初診時の留意点,公的医療保険,診療録及びレセプト

第1 初診時の留意点

□ 交通事故から概ね3日以上が経ってから病院又は診療所(以下単に「病院」といいます。)の整形外科を受診した場合,交通事故と怪我との因果関係を争われる可能性が非常に高くなります(外部HPの「むち打ち損傷の発症時期と事故との因果関係」参照)。
   そのため,警察等への報告が終わった場合,当日又は翌日,遅くとも翌々日までに病院又は診療所(以下単に「病院」といいます。)の整形外科を受診してください。
□  金曜日の夕方に交通事故にあった場合,「交通事故」+「整形外科」+「土曜日」+「(地名)」でネット検索をして,自宅の近くで土曜日の診察をしている整形外科を探した上で,土曜日に診察を受けた方がいいです。
□ 怪我をした部位の全部について,警察に提出する診断書に記載してもらう他,レントゲン検査,CT検査,MRI検査等により画像を撮影してもらうようにしてください。
   自賠責保険に対して後遺障害の等級申請をした場合,等級認定の審査の一環としてA3サイズの「後遺障害事案整理票」が作成されますところ,そこには①初診時の傷病名,並びに②初期の症状及び態様も記載されています。
   また,自賠責保険診療報酬明細書を通じて,初診時の検査内容も重視されます。
□ MRI検査は強力な磁石でできた筒の中に入り,磁気の力を利用して体の臓器や血管を撮影する検査です(外部HPの「MRI検査とは」参照)。
□ 警察に提出する診断書では,被害者の加療期間が1週間から3週間ぐらいとなっていることが多いです。
   しかし,この診断書における加療期間は加害者の違反点数に影響するだけであって(例えば,加療期間が15日以上30日未満の場合は6点又は4点となり,15日未満の場合は3点又は2点となります(外部HPの「人身事故と物損事故の「罰金と点数」を完璧に知っておく」参照)。),実際の治療期間はこれよりも遥かに長くなることが通常です。
□ 信頼できる整形外科に通院しないと,治療効果が十分に上がらない可能性があります。
   また,途中で転院した場合,交通事故の直後から診察してもらっているわけではないため,後遺障害診断書を作成するに際して,交通事故と後遺障害との因果関係を十分に説明できない可能性が高まります。
  そのため,通院することを検討している整形外科について,ネット検索で評判を調べた方が無難です。

第2 公的医療保険(例えば,国民健康保険)

1 公的医療保険を利用することを検討すべき場合
□ 被害者の過失が概ね3割以下の交通事故の場合,加害者側の任意保険会社(詳細につき「任意保険の示談代行制度」参照)による一括払を受けることができます。
   一括払というのは,加害者が加入している対人賠償責任保険において自賠責保険部分を含めて保険金を支払うという仕組みであり,症状固定前の場合,主として治療費及び休業損害の支払を意味します。
□ 以下の場合,治療費の負担を抑えるために公的医療保険を利用することを検討してください。
① 被害者にもそれなりの過失がある場合
→ 自由診療としての取扱いを受けて加害者側の任意保険会社に一括払をしてもらった場合,公的医療保険(国民健康保険,健康保険等)を使った場合と比べて治療費が倍ぐらいになる結果,それ以外の損害について得られる賠償金が少なくなります。
② 加害者が自賠責保険にしか加入していない場合
→ 傷害の場合,自賠責保険の上限は120万円です。
   そのため,公的医療保険を利用しない場合,重傷事案では治療費だけで120万円を超えてしまう結果,休業損害等について賠償を受けられなくなります。
□ 例えば,公的医療保険を利用した場合の治療費が100万円,通院慰謝料が100万円,過失割合が3割の場合,200万円の損害額のうち,相手方に対して請求できる損害額は140万円となりますところ,100万円は治療費に充当されますから,追加で請求できるのは40万円となります。
   これに対して,任意保険会社の一括払を利用し続けた場合,自由診療として1点20円で計算される結果,公的医療保険を利用した場合の治療費の2倍ぐらいとなることがあります(ただし,自賠責保険診療費算定基準が適用されている場合,1.44倍近くです。)。
   そのため,例えば,治療費が公的医療保険を利用した場合の2倍である200万円,通院慰謝料が100万円,過失相殺が3割の場合,300万円の損害額のうち,相手方に対して請求出来る損害額は210万円となりますところ,200万円は治療費に充当されますから,追加で請求できるのは10万円だけとなります。
□ 自賠責保険診療報酬明細書を取り寄せれば,1点20円で計算されているのか,それとも自賠責保険診療費算定基準で計算されているのかが分かります。
   後者の場合,左下の「請求額の計算」欄に,「A(イ×単価×1.2)」とか,「B(ロ×単価)」などと書いてあります(単価は1点12円です。)。
□ 公的医療保険を利用する場合,交通事故証明書を持参して,「第三者行為による傷病届」(「第三者行為による災害届」ともいわれます。)を市区町村等に提出する必要があります(大阪市HPの「保険給付でのご注意」参照)。 

