タクシー業界に対する規制

第0 目次

第1の1 道路運送法に基づく規制
第1の2 旅客自動車運送事業運輸規則に基づく規制
第2   タクシー業務適正化特別措置法(タク特法)に基づく規制(指定地域及び特定指定地域)
第3の1 タクシー特措法に基づく供給過剰対策(特定地域及び準特定地域)
第3の2 タクシー特措法に基づく公定幅運賃制度
第3の3 タクシー事業の運送原価
第4   タクシーの営業形態等
第5   ハイヤー
第6の1 タクシー会社の労務管理
第6の2 変形労働時間制
第7の1 時間外労働,休日労働及び深夜労働
第7の2 時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)
第7の3 歩合給
第8の1 就業規則
第8の2 労働協約及びユニオン・ショップ協定
第8の3 労使協定
第9   労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存
第10   国際自動車に関する訴訟等
第11   最低賃金

*1 「自動車運送事業」も参照してください。
*2 JapanTaxi株式会社が運営している全国タクシーHP「タクシー料金検索」を使えば,駅・住所・施設間のタクシー料金を計算できます。
*3 ①東京運輸支局HPの「タクシー事業(法人タクシー・個人タクシー)」及び②タクシー求人サイト「転職道」HP「タクシードライバーガイド」が参考になります。
   ②につき,営業エリア,稼ぎ,二種免許,地理試験,タクシー会社の寮,ドライバーの1日,給料形態,勤務体系等が書いてあります。

第1の1 道路運送法に基づく規制

1(1) タクシー運転手は,法令所定の事由がない限り,運送の引受を拒絶することはできません(道路運送法13条)。
    つまり,正当な理由のない乗車拒否は禁止されており,違反に対しては100万円以下の罰金が予定されています(道路運送法98条6号)。
(2) タクシー運転手は,急病人を運送する場合その他正当な事由がない限り,運送の申込みを受けた順序により,旅客の運送をする必要があります(道路運送法14条)。
(3) タクシー会社は,タクシー運転手の過労運転を防止するために必要な措置を講じる必要があります(道路運送法27条1項)。

2(1) 平成14年1月31日までは,自動車運送事業は免許制であり,供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないこと等が免許を受ける条件とされ,需給調整規制がなされていました(道路運送法4条1項で免許制を定めていたことが憲法22条1項に違反しないことにつき最高裁昭和62年10月1日判決(先例として,最高裁大法廷昭和38年12月4日判決))。
  しかし,道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成12年5月26日法律第86号)が施行された平成14年2月1日以後,自動車運送事業は許可制となって需給調整規制が廃止され,①営業所,②車両数,③車庫,④休憩・仮眠体制,⑤運行管理体制,⑥運転者・運行管理者・整備管理者,⑦資金計画,⑧損害賠償能力等の一定の条件を満たせば当然に許可が下りるようになりました(いわゆる「タクシー規制緩和」)。
(2) 道路運送法には緊急調整地域の制度があったものの,これは供給過剰の状況が発生した場合に新規参入や増車を禁止するという,いわば供給過剰の拡大防止措置しかありませんでした。

3 平成21年10月1日,タクシー適正化・活性化特別措置法(タクシー特措法)が施行され,平成26年1月27日,改正タクシー特措法が施行されました。
   これにより,供給力削減及び需要活性化の両面からのタクシー供給過剰対策が推進されるようになりました。

第1の2 旅客自動車運送事業運輸規則に基づく規制(交通事故関係)

1 旅客自動車運送事業運輸規則 (昭和31年8月1日運輸省令第44号)は,事業者,運行管理者,乗務員,旅客等に関する事項を定めています。

2 旅客自動車運送事業者は,事業用自動車の運行により生じた旅客その他の者の生命,身体又は財産の損害を賠償するための措置であつて,国土交通大臣が告示で定める基準(平成17年4月28日国土交通省告示第502号のことです。)に適合するものを講じておかなければなりません(旅客自動車運送事業運輸規則19条の2)。 

3(1) タクシーが交通事故を起こした場合,30日以内に,以下の事項を含む交通事故の記録を作成し,当該記録を3年間保存する必要があります(旅客自動車運送事業運輸規則26条の2参照)。
① 乗務員の氏名
② 事業用自動車の自動車登録番号その他の当該事業用自動車を識別できる表示 
③ 事故の発生日時 
④ 事故の発生場所 
⑤ 事故の当事者(乗務員を除く。)の氏名 
⑥ 事故の概要(損害の程度を含む。) 
⑦ 事故の原因 
⑧ 再発防止対策 
(2)   「事故の概要(損害の程度を含む。)」にはドライブレコーダーの記録が含まれます(「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」26条の2参照)。

第2 タクシー業務適正化特別措置法(タク特法)に基づく規制(指定地域及び特定指定地域)

1 総論
(1) タクシー業務適正化特別措置法(昭和45年5月19日法律第75号)(略称は「タク特法」です。)は,タクシーの運転者の登録を実施し、指定地域において輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験を行うとともに、特定指定地域においてタクシー業務適正化事業の実施を促進すること等の措置を定めています(タク特法1条参照)。
(2) 制定当初の法律名はタクシー業務適正化臨時措置法でしたが,平成14年2月1日,現在の法律名となりました。

2 指定地域及び特定指定地域
(1) 指定地域及び特定指定地域は,いわゆる流し営業中心の地域であり,以前は政令で指定されていましたが,現在は国土交通大臣告示で指定されています(タクシー業務適正化特別措置施行規程(平成26年1月24日国土交通省告示第57号参照)。
(2) 指定地域とは,タクシーによる運送の引受が専ら営業所以外の場所で行われ、乗車拒否等輸送の安全及び利用者の利便を確保することが困難となるおそれがある行為の状況に照らし、タクシー事業の適性化を図る必要があると認められる地域をいいます(タク特法2条5項)。
   特定指定地域とは,指定地域のうち,特に利用者の利便を確保する観点からタクシー事業の業務の適正化を図る必要があると認められる地域うぃいます(タク特法2条6項)。
(3)ア 東京都の特定指定地域は,東京都特別区,武蔵野市及び三鷹市です。
   大阪府の特定指定地域は,大阪市,堺市(美原区を除く),豊中市,池田市,吹田市,泉大津市,高槻市,守口市,茨木市,八尾市,和泉市,箕面市,門真市,摂津市,高石市,東大阪市,三島郡島本町及び泉北郡忠岡町です。
   神奈川県の特定指定地域は,横浜市,横須賀市及び三浦市です。
イ 平成22年4月1日,神奈川県が特定指定地域に追加されました。

