むち打ちの治療

第0 目次

第1 むち打ちとは
第2 むち打ちの種類
第3 むち打ちの診断及び治療
第4 むち打ちの休業損害
第5 むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められることはまずないこと
第6 医業類似行為に対する取扱いについて

*0 以下のHPも参照して下さい。
① 初診時の留意点,公的医療保険,診療録及びレセプト
② 症状固定及び後遺障害診断書
③ 後遺障害としてのむち打ち,腰椎捻挫,神経麻痺等
④ 後遺障害としての関節の可動域制限
⑤ XP,CT,MRI等
*1 交通事故の衝撃力を計算する前提となる運動方程式(力=質量×加速度)については,物理の基礎の基礎HP「有名な方程式です」が参考になります。
*2 ヘルシー・ラボRYJU HP「頸椎をボキボキする整体・カイロプラクティックにご注意を!!」が載っています。
*3 日本整形外科学会HP「整形外科/運動器 症状・病気をしらべる」に以下のページがあります。
① しびれ
→ (a)内科的原因のしびれ,(b)脊椎に関連するしびれ及び(c)末梢神経に関連するしびれに分かれるとのことです。
② 上肢のしびれ
→ しびれの部位による考え方等が載っています。
③ スポーツ外傷の応急処置
*4 日本神経学会HP「しびれの原因となる主な病気」(例えば,けいれん,しびれ,筋肉の痛み,意識障害,てんかん,頭痛及び脳卒中)が載っています。
*5 大雑把に言えば,神経根症の場合,片方の上肢に痛み・しびれが発生するのに対し,脊髄症の場合,両方の上肢にしびれが発生します。
*6 熊本労災病院HP「ROM(関節可動域)エクササイズ」が載っています。
*7 弁護士による交通事故相談HP(ベリーベスト法律事務所)「交通事故で最も多い「むちうち」の症状と支払われる保険金について」が載っています。
*8 交通事故に強い弁護士の相談サイト「むちうち」及び「ヘルニア」が載っています。
*9 交通事故被害者を2度泣かせないHPに以下の記事が載っています。
① 軽微な追突事故と頚椎捻挫との因果関係
② 診断書によくある「外傷性頚部症候群(疑い)の意味」
③ むち打ち症(外傷性頚部症候群)の治療打ち切り時期
④ むち打ち損傷で損保が入院を拒絶するとき
⑤ むち打ち損傷の発症時期と事故との因果関係
⑥ むち打ち症の医療照会
*10 「自賠責保険後遺障害診断書」「神経学的所見の推移について」及び「頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について」を掲載しています。
*11 交通事故に関する赤い本講演録2007年・239頁ないし264頁に「痛みとは~痛みのメカニズムとその種類~」が載っています。
自賠責保険診断書
自賠責保険診療報酬明細書
神経学的所見の推移について
頚椎捻挫・腰椎捻挫の症状の推移について

第1 むち打ちとは

1 むち打ちとは,首の部分(頸部)が衝撃的に揺れ動いたことにより生じる傷害をいい,交通事故で起こることが多い症状です。
   例えば,信号待ちをしているときに後ろから追突事故にあった場合,むち打ちになることが多いです。
 
2(1) 追突の場合,追突された自動車に乗っていた人の体は進行方向に移動しますが,頭部は元の位置にとどまろうとします。
   そのため,首の部分が「く」の字型にしなり,頭部が後ろに来る格好になり,その後は反動で,頭部は前に振られ,首の部分は「く」の字とは反対方向になります。
(2) 正面衝突の場合,体,首の部分及び頭部の動きは,追突の場合とは全く逆になります。
(3) 追突の場合であると正面衝突の場合であるとを問わず,重い頭部を支える首の部分が無理な形になるため,頸椎の関節が損傷を受けます。
 
