公判手続

第1 総論

□ 被告人は,公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有します(憲法37条1項)。
□ 公判手続は,①冒頭手続,②証拠調べ手続,③弁論手続及び④判決の四段階に分かれます。
犯罪事実について争いがない自白事件の場合,①ないし③の手続が40分以内に終わり,次の期日で判決が言い渡されます。
□ 公判には裁判官,裁判所書記官,検察官が出席することとされていますし(刑訴法282条2項),原則として被告人が出頭しなければ法廷を開けないことになっています(刑訴法286条)。
また,一定の重大事件(死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件)については,弁護人も出頭しなければ法廷を開くことはできません(刑訴法289条1項)。
□ 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件についても,弁護人の出頭が必要とされています(刑訴法316条の29)。
□ 公判廷においては,被告人の身体は拘束されていない(刑訴法287条1項)ものの,身体拘束中の被告人の場合,両脇に2人の看守が座っています(刑訴法287条2項参照)。
□ 被告人は,裁判長の許可がなければ,退廷することができません(刑訴法288条1項)。
□ 裁判長は,被告人を在廷させるため,又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができます(刑訴法288条2項)。
□ 公判期日における訴訟の指揮は,裁判長が行います(刑訴法294条)。
□ 裁判長は,必要と認めるときは,訴訟関係人に対し,釈明を求め,又は立証を促すことができます(刑訴規則208条1項)。
陪席の裁判官は,裁判長に告げて,訴訟関係人に対し,釈明を求め,又は立証を促すことができます(刑訴規則208条2項)。
訴訟関係人は,裁判長に対し,釈明のための発問を求めることができます(刑訴規則208条3項)。

第2 被告人の保釈

1 総論
□ 保釈とは,勾留を観念的には維持しながら,保釈保証金の納付を条件として被告人に対する勾留の執行を停止して,その身体拘束を解く裁判及びその執行をいいます。
□ 保釈は,被告人が召喚を受けても出頭しなかったり,逃亡したりした場合には,保証金を没収することとして被告人に経済的・精神的負担を与えて被告人の出頭を確保する制度です。
□ 保釈の種類としては,①必要的保釈(刑訴法89条),②任意的保釈(刑訴法90条)及び③義務的保釈(刑訴法91条)の3種があります。
□ 勾留されている被告人又はその弁護人,法定代理人,保佐人,配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹は,保釈の請求をすることができます(刑訴法88条1項)。
□ 裁判所は,保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには,検察官の意見を聴く必要があります(刑訴法92条1項)。
2 必要的保釈(=権利保釈)
□ 裁判所は,保釈の請求があった場合,以下の事由がある場合を除き,保釈を許す必要があります(刑訴法89条)。
① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 
② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。 
③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。 
④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 
⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。 
⑥ 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
□ 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,必要的保釈の適用がなくなります(刑訴法344条)。
3 任意的保釈(=職権保釈)
□ 義務的保釈の対象とならない場合でも,被告人に対して必要以上の苦痛を与えないため,公判廷への出頭を確保できる場合,裁判所の自由裁量により,職権で保釈してもらえます(刑訴法90条)。
□ 被告人が甲,乙,丙の三個の公訴事実について起訴され,そのうち甲事実のみについて勾留状が発せられている場合において,裁判所は,甲事実が刑訴法89条3号に該当し,従って,権利保釈は認められないとしたうえ,なお,同法90条により保釈が適当であるかどうかを審査するにあたっては,甲事実の事案の内容や性質,あるいは被告人の経歴,行状,性格等の事情をも考察することが必要であり,そのための一資料として,勾留状の発せられていない乙,丙各事実をも考慮することを禁ずべき理由はありません(最高裁昭和44年7月14日決定)。
4 義務的保釈
□ 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは,裁判所は,保釈請求権者の請求により,又は職権で,決定を以て勾留を取り消し,又は保釈を許さなければなりません(刑訴法91条1項)。
□ 憲法38条2項は不当に長い抑留,拘禁後の自白の証拠能力を否定しており,直接的ではないにせよ不当に長い被告人の拘禁を禁止する趣旨を表しているといえます。
そこで,刑訴法91条はそれに基づいて勾留による拘禁が不当に長くなったときに裁判所に義務的に勾留の取消又は保釈を許すことを命じたものです。
5 保釈保証金及び保釈の手続
□ 裁判所は,保釈を許す場合,保釈保証金の金額を定める必要があります(刑訴法93条1項)。
なお,保釈保証金の金額は,犯罪の性質及び情状,証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して,被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(刑訴法93条2項)。
□ 裁判所は,保釈を許す場合,被告人の住居を制限し,その他適当な条件を付けることができます(刑訴法93条3項)。
実務上は,召喚された場合の出頭,旅行制限,罪証隠滅を疑われる行為の禁止,善行保持,再犯禁止等の条件が付されることが多いです。
□ 保釈を許す決定は,保釈保証金の納付があった後でなければ,これを執行することができません(刑訴法94条1項)。
□ 裁判所は,保釈請求者でない者に保釈保証金を納付することを許すことができます(刑訴法94条2項)。
□ 裁判所は,有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができます(刑訴法94条3項)。
なお,保釈の保証書には,保証金額及びいつでもその保証金を納める旨を記載しなければなりません(刑訴規則87条)。
6 保釈の取消し,保釈保証金の没取及び保釈保証金の還付
□ 裁判所は,以下の場合,検察官の請求により,又は職権で,決定をもって保釈を取り消すことができます(刑訴法96条1項)。
① 被告人が,召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。 
② 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 
③ 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 
④ 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし,又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。 
⑤ 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
□ ①保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があったとき,又は②勾留の執行停止の期間が満了したときは,検察事務官,司法警察職員又は刑事施設職員は,検察官の指揮により,①勾留状の謄本及び②保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は③期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを収監しなければなりません(刑訴法98条1項)。
□ 保釈を取り消す場合,裁判所は,決定で保釈保証金の全部又は一部を没取することができます(刑訴法96条2項)。
□ 保釈保証金没取決定は,保釈保証金もしくはこれに代わる有価証券を納付し又は保証書を差し出した者に対し,その者の国に対する保釈保証金等の還付請求権を消滅させ,また,その者に対して保証書に記載された金額を国庫に納付することを命ずることを内容とする裁判ですから,これら保釈保証金の納付者らに対し,あらかじめ告知、弁解防御の機会を与えないで保釈保証金没取決定をし,かつまた,これに対する不服の申立をも許さないとすることは,適正な手続による裁判ということはできず,憲法13条,29条の容認しないところです。
しかし,保釈保証金没取決定に対し,事後に不服申立の途が認められれば、あらかじめ告知,弁解防御の機会が与えられていなくても,上記憲法の規定に違反するものではありません(最高裁昭和52年4月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和43年6月12日決定参照)。
□ 保釈された者が,刑の言渡を受けその判決が確定した後,執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき,又は逃亡したときは,検察官の請求により,決定で保釈保証金の全部又は一部を没取しなければなりません(刑訴法96条3項)。
7 保釈保証金の還付
□ 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは,保釈はその効力を失います(刑訴法343条本文)。
このときに被告人を収監する場合,言い渡した刑並びに判決の宣告をした年月日及び裁判所を記載し,かつ裁判長又は裁判官が相違ないことを証明する旨を附記して認印した勾留状の謄本が被告人に示されます(刑訴規則92条の2)。
一方で,刑訴規則91条1項2号に基づき,没取されなかった保釈保証金が還付されます。
□ 無罪,免訴,刑の免除,刑の執行猶予,公訴棄却,罰金又は過料の裁判の告知があったときは,勾留状は,その効力を失います(刑訴法345条)。
この場合,刑訴規則91条1項1号に基づき,没取されなかった保釈保証金は還付されます。

第3 検察官請求予定証拠の閲覧・謄写等

□ 弁護人は,第1回の公判期日前に,検察官が取調べを請求する予定の証拠書類及び証拠物を閲覧する機会を与えられます(刑訴法299条,刑訴規則178条の6第1項1号参照)。
ただし,平成16年5月28日法律第62号(平成17年11月1日施行)による改正後の刑訴法に基づき,検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠(=開示証拠)に係る複製等を,刑事裁判以外の目的で,人に交付し,又は提示し,若しくはインターネットに載せることは禁止されており(刑訴法281条の4),違反があった場合,1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(刑訴法281条の5)。
□ 弁護士は,開示証拠の複製等を被告人に交付等するときは,被告人に対し,複製等に含まれる秘密及びプライバシーに関する情報の取扱いに配慮するように注意を与えなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程(平成18年3月3日会規第74号)(平成18年4月1日施行)3条1項)。
また,弁護士は,開示証拠の複製等を交付等するに当たり,被告人に対し,開示証拠の複製等を審理準備等の目的以外の目的でする交付等の禁止及びその罰則について規定する刑訴法281条の4第1項及び281条の5第1項の規定の内容を説明しなければなりません(開示証拠の複製等の交付等に関する規程3条2項)。
□ 証人等の安全が害されるおそれがある場合,弁護人は,被告人を含む関係者に対し,証人等の安全について配慮を求めることができます(刑訴法299条の2)。
また,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の安全が著しく害されるおそれがある場合において,検察官から配慮を求められたときは,弁護人は,被告人その他の者に被害者特定事項を知られないように配慮しなければなりません(刑訴法299条の3)。
□ 弁護人は,検察官請求予定証拠について,なるべくすみやかに,刑訴法326条の同意をするかどうか,又はその取調の請求に関して異議がないかどうかの見込みを検察官に通知しなければなりません(刑訴規則178条の6第2項2号)。

第4 民間の役職に関する資格制限

□ 懲役又は禁錮に処せられた場合,執行猶予が付いたとしても,執行猶予期間が満了するまでの間,以下の民間の役職に就くことができなくなります。
① 公益社団法人又は公益財団法人の理事,監事又は評議員
→ 公益社団法人及び公益財団法人に関する法律6条1号ハ参照
② 特定非営利活動法人の役員
→ 特定非営利活動促進法20条3号
③ 債権回収会社の役員
→ 債権管理回収業に関する特別措置法5条7号ハ
④ 更生保護法人の役員
→ 更生保護事業法21条4号
⑤ 日本中央競馬会(=JRA)の経営委員会の委員
→ 日本中央競馬会法8条の7第2号
⑥ 地方競馬全国協会(=NAR,地全協)の運営委員会の委員
→ 競馬法23条の21第1項2号
⑦ 財団法人JKA(特殊法人日本自転車振興会及び特殊法人日本小型自動車振興会が統合して平成20年4月1日に設立されました。)の役員
→ 自転車競技法23条1項5号ロ,小型自動車競争法42条1項5号イ
⑧ 財団法人日本モーターボート競走会(=日モ競。社団法人全国モーターボート競走会連合会の後進として平成20年4月1日に設立されました。)の役員
→ モーターボート競走法32条1項6号イ
⑨ 日本放送協会の経営委員会の委員
→ 放送法16条3項1号
⑩ 貸金業務取扱主任者
→ 貸金業法24条の27第1項4号
⑪ 宅地建物取引主任者
→ 宅地建物取引業法18条1項5号
⑫ 宗教法人の役員
→ 宗教法人法22条3号
⑬ 保護司
→ 保護司法4条2号
⑭ 医療法人の役員
→ 医療法46条の2第2項3号
⑮ 校長又は教頭
→ 学校教育法9条2号
⑯ 郵便認証司
→ 郵便法60条3号
⑰ 介護支援専門員(=ケアマネジャー)
→ 介護保険法69条の2第1項2号
⑱ 高等学校までの学校の教員
→ 免許状の失効事由を定める教育職員免許法10条1項1号・5条1項4号
⑲ 水先人(=水先案内人)
→ 水先法6条2号

