刑事裁判の証人尋問

第0 目次

第1 総論
第2 証人の尋問の順序
第3 主尋問
第4 反対尋問及び再主尋問
第5 証人尋問の方法等
第6 尋問事項書
第7 書面等の提示
第8 交互尋問の沿革
第9 証人の保護

*1 民事事件の証人尋問については,「証人尋問及び当事者尋問」を参照してください。
*2 大阪地裁HPの「弁護人の証拠請求・証人尋問」に,刑事裁判における弁護人の証人尋問に関する写真が載っています。
*3 証人等の保護のための諸制度に関する参考事項について(平成28年11月25日付の,最高裁判所刑事局第二課長及び総務局第三課長の事務連絡)を掲載しています。

第1 総論

1 証人の尋問を請求するときは,その氏名及び住居を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則188条の2第1項)。

2 証人の尋問を請求するときは,証人の尋問に要する見込みの時間を申し出なければなりません(刑訴規則188条の3第1項)。
   証人の尋問を請求した者の相手方は,証人を尋問する旨の決定があったときは,その尋問に要する見込みの時間を申し出なければなりません(刑訴規則188条の3第2項)。

3 証人等の尋問をする旨の決定があったときは,その取調べを請求した訴訟関係人は,証人等を期日に出頭させるよう努めなければなりません(刑訴規則191条の2)。

4 証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は,証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によって,適切な尋問をすることができるように準備しなければなりません(刑訴規則191条の3)。

第2 証人の尋問の順序

1 証人の尋問は,以下の順序によります(刑訴規則199条の2第1項)。
① 主尋問
証人の尋問を請求した者による尋問です。
② 反対尋問
相手方による尋問です。
③ 再主尋問
証人の尋問を請求した者による再度の尋問です。

2 訴訟関係人は,裁判長の許可を受けて,再主尋問の後に更に尋問することができます(刑訴規則199条の2第2項)。

3 裁判長又は陪席裁判官が最後に補充的に尋問することがありますところ,実務上は,補充尋問といわれます。

第3 主尋問

1 主尋問は,①立証すべき事項及び②これに関連する事項について行います(刑訴規則199条の3第1項)。

2 主尋問の場合,証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができ(刑訴規則199条の3第2項),これを弾劾尋問といいます。
   弾劾尋問は,①証人の観察,記憶又は表現の正確性等証言の信用性に関する事項,及び②証人の利害関係,偏見,予断等証人の信用性に関する事項について行うものの,みだりに証人の名誉を害する事項に及んではなりません(刑訴規則199条の6)。

3 主尋問の場合,以下の場合を除き,誘導尋問をすることができません(刑訴規則199条の3第3項)。
① 証人の身分、経歴、交友関係等で,実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
② 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき。 
③ 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。 
④ 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。
⑤ 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。
⑥ 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。
→ 「前の供述」とは,証人として供述をする前にした一切の供述を含みます。
⑦ その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
→ 例えば,(a)計数計算を伴う複雑な取引内容等に関し,証人は一応の記憶を有するが,より一層正確な供述を求める必要がある場合,(b)証人に精神的欠陥があって質問の趣旨を理解できない場合,(c)供述又は表現能力が著しく劣る場合があります。

4 誘導尋問をするについては,書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければなりません(刑訴規則199条の3第4項)し,裁判長は,誘導尋問を相当でないと認めるときは,これを制限することができます(刑訴規則199条の3第5項)。

第4 反対尋問及び再主尋問

1 反対尋問は,①主尋問に現れた事項及び②これに関連する事項,並びに③証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行います(刑訴規則199条の4第1項)。
   ただし,裁判長の許可を受けたときは,反対尋問の機会に,自己の主張を指示する新たな事項についても尋問することができます(刑訴規則199条の5第1項)ところ,この場合,主尋問と同様の制約を受けます(刑訴規則199条の5第2項)。

2 反対尋問は,特段の事情のない限り,主尋問終了後直ちに行わなければなりません(刑訴規則199条の4第2項)。

3 反対尋問においては,必要があるときは誘導尋問をすることができます(刑訴規則199条の4第3項)ものの,裁判長は,誘導尋問を相当でないと認めるときは,これを制限することができます(刑訴規則199条の4第4項)。

4 再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行われ(刑訴規則199条の7第1項),主尋問と同等の制約を受けます(刑訴規則199条の7第2項)。