3(1) 頸部が生理的な可動範囲を超えて受傷したものを「頸部捻挫」といい,それ以下のものを「頸部挫傷」といい,両者をあわせて外傷性頸部症候群と定義されることがあります。
(2)   捻挫とは,関節を捻り挫く(ねじりくじく)ことをいい,関節が不自然な外力により生理的な可動範囲を超えるような動きを強制されたときに発生する症状です。
(3)   捻挫の場合,関節を構成している相互の骨と骨の間にずれがないのであって,関節を構成している相互の骨と骨の間にずれがある場合,脱臼又は亜脱臼(あだっきゅう)となります。
   また,捻挫の場合,関節を安定した状態に保つ働きをしている靱帯が断裂まではしていません。
(4) 日野市医師会HP「捻挫と靭帯損傷」には以下の記載があります(改行を追加しました。)。
① 捻挫とは、関節に力が加わって、骨以外の靱帯や関節包などの軟部組織が損傷される事です。このうち骨と骨の位置関係がずれたものは脱臼で、ずれのないものが捻挫になります。捻挫を起こした時に靱帯を損傷していれば、すべて靱帯損傷になります。
   一般的には、捻挫の方がやや軽症と考えられている方が多いように思いますが、捻挫をした場合、靱帯の損傷も伴っている事が多いので、同じと考えても良いと思います。
② (注:靭帯の損傷に関して)わずかに伸びた程度の損傷を1度、部分的に断裂したものを2度、完全に断裂したものを3度の損傷と呼びます。
   1度では圧痛はありますが、腫れはほとんどない事が多く、2度では痛み、腫脹、圧痛も見られ、3度になると痛み腫脹も顕著で動揺性が見られ、脱臼を起こしていることもあります。
 
4(1) 外傷性頸部症候群の場合,X線検査での骨折や脱臼は認められません(日本整形外科学会HP「外傷性頚部症候群」参照)。
   そのため,むち打ちは骨折等と異なり,外部から見てどこが悪いのかが明らかでないことが多いため,その程度の評価で争いになることが多いです。
(2) 交通事故慰謝料弁護士相談HP(菅藤法律事務所)「交通事故でMRI撮影するタイミングは?」には,「レントゲンには骨は映りますが、脊髄・靱帯・椎間板・半月板・神経根といった軟部組織はレントゲンには映りません。従って、レントゲン画像では骨折の有無は判定できても、これら軟部組織の損傷の有無はレントゲン画像では判定できないのです。」と書いてあります。
 
5(1) むち打ちは,損傷そのものではなくその受傷機転(損傷を負うこととなった原因)を示す用語であり,病名ではありません。
   そのため,医師の診断書における診断名としては,頸部捻挫,頸椎捻挫,頸部挫傷,頸椎挫傷,外傷性頸部症候群等となります。
(2) 日本整形外科学会HP「むち打ち症」には,「近年ヘッドレストが標準装備されたことで “むち打ち症”と呼ばれることは劇的に減少したにも関わらず、医学的傷病名と混同して使用されることがあります。」と書いてあります。
 
6 むち打ちが後遺障害になるかどうかについては,「後遺障害としてのむち打ち,腰椎捻挫等」を参照してください。
    むち打ちが14級の後遺障害と認定された場合,自賠責保険だけで75万円を支払ってもらえます。

7(1)   はじめて自動車保険HP「保険金不払い事例4:むち打ちの治療費の支払いがストップ」には以下の記載があります。
   日本損害保険協会が発行する「鞭打ち損傷ハンドブック」によると、「むち打ち損傷は、受傷後3ヶ月までに9割前後の患者が治る」ということが、一部の整形外科医からも指摘されていると書かれています。
   軽い衝突事故であれば1~3ヶ月、普通の衝突事故で6ヶ月までは治療費を支払うが、それ以上は支払わないというのが一般的な損保会社の判断です。
(2)   日本整形外科学会HP「外傷性頚部症候群」には以下の記載があります。
受傷時に反射的に頚椎に対する損傷を避ける防御のための筋緊張が生じ、衝撃の大きさによっては筋の部分断裂や靭帯の損傷が生じています。
   受傷後しばらくの間(1~3か月)は局所に痛みが生じますが、この期間に局所を安静にする習慣がつけば痛みが長引く原因となります。骨折や脱臼がないのに長期にわたって頚椎のカラー装着を行うと、頚部痛や肩こりが長期化する原因となります。