2 交通事故でも公的医療保険を利用できること等
□ 病院は,自由診療の場合と比べて受領できる治療費が半分ぐらいになりますから,交通事故の治療において公的医療保険を使うことに消極的です。
   しかし,公的医療保険の適用範囲の傷病であれば,保険医療機関である病院は,患者から被保険者証の提出とともに公的医療保険による診療を求められた場合,それが交通事故によるものであることを理由として,公的医療保険による診療を拒否することができません(「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」(平成23年8月9日付の厚生労働省保険局保険課長等の通知)等参照)。
□ 公的医療保険による診療の場合,通常の診療の場合と同様に,窓口で毎回,3割の自己負担金を支払う必要があります。
   その後,自己負担金の分を別途,任意保険会社に対して請求する必要がありますから,一括払と比べると,被害者側の手続は面倒になります。
□ 交通事故に起因する疾病等で公的医療保険を利用した場合,最終的には自賠責保険会社及び任意保険会社が医療費を負担することになります。
   その関係で,医療機関で診察を受ける際,交通事故に起因する疾病等に基づく場合,「第三者行為傷病届」を病院の窓口で提出する必要があります(国民健康保険法施行規則32条の6,健康保険法施行規則65条参照)。 

第3 診療録(カルテ)

□ 交通事故直後に痛みを訴えていなかった箇所については,交通事故と痛みとの因果関係を争われる可能性が高くなるのであって,例えば,2週間ぐらいしてから初めて痛みを訴えた場合,それまでも痛かったけれど我慢していたといった程度の説明だけでは因果関係を否定される可能性が高いです。
   そのため,交通事故直後に受診する場合,痛みがある箇所はすべて診断してもらい,診療録に記載してもらうようにしてください。
□ 訴訟提起した場合,被害者である患者が送付に反対したとしても,少なくとも交通事故日以後の整形外科の診療録は全部,裁判所の文書送付嘱託(民事訴訟法226条)により加害者側の弁護士が入手することとなり(個人情報保護法23条1項4号参照), 診療録に記載されなくなった痛みはその時点で治ったものであるなどと加害者側の弁護士に主張されることがあります。
   そのため,痛み,しびれ等が続いているにもかかわらず,痛み等が治まったなどと診療録に記載されることのないようにしてください。 
□ 医師は診療録に基づいて,任意保険会社に対し,毎月の自賠責保険診断書を作成して送付しています。
   そのため,診療録に痛み等が記載されなくなった場合,毎月の自賠責保険診断書にも痛み等が記載されなくなる結果,任意保険会社による治療費の打ち切りを誘発することとなります。
「症状固定後の被害者の留意点」でも記載していますが,後遺障害等級を認定してもらいたい場合,交通事故の当初から症状固定時までの間,毎月の自賠責保険診断書において症状が一貫していることが非常に望ましいです。
   そのため,毎月の自賠責保険診断書において痛み等の記載が中断した場合,後遺障害等級認定に不利に働くこととなります。
□ 診療録は,医師法施行規則23条に基づく文書です。
□ 患者は,医師,歯科医師,薬剤師,看護師等に対し,診療録,処方箋,手術記録,看護記録,検査所見記録,エックス線写真,紹介状,退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約といった診療記録について,閲覧又は写しの交付を求めることができます(平成22年9月17日改正の,厚生労働省医政局医事課の「診療情報の提供等に関する指針」参照)。 
□ 医療に関する患者・家族や医療機関からの様々な相談等に応じる医療安全支援センター医療法6条の13)のうち,大阪府下の窓口については,大阪府HPの「保健所において医療に関する相談や苦情をお伺いし,安心して医療を受けることができるようサポートします」に載っています。
   大阪市の場合,医療安全相談窓口「患者ホットライン」という名称で運営されています。 

