むち打ちの治療

第0 本ページの目次

第1 むち打ちとは
第2 むち打ちの種類
第3 むち打ちの診断及び治療
第4 むち打ちの休業損害
第5 むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められることはまずないこと 

第1 むち打ちとは

1 むち打ちとは,首の部分(頸部)が衝撃的に揺れ動いたことにより生じる傷害をいい,交通事故で起こることが多い症状です。
   例えば,信号待ちをしているときに後ろから追突事故にあった場合,むち打ちになることが多いです。
 
2(1) 追突の場合,追突された自動車に乗っていた人の体は進行方向に移動しますが,頭部は元の位置にとどまろうとします。
   そのため,首の部分が「く」の字型にしなり,頭部が後ろに来る格好になり,その後は反動で,頭部は前に振られ,首の部分は「く」の字とは反対方向になります。
(2) 正面衝突の場合,体,首の部分及び頭部の動きは,追突の場合とは全く逆になります。
(3) 追突の場合であると正面衝突の場合であるとを問わず,重い頭部を支える首の部分が無理な形になるため,頸椎の関節が損傷を受けます。
 
3(1) 頸部が生理的な可動範囲を超えて受傷したものを「頸部捻挫」といい,それ以下のものを「頸部挫傷」といい,両者をあわせて外傷性頸部症候群と定義されることはあります。
(2)   捻挫とは,関節を捻り挫く(ねじりくじく)ことをいい,関節が不自然な外力により生理的な可動範囲を超えるような動きを強制されたときに発生する症状です。
(3)   捻挫の場合,関節を構成している相互の骨と骨の間にずれがないのであって,関節を構成している相互の骨と骨の間にずれがある場合,脱臼又は亜脱臼(あだっきゅう)となります。
   また,捻挫の場合,関節を安定した状態に保つ働きをしている靱帯が断裂まではしていないのであって,靱帯が断裂している場合,○○靱帯損傷といった具体的な外傷名が付けられます。
 
4 むち打ちは骨折等と異なり,外部から見てどこが悪いのかが明らかでないことが多いため,その程度の評価で争いになることが多いです。
 
5 むち打ちは,損傷そのものではなくその受傷機転(損傷を負うこととなった原因)を示す用語であり,病名ではありません。
   そのため,医師の診断書における診断名としては,頸部捻挫,頸椎捻挫,頸部挫傷,頸椎挫傷,外傷性頸部症候群等となります。
 
6 むち打ちが後遺障害になるかどうかについては,「後遺障害としてのむち打ち,腰椎捻挫等」を参照してください。
    むち打ちが14級の後遺障害と認定された場合,自賠責保険だけで75万円を支払ってもらえます。

第2 むち打ちの種類

むち打ちには,以下の類型があります。
ただし,用語の表記方法については人によって多少のずれがあります。
 
1 頸部捻挫型
(1)    頸椎を支えている靱帯や筋肉が損傷を受けている場合です。
(2)    頭痛がしたり,首や肩が痛んで動かしにくいといった,寝違いや肩こりに似た症状を示すタイプです。
(3) むち打ちの70%ぐらいが頸椎捻挫型であるといわれています。
 
2 神経根損傷型
(1)   脊髄から出ている神経の根元(神経根)を損傷を受けている場合です。
   首が痛んだり,肩から腕にかけての痛みが出たり,知覚障害が出たり,しびれ・脱力感が出たりします。
(2)ア 神経根損傷型の場合,首の骨(頸椎)の傷みや変形により神経根を圧迫しているのに対し,頸椎椎間板ヘルニアの場合,頸椎の椎間板(骨と骨の間のクッションとなっているもの)が傷んで飛び出したせいで,神経(脊髄)又は神経根を圧迫していますから,両者は異なります(外部HPの「頸椎症性神経根症の背中の痛みや手のしびれ・痛み症状に適切に解消!」参照)。
イ   ヘルニアとは,体内の臓器等が,本来あるべき部位から脱出・突出した状態をいいます。
   
3 バレ・リュー症候群型
(1)   交感神経と副交感神経からなる自律神経が損傷を受けている場合です。
   交感神経の働きが悪くなっているため,頭痛,めまい,吐き気,耳鳴り,難聴といった症状が出ます。
(2) バレ・リュー症候群は,神経根損傷型と一緒に発症することがあります。
 