8 羽島市民病院HP「頚椎で脊髄が圧迫されておこる病気の説明をします」10頁によれば,以下のような症状がある場合,クビの診察とMRI検査をおすすめするとのことです。
① 空や上をみるようにクビを後ろにそらすと,手足や背中に電気ショックやシビレが走る,力がはいらなくなる
② 両手指,足など手袋や靴下を付ける部分の感じが鈍くなる。
③ 手足の力が入らない。
④ 手足がしびれてこわばり箸使い,ボタン掛けがぎこちない。
⑤ 下肢がもつれやすく,階段の上り下りが困難(痙性歩行)

第2 むち打ちの種類

○むち打ちには,以下の類型があります。ただし,用語の表記方法については人によって多少のずれがあります。
浦安サンクリニックHP「むちうち損傷(外傷性頸部症候群・頚椎捻挫)」では,脳脊髄液減少症がむちうち損傷に含められています。
 
1 頸部捻挫型
(1)    頸椎を支えている靱帯や筋肉が損傷を受けている場合です。
(2)    頭痛がしたり,首や肩が痛んで動かしにくいといった,寝違いや肩こりに似た症状を示すタイプです。
(3) むち打ちの70%ぐらいが頸椎捻挫型であるといわれています。
 
2 神経根損傷型
(1)   脊髄から出ている神経の根元(神経根)を損傷を受けている場合です。
   首が痛んだり,肩から腕にかけての痛みが出たり,知覚障害が出たり,しびれ・脱力感が出たりします。
(2)ア 神経根損傷型の場合,首の骨(頸椎)の傷みや変形により神経根を圧迫しているのに対し,頸椎椎間板ヘルニアの場合,頸椎の椎間板(骨と骨の間のクッションとなっているもの)が傷んで飛び出したせいで,神経(脊髄)又は神経根を圧迫していますから,両者は異なります(外部HPの「頸椎症性神経根症の背中の痛みや手のしびれ・痛み症状に適切に解消!」参照)。
イ   ヘルニアとは,体内の臓器等が,本来あるべき部位から脱出・突出した状態をいいます。
(3) 日弁連交通事故相談センターHPに「神経根症」が載っています。
   
3 バレ・リュー症候群型
(1)   交感神経と副交感神経からなる自律神経が損傷を受けている場合です。
   交感神経の働きが悪くなっているため,頭痛,めまい,吐き気,耳鳴り,難聴といった症状が出ます。
(2) バレ・リュー症候群は,神経根損傷型と一緒に発症することがあります。
(3) 日弁連交通事故相談センターHPに「バレリュー症候群」が載っています。
 
4 脊髄症状型
(1)   脊髄やそこから伸びている神経が損傷を受けている場合です。
   下肢(かし)(=脚部)に痛みやしびれが出るなど,首の部分よりも下肢の症状が目立つタイプです。
(2) 交通事故に遭う前から,加齢等を原因として脊柱管が狭くなっていた場合(脊柱管狭窄症),又は脊柱の中を縦に走っている靱帯(後縦靱帯)が骨化して神経を圧迫していた場合(頸椎後縦靱帯骨化症),交通事故の衝撃により脊髄症状を発症することがあります。
(3) 脊髄症状型はむち打ちとは別のものであるといわれることがあります。

第3 むち打ちの診断及び治療

1 交通事故直後の診断
(1) 診察のほか,エックス線検査,CT検査又はMRI検査といった画像検査が行われます。
   エックス線検査により,骨折や関節のずれの有無が分かりますものの,靱帯そのものは写りません。
   CT検査,MRI検査により,頸椎の変化なり,靱帯の損傷の程度なりが分かります。
(2) 交通事故直後の診断では,頸部捻挫(=頸椎捻挫),頸部挫傷(=頸椎挫傷)などと書かれることが多いです。
   しかし,しびれ等の症状がある場合,神経根損傷型等の可能性があります。
(3) 交通事故慰謝料弁護士相談HP(菅藤法律事務所)「交通事故でMRI撮影するタイミングは?」には以下の記載がありますから,受傷直後にMRIを撮影しておくことが大切です。
   MRIを撮影するタイミングは、交通事故から早ければ早いほどよいです。
   というのが、交通事故から時間を空けて撮影したMRI画像に異常が映っていても、果たしてその異常が交通事故に起因するのか、交通事故とは別に例えばそれ以前から存在する既往疾患なのか、時間が経てば経つほど、相手損保が争ってくるリスクが高くなるからです。
   また、陳旧性か新鮮か見分ける場合、T2強調画像では水分が高信号を示し白く映る特性を活かして、内出血などが白く高信号で映っているからとして、新鮮な負傷であると主張できることもあります。
  逆に言えば、交通事故から時間を空けて撮影している場合には、T2強調画像の特性は活かされないのです。
 