第5 証人尋問の方法等

1 訴訟関係人は,証人を尋問するに当たっては,できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問によらなければなりません(刑訴規則199条の13第1項)。
   ただし,場合に応じて物語的に供述させるような尋問が常に禁止されるわけではありません。
  なぜなら,争点にかかわる部分につき,「その後どうなりましたか。」とか「そのときの状況を話して下さい。」というように聞いて,物語的に話してもらう方が心証をとりやすい場合も多いからです。
2 訴訟関係人は,①の尋問は常にしてはならず,正当な理由がない限り②ないし④の尋問をしてはなりません(刑訴規則199条の13第2項)。
① 威嚇的又は侮辱的な質問
② すでにした尋問と重複する尋問
③ 意見を求め,又は議論にわたる尋問
④ 証人が直接経験しなかった事実についての尋問
→ 証人がその実験した事実により推測した事項を供述させる場合はこの限りでありません(刑訴法156条)。

3 訴訟関係人は,①立証すべき事項又は②主尋問若しくは反対尋問に現れた事項に関連する事項について尋問する場合,その関連性が明らかになるような尋問をすることその他の方法により,裁判所にその関連性を明らかにしなければなりません(刑訴規則199条の14第1項)。
①証人の観察,記憶若しくは表現の正確性その他の証言の信用性に関連する事項,又は②証人の利害関係,偏見,予断その他の証人の信用性に関連する事項について尋問する場合も同様です(刑訴規則199条の14第2項)。

4 陪席の裁判官は,証人等を尋問するには,あらかじめ,その旨を裁判長に告げなくてはなりません(刑訴規則200条)。

5 裁判長は,①訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき,又は②事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,これを制限することができます(刑訴法295条1項前段)。
訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様です(刑訴法295条1項後段)。
   そして,裁判所は,検察官又は弁護人が弁論等の制限に関する命令に従わなかった場合,検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に,弁護人については所属弁護士会又は日弁連に通知し,適当な処置をとるべきことを請求することができます(刑訴法295条4項)。

6 裁判長は,必要と認めるときは,訴訟関係人の証人等に対する尋問を中止させ,自らその事項について尋問することができます(刑訴規則201条1項)。

7 裁判長は,被告人,証人等が特定の傍聴人の面前で充分な供述をすることができないと思料するときは,その供述をする間,その傍聴人をたいていさせることができます(刑訴規則202条)。

第6 尋問事項書

1 証人の尋問を請求した者は,裁判官の尋問の参考に供するため,速やかに尋問事項又は証人が証言すべき事項を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則106条1項本文)。
   ただし,公判期日において訴訟関係人にまず証人を尋問させる場合(交互尋問の場合),この限りではない(刑訴規則106条1項ただし書)ところ,実務上は常に交互尋問であることから,刑事裁判では原則として尋問事項書を提出することはないです。

2 交互尋問の場合においても,裁判所は,必要と認めるときは,証人の尋問を請求した者に対し,尋問事項書を差し出すべきことを命じることができます(刑訴規則106条2項)。

3 尋問事項書に記載すべき事項は,証人の証言により立証しようとする事項のすべてにわたらなければなりません(刑訴規則106条3項)。

第7 書面等の提示

1 訴訟関係人は,書面又は物に関しその成立,同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは,その書面又は物を示すことができます(刑訴規則199条の10第1項)。
   例としては,①検証調書,実況見分調書,鑑定書の作成の真正を立証するためその作成者を尋問するとき(刑訴法321条3項及び4項),これらの書面を証人に示す場合,②刑訴法321条1項2号又は322条該当書面として請求する前提として,当該書面末尾の署名,指印の部分を証人に示して確認する場合があります。

2 「その他これに準ずる事項について証人を尋問する」の例としては,①凶器の刃こぼれや衣類の汚点について説明を求める必要があるとき,その刃こぼれや汚点を証人に示して尋問する場合,及び②凶器自体は未発見の場合にその類似品を作成又は入手してこれを証人に示し,その類似性について確認する場合があります。

3 訴訟関係人は,証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは,裁判長の許可を受けて,供述録取書を除く書面又は物を示して尋問することができます(刑訴規則199条の11第1項)。
   この場合,書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことの内容に注意しなければなりません(刑訴規則199条の11第2項)。

4 訴訟関係人は,証人の供述を明確にするため必要があるときは,裁判長の許可を受けて,図面,写真,模型,装置等を利用して尋問することができます(刑訴規則199条の12第1項)。
   実務上,①ビデオテープ,②供述調書添付の一覧表及び③取調べ済の各種証拠物を利用して尋問することもあります。

5 証人に示す書面,物,図面等が証拠調べを終わったものでないときは,あらかじめ,相手方にこれを閲覧する機会を与えなければなりません(刑訴規則199条の10第2項・199条の11第3項・199条の12第2項)。