第5 公務員の地位の喪失

□ 懲役又は禁錮に処せられた場合,執行猶予が付いたとしても,執行猶予期間が満了するまでの間,以下のとおり公務員になれなくなります。
① 国家公務員
→ 国家公務員法38条2号
② 自衛隊の隊員
→ 自衛隊法38条2号
③ 地方公務員
→ 地方公務員法16条2号
④ 裁判官
→ 裁判所法46条1号
⑤ 司法修習生
→ 司法修習生に関する規則17条1号参照
⑥ 検察官
→ 検察庁法20条1号
⑦ 国家公安委員会の委員
→ 警察法7条4項2号
⑧ 都道府県公安委員会の委員
→ 警察法39条2項2号
⑨ 固定資産評価審査委員会の委員
→ 地方税法426条3号
⑩ 電波監理審議会の委員
→ 電波法99条の3第3項1号

第6 公の役職に関する資格制限

□ 懲役又は禁錮に処せられた場合,執行猶予が付いたとしても,執行猶予期間が満了するまでの間,以下の公の役職に就くことができなくなります。
① 裁判員
→ 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律14条2号
② 検察審査員
→ 検察審査会法5条2号(ただし,1年以上の懲役又は禁錮の場合)
③ 筆界調査委員
→ 不動産登記法128条1項1号
④ 人権擁護委員
→ 人権擁護委員法7条1項1号
⑤ 固定資産評価員
→ 地方税法407条3号

第7 執行猶予の影響を受けない職業

□ 懲役又は禁錮に処せられたとしても,執行猶予が付いた場合,以下の職業に就くことはできます。

   ただし,執行猶予が付かなかった場合,以下の職業上の地位を失います。
① 株式会社の取締役
→ 会社法331条1項4号括弧書き
② 相互会社の役員
→ 保険業法53条の2第1項4号括弧書き
③ 労働金庫の役員
→ 労働金庫法34条5号括弧書き
④ 信用金庫の役員
→ 信用金庫法34条5号括弧書き
⑤ 消費生活協同組合及び消費生活協同組合連合会の役員
→ 消費生活協同組合法29条の3第1項4号括弧書き

第4 公判期日の指定及び変更

1 公判期日の指定
□ 裁判長は,第1回公判期日を指定します(刑訴法273条1項)。
□ 公判期日には,被告人を召喚しなければなりません(刑訴法273条2項)。
□ 被告人に対する召喚状の送達(刑訴法57条,刑訴規則67条参照)は,起訴状謄本の送達(刑訴規則176条)前にはこれをすることができません(刑訴規則179条1項)。
そのため,裁判長は,被告人に起訴状謄本が送達された旨の送達報告書が戻った時点以降に,第1回公判期日の指定を行うのが一般的です。
□ 第1回公判期日の指定については,被告人を召喚するための召喚状の送達と第1回公判期日との間に,原則として少なくとも5日間(簡易裁判所の場合,3日間)の猶予期間があるようにしなければなりません(刑訴法275条,刑訴規則179条2項)。
□ 公判期日に召喚を受けた被告人その他の者が正当な理由がなく出頭しない場合,被告人の勾引,保釈の取消等,証人に対する制裁等の規定の活用が考慮されます(刑訴規則179条の3)。
□ 公判期日が指定された場合,その公判期日を検察官及び弁護人に通知し(刑訴法273条3項),その通知がなされたことを記録上明らかにしなければなりません(刑訴規則298条3項)。
□ 裁判所の構内にいる被告人に対し公判期日を通知したときは,召喚状の送達があった場合と同一の効力を有します(刑訴法274条)。
そのため,公判期日において次回の公判期日が通知された場合,被告人に対する召喚状の送達はありません。
2 公判期日の変更
□ いったん指定された公判期日を変更する場合,期日指定と異なり,裁判所が行います(刑訴法276条1項)。
期日変更は,職権で行う場合のほかは,検察官,被告人又は弁護人の請求によって行うものでありますところ,請求があれば必ず変更を認めなければならないものではなく,変更するについて,やむを得ないと認められる事由が必要であり,こうした事由が認められなければ,裁判所は公判期日の変更請求を却下しなければなりません(刑訴規則179条の4第2項,182条1項)。
これは,裁判の遅延,引き延ばしを目的とする不当な期日変更を防止しようとするものです(刑訴法277条,刑訴規則303条参照)。
□ 被告人,弁護人の病気は原則としてやむを得ない事由に当たります(刑訴法278条参照)。
ただし,①病名及び病状の他,②その精神又は身体の病状において,公判期日に出頭することができるかどうか,③自ら又は弁護人と協力して適当に防御権を行使することができるかどうか,及び④出頭し又は審理を受けることにより生命又は健康状態に著しい危険を招くかどうかの点に関する医師の具体的な意見が記載された,裁判用診断書を提出しなければなりません(刑訴規則183条,184条参照)。
また,裁判所は,医師が裁判用診断書を作成するについて,①虚偽記載,②方式違反,③不明瞭記載その他相当でない行為をした場合,厚生労働大臣なり,日本医師会及び都道府県単位の医師会なりに対し,適当と認める処置(医師免許の取消し,医業の停止)をとることができるようにその旨を通知することができますし,法令によって認められている他の適当な処置(例えば,虚偽診断書作成罪(刑法160条)を理由とする告発)をとることができます(刑訴規則185条)。

第5 事前準備

1 裁判所の措置
□ 裁判所は,検察官及び弁護人の訴訟の準備に関する相互の連絡が,公訴の提起後速やかに行われるようにするため,必要があると認めるときは,裁判所書記官に命じて,検察官及び弁護人の氏名を相手方に知らせる等の適当な措置をとらせなければなりません(刑訴規則178条の3)。
□ 裁判所は,第1回公判期日を定めるについては,その期日前に訴訟関係人がなすべき訴訟の準備を考慮しなければなりません(刑訴規則178条の4)。
□ 裁判所は,公判期日の審理が充実して行われるようにするため相当と認めるときは,あらかじめ,検察官又は弁護人に対し,その期日の審理に充てることのできる見込みの時間を知らせなければなりません(刑訴規則178条の5)。
□ 裁判所は,裁判所書記官に命じて,検察官又は弁護人に訴訟の準備の進行に関して問い合わせ又はその準備を促す処置をとらせることができます(刑訴規則178条の9)。
□ 裁判所は,適当と認めるときは,第1回公判期日前に,検察官及び弁護人を出頭させた上,公判期日の指定その他訴訟の進行に関し必要な事項について打ち合わせを行うことができます。
ただし,事件について予断を生じさせるおそれのある事項にわたることはできません(刑訴規則178条の10第1項)。
2 訴訟関係人の事前準備
□ 訴訟関係人は,第1回の公判期日前に,できる限り証拠の収集及び整理をし,審理が迅速に行われるように準備しなければなりません(刑訴規則178条の2)。
□ 検察官は,第1回公判期日前に,以下のことをしなければなりません(刑訴規則178条の6第1項)。
① 刑訴法299条1項本文に基づき,被告人又は弁護人に対し,請求予定証拠の閲覧の機会を与えること
② 閲覧の機会を与えられた弁護人請求予定証拠について同意の見込み等を弁護人に通知すること
□ 弁護人は,第1回公判期日前に,以下のことをしなければなりません(刑訴規則178条の6第2項)。
① 被告人その他の関係者に面接するなど適当な方法によって,事実関係を確かめておくこと。
② 閲覧の機会を与えられた検察官請求予定証拠について同意の見込み等を検察官に通知すること。
③ 刑訴法299条1項本文に基づき,検察官に対し,請求予定証拠の閲覧の機会を与えること。
□ 検察官及び弁護人は,第1回公判期日前に,相手方と連絡して以下のことを行わなければなりません(刑訴規則178条の6第3項)。
① 起訴状に記載された訴因若しくは罰条を明確にし,又は事件の争点を明らかにするため,相互の間でできる限り打ち合わせておくこと。
② 証拠調べその他の審理に要する見込みの時間等裁判所が開廷回数の見通しをたてるについて必要な事項を裁判所に申し出ること。
□ 第1回公判期日前に,刑訴法299条1項本文に基づき,訴訟関係人が,相手方に対し,証人等の氏名及び住居を知る機会を与える場合には,なるべく早い時期に,その機会を与えるようにしなければなりません(刑訴規則178条の7)。
□ 検察官及び弁護人は,証人として尋問を請求しようとする者で第1回公判期日において取り調べられる見込みのあるものについて,これを在廷させるように努めなければなりません(刑訴規則178条の8)。
□ 検察官は,公訴の提起後は,その事件に関して押収している物について,被告人及び弁護人が訴訟の準備をするにあたりなるべくその物を利用することができるようにするため,押収物の還付又は仮還付(刑訴法222条1項・123条)の活用を考慮しなければなりません(刑訴規則178条の11)。

第6 冒頭手続

□ 冒頭手続は,主として,「誰が,いつ,どこで,どのような犯罪を行ったことに関する裁判を行うのか」ということを明らかにしようとする手続です。
□ 人定質問とは,裁判長が被告人に対して氏名や本籍地・住所地等を質問し,出廷している被告人が誰であるかを確認する手続をいいます(刑訴規則196条)。
この手続により,起訴状に記載されたとおりの被告人が出廷していることを確認します。
□ 人定質問の後,検察官が「起訴状朗読」,つまり,被告人がどのような犯罪行為を行ったものとして起訴されているのかを記載した書面の音読を行い,「被告人が,いつ,どこで,どのようなことを行い,その行為が何罪に該当するとして起訴されているのか」を述べることで,これから行う裁判の対象を明示します(刑訴法291条1項)。
□ 被害者特定事項の非公開決定(刑訴法290条の2)があった場合,検察官は,被害者特定事項を明らかにしない方法で起訴状の朗読を行います(刑訴法291条2項)。
この場合,裁判所は,必要があると認めるときは,被害者の氏名その他の被害者特定事項に係る名称に代わる呼称を定めることができます(刑訴規則196条の4)。
□ 起訴状は,公訴提起の時点で裁判所に提出され(刑訴法256条1項),遅滞なく裁判所から被告人に起訴状の謄本が送達される(刑訴法271条1項)ので,裁判官,被告人とも公判の前に起訴状の内容を知ることができます。
□ 起訴状の朗読によって裁判の対象が明らかになると,裁判長は,被告人に対し,黙秘権(刑訴法311条1項)等の権利があることを告知します(刑訴法291条3項前段,刑訴規則197条)。
そして,被告人と弁護人に対し,起訴状に書かれた事実に間違いがないかどうか,つまり,被告人が起訴状に書かれた犯罪を行ったかどうかを質問するなどして,被告人らに事件に関する陳述の機会を与えます(刑訴法291条3項後段。罪状認否)。