2 交通事故直後の急性期の治療
(1)ア   応急処置としては,膨張や内出血がひどくならないよう,局所の安静(Rest),冷却(Icing),圧迫(Compression),患肢(かんし)の挙上(持ち上げておくこと)(Elevation) が基本になります(頭文字をとってRICEといいます。)。
   そして,湿布薬の貼付や消炎鎮痛薬の服用といった対症療法により経過観察をします。
イ 湿布薬としては,モーラステープ及びロキソニンテープがあります。
   消炎鎮痛薬としては,強い順に,ボルタレン(医療用医薬品),ロキソニン(第1種医薬品),バファリン(第2種医薬品)等があります。
ウ ボルタレンとロキソニンの違いについては,外部HPの「ボルタレンってどんな薬?ロキソニンとの違いや市販薬についても徹底解説!」が参考になります。
(2)ア 首が痛くて前後左右にほとんど動かないような場合,首の部分を固定するために頸椎カラー又はギプスを使用します。
   ただし,長期にわたる関節の完全固定は,正常な靱帯の修復家庭をむしろ阻害したり,関節軟骨に悪影響を及ぼしたりする可能性があることにかんがみ,昔ほどは頸椎カラー又はギプスが使用されなくなっています。
イ 頸椎カラーとは,首の頸椎専用の装具によって首を固定する装具をいいます。
   頸椎カラーは,頸椎カラー本体を洗うことができるために清潔感を維持できますし,ギプスよりも軽い反面,固定力に関してはギプスよりも劣ります。
(3) 痛みがひどい場合,神経ブロック注射又はトリガーポイント注射により,痛みに直接作用する局所麻酔剤やステロイド製剤を注入します。
   神経ブロック注射では,神経において痛みが伝わる経路を遮断することで,痛みそのものが伝わることを阻止します。
   トリガーポイント注射では,強い痛みを感じる部位であるトリガーポイントに局所麻酔剤等を注入することで痛みを抑えます。
  
3 急性期を過ぎた後の治療
(1) 急性期が過ぎて症状が落ち着いてきたら,症状に併せて,温熱療法,電気治療,首の牽引療法を行います。
(2) むち打ちの温熱療法としては,ホットパック療法,赤外線療法,マイクロウェーブ療法,超音波療法があり,それぞれ,ホットパック(温湿布),赤外線,マイクロウェーブ又は超音波を患部にあてて治癒力を高める療法をいいます。
(3) 電気治療とは,患部に電気をあてて治癒力を高める療法をいいます。
(4) 首の牽引療法とは,首又は腰を引っ張る物理療法をいいますが,その効果については賛否両論があるみたいです。
(5) 春山記念病院HP「疾患の説明」の「手がしびれる」には以下の記載があります。
A 首~肩にかけて原因がある場合
1 頚椎症,頚椎椎間板ヘルニア
   首の骨(頚椎)や椎間板の年齢的な変化・変形により、首から腕・手に伸びる神経が圧迫されてしびれ・痛みが出ることがあります。 
   首を後ろに傾け(上を向いて)、症状がある側に頭を傾けると症状が強くなることが多いです。 レントゲン・MRIなどで診断して、お薬や理学療法:リハビリ(温熱・牽引)で治療していきます。
(6) 日弁連交通事故相談センターHPの「神経根症」に,神経根症の治療に関して以下の記載があります。
   神経根症は、保存的治療によく反応し、長期的には治療法別の成績に差がないと医学書にも記載されています。通常は、安静が指導され、消炎鎮痛剤が投与されます。患者の不安な心理状態を解消するため、重症例では 頚部の安静をとらせるため牽引や硬膜外または神経根ブロックが併用されることもあります。
   症状の改善は3,4ヶ月で著しいので、それ以上症状が強く残存し、就労能力や日常生活に支障があると手術適応になるといわれています。
 
