自賠責保険の被害者請求及び加害者請求

第1 自賠責保険の請求手続の種類等

1 自賠責保険の請求手続の種類
(1) 自賠責保険における保険金等(=加害者請求における「保険金」,被害者請求における「損害賠償額」。自賠法16条の2参照)の請求の手続には以下のものがあり,①及び②をあわせて「非一括払事案」といわれることがあります。
① 加害者請求(自賠法15条)
    加害者が被害者に対して損害賠償を行った後,加害者が自賠責保険会社に対して保険金の支払を請求する方法です。
    加害者請求は,自賠責保険が原則とする請求方法であります(最高裁昭和39年5月12日判決)ものの,実務上は,被害者請求又は一括払事案を利用することがほとんどです。
② 被害者請求(自賠法16条1項)
    被害者が,加害者の自賠責保険会社に対して直接,損害賠償額の支払を請求する方法です。
特に問題なければ,請求してから1ヶ月程度で支払を受けることができます。
③ 一括払事案(「任意一括」ともいいます。)
    加害者の任意保険会社が被害者に対して自賠責保険金及び任意保険金の合計額を支払い,その後,任意保険会社が,加害者の代理人として,自賠責保険会社に対して自賠責保険金の支払を請求する方法です。
    加害者の任意保険会社が治療費等を立替払してくれている場合,一括払事案として取り扱われているということです。
(2) 被害者請求を弁護士に依頼する場合,実印を付いた委任状及び印鑑登録証明書が必要となります。
(3) 交通事故110番のHPに「自賠責保険に対する被害者請求の書式」が掲載されています。
   また,株式会社トータルマネジメントオフィスHPの「自賠責請求関連ダウンロード」に,富士火災,三井住友海上,損保ジャパン日本興亜及び東京海上日動に対する自賠責保険請求書の用紙が掲載されています。
(4) 事故発生状況報告書の記載例が,外部HPの「事故発生状況報告書」に掲載されています。
   ただし,警察が作成した実況見分調書がある場合,事故発生状況報告書の作成を省略できることが多いです。
(5) 自賠責保険の仕組みについては,損害保険料率算出機構(略称は損保料率機構又はGIROJです。)のディスクロージャー資料として掲載されている「自賠責保険(共済)損害調査の仕組み」が参考になります。
 
2 被害者請求及び一括払いの比較
(1) 被害者請求の場合,①被害者が自分で必要書類等を用意する必要がある点で結構な手間がかかるものの,②後遺障害の審査に関する進捗状況を確認できますし,③自賠責保険金は直接,被害者又は代理人弁護士の預貯金口座に振り込まれます。
  これに対して一括払の場合,①加害者側の任意保険会社が必要書類を用意してくれますものの,②後遺障害の審査に関する進捗状況を確認できませんし,③被害者に不利な意見書が任意保険会社の顧問医によって作成されることがありますし,④自賠責保険金は被害者の預貯金口座には振り込まれず,示談の際,任意保険会社が被害者に支払うこととなります。
(2) 被害者請求により後遺障害の等級認定申請をした場合,レントゲン検査,CT検査,MRI検査等により撮影した画像の全部を病院から取り寄せた上で,自賠責保険の損害調査事務所に送付する必要があります。
  通常は,自賠責保険会社に対する被害者請求の受付が終了した後に送られてくる,損害保険料率算出機構の自動車損害調査事務所からの「自賠責保険の損害調査資料提出のご依頼」(画像等取付けのご依頼)に基づいて,画像を宅配便で送付すれば足ります。 

第2の1 被害者請求

1 自賠責保険の保険金額と支払金額の関係
   自賠責保険の場合,支払の最高限度額である「保険金額」と,実際の支払金額は必ずしも一致しません。
   ただし,後遺障害事案なり死亡事案なりの場合,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多く(「保険金額超過事故」とか,「アマウントオーバー」といいます。),その場合は保険金額と同一の額が支払われることとなります。
 
2 事前認定を受けている場合の取扱い
(1) 一括払事案において,被害者が加害者の任意保険会社との間で示談が成立していない場合であっても,任意保険会社が損害保険料率算出機構に対し,後遺障害の等級認定を事前に取得していれば,被害者としては,自賠責保険会社に対し,被害者請求(自賠法16条1項)をすることで,自賠責保険に基づく支払だけを先に受けることができます。
  この場合,被害者は,加害者の自賠責保険会社に対し,所定の添付書類と一緒に,自賠責保険の支払請求書兼支払指図書を提出することになります(自賠法施行令3条参照)。
(2) 任意保険が付いている場合,被害者は,任意保険会社との間で,自賠責保険及び任意保険を抱き合わせで保険金額の交渉をしますから,自賠責保険金の支払額にこだわる必要はありません。
   任意保険会社が保険金を支払えば,そのうち自賠責保険分を自賠責保険会社に求償します(自賠法17条に基づく加害者請求)ところ,これは両方の会社の清算手続の問題に過ぎません。
 
