後遺障害としての関節の可動域制限

第0 目次

第1   可動域制限に関する後遺障害等級の認定基準の骨子
第2の1 主要運動の可動域及び後遺障害等級認定基準
第2の2 参考運動の可動域が後遺障害等級を決定する基準
第2の3 関節可動域の後遺障害に関する労働委員会の裁決例
第3の1 肩関節と後遺障害等級の目安,鎖骨骨折,肩甲骨骨折,上腕骨近位部骨折,肩腱板の断裂・損傷及び肩関節の脱臼
第3の2 肘関節と後遺障害等級の目安,上腕骨遠位部骨折,肘頭骨折及び肘関節の脱臼
第3の3 手関節と後遺障害等級の目安,舟状骨骨折,撓骨遠位端骨折及びTFCC損傷
第4の1 股関節と後遺障害等級の目安,大腿骨骨折,骨盤骨折及び股関節の脱臼
第4の2 膝関節と後遺障害等級の目安,大腿骨遠位部骨折,膝靭帯損傷,膝半月板損傷,脛骨高原骨折及び膝蓋骨脱臼
第4の3 足関節と後遺障害等級の目安,足関節捻挫,足関節果部骨折,踵骨骨折及びアキレス腱断裂
第5の1 関節の可動域制限を後遺障害として認定してもらうための条件
第5の2 関節の可動域制限に関する用語の説明
第5の3 可動域制限の原因となる神経麻痺及び電気生理学的検査

第5の4 軟部組織の損傷,及び捻挫と靭帯損傷
第6   関節の可動域制限に関する後遺障害等級認定票の文言例
第7         保存治療しか受けていない場合,半年が経過した時点で症状固定とすべきケースがあること
第8の1 骨折
第8の2 脊椎及び脊髄
第8の3 長骨(長管骨),胸骨,肋骨及び胸郭
第9   骨接合術及び抜釘術,人工骨頭置換術及び人工関節置換術

第10  関節可動域の測定要領(平成16年6月4日付の厚生労働省労働基準局長通達の別添)
第11  身体障害者手帳における上肢及び下肢の障害の認定基準
第12  動揺関節及び習慣性脱臼
第13    整形外科の障害等級に関する専門検討会報告書(平成16年2月)の目次

第14  人工骨頭又は人工関節に関する後遺障害等級が変更された理由
第15  関節の変形障害と後遺障害等級

第16  下肢の短縮障害と後遺障害等級

*0 関節の後遺障害としては,欠損障害,機能障害(可動域制限),変形障害及び短縮障害があります。
*1 以下のページも参照して下さい。
(交通事故)
① 初診時の留意点,公的医療保険,診療録及びレセプト
② むち打ちの治療
③ 後遺障害としてのむち打ち,腰椎捻挫,神経麻痺等
④ 症状固定及び後遺障害診断書
⑤ 損害保険料率算出機構による後遺障害等級の認定
⑥ XP,CT,MRI等
⑦ 交通事故の示談をする場合の留意点
⑧ 保険会社の説明義務
⑨ 任意保険の示談代行制度
⑩ 物損に関する示談及び少額訴訟
(労災保険)
⑪ 労災保険
⑫ 労災保険の給付内容
⑬ 労災保険に関する不服申立方法
⑭ 第三者行為災害としての交通事故
(社会保険)
⑮ 休職期間中の社会保険及び税金
⑯ 症状固定後の医療費の助成制度
⑰ 症状固定後の社会保険及び失業保険
*2 厚生労働省HPに
   「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日付の基発第0604003号)平成16年7月1日施行)の
   別紙として「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」が,
   別添として「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」が載っています。
*3 自賠責保険の場合,後遺障害等級の認定は原則として,労災保険における障害の等級認定の基準に準じて行うこととされています「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)「第3 後遺障害による損害」参照)。
*4 日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会は,平成7年2月9日に共同で,「関節可動域表示ならびに測定法」(平成7年4月改定)を決定しました。
*5 日本整形外科学会HP「整形外科/運動器 症状・病気をしらべる」には以下のページが載っています。
①   全身の症状脊椎の症状脊髄障害頚椎(くび)の症状胸椎(せなか)の症状腰椎(こし)の症状肩周辺の症状上肢の神経の障害肘関節手関節手・指下肢股関節膝関節足関節足・足指神経・筋疾患
②   寝違えむち打ち症突き指ぎっくり腰
*6 日本骨折治療学会HP「骨折の解説」に以下のページが載っています。
① 上肢の骨折
   肩鎖関節脱臼鎖骨骨折上腕骨近位端骨折上腕骨骨幹部骨折成人の上腕骨遠位部骨折肘頭骨折前腕の骨幹部骨折橈骨遠位端骨折舟状骨骨折手の中手指骨折突き指小児上腕骨顆上骨折
② 体幹の骨折
   骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折外傷性椎体骨折・脊損肋骨骨折骨盤骨折高齢者の骨盤骨折
③ 下肢の骨折
   大腿骨頸部骨折と大腿骨転子部骨折~高齢者の脚の付け根の骨折~大腿骨骨幹部骨折大腿骨遠位部骨折膝蓋骨骨折脛骨プラトー骨折下腿の骨幹部骨折足関節骨折(足首のくるぶしの骨折)踵骨骨折第5中足骨骨折・いわゆる下駄履き骨折と疲労骨折スキーとスノーボード四肢外傷
④ 一般的事項
   疲労骨折子供が骨折してしまった!!ひょっとして骨折??人工関節周囲骨折骨折に対する外固定法について
*7 MSDマニュアル「骨折,脱臼,および捻挫」(プロフェッショナル版)骨折,脱臼および捻挫の概要コンパートメント症候群の他,以下のページが載っています。
(体幹の骨折)
鎖骨骨折脊椎圧迫骨折骨盤骨折
(上肢の骨折)
上腕骨近位部骨折上腕骨遠位部骨折橈骨頭骨折橈骨遠位部骨折舟状骨骨折中手骨頚部骨折
(上肢の脱臼・捻挫)
肩関節脱臼肘関節脱臼指の脱臼肩鎖関節の捻挫尺側側副靭帯の捻挫
(下肢の骨折)
股関節骨折大腿骨骨幹部骨折足関節骨折踵骨骨折
(下肢の脱臼・捻挫)
股関節脱臼膝関節脱臼膝伸展機構損傷足関節捻挫アキレス腱裂傷膝関節捻挫及び半月板損傷
*8 ナースフルHP「整形外科の目次」に以下のページが載っています。
第1章 骨・神経・骨格筋の解剖と働き
第2章 検査・診断・アセスメント
第3章 代表的な臨床検査法
骨折脱臼軟部組織・半月板の損傷脊柱の損傷脊髄損傷上肢下肢
第4章 手術療法とその他の治療法
整形外科の保存療法整形外科の手術療法手術前後のケアの流れ骨折の治療法脱臼の治療法人工関節の手術脊椎疾患の手術軟部組織損傷の手術その他の手術・治療
第5章 整形外科の薬
鎮痛薬の種類とその特徴鎮痛薬の種類そのほかのよく使われる薬
第6章 リハビリテーションケア
付録 略語・その他
関節可動域テスト(ROMテスト)整形外科関連の欧文略語
*9 筋肉名称を覚えよう!HPでは,全身の筋肉が詳しく説明されています。
*10 看護ルーHP「関節可動域訓練」に,指,手首,肘,前腕,肩,つま先,アキレス腱,足,膝,股の関節可動域訓練(ROM訓練)を説明する動画が載っています。
*11 画像診断まとめHP頭部画像診断ツール腹部画像診断ツール腰椎画像診断ツール肩関節画像診断ツール膝関節画像診断ツール足関節画像診断ツール頚部画像診断ツール等が載っています。MRI及びCTの連続スライス画像が載っています。
*12 リハ虎HP「疾患別のリハビリ方法」が載っています。
*13 書籍としては,「関節可動域制限-病態の理解と治療の考え方」(平成27年5月1日付)が参考になります。
*14 日本整形外科学会は平成6年2月,毎年10月8日を「骨と関節の日」と定めました。「ホネ」の「ホ」は十と八に分けることができ,10月10日の体育の日にも近いことが,記念日を10月8日と定めた理由です(日本臨床整形外科学会HP「骨と関節の日」参照)。

第1 可動域制限に関する後遺障害等級の認定基準の骨子

1 総論
(1) 関節又は脊柱の可動域制限(機能障害)は,骨折,脱臼等の後遺障害として,いずれかの関節が曲がりにくくなることです。
(2)   関節の後遺障害等級については,健側(けんそく)(麻痺や障害等がない部位側のことです。)と比べて患側(かんそく)(麻痺や障害等がある部位側のことです。)についてどれぐらい関節を曲げることができるかによって形式的に決まります。
(3) 可動域制限は,自動値(被害者が自発的に曲げた角度)ではなく,他動値(医師が手を添えて曲げた角度)で決まります。
   他動値は,医師が手を添えて被害者の関節を曲げるわけですから,自動値よりも数値が大きくなります。
(4) 関節の可動域は5度刻みで測定します。

2 3大関節の可動域制限と後遺障害等級との関係
(1)
ア   上肢の3大関節としては,肩関節,肘関節及び手関節があり,下肢の3大関節としては,股関節,膝関節及び足関節があります。
イ 上肢には手指が含まれ,下肢には足指が含まれます。
(2)   3大関節のうちの
1関節の可動域制限に関する後遺障害等級は,8級,10級及び12級の3段階となります。
① 8級が認定される,関節の「用を廃したもの」
・ 健側と比べて患側の主要運動の可動域が10%以下になった状態をいいます。
・ 主要運動が複数ある肩関節及び股関節については,両方の主要運動の可動域も10%以下になった状態をいいます。
・ 人工骨頭又は人工関節置換術を受けた場合において,健側と比べて患側の主要運動の可動域が50%以下になった状態を含みます。
② 10級が認定される,関節の「著しい機能障害」
・ 健側と比べて患側の主要運動の可動域が50%以下になった状態をいいます。
・ 主要運動が複数ある肩関節及び股関節については,8級の場合と異なり,いずれか一方の主要運動の可動域が50%以下になった状態をいいます。
・ 人工骨頭又は人工関節置換術を受けた場合を含みます。
③ 12級が認定される,関節の「機能障害」
・ 健側と比べて患側の主要運動の可動域が75%以下になった状態をいいます。
・ 主要運動が複数ある肩関節及び股関節については,8級の場合と異なり,いずれか一方の主要運動の可動域が75%以下になった状態をいいます。
(3)ア 健側の可動域が大きければ大きいほど,健側に比べた患側の可動域が75%以下であったり,50%以下であったりしやすくなるという関係にあります。
   そのため,健側の可動域が参考可動域角度を超える場合,後遺障害等級認定において有利に働くこととなります。
イ 健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては,参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価します。
(4) 1上肢又は1下肢の3大関節中の2関節の用を廃した場合,6級が認定されます。
(5) 1上肢又は1下肢の用を全廃した場合,5級が認定されます。
(6) 両上肢又は両下肢の用を全廃した場合,1級が認定されます。

3 脊柱の可動域制限と後遺障害等級との関係
(1) 脊柱(せきちゅう)のうち,可動域制限が問題となる部位としては,頚部及び胸腰部がありますところ,主たる機能が異なることにかんがみ,それぞれの部位ごとに等級を認定されます。
(2) 脊柱の可動域制限に関する後遺障害等級は6級又は8級の2段階となります。
① 6級が認定される,「せき柱に著しい運動障害を残すもの」
・ 頚部又は胸腰部が強直(きょうちょく)した状態をいいます。
② 8級が認定される,「せき柱に運動障害を残すもの」
・ 頚部又は胸腰部の主要運動の可動域が参考可動域角度の50%以下になった状態をいいます。
・ 頭蓋・上位頚椎間に著しい異常可動性が生じた場合を含みます。
(3) 上肢又は下肢の関節のように健側と患側の比較が脊柱にはできないため,参考可動域角度との比較により制限の程度を評価します。

4 後遺障害等級に対応する労働能力喪失率及び後遺障害慰謝料
(1) 労働能力喪失率
   1級が100%,5級が79%,6級が67%,8級が45%,10級が27%,12級が14%,14級が5%です(「労働能力の喪失割合及び喪失期間」参照)。
(2) 後遺障害慰謝料
ア 裁判基準に基づく後遺障害慰謝料につき,1級が2800万円,5級が1440万円,6級が1220万円,8級が830万円,10級が530万円,12級が280万円です。
イ 自賠責基準に基づく後遺障害慰謝料につき,1級が1100万円,5級が599万円,6級が498万円,8級が324万円,10級が187万円,12級が93万円です。
ウ 「交通事故事件の慰謝料」も参照して下さい。

第2の1 主要運動の可動域,及び後遺障害等級認定基準

1 関節可動域表示ならびに測定方法
(1) 関節可動域の表示について,我が国では第2次大戦前に慣例になっていた方法が,昭和23年に日本整形外科学会総会において改訂され親しまれてきました。
(2)   昭和49年6月1日,日本整形外科学会身体障害委員会及び日本リハビリテーション医学会評価基準委員会は「関節可動域表示ならびに測定方法」を作成しました。
(3) 平成7年2月9日,日本整形外科学会身体障害委員会及び日本リハビリテーション医学会評価基準委員会は「関節可動域表示ならびに測定方法(平成7年4月改訂)」を作成しました(障害年金の手引HP「関節可動域表示ならびに測定法(平成7年2月改訂)」参照)。
(4) 労災保険における関節可動域の測定方法は従前,昭和49年の「関節可動域表示ならびに測定方法」に基づいていました。
   しかし,平成12年3月14日,同日付け基発第128号に基づき,平成7年の「関節可動域表示ならびに測定方法」に基づくこととなりました(平成12年4月15日付の広島県医師会速報(第1720号)参照)。

2 主要運動及び参考運動

(1) 総論
ア   主要運動とは,各関節における日常の動作にとって最も重要なものをいい,参考運動とは,日常生活において主要運動ほど重要でないと運動をいいます。
   関節の可動域は,原則として主要運動の可動域によって評価されるものの,場合によっては,主要運動と参考運動によって関節の機能障害の程度を評価する場合があります。
イ 多くの関節にあっては主要運動は一つでありますものの,脊柱(頚椎),肩関節及び股関節については,二つの主要運動があります。
ウ 参考運動がある3大関節は肩関節,手関節及び股関節だけです。
(2) 部位ごとの主要運動及び参考運動(厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」参照)
ア 脊柱
① 脊柱(頚椎)の場合,主要運動は屈曲・伸展,回旋であり,参考運動は側屈です。
② 脊柱(胸腰椎)の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動は回旋,側屈です。
イ 上肢の関節
① 肩関節の場合,主要運動は屈曲及び外転・内転であり,参考運動は伸展です。
・ 肩関節については,屈曲は前方挙上,伸展は後方挙上,外転は側方挙上ともいいます。
・ 平成16年6月30日までの労災保険の認定基準では,屈曲及び伸展の両方が肩関節の主要運動になっていました。
② 肘関節の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動はありません。
③ 手関節の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動は撓屈(とうくつ)・尺屈(しゃっくつ)です。
・ 手関節については,屈曲は掌屈,伸展は背屈ともいいます。
④ 前腕の場合,主要運動は回内・回外であり,参考運動はありません。
⑤ 手の親指(母指)の場合,主要運動は屈曲・伸展,橈側外転,掌側外転であり,参考運動はありません。
⑥ 手指の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動はありません。
ウ 下肢の関節
① 股関節の場合,主要運動は屈曲・伸展及び外転・内転であり,参考運動は外旋・内旋です。
② 膝関節の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動はありません。
③ 足関節の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動はありません。
・ 足関節については,屈曲は底屈,伸展は背屈ともいいます。
④ 足の親指(母指)の場合,主要運動は屈曲・伸展,橈側外転,掌側外転であり,参考運動はありません。
⑤ 足指の場合,主要運動は屈曲・伸展であり,参考運動はありません。
(3) 運動の意味
   解剖学における運動の表現によれば,それぞれの運動の意味は以下のとおりです。
① 屈曲:関節の角度を小さくする運動
② 伸展:関節の角度を大きくする運動
③ 外転:体肢を身体の中心面から遠ざける運動
④ 内転:体肢を身体の中心面に近づける運動
⑤ 外旋:体の前方に向かうある部分を外の方へ向ける運動
⑥ 内旋:体の前方に向かうある部分を内の方へ向ける運動
⑦ 回外:前腕軸を中心にして,掌を上に向ける運動
⑧ 回内:前腕軸を中心にして,掌を下に向ける運動

3 脊柱,上肢又は下肢の主な関節の主要運動の参考可動域,及び後遺障害認定の基準(健側が参考可動域と同じである場合の数値です。)
(1) 脊柱
ア 頚部
・ 屈曲(前屈)は60度,伸展(後屈)は50度,その合計は110度ですから,55度以下が8級,15度以下が6級です。
・ 回旋(右)は60度,回旋(左)は60度,その合計は120度ですから,60度以下が8級,10度以下が6級です。
・ 平成16年6月30日までの労災保険の認定基準では,脊柱(頚部)の運動可動域角度が参考可動域角度の2分の1以下になった場合,6級が認定されていました。
イ 胸腰部
・ 屈曲(前屈)は45度,伸展(後屈)は30度,その合計は75度ですから,35度以下が8級,10度以下が6級です。
・ 平成16年6月30日までの労災保険の認定基準では,脊柱(胸腰部)の運動可動域角度が参考可動域角度の2分の1以下になった場合,6級が認定されていました。
(2) 上肢
ア 肩関節
・   屈曲(前方挙上)は180度ですから,135度以下が12級,90度以下が10級,20度以下が8級です。
・ 外転(側方挙上)は180度,内転は0度,その合計は180度ですから,135度以下が12級,90度以下が10級,20度以下が8級です。
→ 肩関節の内転は下垂状態から上腕を内側に動かす動作ですから,可動域は0度となります幻冬舎HP「肩関節の基本的な動作で使われる筋肉とは?」参照)
イ 肘関節
・ 屈曲は145度,伸展は5度,その合計は150度ですから,110度以下が12級,75度以下が10級,15度以下が8級です。
ウ 手関節
・ 屈曲(掌屈)は90度,伸展(背屈)は70度,その合計は160度ですから,120度以下が12級,80度以下が10級,20度以下が8級です。
エ 前腕関節
・ 回内は90度,回外は90度,その合計は180度ですから,90度以下が12級,45度以下が10級です。
・ 平成16年6月30日までの労災保険の認定基準では,前腕の回内・回外運動については,手関節又は肘関節の参考運動として取り扱われていました。
(3) 下肢

ア 股関節
・ 屈曲(膝屈曲の場合)は125度,伸展は15度,その合計は140度ですから,105度以下が12級,70度以下が10級,15度以下が8級です。
・ 外転は45度,内転は20度,その合計は65度ですから,45度以下が12級,30度以下が10級,10度以下が8級です。
・ 股関節の動きは,きこうカイロ施術院ブログ「股関節の動きと目標可動域」のイラストが分かりやすいです。
イ 膝関節
・ 屈曲は130度,伸展は0度,その合計は130度ですから,95度以下が12級,65度以下が10級,15度以下が8級です。
→  厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には「例  ひざ関節(屈曲)に大きな可動域制限があり、健側の可動域が130度である場合は、可動域制限のある関節の可動域が、130度の10%を5度単位で切り上げた15度以下であれば、ひざ関節の強直となる。」と書いてあります。
・ 膝関節の屈曲の計測は,股関節屈曲位で行いますところ,きこうカイロ施術院ブログ「膝関節の動きと目標可動域」のイラストが分かりやすいです。
・ 昭和49年の測定方法では,伏臥位(ふくがい)(=腹臥位(ふくがい),俯せ(うつぶせ))で膝関節の可動域を計測することになっていましたが,平成7年の測定方法では,仰臥位(ぎょうがい)(=仰向け(あおむけ))で膝関節の可動域を計測することになっています。
   なお,臥位(がい)は,寝ている姿勢のことであり,横を向いて寝ている姿勢は側臥位(そくがい)といいます。
・ 正座をするためには膝の関節可動域が140度から150度ぐらい必要である愛媛大学医学部附属病院人工関節センターHP「膝関節部門概要」参照)にもかかわらず,膝関節の屈曲の参考可動域が130度となっている理由は不明です。
・   平成30年10月5日付の厚生労働省の不開示通知書によれば,膝関節の参考可動域が130度となっている理由が分かる文書は厚生労働省に存在しません。
ウ 足関節
・ 屈曲(底屈)は45度,伸展(背屈)は20度,その合計は65度ですから,45度以下が12級,30度以下が10級,10度以下が8級です。
(3) 前腕関節の可動域制限の後遺障害等級認定根拠
   厚生労働省の「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」には,「前腕の回内・回外については、その可動域が健側の1/4以下に制限されているものを第10級、1/2以下に制限されているものを第12級に準ずる関節の機能障害としてそれぞれ取り扱うこと。」と書いてあります。

4 その他の基準
(1) 可動域制限の判定方法
   厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には以下の記載があります(ナンバリングを追加しました。)。
① 関節の機能障害の認定に際しては、障害を残す関節の可動域を測定し、原則として健側の可動域角度と比較することにより、関節可動域の制限の程度を評価するものであること。
   ただし、せき柱や健側となるべき関節にも障害を残す場合等にあっては、測定要領に定める参考可動域角度との比較により関節可動域の制限の程度を評価すること。
②   
これらの運動のうち、原則として、屈曲と伸展のように同一面にある運動については、両者の可動域角度を合計した値をもって関節可動域の制限の程度を評価すること。
   ただし、肩関節の屈曲と伸展は、屈曲が主要運動で伸展が参考運動であるので、それぞれの可動域制限を独立して評価すること。
③ 多関節筋が関与する場合、原則としてその影響を除いた肢位で測定する。例えば、股関節屈曲の測定では、ひざ関節を屈曲しひざ屈筋群をゆるめた肢位で行う。 
(2) 関節の強直
ア   厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には以下の記載があります。
   関節の強直とは、関節の完全強直又はこれに近い状態にあるものをいう。
   この場合、「これに近い状態」とは、関節可動域が、原則として健側の関節可動域角度の10%程度以下に制限されているものをいい、「10%程度」とは、健側の関節可動域角度(せき柱にあっては、参考可動域角度)の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度とすること。
   なお、関節可動域が10度以下に制限されている場合はすべて「これに近い状態」に該当するものと取り扱うこと。
イ 後遺障害等級8級が認定される「関節の強直」の場合,角度を5度単位で切り上げるのに対し,後遺障害等級10級が認定される「著しい機能障害」の場合,及び後遺障害等級12級が認定される「機能障害」の場合,角度を5度単位で切り上げることはありません弁護士法人あさかぜ法律事務所 交通事故相談室HP「上肢三大関節(肩,肘,手)下肢三大関節(股,膝,足)の機能障害と後遺障害等級」参照)。
(3) 主要運動が複数ある関節の機能障害
   厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には以下の記載があります(ナンバリングを変えました。)。
① 関節の用廃 上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については、いずれの主要運動も全く可動しない又はこれに近い状態となった場合に、関節の用を廃したものとすること。 
② 関節の著しい機能障害及び機能障害 上肢・下肢の3大関節のうち主要運動が複数ある肩関節及び股関節については、主要運動のいずれか一方の可動域が健側の関節可動域角度の1/2以下又は3/4以下に制限されているときは、関節の著しい機能障害又は機能障害と認定すること。
  また、せき柱(頸椎)にあっては、屈曲・伸展又は回旋のいずれか一方の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されているときは、せき柱に運動障害を残すものと認定すること。
(4) 脊柱の運動障害の認定条件
ア 「せき柱に著しい運動障害を残すもの」とは,以下のいずれかにより頸部及び胸腰部が強直したものをいいます。
① 頸椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎圧迫骨折等が存しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
② 頸椎及び胸腰椎のそれぞれにせき椎固定術が行われたもの
③ 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
イ 「せき柱に運動障害を残すもの」のうち,頸部又は胸腰部の可動域が参考可動域角度の1/2以下に制限されたものとして認定されるためには以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
① 頸椎又は胸腰椎にせき椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
② 頸椎又は胸腰椎にせき椎固定術が行われたもの
③ 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
ウ 項背(こうはい)とは,うなじ及び背中のことです。
(5)   併合等級
ア   下肢の可動域制限の原因となった骨折に伴い,患側の下肢が健側の下肢と比べて短縮することがあります。
   この場合,患側の下肢が健側の下肢と比べて1cm以上短縮した場合,後遺障害13級が認定され,3cm以上短縮した場合,後遺障害10級が認定され,5cm以上短縮した場合,後遺障害8級が認定されます。
イ 例えば,後遺障害10級相当の可動域制限が発生し,かつ,患側の下肢が健側の下肢と比べて1cm短縮した場合,後遺障害として併合9級が認定されることとなります。
ウ 上肢の短縮障害について後遺障害が認定されることはありません。 

5   前額面,矢状面及び水平面
(1)   関節の運動は,原則として直交する三平面(前額面,矢状面及び水平面)を基本面とする運動です。
① 前額面(冠状面)
   一側から反対側の方向へ体を前後に分ける垂直面をいいます。
② 矢状(しじょう)面
   体に正面から矢が当たったときに,矢が刺さる方向をいいます。
   直立した姿勢では前後方向,つまり,上下左右を含む面(前額面)に直角な方向です。
③ 水平面(横断面)
   身体を上下に分ける水平面をいいます。
(2) 「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」に以下の記載があります。
   関節の運動は直交する3平面、すなわち前額面、矢状面、水平面を基本面とする運動である。ただし、肩関節の外旋・内旋、前腕の回外・回内、股関節の外旋・内旋、頸部と胸腰部の回旋は、基本肢位の軸を中心とした回旋運動である。また、母指の対立は、複合した運動である。
(3) パーソナルトレーナーによる健康・ダイエットブログ「筋トレにおける矢状面・前額面・水平面のプランニング」に図が載っています。

6 後遺障害診断書への記載場所
   関節の可動域制限の具体的内容(関節名,運動の種類,他動の右・左,自動の右・左)は,後遺障害診断書右下の「⑩上肢・下肢および手指・足指の障害」欄のうち,「関節機能障害(日整会方式により自動他動および健側患側とも記入してください)」欄に記載してもらうこととなります。

