自動車運転代行業

第0 目次

第1 自動車運転代行業法の制定に至る経緯等
第2 自動車運転代行業の業務内容
第3 自動車運転代行業の範囲
第4 自動車運転代行業に対する法規制
第5 自動車運転代行業者の損害賠償措置
第6 顧客として運転代行を利用する際の注意点
第7 大阪府下の飲酒運転の現状等

*1 「交通事故等の刑事責任及び資格制限その他の不利益」も参照して下さい。
*2 警察庁HPの「警察庁の施策を示す通達(交通局)」に以下の通達が載っています。
① 自動車運転代行業に係る損害賠償責任共済の事業を行う事業協同組合等の適正運営について(平成19年7月9日付の警察庁交通局交通企画課長の通達)
② 自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律等の解釈及び運用等について(平成28年3月31日付の警察庁交通局長の通知)
③ 自動車運転代行業の業界団体が実施する違法行為防止活動への協力等について(平成28年4月1日付の警察庁交通局交通企画課長の通達)
④ 自動車運転代行業における適正な業務運営に向けた指導・監督について(平成29年3月29日付の警察庁交通局交通企画課長の通達)
*3 タクシーについては,「自動車運送事業」を参照してください。
*4 全国運転代行共済協同組合(ZDK)HP「サポート品質を維持したまま低コストを実現した共済制度」に,受託自動車共済制度及び交通事故共済制度が載っています。

第1 自動車運転代行業法の制定に至る経緯等

1   自動車運転代行業は,飲酒した客に代わって客の自動車を運転し,客とその自動車を自宅まで送り届けるサービスであり,昭和50年頃から,主に公共交通機関が十分に発達しておらず,自家用自動車が移動手段として不可欠である地方都市を中心に発達してきた事業であり,飲酒運転等の防止に一定の役割を果たしていました。
   しかし,自動車運転代行業においては,法律による規制がなかったこともあり,業者が運転者に対し,最高速度違反の運転を下命・容認するなど,その業態として業者が責任を問われるべき実態があるほか,交通死亡事故の発生率も高い水準で推移していました。
   また,主に夜間の繁華街における酔客を対象に行われる業態であることから,①業者による白タク行為,②暴力団関係業者による被害,③損害賠償保険の未加入,④料金の不正収受等の問題も指摘されていました。
   そこで,平成14年6月1日施行の自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律(自動車運転代行業法)が制定され,自動車運転代行業を営む場合,都道府県公安委員会の認定を要することとなりました(自動車運転代行業法4条)。
 
2 自動車運転代行業者の業界団体としては,平成8年に警察庁及び運輸省の共管法人として設立された公益社団法人全国運転代行協会があります。 
   また,自動車運転代行業を所管しているのは,国土交通省自動車局旅客課旅客運送適正化推進室です(国土交通省組織規則91条及び国土交通省HPの「自動車運転代行業について」参照)。 

3 自動車運転代行業の利用者である酔客は,主として、夜間において客に飲食をさせる営業を営む者から酒類の提供を受けて酒気を帯びた状態にある者(自動車運転代行業法2条1項1号)のことです。

第2 自動車運転代行業の業務内容

   大阪府警察HPの「自動車運転代行業について」に,一般的な自動車運転代行業のイメージが掲載されていますが,文字で説明すると以下のとおりです。

① 自動車運転代行業の実際の業務は,2人1組で随伴用自動車1台を用いて行なわれます。
②   飲酒等の理由で自動車を運転できなくなった顧客から依頼を受け,居酒屋といった待ち合わせ場所に2人で随伴用自動車に向かい,待ち合わせ場所で顧客車のキーを預かります。
③ 2人のうちの1人は顧客車を運転し(この時点で「代行運転自動車」となります。),顧客や顧客車の搭乗者も代行運転自動車に乗せて目的地まで移動し,もう1人は,随伴用自動車で目的地まで随行します。
④   目的地に着いたら,顧客に顧客車を返して料金を受け取り,その後,2人が随伴用自動車1台で営業所に戻るということを繰り返します。

第3 自動車運転代行業の範囲

   「自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律等の解釈及び運用等について」(平成28年3月31日付の警察庁交通局長の通知)には,以下の記載があります。
 