3 加害者に対する損害賠償請求権と被害者請求権は別個独立のものであること
   被害者が保有者又は運転者(=加害者側)に対し,自賠法3条又は民法709条に基づき有する損害賠償請求権と,自賠責保険会社に対し,自賠法16条1項に基づき有する損害賠償額の支払請求権は別個独立のものとして併存している権利です。
  そして,被害者はこれにより二重に支払を受けることはできませんが,特別の事情のない限り,自賠責保険会社から受けた支払額の内容と牴触しない範囲では,加害者側に対し財産上又は精神上の損害賠償を請求できます(最高裁昭和39年5月12日判決)。
 
4 自賠責保険に関する遅延損害金
(1) 自賠法16条1項に基づく被害者の自賠責保険会社に対する直接請求権は,被害者が保険会社に対して有する損害賠償請求権であって,保有者の保険金請求権の変形ないしそれに準ずる権利ではありませんから,自賠責保険会社の被害者に対する損害賠償債務は商法514条所定の「商行為によって生じた債務」には当たりません。
   そのため,自賠責保険会社の遅延損害金の利率は,民法419条1項本文・404条に基づき,年5%となります(最高裁昭和57年1月19日判決参照)。
(2) 自賠責保険会社は,自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払の請求があった後,当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは,遅滞の責任を負いません(自賠法16条の9第1項)。
   そのため,その限度で,最高裁昭和61年10月9日判決(先例として,最高裁昭和39年5月12日判決)の判断内容は修正されています。
(3) 実務上,自賠責保険会社に対して遅延損害金を請求する場合,訴訟提起する必要がありますものの,逸失利益が小さくなる65歳以上の年金受給者の場合を除き,遅延損害金を付けなくても,「支払基準」で計算される損害額が保険金額を超えることが多いですから,訴訟提起する実益がありません。
   また,自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されます(最高裁平成18年3月30日判決参照)から,被害者の過失が大きい場合,訴訟提起する実益がありません。
(4) 訴訟提起をした場合であっても,保険金額の上限(自賠法13条1項・自賠法施行令2条)及び休業損害の上限(1日につき1万9000円であることにつき自賠法16条の2・自賠法施行令3条の2)の適用があります。
 
5 被害者請求権が消滅する場合
(1) 自賠法3条による被害者の保有者に対する損害賠償債権及び保有者の被害者に対する損害賠償債務が同一人に帰したときには,自賠法16条1項に基づく被害者の保険会社に対する損害賠償額の支払請求権は消滅します(最高裁平成元年4月20日判決)。
(2) 自賠法16条1項に基づく損害賠償額の支払請求権(=被害者請求権)は,債権者による差押えが禁止されています(自賠法18条)。
   しかし,交通事故の被害者が保有者(通常は加害者)に対して有する損害賠償請求権について差押えされた上で転付命令まで発令された場合,被害者は,転付された債権額の限度において被害者請求権を失います(最高裁平成12年3月9日判決)。

第2の2 自賠責保険各社の被害者請求の連絡先(請求先)

1 私の取扱い経験では,自賠責保険各社の被害者請求の連絡先(請求先)は以下のとおりです。
(1) 東京海上日動火災保険株式会社
〒540-8701
大阪市中央区城見2-2-53
大阪東京海上日動ビル21階
東京海上日動火災保険株式会社
大阪自動車損害サービス部損害サービス第三課自賠責コーナー
電話:06-6910-5263
→ 東京海上日動HPの「損害サービス拠点一覧 都道府県:大阪」によれば,数多くの担当部署の一つに過ぎません。

(2) 日新火災海上保険株式会社
〒330-9311
さいたま市浦和区上木崎2-7-5
日新火災海上保険株式会社
自賠責損害サービスセンター
電話:048-834-2577
→ 電話番号だけは日新火災海上HPの「店舗の一覧」に書いてあります。