4 脊髄症状型
(1)   脊髄やそこから伸びている神経が損傷を受けている場合です。
   下肢(かし)(=脚部)に痛みやしびれが出るなど,首の部分よりも下肢の症状が目立つタイプです。
(2) 交通事故に遭う前から,加齢等を原因として脊柱管が狭くなっていた場合(脊柱管狭窄症),又は脊柱の中を縦に走っている靱帯(後縦靱帯)が骨化して神経を圧迫していた場合(頸椎後縦靱帯骨化症),交通事故の衝撃により脊髄症状を発症することがあります。
(3) 脊髄症状型はむち打ちとは別のものであるといわれることがあります。

第3 むち打ちの診断及び治療

1 交通事故直後の診断
(1) 診察のほか,エックス線検査,CT検査又はMRI検査といった画像検査が行われます。
   エックス線検査により,骨折や関節のずれの有無が分かりますものの,靱帯そのものは写りません。
   CT検査,MRI検査により,頸椎の変化なり,靱帯の損傷の程度なりが分かります。
(2) 交通事故直後の診断では,頸部捻挫(=頸椎捻挫),頸部挫傷(=頸椎挫傷)などと書かれることが多いです。
   しかし,しびれ等の症状がある場合,神経根損傷型等の可能性があります。
 
2 交通事故直後の急性期の治療
(1)ア   応急処置としては,膨張や内出血がひどくならないよう,局所の安静(Rest),冷却(Icing),圧迫(Compression),患肢(かんし)の挙上(持ち上げておくこと)(Elevation) が基本になります(頭文字をとってRICEといいます。)。
   そして,湿布薬の貼付や消炎鎮痛薬の服用といった対症療法により経過観察をします。
イ 湿布薬としては,モーラステープ及びロキソニンテープがあります。
   消炎鎮痛薬としては,強い順に,ボルタレン(医療用医薬品),ロキソニン(第1種医薬品),バファリン(第2種医薬品)等があります。
ウ ボルタレンとロキソニンの違いについては,外部HPの「ボルタレンってどんな薬?ロキソニンとの違いや市販薬についても徹底解説!」が参考になります。
(2)ア 首が痛くて前後左右にほとんど動かないような場合,首の部分を固定するために頸椎カラー又はギプスを使用します。
   ただし,長期にわたる関節の完全固定は,正常な靱帯の修復家庭をむしろ阻害したり,関節軟骨に悪影響を及ぼしたりする可能性があることにかんがみ,昔ほどは頸椎カラー又はギプスが使用されなくなっています。
イ 頸椎カラーとは,首の頸椎専用の装具によって首を固定する装具をいいます。
   頸椎カラーは,頸椎カラー本体を洗うことができるために清潔感を維持できますし,ギプスよりも軽い反面,固定力に関してはギプスよりも劣ります。
(3) 痛みがひどい場合,神経ブロック注射又はトリガーポイント注射により,痛みに直接作用する局所麻酔剤やステロイド製剤を注入します。
   神経ブロック注射では,神経において痛みが伝わる経路を遮断することで,痛みそのものが伝わることを阻止します。
   トリガーポイント注射では,強い痛みを感じる部位であるトリガーポイントに局所麻酔剤等を注入することで痛みを抑えます。
  
3 急性期を過ぎた後の治療
(1) 急性期が過ぎて症状が落ち着いてきたら,症状に併せて,温熱療法,電気治療,首の牽引療法を行います。
(2) むち打ちの温熱療法としては,ホットパック療法,赤外線療法,マイクロウェーブ療法,超音波療法があり,それぞれ,ホットパック(温湿布),赤外線,マイクロウェーブ又は超音波を患部にあてて治癒力を高める療法をいいます。
(3) 電気治療とは,患部に電気をあてて治癒力を高める療法をいいます。
(4) 首の牽引療法とは,首又は腰を引っ張る物理療法をいいますが,その効果については賛否両論があるみたいです。
 
4 整骨院(接骨院)での施術
(1) むち打ちのダメージの大部分は捻挫の要素であるため,急性期を過ぎてからは,整形外科の同意を得た上で,リハビリのために整骨院で施術を受けた方がいいことがあります。
   ただし,任意保険会社は整骨院での施術の費用対効果に疑いを持っていることが多いため,できれば,リハビリ施設のある整形外科でリハビリを受けた方がいいです。
(2) 整骨院については,「整骨院に対する法規制等」を参照してください。
 
