第三者行為災害としての交通事故

第0 目次

第1   総論
第2の1 第三者行為災害届
第2の2 労働基準監督署に提出する念書
第3   第三者行為災害報告書(調査書)
第4   第三者行為災害事務取扱手引
第5の1 第三者行為災害における支給調整事務1/2
第5の2 第三者行為災害における支給調整事務2/2
第6   労災保険の支給決定前に示談が成立している場合の取扱い
第7   被害者の直接請求権の行使が労災保険に優先すること

*1 「労災保険」も参照してください。
*2 厚生労働省HPの「第三者行為災害のしおり」が参考になります。

第1 総論

1(1) 交通事故が労働災害に該当する場合,被災者は,使用者とは別の第三者の加害行為によってケガをしたこととなりますから,第三者行為災害となります。
(2) 第三者行為災害の場合,労災保険は,被災者である交通事故被害者に支払った障害補償給付等を,被災者の過失割合に応じて損害保険会社に請求します。
   そのため,後日,労災保険に対して障害補償給付等を請求する予定がある場合,加害者側の損害保険会社との間で示談をすることができません。

2 第三者行為災害の場合,第一当事者は被災者(例えば,交通事故の被害者)であり,第二当事者は相手方(例えば,交通事故の加害者)です。
   自賠先行が原則ですが,被害者である被災者にも過失があるため,治療費を節約したい等の理由により被災者が希望した場合,労災先行とすることもできます。

3 厚生労働省HPの「第三者行為災害のしおり」の10頁「自賠責保険等に対する請求権を有する場合」には,「自賠先行の場合に、引き続いていわゆる「任意保険」(自動車保険または自動車共済)による保険金支払いを受けるか、または労災保険給付を先に受けるかについても、同様に被災者等が自由に選べます。」と書いてあります。

4 会計検査院は,厚生労働大臣に対し,平成28年10月18日,第三者行為災害において取得した求償権の債権管理等について,会計検査院法36条に基づく処置要求を行いました(会計検査院HPの「会計検査院法第36条の規定による処置要求」参照)。
   そのため,第三者行為災害における支給調整事務は従前よりも厳格なものとなっています。

第2の1 第三者行為災害届

1 交通事故に関して労災保険を利用する場合,労基署に対し,交通事故証明書等を持参して第三者行為災害届労災保険法12条の7・労災保険法施行規則22条)及び念書(兼同意書)(様式第1号)を提出する必要があります(大阪労働局HPの「第三者行為災害について」参照)。 
 
2 労働災害の場合,第一当事者が被災者となり,第二当事者が加害者となります。
   これに対して交通事故証明書の場合,第一当事者が加害者となり,第二当事者が被害者となります。

3 第三者行為災害届を提出しなかった結果,労働基準監督署において事実関係が把握できない場合,労災保険給付の支給決定をしてもらえませんし,仮に支給決定をしてもらえたとしても,労災保険法47条の3に基づき,労災保険給付を一時差し止められることがあります。

4 交通事故証明書を提出できない場合,労働基準監督署の書式による「交通事故発生届」(様式第3号)を提出することとなります。
   この場合,第二当事者(相手方)において,損害を与えたことを自認してもらう必要があります。
第三者行為災害届1/4
第三者行為災害届2/4
第三者行為災害届3/4
第三者行為災害届4/4

