自賠責保険金が支払われる具体的条件

第0 目次

第1 総論
第2 「自動車」による「事故」であること
第3 被害者が「他人」であること
第4 人身損害であること
第5 保有者が運行供用者責任を負うこと
第6 賠償責任を負うことによる保有者・運転者の損害をてん補すること

*1 国土交通省自動車局保障制度参事官室保障事業室が平成27年10月に作成した,自動車損害賠償保障事業委託業務実施の手引き1/32/3及び3/3を掲載しています。
*2 Car Value HP「車検切れ車両の仮ナンバー取得までの手続きまとめ」が載っています。
*3 交通事故弁護士ナビ「自賠責保険の加入・更新方法|料金表や手続きの必要書類一覧 」が載っています。
*4 交通事故に関する赤い本講演録2007年・7頁ないし40頁に「レンタカー同乗者の「運行供用者性」及び「他人性」について」が載っています。
*5 交通事故に関する赤い本講演録2015年・27頁ないし42頁に「運行供用者責任(バス乗降中の事故)」が載っています。
*6 交通関係訴訟の実務(著者は東京地裁27民(交通部)の裁判官等)21頁ないし33頁に「自賠責保険の実務」が載っていて,86頁ないし103頁に「自賠法3条の諸問題1(運行供用者性・他人性)」が載っていて,104頁ないし122頁に「自賠法3条の諸問題2(運行起因性・免責)」が載っています。

第1 総論

1(1) 自賠責保険の正式名称は,自動車損害賠償責任保険契約です。
(2)   責任保険契約とは,損害保険契約のうち、被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずることのある損害をてん補するものをいいます(保険法17条2項)。

2 自賠責保険金は,①自動車による事故により,②他人の,③人身損害について,④保有者に賠償責任が発生したときに,⑤賠償責任を負うことによる保有者の損害をてん補するために,保険金が支払われます(自賠法3条本文参照)。

第2 「自動車」による「事故」であること

1 自賠責保険を締結できるのは自動車だけですから,自動車以外の交通事故で自賠責保険が適用されることはありません。
    ここでいう「自動車」とは,①道路運送車両法2条2項所定の「自動車」(通常の四輪自動車,二輪車(=オートバイ)等。ただし,いわゆる耕運機は除く。),及び②道路運送車両法2条3項所定の「原動機付自転車」(=原付)をいい,自転車(道路交通法2条1項11号の2)等は自動車に含まれません。
 
2 「事故」といえるためには,自動車の「運行」「によって」生じた事故といえる必要,つまり,「運行起因性」が必要です。

   「運行」(自賠法2条2項)とは,人又は物を運送するとしないとにかかわらず,自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいいます。具体的には,自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく,特殊自動車であるクレーン車を走行停止の状態におき,操縦者において,固有の装置であるクレーンをその目的に従って操作する場合をも含みます(最高裁昭和52年11月24日判決)。
   また,運行起因性の問題として運行と事故との間には相当因果関係を要しますから,停車中のドアの開閉による事故は通常,「交通事故」に当たりますものの,一般道路に駐車中の車両に関する事故は,「交通事故」に当たるとは限りません。

第3 被害者が「他人」であること

1 自賠責保険は他人の損害についての賠償責任保険ですから,保有者等の運行供用者及び運転者に関して発生した損害について保険金は支払われません。
    そして,「他人」とは,①自己のために自動車を運行の用に供する者及び②当該自動車の運転者を除く,それ以外の者をいい(最高裁昭和37年12月14日最高裁昭和42年9月29日判決最高裁昭和47年5月30日判決最高裁昭和50年11月4日判決),当該自動車の使用状況,所有名義,経費負担,運転免許の有無等の具体的状況によっては,配偶者等も「他人」に含まれます(最高裁昭和47年5月30日判決)。

 
2 具体的には,①自動車対歩行者の事故の歩行者,②自動車対自動車の事故の相手方自動車の運転者・同乗者,及び③加害者側自動車の単なる同乗者(最高裁昭和42年9月29日判決参照)のほか,④鋼管くいをクレーン車の装置により荷下ろしする際に玉掛け作業を手伝った者も「他人」に含まれます(④につき最高裁平成11年7月16日判決)。
   しかし,⑤会社の取締役が私用のため会社所有の自動車を使用し,同乗の従業員に一時運転させている間に当該従業員の惹起した事故により受傷した場合の取締役(最高裁昭和50年11月4日判決参照),⑥加害者側自動車に同乗して運転補助行為をしている運転助手(最高裁昭和57年4月27日判決参照),及び⑦加害者側自動車の保有者が第三者に運転させて同乗している場合の保有者(最高裁昭和57年11月26日判決参照)は「他人」に含まれません。
   ただし,⑦の場合であっても,保有者が運転代行業者に運転させて同乗していた場合,保有者は「他人」に含まれます(最高裁平成9年10月31日判決)。

