刑事裁判の書証の証拠能力

第0 目次

第1  伝聞法則
第2  伝聞例外の体系
第3  供述の任意性の調査
第4  供述書と供述録取書
第5  裁判官面前調書(裁面調書)
第6  検察官面前調書(検面調書)
第7  3号書面
第8  実況見分調書
第9  映像等の送受信による通話の方式による証人尋問調書
第10 被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
第11 刑訴法326条の同意,及び合意書面
第12 証明力を争うための証拠

* 「交通事故事件の刑事記録」「刑事訴訟記録の編成」及び「実況見分調書等の刑事記録の保管期間」も参照してください。

第1 伝聞法則

1 ①公判期日における供述に代わる書面,及び②公判期日外における他の者の供述を内容とする供述は,原則として証拠とすることはできない(刑訴法320条1項)のであって,これを伝聞法則といいます。
2 実務上は,検察官及び弁護人が証拠とすることに同意する結果,「公判期日における供述に代わる書面」の大部分は,刑訴法326条に基づいて証拠能力が認められています。

第2 伝聞例外の体系

○伝聞例外とは,伝聞法則の例外として,伝聞証拠であっても証拠能力が認められることをいいますところ,伝聞例外の体系は以下のとおりです。
1 供述録取書(=甲の供述を乙が録取した書面)
(1) 被告人以外の者の供述について
① 被告人以外の者の供述を,裁判官が録取した書面(裁面調書,1号書面)は刑訴法321条1項1号により,供述不能(前段)又は不一致供述(後段)を条件として証拠能力が認められます。
   裁面調書の例としては,刑訴法226条又は227条の証人尋問による証人尋問調書があります。
② 被告人以外の者の供述を,検察官が録取した書面(検面調書,2号書面)は刑訴法321条1項2号により,供述不能(前段)又は不一致供述かつ相対的特信情況(後段)を条件として証拠能力が認められる。
   これは,検察官事務取扱検察事務官作成(検察庁法36条)の供述録取書も含みます。
③ 被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面(3号書面)は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められる。
   3号書面の例としては,捜査報告書,捜索差押調書,司法警察職員が録取した書面(員面書面)があります。
④ 被告人以外の者の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法321条2項前段により,無条件で証拠能力が認められます。
   2項前段書面の例としては,当該事件の公判準備における裁判所の証人尋問調書があります。
⑤ 被告人以外の者の供述を,映像等の送受信による通話の方式により記録した記録媒体がその一部とされた調書は,刑訴法321条の2により無条件で証拠能力が認められます。
(2) 被告人の供述について
① 被告人の供述を,第三者が録取した書面は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
② 被告人の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法322条2項により,任意性を条件として証拠能力が認められます。
2 供述書(=甲自身が作成した書面)
(1) 第三者が作成した書面は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,被害届,始末書及び上申書があります。
(2) 裁判所・裁判官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条2項後段により,無条件で証拠能力が認められます。
(3) 捜査官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条3項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,実況見分調書(最高裁昭和36年5月26日判決)及び酒酔い鑑識カード(最高裁昭和47年6月2日判決)があります。
(4) 刑訴法165条以下に基づき鑑定人が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
(5) 刑訴法223条以下に基づき鑑定受託者が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項準用により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和28年10月15日判決)。
(6) 医師が作成した診断書は刑訴法321条4項準用により,新政策制供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和32年7月25日判決)。
(7) 被告人が作成した書面(供述代用書面)は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   供述代用書面の例としては,備忘録,日記帳,始末書及び上申書があります。
3 特に信用すべき文書(特信文書)
(1) 公務文書(刑訴法323条1号)
   例としては,戸籍謄本,公正証書謄本,不動産登記簿・商業登記簿の謄抄本,印鑑証明書,身上調書,前科調書及び指紋照会回答書があります。
(2) 業務文書(刑訴法323条2号)
   例としては,商業帳簿,航海日誌,漁船団の受信記録(最高裁昭和61年3月3日決定),裏帳簿及びカルテがあります。
(3) その他の特信文書(刑訴法323条3号)
   例としては,民事事件の裁判書があります。
4 伝聞供述(=甲の供述を乙が証言したもの)
(1) 被告人の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条1項・322条により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人の発言を第三者が証言する場合があります。
(2) 被告人以外の者の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条2項・321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
   例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人以外の者の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人以外の者の発言を第三者が証言する場合があります。
5 当事者が証拠とすることに同意した書面(刑訴法326条)
→ 実務上,刑訴法326条に基づく書面が大部分です。
6 合意書面(刑訴法327条
   当事者は合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述内容を記載した書面を提出できる。
7 弾劾証拠(刑訴法328条)
   刑訴法321条ないし324条で証拠とし得ない書面・供述でも、公判準備又は公判期日における被告人・証人その他の者の供述の証明力を争うために証拠とすることはできます。