3 タクシー運転者登録制度
(1) 平成20年6月14日,タクシー運転者登録制度(タク特法3条参照)が2の指定地域(東京及び大阪)から13の指定地域(札幌,仙台,さいたま,千葉,東京,横浜,名古屋,京都,大阪,神戸,広島,北九州,福岡)に拡大されました(国土交通省HPの「法人タクシー運転者登録制度を開始します~指定地域を全国13地域に拡大~」参照)。
(2)ア 平成27年10月1日,タクシー運転者登録制度(タク特法3条参照)が13の指定地域(札幌,仙台,さいたま,千葉,東京,横浜,名古屋,京都,大阪,神戸,広島,北九州,福岡)から全国に拡大されました(国土交通省HPの「タクシー運転者登録制度を全国に拡大します~主な政令指定都市から全ての地域へ~」参照)。
   これにより,全国において運輸局長が認定する講習を受講・修了し,タクシー運転者登録を受けないと,法人タクシーに乗務することができなくなりました。
イ 大阪の場合,公益財団法人大阪タクシーセンターがタクシー運転者登録を担当しています(大阪タクシーセンターHPの「登録課」参照)。
   そして,法人タクシーについては運転者証を,個人タクシーについては事業者乗務証を発行しています。
ウ タクシー運転手は,登録タクシー運転者証をタクシーに表示する必要があります(タクシー業務適正化特別措置法13条本文)。
(3) 平成27年10月1日,13の指定地域においては,講習の受講・修了に加えて,新たに「輸送の安全及び利用者の利便の確保に関する試験」(法令,安全,接遇及び地理)の合格が必要となりました。
   ただし,従前から,東京都,大阪府及び神奈川県の特定指定地域(タク特法2条6項,タクシー業務適正化特別措置施行規程2条2項)においてタクシー運転手となろうとする場合,適正化事業実施機関が実施する地理試験に合格する必要がありました(タクシー業務適正化特別措置法48条及び49条)。
(4)ア 登録タクシー運転者が悪質な法令違反を行ったり,重大事故を惹起したりした場合,運輸局長が登録の取消処分を行い,一定期間,全国どの地域においてもタクシーの乗務ができなくなります(タク特法9条1項)。
イ 軽微な違反の場合は警告を行うとともに違反点数を付与し,一定の点数に達した場合は地方運輸局長から講習の受講命令が出されます(タク特法18条の2)。
(5) 登録タクシー運転者に対する処分基準は,「登録運転者等に対する行政処分等の基準について」(平成27年10月1日付の関東運輸局長等の公示)に書いてあります。

4 適正化事業実施機関としてのタクシーセンター
(1) 適正化事業実施機関は,タクシー業務適正化特別措置法34条に基づく機関であります(国土交通省HPの「タクシー業務適正化特別措置法に規定する適正化事業の概要について」参照)ところ,以下の三つがあります。
① 公益財団法人東京タクシーセンター
・ 「インターネットによる苦情受付」を利用すれば,インターネット経由で苦情を出すことができます。
② 公益財団法人大阪タクシーセンター
・ 「苦情の受付」を利用すれば,インターネット経由で苦情を出すことができます。
③ 一般財団法人神奈川タクシーセンター
・ 「苦情について」を利用すれば,インターネット経由で苦情を出すことができます。
(2)ア 東京都,大阪府及び神奈川県の特定指定地域に事業所のあるタクシーから乗車拒否をされたり,下車を強要されたり,接客に問題があったりした場合,タクシーセンターに対して苦情を出すことができます。
イ 正当な理由のない乗車拒否は,道路運送法13条及び旅客自動車運送事業運輸規則13条に違反する行為です。
(3) タクシー会社の道路交通法違反,交通事故に関する対応等について,タクシーセンターに苦情を出すことはできません。
(4) タクシー業務適正化特別措置法34条は以下のとおりです。
(適正化事業実施機関の指定) 
第三十四条   特定指定地域内におけるタクシー事業に係る次の業務を行う者で特定指定地域ごとに国土交通大臣の指定するもの(以下「適正化事業実施機関」という。)は、当該業務の実施に必要な経費に充てるため、当該特定指定地域内に営業所を有するタクシー事業者から負担金を徴収することができる。 
一  タクシーの運転者の道路運送法に違反する運送の引受けの拒絶その他同法 又はこの法律に違反する行為の防止及び是正を図るための指導 
二  タクシーの運転者の業務の取扱いの適正化を図るための研修 
三  タクシー事業の利用者からの苦情の処理 
四  タクシー乗場その他タクシー事業の利用者のための共同施設の設置及び運営 
2  前項の指定は、指定を受けようとする者の申請により行なう。 

第3の1 タクシー特措法に基づく供給過剰対策(特定地域及び準特定地域)

1(1)ア 平成21年10月1日,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法(平成21年6月26日法律第64号)(略称は「タクシー適正化・活性化特別措置法」,「タクシー特措法」です。)が施行されました。
   これにより,供給過剰の問題が生じている地域を国土交通大臣が特定地域として指定した上で(タクシー特措法3条),特定地域ごとに事業者,行政,利用者,労働者,有識者などで構成される協議会が作成する地域計画に基づいて,協議会に参加する各事業者が供給力の削減のための減車などの取り組み(供給力削減)と,需要を拡大させるための活性化の取り組み(需要活性化)を自主的に実施していくことができる制度が導入されました(一般財団法人運輸総合研究所HP「議員立法で成立した改正タクシー特措法等の概要について」参照)。

イ 制定当初は,「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」という法律名でしたが,平成26年1月27日,現在の法律名になりました(国土交通省自動車局旅客課の「タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法が施行されました!」参照)。
(2) 自交総連HP「規制強化と減車の実現」が参考になります。
   自交総連は,全国自動車交通労働組合総連合会の略称であり,ハイヤー・タクシー,自動車教習所及び観光バス労働者の労働組合です。

2(1) タクシー特措法の下で,全国的に,また,個々の地域の大半において,一日当たりの売り上げ(日車営収)と運転者の賃金はそれまでの下落傾向から回復に転じました。
   以後両者は緩やかな上昇を続けてきましたが,施行後3年以上を経て,それらの上昇の度合いや供給過剰の解消効果は,法制定当初に期待されたよりも小さい水準にとどまっていて不十分ではないか,との指摘や意見もありました。
   また,全国で約640のタクシー営業区域のうち,区域数ベースでその約四分の一,法人車両台数ベースで約9割に当たる営業区域が特定地域として指定され,各地域において自主的な減車や需要の活性化の取り組みが各社で自主的に進められたものの,自主的な取り組みであるがゆえに3年が経過する中で減車ペースも低下していた面や,減車に積極的に取り組む事業者と全く消極的な事業者との間に不公平感が生じ,これが減車が停滞する一因ともなっていた面もあり,今後における供給過剰対策の円滑な進捗の確保が大きな課題となっていました(一般財団法人運輸総合研究所HP「議員立法で成立した改正タクシー特措法等の概要について」参照)。
   そこで,平成25年11月,タクシーサービス向上・安心利用推進法に基づき,タクシー特措法が改正されました。
(2) 平成26年1月27日,タクシー特措法が施行されました。
   これにより,道路運送法に基づく「新規参入は許可制,増車は届出制」という規制緩和の原則は引き続き維持したまま,供給過剰対策が必要な地域について,改正前の特定地域のみの制度から特定地域と準特定地域という二本立ての制度とした上で,特定地域として指定されている期間中における供給過剰対策の取り組みについて,一定の場合には減車などの供給力の削減を義務付ける方法により効果的に実施できるようになりました。
(3)ア 期間3年で指定される準特定地域(大臣指定)の場合,新規参入は許可制であり,増車は認可制であり,公定幅運賃(下限割れには変更命令)が定められています(国土交通省HPの「タクシー「サービス向上」「安心利用」推進法による制度変更のポイント」参照)。
   準特定地域の規制内容は,改正前のタクシー特措法に基づく特定地域の規制内容とほぼ同じです。
イ   期間3年で指定される特定地域(大臣指定・運輸審議会諮問)の場合,新規参入及び増車は禁止されていますし,強制力ある供給削減措置が定められていますし,公定幅運賃(下限割れには変更命令)が定められています。
(4) 改正タクシー特措法に基づく政令,省令,告示,通達及びガイドラインは,東京交通新聞HPの「「改正タクシー事業適正化・活性化特別措置法」運用基準の詳細」に載っています。