7 関節の可動域制限に関する参考HP

(1) リーガルモールHP「可動域制限とは?可動域制限と後遺障害との関係について解説」が載っています。
(2) 後遺障害等級認定NAVI「関節可動域の測定方法と読み方」が載っています。
(3) 死亡事故・後遺症SOS 弁護士が交通事故被害者をサポートHP「可動域制限と労働能力喪失期間」が載っています。
(4) 東京交通事故相談サポートHP(青山通り法律事務所)「上肢・手指の関節機能障害(肩・ひじ・手首・手指の可動域制限など)」及び「下肢・足指の関節機能障害(股関節・ひざ・足首・足指の可動域制限など)」が載っています。
(5)   
茨城県ケアマネジャー協会古河地区会HP正常関節可動域と計測法(日整会、日リハ学会制定)が載っています。股関節の屈曲の正常値は,膝屈曲がなければ90度であり,膝屈曲があれば125度です。
(6) 理学療法学第41巻第8号の「関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略」に専門的な説明が書いてあります。
(7) NPO法人日本せきずい基金HP「第5章 可動域制限」には「身体は骨格系、筋肉、関節によって形作られている。骨格は関節と呼ばれる骨の接合部がいくつも連なってできている。関節の働きには、自由に体を動かすことを可能にすることと、体重を支えることがある。それぞれの関節は筋肉、腱、靱帯および関節包によって覆われ、それらによって関節は安定に保たれている。筋肉は関節と交叉していて、骨を動かしている。」と書いてあります。
(8) 「健常老人の四肢主要関節の可動域について-性差および参考値との比較-」右上79頁には,「健常老人のROM(注:関節可動域)の性差については,一般に女性のROMが大きい傾向にあり,特に肩関節屈曲・伸展・外転,肘関節屈曲・伸展,前腕の回内,SLR・内旋,膝関節屈曲および足関節屈曲の10項目で著しく,逆に股関節屈曲・外転・外旋は逆に男性が有意に大きい値を示していた。」と書いてあります。
(9) 食事をする場合,肩関節は方向調整を行い,肘関節は伸縮調整を行い,手関節は微調整を行い,手指は,掴む,握る,つまむ,引っ掛ける,掬う(すくう),押さえるといった役割を担っています(旅とリハビリテーションのブログ「食事動作と上肢の働きについて4つのポイント」参照)。
(10) リハログと題するブログに,「座位について考えてみました。正座、あぐら、しゃがみ位に必要な関節可動域は? 」が載っています。
(11) 堺の弁護士泉田健司のブログ「可動域制限の後遺障害と後遺障害診断書」には,可動域測定に熟練されていない医師として以下の医師がいると書いてあります。 
① 参考可動域を知らない医師
② 可動域測定の軸を知らない医師
③ 測定器を使わずに目分量で測定する医師
④ 無理くりに動かして他動域を測定する医師
(12) 酒井医療HP「評価(1)角度計を使った関節可動域の評価(角度計シリーズ)」が載っています。
関節可動域の測定要領別紙1(頚部及び胸腰部)
関節可動域の測定要領別紙2(肩,肘,前腕及び手)
関節可動域の測定要領別紙3(母指,指)
関節可動域の測定要領別紙4(股,膝,足)

第2の2 参考運動の可動域が後遺障害等級を決定する基準

1 参考運動の可動域が後遺障害等級を決定する基準となる場合
(1) 脊柱(頚部)の運動障害の場合(8級の後遺障害等級)
・   屈曲・伸展の場合,110度✕0.5+10度=65度以下,つまり,65度又は60度の場合
・ 回旋(左右)の場合,120度✕0.5+10度=70度以下,つまり,70度又は65度の場合
(2) 脊柱(胸腰部)の運動障害の場合(8級の後遺障害等級)(5度足すだけです。)
・ 屈曲・伸展の合計が75度✕0.5+5度=42.5度以下,つまり,40度の場合
(3) 肩関節の機能障害の場合
ア 12級の後遺障害等級
・ 屈曲(前方挙上)の場合,180度✕0.75+5度=140度以下,つまり,140度の場合
・ 外転(側方挙上)の場合,180度✕0.75+5度=140度以下,つまり,140度の場合
イ 10級の後遺障害等級
・ 屈曲(前方挙上)の場合,180度✕0.5+10度=100度以下,つまり,100度又は95度の場合
・ 外転(側方挙上)の場合,180度✕0.5+10度=100度以下,つまり,100度又は95度の場合

(4) 手関節の機能障害の場合
ア 12級の後遺障害等級
・ 屈曲・伸展の合計が160度✕0.75+5度=125度以下,つまり,120度の場合,
イ 10級の後遺障害等級
・ 屈曲・伸展の合計が160度✕0.5+10度=90度以下,つまり,90度又は85度の場合
(5) 股関節の機能障害の場合
ア 12級の後遺障害等級
・ 屈曲・伸展の合計が140度✕0.75+5度=120度以下,つまり,120度の場合
・ 外転・内転の合計が 65度✕0.75+5度=53.75度以下,つまり,50度の場合

イ 10級の後遺障害等級
・ 屈曲・伸展の合計が140度✕0.5+10度=80度以下,つまり,80度又は75度の場合
・ 外転・内転の合計が 65度✕0.5+10度=42.5度以下,つまり,40度又は35度の場合


2 参考運動の可動域が後遺障害等級を決定する基準となる場合における,参考運動と後遺障害等級の対応関係
(1) 脊柱(頚部)の運動障害の場合
・   参考運動である側屈の参考可動域は左側屈が60度,右側屈が60度,その合計は120度ですから,90度以下が12級,60度以下が10級です。
(2) 脊柱(胸腰部)の運動障害の場合
・   参考運動である側屈の参考可動域は左側屈が50度,右側屈が50度,その合計は100度ですから,75度以下が12級,50度以下が10級です。
・ 参考運動である回旋の参考可動域は右回旋が40度,左回旋が40度,その合計は80度ですから,60度以下が12級,40度以下が10級です。
(3) 肩関節の機能障害の場合
・   参考運動である伸展の参考可動域は50度ですから,35度以下が12級,25度以下が10級です。
→ 肩関節の伸展は,下垂状態から上腕を後ろに上げる動きです
幻冬舎HP「肩関節の基本的な動作で使われる筋肉とは?」参照)
 参考運動である旋回の参考可動域は外旋が60度,内旋が80度,その合計は140度ですから,105度以下が12級,70度以下が10級です。
→ 肩関節の外旋は,「小さく前へならえ」の位置から脇を締めたまま外側に回す動きであり,肩関節の内旋は,「小さく前へならえ」の位置から脇を締めたまま内側に回す動きです(幻冬舎HP「肩関節の基本的な動作で使われる筋肉とは?」参照)。
(4) 手関節の機能障害の場合
・ 参考運動である撓尺屈の参考可動域は撓屈が25度,尺屈が55度,その合計は80度ですから,60度以下が12級,40度以下が10級です。
(5) 股関節の機能障害の場合
・ 参考運動である旋回の参考可動域は外旋が45度,内旋が45度,その合計は90度ですから,65度以下が12級,45度以下が10級です。

3 厚生労働省労働基準局長通達の記載
   厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には以下の記載があります(ナンバリングを追加しました。)。
① 上肢及び下肢の3大関節については、主要運動の可動域が1/2(これ以下は著しい機能障害)又は3/4(これ以下は機能障害)をわずかに上回る場合に、当該関節の参考運動が1/2以下又は3/4以下に制限されているときは、関節の著しい機能障害又は機能障害と認定するものであること。
  また、せき柱については、頸椎又は胸腰椎の主要運動の可動域制限が参考可動域角度の1/2をわずかに上回る場合に、頸椎又は胸腰椎の参考運動が1/2以下に制限されているときは、頸椎又は胸腰椎の運動障害と認定するものであること。
  これらの場合において、「わずかに」とは、原則として5度とする。
② ただし、次の主要運動についてせき柱の運動障害又は関節の著しい機能障害に当たるか否かを判断する場合は10度とする。
a  せき柱(頸部)の屈曲・伸展、回旋 
b  肩関節の屈曲、外転 
c  手関節の屈曲・伸展 
d  股関節の屈曲・伸展 

第2の3 関節可動域の後遺障害に関する労働委員会の裁決例

平成15年労第438号(障害関係事件)に関する労働保険審査会の裁決には以下の記載があります(ナンバリング及び改行を追加しました。)。
1   労災保険において、関節の機能障害の評価は、関節可動域の制限の程度に応じて評価するものであり、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に準拠した測定要領に基づき可動域の測定を行い、労働能力の喪失に対する損害填補の観点からするものとされている。
   関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできず、測定前にその障害の原因を明らかにしておくことが必要であり、関節可動域制限には、関節それ自体の破壊や強直等の器質的変化を原因とするものと、神経麻痺、疼痛、緊張等による機能的変化を原因とするものがあり、その原因を調べ、症状に応じて測定方法等について考慮することが必要である。また、被測定者の姿勢と肢位によっても、各関節の運動範囲は著しく変化することから、基本的な測定姿勢に加えて、それぞれの事情に応じて、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定する必要がある。
2 請求人は、左股関節の可動域について、本件公開審理において、「外股の状態にすれば、屈伸もある程度可能である。足を正面に上げることはできない。やや外股にすれば、ある程度上げることができる。」と述べ、E医師も「左足を30度程度外側に向けていれば、大腿骨頭と寛骨臼が正常な位置関係になり特に軋轢は生じない。」と述べていること等からみると、30度程度の外旋位においては、請求人の左股関節はある程度の可動域が確保されているものと思われるが、正面中間位で行われたと思われるD医師の測定結果では、屈伸についての可動域は26%と2分の1を大幅に超えた制限が認められ、測定肢位は明確でないが監督署職員による測定結果も屈伸が27%、内転、外転が40%と、著しく可動域が制限されている(内外旋についても、右股関節の4分の3以下に制限されているものとみられる。)。
   本件の事情に即して、左下肢外旋位における関節可動域を考慮して判断を行うとしても、可動域制限が生じていないと評価することは妥当ではなく、左大腿骨転子下骨折後の外旋位変形癒合によりエックス線写真上大腿骨頸部が22.5度~25度の外旋位で股関節に入っている状態がみられ、左下肢の動作により大腿骨骨頭と寛骨臼との間に軋轢が生じ、長距離歩行後等に左股関節痛があり、左大腿部等に筋萎縮もみられ、左片脚起立や正座等が困難、階段の杖等なしの昇降困難、跳躍・走行困難、15分以上の連続歩行困難等の諸支障もみられるとする本件では、左(患)側の股関節の可動域は、右(健)側の関節可動域の2分の1以下に制限されているものに相当すると評価すべきである。
   監督署長は、外旋位における関節可動域は、正面中間位における関節可動域に比べ良好であると考えられることから、可動域制限を認めないと判断したものと思われるが、日常生活上生じている上記諸支障や上記(ハ)のH医師の意見をも無視するものであって、上記(ハ)において内転、外転について述べたのと同様、十分な検討を経た妥当なものとはいえないと指摘せざるを得ない。
   以上のとおり、請求人には、左股関節の可動域制限が認められ、D医師による測定結果及び監督署職員による測定結果を基礎に判断すると、健側の2分の1以下に制限されているものと認められる。

第3の1 肩関節と後遺障害等級の目安,鎖骨骨折,上腕骨近位部骨折,肩甲骨骨折,肩腱板の断裂・損傷等

1 肩関節の構造
(1) 肩関節は,①肩甲上腕(けんこうじょうわん)関節(第一肩関節),②第二肩関節,③肩鎖(けんさ)関節,④胸鎖(きょうさ)関節及び⑤肩甲胸郭(けんこうきょうかく)関節の5関節から成り立つ複関節です。
(2)ア 肩関節を構成する骨は,鎖骨,上腕骨及び肩甲骨(けんこうこつ)です。
イ   鎖骨は肩甲骨を釣り上げ,肩甲骨がより動くように誘導します。
   肩甲骨は上腕骨の土台となります。
   上腕骨は肩甲骨と接触するところは軟骨で構成されており,その部分は上腕骨頭といいます(肩関節鏡手術・肩人工関節手術・森大祐HP「肩の構造」参照)。
(3)ア   狭義の肩関節は肩甲上腕関節のことであり,ボールのような部分とボールを受ける皿のような部分でできている関節です。
   肩関節のボール部分は上腕骨頭と呼ばれ,上腕骨の一部です。
   お皿部分は関節窩(かんせつか)と呼ばれ,肩甲骨の一部です。
イ   上腕骨頭(ボール)は関節窩(お皿)に引き寄せられており,肩を動かすと2つの骨がこすれあいます(人工関節ドットコムHP「肩関節のしくみ」参照)。
(4)ア 肩関節には,肩鎖(けんさ)靭帯,烏口(うこう)鎖骨靭帯,上関節上腕靭帯(SGHL),中関節上腕靭帯(MGHL)及び下関節上腕靭帯(IGHL)があります。
イ 肩鎖関節の安定性は,肩鎖靭帯(肩峰と鎖骨の間),烏口鎖骨靭帯(烏口突起と鎖骨の間),三角筋・僧帽筋(鎖骨の外側に付く筋肉)により保たれています(日本骨折治療学会HP「肩鎖関節脱臼」参照)。
ウ 肩峰(けんぽう)は,肩関節よりも上にあって外側に向かって大きく張り出した箇所です。
(5) 肩関節は,肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)で知られるように拘縮(こうしゅく)しやすい関節です(日本骨折治療学会HP「上腕骨近位端骨折」参照)。
(6) 肩関節の外転と内転には,さらに水平外転と水平内転という動作もあり,これは文字通り上腕を水平に動かすことで,水平外転は0度~30度,水平内転は0度~130度の可動域があります幻冬舎HP「肩関節の基本的な動作で使われる筋肉とは?」参照)。

2 肩関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安
   肩関節の屈曲又は外転が制限されると,上着の衣類を脱ぐのに支障が生じるようになります。
   そして,肩関節の屈曲又は外転が135度以下になった場合,ケガをしていない肩関節の可動域が正常値である180度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
   肩関節の屈曲又は外転がより制限されると,洗体,洗髪,物干し等にも支障が生じます。
   そして,肩関節の屈曲又は外転が90度以下になった場合,ケガをしていない肩関節の可動域が正常値である180度であるのであれば,後遺障害等級10級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   肩関節の屈曲及び外転の両方が20度以下になった場合,ケガをしていない肩関節の可動域が正常値である180度であるのであれば,後遺障害等級8級が認定されることとなります。

3 鎖骨骨折
(1) 鎖骨は,胸骨と肩甲骨の間にある棒状の骨であり,左右に1本ずつ存在しています。
   鎖骨は,肩関節や腕の動きを安定させる役割を有していますから,鎖骨がない場合,肩関節や腕を胸部から離れた位置で保持することが困難になります。
(2)ア 鎖骨骨折は,全骨折中約10%を占めています。また,折れる瞬間にボキッ!という音を聞く人が多いみたいです(日本骨折治療学会HP「鎖骨骨折」参照)。
イ 鎖骨は皮下直下にあるため,視診や触診で容易に診断できる場合が多いため,人類の骨折治療に関する最も古い記載の中に登場します(湘南・札幌外傷整形外科研究所HP「鎖骨骨折の治療」参照)。
(3)ア 鎖骨骨折は,骨折の部位により以下の3つに分かれますところ,鎖骨遠位端骨折の場合,肩の可動域制限が発生する可能性があります(福岡 後遺障害相談HP(弁護士法人たくみ法律事務所)「Q.鎖骨の骨折で後遺障害が認定されるケースは?」参照)。
① 鎖骨遠位端骨折(鎖骨の片側部分の骨折)
② 鎖骨骨幹部骨折(鎖骨の真中部分の骨折)
③ 鎖骨近位端骨折(鎖骨の首皮部分の骨折)
イ 私の経験では,鎖骨骨幹部骨折に基づく肩の可動域制限について12級の後遺障害を認定してもらったことがあります。
(4)ア 鎖骨骨折の手術は,鎖骨の短縮が著しい場合,皮膚に損傷が及ぶ場合,腕神経損傷や血管損傷が疑われる場合,保存治療で癒合しない場合,鎖骨遠位端骨折,肩鎖(けんさ)関節内骨折,骨の転位(ずれ)が著しい場合などに行われるようです(弁護士法人中村・橋本法律事務所HP「鎖骨骨折と後遺障害等級について」参照)。
イ 鎖骨骨折の手術療法としては,鋼線締結法(こうせんていけつほう),髄内釘(ずいないてい)固定法及びプレート固定法があります(ナースフルHP「鎖骨骨折」参照)。
ウ 鎖骨の非転位骨折の場合,鎖骨バンド又は8の字包帯による固定が行われます(骨折ネット「骨折の治療法」参照)。
(5) 鎖骨骨折で手術をした場合は通常,抜釘してリハビリを終えた後に症状固定となります。
   ただし,将来も骨癒合の可能性がない等の理由で抜釘しない方が良いと医師から判断された場合,その状態で症状固定として後遺障害申請をすることになります(福岡 後遺障害相談HP(弁護士法人たくみ法律事務所)「Q.鎖骨の骨折で後遺障害が認定されるケースは?」参照)。
(6)ア 鎖骨骨折の結果,裸体となったとき,変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度の変形が鎖骨に残った場合,後遺障害診断書右側の「⑨体幹骨の変形」欄にその旨を記載してもらえれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
イ 鎖骨骨折で手術を行った場合,骨がきれいに戻ることが多いため,後遺障害等級としては非該当又は14級となるのに対し,鎖骨骨折で手術を行わなかった場合,骨の変形を伴うことが多いため,12級の後遺障害が残る可能性が高くなります(交通事故戦略サポートHP「交通事故での鎖骨骨折の後遺症について」参照)。
(7) 鎖骨骨折の可動域制限につき,非該当から併合9級にアップすることがあるみたいです(後遺症のヨネツボHP「左鎖骨骨折後の痛みと可動域制限について非該当から併合9級に認定」参照)。
(8) 鎖骨変形障害のみで肩の可動域制限も痛みも残らなかった場合において,容姿が重視されるとはいえない職業に付いている場合,後遺障害逸失利益が認められにくいです(東京交通事故相談サポートHP(青山通り法律事務所)「鎖骨骨折による後遺障害(後遺症)」参照)。

4 肩甲骨骨折
(1) 肩甲骨(けんこうこつ)は背中側の両肩に位置し,後方から肋骨を覆っている三角形状をした大型の骨です。
   肩甲骨は鎖骨と靭帯で連結して肩鎖(けんさ)関節を形成しており,他の関節と連動して肩や上腕を自由に動かすために機能しています。
(2)ア 肩甲骨は僧帽筋(そうぼうきん)等の背中の筋肉で覆われているため,肩甲骨が骨折するケースは多くありません。
イ 交通事故で背中側を強く打つなどした場合,肩甲骨骨折が発生することがあります(大阪交通事故相談ネット「肩甲骨が変形した場合(肩甲骨の後遺障害)」参照)。
(3) 肩甲骨骨折が発生した場合,後遺障害として肩関節の可動域制限が発生することがあります。
(4) 肩甲骨骨折の結果,裸体となったとき,変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度の変形が肩甲骨に残った場合,後遺障害診断書右側の「⑨体幹骨の変形」欄にその旨を記載してもらえれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。

5 上腕骨近位部骨折
(1) 上腕骨は,肩関節から肘関節をつなぐ骨であり,上腕骨近位端とは,肩関節近くの部分のことです。
(2) 上腕骨近位端骨折は,若い人ではスポーツや交通事故などの強い外力によって生じ,小児では骨端線(成長線)を含んで損傷する場合もあります。
   高齢者では転倒などの軽い外力で生じることが多く,大腿骨近位部骨折(股関節),橈骨遠位端骨折(手関節),脊椎圧迫骨折と並んで高齢者に多い骨折の一つです(日本骨折治療学会HP「上腕骨近位端骨折」参照)。
(3) 上腕骨近位部骨折は,上腕骨頭,大結節,小結節,骨幹部の4部位に分けて,さらに,骨折部の転位(ズレ)の有無や程度,骨片の数により分類され,重症度が判断されます(東京交通事故相談サポートHP(青山通り法律事務所)「上腕骨近位端骨折による後遺障害(後遺症)」参照)。
(4) 上腕骨近位部骨折が発生した場合,合併症として腋窩(えきか)神経障害が発生することがあります。
(5) 上腕骨近位部骨折の後遺障害として,肩関節の可動域制限が残ることがあります。

6 肩腱板の断裂・損傷
(1) 肩腱板とは,肩甲骨と上腕骨をつないでいる以下の4本の腱をいいます(交通事故に強い弁護士の相談サイト「肩腱板損傷の後遺障害」参照)。
① 棘上筋腱(きょくじょうきんけん)
② 棘下筋腱(きょくかきんけん)
③ 小円筋(しょうえんきん)
④ 肩甲下筋腱(けんこうかきんけん)
(2) 肩腱板の断裂・損傷は50歳以降に好発します。
   転倒して手や肘をついたり,重いものを持ち上げようとしたり,肩を捻ったりなど,外傷を契機として発症する場合が多いようです(船橋整形外科病院HPの「肩関節の疾患と手術」参照)。
(3) 福岡 後遺障害相談HP「Q 肩の骨折がないのに後遺障害が認定されるケースは?」には「腱板の損傷は,レントゲンにはうつりません。エコーやMRIでの検査によって確認します。したがって,事故直後にレントゲンの検査しか受けていないという場合には,腱板損傷による肩の可動域制限を見落としてしまうことがあるので注意が必要です。」と書いてあります。
(4) 最高裁平成30年9月27日判決の事案では,左肩腱板断裂に基づく左肩の可動域制限について後遺障害等級12級が認定されたみたいです(後遺障害の自賠責保険金が224万円であることに基づく推測です。)。

7 肩関節の脱臼
(1) 肩関節は大きな上腕骨頭を小さな関節窩(かんせつか)が支えている構造をしていますから,脱臼しやすいです(羊ヶ丘病院HP「肩の脱臼」参照)。
(2) 肩鎖(けんさ)関節は,鎖骨と肩甲骨との間の関節のことです。
   肩鎖関節脱臼は,肩鎖靭帯・烏口鎖骨靭帯の損傷の程度や鎖骨のずれの程度等に応じて,①捻挫,②亜脱臼,③脱臼,④後方脱臼,⑤高度脱臼,⑥下方脱臼の6つに分類されています。
   このうち,①②は保存療法(リハビリなどによる治療)が,④⑤⑥は手術療法が選択されることが多く,③は場合により手術療法が選択されることもあります(弁護士法人中村・橋本法律事務所HP「肩鎖関節脱臼と後遺障害等級について」参照)。
(3)ア 関節の2つの骨どうしがくみ合わさる部位で,骨の形が出っぱっている側とくぼんでいる側とがあるとき,くぼんでいる側の骨の部分のことを関節窩(かんせつか)といいます。
イ 上腕骨頭は球の約 1/3 くらいの形をなすが,肩甲骨の関節窩は狭く,浅く,上腕骨頭の 1/3〜2/5を容れるのみです。
   そのため,関節窩の周縁を全周性に関節唇(かんせつしん)で補うことによって関節窩全体の深さと大きさを拡大させてはいるが,それでもなお関節窩の大きさは,上腕骨頭よりはるかに小さく,不安定です(中外医学社HP「肩関節」参照)。
ウ 関節唇(かんせつしん)は,関節窩のふちを取り巻くようについている繊維性の軟骨でありますところ,肩関節の脱臼が原因で肩関節唇(かたかんせつしん)断裂が発生することがあります(関節ライフHP「関節唇(かんせつしん)」参照)。

8 拘縮肩
   肩関節の疼痛(とうつう)を我慢していたり,痛みがあるのに肩を使い続けたりした場合,肩の可動域制限が発生してしまうところがあるところ,これを拘縮肩といいます(京都下鴨病院HPの「拘縮肩」参照)。

9 日本肩関節学会
   肩関節に関する学術団体として,日本肩関節学会があります。

第3の2 肘関節と後遺障害等級の目安,上腕骨遠位部骨折,肘頭骨折及び肘関節の脱臼

1 肘関節の構造
(1) 肘関節は,上腕骨(じょうわんこつ)と,橈骨(とうこつ:親指側の骨)と尺骨(しゃっこつ:小指側の骨)と呼ばれる前腕の2本の骨から構成されています。
   これら3つの骨が関節を作り,曲げ伸ばし(屈曲・伸展:くっきょく・しんてん)や前腕回旋運動(回内・回外:かいない・かいがい)ができるようになっています。
   また,肘関節は肩関節と手関節の中間にあって,これらの関節と連動して複雑な動作ができるようになっています(関節が痛いHP「肘関節」参照)。
(2) 肘関節は腕尺(わんしゃく)関節,腕橈(わんとう)関節及び近位橈尺(きんいとうしゃく)関節の3つの関節からなる複関節です。
   腕尺関節及び腕橈関節は屈曲と伸展が主要な運動であり,近位橈尺関節は前腕回旋運動が主要な運動です(「スポーツ・カイロプラクティック 肘関節の安定化機構」参照)。
(3)ア 肘関節には内側側副靭帯,外側側副靭帯,橈骨輪状靭帯及び方形靭帯があります(医療.AUGKING-LAB.INFO「肘関節の話」参照)。
イ 肘関節の靭帯機能が破綻した場合,肘関節拘縮,不安定性の原因となります(「肘関節のバイオメカニクス」参照)。
(4) 肘関節内骨折が原因となって,変形性肘関節症が発症することがあります。
   また,変形性肘関節症が進むと肘内側を走行する尺骨神経が圧迫されて麻痺することがあり、環指の半分と小指の感覚が鈍くなり、手指の動きが不器用になるという肘部管(ちゅうぶかん)症候群を発症することがあります(日本整形外科学会HPの「変形性肘関節症」参照)。
(5) 関節破壊が進行して痛みを伴う場合,又は動きの悪さにより生活に支障をきたしている場合,損傷した肘関節を部分的に削り人工肘関節と交換します(膠原病リウマチ痛風センターHP「人工肘関節置換手術」参照)。