第7 証拠調べ手続

1 総論
□ 刑事裁判においては,検察官が証明責任を負う,つまり検察官が証拠によって犯罪の証明を行う責任を負うとされており,もし検察官による犯罪の証明が不十分であれば,裁判所は無罪の判決を下さなければなりません(刑訴法336条)。
□ 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人に対し,証拠の証明力を争うために必要とする適当な機会を与えなければなりません(刑訴法308条)。
そのため,裁判長は,裁判所が適当と認める機会に検察官及び被告人又は弁護人に対し,反証の取調べの請求その他の方法により証拠の証明力を争うことができる旨を告げなければなりません(刑訴規則204条)。
2 冒頭陳述
□ 証明責任を負う検察官が,「これから証拠によって証明しようとする事実」を述べますところ,これを検察官による冒頭陳述と呼びます(刑訴法296条本文)。
通常,起訴状には,被告人が行ったとされる犯罪に該当する具体的な行為のみを必要最小限度記載する(例えば「何月何日,どこで,被害者Vの胸部を包丁で2回突き刺し,その場で直ちに外傷性ショックにより死亡させた。」など)のに対して,冒頭陳述では,犯行の動機や計画性,犯行の具体的な状況,犯行前後の行動等犯罪事実に関連する事実に加え,被告人の生い立ちや生活状況等,量刑の判断に必要となる事情(情状)まで,証拠によって証明する予定の事実を広く記載します。
□ 裁判所の許可がある場合,弁護人も,証拠により証明すべき事実を明らかにできますところ,これを弁護人による冒頭陳述といいます(刑訴規則198条1項)。
□ 冒頭陳述は,いずれも「証拠により証明すべき事実」を述べなければなりませんから,証拠によって証明することができない事実又は証明する予定のない事実で,しかも裁判官に偏見又は予断を抱かせる事実は,冒頭陳述で述べることができません(刑訴法296条ただし書)。
□ 証拠は,犯罪事実やこれに関連する事実を証明するためのものばかりでなく,情状を証明するためのものもあります。
証拠には,大きく分けて①証拠物(物証),②証拠書類(書証),③証人(人証)があります。
そして,物証とは,犯行に使われた包丁等であり,書証とは,被害者の供述調書,実況見分調書,鑑定書等であり,人証とは,例えば,被害者本人や目撃者本人等です。
3 証拠調べ請求
□ 冒頭陳述の後,検察官が証拠調べの請求をします(刑訴法292条本文参照)。
その際,検察官は,事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調べを請求しなければなりません(刑訴規則193条1項)ものの,必要があるときは,更に証拠を取り調べることを妨げられません(刑訴規則199条2項)。
□ 証拠書類その他の書面の取調べを請求するときは,その標目を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則188条の2第2項)。
□ 証拠調べの請求は,証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示してしなければなりません(刑訴規則189条1項)。
また,証拠書類その他の書面の一部の取調べを請求する場合,特にその部分を明確にしなければなりません(刑訴規則189条2項)。
これらの場合において,裁判所は,必要と認めるときは,証拠調べの請求をする者に対し,これらの事項を明らかにする書面の提出を命じることができ(刑訴規則189条3項),これに従わないでなされた証拠調べ請求を却下することができます(刑訴規則189条4項)。
□ 証拠調べの請求は,証明すべき事実の立証に必要な証拠を厳選して,これをしなければなりません(刑訴規則189条の2)。
□ 検察官は,公判廷供述と異なり,かつ,相対的特信状況が認められる検察官面前調書(刑訴法321条1項2号後段)を必ず証拠調べ請求しなければなりません(刑訴法300条)。
その関係で,証人等の尋問が終了した後に,当該証人等の検察官面前調書が証拠調べ請求されることがあります。
□ 検察官の証拠調べ請求に続いて,被告人側も証拠調べ請求を行うことができます(刑訴規則199条1項)。
4 書証等の証拠調べ
(1) 証拠決定
□ 書証についての同意(刑訴法326条1項)があること等を理由として,裁判所が証拠として取り調べることを決定した場合(刑訴規則190条1項。証拠決定),法廷において証拠調べを実施します。
□ 裁判所は,証拠決定をするについては,証拠調べ請求に基づく場合には,相手方又はその弁護人の意見を,職権による場合には,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければなりません(刑訴規則190条2項)。
具体的には,裁判所は,刑訴法326条1項の同意の対象となる書面又は供述については,相手方に証拠とすることに同意するかどうかの意見を求めます。
これに対して刑訴法326条1項の同意の対象とならない場合,つまり,証拠物,検証,証人尋問,鑑定に関する証拠調べ請求については,相手方は,その証拠調べ請求に対し,「異議なし」,「しかるべく」,「不必要」といった意見を述べます。
また,刑訴法326条1項の同意の対象となる書面又は供述であっても不同意となった場合,刑訴法321条ないし324条又は328条を根拠として証拠調べ請求がなされることがありますところ,この請求に対して相手方は,「異議なし」,「しかるべく」,「特信性がない」,「任意性を争う」といった意見を述べます。
□ 刑訴法326条1項の同意がなければ証拠とすることができない書面については,相手方が不同意であれば,請求者は通常,撤回します。
そして,その請求者は,必要に応じ,その書面の供述者,作成者を証人として尋問請求することとなります。
□ 裁判所は,証拠決定をするについて必要があると認めるときは,訴訟関係人に証拠書類又は証拠物の提示を命じることができます(刑訴規則192条。提示命令)。
提示命令は証拠の証拠能力を判断するために認められたものであり,この判断をするのに必要な限度において証拠の内容を見ることができると解されています。
(2) 証拠調べの実施
□ 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,証拠調べの範囲,順序及び方法を定めることができます(刑訴法297条1項)。
□ 裁判所は,適当と認めるときは,いつでも,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,いったん決定した証拠調べの範囲,順序及び方法を変更することができます(刑訴法297条3項)。
□ ①人証は「尋問」により(刑訴法304条),②書証は「朗読」により(刑訴法305条1項),③物証は「展示」により(刑訴法306条)行うのが原則です。
ただし,書証については,裁判長が訴訟関係人の意見を聴き相当と認めた場合に限って「要旨の告知(要点だけを説明する方法)」によることができます(刑訴規則203条の2第1項)。
□ 刑訴規則203条の2は,昭和25年12月20日最高裁判所規則第28号(昭和26年1月4日施行)による改正後の刑訴規則に基づき,設けられた条文です。
なお,刑訴規則203条の2は,刑訴法305条の定める証拠書類に対する証拠調べの方式を合目的的に簡易化したにとどまります(最高裁昭和29年6月19日決定)。
□ 被告人の自白調書の取調べは,犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後に実施されます(刑訴法301条)。
□ 刑訴法301条の「犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後」とは,すべての補強証拠が取り調べられた後という意味ではありません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和26年6月1日決定)。
また,共同被告人の検察官に対する供述調書は,他の被告人との関係においては刑訴法301条の「犯罪事実に関する他の証拠」にあたり,これを最初に取り調べても違法であるとはいえません(最高裁昭和29年6月19日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年3月23日決定参照)。
□ 犯罪事実に関しないことが明らかな情状に関する証拠の取調べは,できる限り,犯罪事実に関する証拠の取調べと区別して行うよう努めなければなりません(刑訴規則198条の3)。
□ 証拠調べが終わった証拠書類及び証拠物は,遅滞なくこれを裁判所に提出しなければなりません。
ただし,裁判所の許可を得たときは,原本に代え,その謄本を提出することができます(刑訴法310条)。
□ 一部にしか同意がなかった書類について不同意部分の証拠調べ請求が撤回された場合,証拠調べは原本に基づき行った上で,抄本提出許可に基づき,裁判所には抄本が提出されます(刑訴法310条ただし書)。
□ 証拠のうち,被告人の自白を記載した供述書・供述調書及び被告人の自白を内容とする第三者の伝聞供述の証拠調べについては,他のすべての証拠についての証拠調べが終わった後に行うこととされています(刑訴法301条)。