第4 レセプト

1 レセプト

□ レセプトとは,患者が受けた診療について,医療機関(病院,診療所,薬局)が保険者に請求する医療費の明細書をいい,診療報酬明細書(医科,歯科の場合),又は調剤報酬明細書(薬局における調剤の場合)ともいわれます。

   ただし,昭和51年11月1日施行の療養の給付及び公費負担医療に関する費用の請求に関する省令(略称は「請求省令」です。)5条1項では,診療報酬請求書及び診療報酬明細書並びに調剤報酬請求書及び調剤報酬明細書をレセプトと定義しています。
□ レセプトを作成するコンピューターは,レセプトコンピューター(=レセコン)といわれます。
□ 病院等の医療機関は,被保険者である患者ごとにカルテを作り,傷病名,投薬,注射等の診療内容を診療録(=カルテ)に記録します。

   そして,公的医療保険の場合,この診療録から被保険者ごとに1か月単位で集約した上で診療報酬請求書又は調剤報酬請求書を作成し,診療報酬明細書又は調剤報酬明細書を添えて,毎月10日までに,医療機関の所在する①各都道府県の国民健康保険団体連合会(例えば,大阪府国民健康保険団体連合会),又は②社会保険診療報酬支払基金の都道府県支部(例えば,大阪支部)に提出します。

   レセプトは,審査支払機関の審査を経た上で,最終的には,保険者に送られます。
□ 厚生労働大臣は,2年に1回,中央社会保険医療協議会(=中医協)の答申に基づき,診療報酬の改定を行っています。

   なお,中医協は,社会保険医療協議会法(昭和25年3月31日法律第47号。昭和25年4月1日施行)に基づき設置されており,①支払側委員7人,②診療側委員(=医師,歯科医師及び薬剤師を代表する委員)7人及び③公益委員6人で構成されています。


2 電子レセプト請求

□ レセプト電算処理システムに参加している医療機関は,電子レセプト請求を行います。
    電子レセプト請求には,①オンライン請求(=電子情報処理組織の使用による請求),及び②電子媒体による請求(=光ディスク等を用いた請求)があります。
    なお,レセプト電算処理システムは,保健医療情報システム検討会が,厚生労働省に対し,平成13年12月26日に提言した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」で言及されていたものです。
□ 電子レセプト請求が義務づけられている保険医療機関又は保険薬局については,平成22年4月1日以降,医療費の明細書の交付が義務づけられるようになりました(保険医療機関及び保険医療養担当規則5条の2第2項)。
□ ①レセコンを使用していない保険医療機関又は保険薬局(請求省令5条),及び②常勤の保険医,保険薬剤師が全員,65歳以上である保険医療機関である診療所又は保険薬局(請求省令6条)を除き,請求省令に基づき,平成23年4月1日以降,電子レセプト請求が義務づけられるようになりました。

第5の1 労災保険

1 労災事故の場合,公的医療保険を利用できないこと等
□ 業務中の事故(業務災害)又は通勤中の事故(通勤災害)である場合,労災保険を利用できる反面,公的医療保険を利用することはできません(協会けんぽ鹿児島支部HPの
「仕事中や通勤途中にケガをしたとき」参照)(国民健康保険法56条1項,健康保険法55条1項)。
□   労災保険を利用できる場合,被害者の過失割合に関係なく,治療費の全額を労災保険に支払ってもらうことができます。
□ 20人以上の事業所において,業務災害が全くない場合,労災保険料率が基準額から最大で40%割引となるのに対し,業務災害がたくさんある場合,労災保険料率が基準額から最大で40%割増となります(外部HPの「労災保険のメリット制に関する基礎知識」参照)。
   ただし,通勤災害の場合,事業主に責任がないことから,労災保険料率の割増にはつながりません。
 