 
3 「他人」に含まれない結果,運行供用者責任が発生しない場合であっても,民法上の損害賠償責任を追及できる場合はあります(自賠法3条の「他人」と使用者責任を定める民法715条1項の「第三者」が必ずしも一致しないことにつき最高裁昭和37年12月14日判決参照)。

第4 人身損害であること

1 自賠責保険は賠償責任保険ですから,被害者が死亡したり負傷したりしたことによる損害について,加害者が賠償金を支払った場合に,自賠責保険金が支払われます。
    そして,被害者側自動車の修理代等の,物が破損したことによる損害(=物損)に対する賠償責任が生じても,物損は人身損害ではありませんから,自賠責保険金の支払対象ではありません。
 
2 眼鏡(コンタクトレンズを含む。),補聴器,松葉杖等の用具の修繕又は再調達を必要とするに至った場合,必要かつ妥当な実費は賠償の対象になります(外部HPの「自賠責保険の支払基準」参照)。

第5 保有者が運行供用者責任を負うこと

1 自賠責保険が適用されるためには,自動車の保有者に自賠法3条の運行供用者責任が発生していることが前提となります(自賠法11条)。
   そのため,保有者が運行供用者責任を負わない場合,たとえ運転者が運行供用者責任を負ったとしても自賠責保険金は支払われません。

2 保有者が運行供用者責任を負うかどうかは,保有者が当該自動車の運行支配(=運行を支配すること。)及び運行利益(=運行による利益が帰属すること。)を有していたかどうかによって判断されます。
   そのため,例えば,保有者が自分で自動車を運転しているときに交通事故を起こした場合,運転者である保有者は運行支配及び運行利益を当然に有しますから,保有者は運行供用者に該当する結果,保有者に運行供用者責任が発生します。
   これに対して,例えば,保有者が自宅の車庫に自動車を駐車しておいたところ,保有者と全く関係のない第三者がこれを盗み出して運転中に事故が発生したというような泥棒運転による事故の場合,保有者は運行支配及び運行利益を有していたとはいえませんから,原則として保有者は運行供用者に該当しない結果,保有者に運行供用者責任が発生しません。
   ただし,泥棒運転による事故の場合であっても,例外的に保有者に自動車管理上の過失が認められる場合(例えば,路上にエンジンキーを差し込んだまま自動車を駐車させていた場合),保有者に運行供用者責任が発生することはあります。

3 運行供用者責任に関する,最高裁の一般論
(1) たとえ事故を生じた当該運行行為が,具体的には第三者の無断運転による場合であっても,自動車の所有者と第三者との間に雇傭関係等密接な関係が存し,かつ日常の自動車の運転及び管理状況等から,客観的外形的には,自動車所有者のためにする運行と認められるときは,当該自動車所有者は運行供用者責任を負います(最高裁昭和40年9月7日判決)。
(2) 一般に,自動車修理業者が修理のため自動車を預かった場合には,少なくとも修理や試運転に必要な範囲での運転行為を委ねられ,営業上自己の支配下に置いているものと解すべきであり,かつ,その被用者によって当該保管中の車が運転された場合には,その運行は,特段の事情の認められないかぎり,客観的には,使用者たる修理業者の当該支配関係に基づき,その者のためにされたものと認めますから,自動車修理業者は運行供用者に当たることとなります(最高裁昭和44年9月12日判決)。
(3) 所有権留保の特約を付して,自動車を代金月賦払いにより売り渡す者は,特段の事情のないかぎり販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するにすぎないものと解すべきであり,当該自動車を買主に引き渡し,その使用に委ねたものである以上,自動車の使用についての支配権を有し,かつ,その使用により享受する利益が自己に帰属する者ではありませんから,運行供用者責任を負いません(最高裁昭和46年1月26日判決)。
(4) 一般に,自動車が修理のために自動車修理業者に預けられている間は,修理業者がその運行を支配すると解されますものの,修理を終えた自動車が修理業者から注文者に返還されたときには,特段の事情がないかぎり,その引渡しの時以後の運行は注文者の支配下にありますから,注文者が運行供用者に当たることとなります(最高裁昭和46年7月1日判決)。
(5) 自動車の所有者から依頼されて自動車の所有者登録名義人となった者が,登録名義人となった経緯,所有者との身分関係,自動車の保管場所その他諸般の事情に照らし,自動車の運行を事実上支配,管理することができ,社会通念上自動車の運行が社会に害悪をもたらさないよう監視,監督すべき立場にある場合には,当該登録名義人は運行供用者に当たります(最高裁昭和50年11月28日判決)。