第3 供述の任意性の調査

1 裁判所は,刑訴法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても,あらかじめ,その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができません(刑訴法325条)。

2 刑訴法325条の任意性の有無の調査は,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができ,かつ供述調書の方式のみでなく内容自体も右調査の資料となりうるのであって,右調査の事実は,これを必ず調書に記載しなければならないものではありません(最高裁昭和32年9月18日決定)。

3 刑訴法325条の規定は,裁判所が,同法321条ないし324条の規定により証拠能力の認められる書面又は供述についても,さらにその書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述の任意性を適当と認める方法によって調査することにより(最高裁昭和28年2月12日判決,最高裁昭和28年10月9日判決参照),任意性の程度が低いため証明力が乏しいか若しくは任意性がないため証拠能力あるいは証明力を欠く書面又は供述を証拠として取り調べて不当な心証を形成することをできる限り防止しようとする趣旨のものと解されます。
   そのため,刑訴法325条にいう任意性の調査は,任意性が証拠能力にも関係することがあるところから,通常当該書面又は供述の証拠調べに先立って同法321条ないし324条による証拠能力の要件を調査するに際しあわせて行われることが多いと考えられるが,必ずしも右の場合のようにその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく,裁判所が右書面又は供述の証拠調後にその証明力を評価するにあたってその調査をしたとしても差し支えありません(最高裁昭和54年10月16日決定)。

第4 供述書と供述録取書

1(1) ①供述書とは,上申書,被害届のように,供述者が供述する内容を自ら記載した書面をいうのに対し,②供述録取書とは,検察官面前調書,司法警察員面前調書のように,供述者が供述する内容を他の者が録取した書面をいいます。
   両者の区別の実益は,①供述書の場合,供述者の署名押印は証拠能力が生じるための要件とされていないのに対し,②供述録取書の場合,それが要件とされている点にあります(刑訴法321条1項柱書)。
(2)   署名・押印が要件とされているのは,①供述書の場合,供述者が作成した書面であることが明らかになれば供述者がその内容を供述したことが明らかになるのに対し,②供述録取書の場合,供述者の供述を他の者が記録した再伝聞であるから,供述者の署名押印により供述者が供述したとおりが記録されていることを認証させた上で,供述者自身が作成した供述書と同様に扱うためであす。
2 供述録取書を除く,供述を内容とする書面はすべて供述書に含まれます。
   私人によって作成されるものには陳述書,上申書,被害届,告訴状,告発状等があり,裁判や捜査の過程で作成されるものには検証調書,実況見分調書,鑑定書,報告書,逮捕手続書,差押調書があり,証拠物たる書面も,供述の内容が証拠となるものは供述書に含まれます。
3 供述録取書には,公判調書,公判準備調書,検察官面前調書等はもとより,供述者以外のものが供述者の供述を録取したものであればすべてこれに含まれるのであって,録取の方法及び録取の権限の有無は関係ありません。

第5 裁判官面前調書(裁面調書)