第2の2 労働基準監督署に提出する念書

第三者行為災害届と一緒に労働基準監督署に提出する念書(兼同意書)(様式第1号)の文言は以下のとおりです。

1 上記災害に関して、労災保険給付を請求するに当たり以下の事項を尊守することを誓約します。
(1)相手方と示談を行おうとする場合は必ず前もって貴職に連絡します。
(2)相手方に白紙委任状を渡しません。
(3)相手方から金品を受けたときは、受領の年月日、内容、金額(評価額)を漏れなく、かつ遅滞なく貴職に連絡します。
2 上記災害に関して、私が相手方と行った示談の内容によっては、労災保険給付を受けられない場合があることについては承知しました。
3 上記災害に関して、私が労災保険給付を受けた場合には、私の有する損害賠償請求権及び保険会社等(相手方もしくは私が損害賠償請求できる者が加入する自動車保険・自賠責保険会社(共済)等をいう。以下同じ。)に対する被害者請求権を、政府が労災保険給付の価額の限度で取得し、損害賠償金を受領することについては承知しました。
4 上記災害に関して、私の個人情報及びこの念書(兼同意書)の取扱いにつき、以下の事項に同意します。
(1) 貴職が、私の労災保険の請求、決定及び給付(その見込みを含む。)の状況等について、私が保険金請求権を有する人身傷害補償保険等取扱保険会社(共済)に対して提供すること。
(2) 貴職が、私の労災保険の給付及び上記3の業務に関して必要な事項(保険会社等から受けた金品の有無及びその金額・内訳(その見込みを含む。)等)について、保険会社等から提供を受けること。
(3) 貴職が、私の労災保険の給付及び上記3の業務に関して必要な事項(保険給付額の算出基礎となる資料等)について、保険会社等に対して提供すること。
(4) この念書(兼同意書)をもって(2)に掲げる事項に対応する保険会社等への同意を含むこと。
(5) この念書(兼同意書)を保険会社等へ提示すること。
念書(兼同意書)

第3 第三者行為災害報告書(調査書)

1(1) 労働基準監督署は,第二当事者に対し,第二当事者に関する事項,災害発生状況及び損害賠償金の支払状況等を確認するため,第三者行為災害報告書(調査書)の提出を求めます。
(2) 特別支給金のみの申請であることが明らかな場合及び第三者行為災害届等の内容から求償権行使の差し控え事案に該当することが明確な場合,第二当事者等に対して第三者行為災害報告書の提出を求められることはありません。

2 大阪労働局HPの
「第三者行為災害に関する提出書類について」に,以下のとおり記載例が載っています。
① 第三者行為災害報告書(調査書)(報告書その1)
②   
第三者行為災害報告書(調査書)(報告書その2)

3(1) 労働基準監督署は,第二当事者に対し,労災保険で立て替えたお金について,過失割合に応じた支払を求めてきます。
(2) 労働基準監督署における担当部署は通常,労災課になります。

第4 第三者行為災害事務取扱手引

1(1) 厚生労働省労働基準局が平成27年4月に作成した,第三者行為災害事務取扱手引1/3第三者行為災害事務取扱手引2/3及び第三者行為災害事務取扱手引3/3を掲載しています(平成29年4月16日追加)。
(2) 平成29年4月作成の第三者行為災害事務取扱手引は,行政文書情報販売店HP「労災保険」で販売されています。

2 第三者行為災害事務取扱手引1/3・21頁(PDF)35頁には,第一当事者等への意向確認等に当たって以下の事項に留意するように書いてあります。
   なお,療養補償給付,休業補償給付等の請求時効は2年であり,障害補償給付,遺族補償給付等の請求時効は5年です(労災保険法42条)。
①   請求時効の教示
   請求人が自賠先行で損害賠償金を受領した後に請求書を提出する旨希望した場合については,労災保険給付に係る請求時効を教示するとともに,自賠責保険等の請求手続や内容,自賠責保険等の支払限度額を超過したような場合には更に労災保険に対して請求を行うことが可能であること等を丁寧に説明すること。
② 人傷保険該当事案の取扱い
   人傷保険該当事案のうち第一当事者等が既に人傷保険の保険金を請求しているものについて労災保険給付の請求があった場合には,第一当事者等は労災先行を希望しているといえるものであるから,意思確認を行う必要はないこと。


第5の1 第三者行為災害における支給調整事務1/2

「第三者行為災害における支給調整事務の一部改正について」(平成8年3月5日付の労働省労働基準局長通達)を掲載しています(末尾の通達一覧表は省略しています。)。
   左上に「部内限」と書いてありますが,情報公開請求により取得したものです。