2 肘関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安
   肘関節の屈曲が制限された場合,食事をしたり,洗髪をしたり,洗顔をしたりするのが難しくなってきます。
   そして,肘関節の屈曲が110度以下になった場合,ケガをしていない肘関節の屈曲及び伸展の合計値が正常値である150度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
   肘関節の屈曲が更に制限された場合,肩関節の外転,前腕の回内運動及び手関節の屈曲を組み合わせない限り,食事をしたり,洗髪をしたり,洗顔をしたりするのが難しくなってきます。
   そして,肘関節の屈曲が75度以下になった場合,ケガをしていない肘関節の屈曲及び伸展の合計値が正常値である150度であるのであれば,後遺障害等級10級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   肘関節の屈曲が更に制限された場合,患側の上肢で食事をしたり,洗髪をしたり,洗顔をしたりするのが難しくなってきます。
   そして,肘関節の可動域が15度以下になった場合,ケガをしていない肘関節の屈曲及び伸展の合計値が正常値である150度であるのであれば,後遺障害等級10級が認定されることとなります。

3 上腕骨遠位部骨折
(1) 上腕骨遠位部骨折は上腕骨の肘に近い部分の骨折であり,交通事故,労働災害,高所からの落下等により,直接打撲したり,手を付いてひねったりしたときに発生します。
(2) 上腕骨遠位部骨折は,骨折の部位によって3タイプに分類されます(日本骨折治療学会HP「成人の上腕骨遠位部骨折」参照)。
① 関節包の外側に骨折線があり,関節の中は無傷なもの(上腕骨顆上骨折)
② 関節面に骨折が及び,種々の程度の粉砕があるもの(上腕骨顆間骨折)
③ 関節内で,より遠位部(関節軟骨部)の横骨折(上腕骨通顆骨折)
(3) J-STAGE HPの「上腕骨遠位部骨折の治療成績」には,肘関節の可動域制限は38骨折中6骨折に認められたと書いてあります。

4 肘頭(ちゅうとう)骨折
(1) 肘頭は,肘の関節の後方に存在し,一般に「肘鉄」と言われる肘の頂点の部分です。
(2) 一般に肘頭骨折は,転んで肘をぶつけた,転んだ時に手をついたなどの原因で骨折すると言われています。
   肘頭が骨折すると,そこに付着している上腕の後ろに存在する上腕三頭筋という太い筋腱によって引っ張られ,肘頭は破断し,その折れた骨のカケラが引き裂かれた状態になります(日本骨折治療学会HP「肘頭骨折」参照)。
(3) 肘頭骨折は,骨折部の転位(ズレ)がないものや転位の少ないものは,ギブス固定による保存療法で治療します。
   転位が大きい場合,手術により、鋼線やプレート・スクリューで固定します(東京交通事故相談サポートHP「肘頭骨折による後遺障害(後遺症)」参照)。

5 肘関節の脱臼

   ほとんどの肘関節脱臼は後方脱臼であり,通常は伸ばした腕から落ちる転倒によって発生します。
   合併損傷としては,骨折,尺骨神経又は正中神経の損傷,及びおそらく上腕動脈の損傷などがあります(MSDマニュアルHP「肘関節脱臼」参照)。

6 日本肘関節学会
   肘関節に関する学術団体として,日本肘関節学会があります。

第3の3 手関節と後遺障害等級の目安,舟状骨骨折,撓骨遠位端骨折及びTFCC損傷

1 手関節の構造
(1) 手関節は,2本の前腕骨(橈骨及び尺骨)及び8個の手根骨で構成されています。
(2) 手関節は橈骨手根関節(RCJ),手根中央関節(MCJ)及び遠位橈尺関節(DRUJ)の複合運動により,掌屈・背屈,撓屈・尺屈,回内・回外運動が可能な関節です(「手関節のバイオメカニクス」参照)。
(3) 狭義の手関節は橈骨手根関節のことを指し,橈骨下端及び近位手根骨(舟状骨,月状骨及び三角骨)にて構成されています(リハ虎HP「手関節の構造と関節可動域の測定方法」参照)。
(4) 手の骨は,根元から指先にかけて,手根骨(しゅこんこつ),中手骨(ちゅうしゅこつ)及び指骨(しこつ)の3つに区分されます(ウィルワン整体アカデミーHP「【初歩から学ぶからだのしくみ】手の関節を格好良く呼ぼう」参照)。
(5) 医学用語では,親指を母指(ぼし)といい,人差し指を示指(じし)といい,薬指を環指(かんし)といいます。

2 手関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安
   手関節の背屈が制限されると,腕立て伏せをするのが難しくなりますし,手関節の掌屈が制限されると,食事をしたり,歯を磨いたり,洗髪をしたりするのが難しくなります。
   そして,背屈及び掌屈の合計値が120度以下になった場合,ケガをしていない手関節の掌屈及び背屈の合計値が正常値である160度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
   手関節の掌屈が更に制限されると,患側の上肢で食事をしたり,歯を磨いたり,洗髪をしたりするのが難しくなります。
   そして,背屈及び掌屈の合計値が80度以下になった場合,ケガをしていない手関節の掌屈及び背屈の合計値が正常値である160度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   手関節の掌屈及び背屈の合計値が20度以下になった場合,ケガをしていない手関節の掌屈及び背屈の合計値が正常値である160度であるのであれば,後遺障害等級8級が認定されることとなります。

3 舟状骨骨折
(1) 舟状骨(しゅうじょうこつ)は手関節にある8つの手根骨の1つで母指(親指)側にあり,手根骨の中でも重要なものの1つです。船底のような彎曲をしているので船のような恰好の骨ということで舟状骨といいます。
   舟状骨は,母指の列にあるため他の指の列とは45度傾いて存在します。そのため舟状骨の骨折は,通常のX線写真の撮り方では骨折が見えにくく,見逃されてしまうこともあります。
   舟状骨骨折は,スポーツや交通事故などで手首を背屈して手をついたときによく起こります(日本整形外科学会HP「舟状骨骨折」参照)。
(2) 舟状骨骨折は,手首を強く背屈させることから生じます。舟状骨は,ちょうど親指の付け根に存在する骨であるため,受傷直後には同部位が痛み,腫れます。しかし,骨のずれが少ない場合には痛みはさほど強くなく,捻挫として認識されることもあります。
   受傷後しばらくすると症状は軽快し,一見すると治癒傾向にあるようにも感じられます。しかし,舟状骨が放置され適切に骨が元の形に戻らないような状況においては,骨が分断されたままになってしまいます。骨の分断が残ると,本来は関節ではないにもかかわらず,関節のように動くこととなってしまい,偽関節を形成します。偽関節では骨の変形が進行し,痛みや手の機能障害を引き起こします(Medical Note HP「舟状骨骨折」参照)。
(3)   舟状骨骨折は骨がつきにくい骨折の代表格の一つであり,とくに近位部での骨折は,近位骨片が壊死(血行障害により骨が死ぬこと)に陥りやすいために,骨癒合まで3ヵ月近くを要することもありますし,ギプス固定を長期間行っても骨癒合が得られない場合も少なからず見られます(日本骨折治療学会HP「舟状骨骨折 -20歳代の人が手をついたら舟状骨骨折を疑え-」参照)。
(4) 舟状骨骨折を発症した場合,痛みを生じますが,骨のずれが大きくないため,それほど強い痛みにならない場合もあります。
   また,受傷間もなくではレントゲン写真での変化が乏しいこともあり,実際には骨折していてもわからないことがあります(Medical Note HP「舟状骨骨折」参照)。
(5) 舟状骨骨折のうち,転位のある骨折であったり,骨折部の離開が1mm以上であったり,舟状骨周囲脱臼を伴っているような場合,手術が選択されるみたいです(大分の弁護士による交通事故の無料相談HP「舟状骨骨折の解説と後遺障害等級」参照)。

4 撓骨遠位端骨折
(1) 撓骨遠位端骨折は,手のひらをついて転んだり,自転車やバイクに乗っていて転んだりしたときに,前腕の2本の骨のうちの橈骨(とうこつ)が手首のところ(遠位端)で折れる骨折です。
   手首側の骨片が手の甲の方向にずれているものは,古くからコレス骨折,手のひら側にずれているものはスミス骨折と言われています(日本整形外科学会HPの「コレス骨折・スミス骨折」参照)。 
(2) 橈骨遠位端骨折は,年齢により,子供の骨折,青壮年の骨折及び高齢者の骨折に分けることができます(日本骨折治療学会HP「橈骨遠位端骨折」参照)。
(3) 撓骨遠位端骨折のうち,骨折の程度が重かったり、関節の周囲の骨折の場合,折れた骨のズレを戻し(整復),金属(鋼線・ネジ)を皮膚の上から刺入して骨折部を固定します。
   また,徒手での整復が困難な場合,皮膚を切開して,骨折部を直視下に整復し,内固定(プレート,髄内釘,創外固定)を行います(大分の弁護士による交通事故の無料相談HP「撓骨遠位端骨折の解説と後遺障害等級」参照)。
(4) MindsガイドラインライブラリHP「橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017」が載っています。

5 TFCC損傷
(1)ア TFCC(三角線維軟骨複合体)とは,二つの前腕骨(橈骨と尺骨)で作る遠位橈尺関節(DRUJ)を安定化させている支持組織です。
   遠位橈尺関節は手関節に隣接して存在し,肘関節に隣接する近位橈尺関節と共に前腕の回内外運動を行います(東日本橋整形外科HPの「TFCC(三角繊維軟骨複合体)損傷」参照)。
イ 交通事故弁護士相談Cafe「TFCC損傷は怖い!交通事故で手首の痛み(小指側)の後遺症」には,「TFCCとは日本語で言うと三角線維軟骨複合体のことで、具体的には手をパーにした状態で、小指からまっすぐ下に下がって「手首との付け根部分にあたる場所」で、いわゆる手根骨との接続部分にあるもので、骨ではなく関節円板や靭帯、半月板に類似した軟部組織です。」と書いてあります。
ウ 画像診断まとめHP「TFCC損傷とは?MRI画像診断のポイントは?」によれば,TFCCの構成体は以下のとおりです。
・ 関節円板
・ メニスカス類似体(MH)
・ 三角靱帯
・ 尺骨三角骨靱帯
・ 尺骨月状骨靱帯
・ 掌側及び背側橈尺靱帯
・ 尺側側副靱帯
エ もりかわ鍼灸治療院HP「TFCC損傷について-院長のブログ」では図を用いて説明されていますところ,TFCCは,三角線維軟骨(関節円板,TFC),背側・掌側遠位橈尺靭帯,尺側側副靭帯を一括した総称で,手関節の尺側(小指側)の安定性を高めているとのことです。
(2)ア 行岡病院HP「手の外科」には以下の記載があります。
① TFCCは,手首の小指側にある靭帯性軟骨で,その組織が損傷することで慢性,難治性の手首の痛みが生じます。
②   手首を小指側に曲げた時,タオルを絞るとき,ドアノブを回すとき,フライパンややかんなど重いものを持つとき,手をつくときなどに痛みがある方はTFCC損傷が疑われます。
③ TFCC損傷は,近年解明されたばかりで,診断・治療には高度な知識と技術が必要なため,一般の整形外科では,普通の捻挫だといわれ見逃されてしまいがちです。
   ところが湿布や痛み止めを処方されても,3〜4カ月たっても治りません。中にはおかしいと思いながら,適正な治療がなされず1年以上も痛みを我慢したという患者さんもいます。
④ TFCC損傷は,交通事故や自転車で手首をひねったり,転倒して手をついたりすることが原因となります。
   スポーツ障害の一つともなっています。
イ 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト「手関節の尺側側の痛みを呈する疾患」には「特にタオル絞り、ドアノブの開け閉めなどの手関節のひねり操作の際に疼痛を訴えることが多く、重度の回内外可動域制限を生じることはまれです。」と書いてあります。
(3)ア 堀江・大崎・綱森法律事務所HP「TFCC損傷について。TFCC損傷に関する後遺障害認定事例のご紹介」には以下の記載があります。
   TFCCは軟骨組織で構成されているため、TFCC損傷の有無は通常のレントゲン検査では明らかにならず、MRI検査もしくは関節造影検査などが必要とされています。
   そうすると、TFCC損傷については初期のレントゲン検査では異常なしとされたものの、その後手首痛が治らなかったためにMRI検査を受けて初めて診断されるという経過を辿ることが一般的です。
   交通事故から一定期間経過しないと診断を得られないというのが通常なのです。
イ 関節造影検査は,関節内に注射針を刺して造影剤や空気を入れ,レントゲン撮影やCT撮影を行う検査です(慶應大学病院医療・健康情報サイト「関節造影検査(アルトログラフィー)」参照)。
(4) 南川整形外科HP「TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)」の「診断」には以下の記載があります。
   レントゲン撮影により、尺骨突き上げ症候群(尺骨が橈骨よりも長いこと)の有無、尺骨茎状突起の剥離骨折などを確認する。また、類似した症状を示す遠位橈尺関節(DRUJ)の病変も鑑別する。熟練した手外科専門医であればFovea sign(図1)、手関節の尺側ストレステスト(図2)などでTFCCの損傷が疑われるが、手術適応の決定には、補助診断としてMRIや関節造影検査(X線透視検査)を行い、靱帯断裂を起こしているかどうかを判断する場合もある。
(5) 画像診断まとめHP「TFCC損傷とは?MRI画像診断のポイントは?」には「TFCC損傷の原因には、外傷性のものと変性によるものがあり、後者の頻度高い。高齢者では無症状でも画像上しばしば認められるため、臨床所見と合わせて考える。」と書いてあります。

6 尺骨突き上げ症候群
(1)   尺骨突き上げ症候群は,尺骨の橈骨に対する相対長が長いために手関節尺側部痛が生じる疾患群です。
(2) 尺骨突き上げ症候群の症状は手関節尺側部痛,回内外可動域制限,付随するTFCC,特に三角靱帯損傷によって生じる遠位橈尺関節の不安定性です。
   TFCC損傷と明確に区別することは難しいとされます。
   回内外可動域(きらきら星運動)制限を生じることは少ないのですが,突き上げ量が大きくなると尺骨頭が行き場を失い,背側に亜脱臼し,回外時に尺骨頭が掌側へ移動できなくなり,著明な回外可動域制限を呈することがあります。橈骨短縮変形治癒に伴う二次性尺骨突き上げ症候群によく合併します。
(3) 尺骨突き上げ症候群の治療は付随する尺骨の解消を目的とした尺骨短縮術が第一選択となります。
(4) 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト「手関節の尺側側の痛みを呈する疾患」を参照しています。
(5)ア 画像診断まとめHP「TFCC損傷の原因となる尺骨突き上げ症候群とは?」が載っています。
イ 古東整形外科HP「転倒し、手をついてから手首が痛い!(遠位橈尺関節脱臼)」に,遠位橈尺関節脱臼のXP等が載っています。

7 日本手外科学会
   手関節及び手指に関する学術団体として,日本手外科学会(JSSH)があります。

第4の1 股関節と後遺障害等級の目安,大腿骨骨折,骨盤骨折及び股関節の脱臼

1 股関節の構造
(1) 股関節は,大腿骨の先端にあるボールの形をした大腿骨骨頭と,骨盤側で骨頭の受け皿になる深いお椀の形をした臼蓋(きゅうがい)との組み合わせでできた,いわゆる球(きゅう)関節です。
   正常な股関節では,寛骨臼が骨頭の約4/5を包み込むことで関節を安定させています。
   股関節には,普通に歩くだけでも体重の3~4倍の力がかかるといわれています。
   この力を支えられるよう,股関節は筋肉や腱などで全体を覆われており,安定性を保ったままいろいろな方向に動かすことができます(人工関節ドットコムHP「股関節の痛み」参照)。
(2) 股関節は,膝関節に比べると安定のよい関節(ボールとソケット)ですが,四つ這いで歩いていた人類の祖先が直立二足歩行をするように進化したため骨盤が立ってしまい,結果的に股関節の前方の覆いが少なくなってしまいました(福岡みらい病院HP「股関節の構造について」参照)。
(3) 股関節の靭帯としては,腸骨大腿靭帯,恥骨大腿靭帯,坐骨大腿靭帯,寛骨臼横靭帯(かんこつきゅうおうじんたい),輪帯及び大腿骨頭靭帯があります(股関節の痛みの原因を治療するブログ「股関節の靭帯の解剖を図で理学療法士がわかりやすく解説」参照)。

2 股関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安
ア   股関節の屈曲が95度以上の場合,困難を伴うにせよ,すべての下肢で靴下着脱と足の爪切りが可能ですから,これらのいずれかができなくなった場合,股関節の屈曲が95度未満ということになります。
   そのため,この場合においてケガをした股関節の可動域が105度(例えば,屈曲が95度,伸展が10度)以下であると計測され,ケガをしていない股関節の可動域が正常値である140度(屈曲及び伸展の合計)であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
イ 股関節を曲げてしっかりと座面の奥まで座るためには,股関節の屈曲が90度以上必要ですから,座面の奥まで座れない場合,股関節の屈曲90度未満ということになります。
   そのため,この場合においてケガをした股関節の可動域が105度(例えば,屈曲が90度,伸展が15度)以下であると計測され,ケガをしていない股関節の可動域が正常値である140度(屈曲及び伸展の合計)であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
ウ 和式トイレを利用する際にしゃがみ込む場合,股関節の可動域は110度ぐらい必要になりますから,和式トイレを利用できない程度では後遺障害等級を認定されることはありません。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
   股関節の屈曲が65度以下となった場合,すべての下肢で靴下着脱と足の爪切りが非常に困難又は不可能になります。
   そのため,この場合においてケガをした股関節の可動域が70度(例えば,屈曲が65度,伸展が5度)以下であると計測され,ケガをしていない股関節の可動域が正常値である140度(屈曲及び伸展の合計)であるのであれば,後遺障害等級10級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   股関節の屈曲及び伸展の合計が15度以下になった場合,
後遺障害等級8級が認定されることとなります。
(4) 参考文献
   「終了後の関節可動域訓練」5頁,「靴下着脱及び足の爪切り遂行能力と股関節可動域の関連-保存的治療中の変形性股関節症患者における検討-」5頁及び6頁,並びに「足関節背屈可動域としゃがみ込み動作の関係」2頁を参照しました。

3 大腿骨骨折
(1) 大腿骨は,脚の付け根(股関節)から膝までの部分の骨のことです。
(2)ア 大腿骨骨折には,①大腿骨頸部骨折(股関節内の大腿骨の骨折),②大腿骨転子部骨折(股関節より少し下の部分の大腿骨の骨折)及び③大腿骨骨幹部骨折(大腿骨の中央部分(太もも部分)の骨折)があります。
イ 大腿骨頸部骨折及び大腿骨転子部骨折をあわせて,大腿骨近位部骨折といいますところ,大腿骨近位部骨折の場合,術前の牽引(けんいん)をルーチンに行うことは推奨されないみたいです(MindsガイドラインライブラリHP「第7章 大腿骨転子部骨折の治療 7.1.入院から手術までの管理と治療」参照)。
(3)ア 大腿骨頸部骨折の場合,後遺障害として,股関節の可動域制限が残ったり,脚の短縮(骨が短縮してくっつき,脚が短くなること)が発生したり,痛みが残ったりします。
   大腿骨転子部骨折又は大腿骨骨幹部骨折の場合,後遺障害として,骨の変形,偽関節,脚の短縮又は痛みが残ることがあります。
イ 高齢者が転倒して立ち上がれなくなった場合,大腿骨頚部骨折が考えられます(MindsガイドラインライブラリHPダスキンヘルスレントHP「大腿骨頸部骨折の症状・おすすめ福祉用具のご紹介」参照)。
ウ Garden分類によれば,大腿骨頸部骨折には以下の4つのレベルがあります(整形外科の歩き方HP「大腿骨近位部骨折」参照)。
ステージ1:不完全骨折。頸部内側の骨性連続が残存し,外反型(外転型骨折)を呈しています。 
ステージ2:完全骨折。軟部組織の連続性は残存し,骨折部は嵌合(かんごう。はまっていること。)しています。 
ステージ3:完全骨折。回転転位があります。頸部被膜(Weitbrecht支帯)の連続性は残存しています。 
ステージ4:完全骨折。すべての軟部組織の連続性が断たれています。 
(4) 病気やケガのために骨に血液が十分に流れなくなると骨の細胞が死んで骨が衰えていくという骨壊死(こつえし)が発生しますところ,股関節の大腿骨頭壊死は,股関節骨折や股関節脱臼の結果,大腿骨の上端部への血流が遮断されることで発生することがあります(人工関節ドットコム「骨頭壊死」参照)。
(5) MindsガイドラインライブラリHP「大腿骨頸部/転子部骨折診療ガイドライン(改訂第2版)」が載っています。

4 骨盤の構造
(1) 骨盤は,大腿骨と脊柱の間で体を支える骨であり,左右一対の寛骨,仙骨及び尾骨で構成されます。
   ただし,尾骨はごくわずかです。
(2) 寛骨は,腸骨,坐骨及び恥骨が17歳頃に一体化して形成されます。
(3) 仙骨は,5個の仙椎が癒合して形成されます。
(4) 尾骨は,3個ないし6個の尾椎が部分的又は全面的に癒合して形成されます。
(5) 仙骨及び尾骨は脊椎(背骨)の一部です。
(6) 仙骨と腸骨は仙腸関節で結合し,左右の恥骨は恥骨結合により結合していますものの,それ以外の部分は靭帯で結合しています。
(7) 骨盤自体に可動性はありません。

5 骨盤骨折
(1)ア 骨盤骨折には,①骨盤の環状構造(骨盤輪)が破綻する骨盤輪骨折,②寛骨の中で関節を構成する部分である寛骨臼が骨折する寛骨臼骨折,及び③主に成長期のスポーツ外傷によって生じる筋肉の付着部が裂離する裂離骨折があります(日本骨折治療学会HP「骨盤骨折」参照)。
イ 骨盤輪の破綻を伴う骨折を不安定骨折といい,骨盤輪の破綻を伴わない骨折(例えば,腸骨の骨折)を安定骨折といいます。
   不安定骨折の場合,手術が必要となることがあるのに対し,安定骨折の場合,通常は保存療法によることとなります(弁護士法人一新総合法律事務所HP「交通事故による「骨盤」の損傷と後遺障害」参照)。
(2)ア 股関節の可動域制限の原因となる外傷としては,①外傷性股関節脱臼,②(骨盤の)寛骨臼骨折及び③大腿骨頸部骨折があります(むさしの森法律相談所 交通事故法律相談HP「Q.股関節の機能障害(可動域制限)についての後遺障害(後遺症)認定はどうなりますか。」参照)。
イ 私の経験では,骨盤輪骨折に基づく股関節の可動域制限についても,12級の後遺障害等級を認定してもらったことがあります。
(3)ア 骨盤骨折の結果,裸体となったとき,変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度の変形が骨盤に残った場合,後遺障害診断書右側の「⑨体幹骨の変形」欄にその旨を記載してもらえれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
イ 尾骨の変形は後遺障害等級の認定対象ではありません。
ウ 骨盤の変形障害の場合,後遺障害逸失利益の程度を争われることが多いです(大阪交通事故相談ネット「骨盤骨を骨折後に変形した場合(骨盤骨変形の後遺障害)」参照)。

6 股関節の脱臼
(1)   MSDマニュアル「股関節の脱臼」には以下の記載があります。
① 股関節の脱臼は,太ももの骨(大腿骨)の球状の頭部が寛骨(骨盤の骨)の丸いくぼみから外れることで起こります。
② 股関節の脱臼は通常,曲げた膝に大きな力が加わり,大腿骨の頭部が後方に押されたときに起こります。
③ 股関節が非常に痛み,通常は脚を動かすことができません。
④ 通常は医師が手術なしで股関節を元に戻すことができ,その際は事前に患者が処置に耐えられるよう薬を投与します。
(2) 股関節後方脱臼は,膝がダッシュボードに打ち付けられることによって発生することが多いことから,ダッシュボード・インジャリーともいわれます。
   この場合,多くのケースで寛骨臼も骨折します(後遺障害・等級認定サポートHP「股関節後方脱臼・骨折(こかんせつ こうほう だっきゅう・こっせつ)」参照)。
(3) 股関節脱臼には先天性のものがあります(片山整形外科記念病院HP「先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)」参照)。

7 日本股関節学会
   股関節に関する学術団体として,日本股関節学会があります。

第4の2 膝関節と後遺障害等級の目安,大腿骨遠位部骨折,膝靭帯損傷,膝半月板損傷及び脛骨高原骨折

1 膝関節の構造
(1) 膝関節は,「太もも」(大腿骨(だいたいこつ))と「すね」(脛骨(けいこつ))の継ぎ目にあたり,さらに「お皿」と言われている膝蓋骨(しつがいこつ)の3つの骨から成り立っています(愛媛大学医学部附属病院人工関節センターHP「膝関節部門概要」参照)。
(2)ア 膝関節を安定化させる靱帯として,①内側に内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい)(ACL)があり,②外側に外側側副靱帯(がいそくそくふくじんたい)(PCL)があり,③膝関節脛骨(けいこつ)の前方から大腿骨側に向かう前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい),④膝関節脛骨の後方から大腿骨側に向かう後十字靱帯(こうじゅうじじんたい)があります。
   膝靭帯損傷は,これらの靱帯が膝関節にかかる外力によって損傷し,症状を呈してくる疾患です(徳洲会グループHP「整形外科の病気:膝靱帯損傷」参照)。
イ 内側側副靱帯と外側側副靱帯は,上下の骨が左右にズレるのを防ぎ,前十字靱帯と後十字靱帯は上下の骨が前後にズレるのを防いでいます(大分の弁護士による交通事故の無料相談HP「後十字靱帯損傷の解説と後遺障害等級」参照)。
(3) 膝関節はいわゆる蝶番(ちょうつがい)関節で,大腿骨と脛骨の間で曲げ伸ばしが可能です。
   膝蓋骨は,太もも前面の筋肉と脛骨とをつなぐ腱の間にあり,膝を伸ばす際に筋肉の収縮をうまく脛骨に伝えるための滑車の役割を果たしています(人工関節ドットコムHP「膝関節の痛み」参照)。 