3(1) 具体的にどの交通圏(営業区域)が準特定地域に該当するかについは,特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法施行規程(平成26年1月24日国土交通大臣告示第56号)で定められています。
   大阪府の場合,①大阪市域交通圏,②北摂交通圏,③河北交通圏,④河南B交通圏,⑤泉州交通圏及び⑥河南交通圏が準特定地域に指定されています。
 そのため,現在,大阪府の交通圏で準特定地域に該当しないのは,⑦豊能郡(とよのぐん)交通圏だけです。
(2) 平成28年7月1日時点のタクシー特措法に基づく特定地域は,自交総連HP「タクシー特定地域特措法 特定地域(2016年7月1日現在)」に掲載されています。
   近畿地方では,大阪市域交通圏,神戸市域交通圏及び奈良市域交通圏が特定地域となっています。
(3)   大阪府下の交通圏に関する地図は,一般社団法人大阪タクシー協会HPに掲載されています。
   交通圏というのは,輸送の安全,旅客の利便等を勘案して,地方運輸局長(例えば,近畿運輸局長)が定める区域のことであり(道路運送法5条1項3号,道路運送法施行規則5条),タクシーの営業区域を意味します。

第3の2 タクシー特措法に基づく公定幅運賃制度

1 平成26年1月27日施行の改正タクシー特措法により、タクシーの供給過剰地域において過度な運賃競争を是正することを目的として,タクシー公定幅運賃制度が導入されました。

2 平成28年10月21日,国土交通省は,大阪高裁等で確定したタクシー運賃変更命令差止請求訴訟に対する判決(大阪高裁平成28年6月17日判決。外部HPの「格安タクシー訴訟に見る公定幅運賃制度と差止訴訟」参照)の趣旨を踏まえ,タクシー利用者の利便性向上等の観点から,下限割れ事業者が存在する地域において,下限割れ事業者の経営実態を考慮しつつ,下限運賃の見直しを行いました(国土交通省HPの「タクシー公定幅運賃の見直しについて」参照)。

第3の3 タクシー事業の運送原価

1 「タクシー事業に係る運賃制度について(第2回会議(H21.6.4)分)」6頁の「総走行キロ(1km)当たりの運送原価」によれば,東京地区の運送原価は179.86円であり,名古屋地区は154.14円です(なぜか大阪地区の運送原価は書いていないです。)。

2 タクシー事業の運送原価の内訳は以下のとおりです。
① 営業費
・ 運送費及び一般管理費に分かれます。
・ 運送費は,人件費(運転者人件費及びその他人件費),燃料油脂費,車両修繕費,車両償却費,その他運送費に分かれます。
   その他人件費は,運行管理者,整備管理者及び事務員の人件費です。
・ 一般管理費は,人件費(役員報酬及びその他),諸税(主として事業税),その他に分かれます。
② 営業外費用
・ 金融費用(車両購入費,施設改善費),車両売却損(車両売却に係る費用)及びその他に分かれます。
③ 適正利潤

第4 タクシーの営業形態等

1 タクシーの営業形態には以下の3種類があります。
① 流し
・   街中を走りながら,タクシーに乗りたがっているお客さんを探すことをいいます。
② 付け待ち
・   駅前,ホテル,病院前などに設置されたタクシー乗り場でお客さんを待つことをいいます。
③ 無線配車
・   街中や駅前等でタクシーを拾わずに,タクシー会社に電話をかけるお客さんを乗せるために,そのお客さんのところに最寄りのタクシーを向かわせることをいいます。
・ 無線配車の場合,迎車料金が加算されます。

2 タクシードライバー求人君HPの「超初心者必見!タクシードライバーは基本の「流し」を極めるべし。おさえるべき5つのコツ」が参考になります。

3 タクシー業界用語については,外部HPの「【タクシー業界用語】乗務員の間で使われる専門用語や隠語まとめ」が参考になります。

4 国土交通省HPの「タクシー事業の現状」によれば,平成26年3月31日現在,全国のタクシー事業の規模として,車両台数が23万848両,輸送人員が15億9391万人,営業収入が1兆6753億円となっています。

第5 ハイヤー

1 ハイヤーは,営業所,車庫等を拠点に利用客の要請に応じて配車に応じる自動車のことです。

2(1) 道路運送法にはハイヤーを定義する条文は特に存在せず,ハイヤーはタクシーの一種として位置づけられています。
(2) タク特法では以下のとおり定義されています。 
   タクシーは,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車でハイヤー以外のものをいいます(タク特法2条1号)。
   ハイヤーは,一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車で当該自動車による運送の引受けが営業所のみにおいておこなわれるものをいいます(タク特法2条2号)。

3(1) タクシーの場合,旅客との運送契約は乗車から降車までとなりますし,課金区間も乗車地から降車地までとなります。
   ただし,乗客がタクシーの配車を依頼した場合,迎車料金が別途発生します。
(2)   ハイヤーの場合,旅客との運送契約及び課金区間は「お迎え」(出庫)→「乗車」→「降車」→「車庫に戻る」(帰庫)となります。

4(1) 日本交通HPの「ハイヤー」によれば,ハイヤーの利用用途としては,役員車・社用車(専属使用),通勤使用,成田空港・羽田空港の送迎,ゴルフ送迎,スポット使用,ワゴンがあります。
(2) 日本交通HPの「ハイヤー料金」によれば,成田空港送迎は片道約3万5000円以上,羽賀空港送迎は片道約1万8000円以上,ゴルフ使用は1日当たり約4万5000円以上,スポット使用は2時間又は30km当たり1万2310円以上,ワゴンは2時間又は30km当たり1万2310円以上となっています。

第6の1 タクシー会社の労務管理

1 総論
(1) タクシー運転手の勤務形態には,昼日勤,夜日勤及び隔日勤務の三つがあります。
(2)ア 昼日勤の場合,一般のサラリーマンと同じような勤務時間となりますから,健康的に働けます。その反面,長距離客が少なかったり,深夜割増がなかったりする分,夜日勤よりも売り上げは少なくなります。
   夜日勤の場合,昼日勤と全く逆の勤務時間となりますから,疲労が蓄積しやすいですし,酔客に絡まれる可能性が高くなります。その反面,終電・終バスを逃した乗客等の長距離客がいたり,深夜割増があったりする分,昼日勤よりも売り上げは多くなります。
   隔日勤務の場合,丸一日働いて丸一日休むみたいな生活となります。
イ 昼日勤及び夜日勤を合わせて日勤といいます。
ウ 隔日勤務の略称は「隔勤」です。
(3) タクシー会社は,保有車両の稼働率をできる限り上げた方が,全体として売り上げを増やすことにつながります。
   そのため,タクシー1台につき1日2名の運転手に乗務してもらう日勤よりも,1名の運転手に丸1日タクシーに乗務してもらい,翌日はそのタクシーの別の運転手に使ってもらう隔日勤務が主流になっています。