1 求償に伴う事務手続について
(1) 保険会社等に対して求償する場合の考え方について 
   労災保険給付に伴い、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)第12条の4第1項に基づき、第一当事者(被災者)及び遺族等の請求権者(以下「第一当事者等」という。)から国が取得する権利は、第二当事者(相手方)及び使用者又は運行供用者等損害賠償責任を有する者 (以下「第二当事者等」という。)に対する損害賠償請求権だけではなく、自動車損害賠償責任保険及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責保険」という。)を取り扱っている損害保険会社又は都道府県共済農業協同組合連合会(以下「保険会社等」という。)に対する被害者請求権並びに自動車保険及び自動車共済(以下「任意保険」という。)を取り扱っている保険会社等に対する請求権者の直接請求権も含むものである。この場合、保険会社等と第二当事者等は、国に対してそれぞれ不真正連帯債務を負う関係に立つことになり、第三者行為災害における国の求償権の行使は、保険会社等と第二当事者等に対して同時に行うことが可能である。
   したがって、今後は、保険会社等により確実に支払いが行われる見込みがある等の事情が認められる場合には、保険会社等に対して第二当事者等よりも優先して納入告知書を送付することとする。
   ただし、都道府県労働基準局(以下「局」という。)が保険会社等に対し納入告知を行った後に、第二当事者等から任意保険を用いず自己負担する旨連絡があった場合、及び示談代行のない任意保険と契約している第二当事者等が自らへの求償を希望している旨保険会社等又は当該第二当事者等から連絡があった場合には、求償事務を円滑に進める観点から、局は納入告知書を第二当事者等に対して別途送付することとする。
(2) 同意書に係る手続の廃止について 
   従来、保険会社等に対して求償を行う際には、国は第二当事者より同意書の提出を求め、当該同意書の写しを送付する等の事務処理を行っていたところであるが、国の求償権の行使は、 労災保険給付に伴い国が第一当事者等より取得した自賠責保険を取り扱っている保険会社等に対する被害者請求権と任意保険を取り扱っている保険会社等に有するものである。したがって、今後は第二当事者に対して同意を求める等の手続を経ることなく保険会社等に対して直接求償することとする。
   なお、これに伴い従来の同意書に係る事務処理は廃止する。
(3) 納入告知書のあて名について 
   保険会社等に対して局が納入告知書を送付する際には、従来は納入告知書のあて先を第二当 
事者名としていたところであるが、今後は納入告知書には保険会社等の名称を記載することと 
する。
   なお、督促手続についても同様の取扱いとする。

2 自賠責保険及び任意保険と労災保険との支払事務の調整について
 
   自賠責保険による保険金の支払いと労災保険給付との支払事務の調整については、自賠責保険による保険金の支払いを労災保険給付に先行させるよう取り扱うのが原則(以下「自賠先行の原則」という。)であるが、第一当事者等が労災先行を希望する場合には、労災保険給付を自賠責保険による保険金の支払いよりも先行させているところである。
   しかしながら、保険会社等と労働基準監督署(以下「署」という。)の連携が十分に図られなかったような事案において、第一当事者等に対して自賠責保険又は任意保険と労災保険が重複して支払われた結果、第一当事者等より重複てん補分を回収しなければならないという困難な問題が現実に発生していることから、重複てん補の防止を図る必要性が生じている。
   そのため、同一の損害について第ー当事者等より労災保険給付の請求と保険会社等に対する被害者請求等が重複して行われた場合には、自賠先行の原則を踏まえながら、第ー当事者等の意向を確認した上で事務処理を行うという従来の考え方は維持しつつ、迅速に処理を進め、併せて損害の重複てん補を防止するという観点から、署は保険会社等と密接に連携を図りながら次の要領で事務処理を行うこととする。
① 保険会社等から署に対し、第一当事者等より被害者請求等が行われていない旨回答がなされた後に被害者請求等が行われた場合には、保険会社等から署に対しその旨連絡がなされるが、その連絡が行われた時点で労災保険給付が既に行われていた場合には、その価額の限度において既に第一当事者等の権利を国が取得していることから、保険会社等において支給調整を行うこととなるので、署は労災保険給付を継続して行い、局は保険会社等に対して求償することとする。
   この場合、第ー当事者等が保険会社等へ入った保険金の支払請求の中には、慰謝料等労災保険の給付対象としていない損害が含まれることもあるが、このような事案で労災保険からの求償と第ー当事者等よりの慰謝料等の請求の合計額が保険会社等の支払限度額を超過する場合には、保険会社等は国と第一当事者等に対して按分比例して支払いを行うこととなるので留意すること。
② 保険会社等から上記①の連絡が行われた時点で労災保険給付が行われていなかった場合及び保険会社等が署に対し第一当事者等より被害者請求等は行われているが未だ支払いを行っていない旨の回答を行った場合には、署と保険会社等は速やかに協議を行うこととする。
   この場合、第一当事者等より署に対して労災保険給付の請求が既に行われていることから、 保険会社等においてもそうした状況を踏まえて損害の重複てん補を防止するための措置を講じることになるが、署においても保険会社等と連携を図りつつ、第ー当事者等の意向を速やかに確認し事務処理を進めること。