2 膝関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安

ア 膝を曲げてしゃがむことができなくなった場合,曲げにくくなった膝の可動域が100度以下になっています(愛媛大学医学部附属病院人工関節センターHP「膝関節部門概要」
参照)。
   また,膝を曲げて足を車椅子のフットサポート(足置き)に乗せるためには,膝関節の屈曲が90度ぐらい必要です(「終了後の関節可動域訓練」5頁)し,椅子から立ち上がるためにも膝関節の屈曲が90度ぐらい必要です(人工関節ドットコムHP「屈曲とは何ですか?」参照)。
   これらの場合において,ケガをした膝関節の可動域が95度以下であると計測され,ケガをしていない膝関節の可動域が参考値である130度であるのであれば,130度×3/4=97.5度以下となりますから,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
イ   関節の可動域の計測値は5度未満の端数を切り上げて記録されます。
   そのため,ケガをした膝の可動域が95度余りである場合,端数切り上げにより可動域が100度と記録される結果,後遺障害等級12級に該当しないこととなります。
ウ 正座をしたり,和式トイレを利用する際にしゃがみ込んだりするためには膝の関節可動域が140度から150度ぐらい必要になりますから,これらの動作ができない程度で後遺障害等級を認定されることはありません。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
ア 膝関節の可動域制限が進行した場合,階段の上り下りが難しくなります。
イ   歩行に支障を来すぐらい膝を曲げることができなくなった場合,曲げにくくなった膝の可動域が60度以下になっています
愛媛大学医学部附属病院人工関節センターHP「膝関節部門概要」参照)
   この場合において,ケガをした膝関節の可動域が65度以下であると計測され,ケガをしていない膝関節の可動域が参考値である130度であるのであれば,130度×1/2=65度以下となりますから,後遺障害等級10級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   膝関節の屈曲及び伸展の合計値が15度以下になった場合,
後遺障害等級8級が認定されることとなります。

3 大腿骨遠位部骨折
(1) 大腿骨遠位部は,大腿骨のうち太ももの膝に近い部分であり,若い人の場合,大腿骨遠位部骨折は交通事故や転落といった大きな力が太ももに加わることで発生します。
(2) 手術法は大きく分けて髄内釘で固定する方法とプレートで固定する方法の二つが行われることが多いといえます。
   髄内釘による手術とは、膝にあるお皿の下の皮膚を切りそこから金属でできた棒状のもの(髄内釘)を挿入して固定する方法です。
   プレート固定は太ももの外側の皮膚を切って骨折しているところを元の状態に戻したあと,
金属でできたプレートとスクリュー(ネジ) で固定するものです(日本骨折治療学会HP「大腿骨遠位部骨折」参照)。

4 膝靭帯損傷
(1) 膝内側側副靭帯(MCL)は,膝靱帯損傷のうちで最も頻度が高く,単に膝の捻挫として取り扱われることが多い障害です。
   初期に適切な固定をすれば(前十字靭帯断裂に比べ)修復しやすいのですが,陳旧化(急性期に処置をせず伸びた状態)した場合,半月板損傷等の合併症を誘発しますから,受傷時の適切な治療が重要とされています(ZAMST HP「膝内側側副靱帯(MCL)損傷」参照)。
(2) 後十字靭帯損傷は,運転席や助手席で膝を曲げた状態のまま,ダッシュボードに外力・衝撃などによって,膝を打ちつけ,脛骨が90°曲がったまま後方に押しやられて発症することが多いです(交通事故被害者徹底サポートHP「後十字靭帯(PCL)損傷」参照)。
(3) 一般に外反強制により内側側副靭帯が,内反強制により外側側副靭帯が損傷し,脛骨(けいこつ)上端の前内方に向かう外力で前十字靭帯が,後方への外力で後十字靭帯が損傷し,非常に強大な外力を受けると複数の靭帯に損傷が及ぶことがあります(日本整形外科学会HP「膝靭帯損傷」参照)。
(4) 膝複合靭帯損傷とは,4つの靱帯のうち2つ以上の靱帯が損傷を受けた状態をいい,単独(1本のみ)の靭帯損傷よりも関節不安定性は大きく,半月板や軟骨の損傷の合併率が高くなりますから,ほとんどが手術的治療を要します(聖路加国際病院HP「膝複合靭帯損傷の診断と治療」参照)。
(5) 膝靭帯損傷が発生した場合,神経症状(例えば,しびれ,痛み)だけでなく,可動域制限又は動揺関節が残ることが多いです(交通事故に強い弁護士の相談サイト「膝の靭帯損傷の後遺障害(外側側副靭帯、内側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯)」交通事故慰謝料弁護士相談HP「交通事故のとき,膝靭帯損傷で予測される後遺障害は?(動揺関節)」参照)。
(6) MindsガイドラインライブラリHP「前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2012」が載っています。

5 膝半月板損傷
(1)ア 順天堂大学医学部附属病院 順天堂医院整形外科・スポーツ診療科HP「膝半月板損傷」には以下の趣旨の記載があります。
① 膝半月板損傷は比較的多いスポーツ外傷の一つで,前十字靭帯損傷に合併することもよくあります。
   半月板には,軟骨にかかるストレスを減らす重要な役割があるため出来る限り温存する(残す)ことが重要です。
② 半月板は膝関節の中で大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)の間にあるC型をした軟骨様の板で,内側と外側にそれぞれ一つずつあります。
   半月板は,関節に加わる体重の負荷を分散させる役割と,関節の位置を安定にする働きをしています。
③ 膝の半月板損傷が発生する場合として,スポーツ等の怪我から生じる場合(外傷性),加齢により傷つきやすくなっている半月に微妙な外力が加わって損傷する場合(変性断裂)があります。
④ 痛みとともに膝の曲げ伸ばしの時にキャッチング(引っかかり感)が出現し,ひどい場合には急に膝が曲げも伸ばしもできなくなるロッキングという状態になり,歩けなくなる程痛くなることがあります。
⑤ レントゲン写真に半月板は写りませんが,MRIの診断率は80%~90%といわれています。 
イ 膝半月板損傷の手術法としては,切除術(損傷した部分を切り取る)と縫合術(損傷した部分を縫い合わせる)の2種類があり,通常は関節鏡を使った鏡視下手術を行います(日本整形外科学会HP「半月板損傷」参照)。
ウ 関節鏡を使った鏡視下手術は,関節鏡を使わない従来の手術と比較すると,生理食塩水を流しながら行うので感染症を起こしにくい,正常組織を傷つけにくい,痛みが少ないため患者さんへの負担も小さい,などの利点があります(船橋整形外科病院HP「関節鏡・関節鏡視下手術とは」参照)。
(2)ア 膝の半月板損傷が発生した場合,神経症状(例えば,しびれ,痛み)だけでなく,可動域制限が残ることがあります(誰でも分かる交通事故示談HP「交通事故で半月板損傷の被害者が後遺障害の等級認定を受ける方法」参照)。
イ 東京交通事故相談サポートHP(青山通り法律事務所)「半月板損傷による後遺障害(後遺症)」には,半月板損傷の場合,可動域制限が残ることは少ないと書いてあります。
(3) 半月縫合術の場合,損傷した半月に糸をかけて縫い合わせます。
   断裂形態により縫合の方法は変わりますが,通常は関節の中から関節の外にむけて半月板に糸をかけて縫合する方法を行っています。
   その場合,膝の横に約3~4cmの皮膚切開を行う必要があります(八尾市立病院HP「スポーツ障害・関節障害」参照)。
(4)ア 変形性膝関節症は,関節軟骨の老化を原因として発症することが多いものの,膝の半月板損傷の後遺症として発症することがあります(日本整形外科学会HP「変形性膝関節症」参照)。
イ MindsガイドラインライブラリHP「変形性股関節症診療ガイドライン2016」が載っています。
(5) 福岡 後遺障害相談HP「半月板断裂と後遺障害④」には「MRI上、半月板断裂を示す線状信号が大きければ12級13号の認定に傾くが、なんとか損傷を判別できる程度では良くて14級9号どまりの可能性が高い。」と書いてあります。

6 脛骨高原骨折(脛骨プラトー骨折)
(1)ア 脛骨(けいこつ)高原骨折(=脛骨プラトー骨折,脛骨顆部骨折)とは、脛骨のうち膝関節付近を骨折したものをいい,半月板損傷又は靭帯損傷と同時に受傷することがあります。
イ なぜこの部位が「プラトー」と呼ばれて特別扱いされているかといえば,膝関節の一部であり体重を受ける部分ですので,うまく治療できないと体重を支えることや,膝をスムースに動かすことが難しくなるからです(日本骨折治療学会HP「脛骨プラトー骨折」参照)。
(2) 脛骨高原骨折が発生した場合,神経症状(例えば,しびれ,痛み)だけでなく,可動域制限が残ることが多いです(東京交通事故相談サポートHP(青山通り法律事務所)「脛骨高原(プラトー)骨折による後遺障害(後遺症)」参照)。
(3) 脛骨高原骨折のうち,靱帯損傷を伴わない転位のない骨折の場合,保存療法を選択するものの,骨折の転位が大きい場合,将来,変形性股関節症が生じるため,手術が必要です(大分の弁護士による交通事故の無料相談HP「プラトー骨折の解説と後遺障害等級」参照)。
(4) 脛骨骨折と腓骨骨折が併発した場合,偽関節が残ることがあります(愛知県交通事故トラブル相談センターHP「腓骨骨折」参照)。

7 膝蓋骨脱臼
(1)   ジャンプの着地などで,膝を伸ばす太ももの筋肉(大腿四頭筋)が強く収縮したとき,膝蓋骨脱臼が発生することがあります(日本整形外科学会HP「膝蓋骨脱臼」参照)。
(2) 脱臼は自然に整復されることもありますが、整復されないときは病院での整復が必要です(順天堂大学医学部附属病院HP「膝蓋骨脱臼」参照)。

8 日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会
   膝関節に関する学術団体として,日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)があります。

9 その他
   膝関節外側の痛みの原因としては以下のものがあります(リハ虎HP「膝関節外側の痛みの原因とリハビリ治療」参照)。
① 腸脛靭帯摩擦症候群
② 外側半月板損傷
③ 膝蓋骨の外側偏位
④ 膝外側側副靭帯の損傷
⑤ 大腿二頭筋下滑液包炎

第4の3 足関節と後遺障害等級の目安,足関節捻挫,足関節果部骨折,踵骨骨折及びアキレス腱断裂

1 足関節の構造
(1) 総論
ア 足関節は距腿関節(きょたいかんせつ)及び距骨下関節(きょこつかかんせつ)からなる複関節です。
イ 距腿関節の上下の動作及び距骨下関節の左右の動作により,足関節をグルグルと動かすことができます。
(2) 距腿関節
ア 距腿関節は,下腿の骨である腓骨(ひこつ)と脛骨(けいこつ)及び足の骨の距骨(きょこつ)の3つの骨で構成されています。
イ 距腿関節は,足関節の背屈及び底屈の動作(足首の上下の動作)が主な運動です。
ウ 距腿関節の内側を支える靱帯は,脛骨付着部より踵骨(しょうこつ)に向かって扇状に広がり三角形状に見えるため,三角靱帯と呼ばれます。
   距腿関節の外側を支える主な靱帯は,前方から前距腓(ぜんきょひ)靱帯,踵腓(しょうひ)靱帯及び後距腓(こうきょひ)靱帯の3つで構成されています。
(3) 距骨下関節
ア 距骨下関節は,距腿関節の直下の距骨と踵骨(しょうこつ。踵(かかと)の骨です。)の間にがあります。
イ 距骨下関節は,足関節の回内(内返し)及び回外(外返し)(足首の左右の動作)が主な運動です。
   ただし,足関節の回内・回外運動は,足関節の参考運動にすらなっていませんから,足関節の後遺障害等級とは関係がありません。
ウ 距骨下関節の内側には,底側踵舟靱帯(ていそくしょうしゅうじんたい)及び内側距踵靱帯(ないそくきょしょうじんたい)があります。
   距骨下関節の外側には,外側距踵靱帯(がいそくきょしょうじんたい)及び骨間距踵靱帯(こっかんきょしょうじんたい)があります。
(4) 足根骨
   足根骨(そっこんこつ)は,①近位列(付け根に近い場所)の2つの骨(距骨及び踵骨),並びに②遠位列(足先に近い場所)の5つの骨(舟状骨(しゅうじょうこつ),立方骨(りっぽうこつ),第1楔状骨(けつじょうこつ),第2楔状骨及び第3楔状骨)から成り立っています。
(5) 内果及び外果
   内果(ないか,うちくるぶし)は脛骨下端の内側部であり,外果(がいか,そとくるぶし)は脛骨下端の外側部です。

2 足関節の可動域制限と後遺障害等級の目安
(1) 後遺障害等級12級が認定される目安
   正常な歩行を行うためには,背屈及び底屈のいずれもが10度を超えている必要があります(理学療法学第40巻第8号「歩行分析・動作分析のグローバル・スタンダード-最近の知見と治療に役立つ分析のポイント-」参照)。
   そのため,参考可動域が20度である背屈の可動域制限が原因で正常な歩行ができない場合,底屈が35度以下であれば,合計値が45度以下になりますから,ケガをしていない足関節の可動域の合計値が65度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
(2) 後遺障害等級10級が認定される目安
   正常な歩行を行うためには,背屈及び底屈のいずれもが10度を超えている必要があります(理学療法学第40巻第8号「歩行分析・動作分析のグローバル・スタンダード-最近の知見と治療に役立つ分析のポイント-」参照)。
   そのため,参考可動域が45度である底屈の可動域制限が原因で正常な歩行ができない場合,背屈が20度であったとしても,合計値が30度以下になりますから,ケガをしていない足関節の可動域の合計値が65度であるのであれば,後遺障害等級10級が認定されることとなります。
(3) 後遺障害等級8級が認定される目安
   背屈及び底屈の可動域の合計値が10度以下である場合,ケガをしていない足関節の可動域の合計値が65度であるのであれば,後遺障害等級8級が認定されることとなります。

3 足関節捻挫及び足関節果部骨折
(1) 足関節捻挫
ア   足関節(足首)捻挫のほとんどは,足関節を内側に捻って生じますところ,この場合,足関節外側の靭帯(前距腓靭帯)が損傷します(日本整形外科学会HP「足関節捻挫」参照)。
イ 足関節捻挫であっても,ストレス・レントゲン検査により前距腓靭帯の損傷が確認できた場合,後遺障害等級12級が認定されることがあるみたいです(みまや法律事務所HP「可動域制限の原因を特定し、足関節機能障害12級7号を獲得!」参照)。
(2) 足関節果部骨折(=足関節骨折)
ア 足関節の内果と後果は脛骨の遠位部にあたり、足関節外果は腓骨遠位部にあたります。
イ 跳躍や高所よりの転落・転倒などにより,足関節に強い外力が働くと,足関節周囲の靱帯損傷や骨折が生じます。
   それらは足部が回外又は回内位をとるような肢位で,距骨が外旋又は内転・外転するような強い外力が働くことにより生じます。
   その結果,いろいろな骨折や靱帯損傷の組み合わせた病態になります(日本整形外科学会HP「足関節果部骨折」参照)。
ウ 足関節骨折は殆どの場合,足関節脱臼と一緒に発生しますから,足関節脱臼骨折ともいいます。
エ 足関節骨折は多くの場合,手術的治療となります。
   基本は骨折した骨を元の位置に戻して足関節を動かしても骨がずれないようにネジやボルトで固定します。針金を使うこともあります。骨折部位は圧迫をかけて骨がずれないようにします(日本骨折治療学会HPの「足関節骨折(足首のくるぶしの骨折)」参照)。

4 踵骨骨折
(1) 踵骨(かかとの骨)骨折のほとんどの症例が高所よりの転落や階段を踏み外すことによって生じます。
   稀に労働災害あるいは交通事故による圧挫によって生じますが,90%以上の症例が転落事故によって起こるといわれています(日本骨折治療学会HP「踵骨骨折」参照)。
(2)ア 踵骨骨折は,①距骨下関節に骨折線が及ぶ関節内骨折(踵骨関節内骨折),及び②距骨下関節に骨折線が及ばない関節外骨折(踵骨関節外骨折)に分かれます。
イ 踵骨は形が複雑で関節面が多く,骨折の形も複雑になりやすいことから治療の難しい骨折といわれています(OGメディックHP「後遺症の残りやすい踵骨骨折!後遺症軽減のために取り組みたいリハビリを紹介します!」参照)。
(3)ア 踵骨骨折は後遺障害を残すことが非常に多く,その症状は歩行時痛,坂道や凸凹道の歩行が困難,長時間の立位が困難なことや高所での作業が不可能なことです(日本骨折治療学会HP「踵骨骨折」参照)。
イ 踵骨骨折の場合,神経症状として12級又は14級の後遺障害が残存することが非常に多いみたいです(大阪交通事故相談ネット「かかとの骨を骨折した場合(踵骨骨折後の後遺障害)」参照)。

5 アキレス腱断裂
(1) アキレス腱断裂は,踏み込み・ダッシュ・ジャンプなどの動作でふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋) が急激に収縮した時や,着地動作などで急に筋肉が伸ばされたりした時に発生します。
   30~50歳のスポーツ愛好家に多く,レクリエーション中の受傷が多いのが特徴です(日本整形外科学会HP「アキレス腱断裂」参照)。
(2) アキレス腱断裂の治療には,手術をする手術的治療と手術をしない保存的治療があります。
   このうち,後者の保存的治療では長期の固定や免荷(体重をかけれない状態の事)を必要とし,筋力や関節の可動域の回復が悪くなります(労働者健康安全機構 関東労災病院HP「アキレス腱断裂の治療(手術とリハビリテーション)」参照)。
(3) アキレス腱の縫合手術を行った場合,手術後,リハビリによって機能の低下を防止しながら復帰を目指すことになります。
   アキレス腱の手術後はふくらはぎの筋力の低下,足関節が動かしづらい,アキレス腱の柔軟性の低下,血行不良による過度のむくみ症状が出現します。
   手術後は一定期間,ギプス固定が必要となるので,以上のような症状が基本的におこります(今村総合病院HP「アキレス腱断裂」参照)。
(4) アキレス腱断裂の場合,治療が適切に行われたならば,後遺障害に該当することはまずないとされているものの,足関節の可動域制限が残る可能性もあります(むさしの森法律事務所HP「Q.アキレス腱断裂とは,どのようなものですか。後遺障害(後遺症)となりますか。」参照)。
(5) MindsガイドラインライブラリHP「アキレス腱断裂診療ガイドライン」が載っています。

6 日本足の外科学会
   足関節及び足指に関する学術団体として,日本足の外科学会(JSSF)があります。

第5の1 関節の可動域制限を後遺障害として認定してもらうための条件,及び抜釘(ばってい)術との関係

1 関節の可動域制限を後遺障害として認定してもらうための条件
(1) 総論  
   関節の可動域制限(機能障害)を後遺障害として認定されるためには,可動域制限の存在だけでなく,以下の条件も満たす必要があります。
ア 交通事故時において,①関節及びその付近の骨折・脱臼,②靱帯,腱等の軟部組織の損傷又は③神経の損傷が発生したこと
イ 症状固定時において,①関節部分の骨折後の癒合不全又は変形癒合,②関節の強直,③靱帯,腱等の軟部組織の損傷による関節拘縮,④神経麻痺といった,関節の可動域制限の原因を医学的に確認できること
(2) 器質的変化及び機能的変化等
   後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「関節の後遺障害」には以下の記載があります。
① 関節の可動域制限の原因は、器質的変化と機能的変化に区分されます。
   この器質的変化は、関節それ自体の破壊や強直や、関節外の軟部組織の損傷によって、関節の可動域制限が伴う場合です。
   機能的変化は、関節そのものに原因は無いが、神経麻痺や疼痛(痛みやしびれ)、緊張が生じて、関節の可動域制限を引き起こしている場合です。
   いずれも、その原因が判別していることが、後遺障害認定の前提条件となります。後遺障害認定基準の「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」にて、関節の器質的変化は、「関節それ自体の破壊や強直や、関節外の軟部組織の損傷」と記載されています。
② 主治医が記載する後遺障害診断書にもポイントがあります。主治医側へ依頼することは、患者の主訴についてできる限りの記載をしてもらうこと。他覚的所見の重み付け(臨床所見・神経学的所見・画像所見)とは主訴の裏づけとなる所見になります。
→ 「関節障害の「後遺障害診断書のポイント」」が載っています。
(3) 骨折・脱臼が原則として必要となること
ア 骨折・脱臼をしていないものの,打撲等が原因で長期間ギブスで固定した結果として関節の拘縮が発生した場合,関節の可動域制限が発生していたとしても,器質的損傷はないということで後遺障害を認定してもらえないことがほとんどです(交通事故サポートセンターHP(橋本行政書士事務所)「関節拘縮で機能障害は取れるのか(強直、拘縮、器質的損傷とは)? 」参照)。
イ 器質的損傷とは,解剖学的に損傷のカタチが認められるものをいいます(後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「器質的損傷とは」参照)。
ウ 「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」には「廃用性の機能障害(たとえば、ギプスによって患部を固定していたために、治ゆ後に関節に機能障害を存するもの)については、将来における障害の程度の軽減を考慮し等級の認定を行うこと。」と書いてあります。
   なお,廃用症候群としては,筋萎縮,関節拘縮,心肺機能の低下及び褥瘡(じょくそう。床ずれ)があります。
(4) 痛みによる可動域制限は原則として後遺障害12級であること
   後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「骨盤と股関節の後遺障害」には,「カタチに異常は無いが、痛みから動かすことができない状態の場合には、神経症状として評価されることになり、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号が想定されます。この神経症状として評価は、関節の可動域が1/2・3/4以上や以下の場合でも、機能障害としての評価では無く神経症状として扱われます。」と書いてあります。
(5) 3テスラのMRI撮影
ア 「MRI 3テスラ 大阪」で検索すれば,3テスラのMRI撮影をしてくれる医療機関を検索できます。
イ   大阪市内では,例えば,上本町画像診断クリニック(診療科目が放射線科だけであることにつき「当院のご案内」参照)が,主治医の紹介状(同クリニックHPの「検査予約票」のこと。)に基づき,3テスラのMRI撮影を行っています(同クリニックHPの「検査をご希望の方」参照)。
   ただし,脳のMRI撮影は,脳ドックという形式(全額自己負担の自費診療になります。)により,主治医の紹介状なしでも受け付けています(同クリニックHPの「脳ドック(3.0テスラMRI)」参照)。

2   後遺障害認定と抜釘(ばってい)術との関係等
(1) 総論

ア 抜釘術とは,インプラント(金属製のプレートやネジです。)を使って骨折部を固定するという骨接合術を行った場合,骨がつながった後に再手術をしてインプラントを取り除くという手術(「抜釘術」といいます。)をいいます。
   そして,骨接合術を受けた場合において,骨癒合を得られた後に抜釘(ばってい)術を予定している場合,抜釘術後に残った可動域制限が後遺障害認定の対象になることが多いです。
   ただし,抜釘術が不適当又は困難な事情がある場合,抜釘術をしない状態の可動域制限が後遺障害認定の対象となります。
イ インプラントとは,体内に埋め込む医療機器や材料の総称であり,骨接合術の場合,プレート,ネジ等がインプラントになります。
ウ 「抜釘術」によって入院した場合,術後にリハビリテーションを行うかどうかは病院によりますところ,実際に必要かどうかと言われると,必要でないことが多いみたいです(整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ「「抜釘術」とは?術後はリハビリテーションは必要?」参照)。
(2) 抜釘術について,躊躇する症例及び積極的に考慮する症例
   旭労災病院(愛知県尾張旭市)が発行している旭労災病院ニュース第112号(平成27年3月1日発行)の「骨接合に用いたインプラントの抜釘術」(リンク先の1頁目)には以下の記載があります。
① 骨折治療に用いられた金属製のインプラントにとって生体内は過酷な環境になります。骨折部にかかる荷重などの応力,体液に含まれる塩素イオン,pHの変化,腱などの摺動,酵素などがインプラントの劣化,折損,腐食をきたす可能性があります。以前からステンレス製が主流であった骨接合インプラントは生体内での腐食,生体適合性において必ずしも良好とは言えず,日本では2000年代に入って急速にチタン製の骨接合インプラントに取って代わりました。
(注)摺動(しゅうどう)とは,機械の装置などを滑らせながら動かすことをいいます。
② 抜釘術を躊躇する症例は,抜釘術により新たな合併症が生ずる可能性があるもの(橈骨神経麻痺を合併しやすい上腕骨骨折,抜釘後に再骨折を来しやすい前腕骨折など),手術侵襲が大きいもの(骨盤骨折),高齢者,抜釘を行っても患者の愁訴(インプラントに起因しない疼痛など)をとることができないものとされております。
(注)肘(ひじ)を境にして,肩に近い腕が上腕(じょうわん)であり,手に近い腕が前腕(ぜんわん)です。また,橈骨(とうこつ)は尺骨(しゃっこつ)はセットで前腕部にあります。
③ 積極的に抜釘術を考慮する症例は,小児において成長障害となるもの,遅発性感染をきたしたもの,インプラントの移動/折損をきたしたもの,インプラントによるアレルギー反応を呈しているもの(現時点ではチタン製インプラントでのアレルギー反応は報告されていません。),軟部組織障害をきたしているもの,スポーツ選手などに限られます。
(3) キュンチャー等の除去と後遺障害認定
ア 「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」には以下の記載があります。
   骨折部にキュンチャーを装着し、あるいは金属釘を用いたため、それが機能障害の原因となる場合は、当該キュンチャー等の除去を待って等級の認定を行うこと。
   なお、当該キュンチャー等が機能障害の原因とならない場合は、創面治ゆをもって等級の認定を行うこと。
イ 交通事故による骨折時に使用されるキュンチャ―とは,骨髄内釘(こつずいないてい)のことであり(要するに「釘(くぎ)」です。),大きな骨の骨幹部(中央部分)が折れたときに使用されることが多いです。
   骨折部周辺の軟部組織の切開手術を行うことがないので,筋肉や皮膚等へのダメージが少なくて,比較的早期に骨が本来持つ荷重機能の回復ができるという利点があるといわれています(交通事故 後遺障害認定・異議申立の申請HP「後遺障害の適正申請のためにキュンチャー骨髄内釘を正しく理解!」参照)。
(4) 舟状骨骨折の場合,抜釘が選択されることはほとんどないこと
ア 舟状骨(しゅうじょうこつ)は手関節にある8つの手根骨の1つで母指(親指)側にあり,手根骨の中でも重要なものの1つでありますところ,舟状骨は血行が悪いため,舟状骨骨折は非常に治りにくい骨折の一つです(日本整形外科学会HP「舟状骨骨折」参照)。
イ 舟状骨骨折で使用したスクリューを抜去することは難しいですから,舟状骨骨折で抜釘が選択されることは殆どありません(整形外科医のブログ「舟状骨骨折の抜釘は行うのか?」参照)。