2 拘束時間及び休息期間
(1) タクシー・ハイヤー運転手の場合,自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(略称は「改善基準告示」)により,拘束時間,休息期間等の基準が定められています。
(2)ア 拘束時間は,始業時刻から就業時刻までの時間で,労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます。
イ タクシー運転手は,営業所で休憩したり,路肩で休憩したり,食事をとって休憩したりしています(外部HPの「どこでどうやって休んでる?タクシー運転手の休憩の取り方」参照)。
ウ 労働者が実作業に従事していない仮眠時間であっても,労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものであって,労働基準法32条の労働時間に当たります(最高裁平成14年2月28日判決)。
(3) 休息期間は,勤務と次の勤務の間の時間であり,睡眠時間を含む労働者の生活時間として,労働者にとって全く自由な時間をいい,休憩時間や仮眠時間等とは本質的に異なる性格を有するものです。
(4) 労働時間には時間外労働時間及び休日労働時間が含まれます。
   また,労働時間には作業時間(運転・整備等)のほか,手待ち時間(客待ち等)が含まれます。

3 タクシーの日勤勤務者の場合
(1) 1か月の拘束時間は299時間が限度です。
(2) 1日(始業時刻から起算して24時間をいいます。)の拘束時間は13時間以内を基本とし,これを延長する場合であっても16時間が限度です。
(3) 1日の休息期間は継続8時間以上必要です。
(4) 拘束時間と休息期間は表裏一体のものであり,1日とは始業時間から起算して24時間をいいますから,結局,1日(24時間)=拘束時間(16時間以内)+休息期間(8時間以上)となります。
(5) 車庫待ち等の運転者(顧客の需要に応ずるため常態として車庫等において待機する就労形態のタクシー運転手)については,以上の上限よりも緩い取扱いとなります。
(6) 休日は,休息期間+24時間の連続した時間をいいます。
   そのため,タクシーの日勤勤務者の休日は,休息時間8時間+24時間=32時間以上の連続した時間となります。

4 タクシーの隔日勤務者の場合
(1) 1か月の拘束時間は262時間が限度です。
   ただし,地域的事情その他の特別の事情(例えば,顧客需要の状況等)がある場合において,書面による労使協定があるときは,1年のうち6箇月までは,1箇月の拘束時間の限度を270時間まで延長できます。
(2) 2暦日の拘束時間は21時間以内とされています。
   また,勤務終了後,連続20時間以上の休息時間が必要です。
(3) 車庫待ち等の運転者(顧客の需要に応ずるため常態として車庫等において待機する就労形態のタクシー運転手)については,以上の上限よりも緩い取扱いとなります。
(4) 休日は,休息期間+24時間の連続した時間をいいます。
   そのため,タクシーの隔日勤務者の休日は,休息時間20時間+24時間=44時間以上の連続した時間となります。
(5) 隔日勤務者の場合,出勤日である「出番」及び仕事が終わった後が休みになる「明番」を2回繰り返した後,丸一日が休みになる「公休」を繰り返していくような働き方(5日間に2回,出勤します。)になります(ドライバーズワークHPの「タクシードライバーの勤務体系」参照)。

5 休憩時間
(1) 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」(平成元年3月1日基発第93号)(略称は「93号通達」)に以下の記載があります。
① 自動車運転者の業務は事業場外において行われるものではあるが、通常は走行キロ数、雲煙日報等からも労働時間を算定し得るものであり、一般に法第38条の2の「労働時間を算定し難いとき」という要件には該当しないこと。
   事業場外における休憩時間については、就業規則等に定めた所定の休憩時間を休憩したものとして取り扱うこととしたが、休憩時間が不当に長い場合は歩合給等の賃金体系との関連から休憩時間中も働く可能性があるので、事業場外での休憩時間は、仮眠時間を除き、原則として3時間を超えてはならないものとしたこと。
   なお、手待時間が労働時間に含まれることはいうまでもないこと。
② 自動車道転者の労働時間管理を適正に行うためには、運転日報等の記録の適正な管理によることのほか、運行記録計による記録を自動車運転者個人ごとに管理し、労働時間を把握することも有効な方法であること。
   したがって、労働時間管理が不十分な事業場のうち、車両に運行記録計を装着している事業場に対しては、運行記録計の活用による適正な労働時間管理を行うよう指導するとともに、車両に運行記録計を装着していない事業場に対しては、運行記録計を装着する等により適正な労働時間管理を行うよう指導すること。
   また、昭和63年10月7日の中央労働基準審議会の中間報告においでは、「自動車運転者の労働時間管理を適正に行うため、自動車運転者個人ごとの労働時間等を容易に把握し得る計器の活用が図られることが適当である。また、いわゆる流し営業を主体とするタクシーについては、現在運行記録計の装着を義務付けられていない車両についても、上記のような計器の活用が図られるべきである。」とされているので、留意すること。
(2) 93号通達があることから,隔日勤務のタクシー運転手の場合,休憩時間は仮眠時間を除き,3時間となっています。

6 時間外労働及び休日労働の限度
(1) 時間外労働及び休日労働の拘束時間は1日又は2暦日の拘束時間及び1か月の拘束時間が限度です。
   また,時間外労働及び休日労働を行う場合,労働基準法36条1項に基づく時間外労働及び休日労働に関する協定届を労働基準監督署に届け出る必要があります。
(2) 休日労働は1か月の拘束時間の限度内で2週間に1回が限度です。

7 乗務距離の最高限度
   「タクシー事業に係る運賃制度について(第2回会議(H21.6.4)分)」9頁の「(参考)乗務距離の最高限度等について」によれば,旅客自動車運送事業運輸規則22条2項に基づき地方運輸局長が定めた乗務距離の最高限度は,京都市が365km,大阪市,堺市及び神戸市は350kmとなっています。

8 根拠となる告示等
(1) 根拠となる省令及び解釈通達
① 旅客自動車運送事業運輸規則(昭和31年8月1日運輸省令第44号)
② 旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について(平成14年1月30日制定)
(2) 根拠となる告示及び通達

① 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)
・ 略称は改善基準告示です。
② 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準について」(平成元年3月1日基発第93号)
・ 略称は93号通達です。
③ 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の一部改正について」(平成9年3月11日基発第143号)
・ 略称は143号通達です。
(3) 参考となるHP  
   外部HPの「タクシーの労務管理について考えてみよう」が参考になります。

第6の2 変形労働時間制

1(1) 変形労働時間制は,労働基準法の一部を改正する法律(昭和62年9月26日法律第99号)により,昭和63年4月1日に導入されました。
(2) 変形労働時間制が施行された当時の,昭和63年1月1日付の労働省労働基準局長及び労働省婦人局長通知(昭和63年1月1日基発第1号)が独立行政法人労働政策研究・研修機構HPの「改正労働基準法の施行について」に載っています。

2(1) タクシー会社の場合,就業規則に記載することにより,1か月単位の変形労働時間制(労働基準法32条の2)を採用していることが通常です。
   そのため,1箇月の労働時間が160時間(28日の月),171.4時間(30日の月)又は177.1時間(31日の月)以下であれば,法定時間外労働は存在しないこととなります。
(2) 夜日勤又は隔日勤務の場合,深夜労働は存在しますから,深夜労働に対する割増賃金は必要となります。