   自動車運転代行業とは、他人に代わって自動車を運転する役務を提供する営業であって、

○ 主として、酔客に代わって自動車を運転する役務を提供するものであること
○ 酔客その他の当該役務の提供を受ける者を乗車させるものであること
○ 常態として、当該自動車に当該営業の用に供する自動車が随伴するものであることのいずれにも該当するものをいい、以下のようなものは自動車運転代行業には該当しないことに留意すること。
1 自家用自動車管理業
   自家用自動車管理業とは、一般に、長期的な契約に基づき、自家用自動車の運転、整備、燃料・備品の管理等を請け負う事業をいうが、自家用自動車管理業は、主として、酔客に代わって自動車を運転する役務を提供するものではなく、また、継続的に役務を提供するものであって営業の用に供する自動車を随伴する必要がないことから、自動車運転代行業に当たらない。
2 陸送業
   顧客の依頼に応じ、自動車の輸送を行う事業を、一般に陸送業というが、陸送業は、自動車を輸送することを目的とするものであり、当該自動車に顧客を乗車させないことから、自動車運転代行業に当たらない。
3 タクシー代行
   いわゆるタクシー代行とは、タクシーで酔客等を運送するとともに、酔客等の自動車を別の運転者が輸送するものをいうが、タクシー代行は、通常のタクシー事業と陸送業を同時に行うものであり、酔客等の自動車に酔客等を乗車させて運転するものではないことから、自動車運転代行業に当たらない。
4 その他
   自動車運転代行業は、自動車を運転する役務を提供する「営業」であることから、無償で運転を代行する行為は自動車運転代行業に当たらない。
また、他人が酒気を帯びている場合に、当該他人の自動車に当該他人を乗車させて運転し、これにより謝礼を受け取ることもあると考えられるが、このような場合であっても、これを業として対価を得るために反復継続して行っているのでなければ、自動車運転代行業に当たらない。

第4 自動車運転代行業に対する法規制

1 ①過去2年以内に白タク行為等で有罪判決を受けたり,②暴力団と関係があったり,③十分な損害賠償保険に加入していなかったりした場合,自動車運転代行業の認定を受けることはできません(自動車運転代行業法3条2号,4号,6号参照)。
 
2 平成16年6月1日以降,第二種免許を有しない者は,代行運転自動車を運転することができなくなりました(道路交通法85条11項)。
   代行運転自動車とは,自動車運転代行業を営む者による代行運転役務の対象となっている自動車であり,要するに顧客の自動車のことです。
 
3 自動車運転代行業者は,その営業の開始前に,利用者から収受する料金を定め,営業所に掲示する必要があります(自動車運転代行業法11条)。
 
4(1) 自動車運転代行業者は,その営業の開始前に,自動車運転代行業約款を定め,営業所に掲示するとともに(自動車運転代行業法13条1項),国土交通大臣に届け出る必要があります(自動車運転代行業法13条3項)。
    ただし,標準自動車運転代行業約款(平成14年5月24日国土交通省告示第455号)と同じである場合,国土交通大臣への届出は不要です(自動車運転代行業法13条4項)。
(2) 平成28年10月1日施行の標準自動車運転代行業約款等は,国土交通省HPの「自動車運転代行業について」に掲載されています。
 
5 自動車運転代行業者は,利用者に代行運転役務を提供しようとするときは,利用者が提供を受けようとする代行運転役務の内容を確認した上で,以下の事項を利用者に説明する必要があります(自動車運転代行業法15条,自動車運転代行業法施行規則6条)。
① 代行運転役務を提供する自動車運転代行業者の氏名又は名称及び運転代行業務従事者の氏名
② 営業所に掲示した料金
③ 利用者が自動車運転代行業者に支払うこととなるべき料金の概算額
④ 自動車運転代行業約款の概要
⑤ 随伴用自動車により白タク行為はできないこと。
 
6 自動車運転代行業者は,①利用者に代行運転役務を提供するときは,代行運転自動車に,代行マーク(代行運転自動車標識)を表示する必要があります(自動車運転代行業法16条)。
   また,②随伴用自動車(顧客の車に随伴する代行業者の車)に,自動車運転代行業者の名称又は記号,認定を行った公安委員会の名称及び認定番号,「代行」「随伴用自動車」という表示をする必要があります(自動車運転代行業法17条)。
 
7 随伴用自動車に顧客を乗せる行為は白タク行為ですから,道路運送法4条1項に違反します(長野県警察HPの「自動車運転代行業の義務と主な禁止行為」参照)。
  ただし,タクシー会社が行う代行サービスの場合,顧客は随伴用自動車ではなくタクシーに乗車し,タクシー料金を支払うこととなるため,適法です。

第5 自動車運転代行業者の損害賠償措置

1(1) 自動車の使用権者から当該自動車を目的地まで運転する業務を有償で引き受け,代行運転者にも当該業務を行わせた運転代行業者は,自動車損害賠償保障法2条3項の「保有者」に該当します(最高裁平成9年10月31日判決)。
   そのため,自動車運転代行業者が交通事故を起こした場合,自賠法に基づく損害賠償責任を負うこととなります。
(2) 自動車運転代行業者は,代行運転自動車の運行により生じた利用者その他の者の生命,身体又は財産の損害を賠償するための措置を講じておく必要があります(自動車運転代行業法12条)。
   自動車運転代行業者は実務上,運転代行受託保険又は運転代行受託共済に加入しています。
(3) 平成28年10月1日,標準自動車運転代行業約款において,随伴用自動車についても任意保険への加入が義務づけられるようになりました(平成28年3月22日付の国土交通省の,「自動車運転代行業における適正な業務運営に向けた「利用者保護」に関する諸課題への対策」参照)。
   ただし,自動車運転代行業法12条は,随伴用自動車(自動車運転代行業法2条7項)について損害賠償措置を講ずべき義務を定めていません。
 