4 整骨院(接骨院)での施術
(1) むち打ちのダメージの大部分は捻挫の要素であるため,急性期を過ぎてからは,整形外科の同意を得た上で,リハビリのために整骨院で施術を受けた方がいいことがあります。
   ただし,任意保険会社は整骨院での施術の費用対効果に疑いを持っていることが多いため,できれば,リハビリ施設のある整形外科でリハビリを受けた方がいいです。
(2) 整骨院については,「整骨院に対する法規制等」を参照してください。
 
5 通院慰謝料及び入院慰謝料
(1)   通院期間及び入院期間に対応した慰謝料の金額については,「交通事故事件の慰謝料」を参照してください。
(2)   例えば,週に2回以上のペースで,むち打ち治療のために6ヶ月間通院した場合の通院慰謝料は80万円です。
 
6 差額ベッド代及び入院雑費
(1) 差額ベッド代
ア 入院中の特別室使用料(=差額ベッド代)は,医師の指示があった場合,症状が重篤であった場合,空き室がなかった場合といった特別の事情がある場合に限り,相当な期間について認められます。
イ   むち打ちの場合,入院の必要性自体を争われますから,差額ベッド代まで請求するのは無理です。
(2) 入院雑費
ア 入院雑費は,1日当たり以下の額を基準として,入院期間に応じて定まります。
① 平成10年1月1日以降の交通事故
1,300円
② 平成17年1月1日以降の交通事故
1,500円
イ 入院雑費は,入院中の日用雑貨費(寝具,衣類等),通信費(電話代等),文化費(新聞代,テレビ賃借料等)等,入院することによって生じた諸費用を指します。
    これらの諸費用は,個別に立証することは著しく煩雑であり,金額も大きくないことから,一般的に要すると考えられる金額を入院雑費として認めたものです。
    そのため,これらの諸費用については立証する必要がありません。

7 リハビリ不全の場合,後遺障害とみなされない場合があること
(1) にわ法律事務所HP「骨折(椎体,圧迫骨折等)」には以下の記載があります。
   骨折後癒合が十分得られたにもかかわらず、骨折部周辺の関節可動域の制限が生じたり、痛みや痺れが残存した場合、可動域制限・痛みや痺れによる後遺障害の認定を受けるためには困難が生じます。
   例えば、骨折部周辺の関節の可動域に制限が生じたとしても、骨折の程度がさほど重篤ではなかったり、骨の癒合が十分得られ、骨の構造上、関節可動域に影響がない場合は、拘縮つまりリハビリ不全として後遺障害とみなされないことが多々あります。
(2) 交通事故サポート日誌ブログ「関節拘縮による可動域制限 非該当→10級11号獲得」には「関節の可動域に制限が生じた場合,骨折などの器質的損傷がないと自賠責ではなかなか後遺障害に認定されません。「提出の画像上,当該部位に骨折等の外傷性の異常所見は認められない」との定型文句でバッサリです。」と書いてあります。

8 筋収縮は治療しやすいのに対し,拘縮は治療しにくいこと
(1)ア PT-OT-ST.NET HP「関節可動域制限の発生メカニズムとそれに対する運動療法の考え方~東京会場~」には以下の記載があります。
   ROM制限を引き起こす原因としては、拘縮や強直、筋収縮、脱臼偏位、関節内遊離体など様々なものがあげられるが、その中で、リハによって改善が期待できるものは拘縮と筋収縮である。
   周知のように、筋収縮に関してはリハの様々な治療戦略によって即時に軽減させることが可能で、これに由来したROM制限に難渋することは少ない。一方、拘縮は皮膚や骨格筋、関節包などの関節周囲軟部組織が器質的に変化し、その伸張性が低下したことで生じたROM制限であり、病巣部位も多岐にわたるため治療に難渋することが多い。
イ PT(Physical Therapist)は理学療法士であり,OT(Occupational Therapist)は作業療法士であり,ST(Speech-language-hearing Therapist)は言語聴覚士です。
   ROM(Range Of Motion)は関節可動域です。
(2) 「関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略」8頁には,「その発生頻度の高さと治療の難しさなどを考慮すると,拘縮が起因となるROM制限は今後も理学療法の重要な対償障害に位置づけられることは疑いないと思われる。」と書いてあります。