3 労働基準法32条の2の定める1箇月単位の変形労働時間制は,使用者が,就業規則その他これに準ずるものにより,1箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し,1週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては,法定労働時間の規定にかかわらず,その定めにより,特定された週において1週の法定労働時間を,又は特定された日において1日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり,この規定が適用されるためには,単位期間内の各週,各日の所定労働時間を就業規則等において特定する必要があります(最高裁平成14年2月28日判決)。

4(1) 労働基準法関係解釈例規(外部ブログの「昭和63年3月14日基発150号 全文を見つけました。」にリンクが張ってあります。)243頁及び244頁には,労働基準法32条の2の「労働時間の特定」に関して以下の問答があります(ただし,①につき,その後に労働基準法の改正があったことから,「46時間の範囲内」とあるのは「40時間の範囲内」に変更しています。)。
① 労働時間の特定
   一箇月単位の変形労働時間制を採用する場合には,就業規則その他これに準ずるもの(改正前の労働基準法第32条第2項における「就業規則その他」と内容的に同じものである。以下同じ。)により,変形期間における各日,各週の労働時間を具体的に定めることを要し,変形期間を平均し40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しないものであること。
   なお,法第89条第1項は就業規則で始業及び就業の時刻を定めることと規定しているので,就業規則においては,各日の労働時間の長さだけではなく,始業及び終業の時刻も定める必要があるものであること。
② 労働時間の特定の程度
問 勤務ダイヤによる一箇月単位の変形労働時間制を採用する場合,各人ごとに,各日,各週の労働時間を就業規則に定めなければならないか。それとも,就業規則では,「始業,終業時刻は,起算日前に示すダイヤによる」とのみ記載し起算日前に勤務ダイヤを示すことで足りるか。
答 就業規則においてできる限り具体的に特定すべきものであるが,業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合には,就業規則において各直勤務の始業終業時刻,各直勤務の組合せの考え方,勤務割表の作成手続及びその周知方法等を定めておき,それにしたがって隔日ごとの勤務割は,変形労働時間の開始前までに具体的に特定することで足りる。
③ 特定された日又は週
問 法第32条の2及び32条の4の特定された日又は週とは如何なる意味か。
答 法第32条の2及び第32条の4の規定に基づき就業規則等によってあらかじめ8時間を超えて労働させることが定められている日又は1週間の法定労働時間を超えて労働させることが具体的に定められている週の意味である。
(2) ②につき,勤務ダイヤはシフト制のことであり,勤務割はシフトのことであり,各直勤務は,昼日勤,夜日勤,隔日勤務といった各種勤務形態のことです(質問広場HPの「労働基準法/1箇月単位の変形労働時間制について」参照)。

5 厚生労働省HPの「1か月単位の変形労働時間制」では,労使協定又は就業規則等で定める事項は以下のとおりとされており,昭和63年3月14日付の通達よりも緩やかな基準になっています。
①   対象労働者の範囲
   法令上、対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲は明確に定める必要があります。
②   対象期間および起算日
   対象期間および起算日は、具体的に定める必要があります。
(例:毎⽉1日を起算日とし、1か⽉を平均して1週間当たり40時間以内とする。)
   なお、対象期間は、1か⽉以内の期間に限ります。
③   労働日および労働日ごとの労働時間
   シフト表や会社カレンダーなどで、②の対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。その際、②の対象期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないよう設定しなければなりません(「3 労働時間の計算方法」参照)。
   なお、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできません。
④   労使協定の有効期間
   労使協定を定める場合、労使協定そのものの有効期間は②の対象期間より⻑い期間とする必要がありますが、1か⽉単位の変形労働時間制を適切に運⽤するためには、3年以内程度とすることが望ましいでしょう。

6 変形労働時間制は労働基準法32条の例外にすぎませんから,就業規則で法定休日と定められている日に働いた場合,休日労働となります。

第7の1 時間外労働,休日労働及び深夜労働

1 総論
(1) 使用者は,労働者に時間外労働,休日労働,深夜労働を行わせた場合,法令で定める割増率以上の率で算定した割増賃金を支払う必要があります(時間外労働又は休日労働につき労働基準法37条1項・労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成6年1月4日政令第5号),深夜労働につき労働基準法37条4項。)。
(2)ア 割増賃金率は時間外労働が25%以上(1か月60時間を超える時間外労働については50%以上),休日労働が35%以上,深夜労働が25%以上です。
イ 休日労働の割増賃金が35%となったのは平成6年4月1日です。
ウ   1か月60時間を超える時間外労働の割増賃金が50%となったのは平成22年4月1日です(厚生労働省HPの「労働基準法の一部改正法が成立~平成22年4月1日から施行されます~」参照)。
(3) 割増賃金は,1時間当たりの賃金額×時間外労働,休日労働又は深夜労働を行わせた時間数×割増賃金率で計算されます。
(4) 労働基準法37条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは,使用者に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働等を抑制し,もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに,労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解されています(最高裁平成29年7月7日判決。なお,先例として,最高裁昭和47年4月6日判決参照)。
(5) 外部HPの「正しく計算されていますか?~残業代の計算方法」のほか,「従業員の未払い残業代請求における企業側の反論の重要ポイントを弁護士が解説」が参考になります。
(6) 退職労働者の賃金に係る遅延利息は年14.6%となっています(賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条)。
(7)ア 賃金請求権の消滅時効は2年であり,退職金請求権の消滅時効は5年です(労働基準法115条)。
イ 昭和63年4月1日施行の労働基準法の一部を改正する法律(昭和62年9月26日法律第99号)による改正前は,退職金請求権の消滅時効も2年でした。
(8) 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)等の解説が厚生労働省HPの「労働時間等の設定の改善」に載っています。
(9) 残業代請求請求訴訟を提起した場合,京都第一法律事務所が作成した「きょうとソフト」を使用するように裁判所からいわれることがあります(ダウンロードページにつき,京都第一法律事務所HPの「残業代計算ソフト(エクセルシート)「給与第一」」参照)。
   ただし,変形労働時間制には対応していません。

2 時間外労働
(1)ア 1日8時間,1週間40時間が法定労働時間です(労働基準法32条)から,それを超過した分が法定時間外労働となります。
イ 法定労働時間は,週48時間(昭和22年)→週46時間(昭和63年)→週44時間(平成3年)→原則として週40時間(平成6年)→週40時間(平成9年)と推移しています(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。
(2)ア 就業規則等で定められた労働時間が所定労働時間です。
   そして,所定労働時間を超過するものの,法定労働時間を超過しない場合,法内時間外労働(法定内残業)となります。
イ いわゆる残業は所定外労働のことであり,法内時間外労働及び法定時間外労働の両方が含まれます。
(3) 25%以上の割増賃金が発生するのは法定時間外労働だけです。