第5の2 関節の可動域制限に関する用語の説明

0 総論
   筋骨格系の損傷としては,骨折,関節脱臼(=脱臼),靭帯捻挫(=靭帯損傷),筋挫傷,腱損傷があります(MSDマニュアル「骨折,脱臼,および捻挫の概要」参照)。

1 骨折
(1) 骨折(こっせつ)とは,骨が壊れることをいいます。
   骨が折れることの他,骨にヒビが入ったり,骨の一部分が欠けたり,骨がへこんだりした場合も含まれます。
(2) 神経は,骨折後に転位した骨片(こつへん)により伸長した場合,脱臼した関節により伸長した場合,鈍的な強打により挫傷した場合,圧挫による重篤な損傷で挫滅した場合,鋭い骨片により断裂した場合に,損なわれることがあります(MSDマニュアル「骨折,脱臼,および捻挫の概要」参照)。
(3)ア 骨挫傷とは,外力が加わった結果,骨折には至っていないが,骨内に出血や浮腫が生じている状態をいい,損傷の程度としては,打撲と骨折の間に当たります。
イ   膝,足をぶつけてレントゲンをとってもらったが骨折はないのになかなか痛みがおさまらない。このような場合,骨挫傷の可能性があります。
   骨挫傷の場合,レントゲン及びCTでは骨の異常がないものの,MRIでは骨の内部に内出血を認めることができます(SBC湘南メディカル記念病院HP「長引く足の痛みは!~骨挫傷(Bone bruise)~」参照)。
(4) 応急手当をする場合を除き,骨折について柔道整復師の施術を受けるためには医師の同意が必要です(柔道整復師法17条のほか,厚生労働省HPの「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」参照)。

2 脱臼
(1) 脱臼(だっきゅう)とは,関節を構成している相互の骨と骨の間にずれが発生することをいいます。
   相互の骨と骨の間にずれが発生していない場合は捻挫(ねんざ)になります。
(2) 関節を形成する二つの骨が完全に分離した場合を完全脱臼といい,部分的に分離した場合を不完全脱臼(亜脱臼)といいます。
(3) 脱臼した関節は通常,医師により整復(復元)されるまで脱臼したままであることが多いです。
(4) 応急手当をする場合を除き,脱臼について柔道整復師の施術を受けるためには医師の同意が必要です(柔道整復師法17条のほか,厚生労働省HPの「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」参照)。 

3 捻挫
(1) 捻挫は,X線で異常がない関節のケガのことであり,具体的には,①靭帯や腱というような軟部組織といわれるもののケガ,及び②軟骨(骨の表面を覆う関節軟骨,間隙にはさまっているクッションである半月板や関節唇(かんせつしん)といわれる部分)のケガです(日本整形外科学会HP「捻挫」参照)。
(2)ア 日本整形外科学会HP「膝関節捻挫」には「関節に力が加わり、通常の範囲を越えて骨同士が動いた場合に起こるケガのうち、骨折や脱臼はX線(レントゲン)で診断がつきますが、X線で異常がない関節のケガはとりあえず捻挫という診断になります。」と書いてあります。
イ 足関節を捻挫したときに発生することが多い距骨(きょこつ)骨軟骨損傷については,X線写真で診断できるみたいです(日本整形外科学会HP「距骨骨軟骨損傷」参照)。
(3)ア 打撲,捻挫(いわゆる肉ばなれを含む。)について健康保険を利用して柔道整復師の施術を受ける場合,医師の同意は不要です(厚生労働省HPの「柔道整復師等の施術にかかる療養費の取扱いについて」参照)。
   ただし,保険医療機関(病院,診療所など)で同じ負傷等の治療中は,施術を受けても健康保険を使えません協会けんぽHP「柔道整復師等の施術を受けられる方へ 」参照)。
イ   加害者側の任意保険会社に施術費を請求するためには,任意保険会社の同意を事前に得ておくことが望ましいです。
   少なくとも,病院の整形外科医等に事前に相談した上で,整骨院への通院の必要性がある旨を診療録に記載してもらう方が無難です。

4 靭帯損傷
(1)   靱帯(じんたい)損傷とは,関節を安定した状態に保つ働きをしている靱帯が損傷し,又は断裂していることをいいます。
(2)   断裂まではしていない靭帯損傷は捻挫(ねんざ)といわれることの方が多いです。
(3) 日本整形外科学会HP「足関節捻挫」には,「靭帯の損傷程度によって、捻挫の程度を三つに分けています。靭帯が伸びる程度の損傷を1度捻挫、靭帯の一部が切れるものを2度捻挫、靭帯が完全に切れるものを3度捻挫と定義しています。」と書いてあります。
(4) むち打ち慰謝料相談.net「靭帯損傷の後遺障害」が参考になります。

5 腱損傷
(1) 腱(けん)とは,筋肉と骨とを結びつけている繊維性の丈夫な組織をいいます。
(2) ふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)・ヒラメ筋とかかとの骨をつないでいる腱はアキレス腱といい,肩甲骨(けんこうこつ)と上腕の骨をつないている腱は腱板(けんばん)といいます。
(3) 腱損傷には完全断裂及び部分断裂があります。

6 関節軟骨
(1)ア 関節軟骨は,関節の相対する骨端の表面にある厚さ2~4mmの組織(硝子軟骨)です。豊富な細胞外基質(軟骨基質)と軟骨細胞(<5%)から構成されており,血管,神経,リンパ管に乏しいという組織学的特徴があります(聖路加国際病院HP「関節軟骨損傷の診断と治療」参照)。
イ 関節軟骨は,関節内において緩衝材として機能しています。
(2) 関節にまで及ぶ骨折は通常,関節軟骨を破壊します。位置のずれた関節軟骨は瘢痕(はんこん)を形成する傾向があり,変形性関節症を起こして関節運動を障害します。
   関節に長期間の固定が必要な場合に硬直が起こる可能性が高くなります。
   肩関節,肘関節及び膝関節は特に外傷後の硬直を起こしやすく,特に高齢者で可能性が高いです(MSDマニュアル「骨折,脱臼,および捻挫の概要」参照)。
(3) 軟骨は広義の結合組織の一つでありますところ,①狭義の結合組織は,腱,靭帯,真皮及び皮下組織であり,②広義の結合組織は,腱,靱帯,真皮及び皮下組織のほか,骨,歯,軟骨及び脂肪です(オスグッドHP「軟骨とはなんでしょうか?」参照)。
(4) 関節表面の軟骨が損傷を受けると容易に変形性関節炎へ移行し,関節表面を再び硝子軟骨で再生させることは極めて困難です(外部HPの「関節軟骨の修復のメカニズムに関する研究」参照)。
(5) 変形性関節症は,原因疾患が明らかではない一時性関節症と,外傷や関節の先天性異常,代謝異常などに起因する二次性関節症に分類されます(ナースフルHP「変形性関節症」参照)。
(6) レントゲン写真には軟骨は写りませんので,レントゲン写真での軟骨の厚さは関節裂隙(かんせつれつげき)(骨と骨の間の隙間)の厚さとなります(大阪病院(旧 大阪厚生年金病院)HP「膝関節」参照)。

7 中枢神経系及び末梢神経系
(1) 神経系は,中枢神経系及び末梢神経系に分けられます。
(2)ア   末梢神経系とは,中枢神経系以外の神経系,つまり,脳と脊髄以外の神経をいい,以下のものが含まれます(
MSDマニュアル家庭版HP「末梢神経系の概要」参照)。
① 脳と頭部,顔面,目,鼻,筋肉,耳をつなぐ神経
② 脊髄と体の他の部位をつなぐ神経
③ 体中に分布している1000億個以上の神経細胞
イ   
中枢神経と末梢神経との間でやり取りされる情報は,「ニューロン」と呼ばれる神経細胞がすばやく伝達しています。

8 神経根
○日弁連交通事故相談センターHPの「神経根症」に,神経根に関して以下の記載があります。
   中枢神経である脊髄の腹側・背側から左右1対ずつ根糸と呼ばれる脊髄神経繊維の束が出て、それぞれ前根・後根をなしています。前根と後根は分節ごとに合流し、椎間孔を通って脊柱の外に出て31対の脊髄神経(第1~8頚神経・第1~12胸神経・第1~5腰神経・第1~5仙骨神経・尾骨神経)になります。この脊髄神経の根本の部分、脊髄から椎間孔までのびている部分が神経根です。脊髄損傷が中枢神経の損傷であるのに対し、神経根症は末梢神経の損傷です。

9 筋挫傷
(1) 挫傷とは鈍的な外力(打撲)により,皮下組織や筋肉,腱などに損傷が生じるものですであり,筋肉に損傷を受けたものは筋挫傷と呼びます。
   さらにその外力が高度な場合には骨の損傷や骨折を合併することもあります(恩賜財団済生会HPの「筋挫傷(きんざしょう)」参照)。
(2) いわゆる「肉離れ」や「筋違い」と呼ばれる怪我は筋挫傷になります。
   また,筋挫傷は,筋肉の組織が少し伸びた軽度のものから,完全に組織が断裂した重度のものまであります(とやの健康ヴィレッジ本店公式サイト「捻挫と筋挫傷の違いについて」参照)。

10 軟部組織
(1) 軟部組織(なんぶそしき)とは,靭帯,腱等の結合組織のほか,血管,末梢神経組織を含む総称をいいますところ,軟骨が軟部組織に含まれるかどうかは微妙なところです。
   骨と骨の間にずれが発生していない軟部組織の損傷は捻挫(ねんざ)になります。
(2) 靭帯は骨と骨をつなぐものであるのに対し,腱は骨と筋肉をつなぐものです。

11 癒合
(1)   癒合(ゆごう)とは,離れた骨・皮膚・筋肉等が付着することをいいます。
(2) 変形癒合は,変形の残る治癒であって,骨折が十分に整復して安定化していない場合に起こります。

12 強直 
(1) 強直(きょうちょく)とは,関節部の関節包・軟骨・骨の変形又は癒着により可動域制限を起こした状態をいい,他動でも全く動かない完全強直と,他動でわずかに動く不完全強直があります(八文字社会保険労務士行政書士事務所HP「関節強直の基礎知識」参照)。
(2)   不完全強直の場合,拘縮との区別は曖昧なところがあります。   

13 拘縮
(1) 拘縮(こうしゅく)とは,関節部を含む関節包の他,関節包以外の関節を構成する軟部組織が変化し,可動域制限を起こした状態をいいますところ,一般的には怪我や病気などにより長期間身体を動かしていない状態が続くことで関節が硬くなり、動きが悪くなる状態をいいます(介護たすけあいHP「拘縮」参照)。
(2) 関節の固定が2,3日続いた場合,血液循環障害・栄養障害が発生し(拘縮の始まり),3,4週間続いた場合,軟部組織の短縮・癒着・瘢痕が発生し(拘縮の完成),8週間から16週間続いた場合,関節自体(関節包,軟骨)に変化が発生します(強直の発生)(「終了後の関節可動域訓練」9頁)。
(3) 関節包(かんせつほう)とは,
骨と骨を連結させるための袋状のものをいい,関節包の中は関節
がスムーズに動かせるように潤滑油のような働きをする滑液で満たされています。
   癒着(ゆちゃく)とは,炎症によって,本来離れているべき組織同士がくっついてしまうことをいい,関節の動きを制限するものとしては,靭帯,腱,筋肉の組織の癒着があります。
   瘢痕(はんこん)とは,外傷や手術の後など,一度組織が壊れた後に見られる傷跡をいいますところ,瘢痕部分は弾力性がなくなり,以前と比較して硬い組織になってしまいます(「終了後の関節可動域訓練」19頁)。
(4) みんなの介護HP「自宅でもできる拘縮予防!理学療法士が教えるカラダが硬くならないストレッチ~足関節編~」が載っています。

14 複合性局所疼痛症候群(CRPS)
(1) 複合性局所疼痛症候群(CRPS)は,軟部組織若しくは骨損傷後(I型)又は神経損傷後(II型)に発生して,当初の組織損傷から予測されるより重度で長期間持続する,慢性の神経障害性疼痛です。
   その他の症状として,自律神経性の変化(例,発汗,血管運動異常),運動機能の変化(例,筋力低下,ジストニア),萎縮性の変化(例,皮膚又は骨萎縮,脱毛,関節拘縮)などがみられます(MSDマニュアルHP「複合性局所疼痛症候群」参照)。
(2) 国際疼痛(とうつう)学会(IASP)が1994年にCRPSという呼称に統一する前は,I型のCRPSは反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と呼ばれ,II型はカウザルギーと呼ばれていました(「本邦におけるCRPSの判定指標」参照)。

第5の3 可動域制限の原因となる神経麻痺及び電気生理学的検査

1 神経麻痺の種類
(1) 総論
ア   交通事故で生じる神経麻痺のうち,上肢に発生するものとしては,①腕神経叢(わんしんけいそう)損傷,②橈骨(とうこつ)神経麻痺,③尺骨(しゃっこつ)神経麻痺,④正中(せいちゅう)神経麻痺があります。
   下肢に発生するものとしては,⑤腓骨(ひこつ)神経麻痺があります。
イ 神経根引き抜き損傷は,腕神経叢損傷(わんしんけいそうそんしょう)のうち,神経移植術等による損傷部の再建が不可能な症例です。
   ただし,日本救急医学会HP「引き抜き損傷」には,「従来,回復不能な損傷とされていたが,最近では一部の機能回復をめざし神経移行術が施行されることもある。」と書いてあります。
ウ 日本整形外科学会HPの「腕神経叢損傷」「撓骨神経麻痺」「尺骨神経麻痺」「正中神経麻痺」「手根管症候群」「腓骨神経麻痺」を参照しています。
(2) 腕神経叢損傷
ア 腕神経叢は,首の部分の脊髄から出てくる第5頚神経(C5)から第8頚神経(C8)と第1胸神経(Th1)から伸びる神経群であり,鎖骨と第1肋骨の間を通り, 腋窩(えきか。脇の下)に向かって分布しています。
   それぞれ枝分かれしながら,腋窩(えきか)神経,筋皮神経,正中神経,橈骨神経及び尺骨神経という5本の上肢の神経となります。 
イ オートバイの転倒事故やスキーなど高速滑走のスポーツでの転倒で肩と側頭部で着地した際,又は機械に腕を巻き込まれて腕が引き抜かれるような外力が働いた場合,腕神経叢が引き伸ばされて損傷します。
ウ 腕神経叢損傷は,損傷高位と範囲により,上位型,下位型及び全型に分けられます。
   一般成人の腕神経叢損傷では,全型が多く,ついで上位型,下位型は少ないです。
エ 上位型の腕神経叢損傷がある場合,肩の挙上,肘の屈曲が不可能となり,肩の回旋,前腕の回外力が低下します。上腕近位外側と前腕外側に感覚障害があります。
   下位型の腕神経叢損傷がある場合,前腕にある手首・手指の屈筋や手の中の筋(骨間筋、小指球筋)の麻痺により、手指の運動が障害されます。前腕や手の尺側に感覚障害があります。
全型の腕神経叢損傷がある場合,肩から手まで上肢全体の運動と感覚が障害されます。神経根の引き抜き損傷があると,ホルネル徴候(眼瞼下垂(がんけんかすい),眼裂(がんれつ)狭小,瞳孔(どうこう)縮小)が見られます。
オ 様々な脊髄神経の神経線維が網目状に入り組んだ部分を神経叢と呼びます(MSDマニュアル「神経叢疾患」参照)。
(3) 橈骨神経麻痺
ア 橈骨神経は,上腕骨の後ろを走行して,前腕の外側を通って手に向かう神経です。
イ 橈骨神経麻痺の場合,手の甲がしびれるとか,親指と人差し指でうまく握れないとか,手首に力が入らず,手が垂れ下がるといった症状が現れます。
(4) 尺骨神経麻痺
ア 尺骨神経は,上腕,肘の内側を通って,前腕部から手先まで走行している神経です。
イ 尺骨神経麻痺の場合,薬指と小指のしびれがひどいとか,まっすぐ伸ばすことができないといった症状が現れます。
ウ Wikipediaの「頚椎症」には,「尺骨神経障害では感覚障害が手首より遠位部第4指の尺側と第5指の掌側と背側が障害される。C8~T1根症では手首より前腕に感覚障害が広がっている。 」と書いてあります。
(5) 正中神経麻痺
ア 正中神経は,手にとって最も重要な神経で,正中神経の傷害は,鋭敏な感覚と巧緻性を要求される手にとって致命的なダメージになります。
イ 肘より上の外傷で正中神経が損傷を受けた場合,親指等の感覚障害,手首の屈曲,手指の屈曲等の能力が障害されます。
   前腕から手首までの外傷で正中神経が損傷を受けた場合,親指の感覚障害等が発生します。
ウ 正中神経が手首(手関節)にある手根管(しゅこんかん)というトンネル内で圧迫された場合,手根管症候群として,親指,人差し指及び中指のしびれ,痛みが発生します。
エ Wikipediaの「頚椎症」には,「正中神経障害では感覚障害は手首より遠位部の掌側に限局し、第4指は橈側半分が障害される。C6~C7根症では手首より前腕の方に感覚障害の分布が広がっており手背部も障害される。」と書いてあります。
(6) 腓骨神経麻痺
ア 腓骨神経は,坐骨(ざこつ)神経から分かれて,膝関節の裏側から膝外側を下降して足指まで走行する神経です。
イ 腓骨神経麻痺の場合,足首と足指を垂れ下がって歩行が難しくなるとか,すねの外側から足の甲がしびれるといった症状が現れます。
 
2 電気生理学的検査
(1) 総論
ア 電気生理学的検査としては,筋電図(きんでんず)検査及び神経伝導速度検査があります。
   MSDマニュアルHP「脳,脊髄,末梢神経の病気の検査」の「筋電図検査と神経伝導検査」によれば,神経根症又は脊髄症によるしびれがある場合,筋電図検査が有効であり,末梢神経障害によるしびれがある場合,筋電図検査及び神経伝導速度検査が有効であると思われます。
イ 電気生理学的検査は,整形外科ではなく神経内科で実施される検査ですから,整形外科医に診療情報提供書(=紹介状)を書いてもらう必要があります。
ウ 神経麻痺が電気生理学的検査により認められた場合,12級以上の後遺障害等級の認定につながります。
   そのため,薬指と小指のしびれがひどいとか,手が垂れ下がるとか,足首と足指が垂れ下がるといった症状がある場合,電気生理学的検査で確認できる神経麻痺が原因である可能性がありますから,12級以上の認定を狙う場合,電気生理学的検査を受けて下さい。
 
(2) 筋電図検査(EMG)
ア 筋電図検査とは,被検査者の筋肉に針を刺して,筋肉の興奮時の電気活動を観測する検査をいいます。
イ 筋電図検査により,筋力低下の原因が神経にある(神経麻痺につながります。)のか,筋炎や筋ジストロフィーなどの筋肉そのものにあるのかが分かります(CMT友の会HP「神経伝導検査」参照)。
ウ 筋電図検査で得られる記録を筋電図と呼びます。
   脊髄神経根,末梢神経,筋肉又は神経筋接合部の異常によって筋力低下が起こっている場合,筋電図に異常がみられます。
   体のどこにどのような問題があるかに応じて,症状,診察結果,筋電図検査の結果にそれぞれ異なるパターンの異常が現れます。
   検査技師が日常的に行えるCT検査や脳波検査と異なり,筋電図検査では,専門知識をもつ神経科医が適切な神経と筋肉を選択して,得られた結果を解釈する必要があります(MSDマニュアルHP「脳,脊髄,末梢神経の病気の検査」の「筋電図検査と神経伝導検査」参照)。
エ 筋電図検査は,針を筋肉に刺す検査ですから,痛みを伴います。
 
(3) 神経伝導速度検査
ア 神経伝導速度検査とは,末梢神経の病気が疑われる患者を対象に実施されるものであり,同一神経の2点に電気刺激を与え,その反応電位の波形の時間差を測定する検査をいい,運動神経を評価するものと,感覚神経を評価するものとがあります。
イ 腕について行う場合,正中神経又は尺骨神経においてそれぞれ運動神経繊維及び間隔神経線維を調べ,足について行う場合,脛骨(けいこつ)神経で運動神経繊維を,腓腹(ひふく)神経で感覚神経線維を,腓骨(ひこつ)神経で運動神経繊維及び感覚神経線維を調べます(CMT友の会HP「神経伝導検査」参照)。
   それぞれの神経線維に沿って2箇所以上で電気の刺激をして,画面上で波形(活動電位)が現れるのを確認し,その間隔での時差から,伝わる速度(伝導速度)を調べます。
ウ 脳,脊髄,脊髄神経根又は筋肉だけに異常がある場合,神経伝導速度検査では正常な結果が出ますMSDマニュアルHP「脳,脊髄,末梢神経の病気の検査」の「筋電図検査と神経伝導検査」参照)。
エ にいがたB級情報ファイルHP「神経伝導速度検査」の末尾によれば,正常値の下限は,上肢が秒速50m,下肢が秒速40mみたいです。

第5の4 軟部組織の損傷,及び捻挫と靭帯損傷

1 軟部組織の損傷
(1)   後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「関節機能障害の後遺障害認定基準」につき,「軟部組織の損傷」として以下の記載があります。
   軟部組織は、骨組織を除く結合組織で靱帯や軟骨、腱等です。靱帯は骨と骨を繋ぎ関節を形作り関節の可動域を制限する働きがあり、軟骨は関節内にあり緩衝剤として機能し、腱は骨と骨格筋を繋いでいます。
   靱帯の損傷や腱板の損傷によって、関節の運動が不安低になり可動域が制限される場合があります。骨傷がレントゲンで確認できるのに対し、軟部組織の損傷は水分に反応するMRI検査によって確認できます。MRIは磁気を使った検査機ですので、機械の性能はテスラという磁力の単位で示され、0.5、1.5、3.0という機種があり、テスラが大きいほど、解像度が高く、画像情報が多く、結果診断能力が高いものになります。
(2) 交通事故慰謝料弁護士相談HP(菅藤法律事務所)「交通事故でMRI撮影するタイミングは?」に以下の記載があります。
① レントゲンには骨は映りますが、脊髄・靱帯・椎間板・半月板・神経根といった軟部組織はレントゲンには映りません。
  従って、レントゲン画像では骨折の有無は判定できても、これら軟部組織の損傷の有無はレントゲン画像では判定できないのです。
② 交通事故から時間を空けて撮影したMRI画像に異常が映っていても、果たしてその異常が交通事故に起因するのか、交通事故とは別に例えばそれ以前から存在する既往疾患なのか、時間が経てば経つほど、相手損保が争ってくるリスクが高くなるからです。
また、陳旧性か新鮮か見分ける場合、T2強調画像では水分が高信号を示し白く映る特性を活かして、内出血などが白く高信号で映っているからとして、新鮮な負傷であると主張できることもあります。
  逆に言えば、交通事故から時間を空けて撮影している場合には、T2強調画像の特性は活かされないのです。
(3) 関節造影検査(関節内に注射針を刺して造影剤や空気を入れ,レントゲン撮影やCT撮影を行う検査)の場合,造影剤の漏出等により靱帯損傷を調べることができるみたいです(慶應大学病院医療・健康情報サイト「関節造影検査(アルトログラフィー)」参照)。

2 捻挫と靭帯損傷
   日野市医師会HP「捻挫と靭帯損傷」には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
① 捻挫とは、関節に力が加わって、骨以外の靱帯や関節包などの軟部組織が損傷される事です。このうち骨と骨の位置関係がずれたものは脱臼で、ずれのないものが捻挫になります。捻挫を起こした時に靱帯を損傷していれば、すべて靱帯損傷になります。
   一般的には、捻挫の方がやや軽症と考えられている方が多いように思いますが、捻挫をした場合、靱帯の損傷も伴っている事が多いので、同じと考えても良いと思います。
② (注:靭帯の損傷に関して)わずかに伸びた程度の損傷を1度、部分的に断裂したものを2度、完全に断裂したものを3度の損傷と呼びます。
   1度では圧痛はありますが、腫れはほとんどない事が多く、2度では痛み、腫脹、圧痛も見られ、3度になると痛み腫脹も顕著で動揺性が見られ、脱臼を起こしていることもあります。

第6 関節の可動域制限に関する後遺障害等級認定票の文言例

○左下肢の可動域制限で後遺障害併合9級が認定される場合における,後遺障害等級認定票の文言は,以下のような感じです。

1.左大腿骨骨幹部骨折に伴う左関節の機能障害については,後遺障害診断書上,主要運動である外転・内転の可動域が健側(右股関節)の可動域角度の1/2以下に制限されていることから,「1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」として別表第二第10級11合に該当するものと判断します。

2.左大腿骨骨幹部骨折および左脛骨近位部骨折に伴う左関節の機能障害については,後遺障害診断書上,その可動域が健側(右膝関節)の可動域角度の3/4以下に制限されていることから,「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」として別表第二第12級7号に該当するものと判断します。

3.左関節の機能障害については,後遺障害診断書上,その可動域が健側(右足関節)の可動域角度の3/4以下に制限されていないことから,認定基準上,自賠責保険における後遺障害には該当しないものと判断します。

