過失相殺

第0 目次

第1 総論
第2 交通事故における具体的な過失割合等
第3 被害者側の過失等
第4 好意同乗と過失相殺
第5 過失相殺の主張立証責任等
第6 自賠責保険における過失相殺
第7 シートベルト未装着の場合の過失相殺
第8 空走距離,停止距離及び制動距離
第9 過失相殺率等の示談の法的拘束力

第1 総論

1 民法722条2項(自賠法4条で準用)は,「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」と規定しています。
   そのため,被害者にも落ち度がある場合,被害者の過失を考慮して,被った損害の額から過失割合による減額をした上で,加害者の損害賠償義務が定められることとなります。
 
2(1) 自動車運転者が自動車運転過失致死の刑事判決で過失を否定された場合でも,不法行為に関する民事判決で過失が否定されるとは限りません(最高裁昭和34年11月26日判決参照)。
   そのため,加害者が刑事事件で不起訴処分を受けていたとしても,加害者の損害賠償責任を否定する理由にはなりません。
(2) 「加害者の不起訴処分を争う検察審査会」も参照してください。
 
3 不法行為における過失相殺については,裁判所は,具体的な事案につき公平の観念に基づき諸般の事情を考慮し,自由なる裁量によって被害者の過失をしんしゃくして損害額を定めればよいのであって,しんしゃくすべき過失の度合につき一々その理由を記載する必要がありません(最高裁昭和39年9月25日判決)。

第2 交通事故における具体的な過失割合等

1(1) 交通事故における以下の類型に関する具体的な過失割合は,東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(別冊判例タイムズ38号)(平成26年7月4日発売)等に基づいて定められます。
① 歩行者と四輪車・単車との事故
② 歩行者と自転車との事故
③ 四輪車同士との事故
④ 単車と四輪車との事故
⑤ 自転車と四輪車・単車との事故
⑥ 高速道路上の事故
(2) 交通事故オンラインHPの「過失割合の図解事例」を見れば,大体の過失割合が分かります。
 
2(1) 自転車と自転車との事故については,具体的な過失割合は決まっていません。
    ただし,民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(いわゆる「赤い本」) 2016年版下巻(講演録)115頁ないし154頁に,「自転車同士の事故の過失相殺基準(第一次試案)」が掲載されています。
(2)ア 自転車交通事故が交通事故発生件数に占める割合は以下のとおり推移しています(ガベージニュースHPの「自転車事故の交通事故全体比は2割を切りさらに減少中(2016年)」参照)。
平成23年:20.8%,平成24年:19.9%,平成25年:19.2%
平成26年:19.0%,平成27年:18.4%
イ リンク先でいうところの自転車事故の件数は,自転車が第1当事者(最初に交通事故に関与した車両の該当者のうち,過失の重い側。同程度の時には負傷程度が軽い側)又は第2当事者(最初に交通事故に関与した車両該当者のうち,第1当事者以外の人)となった件数のことです。また,自転車同士の場合は1件として数えられています。
(3) 自転車の通行方法については,愛媛県警察HPの「自転車の通行方法(自転車の交通方法の特例より抜粋)」が参考になります。

 
3 外部ブログの「教習所教官が語る事故を起こす人間の特徴と事故現場-交通事故を未然に防ぐために知っておきたいこと 」によれば,交差点での交通事故の代表格は以下の三つです。
① 減速した前の車に突っ込む,追突事故
② 右折する際に直進してくる車やバイクに突っ込む,右直事故
③ 左折する際に直進してくるバイクや歩行者を巻き込む,巻き込み事故

4 電動アシスト付台車は,道路交通法施行令1条の「ショッピング・カート」に該当し,これを運行させている人は同法2条3項1号により歩行者とされます(経産省HPの「電動アシスト付台車に関する道路交通法及び道路運送車両法の取扱いが明確になりました」参照)。
   そのため,過失割合を考える場合,電動アシスト付台車を運行させている人は歩行者と同じ取扱を受けると思われます。

第3 被害者側の過失等

1(1) 被害者本人の過失だけではなく,被害者本人と身分上・生活関係上一体をなすと見られるような関係にある者の過失は,被害者側の過失として考慮されます(最高裁平成19年4月24日判決)。
    例としては,①配偶者(最高裁昭和51年3月25日判決),及び②内縁の配偶者(最高裁平成19年4月24日判決)があります。
(2) ①両親から幼児の監護を委託されたにすぎない保育園の保母(最高裁昭和42年6月27日判決),②同じ職場の同僚(最高裁昭和56年2月17日判決),③事故の3年前から恋愛関係にあったものの,婚姻していたわけでも,同居していたわけでもない交際相手(最高裁平成9年9月9日判決)の過失は,被害者側の過失としては考慮されません。
 