3 休日労働
(1) 休日労働には,割増率が35%となる法定休日労働と,割増率が25%又は0%となる法定外休日労働があります。
(2)ア   就業規則で法定休日が定められている場合,その日が法定休日となります(労働基準法35条1項参照)。
   そのため,例えば,就業規則で日曜日が法定休日と定められている場合,日曜日に働いた分が法定休日労働となります。
イ   就業規則で法定休日が特定されていない場合で,歴週(日~土)の日曜日及び土曜日の両方に労働した場合,当該歴週において後順に位置する土曜日における労働が法定休日労働となります(厚生労働省HPの「改正労働基準法に係る質疑応答」(平成21年10月5日付)のA10参照)。
(3)ア 就業規則等で定められた休日に働いた分のうち,法定休日労働に当たらないものが法定外休日労働となります。
イ 法定外休日労働のうち,1週間40時間を超える分については法定時間外労働(法定外残業)として割増率が25%となり,1週間40時間を超えない分については法内時間外労働(法定内残業)として割増率が0%となります。
(4)   予め休日と定められていた日を労働日とし,その代わりに他の労働日を休日としたという振替休日の場合,あらかじめ休日と定められた日が「労働日」となり,その代わりとして振り返られた日が「休日」となりますから,もともとの休日の労働させた日については「休日労働」とはならず,休日労働に対する割増賃金の支払義務は発生しません。
   これに対して休日労働が行われた後に,その代償としてその後の特定の労働日を休日としたという代休の場合,前もって休日を振り替えたことになりませんから,休日労働に対する割増賃金の支払義務が発生します(厚生労働省HPの「振替休日と代休の違いは何か。」参照)。

4 深夜労働
(1) 1日8時間以内又は1週間40時間以内であっても,午後10時から午前5時の時間帯に働いた場合,深夜労働時間となります。
(2) 法定時間外労働が深夜労働となった場合,割増率は50%以上となり,休日労働が深夜労働となった場合,割増率は60%以上となります。

5 割増賃金の基礎となる賃金
(1) 割増賃金の基礎となるのは,所定労働時間の労働に対して支払われる1時間当たりの賃金額です。
   例えば,月給制の場合,各種手当も含めた月給を1か月の所定労働時間で割って,1時間当たりの賃金額を算出します。
   その際,以下の①ないし⑦は,労働と直接的な関係が薄く,個人的事情に基づいて支給されていることなどから,基礎となる賃金から除外できます(労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条)。
① 家族手当
② 通勤手当
③ 別居手当
④ 子女教育手当
⑤ 住宅手当
⑥ 臨時に支払われた賃金
⑦ 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
(2) 厚生労働省HPの「割増賃金の基礎となる賃金とは?」が参考になります。

第7の2 時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)

1(1)ア 使用者が労働者に時間外労働又は休日労働を行わせるためには,労働基準法36条に基づき,時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)を労働組合又は労働者の過半数代表者(労働基準法施行規則6条の2)との間で締結し,36協定を労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法36条1項)。
イ この場合における休日労働は,法定休日における労働のことです。
(2) 使用者は,36協定をする場合,時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由,業務の種類,労働者の数並びに一日及び一日を超える一定の期間についての延長することができる時間又は労働させることができる休日について,協定しなければなりません(労働基準法施行規則16条1項)。 
(3) 36協定は就業規則と同様に,①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること,②書面を交付すること等の方法により,労働者に周知する必要があります(労働基準法106条1項・労働基準法施行規則52条の2)。

2(1) 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準(平成10年10月28日労働省告示第154号)(通称は「限度基準告示」です。)によれば,一般の労働者の場合,延長時間の限度は以下のとおりです。
1週間当たり 15時間
2週間当たり 27時間
4週間当たり 43時間
1か月当たり 45時間
2か月あたり 81時間
3か月当たり120時間
1年間当たり360時間
(2) 臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合,特別条項付き協定を結べば,限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。
   ただし,特別の事情は,臨時的なものに限られるのであって,例えば,予算・決算業務,ボーナス商戦に伴う業務の多忙,納期のひっ迫,大規模なクレームへの対応,機械のトラブルへの対応があります。
(3) 限度基準告示が制定される以前は,昭和57年制定の目安指針があるだけでした(厚生労働省HPの「労働時間制度の変遷」参照)。

3 労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき,使用者が,当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し,これ
を所轄労働基準監督署長に届け出た場合において,使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,それが具体的労働契約の内容をなすから,右就業規則の規定の適用を受ける労働者は,その定めるところに従い,労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負います(最高裁平成3年11月28日判決。なお,先例として,最高裁大法廷昭和43年12月25日判決最高裁昭和61年3月13日判決参照)。

4 日本労働組合総連合会(連合)HP「世論調査」に掲載されている「36協定に関する調査2017」(2017年7月7日掲載)には以下の趣旨の記載があります。
① 「残業を命じられることがある」6割強、1ヶ月の残業時間 平均22.5時間
② 「会社が残業を命じるためには36協定の締結が必要」
③ 認知率は5割半ば、20代では半数を下回る結果に
④ 勤め先が36協定を「締結している」4割半ば、
⑤ 「締結していない」2割弱、「締結しているかどうかわからない」4割弱
⑥ 心身の健康に支障をきたすと感じる1ヶ月の残業時間 平均46.2時間

5 厚生労働省HPの「時間外労働の限度に関する基準」が参考になります。

第7の3 歩合給

1 歩合給は出来高払制その他請負制によって賃金が定められている場合に該当しますから,歩合給時間額は,歩合給を総労働時間で除することで計算します(労働基準法施行規則19条1項6号)。
   また,歩合給に対する時間外手当は,歩合給時間額×時間外労働時間×25%を支給すれば足りますし,歩合給に対する休日手当は,歩合給時間額×休日労働時間×35%を支給すれば足ります(外部HPの「歩合給制」参照)。

2 タクシー運転手に対する賃金が月間水揚高に一定の歩合を乗じて支払われている場合に,時間外及び深夜の労働を行った場合にもその額が増額されることがなく,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないときは,右歩合給の支給によって労働基準法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることはできません(高知県観光事件に関する最高裁平成6年6月13日判決)。

第8の1 就業規則

1 就業規則の作成義務
   常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成し,労働基準監督署に届け出なければなりませんし,絶対的記載事項又は相対的記載事項を変更した場合も同様です(労働基準法89条柱書)。

2 就業規則の記載事項
(1) 就業規則の絶対的記載事項は以下のとおりです。
① 始業及び終業の時刻,休憩時間,休日,休暇,就業時転換に関する事項
② 賃金の決定,計算及び支払の方法,賃金の締め切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
③ 退職に関する事項(解雇事由を含む。)
(2) 就業規則の相対的記載事項は以下のとおりです。
① 退職手当について,適用される労働者の範囲,決定,計算及び支払の方法並びに支払の時期に関する事項
② 臨時の賃金及び最低賃金額に関する事項
③ 食費、作業用品その他の労働者の負担に関する事項
④ 安全及び衛生に関する事項
⑤ 職業訓練に関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑦ 表彰・制裁の定めについてその種類・程度に関する事項
(3) 労働基準法89条に列挙された事項以外の事項であっても,使用者は就業規則に任意の事項を記載することができます。

3 就業規則の作成手続
(1)ア 使用者は,就業規則の作成又は変更について,当該事業場に,労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合,労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければなりません(労働基準法90条1項)。 
イ 労働者の過半数を代表する者は以下のいずれにも該当する者であり(労働基準法施行規則6条の2第1項)
① 管理監督者(労働基準法41条2号)ではないこと
② 労使協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
→ 「過半数代表者の選出方法として、(a)その者が労働者の過半数を代表して労使協定を締結することの適否について判断する機会が当該事業場の労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、(b)当該事業場の過半数の労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続が採られていること、すなわち、労働者の投票、挙手等の方法により選出されること」とされています(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の締結の適正手続」参照)。
ウ 使用者は,労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働基準法施行規則6条の2第3項)。 
(2) 使用者は,労働基準監督署に就業規則を届ける際,労働組合又は労働者の過半数代表者の意見を記した書面を添付しなければなりません(労働基準法90条2項)。
   また,その書面は,労働者を代表する者の署名又は記名押印のあるものでなければなりません(労働基準法施行規則49条2項)。