   前記1.および2.の障害は,同一系列の障害であるため,別表第二備考6により,併合の方法を用いて別表第二第9級相当と判断します。

第7 保存治療しか受けていない場合,半年が経過した時点で症状固定とすべきケースがあること

1(1) 骨折等による関節の可動域制限に基づいて後遺障害の等級認定申請をする場合,長期間のリハビリ治療により可動域が改善する結果,認定される後遺障害等級が低くなることがあります。
   そのため,骨接合術等の手術を行わずにギプス固定等の保存治療しか受けていない場合において,関節の可動域制限が後遺障害等級認定の限界ラインにあるのであれば,交通事故から6ヶ月が経過した時点で早い目に症状固定の診断をもらった方がいいです。
(2)ア コールドウェルの表によれば,骨折後の機能回復までの期間は,大骸骨頸部の骨折を除き,26週間(=6ヶ月)以内になっています(八文字社会保険労務士行政書士事務所HP「GurltとColdwellの表(骨折の癒合日数)」参照)。
イ 私の経験からすれば,被害者が継続的な通院を続けている限り,裁判所が認めるところの骨折の治療期間が半年以内になることはないと思っています。
   そのため,交通事故事件の場合,コールドウェルの表は,骨折の部位ごとの治りにくさを意味するものとして取り扱えばいい気がします。
(3) 最良の条件の下における,骨癒合までの最短の日数を表すと考えられているグルトの表に基づく骨癒合までの期間の覚え方が,柔道整復師のゴロ合わせブログ「Gurlt(グルト)の骨癒合日数」に載っています。

2   
裁判基準で賠償を受ける場合,後遺障害12級の後遺障害慰謝料は280万円です。
   また,後遺障害12級の労働能力喪失率は14%ですから,事故前の年収が300万円であり,症状固定時の年齢が30歳である場合,後遺障害逸失利益は300万円×0.14×16.7112(30歳の就労可能年数37年に対応するライプニッツ係数)=702万円です。
   そのため,後遺障害12級と非該当とでは,損害賠償額が982万円も変わることとなりますところ,リハビリ治療を続けたために関節が75%以上曲がるようになった場合,非該当になる結果,982万円も損をする可能性があります。

3 骨折等の他覚所見がある交通事故において通院だけの場合,1月当たりの通院慰謝料(週2回以上,通院した場合)は,27万円(1月目)→約23万円(2月目~)→18万円(4月目)→12万円(6月目~)→8万円(7月目~)→6万円(12月目~)→約5万円(13月目~)→約4万円(16月目~)→約3万円(19月目~)と推移します(
「交通事故事件の慰謝料」参照)。

4(1) 初診時の診断名が打撲又は捻挫となっている場合,痛みで関節が曲がりにくくなったとしても,関節の可動域制限に基づいて後遺障害の等級認定がされることはほぼありません。
   そのため,辛抱強くリハビリを続けてできる限り元通り関節が曲がるようにした方がいいです。
(2)ア 後遺障害の異議申立手続き 慈友行政書士事務所HP「関節の痛みによる後遺障害」には,「幸いにして骨折や脱臼は無かったが、事故受傷後から痛みが持続して、関節を動かすと痛みが増幅する場合には、関節の可動域障害の原因が痛みとされ、後遺障害認定基準では神経症状として取り扱われます。」と書いてあります。
イ   後遺障害の等級認定手続き 慈友行政書士事務所HP「「局部に頑固な神経症状の残すもの」12級13号の認定要件」には以下の記載があります。
① 第12級の「局部にがん固な神経症状を残すもの」とは、労働には差し支えないが、医学的に証明できる神経症状をいい、知覚障害、局部のしびれ感、麻痺があるときに、それがレントゲン写真・CT写真・MRI写真・脳波検査・筋電図等の検査によって証明される場合とされ、また、「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」が該当すると記載され、疼痛等感覚障害では、「通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」が第12級とされています。 
   その上で、初診時に骨傷(骨折・脱臼が画像にて確認できる)が認められていることが前提条件になります。
② 捻挫後の症状で、頑固な神経症状として12級が認定されるのはごく稀です。残存している症状が医学的に「証明」できるものである必要があります。

5(1) 日本神経学会HP「(症状編)しびれ」によれば,しびれの種類として以下のものがあります。
① 「触っても感覚がにぶい」,「冷たさや熱さがが感じにくい」,「痛みを感じにくい」などの感覚鈍麻 (感覚の低下) 
② 「何もしなくてもジンジンする、ビリビリする」,「針でさされたような感じ」,「灼けつく様な感じ」などの異常感覚
③ 「手足に力が入りにくい」、「動きが悪い」などの運動麻痺 (脱力) 
(2) 同HPの「脳神経内科での診察と検査」によれば,しびれの原因として末梢神経の病気が疑われる場合,神経伝導検査や筋電図検査などを行い,末梢神経の機能を調べるとのことです。

第8の1 骨折

1 骨折の種類
(1) 骨折は,皮膚が破れているかどうかで以下の二つに分類されます。
① 開放骨折
・ 骨折と同時に皮膚が破れて骨折部が露出した骨折です。
・ 開放骨折は,開放創の大きさ,軟部組織損傷の程度及び動脈損傷の有無により,タイプ1,タイプ2,タイプ3A,タイプ3B及びタイプ3Cの5段階に分かれます(研修医・救急医のための整形外科・外傷・スポーツ医学マニュアル ブログ「開放骨折の分類 ガスティロ分類(Gustilo分類)と抗生剤」参照)。
② 閉鎖骨折
・ 上を覆う皮膚が無傷のままの骨折です。
(2)ア 骨折は,タイプによって以下の通り分類されます(ナースフルHP「骨折の分類」参照)。
① 粉砕骨折
・ 骨が砕けて,複数の骨片が生じます。
② 圧迫骨折
・ 骨が押しつぶされます。骨粗鬆症の骨及び椎骨で生じやすいです。
③ 陥没骨折
・ 骨折部分が内側に陥没します。
④ 剥離骨折
・ 筋肉が付着している部分の骨が,筋肉の収縮などの動きで折れます。
⑤ 横骨折
・ 直達力(じきたつりょく)による骨折で,骨折は骨の長軸に対してほぼ直角になっています。
⑥ 斜骨折
・ 介達力(かいたつりょく)による骨折で,骨折線は骨の長軸に対して斜めになっています。
⑦ 螺旋(らせん)骨折
・ 捻転力(ねんてんりょく)によって骨がねじれて折れるものであり,骨折面が螺旋状になります。
⑧ 若木骨折
・ コラーゲンが豊富で柔軟性がある小児や若年者の骨は,完全には破断せず,若木を負ったような状態になります。
イ 西葛西オアシス整骨院HP「主な疾患」には,「骨折には直達外力(衝撃が直接作用するような外力)または介達外力(例えば手をついて転んだ場合に、そのついた場所ではなく肘辺りが痛くなったりするような伝わってきた外力)または病的な要因による骨折があります。」と書いてあります。
(3) 骨折は,骨の状態と外力の程度と作用の仕方から,以下の三つに分類されます(愛媛県にある東温市(とうおんし)医師会HP「今時の骨折事情」参照)
① 外傷性骨折
・   1回の外力で正常の骨に起こる骨折です。
② 病的骨折
・ 骨に基礎疾患があるため,わずかの外力で起こる骨折です。
③ 疲労骨折
・ 軽微な外力が繰り返し作用して正常の骨に発生する骨折です。


2 骨折の診断
(1)   骨折の有無はX線写真で大体,分かります。
(2) 骨折の転位(骨の位置が本来の位置からずれること)がなかったり,X線写真に写りにくい骨折であったりした場合,CT検査を利用します。
(3) レントゲンでは骨折線が見えない骨折を不顕性骨折といいますところ,不顕性骨折もMRIではバッチリ分かるみたいです(日本骨折治療学会HP「腓骨プラトー骨折」参照)。

3 骨折の位置の用語
① 背側(はいそく)と掌側(しょうそく)
・ 背側は手の甲側であり,掌側は手の平側です。
② 骨端(こつたん)
・ 骨の端であり,ここが関節面となる場合,関節軟骨がその表面を被います。
③ 骨幹(こつかん)
・ 骨の両端を除く部分であり,近位部,中間部及び遠位部があります。
④ 骨幹端(こつかんたん)
・ 骨幹のうち,骨端軟骨に接する骨幹の端の部分であり,骨端には含まれません。
⑤ 近位端(きんいたん)及び近位部(きんいぶ)
・ 上肢及び下肢の場合,体の胴体(体幹)に近い方を近位(きんい)といいます。
   そのため,近位端は,上肢又は下肢の近位側の端の部分であり,近位部は,上肢又は下肢の近位側の領域です。
・ 上腕骨近位端の場合,半球状の上腕骨頭と肩甲骨が肩関節を形成しています。
・ 大腿骨近位端の場合,半球状の大腿骨頭と寛骨臼が股関節を形成しています。
⑥ 遠位端(えんいたん)及び遠位部(えんいぶ)
・ 上肢及び下肢の場合,体の胴体(体幹)に遠い方を遠位(えんい)といいます。
   そのため,遠位端は,上肢又は下肢の遠位側の端の部分であり,遠位部は,上肢又は下肢の遠位側の領域です。
・ 上腕骨遠位端及び前腕骨近位端の場合,上腕骨滑車,上腕骨小頭及び前腕骨が肘関節を形成しています。
   また,前腕骨(橈骨及び尺骨)遠位端の場合,前腕骨及び手根骨が手関節を形成しています。
・ 大腿骨遠位端(=大腿骨果部)及び脛骨近位端の場合,大腿骨,脛骨及び膝蓋骨が膝関節を形成しています。
   また,脛骨遠位端の場合,脛骨及び距骨が足関節を形成しています。
⑦ 骨頭(こっとう)
・ 関節を構成する骨の先端にある球状の部分をいい,大腿骨頚部は大腿骨骨頭の根元部分をいいます。
⑧ 顆状(かじょう)又は顆(か)
・ 顆上(かじょう)又は顆(か)とは,骨の一部で丸みを帯びた突出部をいいます。


4 頻度の高い骨折
ナースフルHP「頻度の高い骨折」参照)
(1) 体幹部の骨折
① 鎖骨骨折
・ 交通事故や落下事故などが主な原因であり,肩関節周辺の骨折の約70%を占めます。
② 肋骨骨折
・ 直接的な強い外力によって発生することが多いです。
③ 胸腰椎骨折
・ ほとんどが圧迫骨折であり,上下からの圧力によって骨がつぶれた状態になります。
④ 骨盤骨折
・ 交通事故や転落などで,大きな外力が加わったときに生じることが多いです。
(2) 上肢の骨折
⑤ 上腕骨近位端骨折
・ 肩を強打して骨折する場合もあるが,転倒して手や肘を付いたときに骨折する場合が多いです。
⑥ 上腕骨骨幹部骨折
・ 交通事故や転倒による外傷のほか,腕相撲,投球などによっても発症します。
⑦ 上腕骨顆上骨折
・ 転落したときなどに,肘関節を伸展した状態で手を付くことによって生じることが多いです。
⑧ 前腕骨(橈骨及び尺骨)の骨幹部骨折
・ 橈骨と尺骨を,同じ部位又は違う部位で,同時に骨折します。手を付いた場合,違う部位で斜骨折又は螺旋骨折を生じ,腕に直接打撲を受けた場合,同位置で横骨折が発生します。
⑨ 肘頭骨折
・ 主に転倒によって肘頭部(ちゅうとうぶ)に直接的な外力が加わることによって起こり,粉砕骨折となることが多いです。
⑩ モンテジア骨折(橈骨頭脱臼を伴う尺骨骨折の総称)
⑪ 撓骨遠位端骨折
・ 転倒して手を付いた場合に生じます。
(3) 下肢の骨折
⑫ 大腿骨頸部骨折
・ 高齢者に頻発する骨折の一つであり,直接の原因は転倒などによる外力です。
⑬ 大腿骨転子部骨折
・ 大腿骨頸部骨折と同様,骨粗鬆症の高齢者に多いです。
⑭ 大腿骨幹部骨折
・ 一般には交通事故などの高エネルギー外傷によって発生し,若年者に多いです。
・ 力の加わり方によって,横骨折,斜骨折,粉砕骨折など,様々な形態を取ります。
⑮ 大腿骨顆部骨折
・ 大腿骨遠位部を構成している部分を顆部といい,膝に内反又は外反する強い力が加わることによって発生します。
⑯ 膝蓋骨骨折
・ スポーツや転倒などで,膝の前面を直接打ち付けることで発生します。
⑰ 脛骨高原骨折(脛骨プラトー骨折)
・ 大腿骨頸部骨折と同じく,高所からの転落や交通事故によって膝に強い外力が加わって骨折します。
・ 半月板の損傷を合併することが多いです。
⑱ 脛骨又は腓骨の幹部骨折
・ 下腿は前部に軟部組織が少ないため,開放骨折になる場合が多いです。
⑲ 足関節骨折
・ スポーツや転倒などによって関節内に生じる骨折であり,靭帯損傷を伴うケースがあります。
⑳ 踵骨骨折
・ 高所から転落したり,飛び降りたりした際に生じやすいです。

5 骨折の治療法

(1) 総論 
   骨折治療の目標は解剖学的な位置で骨癒合させ,機能障害を残さないようにすることであって,そのための治療の基本は整復,固定及びリハビリテーションです。
(2) 整復の方法
ア   転位がある骨折の場合,骨癒合を得るために骨片同士を解剖学的な位置に整復します。
イ   整復の方法としては,徒手整復,牽引による整復(介達牽引法及び直達牽引法があります。)及び観血的整復(手術的に整復部を固定すること。)があります。
(3) 固定の方法
ア 固定の方法としては,外固定,内固定(手術)及び創外固定(手術)があります。
イ(ア) 外固定の方法としては,ギプス固定,副木(そえぎ)固定等があります。
   骨折部がグラグラしないように外から固定します。
(イ) ギプスの素材はグラスファイバー又は石膏(せっこう)です。
   グラスファイバーのギプスは,強くて軽くて長持ちし,濡れても壊れないという特徴があり,現在のギプスの主流となっています。
   石膏のギプスは,細かな成形が必要な場合にのみ使用されます。
   ギプスと骨折部の間には,皮膚を保護するために専用の綿を介在させています。
(ウ) 副木とは,石膏,グラスファイバー,アルミニウム等でできた細長い板のことであり,シーネともいいます。
   骨折した部位にあてて,弾性包帯やテープで固定します。
   患部の腫れがひくまでの,骨折の初期治療によく用いられます。 
ウ(ア) 内固定の方法としては,ピンニング,プレート固定,髄内釘(ずいないてい)固定等があります。
   金属のピン、ワイヤー、スクリュー、プレート、ロッド(棒)等が使われます。
(イ) 
エ 創外固定は,開放骨折,粉砕骨折(かつては「複雑骨折」といわれていました。),関節部の骨折等で行われます。
(4) 骨折ネットHP「骨折の治療法」,及び「災害医療における骨折治療」を参照しました。

6 骨折の治癒過程
(1) 骨は,古い骨を分解吸収する破骨細胞と,破骨細胞が壊した部分に新しい骨をつくる骨芽細胞の働きにより,新陳代謝を繰り返しています。
(2) 骨折部に多少でも血腫が介在する隙間がある場合の骨折治癒過程を二次性骨癒合といいます。
   この場合,炎症期(骨折血腫期)を経て,仮骨が形成された後,スポンジ状の骨が仮骨に沈着して繊維組織を補強し(修復期=初期仮骨形成期),破骨細胞が活動して仮骨の不要なところを吸収し(再造形期=骨芽細胞形成期),新しい骨が形成される(硬化期)という過程をたどります(痛み取り専門 楽楽痛み研究会HP「骨の治癒」参照)。
(3)ア 遷延性癒合とは,骨癒合の進行が遅れた状態をいい,癒合不全とは,骨癒合が不完全なまま停止した状態をいいます。
イ 偽関節とは,癒合不全によって骨折部に関節のような異常可動性が見られる状態をいいます。
(4) 患者自身に糖尿病等の合併症や栄養障害がある場合,骨癒合の遷延又は不全が発生しやすいです。
   これらの難治性骨折の場合,再手術が必要になるケースがあり,骨移植を要することが多いです。
(5) 骨折の治りを早めるために超音波を利用する医療機関が増えています(先進医療.net「骨折の治療期間を3〜4割早める「超音波骨折治療法」」(平成22年6月23日付)参照)。
(6) 「骨癒合評価時期に対する検討-メールアンケートを用いて-」には,結語として,「骨癒合の認識,評価については医師間に相違があることが確認された。」とか,「骨癒合評価について明確なものはなく,今後さらに検討する必要があると考えられた。」と書いてあります。

7 骨折の症状固定時期
(1) 東京交通事故相談サポートHP「症状固定について」には,「骨折の症状固定時期」として以下の記載があります。
   骨折の場合、変形障害、短縮障害などは、通常、骨癒合したとき(骨折が修復したとき)であり、症状固定まで6ヶ月もかからないことがあります。
   ギブスなどの外固定で治療する「保存療法」ではなく、骨折部位を手術して、骨癒合後に抜釘(プレートやスクリューの除去)をする場合には、症状固定まで長期間を要することがあります。
   骨癒合後に関節可動域制限の障害が生じる場合は、リハビリ期間が必要となることから、症状固定までの期間が長くなります。また、骨癒合後に痛みなどの神経症状が残る場合には、回復が見込まれる時期が過ぎる頃を症状固定日とします。
(2)ア 交通事故に関する赤い本講演録2013年・10頁には,症状固定に関する一般論として以下の記載があります。
   症状固定時期につき理由を付して検討しているものを取り上げ,その理由を整理してみました。一概には言えませんが,概ねの傾向としては,症状固定日に関する医師の判断を踏まえ,その合理性を,①傷害及び症状の内容(例えば,神経症状のみか),②症状の推移(例えば,治療による改善の有無,一進一退か),③治療・処置の内容(例えば,治療は相当なものか,対症療法的なものか,治療内容の変化),④治療経過(例えば,通院頻度の変化,治療中断の有無),⑤検査結果(例えば,他覚的所見の有無),⑥当該症状につき症状固定に要する通常の気管,⑦交通事故の状況(例えば,衝撃の程度),などの観点から判断し,不合理であれば別途適切な時期を症状固定日と判断している,といった説明が可能ではないかと思われます。
イ 「交通事故に関する赤い本講演録等の分野別目次」も参照して下さい。

8   骨折後の慢性的な痛みと12級認定
(1)   骨折後の慢性的な痛みについて12級が認定されるのは,経過診断書において「○○骨折」との傷病名から,骨の癒合や抜釘(ばってい)術後に「○○神経障害」や「○○麻痺」との傷病名が付され,その傷病に対してペインクリニック等の専門的な治療が施行されるも,症状が残存した場合に限られるみたいです(
後遺障害の等級認定手続き 慈友行政書士事務所HP「骨折後の後遺障害」参照)。
(2) 京都地裁平成28年6月14日判決は,主婦(症状固定時65歳,自賠責は14級9号)の左臀部(大転子部)の疼痛につき,インプラント(髄内釘(ずいないてい))が残置されていること,年齢に照らし負担が大きいため除去手術が行われなかったこと,医師が一貫してその突出部位の刺激が原因である旨診断していること等から,12級13号に該当すると判断しました(赤い本基準編2018年131頁)。

9 その他
(1) 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が原因で起こりやすい手足の骨折としては,大腿骨近位部骨折,上腕骨近位部骨折及び橈骨(とうこつ)遠位端骨折です(岡山の医療健康ガイドMEDICA HP「骨粗鬆症の話(3)骨脆弱性骨折 倉敷中央病院・整形外科部長 松本泰一 」参照)。
(2)   関節内骨折であれば当然ですが,出血性素因を有する人では軽微な外傷でも出血して,関節液に血が混入することがあります(高田整形外科病院HP「関節水症」参照)。

第8の2 脊椎及び脊髄

1 総論
(1)ア 脊椎は身体を支える重要なもので,7つの頚椎(C),12の胸椎(Th),5つの腰椎(L),仙骨(仙椎)及び尾骨で構成されています。
   脊椎の前方には椎体があり,その間にクッションの役目をする椎間板があります。その後方に頚椎から仙骨上部までは脊柱管があり,脊髄(せきずい)や馬尾(ばび)神経がその中を通っています。
イ 成人の背骨の数は26個となります(股関節の痛みの原因を治療するブログ「背骨の数は?名前と構造をレントゲンと図でわかりやすく解説します」参照)。
(2) 脊柱は椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が椎間板(ついかんばん)と靭帯でつなげられてできています。
(3) 生理的弯曲(わんきょく)として,頚椎及び腰椎は前方に弯曲し,胸椎及び仙椎は後方に弯曲しています。
(4) 脊椎の主な機能は以下のとおりです。
① 脊髄などの大切な神経を保護する。
② 上半身を支える。
③ 上半身を動かす。
④ 肋骨との組み合わせで内蔵を保護する。
(5)ア 脊髄部位の略記法は以下のとおりです。
・ 頚はC=Cervical(サービカル) 
・ 胸はT=Thoracic(スォーラシク)
→ ドイツ語のTh(テーハーと読む)とも表記されます。
・ 腰はL=Lumbar(ランバー) 
・ 仙はS=Sacral(セイクラル) 
・ 尾はCo=Coccyx(コクシクス) 
イ 椎体と髄節で同じC,T,L,Sを使っていることから,損傷レベルで混同されることがあります。

2 椎骨
(1)ア 椎骨は,前方に支柱となる椎体(ついたい)が存在し,その後ろに脊髄が通る脊柱管が存在します。
   脊柱管の後方は椎弓(ついきゅう)によって覆われ,椎弓と椎体は椎弓根(ついきゅうこん)によって結び付けられています。
イ 上下の椎骨は,前方では椎間板で,後方では椎間関節を介して連結しており,この連結は靭帯(前縦靭帯,後縦靭帯,黄色靭帯,棘間靭帯及び棘上靭帯)でさらに強固になっています(中外医学社HP「脊椎・脊髄 解剖」参照)。
(2)ア 椎体の後ろ部分,椎弓及び椎弓根によって形成される空間が椎孔(ついこう)であり,上下の椎孔が連なることによって脊柱管となっています。
イ 椎孔は,第一頚椎(環椎)を除くすべての椎骨に存在します。
(3) 椎体は頚椎,胸椎及び腰椎で形が異なります。
   腰椎にかかる負担は非常に大きいため,もっとも幅広く大きな形をしています。
(4)ア 第二頚椎(軸椎)から仙椎までのすべての椎骨の後端は隆起して突出しており,これを棘突起(きょくとっき)といいます。
イ 第7頚椎の棘突起はひときわ大きく,外からも触ることができますから,隆椎(りゅうつい)ともいいます。

3 椎間板

(1) 椎骨と椎骨の間に椎間板があります。
   中心はゼリー状の髄核(ずいかく)で,その周辺は繊維輪で層状に覆われています。
(2) 椎間板は脊椎にかかる負担を和らげるクッションの役割をすると同時に,脊椎が動くことを可能にしています。
(3)ア 髄核が後方に突出して脊柱管内の神経(脊髄)又は神経根を圧迫した場合,椎間板ヘルニアとなります。
イ 日本整形外科学会HP「頚椎椎間板ヘルニア」「胸椎椎間板ヘルニア」及び「腰椎椎間板ヘルニア」が載っています。
(4) 加齢変化による頚椎症(椎間板の膨隆・骨のトゲの形成)の変化に酔って,脊髄から分かれて上肢に行く「神経根」が圧迫されたり,刺激されたりした場合,肩から腕の痛みが発生します(日本整形外科学会HP「頚椎症性神経根症」参照)。

4 椎間関節及び靭帯(前縦靭帯,後縦靭帯及び黄色靭帯)

(1) 椎間関節は,連結した椎骨と椎骨が関節のように動くことで,首や体(上肢)の運動を可能にしています。
(2) 椎骨をつなぐ前縦靭帯(ぜんじゅうじんたい)及び後縦靭帯(こうじゅうじんたい)は幅広く薄いテープのような形をしていて,頚椎から腰椎までをつないでいます。
   黄色靭帯(おうしょくじんたい)は,膜のような形をしていて,椎弓と椎弓をつないでいます。
(3) 後縦靭帯は脊柱管の前方部分にあり,黄色靭帯は脊柱管の後方部分にあります。
(4) 靭帯が切れた場合,関節や脊椎は抑制が効かなくなって異常な動きをします。
   靭帯が硬くなってしまうと固定されてしまい,関節や脊椎が動かなくなります。

5 頚椎

(1) 頚椎は7個の椎骨から成っており,椎間板,椎間関節,靭帯により連結されています。
(2) 7個の椎骨は上から順番に,第一頚椎(C1),第二頚椎(C2),第三頸椎(C3),第四頚椎(C4),第五頚椎(C5),第六頚椎(C6),第七頸椎(C7)と呼ばれます。
(3) 第一頚椎は環椎(かんつい),第二頚椎は軸椎(じくつい)と呼ばれています。
   これらは特別な形をしているため,頭を左右に回すことができます。
(4) 第二頚椎以下の椎体と椎体の間には軟骨から出来ている椎間板があり,椎体を結びつける役割と同時に,クッションの役割や動きの微調整を果たしています。
(5) 頚椎にある脊髄は頸髄(けいずい)と呼ばれ,脳の最も下にある延髄とつながっています。
   頸髄からは8本の神経(頸髄神経)が枝分かれして,腕や手の方に伸びています。

6 腰椎

(1) 腰椎は5個の椎骨から成っており,椎間板,椎間関節,靭帯により連結されています。
(2) 5個の椎骨は上から順番に,第一腰椎(L1),第二腰椎(L2),第三腰椎(L3),第四腰椎(L4),第5腰椎(L5)と呼ばれます。
(3)ア 第一腰椎と第二腰椎の間の椎間板はL1/2,第二腰椎と第三腰椎の間の椎間板はL2/3,第三腰椎と第四腰椎の間の椎間板はL3/4,第四腰椎と第五腰椎の間の椎間板はL4/5といいます。
イ 腰椎の原因の中で圧倒的に多いヘルニアは,L4/5の腰椎椎間板ヘルニアです(eo健康HP「腰椎椎間板ヘルニアとは」参照)。
(4)   
腰椎すべり症とは,積み木のように連なる腰椎が,文字通り前方へ滑り出してしまい,様々な症状を引き起こす病気です。
   腰椎すべり症は,背骨や椎間板などの変性によって起こる「変性すべり症」と,腰椎分離症に続発する「分離すべり症」とに分けられます(腰椎の専門医による安心アドバイスHP「腰椎すべり症」参照)。