2 労災保険の利用に必要な書類等
□ 労災保険給付関係請求書は,厚生労働省HPの「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」に掲載されています。
□ 労災保険指定医療機関で治療を受ける場合,病院に対し,「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」(業務災害用)又は「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」(通勤災害用)を提出します。
□ 労災保険指定医療機関以外の医療機関で治療を受ける場合,労基署に対し,「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7号)」(業務災害用)又は「療養給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)」(通勤災害用)を提出します。
   ただし,これらの請求書に関する文書料は労災保険から支給してもらえません。

□ 療養補償給付等を請求する場合,①負傷又は発病の年月日,並びに②災害の原因及び発生状況について事業主の証明を受ける必要があります(労災保険法施行規則12条1項3号及び4号・同条2項等)。
   ただし,会社が事業主の証明をしてくれない場合であっても,労災保険を利用できることがあります(外部HPの「会社が「事業主証明」を拒否した場合の労災保険給付請求書の取扱い」参照)から,この場合,労基署に相談して下さい。
□ 事業主である会社は,被災労働者が労災保険を利用するのに助力する必要がある(労災保険法施行規則23条)反面,労基署長に対し,業務災害又は通勤災害に該当するかどうかについて意見を申し出ることができます(労災保険法施行規則23条の2)。
□ 療養の給付請求書,療養の費用請求書等の記載例は,厚生労働省HPの「療養(補償)給付の請求手続」に掲載されています。
□ どの医療機関が労災保険指定医療機関であるかについては,厚生労働省HPの
「労災保険指定医療機関検索」で調べることができます。
 
3 第三者行為災害届及び労働者死傷病報告
□ 交通事故に関して労災保険を利用する場合,労基署に対し,交通事故証明書等を持参して第三者行為災害届(労災保険法施行規則22条)及び念書(兼同意書)(様式第1号)を提出する必要があります(大阪労働局HPの「第三者行為災害について」参照)。 
   第三者行為災害については,厚生労働省の「第三者行為災害のしおり」が参考になります。 
□ 交通事故が業務災害に該当する場合,事業主は,所轄の労基署に対し,労災申請とは別に,労働者死傷病報告書(労働安全衛生規則97条)を提出する必要があります(外部HPの「労働者死傷病報告書」参照)。 

第5の2 健康保険から労災保険への切替手続

1 労働災害であるにもかかわらず,健康保険で治療を受けてしまった場合の手続については,厚生労働省HPの「お仕事でのケガ等には,労災保険!」が参考になります。

2 取扱いの根拠となっている通達は,以下のとおりです。
① 「健康保険の給付を受けていた労働者に係る労災保険給付の取扱について」(昭和29年8月23日付の労働省労働基準局労災補償課長の通知)
② 「労災認定された傷病等に対して労災保険以外から給付等を受けていた場合における保険者等との調整について」(平成29年2月1日付けの厚生労働省労働基準局補償課長の通知)

3 ①の通知には以下の記載があります。
(1) 健康保険による給付されていたことが明らかである期間についての労災補償費については,所定の請求書の提出があっても,原則として健康保険により給付された額がその保険者に返還された後でなければ給付しないこと
(2) (1)に反し,業務上の災害として既に労災保険より給付していたものが,後日業務外の事故と判明した場合にあっては,支給額全額を直ちに返還させるとともに,当該保険者に対して連絡を行うこと。
(3) (1)及び(2)の取扱を行うため労働者に多大な経済的負担が生じ,実情に添わない場合には,当該保険者と連絡の上,(1)については健康保険の保険者に対する給付額返還が完了する前であっても納付し,(2)については,健康保険給付が行われるまで回収手続を見合わせること。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。