4 就業規則の周知及びその法的効果
(1) 使用者は,就業規則を以下の方法により,労働者に周知させなければなりません(労働基準法106条1項,労働基準法施行規則52条の2)。
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること。 
② 書面を労働者に交付すること。 
③ 磁気テープ,磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し,かつ,各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。 
(2) 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合,労働契約の内容は,別段の合意がない限り,その就業規則で定める労働条件によるものとされます(労働契約法7条)。
(3) 平成24年8月10日付の労働契約法の施行通達10頁及び11頁には以下の記載があります。
ア 法第7条本文の「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなるものであること。
   就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第7条本文によっても労働契約の内容とはならないものであること。
イ 法第7条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第89条の「就業規則」と同様であるが、法第7条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第89条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれるものであること。
ウ 法第7条の「周知」とは、例えば、
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
② 書面を労働者に交付すること
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
   等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものであること。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第7条の「周知させていた」に該当するものであること。
   なお、労働基準法第106条の「周知」は、労働基準法施行規則第52条の2により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、法第7条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものであること。

5 就業規則に基づく懲戒
(1) 使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します(最高裁平成15年10月10日判決。なお,先例として,最高裁昭和54年10月30日判決参照)。
(2) 就業規則が法的規範としての性質を有する(最高裁大法廷昭和43年12月15日判決)ものとして,拘束力を生ずるためには,その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要します(最高裁平成15年10月10日判決)。
(3) 使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合,その権利を濫用したものとして,当該懲戒は無効となります(労働契約法15条)。

6 就業規則の変更
(1) 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,労働契約において別段の合意が存在していた場合を除き,当該変更後の就業規則に定めるところによることとなります(労働契約法10条)。
(2) 55歳から60歳への定年延長に伴い従前の58歳までの定年後在職制度の下で期待することができた賃金等の労働条件に実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更が有効とされた事例として,第四銀行事件に関する最高裁平成9年2月28日判決があります。
(3) 就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については,当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく,当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様,当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,判断されるべきものです(最高裁平成28年2月19日判決)。
(4) 外部HPの「労働条件の不利益変更」が参考になります。

7 就業規則で定める基準に達しない労働条件
   就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効となります。この場合,無効となった部分は,就業規則で定める基準によります(労働契約法12条)。

8 公序良俗違反で就業規則が無効となった事例
   会社がその就業規則中に定年年齢を男子60歳,女子55歳と定めた場合において,担当職務が相当広範囲にわたっていて女子従業員全体を会社に対する貢献度の上がらない従業員とみるべき根拠はなく,労働の質量が向上しないのに実質賃金が上昇するという不均衡は生じておらず,少なくとも60歳前後までは男女とも右会社の通常の職務であれば職務遂行能力に欠けるところはなく,一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないなど,原判示の事情があって,会社の企業経営上定年年齢において女子を差別しなければならない合理的理由が認められないときは,右就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は,性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効です(最高裁昭和56年3月24日判決)。 

第8の2 労働協約及びユニオン・ショップ協定

1 労働協約
(1)ア 労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は,書面に作成し,両当事者が署名し,又は記名押印することによってその効力を生じます(労働組合法14条)。
イ 労使間の合意文書の表題が「覚書」,「了解事項」等の名称であっても,労働組合法14条に該当すれば,労働協約となります。
   また,団体交渉議事録であっても,労使双方が署名したものであれば,その内容によっては労働協約と解されることがあります。
(2) 労働協約には,3年を超える有効期間の定めをすることができませんし(労働組合法15条1項),3年を超える有効期間の定めをした労働契約は,3年の有効期間を定めた労働協約とみなされます(労働組合法15条2項)。
(3) 有効期間の定めがない労働協約は,90日前に予告することで解約できます(労働組合法15条3項及び4項)。
(4) 労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となります。この場合において無効となった部分は,基準の定めるところによります。労働契約に定めがない部分についても同様です(労働組合法16条)。 
(5) 一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至った場合,当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても,当該労働協約が適用されます(労働組合法17条)。
   ただし,労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容,労働協約が締結されるに至った経緯,右労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし,労働協約を右労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは,その効力を右労働者に及ぼすことはできません(最高裁平成8年3月26日判決)。
(6) 就業規則が法令又は労働協約に反する場合,法令又は労働協約が優先します(労働契約法13条)。
(7) 労働協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものである場合,労働協約の規範的効力が否定されることがあります(朝日火災海上保険事件に関する最高裁平成9年3月27日判決参照)。

2 ユニオン・ショップ協定
(1) ユニオン・ショップ協定は,労働協約の一種でありますところ,労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に,使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものです。
(2) ユニオン・ショップ協定のうち,締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが,他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は,民法90条により無効です(日本シェーリング事件に関する最高裁平成元年12月14日判決)。

第8の3 労使協定と労働協約の違い

1(1) 労使協定は,労働協約と同様,労働者代表と使用者間の交渉によって締結される合意文書ですし,その内容は労働条件や労働者の待遇についてのものです。
(2) 労使協定は,労働協約の形式で締結できます(労働基準法施行規則16条2項,24条の2第2項参照)から,労働組合法14条の要件を満たして締結された場合,労働協約としての効力を有することとなります。

2 労使協定は以下の点で労働協約と異なります(外部HPの「労働協約と労使協定」参照)。
① 趣旨・目的
・   労働協約は,組合員を代表する労働組合が,労働者と使用者間に存在する交渉力格差を集団的交渉によって解消し,よりよい労働条件を獲得しようとするものであり,組合員の労働契約の規律を本来の目的としています。
   労働組合が労働協約によって労働条件を独自に設定する自由(協約自治)は憲法28条により保障され,労働協約には労働組合法16条によって規範的効力が付与されています。
・ 労使協定は,国家が定める最低労働条件を全面的・一律に適用することが実務上不都合と考えられる事項について,事業場の全従業員のために最低労働条件規制の例外を認めるための手段として,法政策上導入されたものです。
   例えば,労働時間は,1日8時間・週40時間が上限である(労働基準法32条)が,いついかなる場合もこの法定労働時間を超えてはならないとすると,業務上の必要性に対応できず,また労働者の意向にも反することがあるため,現場の労使の判断を尊重する趣旨で,労働者代表との合意(労使協定)による労働時間延長が許容されているのである(労働基準法36条1項)。
② 締結主体
・ 労働協約は労働組合(労働組合法2条)が締結主体であり,多数組合(過半数組合)か少数組合かに関わらず,すべての労働組合が締結権限を持ちます。
・ 労使協定は,当該事業場で過半数を組織する労働組合が存在する場合にはその労働組合,そうした労働組合が存在しない場合には,過半数を代表する者(過半数代表者)が締結主体となり,「過半数」の代表であることが要件です。
   ただし,労使協定は,労働組合が組織されていない事業場でも,過半数代表者を1名選出すれば,その者が締結できるという点では,締結主体の選択肢が広いです。
③ 効力要件
・ 労働協約の効力要件は書面で作成されていること及び両当事者の署名又は記名押印です(労働組合法14条)。
・ 労使協定の効力要件は書面で作成されていることのほか,法所定の事項が記載されていることです。
   また,36協定のように,一部の労使協定については,労働基準監督署への届出が効力要件とされています。
④ 効力範囲
・ 労働協約は原則として当該協約を締結した組合の組合員にのみ適用されます。
・ 労使協定は当該事業場の全労働者に適用することが予定されています。
⑤ 規範的効力の有無
・ 労働協約は労働契約を規律する規範的効力を有します(労働組合法16条)。
・ 労働基準法上の労使協定の効力は,その協定に定めるところによって労働させても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものであり,労働者の民事上の義務は,当該協定から直接生じるものではなく,労働協約,就業規則等の根拠が必要です(昭和63年1月1日基発第1号の「労使協定の効力」参照)。