9 理学療法士
(1) むち打ちの治療に際しては,理学療法士による理学療法を受けることになります。
(2)ア 理学療法とは,身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動作能力の回復を図るため,治療体操その他の運動を行なわせ,及び電気刺激,マツサージ,温熱その他の物理的手段を加えることをいいます(理学療法士及び作業療法士法2条1項)。
イ 理学療法士とは,厚生労働大臣の免許を受けて,理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいいます(理学療法士及び作業療法士法2条3項)。

第4 むち打ちの休業損害

1 頸部捻挫型の場合 
(1) 首や肩が痛んで動かしにくいという症状だけの場合,頸椎捻挫型の可能性が高いです。
   この場合,症状が軽いときでも2~3日,強いときは10日ぐらいは仕事を休んで治療に専念した方がいいです。
(2)   しびれ等の症状がない場合,他の類型よりも治るのが早い頸椎捻挫型だけであると判断されるため,任意保険会社は休業損害を渋りやすいですし,治療費の打ち切りは他の類型よりも早いです。

2 しびれ等がある場合
(1)   肩から腕にかけての痛みがあったり,下肢にしびれがあったり,頭痛,めまい,吐き気,耳鳴り,難聴といった症状があったりする場合,神経根損傷型,バレ・リュー症候群又は脊髄症状型の可能性もあります。
   この場合,2~3週間は仕事を休んで治療に専念した方がいいです。
(2)   しびれ等の症状がある場合,治るのが早い頸椎捻挫型ではないと判断されます。
   そのため,症状固定時まで症状が一貫して継続しているのであれば,休業損害を1ヶ月ぐらいは出してくれますし,その後も症状固定時までについて割合的認定により休業損害が認定されることが多いです。

第5 むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められないことはまずないこと

1(1) 症状固定とは,医学上一般に承認された治療方法をもってしても,その効果が期待し得ない状態で,かつ,残存する症状が自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したときをいいます。
(2) 症状固定後の治療費は原則として認められないものの,症状の内容・程度に照らし,必要かつ相当なものは認められます。
   そして,むち打ちの場合,症状固定後の治療費が認められることはまずありません。

2 むち打ちの場合は無理ですが,例外的に認められる症状固定後の治療費の例は以下のとおりです。
① 人口骨頭置換術
→ 大腿骨頚部内側骨折や大腿骨頭が何らかの原因で壊死を起こした場合に,大腿骨頭を切除し,金属又はセラミックでできた骨頭で置換する手術をいい,10年から15年後に2度目の置換手術を要することが多いです。
    そのため,平均余命までの,15年ごとの置換手術の治療費を認めてもらえることがあります(東京地裁平成13年3月28日判決,東京地裁平成17年11月28日判決参照)。
② 歯科インプラント治療
→ あごの骨に穴を開けて人口歯根(=フィクスチャー)を埋め込み,3ヶ月から6ヶ月ぐらいしてそれが骨と癒合したら,その上に人口歯をかぶせる治療方法をいい,年に3回ぐらい,メンテナンスのための治療が必要となります。
    そのため,平均余命までの,メンテナンスのための治療費を認めてもらえることがあります(名古屋地裁平成23年12月9日判決参照)。
③ 歯科補綴(しかほてつ)
→ 歯や顎(あご)が欠けたり失われた場合に,冠,クラウン,入れ歯(義歯)やインプラントなどの人工物で補うことをいいます。
    将来確実に必要となる手術であれば,症状固定後のものであっても請求することができます(東京地裁平成21年1月30日判決参照)。