第8 書証の証拠能力

1 伝聞法則
□ ①公判期日における供述に代わる書面,及び②公判期日外における他の者の供述を内容とする供述は,原則として証拠とすることはできない(刑訴法320条1項)のであって,これを伝聞法則といいます。
□ 実務上は,検察官及び弁護人が証拠とすることに同意する結果,「公判期日における供述に代わる書面」の大部分は,刑訴法326条に基づいて証拠能力が認められています。
2 伝聞例外の体系
□ 伝聞例外とは,伝聞法則の例外として,伝聞証拠であっても証拠能力が認められることをいいます。
□ 伝聞例外の体系は以下のとおりです。
Ⅰ 供述録取書(=甲の供述を乙が録取した書面)
① 被告人以外の者の供述について
(a) 被告人以外の者の供述を,裁判官が録取した書面(裁面調書,1号書面)は刑訴法321条1項1号により,供述不能(前段)又は不一致供述(後段)を条件として証拠能力が認められます。
裁面調書の例としては,刑訴法226条又は227条の証人尋問による証人尋問調書があります。
(b) 被告人以外の者の供述を,検察官が録取した書面(検面調書,2号書面)は刑訴法321条1項2号により,供述不能(前段)又は不一致供述かつ相対的特信情況(後段)を条件として証拠能力が認められる。
これは,検察官事務取扱検察事務官作成(検察庁法36条)の供述録取書も含みます。
(c) 被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面(3号書面)は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められる。
3号書面の例としては,捜査報告書,捜索差押調書,司法警察職員が録取した書面(員面書面)があります。
(d) 被告人以外の者の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法321条2項前段により,無条件で証拠能力が認められます。
2項前段書面の例としては,当該事件の公判準備における裁判所の証人尋問調書があります。
(e) 被告人以外の者の供述を,映像等の送受信による通話の方式により記録した記録媒体がその一部とされた調書は,刑訴法321条の2により無条件で証拠能力が認められます。
② 被告人の供述について
(a) 被告人の供述を,第三者が録取した書面は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
(b) 被告人の供述を,裁判所が録取した書面は刑訴法322条2項により,任意性を条件として証拠能力が認められます。
Ⅱ 供述書(=甲自身が作成した書面)
① 第三者が作成した書面は刑訴法321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
例としては,被害届,始末書及び上申書があります。
② 裁判所・裁判官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条2項後段により,無条件で証拠能力が認められます。
③ 捜査官が作成した書面(検証調書)は刑訴法321条3項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
例としては,実況見分調書(最高裁昭和36年5月26日判決)及び酒酔い鑑識カード(最高裁昭和47年6月2日判決)があります。
④ 刑訴法165条以下に基づき鑑定人が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます。
⑤ 刑訴法223条以下に基づき鑑定受託者が作成した書面(鑑定書)は刑訴法321条4項準用により,真正作成供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和28年10月15日判決)。
⑥ 医師が作成した診断書は刑訴法321条4項準用により,新政策制供述を条件として証拠能力が認められます(最高裁昭和32年7月25日判決)。
⑦ 被告人が作成した書面(供述代用書面)は刑訴法322条1項により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
供述代用書面の例としては,備忘録,日記帳,始末書及び上申書があります。
Ⅲ 特に信用すべき文書(特信文書)
① 公務文書(刑訴法323条1号)
例としては,戸籍謄本,公正証書謄本,不動産登記簿・商業登記簿の謄抄本,印鑑証明書,身上調書,前科調書及び指紋照会回答書があります。
② 業務文書(刑訴法323条2号)
例としては,商業帳簿,航海日誌,漁船団の受信記録(最高裁昭和61年3月3日決定),裏帳簿及びカルテがあります。
③ その他の特信文書(刑訴法323条3号)
例としては,民事事件の裁判書があります。
Ⅳ 伝聞供述(=甲の供述を乙が証言したもの)
① 被告人の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条1項・322条により,不利益な事実の承認については任意性を条件として,それ以外については絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人の発言を第三者が証言する場合があります。
② 被告人以外の者の公判廷外供述を第三者が証言したものは刑訴法324条2項・321条1項3号により,供述不能かつ必要不可欠性かつ絶対的特信情況を条件として証拠能力が認められます。
例としては,(a)捜査官が捜査段階で聴取した被告人以外の者の供述を捜査官が証言する場合,及び(b)第三者が耳にした被告人以外の者の発言を第三者が証言する場合があります。
Ⅴ 当事者が証拠とすることに同意した書面(刑訴法326条)
→ 実務上,刑訴法326条に基づく書面が大部分です。
Ⅵ 合意書面(刑訴法327条)
当事者は合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述内容を記載した書面を提出できる。
Ⅶ 弾劾証拠(刑訴法328条)
刑訴法321条ないし324条で証拠とし得ない書面・供述でも、公判準備又は公判期日における被告人・証人その他の者の供述の証明力を争うために証拠とすることはできます。
3 供述の任意性の調査
□ 裁判所は,刑訴法321条から324条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であっても,あらかじめ,その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ,これを証拠とすることができません(刑訴法325条)。
□ 刑訴法325条の任意性の有無の調査は,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができ,かつ供述調書の方式のみでなく内容自体も右調査の資料となりうるのであって,右調査の事実は,これを必ず調書に記載しなければならないものではありません(最高裁昭和32年9月18日決定)。
□ 刑訴法325条の規定は,裁判所が,同法321条ないし324条の規定により証拠能力の認められる書面又は供述についても,さらにその書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となった他の者の供述の任意性を適当と認める方法によって調査することにより(最高裁昭和28年2月12日判決,最高裁昭和28年10月9日判決参照),任意性の程度が低いため証明力が乏しいか若しくは任意性がないため証拠能力あるいは証明力を欠く書面又は供述を証拠として取り調べて不当な心証を形成することをできる限り防止しようとする趣旨のものと解されます。
よって,刑訴法325条にいう任意性の調査は,任意性が証拠能力にも関係することがあるところから,通常当該書面又は供述の証拠調べに先立って同法321条ないし324条による証拠能力の要件を調査するに際しあわせて行われることが多いと考えられるが,必ずしも右の場合のようにその証拠調べの前にされなければならないわけのものではなく,裁判所が右書面又は供述の証拠調後にその証明力を評価するにあたってその調査をしたとしても差し支えありません(最高裁昭和54年10月16日決定)。
4 供述書と供述録取書
□ ①供述書とは,上申書,被害届のように,供述者が供述する内容を自ら記載した書面をいうのに対し,②供述録取書とは,検察官面前調書,司法警察員面前調書のように,供述者が供述する内容を他の者が録取した書面をいいます。
両書の区別の実益は,①供述書の場合,供述者の署名押印は証拠能力が生じるための要件とされていないのに対し,②供述録取書の場合,それが要件とされている点にあります(刑訴法321条1項柱書)。
署名・押印が要件とされているのは,①供述書の場合,供述者が作成した書面であることが明らかになれば供述者がその内容を供述したことが明らかになるのに対し,②供述録取書の場合,供述者の供述を他の者が記録した再伝聞であるから,供述者の署名押印により供述者が供述したとおりが記録されていることを認証させた上で,供述者自身が作成した供述書と同様に扱うためであす。
□ 供述録取書を除く,供述を内容とする書面はすべて供述書に含まれます。
私人によって作成されるものには陳述書,上申書,被害届,告訴状,告発状等があり,裁判や捜査の過程で作成されるものには検証調書,実況見分調書,鑑定書,報告書,逮捕手続書,差押調書があり,証拠物たる書面も,供述の内容が証拠となるものは供述書に含まれます。
□ 供述録取書には,公判調書,公判準備調書,検察官面前調書等はもとより,供述者以外のものが供述者の供述を録取したものであればすべてこれに含まれるのであって,録取の方法及び録取の権限の有無は関係ありません。
5 裁判官面前調書(裁面調書)
□ 裁面調書とは,裁判官の面前における供述を録取した書面をいいます(刑訴法321条1項1号)。
□ 公判の供述と裁判官面前調書の供述とが相反する場合,刑訴法321条1項1号後段により,調書の供述の信用性を問題とすることなく,調書に証拠能力が認められます。
これは,被告人に実質的に反対尋問の機会が与えられている上,裁判官の面前でされた供述であるところに信用性の情況的保障があるからです。
□ 「裁判官の面前における供述を録取した書面」とは,当該事件において作成されたものであると他の事件において作成されたものであるとを問いません(最高裁昭和29年11月11日決定)。
□ 証人が公判期日に証言を拒んだときは,刑訴法321条1項1号前段にいう公判期日において供述することができないときにあたります(最高裁昭和44年12月4日決定。なお,先例として,最高裁大法廷昭和27年4月9日判決参照)。
□ 刑訴法321条1項1号の「裁判官の面前における供述を録取した書面」には,被告人以外の者に対する事件の公判調書中同人の被告人としての供述を録取した部分を含みます(最高裁昭和57年12月17日決定)。
6 検察官面前調書(検面調書)
□ 検面調書の許容要件としては以下のものがあります。
① その供述者が死亡,精神若しくは身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないこと(供述不能)(刑訴法321条1項2号前段)
② 公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をしたこと(相反供述・実質的不一致供述)
ただし,公判準備若しくは公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存すること(相対的特信情況)(刑訴法321条1項2号後段)が必要です。
□ 刑訴法321条1項2号前段書面に特信情況を必要とすると,かかる特信情況は後段のような相対的特信情況ではなく,絶対的特信情況になります。
なぜなら,後段の場合,公判廷供述があるからそれとの比較で特信情況の有無を判断できるのに対し,前段の場合,比較の対象となる公判廷供述がそもそも存在しないからです。
□ 自己矛盾供述を理由として証拠能力が認められるのは裁面調書及び検面調書だけであり,員面調書を始めとする3号書面では証拠能力は認められません。
なお,検面調書の場合,一方当事者である検察官が作成した調書であるにもかかわらず,相対的特信状況が認められる限り,第三者の供述を録取した書面は常に証拠能力が認められることとなります。
□ 刑訴法321条1項2号前段は憲法37条2項に違反しません(最高裁大法廷昭和27年4月9日判決)。
□ 刑訴法321条1項2号ただし書により検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とするに当り,当該書面の供述が公判準備又は公判期日における供述より信用すべき特別の情況が存するか否かは結局,事実審裁判所の裁量に委ねられています(最高裁昭和28年7月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年11月15日判決参照)。
□ 証人に対する検察官の面前調書の証拠調が,これら証人を尋問した公判期日の後の公判期日で行われたからといって憲法37条2項の保障する被告人らの反対尋問権を奪ったことになりません(最高裁昭和30年1月11日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和25年3月6日決定)。
□ 憲法37条2項が,刑事被告人は,すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられると規定しているのは,裁判所の職権により又は当事者の請求により喚問した証人につき,反対尋問の機会を充分に与えなければならないという趣旨であって,被告人に反対尋問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類を絶対に証拠とすることを許さない意味をふくむものではなく,従って,法律においてこれらの書類はその供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えれば,これを証拠とすることができる旨を規定したからといって,憲法37条2項に反するものでありません(最高裁昭和30年11月29日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決)。
□ 証人が外国旅行中であって,これに対する反対尋問の機会を被告人に与えることができない場合であっても,その証人の検察官に対する供述録取書を証拠として採用することは憲法37条2項に違反しません(最高裁昭和36年3月9日判決)。
□ 退去強制は,出入国の公正な管理という行政目的を達成するために,入国管理当局が出入国管理及び難民認定法に基づき一定の要件の下に外国人を強制的に国外に退去させる行政処分であるが,同じく国家機関である検察官において当該外国人がいずれ国外に退去させられ公判準備又は公判期日に供述することができなくなることを認識しながら殊更そのような事態を利用しようとした場合はもちろん,裁判官又は裁判所が当該外国人について証人尋問の決定をしているにもかかわらず強制送還が行われた場合など,当該外国人の検察官面前調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは,これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともあり得ます(最高裁平成7年6月20日判決)。
7 3号書面
□ 3号書面とは,被告人以外の者の供述を,第三者が録取した書面をいいます(刑訴法321条1項3号)。
□ 3号書面に証拠能力が認められる要件は以下のとおりです。
① 供述者が死亡,精神又は身体の故障,所在不明若しくは国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができないこと(供述不能)
② その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであること(証拠の不可欠性)