7 脊髄
(1) 脊椎は骨であり,脊髄は神経です。
(2)ア 脊髄は,脊柱管を通り,延髄(えんずい)の尾側から第一腰椎及び第二腰椎の間まであります。
イ 脳と脊髄を合わせて中枢神経系といいます。
ウ 脊髄円錐(脊髄の末端のことです。)より下は神経根のみが伸びていますところ,腰仙部の脊髄神経根の束は馬の尻尾(しっぽ)に似ていることから,馬尾(ばび)といわれます。
エ   中枢神経系と,皮膚・感覚器官・筋肉・腺などとを連絡する神経を末梢神経といいます。
   末梢神経はその働きから,脳・脊髄から信号が出ていく側の遠心性神経と,脳・脊髄へ信号が戻ってくる求心性神経に区別されます。
(3) 脊髄にある31の分節を髄節といい,それぞれの髄節の左右の腹側から運動神経根(「前根」,「腹側神経根」ともいいます。)が,背側から感覚神経根(「後根」,「背側神経根」ともいいます。)が出ています。
(4)ア 脊髄から直接出ている神経は神経根といわれ,8対の頸髄,12対の胸髄,5対の腰髄,5対の仙髄及び1対の尾髄に分かれます。
イ おおむね,頸髄は手や腕の末梢神経とついがり,胸髄は胸腹部の末梢神経とつながり,腰髄は腰部や足の末梢神経とつながっています。
(5) 脊髄を損傷した場合,損傷したところとそれより下位の神経系の全部に影響が発生します。

8 脊損
(1) 脊損(せきそん)には,脊椎損傷(骨のみの損傷)及び脊髄損傷(骨の損傷に脊髄の損傷が加わったもの)があります。
(2) 脊椎損傷のうち,椎体が骨折したものを外傷性椎体骨折といいます。
(3)ア 脊髄損傷の場合,脊髄(脳と同じ中枢神経)が損傷を受けた状態ですから,神経症状が生じます。
   神経症状は,脊髄であれば四肢の麻痺が,胸髄・腰髄であれば両下肢の麻痺が発生します。
イ 麻痺の程度は受傷時のエネルギーや骨折の形態によって異なります。
   軽いものであれば感覚障害(しびれや触った感覚の鈍麻)のみの場合もありますものの,重症の場合,運動麻痺がおこり歩行ができずに車いすが必要になったりします。
   さらに重症の場合,呼吸ができずに人工呼吸器が必要になることもあります。
(4) 日弁連交通事故相談センターHPの「脊髄損傷」に,「(脊髄損傷による障害について)9級以上の認定を受けるには、原則として、脳や脊髄などの中枢神経の異常が必要とされています。これは、労働能力に明らかな影響を与える神経症状は、末梢神経よりも中枢神経の異常があるからだという理由によります。」と書いてあります。
(5) 臨床工学技士は,医師の指示の下に,生命維持管理装置の捜査及び保守点検を行うことを業としています(臨床工学技士法2条2項)。
(6) KOMPAS(慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト)「脊髄損傷のリハビリテーション」によれば,脊髄損傷の運動レベルと日常生活動作(ADL)は以下のとおりです。

運動レベル Keyとなる機能残存筋 日常生活の目安

C3以上

胸鎖乳突筋、僧帽筋

全介助 呼吸器使用

C4

横隔膜

全介助、一部食事は装具を用いて可能

C5

三角筋、上腕二頭筋

装具、補助具を用いて食事、整容が可能。電動車いす、平地での車いす駆動が可能

C6

橈側手根伸筋

更衣、自己導尿、ベッドと車いすの移乗、車いす駆動、自動車運転が可能

C7

上腕三頭筋、指伸筋

日常生活全般は一部介助~ほぼ自立。車いす駆動、移乗、入浴可能

C8~T1

指屈筋群、手内筋

普通型車いすでADL自立

T12

腹筋群

長下肢装具とクラッチで歩行可能、実用には車いす

L3~4

大腿四頭筋

短下肢装具(+杖)で実用歩行可能


9 日本脊髄外科学会及び日本脊椎脊髄病学会

   脊椎に関する学術団体として,日本脊髄外科学会及び日本脊椎脊髄病学会(JSSR)があります。

10 参照HP

   個別に明記したHPのほか,以下のHP等を参照しました。
①   日本整形外科学会HP「脊椎の症状」
② 脊椎外科ジャーナルHP「椎骨の構造」
③ 脊椎手術.com「脊椎の解剖」
④ 日本骨折治療学会HP「外傷性椎体骨折・脊損
⑤ 頚椎・頸髄のしくみと働き(頚椎の解剖と生理)
⑥ 大阪府HPの「脊椎(せきつい)と脊髄(せきずい)について」
頚椎(C),胸椎(Th),腰椎(L),仙椎及び尾椎からなる脊椎(Wikipediaより)

第8の3 長骨(長管骨),胸骨,肋骨及び胸郭

1 長骨(長管骨)
(1)ア 長骨(ちょうこつ)(=管状骨(かんじょうこつ),長管骨(ちょうかんこつ))とは,細長い棒状の骨をいいます。
   上肢には,上腕骨及び前腕骨(橈骨及び尺骨からなります。)があり,下肢には,大腿骨,脛骨及び腓骨をいいます。
イ 長骨に変形が残った場合,後遺障害等級12級を認定されることがあります。
(2)ア 上腕骨(じょうわんこつ)とは,肩から肘までの骨をいいます。
イ 肘関節は,上腕骨,橈骨及び尺骨で形作られています。
(3)ア 橈骨(とうこつ)とは,肘から手首までの2本の前腕骨のうち,前腕の親指側にある骨をいい,尺骨(しゃっこつ)とは,肘から手首までの2本の前腕骨のうち,前腕の小指側にある骨をいいます。
イ 机に腕を置いたとき,下に来るのが尺骨ですから,「こうやって尺(長さ)を測る」と覚えればいいです。
(4)ア 大腿骨(だいたいこつ)とは,股から膝までの骨をいいます。
イ 股関節は,大腿骨の上端の丸い骨頭が骨盤のくぼみ(寛骨臼)にはまり込むようになって形作られています。
(5)ア   
脛骨(けいこつ)とは,膝から足首までの骨のうち,脛(すね)の内側の骨をいい,腓骨(ひこつ)とは,膝から足首までの骨のうち,脛(すね)の外側の骨をいいます。
   また,距骨(きょこつ)とは,足の内側後面の骨をいいます。
イ 足関節は,脛骨,腓骨及び距骨で形作られています。

2 胸骨及びその骨折
(1) 胸骨(きょうこつ)は,2本の肩甲骨の間から,いわゆるみぞおちの部分に存在する縦長の平たい骨であり,上から胸骨柄,胸骨体及び剣状突起の3つの部分からなります。
(2) 胸骨は鎖骨との間で胸鎖(きょうさ)関節によりつながっており,肩周りの動きを支えています。
(3) 交通事故による衝突の際にハンドルに胸部を打ち付けたり,シートベルトが締め付けたりした結果,胸骨骨折が発生することがあります。
(4) 胸骨骨折の多くは保存療法による治療で治るものの,骨折による骨のズレが大きく痛みが強い場合,手術が必要となります。
(5) 胸骨骨折の結果,裸体となったとき,変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度の変形が胸骨に残った場合,後遺障害診断書右側の「⑨体幹骨の変形」欄にその旨を記載してもらえれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。

3 肋骨及びその骨折
(1) 肋骨(ろっこつ)は胸部内蔵を覆う骨であり,あばら骨ともいいます。
(2)ア 肋骨は全部で24本あり,両側に12本ずつあります。
   それぞれ第一肋骨から第十二肋骨という風に名前がついています。
イ 第十一肋骨及び第十二肋骨は胸骨とはくっついていません。
(3) 肋骨の一本一本は細くて衝撃に対して弱いため,骨折しやすい骨です。
(4) 肋骨骨折は胸壁への鈍的損傷の結果生じ,通常は強い力(例えば,急激な減速,野球のバット,重大な転倒)が関与します(MSDマニュアル「肋骨骨折」参照)。
(5)ア 肋骨骨折の結果,裸体となったとき,変形(欠損を含む)が明らかに分かる程度の変形が肋骨に残った場合,後遺障害診断書右側の「⑨体幹骨の変形」欄にその旨を記載してもらえれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。
イ 肋骨の変形は,その本数,程度,部位等に関係なく,肋骨全体が一括して一つの障害として取り扱われますし,肋軟骨についても,肋骨に準じて取り扱われます。
(6) 大きな外力による場合には複数の肋骨が骨折することが多く,胸郭内の肺や心臓,大血管に損傷が及ぶことが多く,命にかかわってくる場合があります。
   このような時には胸部外科での治療が必要となりますが、通常の骨折は整形外科で診察します(日本骨折治療学会HP「肋骨骨折」参照)。
(7) 肋骨骨折の後遺障害として,肋骨の変形障害(後遺障害等級12級)が残ることがあります(豊橋の弁護士による交通事故相談HPの「肋骨(ろく骨)骨折と後遺障害(後遺症)」参照)。

4 胸郭
(1) 胸郭(きょうかく)は,12個の胸椎,左右12対の肋骨及び1個の胸骨から成り立っており,円錐形に近い形をしています。
(2) 胸郭の中にある,肺や心臓などを囲む空間が胸腔(きょうくう)です。

5 気胸
(1) 気胸(ききょう)とは,肺から空気が漏れて胸腔にたまっている状態をいい,発生原因に応じて,①自然気胸,②外傷による気胸及び③生理による気胸があります(柏病院HP「自然気胸の基礎知識」参照)。
(2)ア 気胸は,胸部レントゲンによって認められる肺のしぼみ具合などの基準で,以下のように分類されます(恩師財団済生会HP「気胸」参照)。
軽度(Ⅰ度): 肺の頂部が鎖骨より上にあり、少し肺がしぼんでいる状態
中等度(Ⅱ度): 肺の頂部が鎖骨より下にある状態
高度(Ⅲ度): 肺が半分以下にしぼんでいる状態
イ  軽度の気胸の場合,外来通院が可能で,数日間の安静でよくなることがあります。
   しかし,中等度又は高度の場合,入院した上で,胸腔ドレナージによる持続脱気療法が必要です。
(3) 緊張性気胸とは,胸腔にたまった空気が肺や心血管を圧迫している状態をいい,例えば,交通事故による肋骨骨折により発生します。
   緊張性気胸は肺や心血管を圧迫するため,放置すると呼吸状態が悪化するだけでなく,血圧が低下したり,ショック状態となったりします。
   そのため,診断や適切な処置が遅れると多くの場合は致命的となり,命に関わる状態に陥りますから,肺の中にたまった空気を外に出す「胸腔ドレナージ」を緊急に行う必要があります(恩師財団済生会HP「緊張性気胸」参照)。

第9 骨接合術及び抜釘術,並びに人工骨頭置換術及び人工関節置換術

1   骨接合術及び抜釘術,並びに抜釘術に関する裁判例
(1) 骨接合術
ア   ①単純な骨折の場合,折れた骨同士を固定するピンニング,又は骨折部をねじなどで止めるスクリュー固定が行われ,②関節や関節近くの骨折の場合,皮膚を切開して骨折した部分をプレートやスクリューを使って固定するプレート固定が行われ,③上腕骨,大腿骨,脛骨など大きな骨の骨幹部(骨の中央部)が折れた場合,髄内釘(ずいないてい)固定が行われるみたいです(ジョンソン&ジョンソンHP「骨折手術」参照)。
イ ガーデン分類によれば,大腿骨頚部骨折は,①転位(骨折部のずれ)がない不完全骨折(ステージ1),②転位がない完全骨折(ステージ2),③転位があるものの,軟部組織の連続性が残存している完全骨折(ステージ3)及び④転位があり,軟部組織の連続性が残存していない完全骨折(ステージ4)に分かれます(整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ「大腿骨頸部骨折の診断や分類方法は?Garden分類とは?」参照)。
ウ 整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ「大腿骨頸部骨折の手術療法の種類は?人工骨頭置換術は?」に,ピンニングの一種としてのハンソンピン固定術のレントゲン写真が載っています。
エ 骨接合術は,骨折観血的手術ともいいます(整形外科の歩き方HP「大腿骨近位部骨折」参照)。
(2) 抜釘(ばってい)術
ア 抜釘術とは,インプラント(金属製のプレートやネジです。)を使って骨折部を固定するという骨接合術を行った場合,骨がつながった後に再手術をしてインプラントを取り除くという手術(「抜釘術」といいます。)をいいます。
イ 麻布十番プライマリメディカルクリニックHP「乳がん・各種手術後ケア」に,股関節の術後ケア,膝の術後ケア,足の術後ケア,肩の術後ケア,肘の術後ケア,手の術後ケア,腰の術後ケア等が載っています。
ウ 目指せスポーツドクターHP「骨折手術後のインプラント抜去(抜釘)の必要性とタイミング(時期)とは 」によれば,成人の場合,プレート及び髄内釘の抜釘時期は18-24ヶ月とのことです。
エ にちプチブログ「【脛骨腓骨骨折】髄内釘・抜釘手術の費用や治療後の経過についてレポート!」(脛骨(けいこつ)は膝から足首までの骨の「内」側であり,腓骨(ひこつ)は膝から足首までの骨の「外」側です。)が載っています。
   例えば,抜釘術の前に行う脊椎麻酔について以下の記載があります。
① 感覚としては徐々に足がしびれてきて下半身の感覚が無くなる感じです。正座とか、ずっと同じ体勢で座ってると足がしびれてくるあの感じで、併せて金縛りのように自分の足が動かせなくなる。
② 今回の腰椎麻酔はスゴくて、本当にピクリとも動かない上に感覚も全くない。動かそうとしても、どうやってその命令を足に伝えるかが分からなくなる。
③ 「フンッ!」って力入れても下っぱらに力が入るだけで足はピクリとも動かない。下半身不随になった人の気持ちがよくわかりました。
オ 済生会横浜市東部病院HP「抜釘の手術を受けられる患者さんへ」が載っています。
(3) 抜釘術に関する裁判例(担当裁判官によって判断基準に違いがありますから,あくまでも一例です。)
   東京地裁平成11年1月12日判決は,右脛骨の変形癒合(12級8号),右第4指DIP関節機能障害(14級8号),右前腕回外制限等(14級10号,併合12級)の板金士(男・症状固定時36歳)につき,傷害分300万円,後遺障害分270万円のほか,将来の抜釘術に伴う損害は独立の損害項目として認められないが,抜釘術に伴う危険や各種の損害が発生する可能性があるとして,130万円の慰謝料を認めました(赤い本基準編2018年205頁)。

2 人工骨頭置換術及び人工関節置換術の違い等
(1)   
人工骨頭置換術は,大腿骨頚部内側骨折や,大腿骨頭が何らかの原因で壊死を起こした場合に,大腿骨頭を切除し,金属又はセラミックでできた骨頭で置換する手術です(関節が痛いHP「人工骨頭置換術」参照)。
(2) 人工「骨頭」置換術の場合,人工「関節」置換術の場合と異なり,臼蓋(きゅうがい)(骨頭を支える部分)の置換を行いません(北斗病院HP「人工骨頭手術(じんこうこっとうしゅじゅつ)」参照)。
(3) 「高齢者の大腿骨頸部・転子部骨折とリハビリテーション」には,「1975 ~ 1990 年の106 論文をまとめた報告では20,169 人の患者に対して31%が骨接合術,65%が人工骨頭置換術,4%が人工関節置換術を施行されていた.」と書いてあります。
① 単純人工骨頭(モノポーラ型)
・ 大腿骨頭に相当する部分が単一の部品でできていて,臼蓋(きゅうがい)と人工骨頭の間だけ可動性があるタイプです。
② 双極性人工骨頭(バイポーラ型)
・ 大腿骨頭に相当する部分がアウターカップとインナーヘッドに分かれていて,臼蓋(きゅうがい)と人工骨頭の間,及びアウターカップとインナーヘッドの間の2箇所に可動性があるタイプです。
(4) 人工関節の広場HP「人工関節置換術に関するもの」に,よくある質問(手術前)よくある質問(手術後)及びその他の質問が載っています。
(5) 人工関節に関する学術団体として,日本人工関節学会があります。

3 骨接合術と人工骨頭置換術の使い分け等
(1) 大腿骨頚部「内側」骨折の場合,原則として人工骨頭置換術を行うのであって,例外的に,骨接合術を行うに過ぎないのに対し,大腿骨頚部「外側」骨折の場合,スクリューやプレートなど色々な金具を使用して固定するという骨接合術を行うみたいです(医療法人社団おると会HP「大腿骨頚部骨折(内側骨折、外側骨折)」参照)。
(2) 日本骨折治療学会HP「大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折 ~高齢者の脚の付け根の骨折~」には以下の記載があります。
① 骨粗鬆症は女性に圧倒的に多い疾患です.なので,大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折は,高齢女性に好発します.男女比は1:4くらいです.
② 大腿骨頚部骨折に対して,骨接合術と人工骨頭置換術のいずれを行うのがよいかという点に関しては,患者さんやご家族の好みも考慮して判断する必要はあるのですが,医学的には骨折部が大きくずれている場合には人工骨頭置換術,あまりずれていない場合には骨接合術を選択するのがよいのではないかと考えられています.
③ 高齢者の平均余命は若年者や壮年者に比べて短いので,人工骨頭の耐久性はあまり問題になりません.したがって,ずれの大きい大腿骨頚部骨折では,再手術の危険性を少しでも回避するために人工骨頭置換術を選択する場合が多いのです.
④ 大腿骨頚部骨折や大腿骨転子部骨折では,受傷前に屋外活動を一人で行うことが可能であった患者さんでも,半年から1年後に元通りに近い歩行能力を獲得できるのは,全体の50%程度にすぎません.本人のリハビリテーションに対する努力と,家族の励ましが重要です.
(3) 徳洲会グループHP「整形外科の病気:大腿骨頚部・転子部骨折」には以下の記載があります。
   大腿骨頚部骨折は関節内の骨折で、ずれやすく骨癒合しにくいため、転位(骨折部のずれ)が小さい場合でも骨折部を固定する骨接合術(図3)が考慮されます。ご高齢の方で転位(骨折のずれ)が大きい場合には大腿骨頭に血液を供給する血管が損傷され(図4)、将来的に大腿骨頭が壊死を起こす可能性が高いことを考慮して人工物置換術(活動性の高い方には人工股関節置換術(図5)、全身状態が悪いまたはご高齢で活動性が低い方には人工骨頭挿入術(図6))が推奨されています1)。 
(4) 人工関節の広場HPに,人工股関節全置換術人工膝関節全置換術及び人工肘関節全置換術,並びに人工関節にまつわるお金のはなしが載っています。
   また,人工関節の広場HP「関節の病気と症状」に,股関節(こかんせつ),膝関節(ひざかんせつ)及び肘関節(ひじかんせつ)に関する主な病気と症状等が載っています。

第10 関節可動域の測定要領(平成16年6月4日付の厚生労働省労働基準局長通達の別添)

○厚生労働省HPの「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」の「関節可動域の測定要領」は以下のとおりです。
○基準に照らしてわずかでも多い目に関節が曲がった場合,後遺障害等級が下がりますし,例えば,12級の基準より少しでも余分に曲がった場合,後遺障害等級は非該当となります。
   そのため,医師が無理に関節を曲げようとした場合,これ以上関節が曲がらないとすぐに伝えてください。

1 労災保険における関節可動域の測定
(1) 関節の機能障害は、関節そのものの器質的損傷によるほか、各種の原因で起こり得るから、その原因を無視して機械的に角度を測定しても、労働能力の低下の程度を判定する資料とすることはできない。
したがって、測定を行う前にその障害の原因を明らかにしておく必要がある。関節角度の制限の原因を大別すれば、器質的変化によるものと機能的変化によるものとに区分することができる。さらに、器質的変化によるもののうちには、関節それ自体の破壊や強直によるもののほかに、関節外の軟部組織の変化によるもの(例えば、阻血性拘縮)があり、また、機能的変化によるものには、神経麻痺、疼痛、緊張によるもの等があるので、特に機能的変化によるものの場合には、その原因を調べ、症状に応じて測定方法等に、後述するとおり、考慮を払わなければならない。
関節可動域の測定値については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として、他動運動による測定値によることとするが、他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として、障害の認定を行う必要がある。 他動運動による測定値を採用することが適切でないものとは、例えば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり、他動では関節が可動するが、自動では可動できない場合、関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等をいう。
また、関節が1方向には自動できるが逆方向には自動できない場合の可動域については、基本肢位から自動できない場合は0度とすること。




手関節を基本肢位から自動で90度屈曲することができるが、橈骨神経損傷により自動では伸展が全くできない場合、健側の可動域が屈曲・伸展を合計して160度のときは、患側の可動域は、健側の3/4以下に制限されていることとなり、「関節の機能障害」に該当する。




(2) 被測定者の姿勢と肢位によって、各関節の運動範囲は著しく変化する。特に関節自体に器質的変化のない場合にはこの傾向が著しい。例えば、前述した阻血性拘縮では手関節を背屈すると各指の屈曲が起こり、掌屈すると各指の伸展が起こる。
また、ひじ関節では、その伸展筋が麻痺していても、下垂位では、自然に伸展する。
そこで、各論において述べる基本的な測定姿勢のほか、それぞれの事情に応じ、体位を変えて測定した値をも考慮して運動制限の範囲を判定しなければならない。
(3) 人の動作は、一関節の単独運動のみで行われることは極めてまれであって、一つの動作には、数多くの関節の運動が加わるのが普通である。したがって、関節の角度を測定する場合にも、例えば、せき柱の運動には股関節の運動が、前腕の内旋又は外旋運動には、肩関節の運動が入りやすいこと等に注意しなければならない。しかし、他面、かかる各関節の共働運動は無意識のうちにも起こるものであるから注意深く監察すれば、心因性の運動制限を診断し、又は詐病を鑑別するに際して役立つことがある。なお、障害補償の対象となる症状には心因性の要素が伴われがちであるが、これが過度にわたる場合は当然排除しなければならない。その方法としては、前述の各関節の共働運動を利用して、被測定者の注意をり患関節から外させて測定する方法のほかに、筋電図等電気生理学的診断、精神・神経科診断等が有効である。
2 関節可動域表示並びに測定法の原則
(1) 基本肢位
概ね自然立位での解剖学的肢位を基本肢位とし、その各関節の角度を0度とする。
ただし、肩関節の外旋・内旋については肩関節外転0度でひじ関節90度屈曲位、前腕の回外・回内については手掌面が矢状面にある肢位、股関節外旋・内旋については股関節屈曲90度でひざ関節屈曲90度の肢位をそれぞれ基本肢位とする。
(2) 関節の運動
   関節の運動は直交する3平面、すなわち前額面、矢状面、水平面を基本面とする運動である。ただし、肩関節の外旋・内旋、前腕の回外・回内、股関節の外旋・内旋、頸部と胸腰部の回旋は、基本肢位の軸を中心とした回旋運動である。また、母指の対立は、複合した運動である。
   関節可動域測定とその表示で使用する関節運動とその名称を以下に示す。
なお、下記の基本的名称以外によく用いられている用語があれば(  )内に表記する。
(ア) 屈曲と伸展
多くは矢状面の運動で、基本肢位にある隣接する2つの部位が近づく動きが屈曲、遠ざかる動きは伸展である。ただし、肩関節、頸部・体幹に関しては、前方への動きが屈曲、後方への動きが伸展である。また、手関節、手指、足関節、足指に関しては、手掌または足底への動きが屈曲、手背または足背への動きが伸展である。
(イ) 外転と内転
多くは前額面の運動で、体幹や手指の軸から遠ざかる動きが外転、近づく動きが内転である。
(ウ) 外旋と内旋
肩関節及び股関節に関しては、上腕軸または大腿軸を中心として外方へ回旋する動きが外旋、内方へ回旋する動きが内旋である。
(エ) 回外と回内
前腕に関しては、前腕軸を中心にして外方に回旋する動き(手掌が上を向く動き)が回外、内方に回旋する動き(手掌が下を向く動き)が回内である。
(オ) 右側屈・左側屈
頸部、体幹の前額面の運動で、右方向への動きが右側屈、左方向への動きが左側屈である。
(カ) 右回旋と左回旋
頸部と胸腰部に関しては、右方に回旋する動きが右回旋、左方に回旋する動きが左回旋である。
(キ) 橈屈と尺屈
手関節の手掌面の運動で、橈側への動きが橈屈、尺側への動きが尺屈である。
(ク) 母指の橈側外転と尺側内転
母指の手掌面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(橈側への動き)が橈側外転、母指の基本軸に近づく動き(尺側への動き)が尺側内転である。
(ケ) 掌側外転と掌側内転
母指の手掌面に垂直な平面の運動で、母指の基本軸から遠ざかる動き(手掌方向への動き)が掌側外転、基本軸に近づく動き(背側方向への動き)が掌側内転である。
(コ) 中指の橈側外転と尺側外転
中指の手掌面の運動で、中指の基本軸から橈側へ遠ざかる動きが橈側外転、尺側へ遠ざかる動きが尺側外転である。
(3) 関節可動域の測定方法
   関節可動域は、他動運動でも自動運動でも測定できるが、原則として他動運動による測定値を表記する。自動運動による測定値を用いる場合は、その旨明記する〔(4)のイの(ア)参照〕。
   角度計は、十分な長さの柄がついているものを使用し、通常は、5度刻みで測定する。
   基本軸、移動軸は、四肢や体幹において外見上分かりやすい部位を選んで設定されており、運動学上のものとは必ずしも一致しない。また、手指および足指では角度計のあてやすさを考慮して、原則として背側に角度計をあてる。
   基本軸と移動軸の交点を角度計の中心に合わせる。また、関節の運動に応じて、角度計の中心を移動させてもよい。必要に応じて移動軸を平行移動させてもよい。
   多関節筋が関与する場合、原則としてその影響を除いた肢位で測定する。例えば、股関節屈曲の測定では、ひざ関節を屈曲しひざ屈筋群をゆるめた肢位で行う。
   肢位は「測定肢位および注意点」の記載に従うが、記載のないものは肢位を限定しない。変形、拘縮などで所定の肢位がとれない場合は、測定肢位が分かるように明記すれば異なる肢位を用いてもよい〔(4)のイの(イ)参照〕。
   筋や腱の短縮を評価する目的で多筋を緊張させた肢位で関節可動域を測定する場合は、測定方法が分かるように明記すれば、多関節筋を緊張させた肢位を用いてもよい〔(4)のイの(ウ)参照〕。
(4) 測定値の表示
   関節可動域の測定値は、基本肢位を0度として表示する。例えば、股関節の可動域が屈曲位20度から70度であるならば、この表現は以下の2通りとなる。
(ア) 股関節の関節可動域は屈曲20度から70度(または屈曲20度~70度)
(イ) 股関節の関節可動域は屈曲は70度、伸展は-20度
   関節可動域の測定に際し、症例によって異なる測定法を用いる場合や、その他関節可動域に影響を与える特記すべき事項がある場合は、測定値とともにその旨併記する。
(ア) 自動運動を用いて測定する場合は、その測定値を(  )で囲んで表示するか、「自動」または「active」などと明記する。
(イ) 異なる肢位を用いて測定する場合は、「背臥位」「座位」などと具体的に肢位を明記する。
(ウ) 多関節筋を緊張させた肢位を用いて測定する場合は、その測定値を〈  〉で囲んで表示するが、「ひざ伸展位」などと具体的に明記する。
(エ) 疼痛などが測定値に影響を与える場合は、「痛み」「pain」などと明記する。
(5) 参考可動域
関節可動域については、参考可動域として記載した。
(6) その他留意すべき事項
   測定しようとする関節は十分露出すること。特に女性の場合には、個室、更衣室の用意が必要である。
   被測定者に精神的にも落ちつかせる必要があり、測定の趣旨をよく説明するとともに、気楽な姿勢をとらせること。
(7) 各論(PDF:122KB)