3(1) 交通事故に関する赤い本講演録2013年・10頁には,症状固定に関する一般論として以下の記載があります。
   症状固定時期につき理由を付して検討しているものを取り上げ,その理由を整理してみました。一概には言えませんが,概ねの傾向としては,症状固定日に関する医師の判断を踏まえ,その合理性を,①傷害及び症状の内容(例えば,神経症状のみか),②症状の推移(例えば,治療による改善の有無,一進一退か),③治療・処置の内容(例えば,治療は相当なものか,対症療法的なものか,治療内容の変化),④治療経過(例えば,通院頻度の変化,治療中断の有無),⑤検査結果(例えば,他覚的所見の有無),⑥当該症状につき症状固定に要する通常の気管,⑦交通事故の状況(例えば,衝撃の程度),などの観点から判断し,不合理であれば別途適切な時期を症状固定日と判断している,といった説明が可能ではないかと思われます。
(2) 「交通事故に関する赤い本講演録等の分野別目次」も参照して下さい。

第6 医業類似行為に対する取扱いについて

〇厚生労働省HPに載ってある「医業類似行為に対する取扱いについて」(平成3年6月28日付の厚生省健康政策局医事課長通知)は以下のとおりです。

医業類似行為に対する取扱いについて(平成三年六月二八日)(医事第五八号)
(各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知)
近時、多様な形態の医業類似行為又はこれと紛らわしい行為が見られるが、これらの行為に対する取扱いについては左記のとおりとするので、御了知いただくとともに、関係方面に対する周知・指導方よろしくお願いする。
1 医業類似行為に対する取扱いについて
(1) あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復について
   医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第十二条及び柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第十五条により、それぞれあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師の免許を有する者でなければこれを行ってはならないものであるので、無免許で業としてこれらの行為を行ったものは、それぞれあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十三条の五及び柔道整復師法第二十六条により処罰の対象になるものであること。
(2) あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復以外の医業類似行為について
   あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復以外の医業類似行為については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二により同法公布の際引き続き三か月以上医業類似行為を業としていた者で、届出をした者でなければこれを行ってはならないものであること。したがって、これらの届出をしていない者については、昭和三十五年三月三十日付け医発第二四七号の一厚生省医務局長通知で示したとおり、当該医業類似行為の施術が医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば禁止処罰の対象となるものであること。
2 いわゆるカイロプラクティック療法に対する取扱いについて
   近時、カイロプラクティックと称して多様な療法を行う者が増加してきているが、カイロプラクティック療法については、従来よりその有効性や危険性が明らかでなかったため、当省に「脊椎原性疾患の施術に関する医学的研究」のための研究会を設けて検討を行ってきたところである。今般、同研究会より別添のとおり報告書がとりまとめられたが、同報告においては、カイロプラクティック療法の医学的効果についての科学的評価は未だ定まっておらず、今後とも検討が必要であるとの認識を示す一方で、同療法による事故を未然に防止するために必要な事項を指摘している。
   こうした報告内容を踏まえ、今後のカイロプラクティック療法に対する取扱いについては、以下のとおりとする。
(1) 禁忌対象疾患の認識
   カイロプラクティック療法の対象とすることが適当でない疾患としては、一般には腫瘍性、出血性、感染性疾患、リュウマチ、筋萎縮性疾患、心疾患等とされているが、このほか徒手調整の手技によって症状を悪化しうる頻度の高い疾患、例えば、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症、骨粗しょう症、環軸椎亜脱臼、不安定脊椎、側彎症、二分脊椎症、脊椎すべり症などと明確な診断がなされているものについては、カイロプラクティック療法の対象とすることは適当ではないこと。
(2) 一部の危険な手技の禁止
   カイロプラクティック療法の手技には様々なものがあり、中には危険な手技が含まれているが、とりわけ頚椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要があること。
(3) 適切な医療受療の遅延防止
   長期間あるいは頻回のカイロプラクティック療法による施術によっても症状が増悪する場合はもとより、腰痛等の症状が軽減、消失しない場合には、滞在的に器質的疾患を有している可能性があるので、施術を中止して速やかに医療機関において精査を受けること。
(4) 誇大広告の規制
   カイロプラクティック療法に関して行われている誇大広告、とりわけがんの治癒等医学的有効性をうたった広告については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十二条の二第二項において準用する第七条第一項又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第六十九条第一項に基づく規制の対象となるものであること。
別添 略
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。