5 通院慰謝料及び入院慰謝料
   通院期間及び入院期間に対応した慰謝料の金額については,「交通事故事件の慰謝料」を参照してください。
   例えば,週に2回以上のペースで,むち打ち治療のために6ヶ月間通院した場合の通院慰謝料は80万円です。
 
6 差額ベッド代及び入院雑費
(1) 差額ベッド代
ア 入院中の特別室使用料(=差額ベッド代)は,医師の指示があった場合,症状が重篤であった場合,空き室がなかった場合といった特別の事情がある場合に限り,相当な期間について認められます。
イ   むち打ちの場合,入院の必要性自体を争われますから,差額ベッド代まで請求するのは無理です。
 
(2) 入院雑費
ア 入院雑費は,1日当たり以下の額を基準として,入院期間に応じて定まります。
① 平成10年1月1日以降の交通事故
1,300円
② 平成17年1月1日以降の交通事故
1,500円
イ 入院雑費は,入院中の日用雑貨費(寝具,衣類等),通信費(電話代等),文化費(新聞代,テレビ賃借料等)等,入院することによって生じた諸費用を指します。
    これらの諸費用は,個別に立証することは著しく煩雑であり,金額も大きくないことから,一般的に要すると考えられる金額を入院雑費として認めたものです。
    よって,これらの諸費用については立証する必要がありません。

第4 むち打ちの休業損害

1 頸部捻挫型の場合 
(1) 首や肩が痛んで動かしにくいという症状だけの場合,頸椎捻挫型の可能性が高いです。
   この場合,症状が軽いときでも2~3日,強いときは10日ぐらいは仕事を休んで治療に専念した方がいいです。
(2)   しびれ等の症状がない場合,他の類型よりも治るのが早い頸椎捻挫型だけであると判断されるため,任意保険会社は休業損害を渋りやすいですし,治療費の打ち切りは他の類型よりも早いです。

2 しびれ等がある場合
(1)   肩から腕にかけての痛みがあったり,下肢にしびれがあったり,頭痛,めまい,吐き気,耳鳴り,難聴といった症状があったりする場合,神経根損傷型,バレ・リュー症候群又は脊髄症状型の可能性もあります。
   この場合,2~3週間は仕事を休んで治療に専念した方がいいです。
(2)   しびれ等の症状がある場合,治るのが早い頸椎捻挫型ではないと判断されます。
   そのため,症状固定時まで症状が一貫して継続しているのであれば,休業損害を1ヶ月ぐらいは出してくれますし,その後も症状固定時までについて割合的認定により休業損害が認定されることが多いです。

第5 むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められないことはまずないこと

1 症状固定後の治療費は原則として認められないものの,症状の内容・程度に照らし,必要かつ相当なものは認められます。
   そして,むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められることはまずありません。

2 むち打ちの場合は無理ですが,例外的に認められる症状固定後の治療費の例は以下のとおりです。
① 人口骨頭置換術
→ 大腿骨頚部内側骨折や大腿骨頭が何らかの原因で壊死を起こした場合に,大腿骨頭を切除し,金属又はセラミックでできた骨頭で置換する手術をいい,10年から15年後に2度目の置換手術を要することが多いです。
    そのため,平均余命までの,15年ごとの置換手術の治療費を認めてもらえることがあります(東京地裁平成13年3月28日判決,東京地裁平成17年11月28日判決参照)。
② 歯科インプラント治療
→ あごの骨に穴を開けて人口歯根(=フィクスチャー)を埋め込み,3ヶ月から6ヶ月ぐらいしてそれが骨と癒合したら,その上に人口歯をかぶせる治療方法をいい,年に3回ぐらい,メンテナンスのための治療が必要となります。
    そのため,平均余命までの,メンテナンスのための治療費を認めてもらえることがあります(名古屋地裁平成23年12月9日判決参照)。
③ 歯科補綴(しかほてつ)
→ 歯や顎(あご)が欠けたり失われた場合に,冠,クラウン,入れ歯(義歯)やインプラントなどの人工物で補うことをいいます。
    将来確実に必要となる手術であれば,症状固定後のものであっても請求することができます(東京地裁平成21年1月30日判決参照)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。