(3) 三井住友海上火災保険株式会社
〒540-8677
大阪市中央区北浜4-3-1
三井住友海上火災保険株式会社
関西企業自動車損害サポート部第一保険金お支払センター
→ 三井住友海上HPの「国内ネットワーク(2016年7月1日現在)」によれば,数多くの担当部署の一つに過ぎません。

(4) あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
〒530-8555
大阪市北区西天満4-15-10
あいおいニッセイ同和損保フェニックスタワー
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
大阪企業サービスセンター
電話:06-6363-3304
→ あいおいニッセイ同和損保HPの「店舗一覧」(大阪府)によれば,数多くの担当部署の一つに過ぎません。

(5) 損害保険ジャパン日本興亜株式会社
〒541-0057
大阪市中央区久宝寺町3-6-1
本町南ガーデンシティ15階
損害保険ジャパン日本興亜株式会社
大阪自動車保険金サービス部 自賠責保険金サービス課
電話:06-4704-2037
→ 損保ジャパン日本興亜HPの「保険金サービス拠点のご案内 大阪」に書いてあります。

(6) 富士火災海上保険株式会社
〒564-0051
大阪府吹田市豊津町9-1
パシフィックマークス江坂ビル4階
富士火災海上保険株式会社
関西第一損害サービス本部自賠責サービスセンター
→ 関西第一損害サービス本部の一部署と思いますが,なぜかHPには書いてありません。

2 加害者が加入している自動車保険のタイプ等によって,自賠責保険会社の担当部署の連絡先が変わると思いますから,一括払いをしている任意保険会社に問い合わせたり,自賠責保険会社の上記の連絡先に電話又は手紙で問い合わせたりするなどして,必ず正確な連絡先を確認して下さい。


第3 加害者請求

1 加害者請求の趣旨
自賠法15条は,自動車損害賠償責任保険の被保険者は被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度においてのみ保険会社に対して保険金の支払を請求することができる旨定めています。
その趣旨は,交通事故の加害者である被保険者が保険金を受け取りながらこれを被害者に対する損害賠償債務の履行に充てず,被害者が現実に損害賠償を受けることができない事態が生ずるのを未然に防止し,もって被害者の保護を図る点にあります(最高裁平成7年4月25日判決)。

2 示談成立は不可欠の条件ではないこと
加害者請求の場合も被害者請求の場合も,加害者と被害者との間に示談が成立するなどして,法律上の損害賠償責任の額が確定していることは不可欠の条件とはされていません。
   ただし,自賠責保険会社は,損害保険料率算出機構に属する自賠責保険損害調査事務所が行う損害調査に基づき,支払基準に照らした自賠責保険金を支払ってくれるに過ぎませんから,加害者は,被害者に支払った賠償金の全額について当然に自賠責保険金の支払を受けられるわけではありません。
 
3 加害者請求権は「自己が支払をした限度」において発生すること
(1) 加害者(被保険者)は,被害者に対する損害賠償額について「自己が支払をした限度」においてのみ,自賠責保険会社に対して自賠責保険金の支払を請求できるのであって,損害賠償金の現実の支払がない限り,自賠責保険金の支払を受けることはできません。
   つまり,加害者請求権は,加害者(被保険者)の被害者に対する損害賠償金の支払を停止条件とする債権ということであり(最高裁昭和56年3月24日判決),問題となっている交通事故の損害賠償義務者であるというだけでは,加害者請求権は発生しないということです。
(2) 自賠法15条にいう「自己が支払をした」とは,自動車損害賠償責任保険の被保険者が自己の出捐によって損害賠償債務を全部又は一部消滅させたことを意味し,混同によって損害賠償債務が消滅した場合は,これに該当しません(最高裁平成元年4月20日判決)。
(3) 自賠法15条にいう「支払」とは,被保険者の出捐によって損害賠償債務の全部又は一部を消滅させ,これによって被害者に現実の満足を与えるものをいいます。
  そして,被害者の受領拒絶を理由に被保険者が損害賠償債務につき有効な弁済供託をした場合,右供託は,被保険者の出捐によって損害賠償債務を消滅させるものであり,かつ,被害者はいつでも供託金の還付を受けることが可能であって被害者に現実の満足を与えるものということができますから,同条にいう「支払」に当たります(最高裁平成7年4月25日判決)。
(4) 損害賠償金を支払った加害者が自賠責保険会社に対して訴訟提起した場合,「支払基準」に基づく過失相殺ではなく,実際の過失割合通りに過失相殺されますし,加害者と被害者が和解で決めた過失割合と異なる過失割合に基づいて過失相殺されることがります(最高裁平成24年10月11日判決参照)。

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3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。