4 運行供用者責任に関する,最高裁の事例判断
(1) 肯定例
① ダンプカー持ち込みで雇われ,砂利採取場構内で砂利運搬の作業に従事していた者が,構外で私用運転中に起こした事故につき,雇主は運行供用者責任を負います(最高裁昭和46年4月6日判決)。
② 未成年の子がその所有車両を運転中に事故を起こした場合において,父が,当該車両を子のために買い与え,保険料その他の経費を負担し,子が,親もとから通勤し,その生活を全面的に父に依存して営んでいたような場合,父は運行供用者責任を負います(最高裁昭和49年7月16日判決)。
③ 下請の運送会社の被用者が,元請の運送会社発行の運行表の指示に従い,その指揮監督に服して元請会社の定期路線の運送業務に従事していたような場合,当該被用者が当該業務に従事中起こした事故につき,元請運送会社は運行供用者責任を負います(最高裁昭和50年9月11日判決)。
④ 会社の従業員がその所有自動車を運転し会社の工事現場から自宅に帰る途中で起こした事故であっても,当該自動車が会社の業務用に使用されていたり,会社がガソリン代等を負担していたりしていたといった事実関係があるときは,会社は運行供用者責任を負います(最高裁昭和52年12月22日判決参照)。
⑤ Xの友人Aが,Xの運転するXの父親B所有の自動車に同乗してバーに赴き,Xと飲酒をした後,寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し,追突事故を起こした場合,Bは運行供用者責任を負います(最高裁平成20年9月12日判決参照)。
⑥ YがAからの名義貸与の依頼を承諾して自動車の名義上の所有者兼使用者となり,Aが上記の承諾の下で所有していた上記自動車を運転して事故を起こした場合において,Aは,当時,生活保護を受けており,自己の名義で上記自動車を所有すると生活保護を受けることができなくなるおそれがあると考え,上記自動車を購入する際に,弟であるYに名義貸与を依頼したなどといった事情の下では,Yは,上記自動車の運行について,自賠法3条にいう運行供用者に当たります(最高裁平成30年12月17日判決)。
(2) 否定例
① タクシー会社からその所有の自動車を窃取した者が事故を起こした場合において,同社が,当該自動車のドアに鍵をかけず,エンジンキーを差し込んだまま,これを自己の駐車場の道路に近い入口付近に長時間駐車させていた事情があっても,窃取した者が,同社と雇傭関係等の人的関係を有せず,タクシー営業をしたうえで乗り捨てようとの意図のもとに当該自動車を窃取したものであり,窃取後約2時間タクシー営業をしたのちに事故を起こしたといった事実関係があるときは,当該タクシー会社は,運行供用者責任を負いません(最高裁昭和48年12月20日判決)。
② 会社の従業員が会社所有の自動車を私用のため無断運転中に惹起した事故により同乗者を死亡させさた場合において,同乗者が,会社によってその自動車を私用に使うことが禁止されていることを知りながら,無断持出しをいったん思い止まった従業員をそそのかして同人ともども夜桜見物に出かけるため当該自動車に同乗したものである場合,会社は運行供用者責任を負いません(最高裁昭和49年12月6日判決参照)
③ 2時間の約束で自動車を借りた者が1箇月後に起こした事故については,保有者である貸主は運行供用者責任を負いません(最高裁平成9年11月27日判決参照)。

第6 賠償責任を負うことによる保有者・運転者の損害をてん補すること

1 自賠責保険は賠償責任保険の一種であります(最高裁平成元年4月20日判決参照)ところ,賠償責任保険とは,一定の者が他人に対して賠償責任を負う場合に,その者が他人に対して賠償したことによる損害をてん補する保険をいいます。
   よって,自賠責保険を請求できる立場にあるのは本来,賠償責任を負って被害者側に賠償金を支払った加害者側であり(自賠法15条参照),交通事故により人身損害を被った被害者側ではありません。
   しかし,被害者救済の観点から,自賠法16条1項に基づき,被害者が自賠責保険会社に対して直接,損害賠償額の支払を請求できるとされているわけです。

2 運行供用者が,その運行によって他人の生命又は身体を害し,よって損害を生じた場合でも,当該運行供用者において,自賠法3条ただし書所定の免責要件事実を主張立証したときは,損害賠償の責を免れます。
   そして,自賠法3条所定の要件事実のうち,ある要件事実の存否が,当該事故発生と関係のない場合においても,なおかつ,当該要件事実を主張立証しなければ免責されないとまで解する必要はなく,このような場合,運行供用者は,当該要件事実の存否は当該事故と問題がない旨を主張立証すれば足り,つねに自賠法3条ただし書所定の要件事実のすべてを主張立証する必要はありません(最高裁昭和45年1月22日判決)。

1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。