3 保険会社等に対する照会手続について
(1) 保険会社等の回答に係る督促状の様式化等について 
   保険会社等に対しては、従来より、保険金支払いの有無及び当事者の過失割合についての意見等について文書で照会を行い、その回答を参考にして支給調整事務を行ってきたところである。
   しかしながら、保険会社等からの回答が遅れ、署又は局における事務処理が遅延する事案も少なくないことから、今後は保険会社等に対する照会文(様式第5号)には原則として2週間の回答期限を設けることとする。
   また、併せて回答期限までに保険会社等より回答がなかった場合における保険会社等に対して送付する文書(様式第7号)を新たに様式化し、その文書にも原則として2週間の回答期限を記載することとする。
(2) 過失割合に関する調査等の省略について 
   自賠責保険と任意保険の支払いを一括して行う取扱い(以下「任意一括扱い」という。)が成立している事案において、局が求償した額と第一当事者が被害者請求権等を行使できる金額の合計額が自賠責保険金額以下であることが明確であると判断される場合には、第一当事者に重過失が認められるものを除き、署は当事者の過失割合に関する調査及び保険会社等に対する照会手続を省略することとし、局は過失割合を記載せずに保険会社等に対して納入告知を行うこととする。

4 求償に伴う予告通知手続の廃止等について
 
   求償事案においては、署が給付内訳を記載した予告通知書を第二当事者等に対して送付するとともに、その写しを保険会社等に対しても送付しているところである。これは、求償事務を円滑に進めるため、納入告知を行う前にあらかじめ求償見込額を明らかにした予告を行っているものである。
   しかしながら、現在は、求償先のほとんどが保険会社等となっており、局と保険会社等の間に限ってみた場合には、あらかじめ納付内訳を記載して求償の予告を行う必要性は少ないものと考えられる。また、保険会社等に対して求償を行う場合には、事前に第二当事者等に対して給付内訳を記載した予告通知書を送付する必要性も乏しいと考えられる。このため、今後は、保険会社等に対して求償する事案については、求償に伴う事務処理を簡素化するため予告通知手続は廃止することとする。
   一方、自賠責保険や任意保険の支払対象とならない災害については、局は第二当事者等に対して求償を行うこととなるが、従前どおり求償を行う前に給付内訳を記載した予告通知書を第二当事者等に対して送付することが求償事務を円滑に進める上で有効であることから、第二当事者等に対して求償を行うこととなる事案についてのみ署は事前に第二当事者等に対して予告通知書 (様式第8号)を送付することとする。

5 念書の取扱いについて 
   自賠責保険に対して求償する際には、従来第一当事者等より提出された念書の写しを添付することとしてたが、今後は求償事務の簡素化を図るという観点から、念書の写しを送付するという取扱いは廃止することとする。
   なお、第一当事者等が軽率な示談を行うことによって局及び署の事務処理が混乱することを防止するため、念書には、示談の内容によっては保険給付を受けることができない場合があることについても新たに明記することとしたので、特に留意して第一当事者等に対する指導を行うこと。

6 再発事案における支給調整について
   再発事案についても、今後は支給調整の対象とする。
   ただし、再発に係る労災保険給付に先立って第ー当事者等が損害賠償金を受領している場合には、その損害賠償金が再発により生じた損害について支払われた場合に限りその額を控除して保険給付を行うこととする。