2   平成14年6月1日施行の,国土交通省関係自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律施行規則(自動車運転代行業法施行規則)3条によれば,以下の条件を満たす損害賠償責任「保険」契約又は損害賠償責任「共済」契約に加入しておく必要があります。
① 代行運転自動車の運行により生じた利用者その他の者の生命,身体又は財産の損害を賠償することによって生ずる損失を告示に定める額以上を限度額としててん補することを内容とするものであること。
→ 自動車運転代行業者が締結すべき損害賠償責任保険契約等の補償限度額及び随伴用自動車の表示事項等の表示方法等を定める告示(平成14年5月17日国土交通省告示第421号)2条によれば,1人当たりの限度額8000万円以上の対人賠償責任保険,1事故につき限度額200万円以上の対物賠償責任保険への加入が義務づけられています。
   なお,平成20年10月1日以降,平成20年6月24日国土交通省告示第781号に基づき,代行運転自動車に係る車両保険・共済への加入が義務づけられるようになり,補償限度額の下限は200万円となっています。
② 自動車運転代行業者の法令違反が原因の事故について補償(代行運転自動車の損害を賠償することによって生ずる損失についての補償を除く。)が免責となっていないこと。
③ 保険期間中の保険金支払額に制限がないこと。
④ 随伴用自動車の台数に応じて契約を締結する場合にあっては、すべての随伴用自動車の台数分の契約を締結すること。
 
3(1) 自動車保険約款には通常,「記名被保険者の承諾を得て被保険自動車を使用または管理中の者。ただし、自動車取扱業者が業務として受託した被保険自動車を使用または管理している間を除きます。」と記載されています。
   そして,「自動車取扱業者が業務として受託した被保険自動車を使用または管理している間」は,自動車運転代行業者が客の自動車を代行運転している間を意味します。
   そのため,自動車運転代行業者が代行運転自動車について交通事故を起こした場合,客の自動車に付いてある任意保険は適用されません。
   その結果,仮に自動車運転代行業者が任意保険に加入していなかった場合,客は,自動車運転代行業者と連帯して,自賠責保険超過金額について,自己負担で交通事故に基づく損害賠償義務を負うことになります。
(2) 公益社団法人全国運転代行協会が認定した優良運転代行業者の場合,随伴車も含めて任意保険に加入しています(外部HPの「優良運転代行業者評価制度」参照)。

第6 顧客として運転代行を利用する際の注意点

1 公益社団法人全国運転代行協会HPの「運転代行利用ガイドライン」には,顧客として運転代行を利用する場合,以下の点に注意するように書いてあります。
① 随伴洋自動車(随伴車)に車名表示等が正しく表示されていますか。
② 事前に目的地までの代行料金の概算について説明を受けましたか。
③ 領収書が必要なとき直ちに発行してもらえましたか。
④ 万一の際の損害賠償措置について説明を受けましたか。 
 
2 同ガイドラインには,「運転代行ご利用のお客様にお願い」として,以下の記載があります。
 
お客様をタクシー代わりにお乗せすることは禁止されています。
●運転代行は,タクシーではありません。白タクなどタクシー類似行為を行うことは,法律で固く禁じられています。同じく,お客様をお店からクルマを止めてある駐車場等までお運びする,いわゆるAB間輸送も,白タクと同様に道路運送法で違法行為とされていますので,運転代行ドライバーに要求することは絶対におやめ下さい。 

第7 大阪府下の飲酒運転の現状等

1 大阪府下の飲酒運転の現状,飲酒運転撲滅広報用チラシ及び飲酒運転事故マップチラシが,大阪府警察HPの「飲酒運転発生状況&飲酒運転事故マップ」に載っています。

2(1) 一般財団法人大阪府交通安全協会では,ハンドルキーパー運動を推進しています(同協会HPの「飲酒運転根絶「ハンドルキーパー運動」にご協力ください。」参照)。 
(2)   ハンドルキーパー運動とは,自動車で飲食店に行って飲酒する場合,仲間同士や飲食店の協力を得て飲まない人(ハンドルキーパー)を決め,その人は酒を飲まず,仲間を自宅まで送り,飲酒運転を防止する運動をいいます。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。