1 裁面調書とは,裁判官の面前における供述を録取した書面をいいます(刑訴法321条1項1号)。
2 公判の供述と裁判官面前調書の供述とが相反する場合,刑訴法321条1項1号後段により,調書の供述の信用性を問題とすることなく,調書に証拠能力が認められます。
   これは,被告人に実質的に反対尋問の機会が与えられている上,裁判官の面前でされた供述であるところに信用性の情況的保障があるからです。
3 「裁判官の面前における供述を録取した書面」とは,当該事件において作成されたものであると他の事件において作成されたものであるとを問いません(最高裁昭和29年11月11日決定)。
4 証人が公判期日に証言を拒んだときは,刑訴法321条1項1号前段にいう公判期日において供述することができないときにあたります(最高裁昭和44年12月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和27年4月9日判決参照)。
5 刑訴法321条1項1号の「裁判官の面前における供述を録取した書面」には,被告人以外の者に対する事件の公判調書中同人の被告人としての供述を録取した部分を含みます(最高裁昭和57年12月17日決定)。

第6 検察官面前調書(検面調書)

1 検面調書の許容要件としては以下のものがあります。
① その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと(供述不能)(刑訴法321条1項2号前段)
② 公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたこと(相反供述・実質的不一致供述)
   ただし,公判準備若しくは公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存すること(相対的特信情況)(刑訴法321条1項2号後段)が必要です。

2 刑訴法321条1項2号前段書面に特信情況を必要とすると,かかる特信情況は後段のような相対的特信情況ではなく,絶対的特信情況になります。
   なぜなら,後段の場合,公判廷供述があるからそれとの比較で特信情況の有無を判断できるのに対し,前段の場合,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しないからです。

3 自己矛盾供述を理由として証拠能力が認められるのは裁面調書及び検面調書だけであり,員面調書を始めとする3号書面では証拠能力は認められません。
   なお,検面調書の場合,一方当事者である検察官が作成した調書であるにもかかわらず,相対的特信状況が認められる限り,第三者の供述を録取した書面は常に証拠能力が認められることとなります。

4 刑訴法321条1項2号前段は憲法37条2項に違反しません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。

5 刑訴法321条1項2号ただし書により検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とするに当り,当該書面の供述が公判準備又は公判期日における供述より信用すべき特別の情況が存するか否かは結局,事実審裁判所の裁量に委ねられています(最高裁昭和28年7月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年11月15日判決参照)。

6 証人に対する検察官の面前調書の証拠調が,これら証人を尋問した公判期日の後の公判期日で行われたからといって憲法37条2項の保障する被告人らの反対尋問権を奪ったことになりません(最高裁昭和30年1月11日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年3月6日決定)。

7 憲法37条2項が,刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられると規定しているのは,裁判所の職権により又は当事者の請求により喚問した証人につき,反対尋問の機会を充分に与えなければならないという趣旨であって,被告人に反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類を絶対に証拠とすることを許さない意味をふくむものではなく,従って,法律においてこれらの書類はその供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えれば,これを証拠とすることができる旨を規定したからといって,憲法37条2項に反するものでありません(最高裁昭和30年11月29日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決)。

8 証人が外国旅行中であって,これに対する反対尋問の機会を被告人に与えることができない場合であっても,その証人の検察官に対する供述録取書を証拠として採用することは憲法37条2項に違反しません(最高裁昭和36年3月9日判決)。

9 退去強制は,出入国の公正な管理という行政目的を達成するために,入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定の要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分であるが,同じく国家機関である検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん,裁判官又は裁判所が当該外国人について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など,当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは,これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得ます(最高裁平成7年6月20日判決)。