第11 身体障害者手帳における上肢及び下肢の障害の認定基準

○一上肢の3大関節(肩関節,肘関節及び手関節)のうち,いずれか一関節の機能を全廃した場合は4級(自賠責では8級)であり,著しい障害が発生した場合(ただし,可動域は概ね30度以下)は5級(自賠責では10級)です。
   股関節又は膝関節のうち,いずれか一関節の機能を全廃した場合は4級(自賠責では8級)であり,著しい障害が発生した場合(ただし,可動域は概ね30度以下)は5級(自賠責では10級)です。
   足関節の機能が全廃した場合は5級(自賠責では8級)であり,著しい障害が発生した場合は6級(自賠責では10級)です。
○大阪市HPに「身体障がい者手帳」が,くれよんBOX HP「身体障害者手帳等級表」が載っています。
身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について(平成26年1月21日(障発0121第1号)による改正後のもの)のうち,肢体不自由に関する記載は以下のとおりです。

四 肢体不自由
1 総括的解説
(1) 肢体不自由は機能の障害の程度をもって判定するものであるが、その判定は、強制されて行われた一時的能力でしてはならない。
例えば、肢体不自由者が無理をすれば1kmの距離は歩行できるが、そのために症状が悪化したり、又は疲労、疼痛等のために翌日は休業しなければならないようなものは1km歩行可能者とはいえない。
(2) 肢体の疼痛又は筋力低下等の障害も、客観的に証明でき又は妥当と思われるものは機能障害として取り扱う。
具体的な例は次のとおりである。
a 疼痛による機能障害
筋力テスト、関節可動域の測定又はエックス線写真等により、疼痛による障害があることが医学的に証明されるもの
b 筋力低下による機能障害
筋萎縮、筋の緊張等筋力低下をきたす原因が医学的に認められ、かつ、徒手筋力テスト、関節可動域の測定等により、筋力低下による障害があることが医学的に証明されるもの
(3) 全廃とは、関節可動域(以下、他動的可動域を意味する。)が10度以内、筋力では徒手筋力テストで2以下に相当するものをいう(肩及び足の各関節を除く。)。
   機能の著しい障害とは、以下に示す各々の部位で関節可動域が日常生活に支障をきたすと見なされる値(概ね90度)のほぼ30%(概ね30度以下)のものをいい、筋力では徒手筋力テストで3(5点法)に相当するものをいう(肩及び足の各関節を除く。)。
   軽度の障害とは、日常生活に支障をきたすと見なされる値(概ね90度で足関節の場合は30度を超えないもの。)又は、筋力では徒手筋力テストで各運動方向平均が4に相当するものをいう。
(注4) 関節可動域は連続した運動の範囲としてとらえ、筋力は徒手筋力テストの各運動方向の平均値をもって評価する。
(4) この解説においてあげた具体例の数値は、機能障害の一面を表わしたものであるので、その判定に当たっては、その機能障害全般を総合した上で定めなければならない。
(5) 7級はもとより身体障害者手帳交付の対象にならないが、等級表の備考に述べられているように、肢体不自由で、7級相当の障害が2つ以上ある時は6級になるので参考として記載したものである。
(6) 肢体の機能障害の程度の判定は義肢、装具等の補装具を装着しない状態で行うものであること。なお、人工骨頭又は人工関節については、人工骨頭又は人工関節の置換術後の経過が安定した時点の機能障害の程度により判定する。
(7) 乳幼児期以前に発現した非進行性の脳病変によってもたらされた脳原性運動機能障害については、その障害の特性を考慮し、上肢不自由、下肢不自由、体幹不自由の一般的認定方法によらず別途の方法によることとしたものである。

2 各項解説
(1) 上肢不自由
ア 一上肢の機能障害
(ア) 「全廃」(2級)とは、肩関節、肘関節、手関節、手指の全ての機能を全廃したものをいう。
(イ) 「著しい障害」(3級)とは、握る、摘む、なでる(手、指先の機能)、物を持ち上げる、運ぶ、投げる、押す、ひっぱる(腕の機能)等の機能の著しい障害をいう。
   具体的な例は次のとおりである。
a 機能障害のある上肢では5kg以内のものしか下げることができないもの。この際荷物は手指で握っても肘でつり下げてもよい
b 一上肢の肩関節、肘関節又は手関節のうちいずれか2関節の機能を全廃したもの
(ウ) 「軽度の障害」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
a 精密な運動のできないもの
b 機能障害のある上肢では10kg以内のものしか下げることのできないもの
イ 肩関節の機能障害
(ア) 「全廃」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域30度以下のもの
b 徒手筋力テストで2以下のもの
(イ) 「著しい障害」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域60度以下のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
ウ 肘関節の機能障害
(ア) 「全廃」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域10度以下のもの
b 高度の動揺関節
c 徒手筋力テストで2以下のもの
(イ) 「著しい障害」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域30度以下のもの
b 中等度の動揺関節
c 徒手筋力テストで3に相当するもの
d 前腕の回内及び回外運動が可動域10度以下のもの
エ 手関節の機能障害
(ア) 「全廃」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域10度以下のもの
b 徒手筋力テストで2以下のもの
(イ) 「著しい障害」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域30度以下のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
オ 手指の機能障害
(ア) 手指の機能障害の判定には次の注意が必要である。
① 機能障害のある指の数が増すにつれて幾何学的にその障害は重くなる。
② おや指、次いでひとさし指の機能は特に重要である。
③ おや指の機能障害は摘む、握る等の機能を特に考慮して、その障害の重さを定めなければならない。
(イ) 一側の五指全体の機能障害
① 「全廃」(3級)の具体的な例は次のとおりである。
字を書いたり、箸を持つことができないもの
② 「著しい障害」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 機能障害のある手で5kg以内のものしか下げることのできないもの
b 機能障害のある手の握力が5kg以内のもの
c 機能障害のある手で鍬又はかなづちの柄を握りそれぞれの作業のできないもの
③ 「軽度の障害」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
a 精密なる運動のできないもの
b 機能障害のある手では10kg以内のものしか下げることのできないもの
c 機能障害のある手の握力が15kg以内のもの
(ウ) 各指の機能障害
① 「全廃」の具体的な例は次のとおりである。
a 各々の関節の可動域10度以下のもの
b 徒手筋力テスト2以下のもの
② 「著しい障害」の具体的な例は次のとおりである。
a 各々の関節の可動域30度以下のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
(2) 下肢不自由
ア 一下肢の機能障害
(ア) 「全廃」(3級)とは、下肢の運動性と支持性をほとんど失ったものをいう。
   具体的な例は次のとおりである。
a 下肢全体の筋力の低下のため患肢で立位を保持できないもの
b 大腿骨又は脛骨の骨幹部偽関節のため患肢で立位を保持できないもの
(イ) 「著しい障害」(4級)とは、歩く、平衡をとる、登る、立っている、身体を廻す、うずくまる、膝をつく、座る等の下肢の機能の著しい障害をいう。
   具体的な例は次のとおりである。
a 1km以上の歩行不能
b 30分以上起立位を保つことのできないもの
c 通常の駅の階段の昇降が手すりにすがらねばできないもの
d 通常の腰掛けでは腰掛けることのできないもの
e 正座、あぐら、横座りのいずれも不可能なもの
(ウ) 「軽度の障害」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
a 2km以上の歩行不能
b 1時間以上の起立位を保つことのできないもの
c 横座りはできるが正座及びあぐらのできないもの
イ 股関節の機能障害
(ア) 「全廃」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 各方向の可動域(伸展←→屈曲、外転←→内転等連続した可動域)が10度以下のもの
b 徒手筋力テストで2以下のもの
(イ) 「著しい障害」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 可動域30度以下のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
(ウ) 「軽度の障害」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
   小児の股関節脱臼で軽度の跛行を呈するもの
ウ 膝関節の機能障害
(ア) 「全廃」(4級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域10度以下のもの
b 徒手筋力テストで2以下のもの
c 高度の動揺関節、高度の変形
(イ) 「著しい障害」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域30度以下のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
c 中等度の動揺関節
(ウ) 「軽度の障害」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域90度以下のもの
b 徒手筋力テストで4に相当するもの又は筋力低下で2km以上の歩行ができないもの
エ 足関節の機能障害
(ア) 「全廃」(5級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域5度以内のもの
b 徒手筋力テストで2以下のもの
c 高度の動揺関節、高度の変形
(イ) 「著しい障害」(6級)の具体的な例は次のとおりである。
a 関節可動域10度以内のもの
b 徒手筋力テストで3に相当するもの
c 中等度の動揺関節
オ 足指の機能障害
(ア) 「全廃」(7級)の具体的な例は次のとおりである。
下駄、草履をはくことのできないもの
(イ) 「著しい障害」(両側の場合は7級)とは特別の工夫をしなければ下駄、草履をはくことのできないものをいう。
カ 下肢の短縮
    計測の原則として前腸骨棘より内くるぶし下端までの距離を測る。
キ 切断
   大腿又は下腿の切断の部位及び長さは実用長をもって計測する。従って、肢断端に骨の突出、瘢痕、拘縮、神経断端腫その他の障害があるときは、その障害の程度を考慮して、上位の等級に判定することもあり得る。
(3) 体幹不自由
   体幹とは、頸部、胸部、腹部及び腰部を含み、その機能にはそれら各部の運動以外に体位の保持も重要である。

第12 動揺関節及び習慣性脱臼

1 総論
   可動域制限以外の関節の機能障害としては,動揺関節及び習慣性脱臼があります。

2 動揺関節
(1)ア 動揺関節とは,関節内の筋や靱帯が断裂するなどして関節の安定性を失い,異常な動きをすることをいいます。
イ 異常な動きとは,参考可動域を大きく超えるような動き,又は異常な方向への動きをいいます。
ウ 靭帯損傷を原因として関節の異常な動きが発生している場合,関節不安定症ともいいます。
(2)ア 動揺関節は主として膝関節で発生しますが,肩関節,足関節でも発生することがあります。
イ 膝関節の4つの靭帯のいずれかを損傷した場合,膝関節が動揺関節となることがあります(扇法律事務所HP「膝関節の動揺(靭帯損傷)」参照)。
(3)ア 「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」において以下のとおり後遺障害等級が定められています。
① 上肢の動揺関節の場合
   常に硬性補装具を必要とするものは,後遺障害10級に準ずる関節の機能障害として取り扱い,時々硬性補装具を必要とするものは,後遺障害12級に準ずる関節の機能障害として取り扱います。
② 下肢の動揺関節の場合
   常に硬性補装具を必要とするものは,後遺障害8級に準ずる関節の機能障害として取り扱い,時々硬性補装具を必要とするものは,後遺障害10級に準ずる関節の機能障害として取り扱い,重激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としないものは,後遺障害12級に準ずる関節の機能障害として取り扱います。
イ 硬性補装具というのは,金属やプラスチックなどで関節を固定する補装具をいいます。
ウ 膝の動揺関節について後遺障害認定を受けるためには,ストレスX線撮影(徒手又は器具で圧力をかけ,靭帯の損傷によって生じる骨のズレをあえて生じさせた状態でレントゲンを撮影するという手法)をしてもらう必要があります(自賠責保険がもっとも重視している検査方法であることにつき,弁護士法人穂高の交通事故相談HP「膝の靭帯損傷による動揺関節の被害者の方へ」参照)。
(4)ア 弾発膝(ばね膝)とは,膝の半月板が損傷して膝の屈曲が障害されて滑らかではなくなっているものをいい,動揺関節の一種です(むさしの森法律事務所 交通事故法律相談HP「弾発膝とは何ですか。後遺障害となりますか。」参照)。
イ 弾発膝となった場合,後遺障害12級に準ずる関節の機能障害として取り扱います。

3 習慣性脱臼
(1) 習慣性脱臼とは,外傷性脱臼の治癒後,関節包の弛緩(しかん)、関節窩(か)などの骨の変化などを原因として、たびたび脱臼を重ねる症状をいいます。
(2) 習慣性脱臼は主として肩関節で発生しますが,顎(あご)関節,膝関節でも発生することがあります。
(3) 「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」において,上肢又は下肢の習慣性脱臼の場合,後遺障害12級に準ずる関節の機能障害として取り扱います。

第13 整形外科の障害等級に関する専門検討会報告書(平成16年2月)の目次

「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日付の基発第0604003号)「労働基準法施行規則及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令の施行について」(平成16年6月4日付の基発第0604001号)とセットの労働基準局長通達です。 )における改正の根拠となった,整形外科の障害等級に関する専門検討会報告書(平成16年2月)の目次は以下のとおりです。
   平成13年1月から30回,専門検討会において整形外科領域に係る認定基準等の見直しための検討を行い,その結果を取りまとめた報告書です。

I  労災保険における関節の機能障害に係る障害認定 (PDF:47KB) 
第1  各関節の主要運動の範囲
第2  上肢及び下肢の3大関節における「関節の著しい機能障害」及び「関節の機能障害」の認定
第3  前腕の回内・回外運動が制限された場合の障害認定
第4  上肢及び下肢の3大関節の「関節の用を廃したもの」の認定
第5  関節における参考運動の役割 
 
II  せき柱及びその他の体幹骨 (PDF:81KB) 
第1  せき柱の運動障害
第2  せき柱の変形障害
第3  せき柱に複数の障害がある場合の障害認定
第4  せき柱の荷重機能障害
第5  加齢とせき柱の運動可動域 
 
III  上肢及び手指 (PDF:157KB) 
第1  上肢の偽関節
第2  上肢の長管骨の変形障害
第3  上肢の麻痺と機能障害
第4  握力
第5  手指の感覚脱失
第6  1手の手指の欠損障害に係る障害等級
第7  母指の運動
第8  人工骨頭・人工関節と関節の機能障害 
 
IV  下肢 (PDF:42KB) 
第1  下肢の偽関節
第2  下肢の長管骨の変形障害
第3  踵骨骨折治ゆ後の疼痛と足関節の機能障害
第4  下肢の麻痺と機能障害 

V  その他 (PDF:13KB) 
整形外科領域の障害等級表上の用語

第14 人工骨頭又は人工関節に関する後遺障害等級が変更された理由

「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日付の基発第0604003号)における改正の根拠となった,整形外科の障害等級に関する専門検討会報告書(平成16年2月)112頁ないし115頁(III  上肢及び手指 (PDF:157KB))に含まれています。)によれば,以下のとおりです。

(3)人工骨頭・人工関節と関節の機能障害
イ 人工骨頭・人工関節に係る認定基準が策定された昭和50年当時は、人工骨頭・人工関節の耐用年数、再置換率や材質等から、人工骨頭又は人工関節の機能が低下しやすく関節の用廃と取り扱うことは妥当であったが、近年の医療技術の向上からして一律に関節の用廃とすることは、現在においては妥当とはいえない。
ロ 次に、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節は、現在においてどのような障害が存するかである。
 (イ)人工骨頭・人工関節の耐用年数は最近では、上記(1)のとおり、10年以上も再置換する必要がほとんどなくなったとされ、また、人工骨頭・人工関節の材質も飛躍的に向上している。
   また、人工骨頭又は人工関節をそう入置換した関節の可動域が制限されるケースは少ないものと臨床経験上推定されるところであり、将来においても摩耗により関節可動域が大幅に制限されることも想定しにくいところである。
   これらのことから、人工骨頭又は人工関節をそう入した関節の評価は、治ゆ時点における関節の可動域の制限で評価すれば足り、一律に関節の用廃と判断する必要はなく、長管骨の変形障害(第12級の8-長管骨の骨端部の欠損)と関節の機能障害のいずれか上位の等級で評価すれば足りるとする意見(意見1)がある。 
(ロ) 一方、人工骨頭・人工関節の材質が飛躍的に向上したとしても、人工骨頭・人工関節をそう入置換した場合には重い物を持つ作業を制限され、また、長期間使用すると現在の材質でも摩耗するものであり、さらには治ゆ時点では疼痛や関節可動域の制限はなくとも、その後人工骨頭・人工関節と骨の間に緩みが生じること等によって、疼痛や関節可動域の制限が生ずることもあることから、現在の医学水準からして、第10級程度の障害が残ったものと評価すべきとの意見(意見2)がある。
ハ 当検討会としては基本的には意見2が妥当と考える。具体的には以下のとおり考える。
(イ)結論としては、次のとおり取り扱うことが妥当である。
 a 関節の機能に著しい障害を残すもの(第10級の9)
   人工骨頭又は人工関節をそう入置換したもの(bに該当する場合を除く。)
 b 関節の用を廃したもの(第8級の6)
   人工骨頭又は人工関節をそう入置換し、かつ、当該関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されたもの
(ロ)理由は次のとおりである。
a   まず、人工骨頭・人工関節に係る障害についてである。
   近年の人工骨頭・人工関節の性能の飛躍的向上に伴い、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節の可動域が制限されることが相当少なくなり、肩関節の人工骨頭などでは関節可動域の制限がほとんどないこともあり、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節の障害を可動域制限(関節の用廃)だけで説明することは、現在においては困難と考える。
   人工骨頭・人工関節をそう入置換した上肢の関節の障害は、現在では重い物を持つ作業が相当程度制限されるという関節の保持機能に対する障害であることから、今後は上肢の関節にあっては関節の保持機能(下肢の関節にあっては関節の支持機能)に関する障害を基本とし、併せて関節の可動域制限の程度を付加したものを関節の機能障害として評価すべきであると考えられる。
b   次に、人工骨頭・人工関節に係る障害の程度である。
   まず、上肢の関節の保持機能障害の程度については、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節は軽い物を持つことを制限されることは少ないものの、重い物を持つ作業は一定程度制限されることから、関節の保持機能障害の程度は関節の用廃(第8級の6)には及ばないが、1関節の機能障害(第12級の6)よりは重篤であることから、両障害の中間程度の第10級程度の障害と評価するのが妥当と考える。
   さらに、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節において、関節可動域制限がある場合とない場合との評価についてである。
   人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節に可動域制限がない又は多少の可動域制限がある場合は上肢の関節の保持機能障害に着目して第10級程度と評価するのは妥当であるが、当該関節に相当程度可動域制限がある場合には関節の保持機能障害と相当程度の可動域制限があることから、その障害の程度は第10級程度にとどまらず第8級程度(関節の用を廃したもの)と評価するのが妥当である。この場合、相当程度の可動域の制限とは、具体的には健側と比較
して2分の1以下とするのが妥当と考える。
c   なお、上記結論に対しては等級が高すぎるとの意見も出されたが、人工骨頭・人工関節をそう入置換した関節は、治ゆ当時は関節可動域制限や疼痛が存しなくとも、その後人工骨頭・人工関節の摩耗等により緩みが生じるなど人工骨頭・人工関節の機能が低下する可能性は現在の医学水準であっても存するところであり、将来における人工骨頭・人工関節の機能の低下も含めて考慮すると当検討会の結論は妥当なものと考える。
ニ   人工骨頭又は人工関節をそう入した関節に医学的に再置換する必要が生じた場合には再発として取扱うのが妥当である。

第15 関節の変形障害と後遺障害等級

1 関節の変形障害
(1)ア   関節の変形障害としては,①偽関節(癒合不全)及び②長管骨に変形を残すものがあります。
イ 上肢の長管骨は上腕骨,橈骨及び尺骨であり,下肢の長管骨は大腿骨,脛骨及び腓骨です。
(2) 遺障害診断書右側の「⑩上肢・下肢および手指・足指の障害」欄のうち,「長管骨の変形」欄に記載してもらうこととなります。

2 偽関節(後遺障害等級は7級又は8級)
(1) 偽関節(癒合不全)

   偽関節とは,骨折した骨が再生する過程で止まってしまい,骨がうまく癒合せず,骨折した部分が関節のように働いてしまい,本来動かない部位が動いてしまう状態をいい,癒合不全ともいいます。
(2) 上肢の偽関節と後遺障害等級
   以下のいずれかに該当し,常に硬性補装具を必要とする場合,後遺障害等級7級が認定されます。
   常に硬性装具を必要とするとまではいえない場合,後遺障害等級8級が認定されます。
① 上腕骨骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
② 橈骨及び尺骨の両方の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
(3) 下肢の偽関節と後遺障害等級
ア   以下のいずれかに該当し,常に硬性補装具を必要とする場合,後遺障害等級7級が認定されます。
   常に硬性装具を必要とするとまではいえない場合,後遺障害等級8級が認定されます。
① 大腿骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
② 脛骨及び腓骨の両方の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
③ 脛骨の骨幹部又は骨幹端部に癒合不全を残すもの
イ 私の経験では,大腿骨幹部骨折につき症状固定後の骨折部がボルト固定されていた事案において,労災保険では偽関節と認定されたものの,自賠責保険では偽関節と認定されませんでした。

3 長管骨に変形を残すもの(後遺障害等級は12級)
(1) 上肢の「長管骨に変形を残すもの」
「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」には以下の記載があります。
   上肢の「長管骨に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいう。
   なお、同一の長管骨に以下の(ア)から(カ)の障害を複数残す場合でも、第12級の8と認定すること。
(ア) 次のいずれかに該当する場合であって、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合したもの)以上のもの
上腕骨に変形を残すもの
橈骨及び尺骨の両方に変形を残すもの(ただし、橈骨又は尺骨のいずれか一方のみの変形であっても、その程度が著しいものはこれに該当する。)
(イ) 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
(ウ) 橈骨又は尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
(エ) 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
(オ) 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、又は橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
(カ) 上腕骨が50度以上外旋又は内旋変形ゆ合しているもの
   この場合、50度以上回旋変形ゆ合していることは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定すること。
外旋変形ゆ合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること
なお、長管骨の骨折部が良方向に短縮なくゆ着している場合は、たとえ、その部位に肥厚が生じていても長管骨の変形としては取り扱わないこと。
(2) 下肢の「長管骨に変形を残すもの」
「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」には以下の記載があります。
   下肢の「長管骨に変形を残すもの」とは、次のいずれかに該当するものをいう。これらの変形が同一の長管骨に複数存する場合もこれに含まれる。
(ア) 次のいずれかに該当する場合であって、外部から想見できる程度(15度以上屈曲して不正ゆ合したもの)以上のもの。
大腿骨に変形を残すもの
脛骨に変形を残すもの
   なお、腓骨のみの変形であっても、その程度が著しい場合にはこれに該当する。
(イ) 大腿骨若しくは脛骨の骨端部にゆ合不全を残すもの又は腓骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの
(ウ) 大腿骨又は脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
(エ) 大腿骨又は脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
(オ) 大腿骨が外旋45度以上又は内旋30度以上回旋変形ゆ合しているもの
   この場合、外旋45度以上又は内旋30度以上回旋変形ゆ合していることは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定すること。
外旋変形ゆ合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形ゆ合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
エックス線写真等により、明らかに大腿骨の回旋変形ゆ合が認められること
なお、長管骨の骨折部が良方向に短縮なくゆ着している場合は、たとえ、その部位に肥厚が生じていても長管骨の変形としては取り扱わないこと。  

第16 下肢の短縮障害と後遺障害等級

1 「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準」によれば,以下のとおりです。
d 短縮障害
 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの 第8級の5 
 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの 第10級の7 
 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの 第13級の8 

2 下肢の短縮障害は,後遺障害診断書右側の「⑩上肢・下肢および手指・足指の障害」欄のうち,「短縮」欄の右下肢長及び左下肢長を記載してもらうこととなります。

3(1) 脚を引きずったり,かばうように歩いたりするなど,正常な歩行ができない状態を「跛行」(はこう)といいます。
(2) 下肢の短縮障害が発生している場合,患者の骨盤及び肩は脚が短縮している分だけ沈下を繰り返しますところ,これを硬性墜落性跛行(こうせいついらくせいはこう)といいます。
   一般的に3cm以上の脚長(きゃくちょう)差がある場合に硬性墜落性跛行が発生します。
(3) 墜落性跛行は墜下性跛行ともいいます。
(4) 以下のHPが参考になります。
① 整形外科疾患の病態やリハビリテーションに関する理解を深めるブログ「「墜下性跛行」ってどんな歩行?その原因や対策は?」
② 八文字社会保険労務士行政書士事務所HP「歩行障害(異常歩容・跛行)の基礎知識」

4 上肢の短縮障害の場合,後遺障害等級は認定されません。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。