第8 交互尋問の沿革

1   刑訴法304条は,戦前の刑事訴訟法と同じく,まず裁判官が尋問するのを原則としています。
   これは,すべての事件について被告人に弁護人があるわけではないから,交互尋問制を取り入れると検察官の一方的尋問となり,かえって被告人の保護が不十分になることが心配されたためです。
   その反面,当事者主義訴訟構造の下で,最初に裁判所が証人等を尋問することにはかなりの困難が伴うことも当然に予想されたため,刑訴法304条3項により,適当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,交互尋問の方法によりうるものとされました。
   しかし,実務は現行法施行当初から交互尋問の方式をとることが多く,やがてそれが常態化したため,昭和32年2月15日最高裁判所規則第1号による刑訴規則の改正によって,交互尋問に関する詳細な規定が整備されるに至りました(刑訴規則199条の2以下)。

2   現在の実務では,検察官及び弁護人の意見を聴くまでもなく,当然に交互尋問が実施されています。

第9 証人の保護

〇証人の保護手段としては以下のものがあります。
○岡山地裁HPの「刑事裁判における個人情報保護(被害者保護)」に,①証人の遮へい,及び②ビデオリンク方式による証人尋問のイメージ写真があります。

1 証人威迫罪(刑法105条の2)
→ 自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し,当該事件に関して,正当な理由がないのに面会を強請し,又は強談威迫の行為をした者は,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます。

2 必要的保釈の除外例(刑訴法89条5項)
→ 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき,必要的保釈は認められません。

3 証拠開示に際しての証人の安全への配慮(刑訴法299条の2)
→ 検察官又は弁護人は,証拠書類等を閲覧する機会を与えるに当たり,証人等若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあるときは,相手方に対し,その旨を告げ,これらの者の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が,原則として,被告人を含む関係者に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができます。

4 証人の所在場所が特定される事項についての尋問の制限(刑訴法295条2項)
→ 裁判長は,証人等を尋問するに当たり,証人等もしくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり,証人等の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人等が十分な供述をすることができないと認めるときは,当該事項についての尋問を制限することができます。

5 証人への付添い(刑訴法157条の2第1項)
→ 裁判所は,証人を尋問する場合において,証人の年齢,心身の状態その他の事情を考慮し,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,その不安を緩和するのに適当であり,かつ,裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくは証人の供述を妨げ,又はその供述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を,その証人の供述中,証人に付き添わせることができます。

6 証人尋問の際の証人の遮へい(刑訴法157条の3)
→ 裁判所は,証人を尋問する場合において,犯罪の性質,証人の年齢,心身の状態,被告人との関係その他の事情により,証人が被告人の面前において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって,相当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,被告人とその証人との間で,一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができます。

7 ビデオリンク方式による証人尋問(刑訴法157条の4)
→ 裁判所は,性犯罪等の被害者を証人として尋問する場合において,相当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所にその証人を在席させ,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(=ビデオリンク方法)によって,尋問することができます。

8 証人が特定の傍聴人の面前では充分な供述をすることができない場合の傍聴人の退廷(刑訴規則202条)
→ 裁判長は,(a)証人尋問の際の証人の遮へい及び(b)ビデオリンク方式による証人尋問の方法によったとしても証人が特定の傍聴人の面前で充分な供述をすることができないと思料するときは,その供述をする間,その傍聴人を退廷させることができます。

9 証人が被告人の面前では圧迫を受け十分な供述をすることができない場合の被告人の退席ないし退廷(刑訴法304条の2)
→ 裁判長は,(a)証人尋問の際の証人の遮へい及び(b)ビデオリンク方式による証人尋問の方法によったとしても証人が被告人の面前では圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは,弁護人が出頭している場合に限り,検察官及び弁護人の意見を聴き,その証人の供述中被告人を退廷させることができます。
   この場合,供述終了後に被告人を入廷させ,これに証言の要旨を告知し,その証人を尋問する機会を与えなければなりません。

10 刑事事件の証人,参考人又はその近親者が被害を受けた場合の療養給付,障害給付及び遺族給付等による救済(証人等の被害についての給付に関する法律(昭和33年4月30日法律第109号)
→ (a)証人若しくは参考人が刑事事件に関し裁判所,裁判官若しくは捜査機関に対し供述をし,若しくは供述の目的で出頭し,若しくは出頭しようとしたことにより,又は(b)国選弁護人がその職務を行い,若しくは行おうとしたことにより,当該証人,参考人若しくは国選弁護人又はこれらの者の配偶者,直系血族若しくは同居の親族が,他人からその身体又は生命に害を加えられたときは,国は,被害者その他の者に対する給付を行います。
   この場合の給付は,警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律(昭和27年7月29日法律第245号)による災害給付に準じて行われます。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。