2 民法722条2項により被害者の過失を斟酌するためには,被害者である未成年者が,事理を弁識するに足りる知能を備えていれば足り,行為の責任を弁識するに足りる知能を備えている必要まではありません(最高裁大法廷昭和39年6月24日判決。小学2年生の被害者について過失相殺を認めました。)。

3 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度等に照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患をしんしゃくすることができます(なお,最高裁平成20年3月27日判決。先例として,最高裁平成4年6月25日判決参照)。

第4 好意同乗と過失相殺

1 大阪地裁の取扱いでは,友人の車に無償で同乗しているときに事故にあったという好意同乗(=無償同乗)の場合,ただそれだけの理由で損害額が減額されることはありません。
 
2   無免許運転,飲酒運転,暴走行為であること等を知っていながら同乗したなど,危険な運転状態を容認し,又は危険な運転を助長,誘発した場合,減額事由となります(自動二輪車による共同暴走行為の事例につき最高裁平成20年7月4日判決)。

第5 過失相殺の主張立証責任等

1(1) 交通事故といった不法行為に基づく過失相殺は,加害者の主張がなくても裁判所が職権ですることができます(最高裁昭和41年6月21日判決。先例として,大審院昭和3年8月1日判決参照)ものの,被害者に過失があった事実は加害者において立証する必要があると解されています。
   つまり,過失相殺については,加害者に主張責任はないものの,立証責任はあるということです。
(2) 民法722条2項類推適用により被害者の疾患を斟酌して過失相殺する場合であっても,裁判所は職権ですることができます(最高裁平成20年3月27日判決)。
 
2 債務不履行責任における過失相殺の場合でも,債務者に主張責任はないものの,立証責任はあります(最高裁昭和43年12月24日判決)。

第6 自賠責保険における過失相殺

1(1) 自賠責保険の場合,通常行われる過失相殺はせずに,被害者の落ち度が7割以上ある場合に限り,重過失減額として,保険金額を一定の割合で減額して支払っています。
(2) 自賠責保険の支払基準に基づく具体的内容は以下のとおりです。
① 後遺障害又は死亡に係るもの
被害者の過失が7割未満の場合,減額なし。
被害者の過失が7割以上8割未満の場合,2割減額。
被害者の過失が8割以上9割未満の場合,3割減額。
被害者の過失が9割以上10割未満の場合,5割減額。
被害者の過失が10割の場合,免除。
② 傷害に係るもの
被害者の過失が7割未満の場合,減額なし。
被害者の過失が7割以上10割未満の場合,2割減額。
被害者の過失が10割の場合,免除。
 
2 自賠責保険会社に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合,通常の過失相殺がなされます(被害者請求につき最高裁平成18年3月30日判決,加害者請求につき最高裁平成24年10月11日判決)。
   そのため,被害者の過失が大きい場合,自賠責保険会社に対し,通常の手続に基づく請求をした方が訴訟をするよりも多額の支払を得られます。

3 「自賠責保険の被害者請求及び加害者請求」も参照して下さい。

第7 シートベルト未装着の場合の過失相殺

1(1) 昭和46年6月2日,高速自動車道及び自動車専用道でのシートベルト着用が努力義務となりました。
   昭和60年9月1日,高速自動車道及び自動車専用道での運転席及び助手席でのシートベルト着用が義務づけられるようになりました。
   平成4年11月1日,一般道での運転席及び助手席でのシートベルト着用が義務づけられるようになりました。
   平成12年4月1日,6歳未満の幼児の乗車についてチャイルドシート使用が義務づけられるようになりました(道路交通法71条の3第3項)。
   平成20年6月1日,後部座席でのシートベルト着用が義務づけられるようになりました(道路交通法71条の3第2項)。
(2) 道路交通法では,シートベルトは「座席ベルト」となっていて,チャイルドシートは「幼児用補助装置」となっています。
 
2(1) シートベルト着用率及びチャイルドシート使用率のデータは,JAF HPの「全国調査データ」に載っています。
(2) 警察庁・JAF合同調査による,平成28年の「シートベルト着用率データ」によれば,同年10月1日から同月10日までの調査におけるシートベルト着用率は,運転者が98.5%,助手席同乗者が94.9%,後部座席同乗者が36.0%でした。
(3) 警察庁・JAF合同調査による,平成28年の「チャイルドシート使用率データ」によれば,同年11月3日から同月15日までの調査におけるチャイルドシート使用率は,1歳未満が85.7%,1歳~4歳が66.8%,5歳が39.1%,6歳未満全体が64.2%でした。
   また,はじめて自動車保険HP「チャイルドシート使用者率の向上と幼児の死亡重傷数の減少」が参考になります。
 
3 後部座席も含めて,シートベルト着用義務違反との損害の発生又は拡大との間に因果関係がある場合,過失相殺として考慮され,その割合は5%から20%ぐらいとされています。
 