③ 供述が特に信用すべき状況でなされたこと(絶対的特信情況)
□ 同じ捜査機関でありながら,検面調書(2号書面)の要件が3号書面の要件よりずっと緩和されているのは,検察官は法律の専門家である上,法の正当な適用を請求すべき地位にある(検察庁法4条)という客観義務を負う立場にあるからです。
□ 絶対的特信情況の典型例は,以下のような場合です。
① 供述の内容自体で信用すべき状況が認められる場合
(a)自分の刑事上又は民事上の不利益な事実を内容とする供述,(b)客観的な資料等に基づいて説得力のある供述をしていて虚偽を供述する理由もない場合等です。
② 供述の動機から信用すべき状況が認められる場合
(a)被害を受けた子供が直後に親に告げたような場合,(b)事件の直後に無関係な者が積極的に目撃情況を警察官等に申告して捜査に協力した場合,(c)被告人又は親族が積極的に警察官等の下に出頭して犯罪事実や目撃情況を告白した場合等です。
③ 供述者との親密な関係があって十分に信用のできる供述を聞き出している場合
④ 警察官等の録取者が供述者から十分に信用のできる供述を聞き出すために反対尋問に代わるようなテストをしながら客観性を保った録取をした場合
□ 検察官は,3号書面については,できる限り他の部分と分離してその取調べを請求しなければなりません(刑訴法302条)。
□ 刑訴法321条1項3号ただし書の「特に信用すべき情況」については事実審の裁量認定に関する事項です(最高裁昭和29年9月11日決定。なお,先例として,最高裁昭和28年7月10日判決参照)。
□ 日本国からアメリカ合衆国に対する捜査共助の要請に基づき,同国に在住する者が,黙秘権の告知を受け,同国の捜査官及び日本の検察官の質問に対して任意に供述し,公証人の面前において,偽証罪の制裁の下で,記載された供述内容が真実であることを言明する旨を記載するなどして作成した供述書は,刑訴法321条1項3号にいう特に信用すべき情況の下にされた供述に当たります(最高裁平成12年10月31日決定)。
□ 大韓民国の裁判所に起訴された共犯者が,自らの意思で任意に供述できるよう手続的保障がされている同国の法令にのっとり,同国の裁判官,検察官及び弁護人が在廷する公開の法廷において,質問に対し陳述を拒否することができる旨告げられた上でした供述を記載した同国の公判調書は,刑訴法321条1項3号にいう「特に信用すべき情況」の下にされた供述を録取した書面に当たります(最高裁平成15年11月26日決定)。
8 実況見分調書
□ 実況見分調書とは,捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載した書面をいいます(最高裁昭和36年5月26日判決)。
□ 刑訴法321条3項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解するを相当とし,このように解したからといって同条項の規定が憲法37条2項前段に違反するものではありません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和24年5月18日判決参照)。
□ 実況見分調書は,たとえ被告人側においてこれを証拠とすることに同意しなくても,検証調書について刑訴法321条3項に規定するところと同一の条件の下に,すなわち実況見分調書の作成者が公判期日において証人として尋問を受け,その真正に作成されたものであることを供述したときは,これを証拠とすることができます(最高裁昭和35年9月8日判決)。
□ 捜査機関は任意処分として検証(実況見分)を行うに当り必要があると認めるときは,被疑者,被害者その他の者を立ち会わせ,これらの立会人をして実況見分の目的物その他必要な状態を任意に指示,説明させることができ,そうしてその指示,説明を当該実況見分調書に記載することができるが,右の如く立会人の指示,説明を求めるのは,要するに,実況見分の一つの手段であるに過ぎず,被疑者及び被疑者以外の者を取り調べ、その供述を求めるのとは性質を異にします。
   そのため,右立会人の指示,説明を実況見分調書に記載するのは結局実況見分の結果を記載するに外ならず,被疑者及び被疑者以外の者の供述としてこれを録取するのとは異なるのである。
よって,立会人の指示説明として被疑者又は被疑者以外の者の供述を聴きこれを記載した実況見分調書には右供述をした立会人の署名押印を必要としません(最高裁昭和35年9月8日判決。なお,先例として,大審院昭和5年3月20日判決,大審院昭和9年1月17日判決参照)。
□ 捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要があります(最高裁平成17年9月27日決定)。
9 映像等の送受信による通話の方式による証人尋問調書
□ いわゆる性犯罪が複数の犯人によって犯され,各被告人の公判が分離されている場合,被害者がそれぞれの公判において同一の被害事実について繰り返し証言をする必要のある場合がある。
このような被害者等にとっては,一回の証言でさえ二次的被害及び強い精神的圧迫を受けることがあるのに,証言を繰り返させられることにより,そのような被害を重ねて受けることとなり,一層深刻な事態をもたらすこととなります。
そこで,ビデオリンク方式により証人尋問を行う場合において,後に再度証人尋問が行われる可能性がある場合には,後の公判において,被害の状況を一から証言するといった弊害を避けるため,ビデオリンク方式による証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に録画し,訴訟記録に添付して調書の一部とすることができるとされ(刑訴法157条の4第2項及び第3項),これについて,後の公判において一定の要件の下に証拠能力を認めることとされています(刑訴法321条の2第1項)。
□ 裁判所は,ビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合,証人が後の刑事手続において同一の事実について再び証人として供述を求められることがあると思料する場合であって,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴いた上で,その証人尋問の状況をビデオテープ等の記録媒体に記録することができます(刑訴法157条の4第2項)。
これにより記録した記録媒体は,訴訟記録に添付して調書の一部とされます(刑訴法157条の4第3項)。記録媒体への記録は,証言の内容にかんがみ,証人の意思を尊重すべきであることから,証人の同意にかからしめられています。また,記録媒体には証人尋問の状況についての映像及び音声が記録されることとなるところ,これが添付される調書は通常,証人尋問調書と同様に作成されることとなるので,証言の内容は文字情報として調書に記載されることとなります。
そして,後の公判においては,記録媒体がその一部とされた調書は伝聞証拠に該当することとなるものの,後の公判において,被害の状況を一から改めて証言するといった弊害を避ける必要があり,また,ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体は,テレビモニターを通じてではあるものの,裁判官の面前で,かつ宣誓をした上で証言したものである上,その記録媒体に記録された内容は,まさに,元の公判で,裁判官がテレビモニターを見て心証を得たものと同一の内容であることから,これに証拠能力を認めることとし,なお,訴訟関係人に反対尋問の機会を保障するため,これを取り調べた後,訴訟関係人に対し,その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならないとされています(刑訴法321条の2第1項)。
□ 記録媒体がその一部とされた調書の取調べ方法は,一般的には,朗読に代えて当該機録媒体を再生することであるものの,常に再生を必要とするのではなく,相当と認めるときは,当該調書に記録された供述の内容を告げることで足りるとされています(刑訴法305条3項)。
しかしながら,刑訴法321条の2第1項により証拠能力が認められる場合,原則に戻り,必ず,その記録媒体を再生して取り調べなければならないとされています(刑訴法321条の2第2項)。
□ 刑訴法321条の2第1項により取り調べられた調書に記録された証人の供述は,刑訴法295条1項前段並びに321条1項1号及び2号の適用については,被告事件の公判期日においてされたものとみなすとされています(刑訴法321条の2第3項)。
よって,記録媒体に記録された証人尋問が後の公判期日において行われたものとして取り扱うこととなるのであるから,刑訴法295条1項前段により,当該調書の取調べ後に行われる証人尋問において,裁判長は,前の証人尋問(記録媒体に記録された証人尋問)と重複する尋問を制限することができ,これにより,同一内容の証言の繰り返しを避けるという趣旨に資することとなります。
また,刑訴法321条1項1号及び2号の適用については,当該記録媒体に記録された供述の内容が,他の裁判官面前調書又は検察官面前調書と異なるいわゆる相反供述等であった場合,その裁判官面前調書等を後の公判においても証拠として採用することができることとなります。
□ ビデオリンク方式による証人尋問を記録した記録媒体については,当該記録媒体が,種々の者の目に触れるようなことがあれば,証人のプライバシーや名誉,心情が害されることが考えられる上,万一,これが流用されれば,その被害が拡大することから,検察官及び弁護人は,記録媒体の謄写をすることはできないとされています(刑訴法40条2項,180条2項,270条2項)。
10 被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
□ 被告人のその他の供述を内容とするものは,特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項本文)。
これは,検察官の反対尋問権を保障するためです。
□ 被告人の自白その他の不利益な事実の承認を内容とするものは,任意にされたものでない疑いがあると認められる場合を除き,証拠能力が認められます(刑訴法322条1項ただし書)。
これは,人は嘘をついてまで自分に不利益な事実を暴露することはないという経験則に基づくものです。
□ 被告人の不利益な事実の承認を内容とする書面は,捜査段階で作成されたものであっても,それ以前に作成されたものであっても含まれます。
また,捜査を意識しないで作成されたもの(手紙での告白,日記帳等)も含まれます。
□ 弁護人が自白調書についての証拠能力を争う場合,これを不同意とするとともに,刑訴法322条1項ただし書に基づく証拠能力が生じないことを主張するため,任意性に疑いがある旨の意見を述べる必要性があります。
この場合,自白するに至った経緯について,被告人質問等によって法廷に顕出することとなります。
□ 検察官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べの状況を立証しようとするときは,できる限り,取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして,迅速かつ的確な立証に努めなければなりません(刑事訴訟規則198条の4)。
□ 公判廷外における被告人の自白の任意性の有無の調査は,必ずしも証人の取調べによるの要なく,裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができます(最高裁昭和28年2月12日判決)。
11 刑訴法326条の同意,及び合意書面
(1) 総論
□ 訴訟関係人は,争いのない事実については,誘導尋問,刑訴法326条1項の同意,刑訴法327条の合意書面の活用を検討するなどして,当該事実及び証拠の内容及び性質に応じた適切な証拠調べが行われるよう努めなければなりません(刑訴規則198条の2)。
(2) 刑訴法326条1項の同意
□ 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は,その書面が作成され又は供述されたときの情況を考慮して相当と認めるときに限り,刑訴法321条ないし325条の規定に関わらず,これを証拠とすることができます(刑訴法326条1項)。
このように,当事者の同意だけで直ちに証拠能力を与えるわけではなく,相当性が要求されるのは,あまりに真実性を欠き,証拠価値の薄弱なものについてまで当事者の同意があることだけを理由に証拠能力を認めることは,事実認定の上で危険だからです。
□ 刑訴法326条1項の同意は,公判調書に記載されます(刑訴規則44条1項29号)。
□ 被告人において全面的に公訴事実を否認し,弁護人のみがこれを認め,その主張を完全に異にしている場合において,弁護人の同意のみを以て被告人が書証を証拠とすることに同意したとは言えないのであるから,裁判所は弁護人とは別に被告人に対して,証拠調べ請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確かめなくてはなりません(最高裁昭和27年12月19日判決)。
□ 刑訴法326条1項ただし書の「相当と認めるときに限り」というのは,証拠とすることに同意のあった書面又は供述が任意性を欠き,又は証明力が著しく低い等の事由があれば証拠能力を取得しないとの趣旨です(最高裁昭和29年7月14日決定)。
□ 挙示の証拠が証拠能力のあるものであることは,判文に特に説明する必要はありません(最高裁昭和29年7月14日決定)。
(3) 合意書面
□ 裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人が合意の上,文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは,その文書又は供述すべき者を取り調べないでも,その書面を証拠とすることができます(刑訴法327条前段)。
□ 合意書面の場合,当事者双方に証拠申請の利益があることが前提となるものの,そのような事例は希有であることから,今日では原則として同意書面の活用によることが確立しており,合意書面はほとんど用いられていません。
□ 合意書面は,これに証拠能力を与えるための制度であるにすぎず,その内容を真実と認めるものではないから,その内容の証明力を争うことはできます(刑訴法327条ただし書)。
12 証明力を争うための証拠
□ 刑訴法321条ないし324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であっても,公判準備又は公判期日における被告人,証人その他の者の供述の証明力を争うためには,これを証拠とすることができます(刑訴法328条)。
これは,伝聞証拠について事実認定に用いるのではなく,単に他の証拠の証明力を争うためだけに使用するならば,別段の弊害はないのでその使用が認められています。
□ 証人の供述の証明力を争うことを弾劾といいます。
弾劾の方法には,①反対尋問において体験したとされる事実について認識,記憶,記述の各面を追求する方法,②証人の性格,能力,利害関係,偏見等,証人の信用性を一般的に批判する方法,及び③証人が矛盾する供述をしていることを示す方法があります。
□ 刑訴法328条は,①同一人の,②公判廷供述前の,③不一致供述のみ,④その供述を証拠とすることができることを規定したものであり,①に関しては自己矛盾供述に限られるのかが問題となり,②に関しては公判廷供述後に作成されたものでも良いのかが問題となり,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれるのかが問題となり,④に関しては任意性に疑いのある供述も含まれるのかが問題となります。
①に関しては自己矛盾供述に限られ,②に関しては公判廷供述前に作成されたものに限られ,③に関しては回復証拠及び増強証拠も含まれ,④に関しては任意性に疑いのある供述は含まれないと解されています。

