その意味を明らかにしておき、署長等の決裁権者が正しく理解できるようにしておくこと。
エ 通達等に基準が示されていない場合や、通達等に定める基準により判断しがたい場合には、事前に本省(補償課)に相談するとともに、判断及びその根拠を特に明らかにしておくこと。
認定基準を満たすものは、業務上の傷病と推定されるが、認定基準を満たさないものは、当該推定はできないことから、通達に明示されていない取扱いを行う場合、例えば、 通達に示す有害業務従事期間を満たしていないが、ばく露の程度等から業務上と判断されるような事案については、事前に本省(補償課)に相談するとともに、復命書の取りまとめに当たって、実際の従事期間、ばく露の程度を定量的・具体的に記載した上で、 専門医の医証を踏まえ、業務上と判断することが妥当であること及びその理由を詳細に記載すること。
また、認定基準を満たすものは業務上の傷病と推定されるが、請求人の症状は私病たる類似疾病に由来しているとして業務外とするときには、当該推定を覆すに足る事実を、 専門医の医証のポイントとともに、詳細に記載すること。
(7) 障害(補償)給付に係る調査結果復命書
(1)から(6)のほか、障害(補償)給付に係る調査結果復命書の作成に当たって、特に留
意すべき事項は次のとおりである。
ア 残存する単一障害の部位・系列
労災則第14条第3項に定める併合等を行う関係上、単一障害の把握漏れは、基本的に障害等級認定の誤りをもたらすこととなる。したがって、調査結果復命書には、残った単―障害とその系列を漏れなく記載すること。
あわせて、決裁権者が調査結果復命書に漏れなく単一障害が記載されているか確認することができるよう、障害(補償)給付請求書裏面の診断書の写しを調査結果復命書に添付すること。
イ 単一障害の障害等級とその根拠
単―障害の障害等級については、単に等級を記載するのではなく、なぜ当該等級と認定したのか、その根拠を記載すること。
この場合、単に「関節の機能に障害を残すもの」に当たるからと記載するにとどまらず、その評価が妥当か検証できる情報を記載すること。
例えば、主要運動及び参考運動に係る関節可動域の測定結果、当該測定の自動・他動の別、可動域制限の原因、測定者(主治医、地方労災医員、職員等)等を記載すること。
ウ 障害等級決定の過程
身体障害が2以上ある場合には、単に結論として準用第〇級、併合第〇級と記載するのではなく、どのようにして障害等級を決定したのか、その過程を明記すること。
なお、序列の考慮は、障害等級表で定められた等級との比較で行うものであり、障害等級認定基準で定める準用等級と比較するものではないこと。