第7 3号書面

1 3号書面とは,被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面をいいます(刑訴法321条1項3号)。
2 3号書面に証拠能力が認められる要件は以下のとおりです。
① 供述者が死亡,精神又は身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができないこと(供述不能)
② その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであること(証拠の不可欠性)
③ 供述が特に信用すべき状況でなされたこと(絶対的特信情況)
3 同じ捜査機関でありながら,検面調書(2号書面)の要件が3号書面の要件よりずっと緩和されているのは,検察官は法律の専門家である上,法の正当な適用を請求すべき地位にある(検察庁法4条)という客観義務を負う立場にあるからです。
4 絶対的特信情況の典型例は,以下のような場合です。
① 供述の内容自体で信用すべき状況が認められる場合
   (a)自分の刑事上又は民事上の不利益な事実を内容とする供述,(b)客観的な資料等に基づいて説得力のある供述をしていて虚偽を供述する理由もない場合等です。
② 供述の動機から信用すべき状況が認められる場合
   (a)被害を受けた子供が直後に親に告げたような場合,(b)事件の直後に無関係な者が積極的に目撃情況を警察官等に申告して捜査に協力した場合,(c)被告人又は親族が積極的に警察官等の下に出頭して犯罪事実や目撃情況を告白した場合等です。
③ 供述者との親密な関係があって十分に信用のできる供述を聞き出している場合
④ 警察官等の録取者が供述者から十分に信用のできる供述を聞き出すために反対尋問に代わるようなテストをしながら客観性を保った録取をした場合
5 検察官は,3号書面については,できる限り他の部分と分離してその取調べを請求しなければなりません(刑訴法302条)。
6 刑訴法321条1項3号ただし書の「特に信用すべき情況」については事実審の裁量認定に関する事項です(最高裁昭和29年9月11日決定。なお,先例として,最高裁昭和28年7月10日判決参照)。
7 日本国からアメリカ合衆国に対する捜査共助の要請に基づき,同国に在住する者が,黙秘権の告知を受け,同国の捜査官及び日本の検察官の質問に対して任意に供述し,公証人の面前において,偽証罪の制裁の下で,記載された供述内容が真実であることを言明する旨を記載するなどして作成した供述書は,刑訴法321条1項3号にいう特に信用すべき情況の下にされた供述に当たります(最高裁平成12年10月31日決定)。
8 大韓民国の裁判所に起訴された共犯者が,自らの意思で任意に供述できるよう手続的保障がされている同国の法令にのっとり,同国の裁判官,検察官及び弁護人が在廷する公開の法廷において,質問に対し陳述を拒否することができる旨告げられた上でした供述を記載した同国の公判調書は,刑訴法321条1項3号にいう「特に信用すべき情況」の下にされた供述を録取した書面に当たります(最高裁平成15年11月26日決定)。

第8 実況見分調書

1 実況見分調書とは,捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した書面をいいます(最高裁昭和36年5月26日判決)。
2 刑訴法321条3項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解するを相当とし,このように解したからといって同条項の規定が憲法37条2項前段に違反するものではありません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決参照)。
3 実況見分調書は,たとえ被告人側においてこれを証拠とすることに同意しなくても,検証調書について刑訴法321条3項に規定するところと同一の条件の下に,すなわち実況見分調書の作成者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成されたものであることを供述したときは,これを証拠とすることができます(最高裁昭和35年9月8日判決)。
4 捜査機関は任意処分として検証(実況見分)を行うに当り必要があると認めるときは,被疑者,被害者その他の者を立ち会わせ,これらの立会人をして実況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示,説明させることができ,そうしてその指示,説明を当該実況見分調書に記載することができるが,右の如く立会人の指示,説明を求めるのは,要するに,実況見分の一つの手段であるに過ぎず,被疑者及び被疑者以外の者を取り調べ、その供述を求めるのとは性質を異にします。
   そのため,右立会人の指示,説明を実況見分調書に記載するのは結局実況見分の結果を記載するに外ならず,被疑者及び被疑者以外の者の供述としてこれを録取するのとは異なります。
   よって,立会人の指示説明として被疑者又は被疑者以外の者の供述を聴きこれを記載した実況見分調書には右供述をした立会人の署名押印を必要としません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,大審院昭和5年3月20日判決,大審院昭和9年1月17日判決参照)。
5 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要があります(最高裁平成17年9月27日決定)。
6  「実況見分調書等の刑事記録の保管期間」「交通事故事件の刑事記録」及び「交通事故事件の刑事記録の入手方法」も参照して下さい。