第9 証人尋問

1 総論
□ 証人の尋問を請求するときは,その氏名及び住居を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則188条の2第1項)。
□ 証人の尋問を請求するときは,証人の尋問に要する見込みの時間を申し出なければなりません(刑訴規則188条の3第1項)。
証人の尋問を請求した者の相手方は,証人を尋問する旨の決定があったときは,その尋問に要する見込みの時間を申し出なければなりません(刑訴規則188条の3第2項)。
□ 証人等の尋問をする旨の決定があったときは,その取調べを請求した訴訟関係人は,証人等を期日に出頭させるよう努めなければなりません(刑訴規則191条の2)。
□ 証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は,証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によって,適切な尋問をすることができるように準備しなければなりません(刑訴規則191条の3)。
2 証人の尋問の順序
□ 証人の尋問は,以下の順序によります(刑訴規則199条の2第1項)。
① 主尋問
証人の尋問を請求した者による尋問です。
② 反対尋問
相手方による尋問です。
③ 再主尋問
証人の尋問を請求した者による再度の尋問です。
□ 訴訟関係人は,裁判長の許可を受けて,再主尋問の後に更に尋問することができます(刑訴規則199条の2第2項)。
□ 裁判長又は陪席裁判官が最後に補充的に尋問することがありますところ,実務上は,補充尋問といわれます。
3 主尋問
□ 主尋問は,①立証すべき事項及び②これに関連する事項について行います(刑訴規則199条の3第1項)。
□ 主尋問の場合,証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができ(刑訴規則199条の3第2項),これを弾劾尋問といいます。
弾劾尋問は,①証人の観察,記憶又は表現の正確性等証言の信用性に関する事項,及び②証人の利害関係,偏見,予断等証人の信用性に関する事項について行うものの,みだりに証人の名誉を害する事項に及んではなりません(刑訴規則199条の6)。
□ 主尋問の場合,以下の場合を除き,誘導尋問をすることができません(刑訴規則199条の3第3項)。
① 証人の身分、経歴、交友関係等で,実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。
② 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき。 
③ 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。 
④ 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。
⑤ 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。
⑥ 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。
→ 「前の供述」とは,証人として供述をする前にした一切の供述を含みます。
⑦ その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
→ 例えば,(a)計数計算を伴う複雑な取引内容等に関し,証人は一応の記憶を有するが,より一層正確な供述を求める必要がある場合,(b)証人に精神的欠陥があって質問の趣旨を理解できない場合,(c)供述又は表現能力が著しく劣る場合があります。
□ 誘導尋問をするについては,書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければなりません(刑訴規則199条の3第4項)し,裁判長は,誘導尋問を相当でないと認めるときは,これを制限することができます(刑訴規則199条の3第5項)。
4 反対尋問及び再主尋問
□ 反対尋問は,①主尋問に現れた事項及び②これに関連する事項,並びに③証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行います(刑訴規則199条の4第1項)。
ただし,裁判長の許可を受けたときは,反対尋問の機会に,自己の主張を指示する新たな事項についても尋問することができます(刑訴規則199条の5第1項)ところ,この場合,主尋問と同様の制約を受けます(刑訴規則199条の5第2項)。
□ 反対尋問は,特段の事情のない限り,主尋問終了後直ちに行わなければなりません(刑訴規則199条の4第2項)。
□ 反対尋問においては,必要があるときは誘導尋問をすることができます(刑訴規則199条の4第3項)ものの,裁判長は,誘導尋問を相当でないと認めるときは,これを制限することができます(刑訴規則199条の4第4項)。
□ 再主尋問は,反対尋問に現れた事項及びこれに関連する事項について行われ(刑訴規則199条の7第1項),主尋問と同等の制約を受けます(刑訴規則199条の7第2項)。
5 証人尋問の方法等
□ 訴訟関係人は,証人を尋問するに当たっては,できる限り個別的かつ具体的で簡潔な尋問によらなければなりません(刑訴規則199条の13第1項)。
ただし,場合に応じて物語的に供述させるような尋問が常に禁止されるわけではありません。なぜなら,争点にかかわる部分につき,「その後どうなりましたか。」とか「そのときの状況を話して下さい。」というように聞いて,物語的に話してもらう方が心証をとりやすい場合も多いからです。
□ 訴訟関係人は,①の尋問は常にしてはならず,正当な理由がない限り②ないし④の尋問をしてはなりません(刑訴規則199条の13第2項)。
① 威嚇的又は侮辱的な質問
② すでにした尋問と重複する尋問
③ 意見を求め,又は議論にわたる尋問
④ 証人が直接経験しなかった事実についての尋問
→ 証人がその実験した事実により推測した事項を供述させる場合はこの限りでありません(刑訴法156条)。
□ 訴訟関係人は,①立証すべき事項又は②主尋問若しくは反対尋問に現れた事項に関連する事項について尋問する場合,その関連性が明らかになるような尋問をすることその他の方法により,裁判所にその関連性を明らかにしなければなりません(刑訴規則199条の14第1項)。
①証人の観察,記憶若しくは表現の正確性その他の証言の信用性に関連する事項,又は②証人の利害関係,偏見,予断その他の証人の信用性に関連する事項について尋問する場合も同様です(刑訴規則199条の14第2項)。
□ 陪席の裁判官は,証人等を尋問するには,あらかじめ,その旨を裁判長に告げなくてはなりません(刑訴規則200条)。
□ 裁判長は,①訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき,又は②事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,これを制限することができます(刑訴法295条1項前段)。
訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様です(刑訴法295条1項後段)。
そして,裁判所は,検察官又は弁護人が弁論等の制限に関する命令に従わなかった場合,検察官については当該検察官を指揮監督する権限を有する者に,弁護人については所属弁護士会又は日弁連に通知し,適当な処置をとるべきことを請求することができます(刑訴法295条4項)。
□ 裁判長は,必要と認めるときは,訴訟関係人の証人等に対する尋問を中止させ,自らその事項について尋問することができます(刑訴規則201条1項)。
□ 裁判長は,被告人,証人等が特定の傍聴人の面前で充分な供述をすることができないと思料するときは,その供述をする間,その傍聴人をたいていさせることができます(刑訴規則202条)。
6 尋問事項書
□ 証人の尋問を請求した者は,裁判官の尋問の参考に供するため,速やかに尋問事項又は証人が証言すべき事項を記載した書面を差し出さなければなりません(刑訴規則106条1項本文)。
ただし,公判期日において訴訟関係人にまず証人を尋問させる場合(交互尋問の場合),この限りではない(刑訴規則106条1項ただし書)ところ,実務上は常に交互尋問であることから,刑事裁判では原則として尋問事項書を提出することはないです。
□ 交互尋問の場合においても,裁判所は,必要と認めるときは,証人の尋問を請求した者に対し,尋問事項書を差し出すべきことを命じることができます(刑訴規則106条2項)。
□ 尋問事項書に記載すべき事項は,証人の証言により立証しようとする事項のすべてにわたらなければなりません(刑訴規則106条3項)。
7 書面等の提示
□ 訴訟関係人は,書面又は物に関しその成立,同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは,その書面又は物を示すことができます(刑訴規則199条の10第1項)。
例としては,①検証調書,実況見分調書,鑑定書の作成の真正を立証するためその作成者を尋問するとき(刑訴法321条3項及び4項),これらの書面を証人に示す場合,②刑訴法321条1項2号又は322条該当書面として請求する前提として,当該書面末尾の署名,指印の部分を証人に示して確認する場合があります。
□ 「その他これに準ずる事項について証人を尋問する」の例としては,①凶器の刃こぼれや衣類の汚点について説明を求める必要があるとき,その刃こぼれや汚点を証人に示して尋問する場合,及び②凶器自体は未発見の場合にその類似品を作成又は入手してこれを証人に示し,その類似性について確認する場合があります。
□ 訴訟関係人は,証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは,裁判長の許可を受けて,供述録取書を除く書面又は物を示して尋問することができます(刑訴規則199条の11第1項)。
この場合,書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことの内容に注意しなければなりません(刑訴規則199条の11第2項)。
□ 訴訟関係人は,証人の供述を明確にするため必要があるときは,裁判長の許可を受けて,図面,写真,模型,装置等を利用して尋問することができます(刑訴規則199条の12第1項)。
実務上,①ビデオテープ,②供述調書添付の一覧表及び③取調べ済の各種証拠物を利用して尋問することもあります。
□ 証人に示す書面,物,図面等が証拠調べを終わったものでないときは,あらかじめ,相手方にこれを閲覧する機会を与えなければなりません(刑訴規則199条の10第2項・199条の11第3項・199条の12第2項)。
8 交互尋問の沿革
□ 刑訴法304条は,戦前の刑事訴訟法と同じく,まず裁判官が尋問するのを原則としています。
これは,すべての事件について被告人に弁護人があるわけではないから,交互尋問制を取り入れると検察官の一方的尋問となり,かえって被告人の保護が不十分になることが心配されたためです。
その反面,当事者主義訴訟構造の下で,最初に裁判所が証人等を尋問することにはかなりの困難が伴うことも当然に予想されたため,刑訴法304条3項により,適当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,交互尋問の方法によりうるものとされました。
しかし,実務は現行法施行当初から交互尋問の方式をとることが多く,やがてそれが常態化したため,昭和32年2月15日最高裁判所規則第1号による刑訴規則の改正によって,交互尋問に関する詳細な規定が整備されるに至りました(刑訴規則199条の2以下)。
現在の実務では,検察官及び弁護人の意見を聴くまでもなく,当然に交互尋問が実施されています。

第10 証人の保護

□ 証人の保護手段としては以下のものがあります。
① 証人威迫罪(刑法105条の2)
→ 自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し,当該事件に関して,正当な理由がないのに面会を強請し,又は強談威迫の行為をした者は,1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます。
② 必要的保釈の除外例(刑訴法89条5項)
→ 被告人が,被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき,必要的保釈は認められません。
③ 証拠開示に際しての証人の安全への配慮(刑訴法299条の2)
→ 検察官又は弁護人は,証拠書類等を閲覧する機会を与えるに当たり,証人等若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあるときは,相手方に対し,その旨を告げ,これらの者の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が,原則として,被告人を含む関係者に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができます。
④ 証人の所在場所が特定される事項についての尋問の制限(刑訴法295条2項)
→ 裁判長は,証人等を尋問するに当たり,証人等もしくはその親族の身体若しくは財産に害を加え,又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり,証人等の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人等が十分な供述をすることができないと認めるときは,当該事項についての尋問を制限することができます。
⑤ 証人への付添い(刑訴法157条の2第1項)
→ 裁判所は,証人を尋問する場合において,証人の年齢,心身の状態その他の事情を考慮し,証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,その不安を緩和するのに適当であり,かつ,裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくは証人の供述を妨げ,又はその供述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を,その証人の供述中,証人に付き添わせることができます。
⑥ 証人尋問の際の証人の遮へい(刑訴法157条の3)
→ 裁判所は,証人を尋問する場合において,犯罪の性質,証人の年齢,心身の状態,被告人との関係その他の事情により,証人が被告人の面前において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって,相当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,被告人とその証人との間で,一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置をとることができます。
⑦ ビデオリンク方式による証人尋問(刑訴法157条の4)
→ 裁判所は,性犯罪等の被害者を証人として尋問する場合において,相当と認めるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所にその証人を在席させ,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法(=ビデオリンク方法)によって,尋問することができます。
⑧ 証人が特定の傍聴人の面前では充分な供述をすることができない場合の傍聴人の退廷(刑訴規則202条)
→ 裁判長は,(a)証人尋問の際の証人の遮へい及び(b)ビデオリンク方式による証人尋問の方法によったとしても証人が特定の傍聴人の面前で充分な供述をすることができないと思料するときは,その供述をする間,その傍聴人を退廷させることができます。
⑨ 証人が被告人の面前では圧迫を受け十分な供述をすることができない場合の被告人の退席ないし退廷(刑訴法304条の2)
→ 裁判長は,(a)証人尋問の際の証人の遮へい及び(b)ビデオリンク方式による証人尋問の方法によったとしても証人が被告人の面前では圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは,弁護人が出頭している場合に限り,検察官及び弁護人の意見を聴き,その証人の供述中被告人を退廷させることができます。
この場合,供述終了後に被告人を入廷させ,これに証言の要旨を告知し,その証人を尋問する機会を与えなければなりません。
⑩ 刑事事件の証人,参考人又はその近親者が被害を受けた場合の療養給付,障害給付及び遺族給付等による救済(証人等の被害についての給付に関する法律(昭和33年4月30日法律第109号))
→ (a)証人若しくは参考人が刑事事件に関し裁判所,裁判官若しくは捜査機関に対し供述をし,若しくは供述の目的で出頭し,若しくは出頭しようとしたことにより,又は(b)国選弁護人がその職務を行い,若しくは行おうとしたことにより,当該証人,参考人若しくは国選弁護人又はこれらの者の配偶者,直系血族若しくは同居の親族が,他人からその身体又は生命に害を加えられたときは,国は,被害者その他の者に対する給付を行います。
この場合の給付は,警察官の職務に協力援助した者の災害給付に関する法律(昭和27年7月29日法律第245号)による災害給付に準じて行われます。

第11 証拠調べに関する異議

□ 検察官,被告人又は弁護人は証拠調べに関し,異議を申し立てることができます(刑訴法309条)。
その趣旨は,証人調べの順序及び方法等に見られるように,証拠調べ等の手続に関する規程が複雑であり,かなり当事者主義かされていることにかんがみ,これらの手続における一方の当事者の行き過ぎや過誤の是正もできるだけ相手方の申立てを待ち,チェック・アンド・バランスの原理によって手続を適法かつ妥当に勧めるという点にあります。
□ 証拠調べに関する異議の対象は証拠調べ全般に及び,冒頭陳述,証拠調べの請求,証拠決定,証拠調べの範囲・順序・方法を定める決定,証拠調べの方式,証明力を争う機会の付与,更に尋問の制限等の証拠調べに関する裁判長の処分(これに対する異議は刑訴法309条2項の異議ではなく,同条1項の異議に当たります。)など証拠調べに関するすべての訴訟行為を含みます。
裁判所,裁判官の行為に対してでもよく,また,作為・不作為を問いません。
□ 証拠調べに関する異議は,法令の違反があることだけでなく,相当でないことを理由としてでもすることができます(刑訴規則205条1項本文)ものの,証拠調べに関する決定(証拠決定,証拠調べの範囲・順序・方法を定める決定)に対する異議は,相当でないことを理由としてすることはできません(刑訴規則205条1項ただし書)。
□ 異議の申立ては,個々の行為,処分又は決定ごとに,簡潔にその理由を示して,直ちにしなければなりません(刑訴規則205条の2)。
□ 裁判所は,異議の申立てについては,遅滞なく決定をしなければなりません(刑訴規則205条の3)。
□ 裁判所は,時機に遅れてされた異議の申立て,訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな異議の申立て,その他不適法な異議の申立てについては,決定で却下しなければなりません(刑訴規則205条の4本文)。
ただし,時機に遅れてされた異議の申立てについては,その申し立てた事項が重要であってこれに対する判断を示すことが相当であると認めるときは,時機に遅れたことを理由として却下することはできません(刑訴規則205条の4ただし書)。
□ 裁判所は,異議の申立てを理由がないと認めるときは,決定で棄却しなければなりません(刑訴規則205条の5)。
□ 裁判所は,異議の申立てを理由があると認めるときは,異議を申し立てられた行為の中止,撤回,取消又は変更を命ずるなどその申立てに対応する決定をしなければなりません(刑訴規則205条の6第1項)。
また,取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立てを理由があると認めたときは,その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければなりません(刑訴規則205条の6第2項)。
□ 異議の申立てについて決定があったときは,その決定で判断された事項については,重ねて異議を申し立てることはできません(刑訴規則206条)。
□ 裁判所は,取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることが判明したときは,職権でその証拠の全部又は一部を排除する決定をすることができます(刑訴規則207条)。