第5の2 第三者行為災害における支給調整事務2/2

7 求償権の行使の差し控えについて
(1) 求償権の行使の差し控えについて 
   第三者行為災害において第一当事者等に対して労災保険給付を行った場合には、労災保険法第12条の4第1項の規定に基づき、国は求償権を取得することとなるが、求償権の取得は同時に国の債権の発生となり、国の債権の管理等に関する法律に基づく債権管理が必要となる。
   したがって、求償権を取得した事案については財政上最も国の利益に適合するよう処理することが求められることとなるが、一方、取得した求償権はすべて行使することが義務付けられているものではなく、一定の合理的な理由があって明確な基準に沿って処理が行われる限りにおいては、歳入徴収官の裁量によって求償権の行使を差し控えることも可能である。
求償権の行使を差し控える場合の基準については、 「第三者行為災害事務取扱手引」(平成2 年3月31日付け基発第185号)等に明示されているところであるが、今般その差し控えを行う理由を次の(2)のとおり一部整理変更することとする。
   なお、次の(2)及び(3)に記載されている事項以外については従前どおりの考え方である。
(2) 求償権の行使の差し控えの考え方について 
イ 同一の作業場で作業を行う、事業主を異にする労働者の加害行為による災害 
   同ーの作業場で作業を行う、事業主を異にする労働者の加害行為による災害については、 同一の作業場で作業を行っている限りにおいては、第一当事者を雇用する事業主と第二当事者を雇用する事業主は、常に立場が逆転する可能性があり相互に損害賠償責任を負う危険性を共有していると考えられることから、求償権の行使を差し控えることとする。
   なお、相互に危険性を共有している限りにおいては、日常的に作業をともに行っている必要はないものであること。
また、元請負人と下請負人の関係も同様の考え方により、同一の作業場で作業を行い、相互に危険性を共有していると認められる場合には、求償権の行使を差し控えることとすること。
ロ 直系血族及び同居の親族の加害行為による災害 
   生活共同体や家族生活の維持という観点からみると、直系血族及び同居の親族はー般的に第一当事者の収入により生活の全部又は一部を営むかあるいは営む可能性が高い関係にあると考えられるので、第一当事者と生計維持関係にある同居の親族又は第一当事者が民法第 877条第1項に規定する絶対的扶養義務を負う直系血族及び兄弟姉妹の場合には、求償権の行使を差し控えることとする。
ハ 労働者派遣法に基づく派遣労働者と派遣先事業場に所属する労働者間の災害 
   派遣元事業主より派遣されて派遣先事業場において就労する労働者と派遣先事業場に雇用される労働者とは、同一の事業場又は作業場において業務を行っているのが通常であり、 上記イの場合と同様の考え方により求償権の行使を差し控えることとする。
ニ 第二当事者等が無資力の場合 
   第二当事者等が無資力で求償を行ったとしても、結果的に徴収停止、免除等の措置を移行することが見込まれる事案にあっては、求償に伴う事務処理を省略することがむしろ合理的であると考えられることから、求償権の行使を差し控えることとする。
(3) 求償権の行使の一部差し控えについて 
   求償権の行使の一部差し控えという取扱いについては、これを廃止することとし、従来求償を一部差し控えていた事案については、上記7の(2)のイ又はハに該当する場合にあっては、全部差し控えの取扱いを行うこととする。

8 介護(補償)給付の取扱いについて 
   介護(補償)給付の給付内容及び民事損害賠償との支給調整の考え方については、平成8年3月1 日付け基発第95号をもって指示したところであり、介護(補償)給付について支給調整事務を行うに当たっては、他の保険給付と同様に取り扱うこと。

9 第三者行為災害届が提出されない場合の保険給付のー時差し止めについて 
   第三者行為災害届は、労災保険法施行規則第22条に基づき第一当事者等から提出される届出で第二当事者に関する事項や災害発生状況等を記載するものであるが、第三者行為災害における支給調整事務を適正に行うためには必要不可欠な書類である。
   しかしながら、事案によっては第三者行為災害届が第ー当事者等より提出されず、あるいは大幅に遅れて提出されたため、災害発生状況の確認や第ー当事者等の損害賠償金の受領の有無、あるいは保険会社等に対する被害者請求権等の行使の有無等について必要な情報が得られず、事務処理が遅延する事案が生じているところである。このため、正当な理由がなく、電話及び文書による督促にもかかわらず第三者行為災害届を提出しない第一当事者等については、労災保険法第 47条の3に基づき、労災保険給付を必要に応じて一時差し止めることとする。

10 様式の改正等について
 
   第三者行為災害に係る支給調整事務の簡素・合理化を図るという観点から、従来関係通達において定めていた様式について廃止、統合等を行い、別添のとおり新たに様式を定めることとする。
  
11 保険会社等に求償する際に添付する書類について 
   保険会社等に対して求償する場合、納入告知書以外に送付する書類は、原則として次に掲げるものとする。
イ 「第三者行為災害による損害賠償の請求について」(様式第2号(4))
ロ 「交通事故証明書」
   ただし、交通事故証明書がない場合は、 「交通事故発生届」(様式第3号)「第三者行為災害届」(届その1~届その4)
   ただし、第三者行為災害届がない場合は、 「第三者行為災害報告書」(報告書その1~報告書その2)
ニ 第ー当事者が死亡した場合は、 「死亡診断書」又は「死体検案書」
ホ 第一当事者が死亡した場合は、 「戸籍謄本」
   なお、第一当事者等より保険会社等に対して提出されている書類については改めて添付する必要はない。