4 シートベルト着用義務違反の違反点数は1点であり,反則金はありません。
 
5 シートベルト着用義務違反に対する不服申立方法については,「センターライン,車線境界線,バイクのすり抜け及び交通違反の不服申立方法」を参照して下さい。

第8 空走距離,制動距離及び停止距離

1 空走距離とは,ドライバーが危険を感じてブレーキを踏み,ブレーキが効き始めるまでにかかった距離をいい,制動距離とは,ブレーキが効き始めてから、車が停止するまでにかかった距離をいいます。
   停止距離は,空走距離及び制動距離の合計です。

2(1) 「実務の友」HP「車速から停止距離を計算する」を使えば,反応時間及び摩擦係数に対応した,空走距離,制動距離及び停止距離の計算をすることができます。
(2) 空走距離は反応時間及び車の速度によって決まります(車の速度に正比例します。)。
   制動距離は摩擦係数及び車の速度によって決まります。

3 路面が乾燥し,タイヤの状態が良い場合の空走距離,制動距離及び停止距離の目安は以下の通りです(運転免許学科試験模擬問題集HP「自動車の速度と停止距離」)。
時速 20km:空走距離が 6m,制動距離が 3m,停止距離が  9m
時速 30km:空走距離が 8m,制動距離が 6m,停止距離が 14m
時速 40km:空走距離が11m,制動距離が11m,停止距離が 22m
時速 50km:空走距離が14m,制動距離が18m,停止距離が 32m
時速 60km:空走距離が17m,制動距離が27m,停止距離が 44m
時速 70km:空走距離が19m,制動距離が39m,停止距離が 58m
時速 80km:空走距離が22m,制動距離が54m,停止距離が 76m
時速 90km:空走距離が25m,制動距離が68m,停止距離が 93m
時速100km:空走距離が28m,制動距離が84m,停止距離が112m

第9 過失相殺率等の示談の法的拘束力

〇42期の河田泰常裁判官が書いた,交通事故に関する赤い本(平成8年版)の「過失相殺率等の示談の法的拘束力」と題する記事(赤い本144頁ないし149頁)には,結論として,以下の趣旨の記載があります。
① 物損の示談において,損害とともに過失相殺率あるいは過失割合についての合意がなされたが,後に人損について争われた際,当初の過失相殺率あるいは過失割合が人損についても適用があるかどうかが問題となる場合
   物損の示談においてなされた過失相殺率あるいは過失割合についての合意は,通常,物損限りのものとしてなされており,したがって,人損については,損害の費目も含めて全く示談の際の俎上に上っていないでしょうから,これについて,合意の拘束力を認めることはできないでしょう。
② 主として人損の示談において,損害の全額が確定できない段階で,損害の一部とともに過失相殺率あるいは過失割合についての合意がなされたが,後に損害額全体について争われた際,損害額の全部または一部について,当初の過失相殺率あるいは過失割合の適用があるかどうかが問題となる場合
   損害の全額が確定できない段階で,損害の一部とともになされた合意について後に後遺症の程度等に争いが生じた場合には,形式的には,損害の費目としては上げられているわけですが,損害額自体が合意の時点に比して相当高額に上っているはずですから,この場合にも従前の合意の拘束力を認めることは,加害者に予期せぬ不利益を与えるおそれがあり,したがって,合意の拘束力が認められる場合が全くないとはいえませんが,それが認められる場合はかなり少なくなろうと思われます。
   そして,そもそも合意が成立していないとみるのであれば,訴訟においては,全損害について改めて過失相殺をすることになるでしょうし,仮に合意が成立しているとみられる場合であれば,後遺障害についても,当初の過失相殺率あるいは過失割合による減額がなされることになるものと思われます。
③ 口頭弁論において,原告が自認した過失相殺率あるいは過失割合を被告が争わず,または,当事者が過失相殺率あるいは過失割合について一致した意見を述べる等,過失相殺率あるいは過失割合について当事者間に争いがない場合
   過失相殺率あるいは過失割合について,単に当事者間に争いがないだけの場合でも,訴状において,原告が損害を明示的に主張し,被告としても,その内容を把握しながら,あえて過失相殺率あるいは過失割合については問題としてないわけですから,訴訟内において合意があったものと同じにみて拘束力を認めてもよいのではないかと思います。
④ 主として人損請求において,将来にわたる損害の全額が確定できない段階でも,いったん和解で決めた過失相殺率あるいは過失割合により将来の損害をも算定する段階で,裁判上の和解がなされる場合(いわば②が和解でなされた場合)
   この場合,将来の結果もある程度明確であり,裁判所でなされた合意という点で合意の真摯性も認められますから,その効力を否定する理由はないものと思われます。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。