第12 被告人質問

□ 被告人に対する質問(刑訴法311条2項及び3項)は,その当事者たる地位に照らし,証拠調べとはいえませんが,その任意の供述は証拠となります(刑訴法322条2項,刑訴規則197条1項参照)。
□ 裁判長は,被告人が任意に供述する場合には,いつでも必要とする事項について被告人の供述を求めることができます(刑訴法311条2項)。
また,陪席の裁判官,検察官,弁護人,共同被告人又はその弁護人は,裁判長に告げて,被告人から任意の供述を求めることができます(刑訴法311条3項)。
□ 検察官の被告人質問は,主に争点を明確にし,自白調書の任意性を明らかにする場合や,情状立証のためにする場合等に行われます。
その時期について,刑訴法は特別の制限をしていないものの,自白調書の取調べ時期を制限する刑訴法301条の趣旨から,他の証拠を取り調べる前に,犯罪事実の細部にわたって被告人の供述が求められることはありません。
□ 被告人質問は,証人尋問と同様,いたずらに追及的な質問をしたり,威嚇的,侮辱的な質問はもとより,重複質問や,意見を求め,議論にわたる質問をしたりすることもできません(刑訴法295条,刑訴規則199条の13参照)。
□ 被告人の容貌体格をその同一性を確認する資料とするような場合においては,裁判官が直接五官によって認知するものであるから,その性質は検証に属するところではあるが,公判廷において裁判官が特段の方法を用いずに当然に認知でき当事者もこれを知り得るような場合においては,原則として証拠物の取調又は公判廷における検証として特段の証拠調手続を履践する必要がありません(最高裁昭和28年7月8日決定)。
□ 被告人質問の場合においても,傍聴人の退廷を求めることができます(刑訴規則202条)。
□ 被告人の公判廷における伝聞供述が証拠となりうるかどうかについては規定がないものの,①被告人に不利益なものであるときは刑訴法322条類推適用により,②被告人に利益なものであるときは刑訴法324条2項類推適用により証拠能力が認められると解されています。

第13 弁護人の書類及び証拠物の閲覧・謄写権,証拠等関係カード並びに公判調書等

1 弁護人の書類及び証拠物の閲覧・謄写権
□ 弁護人は,公訴の提起後は,裁判所において,訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し,かつ謄写することができます。
ただし,証拠物を謄写するについては,裁判長の許可を受けなければなりません(刑訴法40条1項)。
□ 検察官については刑訴法270条で書類及び証拠物の閲覧・謄写権が認められており,刑訴規則301条の適用もあります。
しかし,弁護人の場合,①場所が裁判所に限定されていること,及び②証拠物の謄写に裁判所の許可が必要であることが検察官の場合と異なっています。
□ 弁護人は,裁判長の許可を受けて,自己の使用人その他の者に訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧又は謄写させることができます(刑訴規則31条)。
2 証拠等関係カード
□ 証拠等関係カードには,①検察官請求にかかる証拠関係の手続を記載した検察官請求分,②弁護人請求にかかる証拠関係の手続を記載した弁護人請求分,及び③裁判所による職権証拠調べの関係を記載した職権分があります。
□ 証拠等関係カードには,以下の欄があります。
① 証拠の標目を記載する標目欄
→ 標目以外に,供述者,作成年月日,証人の住居,尋問時間等が記載されます。
② 立証趣旨を記載する欄
③ 証拠調べを請求した期日欄
④ 証拠調べ請求に対する相手方の意見欄
→ 刑訴法326条1項の同意・不同意等の意見が記載されます。
⑤ 証拠調べ請求についての結果欄
→ 採用の場合は「決定」,取調済みの場合は「済」,不同意等により請求を撤回した場合は「撤回」等と記載されます。また,当該公判期日における取調順序についても併せて記載されます。
⑥ 備考欄
□ 被告人質問の結果は公判調書の必要的記載事項であります(刑訴規則44条1項19号)ところ,証拠等関係カードの「職権分」に記載されます。
その理由は,①被告人質問は広い意味で証拠調べの性質を持ちますから,これを他の証拠調べ手続の経過とともに一覧できると便利であるからであり,また,②それが「職権分」に記載されるのは,訴訟関係人に被告人質問の請求権があるわけではないからです。
3 公判調書等
(1) 総論
□ 公判期日における訴訟手続については,公判調書が作成されます(刑訴法48条1項)。
□ 公判調書には,刑訴規則の定めるところにより,公判期日における審判に関する重要な事項を記載しなければなりません(刑訴法48条2項)。
□ 公判廷において,裁判所は,証人等の尋問及び供述並びに訴訟関係人の申立て又は陳述については,裁判所速記官その他の速記者にこれを速記させ,又は録音装置を使用してこれを録取することができます(刑訴規則47条1項・40条)。
検察官,被告人又は弁護人は,裁判長の許可を受けて,同様の処置をとることができます(刑訴規則47条2項・1項・40条)。
□ 公判調書には,裁判所書記官が署名押印し,裁判長が認印をしなければなりません(刑訴規則46条1項)。
□ 調書には,書面,写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し,訴訟記録に添付して,これを調書の一部とすることができます(刑訴規則49条)。
□ 調書は,記載事項により区分して訴訟記録に編てつすることができます(刑訴規則49条の2前段)。
この場合,調書が一体のものであることを当該調書上に明らかにしておかなければなりません(刑訴規則49条の2後段)。
□ 裁判所速記官は,速記をしたときは,速やかに速記原本を反訳して速記録を作らなければなりません(刑訴規則52条の3本文)。
□ 公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは,公判調書のみによってこれを証明することができます(刑訴法52条)。
そのため,刑訴法の定める適法な証拠調べがなされていないと上訴審で主張するためには,公判調書の記載に対する異議の申立てをしておかなければなりません。
(2) 公判調書の記載の省略
□ 訴訟関係人が同意し,かつ,裁判長が相当と認めるときは,公判調書には,被告人に対する質問及びその供述並びに証人等の尋問及び供述の記載に代えて,これらの者の供述の要旨のみを記載することができます(刑訴規則44条2の前段。要旨調書)。
この場合,その公判調書に訴訟関係人が同意した旨を記載しなければなりません(刑訴規則44条の2後段)。
(3) 公判調書の整理時期等
□ 公判調書は,各公判期日後速やかに,遅くとも判決を宣告するまでにこれを整理しなければなりません(刑訴法48条3項本文)。
□ 公判調書が次回の公判期日までに整理されなかったときは,裁判所書記官は,検察官,被告人又は弁護人の請求により,次回の公判期日において又はその期日までに,前回の公判期日における証人の供述の要旨を告げなければなりません(刑訴法50条1項前段)。
この場合において,請求をした検察官,被告人又は弁護人が証人の供述の要旨の正確性について異議を申し立てたときは,その旨を調書に記載しなければなりません(刑訴法50条1項後段)。
□ 裁判所書記官が公判期日外において前回の公判期日における証人の供述の要旨又は審理に関する重要な事項を告げるときは,裁判長の面前でこれをしなければなりません(刑訴規則51条)。
□ 公判調書が次回の公判期日までに整理されなかったときは,裁判所は,検察官,被告人又は弁護人の請求により,次回の公判期日において又はその期日までに,前回の公判期日を録音した録音体について,再生する機会を与えなければなりません(刑訴規則52条の19第1項)。
この場合,これをもって刑訴法50条1項の規定による要旨の告知に代えることができます(刑訴規則52条の19第2項)。
(4) 録音反訳による公判調書等
□ 公判廷における証人等の尋問及び供述,被告人に対する質問及び供述並びに訴訟関係人の申立て又は陳述を録音させた場合において,裁判所が相当と認めるときは,録音体を反訳した公判調書を作成しなければなりません(刑訴規則52条の17)。
□ 録音反訳により公判調書を作成する場合において,供述者の請求があるときは,裁判所書記官にその供述に関する部分の録音体を再生させなければなりません(刑訴規則52条の18前段)。
この場合において,尋問された者が増減変更の申立てをしたときは,その供述を録音させなければなりません(刑訴規則52条の18)。
(5) 公判調書の記載の正確性についての異議の申立て
□ 検察官,被告人又は弁護人は,公判調書の記載の正確性について異議を申し立てることができます(刑訴法51条1項前段)。
異議の申立てがあったときは,その旨を調書に記載しなければなりません(刑訴法51条1項後段)。
□ 裁判所は,公判期日における証人の供述の要旨の正確性又は公判調書の記載の正確性についての異議の申立てがあったときは,申立ての年月日及びその要旨を調書に記載しなければなりません(刑訴規則48条前段)。
この場合,裁判所書記官がその申立てについての裁判長の意見を調書に記載して署名押印し,裁判長が認印をしなければなりません(刑訴規則48条後段)。
□ 公判調書に対する異議の申立ては,遅くとも当該審級における最終の公判期日後14日以内にしなければなりません(刑訴法51条2項本文)。

第14 弁論手続

□ 証拠調べ手続が終わると,検察官,被告人側が,それぞれ事件に関する意見を述べます(検察官側につき刑訴法293条1項,被告人側につき刑訴法293条2項)ところ,これを弁論手続といいます。
なお,「事件に関する意見」というのは,①有罪か無罪かという点,②犯罪の悪質性や被告人の更生可能性等情状に関する点,③有罪だとすれば,どれくらいの刑に処すべきかという点に関する意見です。
□ 検察官及び弁護人は,証拠調べの後に意見を陳述するに当たっては,証拠調べ後できる限り速やかに,これを行う必要があります(刑訴規則211条の2)。
□ 検察官の述べる意見は,「論告」と呼ばれ,刑の重さに関する意見(「被告人を,懲役何年に処すべき」などの部分)は特に「求刑」と呼ばれます。
□ 弁護人の述べる意見は,「弁論」と呼ばれます。
□ 被告人側が「有罪である」と認めて争わない場合,論告も弁論も情状に関する意見が中心となります。
その場合,弁論では,「被告人を何年に処すべき」などと具体的な年数を述べることはなく,「検察官の求刑は重すぎるので,もっと軽くすべき」とか「執行猶予にすべき」などと述べるにとどまるのが普通です。
□ 検察官及び弁護人は,証拠調べの後に意見を陳述するに当たり,争いのある事実については,その意見と証拠との関係を具体的に明示して行う必要があります(刑訴規則211条の3)。
□ 裁判長は,必要と認めるときは,検察官,被告人又は弁護人の本質的な権利を害しない限り,検察官の論告及び弁護人の弁論の時間を制限することができます(刑訴規則212条)。
□ 検察官の論告及び弁護人の弁論の要旨は,公判調書に別紙引用という形で記載されます(刑訴規則44条1項41号)。
□ 弁護人の弁論の後,被告人は最後に陳述することができ(刑訴規則211条),その後に弁論が終結し,判決が宣告されます。
□ 裁判所は,適当と認めるときは,検察官,被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で,決定で,終結した弁論を再開することができます(刑訴法313条1項)。
□ 被告人又は弁護人から弁論の再開請求がなされたときは,裁判所は,弁論を再開するか否かについてはその裁量によって決すべきものでありますものの,請求を容れて再開するか,又はその必要なしと認めて却下するか,いずれかの決定を与えなければなりません(最高裁昭和36年5月26日判決)。
ただし,裁判所は,終結した弁論の再開の請求を却下する決定を送達する必要がありません(刑訴規則214条)。