第6 労災保険の支給決定前に示談が成立している場合の取扱い

第三者行為災害事務取扱手引61頁及び62頁によれば,以下のとおりです。

(1) 真正な全部示談が成立している場合の取扱い
   第一当事者等と第二当事者等の間で真正な労災保険給付を含む全損害の填補を目的とする示談(以下「全部示談」という。)が行われたと判断された場合には,それ以後の労災保険給付を行わないこと。
   労災保険給付を行わない場合の要件は,次の2点である。
ア 当該示談が真正に成立していること
   なお,次のような場合には真正に成立した示談とは認められないこと。
① 当該示談の成立が錯誤,心裡留保(その真意を知り,又は知り得べかりし場合に限る。)に基づく場合
② 当該示談の成立が詐欺又は強迫に基づく場合
イ 当該示談の内容が,第一当事者等の第二当事者等に対して有する損害賠償請求権(労災保険給付と同一の事由に基づくものに限る。)の全部の填補を目的としていること
   次のような場合には,損害の全部の填補を目的としているものとは認められないものとして取り扱うこと。
① 損害の一部について労災保険給付を受けることを前提として示談している場合
② 示談書の文面上,全損害の填補を目的とすることが明確になっていない場合
③ 示談書の文面上,全損害の填補を目的とする旨の記述がある場合であっても,示談の内容及び当事者の供述等から判断し,全損害の填補を目的としているとは認められなかった場合
   また,示談が真正な全部示談と認められるかどうかの判断を行うに当たっては,示談書の存在及び示談書の記載内容のみにとらわれることなく,当事者の真意の把握に努める必要があること。

(2) 真正な全部示談とは認められない場合の取扱い
   当該示談が真正な全部示談とは認められない場合には,労災保険給付を行う必要性が認められる限りにおいて労災保険を給付することとなるが,示談の成立に伴い,第一当事者等が第二当事者等又は保険会社等より損害賠償又は保険金を受領している場合には,受領済みの金額を控除して労災保険給付を行うこと。
   また,示談書は存在するが,調査の結果真正な全部示談とは認められなかったため労災保険給付を行うこととした場合には,示談締結時の状況や真正な全部示談とは認められないと主張する理由を,第一当事者等から書面によりあらかじめ徴しておくこと。
   なお,第一当事者等から書面を徴する目的は,真正な全部示談ではないことを第一当事者等が主張したという事実を文書で確認し保管しておくことにあるため,その趣旨が十分に記載されていれば書面は任意の様式で差し支えないこと。

第7 被害者の直接請求権の行使が労災保険に優先すること

1 東京地裁平成28年8月29日判決(法曹時報69巻7号79頁)は,自賠法16条1項は,被害者請求によって,被害者が少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の填補を受けられることにして,被害者の保護を図るものであるから,被害者が交通事故を原因として労災保険給付を受けたとしても,加害者に対し賠償を求めることができる損害額のすべてが填補されていなければ,その未確定額につき,政府に優先して,自賠責保険の保険会社から損害賠償額の支払を受けられると判示しました。

2 被害者が直接請求権を行使する一方,社会保険者が代位取得した直接請求権を行使し,その行使額の合計が自賠責保険金額の上限を超える場合の調整については,被害者優先説と按分説の対立があり,従来の保険実務では,基本的に按分説が採られていました。
   しかし,最高裁平成20年2月19日判決は,被害者の直接請求権の行使が,老人保健法に基づく医療の給付を行った市町村長が代位取得した直接請求権の行使に優先する旨を判示して,被害者優先説に立つことを明らかにしました。
  最高裁調査官の判例解説(森富義明「平成20年最高裁判所判例解説民事篇」117頁)は,上記の判旨は被害者の直接請求権と社会保険者の取得した直接請求権との調整一般について妥当しうるものであるとしています。
   東京地裁平成28年8月29日判決は,これを踏まえて,被害者の直接請求権が,労災保険給付により政府が代位取得した直接請求権の行使に優先する旨を判示したものであり,その判断は控訴審である東京高裁平成28年12月22日判決でも維持されました。

3 本記事ブロックの記載は,法曹時報69巻7号79頁及び80頁を参照しています。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。