第9 映像等の送受信による通話の方式による証人尋問調書

1 いわゆる性犯罪が複数の犯人によって犯され,各被告人の公判が分離されている場合,被害者がそれぞれの公判において同一の被害事実について繰り返し証言をする必要のある場合がある。
   このような被害者等にとっては,一回の証言でさえ二次的被害及び強い精神的圧迫を受けることがあるのに,証言を繰り返させられることにより,そのような被害を重ねて受けることとなり,一層深刻な事態をもたらすこととなります。
   そこで,ビデオリンク方式により証人尋問を行う場合において,後に再度証人尋問が行われる可能性がある場合には,後の公判において,被害の状況を一から証言するといった弊害を避けるため,ビデオリンク方式による証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に録画し,訴訟記録に添付して調書の一部とすることができるとされ(刑訴法157条の4第2項及び第3項),これについて,後の公判において一定の要件の下に証拠能力を認めることとされています(刑訴法321条の2第1項)。
2 裁判所は,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合,証人が後の刑事手続において同一の事実について再び証人として供述を求められることがあると思料する場合であって,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で,その証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に記録することができます(刑訴法157条の4第2項)。
   これにより記録した記録媒体は,訴訟記録に添付して調書の一部とされます(刑訴法157条の4第3項)。記録媒体への記録は,証言の内容にかんがみ,証人の意思を尊重すべきであることから,証人の同意にかからしめられています。また,記録媒体には証人尋問の状況についての映像及び音声が記録されることとなるところ,これが添付される調書は通常,証人尋問調書と同様に作成されることとなるので,証言の内容は文字情報として調書に記載されることとなります。
   そして,後の公判においては,記録媒体がその一部とされた調書は伝聞証拠に該当することとなるものの,後の公判において,被害の状況を一から改めて証言するといった弊害を避ける必要があり,また,ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体は,テレビモニターを通じてではあるものの,裁判官の面前で,かつ宣誓をした上で証言したものである上,その記録媒体に記録された内容は,まさに,元の公判で,裁判官がテレビモニターを見て心証を得たものと同一の内容であることから,これに証拠能力を認めることとし,なお,訴訟関係人に反対尋問の機会を保障するため,これを取り調べた後,訴訟関係人に対し,その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならないとされています(刑訴法321条の2第1項)。
3 記録媒体がその一部とされた調書の取調べ方法は,一般的には,朗読に代えて当該機録媒体を再生することであるものの,常に再生を必要とするのではなく,相当と認めるときは,当該調書に記録された供述の内容を告げることで足りるとされています(刑訴法305条3項)。
   しかしながら,刑訴法321条の2第1項により証拠能力が認められる場合,原則に戻り,必ず,その記録媒体を再生して取り調べなければならないとされています(刑訴法321条の2第2項)。
4 刑訴法321条の2第1項により取り調べられた調書に記録された証人の供述は,刑訴法295条1項前段並びに321条1項1号及び2号の適用については,被告事件の公判期日においてされたものとみなすとされています(刑訴法321条の2第3項)。
   よって,記録媒体に記録された証人尋問が後の公判期日において行われたものとして取り扱うこととなるのであるから,刑訴法295条1項前段により,当該調書の取調べ後に行われる証人尋問において,裁判長は,前の証人尋問(記録媒体に記録された証人尋問)と重複する尋問を制限することができ,これにより,同一内容の証言の繰り返しを避けるという趣旨に資することとなります。
   また,刑訴法321条1項1号及び2号の適用については,当該記録媒体に記録された供述の内容が,他の裁判官面前調書又は検察官面前調書と異なるいわゆる相反供述等であった場合,その裁判官面前調書等を後の公判においても証拠として採用することができることとなります。
5 ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体については,当該記録媒体が,種々の者の目に触れるようなことがあれば,証人のプライバシーや名誉,心情が害されることが考えられる上,万一,これが流用されれば,その被害が拡大することから,検察官及び弁護人は,記録媒体の謄写をすることはできないとされています(刑訴法40条2項,180条2項,270条2項)。