第9 労働者名簿,賃金台帳及び記録の保存

1 労働者名簿
(1) 使用者は,各事業場ごとに労働者名簿を各労働者について調製し、労働者の氏名,生年月日,履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければなりませんし(労働基準法107条1項),記入すべき事項に変更があった場合,遅滞なく訂正しなければなりません(労働基準法107条2項)。
(2)ア 労働基準法施行規則53条1項によれば,労働者名簿には労働者の氏名,生年月日及び履歴のほか,以下の事項を記載しなければなりません。
① 性別
② 住所
③ 従事する業務の種類
④ 雇入の年月日
⑤ 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては,その理由を含む。)
⑥ 死亡の年月日及びその原因
イ 常時30人未満の労働者を使用する事業においては,従事する業務の種類を記入することを要しません(労働基準法施行規則53条2項)。

2 賃金台帳
(1) 使用者は,各事業場ごとに賃金台帳を調製し,賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません(労働基準法108条)。
(2)ア 労働基準法施行規則54条1項によれば,賃金台帳には労働者各人別は以下の事項を記入しなければなりません。
① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数
⑦ 基本給,手当その他賃金の種類ごとにその額
⑧ 労働基準法24条1項によって賃金の一部を控除した場合には,その額
イ 延長した労働時間数,休日労働時間数及び深夜労働時間数については,就業規則に基づいて算定する労働時間数をもってこれに代えることができます(労働基準法施行規則54条1項)。
(3) 賃金台帳の様式は,労働基準法施行規則55条及び様式第20号によって定められています(厚生労働省HPの「労働基準法関係主要様式」参照)。
(4) 使用者は,労働者名簿及び賃金台帳をあわせて調製することができます(労働基準法施行規則55条の2)。

3 記録の保存
(1) 使用者は,労働者名簿,賃金台帳及び雇入,解雇,災害補償,賃金その他労働関係に関する重要な書類を3年間保存しなければなりません(労働基準法109条)。 
(2) 記録の保存期間の始期は以下のとおりです(労働基準法施行規則56条)。
① 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日 
② 賃金台帳については、最後の記入をした日 
③ 雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日 
④ 災害補償に関する書類については、災害補償を終つた日 
⑤ 賃金その他労働関係に関する重要な書類については、その完結の日

4 労働基準法施行規則が定める様式と異なる様式を用いてもいいこと
   労働基準法施行規則が定める労働者名簿,賃金台帳等に用いるべき様式は,必要な事項の最小限度を記載すべきことを定めるものであって,横書き,縦書きその他異なる様式を用いることを妨げるものではありません(労働基準法施行規則59条の2第1項)。

第10 国際自動車に関する訴訟等

1 国際自動車第1次訴訟
(1) 国際自動車第1次訴訟に関する最高裁平成29年2月28日判決の裁判要旨は以下のとおりであり,国際自動車の賃金規程が公序良俗に違反するとして無効であるとした東京高裁平成28年4月21日判決(第一審は東京地裁平成27年7月16日判決(担当部は東京地裁11民))を破棄差戻しとしました。
   歩合給の計算に当たり売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の賃金規則上の定めが公序良俗に反し無効であると判断するのみで,当該賃金規則における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かや,そのような判別をすることができる場合に,当該賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が同条その他の関係法令に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく未払賃金の請求を認容すべきものとした原審の判断には,割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果,審理を尽くさなかった違法がある。 
(2) 国際自動車の賃金規則の給料計算は簡略化すれば,給料=基本給+歩合給+割増金であり,歩合給=(揚高-控除額)×歩率-割増金でした。
   そのため,給料=基本給+((揚高-控除額)×歩率-割増金)+割増金=基本給+(揚高-控除額)×歩率となる結果,時間外労働に基づく割増金がいくら増えても給料が変わらないというものでした(外部HPの「残業代請求訴訟(国際自動車事件)最高裁平成29年2月28日判決」参照)。

2 国際自動車第2次訴訟
   国際自動車第2次訴訟に関する東京地裁平成28年4月21日判決(担当部は東京地裁19民)は,国際自動車の賃金規定は労働基準法37条及び公序良俗に違反しないとしました(外部HPの「国際自動車(第2・歩合給等)事件」参照)。

3 関連判例
   最高裁平成6年6月13日判決最高裁平成24年3月8日判決及び最高裁平成29年7月7日判決があります。

4 東京地裁労働専門部等
(1)   東京地裁の場合,11民,19民及び36民が労働専門部となっています(東京地裁HPの「労働審判手続の迅速・適正な進行へのご協力のお願い」参照)。
(2) 全国の地裁の専門部については,「現職裁判官の分布表,全国の地裁の本庁及び支部ごとの裁判官数」を参照してください。

第11 最低賃金

1(1) 使用者は,最低賃金の適用を受ける労働者に対し,その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法4条1項)。
(2) 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは,その部分については無効となります。この場合,無効となった部分は,最低賃金と同様の定をしたものとみなされます(最低賃金法4条2項)。
(2) 最低賃金の適用を受ける使用者は,当該最低賃金に関する以下の事項を,常時作業場の見やすい場所に掲示し,又はその他の方法で,労働者に周知させるための措置をとらなければなりません(最低賃金法8条,最低賃金法施行規則6条)。
① 適用を受ける労働者の範囲及びこれらの労働者に係る最低賃金額
② 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
③ 効力発生年月日

2(1) 厚生労働省に中央最低賃金審議会が置かれ,都道府県労働局に地方最低賃金審議会が置かれています(最低賃金法20条)。
(2) 最低賃金審議会は,専門部会を置いたうえで,最低賃金の決定又はその改正の決定について調査審議を行います(最低賃金法25条2項,最低賃金審議会令6条)。
(3) 中央最低賃金審議会の議事録,資料等及び開催案内は,厚生労働省HPの「中央最低賃金審議会」に載っています。
(4) 平成28年7月26日付の「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告」が示した「平成28年度地域別最低賃金額改定の引上げ額の目安」につき,大阪府は25円でした。

3(1) 大阪府最低賃金の推移は以下のとおりです(大阪労働局HPの「大阪府最低賃金額の推移」参照)。
25年10月18日~:時間額819円(25年9月18日発表)
26年10月 5日~:時間額838円(26年9月 5日発表)
27年10月 1日~:時間額858円(27年8月 6日発表)
28年10月 1日~:時間額883円(28年8月23日発表)
(2) 大阪府最低賃金は,大阪府最低賃金審議会の大阪労働局長に対する答申を経た後,大阪労働局労働基準部賃金課によって発表されています。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。