第15 判決

1 判決の宣告
□ 判決は,公判廷において,宣告により告知されます(刑訴法342条)。
□ 判決宣告のための公判期日は必ず公開しなければなりません(憲法82条1項)。
□ 判決の宣告は,すでに内部的に成立している判決を告知して,これを外部的にも成立させる手続にすぎません(最高裁昭和47年4月5日決定)。
そのため,裁判官がかわっても,公判手続を更新することなしに判決の宣告をすることができます(刑訴法315条ただし書参照)。
□ 裁判の宣告は,裁判長が行います(刑訴規則35条1項)。
また,判決の宣告をするには,主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げる必要があります(刑訴規則35条2項)。
□ 有罪の判決の宣告をする場合,被告人に対し,上訴期間及び上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知しなければなりません(刑訴規則220条)。
□ 裁判長は,判決の宣告をした後,被告人に対し,その将来について適当な訓戒をすることができます(刑訴規則221条)。
□ 判決宣告当時,少なくとも主文だけは書面に作成されていなければならないものの,理由については必ずしも書面に作成されていなければならないものではありません(最高裁昭和45年4月20日決定)。
□ 判決の宣告にあたり,裁判長が主文の刑を懲役1年6月と朗読すべきところを誤って懲役1年2月と朗読し,次いで理由の要旨を告げ上訴期間等の告知を行ない,席を立ちかけたところ,弁護人から質問があったので,即座にその場で懲役1年6月と主文の刑を朗読し直した場合には,被告人に対する宣告刑は懲役1年6月としてその効力を生じます(最高裁昭和47年6月15日判決)。
□ 裁判長がいったんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了し,以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものではないのであって,判決の宣告は,全体として一個の手続であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,完了するものではありません(最高裁昭和51年11月4日判決)。
□ 判決は,宣告により,宣告された内容どおりのものとして効力を生じ,たとい宣告された内容が判決書の内容と異なるときでも,上訴において,判決書の内容及び宣告された内容の双方を含む意味での判決の全体が法令違反として破棄されることがあるにとどまります(最高裁昭和51年11月4日判決)。
2 有罪の判決書
□ 有罪の判決書には,①罪となるべき事実,②証拠の標目,③法令の適用のほか,④法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは,これに対する判断が記載されます(刑訴法335条)。
しかし,量刑の理由は判決書の必要的記載事項ではありませんから,正式な判決書であっても量刑の理由が記載されていないことがあります。
□ 地方裁判所又は簡易裁判所においては,判決書には,起訴状に記載された公訴事実又は訴因若しくは罰条を追加若しくは変更する書面に記載された事実を引用することができます(刑訴規則218条)。
なお,刑訴法335条1項は有罪判決には罪となるべき事実を記載すべきことを要件とするだけで,その記載の方法等についてはなんらの制限を設けていないのであるから,刑訴規則218条がその記載方法として起訴状記載の公訴事実等を引用することができると規定しても有罪となるべき事実の記載としては充されたものというべく,刑訴規則が刑訴法335条1項を変更したものとはいえません(最高裁昭和28年2月10日判決)。
□ かつての刑事訴訟法(大正11年5月5日法律第75号)(=旧刑事訴訟法)360条1項は「有罪ノ言渡ヲ為スニハ罪ト為ルヘキ事実及証拠ニ依リ之ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スヘシ」と規定し,戦時刑事特別法(昭和17年2月24日号法律第64号)26条は「有罪ノ言渡ヲ為スニ当リ証拠ニ依リテ罪ト為ルベキ事実ヲ認メタル理由ヲ説明シ法令ノ適用ヲ示スニハ証拠ノ標目及法令ヲ掲グルヲ以テ足ル」と規定していました。
戦時刑事特別法が戦時刑事特別法廃止法律(昭和20年12月20日法律第47号)により昭和21年1月15日に廃止された後,旧刑事訴訟法を全部改正するものとして,昭和24年1月1日から,刑事訴訟法(昭和23年7月10日法律第131号)(=現行刑事訴訟法)が施行されたところ,現行刑事訴訟法の国会審議における政府説明等によれば、旧刑事訴訟法に規定する「証拠ニ依リ之ヲ認メタル理由」の説明(=証拠理由の説明)が形式に堕しており,また,裁判官の重大な負担となって,審理が遅延するという結果もあったこと等から,判決を書く手数をなるべく省き,実際の公判において事実の真相を発見する面において裁判官の主力を用いるとの趣旨により,現行刑事訴訟法335条1項において,有罪の言渡しをするには証拠の標目を示さなければならない旨が規定されるに至りました(参議院議員峰崎直樹の質問主意書に対する,平成20年1月15日付の内閣答弁書参照)。
□ 判決書を含む裁判書は,裁判官がこれを作らなければなりません(刑訴規則54条)。
□ 判決書を含む裁判書には,裁判をした裁判官が署名押印をしなければなりません(刑訴規則55条)。
□ 刑事裁判における有罪の認定に当たっては,合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が必要であるところ,情況証拠によって事実認定をすべき場合であっても,直接証拠によって事実認定をする場合と比べて立証の程度に差があるわけではない(最高裁平成19年10月16日決定参照)。
しかし,直接証拠がない場合,情況証拠によって認められる間接事実中に,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは,少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれていることを要します(最高裁平成22年4月27日判決)。
3 調書判決
□ 地方裁判所又は簡易裁判所においては,上訴の申立てがない場合には,裁判所書記官に判決主文並びに罪となるべき事実の要旨及び適用した罰条を判決の宣告をした公判期日の調書の末尾に記載させ,これをもって判決書に代えることができます(刑訴規則219条1項本文)ところ,これを調書判決といいます。
□ 当事者が,判決宣告の日から14日以内でかつ判決の確定前に判決書の謄本の請求をした場合,調書判決は許されません(刑訴規則219条1項ただし書き)から,正式な判決書を作成してもらえます。

第16 刑の執行猶予

□ 初の執行猶予を付けるための要件は以下のとおりです(刑法25条1項)。
① 3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しをする場合
② 執行猶予を相当とするに足りる情状が存すること
③ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがないか,前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
□ 再度の執行猶予を付けるための要件は以下のとおりです(刑法25条2項)。
① 1年以下の懲役又は禁錮の言渡しをする場合
② 情状に特に酌量すべきものがあること
③ 前に禁錮以上の刑に処せられ,その執行猶予中であること
ただし,その執行猶予が保護観察付きで,その保護観察期間内に更に罪を犯した場合は除きます(憲法14条1項に違反しないことにつき最高裁昭和37年11月16日判決)。
□ 執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過し刑の言渡しがその効力を失っても,その言渡しを受けたという既往の事実そのものを量刑の資料に参酌しても違法ではありません(最高裁昭和33年5月1日決定。なお,先例として,最高裁昭和29年3月11日判決参照)。
□ 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過した場合,刑の言渡しに基づく法的効果が将来に向かって消滅します(刑法27条。なお,最高裁昭和45年9月29日決定参照)。
そのため,例えば,執行猶予期間経過の日以降は,当該受刑の事実はもはや執行猶予言渡しの欠格事由とされることはありません(刑法25条)し,執行猶予期間中,禁錮以上の刑に処せられた事実に基づいて受けていた職業資格等の制限を受けることもありません。
□ 刑法27条によって,執行猶予を言い渡した確定裁判による刑の言渡しがその効力を失っても,そのことは,刑法45条後段の併合罪関係の成否とは相関しません(最高裁昭和45年9月29日決定)。

第17 家庭裁判所が取り扱う成人の刑事事件

□ 平成20年6月18日法律第71号(平成20年12月15日施行)による改正前の少年法37条は,以下に掲げる成人の刑事事件については,公訴は,家庭裁判所にしなければならないと定めていました。
① 未成年者喫煙禁止法(明治33年3月7日法律第33号)違反の罪
→ 未成年者に対してタバコを販売した者は50万円以下の罰金に処せられます(同法3条)。
② 未成年者飲酒禁止法(大正11年3月30日法律第20号)違反の罪
→ 未成年者に対して業として酒類を販売又は供与した者は50万円以下の罰金に処せられます(同法3条1項)。
③ 未成年者を被害者とする,労働基準法違反の一定の罪
→ 例えば,(a)除外事由がないのに満15歳未満の児童を使用した場合(同法56条・113条),及び(b)満18歳に満たない者に坑内労働をさせた場合(同法63条・113条)です。
④ 児童福祉法60条及び62条2号の罪
→ 例えば,(a)身体に障害又は形態上の異常がある児童を公衆の観覧に供する行為,(b)児童にこじきをさせ,又は児童を利用してこじきをする行為,(c)公衆の娯楽を目的として,満15歳に満たない児童にかるわざ又は曲馬をさせる行為,(d)満15歳に満たない児童に戸々について,又は道路その他これに準ずる場所で歌謡,遊芸その他の演技を業務としてさせる行為及び(e)満15歳に満たない児童に酒席に侍する行為を業務としてさせる行為(同法34条1項1号ないし4号・60条2項)並びに(f)児童に淫行をさせる行為(同法34条1項6号・60条1項)があります。
⑤ 学校教育法144条(旧90条)及び145条(旧91条)の罪
→ (a)保護者が6歳に達した子を小学校又は特別支援学校の小学部に就学させない場合(同法144条・17条1項),(b)保護者が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した子を中学校,中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させない場合(同法144条・17条1項)及び(c)学齢児童又は学齢生徒を使用する者が,その使用によって,当該学齢児童又は学齢生徒が,義務教育を受けることを妨げた場合(同法145条・20条)です。
□ ①ないし⑤の事件については,家庭裁判所が管轄権を有していた理由は以下のとおりです。
① この種の事件は,少年事件を専門に扱って少年に理解のある家庭裁判所が取り扱うのが適当である。
② この種の事件は少年事件の調査の過程で発覚することが多く,証拠関係も少年事件と大部分が共通することから家庭裁判所が扱うのが便宜である。
□ 平成20年6月18日法律第71号が,①ないし⑤の事件を地方裁判所に移管したのは以下の理由です(平成20年5月30日付の衆議院法務委員会における大野恒太郎法務省刑事局長の答弁参照)。
① 刑事事件担当の裁判官も少年に対する理解を十分に有しており,適切な対応が可能である。
② 少年保護事件と少年の福祉を害する成人の刑事事件の証拠関係が共通であるからといっても,少年保護事件の証拠が自動的に刑事事件の証拠となるわけではない。
③ 当該成人については,家裁が管轄権を有する少年法37条1項所定の事件と,それ以外の地裁が管轄権を有する事件がいわゆる併合罪の関係にある場合,家裁と地裁に別々に訴えを提起することとなる結果,審理期間が不当に長くなったり,又は併合して一括して審理された場合とは異なる刑が言い渡されたりするという不都合がある。
④ 家裁管轄の成人の刑事事件については,家裁に起訴されるということで,簡易裁判所で出されることとなる略式命令による処理ができないという不都合がある。
□ 被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合においては,被告人の児童福祉法34条1項6号に触れる行為と児童ポルノ法7条3項に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから(最高裁大法廷昭和49年5月29日判決参照),両罪は,刑法54条1項前段の観念的競合の関係にはなく,同法45条前段の併合罪の関係にあります(最高裁平成21年10月21日決定)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
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2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。