第10 被告人の供述書・供述録取書の証拠能力

1 被告人のその他の供述を内容とするものは,特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項本文)。
   これは,検察官の反対尋問権を保障するためです。
2 被告人の自白その他の不利益な事実の承認を内容とするものは,任意にされたものでない疑いがあると認められる場合を除き,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項ただし書)。
   これは,人は嘘をついてまで自分に不利益な事実を暴露することはないという経験則に基づくものです。
3 被告人の不利益な事実の承認を内容とする書面は,捜査段階で作成されたものであっても,それ以前に作成されたものであっても含まれます。
   また,捜査を意識しないで作成されたもの(手紙での告白,日記帳等)も含まれます。
4 弁護人が自白調書についての証拠能力を争う場合,これを不同意とするとともに,刑訴法322条1項ただし書に基づく証拠能力が生じないことを主張するため,任意性に疑いがある旨の意見を述べる必要性があります。
   この場合,自白するに至った経緯について,被告人質問等によって法廷に顕出することとなります。
5 検察官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べの状況を立証しようとするときは,できる限り,取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして,迅速かつ的確な立証に努めなければなりません(刑事訴訟規則198条の4)。
6 公判廷外における被告人の自白の任意性の有無の調査は,必ずしも証人の取調べによるの要なく,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができます(最高裁昭和28年2月12日判決)。

第11 刑訴法326条の同意,及び合意書面

1 総論
   訴訟関係人は,争いのない事実については,誘導尋問,刑訴法326条1項の同意,刑訴法327条の合意書面の活用を検討するなどして,当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければなりません(刑訴規則198条の2)。
2 刑訴法326条1項の同意
(1) 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は,その書面が作成され又は供述されたときの情況を考慮して相当と認めるときに限り,刑訴法321条ないし325条の規定に関わらず,これを証拠とすることができます(刑訴法326条1項)。
   このように,当事者の同意だけで直ちに証拠能力を与えるわけではなく,相当性が要求されるのは,あまりに真実性を欠き,証拠価値の薄弱なものについてまで当事者の同意があることだけを理由に証拠能力を認めることは,事実認定の上で危険だからです。
(2) 刑訴法326条1項の同意は,公判調書に記載されます(刑訴規則44条1項29号)。
(3) 被告人において全面的に公訴事実を否認し,弁護人のみがこれを認め,その主張を完全に異にしている場合において,弁護人の同意のみを以て被告人が書証を証拠とすることに同意したとは言えないのであるから,裁判所は弁護人とは別に被告人に対して,証拠調べ請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなくてはなりません(最高裁昭和27年12月19日判決)。
(4) 刑訴法326条1項ただし書の「相当と認めるときに限り」というのは,証拠とすることに同意のあった書面又は供述が任意性を欠き,又は証明力が著しく低い等の事由があれば証拠能力を取得しないとの趣旨です(最高裁昭和29年7月14日決定)。
(5) 挙示の証拠が証拠能力のあるものであることは,判文に特に説明する必要はありません(最高裁昭和29年7月14日決定)。
3 合意書面
(1) 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人が合意の上,文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは,その文書又は供述すべき者を取り調べないでも,その書面を証拠とすることができます(刑訴法327条前段)。
(2) 合意書面の場合,当事者双方に証拠申請の利益があることが前提となるものの,そのような事例は希有であることから,今日では原則として同意書面の活用によることが確立しており,合意書面はほとんど用いられていません。
(3) 合意書面は,これに証拠能力を与えるための制度であるにすぎず,その内容を真実と認めるものではないから,その内容の証明力を争うことはできます(刑訴法327条ただし書)。

第12 証明力を争うための証拠

1 刑訴法321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述の証明力を争うためには,これを証拠とすることができます(刑訴法328条)。
   これは,伝聞証拠について事実認定に用いるのではなく,単に他の証拠の証明力を争うためだけに使用するならば,別段の弊害はないのでその使用が認められています。
2 証人の供述の証明力を争うことを弾劾といいます。
   弾劾の方法には,①反対尋問において体験したとされる事実について認識,記憶,記述の各面を追求する方法,②証人の性格,能力,利害関係,偏見等,証人の信用性を一般的に批判する方法,及び③証人が矛盾する供述をしていることを示す方法があります。
3 刑訴法328条は,①同一人の,②公判廷供述前の,③不一致供述のみ,④その供述を証拠とすることができることを規定したものであり,①に関しては自己矛盾供述に限られるのかが問題となり,②に関しては公判廷供述後に作成されたものでも良いのかが問題となり,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれるのかが問題となり,④に関しては任意性に疑いのある供述も含まれるのかが問題となります。
   ①に関しては自己矛盾供述に限られ,②に関しては公判廷供述前に作成されたものに限られ,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれ,④に関しては任意性に疑いのある供述は含まれないと解されています。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。