裁判の執行

第0 目次

第1 裁判の執行の時期等
第2 執行指揮
第3 自由刑の執行
第4 自由刑の執行停止及び執行延期
第5 未決勾留日数の通算
第6 財産刑等の執行

第1 裁判の執行の時期等

1 裁判の執行とは,国家の強制力により裁判の内容を実現することをいいます。
   裁判は,上訴又はこれに準ずる不服申立てによって争うことができなくなったときに確定し,その裁判内容に応じた執行力を生じることとなります。

2 裁判の執行については,刑訴法及び刑訴規則の他,執行事務規程に詳細な規定が設けられています(検察庁法32条,検察庁事務章程29条参照)。

3(1) 裁判は,原則として,確定した後に執行されます(刑訴法471条)。
(2) 以下の場合,裁判の確定を待たずに直ちに執行することができます。
① 即時抗告の許されない決定
   執行停止決定(刑訴法424条1項ただし書,2項)がない限り,直ちに執行することができます。
② 仮納付の裁判
   直ちに執行することができます(刑訴法348条3項)。
   ただし,不完納の場合でも,労役場留置をすることはできません(刑法18条5項参照)。

4 以下の場合,裁判が確定しても直ちに執行することはできません。
① 訴訟費用の負担を命じる裁判
   訴訟費用の執行免除の申立ての期間内(裁判が確定してから20日以内であることにつき刑訴法500条),及びその申立てがあったときは,その申立てについての裁判が確定するまで執行されません(刑訴法483条)。
② 罰金又は科料不納付の場合の労役場留置
  裁判確定後,罰金については30日以内,科料については10日以内は,本人の承諾がなければ留置の執行はされません(刑法18条5項)。
③ 死刑の判決
   法務大臣の命令がなければ執行されません(刑訴法475条1項,執行事務規程10条参照)。
④ 保釈の決定
   保釈保証金の納付がなければ執行されません(刑訴法94条1項)。

5 検察官又は裁判所若しくは裁判官は,裁判の執行に関して必要があると認めるときは,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができます(刑訴法507条)。

第2 執行指揮

1 裁判の執行指揮は,原則として,その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が行います(検察庁法4条,5条,及び刑訴法472条1項)。
   ただし,上訴審の裁判,又は上訴の取下げにより下級の裁判所の裁判を執行する場合,上訴裁判所に対応する検察庁の検察官が指揮します(刑訴法472条2項)。

2(1) 刑の執行指揮は書面で行い,裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添える必要があります(刑訴法473条本文,刑訴規則36条1項・57条)。
(2) 刑の執行指揮に関する書面は,執行指揮書といわれます(執行事務規程19条)。

3 刑以外の裁判の執行は,必ずしも書面によることを必要とせず,裁判書の原本,謄本若しくは抄本又は裁判を記載した調書の謄本若しくは抄本に「認印」して,執行を指揮することができます(刑訴法473条ただし書)。
   この認印は実務上,「指揮印」と呼ばれており,例えば,勾留状の執行は,指揮印によって行われています(事件事務規程23条1項)。

第3 自由刑の執行

1 自由刑の判決が執行される場合,被告人は刑事施設に収容されます(懲役につき刑法12条2項,禁錮につき刑法13条2項及び拘留につき刑法16条)。

2 拘禁中の被告人について自由刑の判決が確定したときは,検察官は,速やかにその者が収容されている刑事施設の長に対し,刑の執行を指揮します(執行事務規程17条1項)。

3(1) 拘禁されていない被告人について自由刑の判決が確定したときは,検察官は,執行のためにこれを呼び出すことを要し,被告人が呼出しに応じない場合,収容状を発付しなければなりません(刑訴法484条,執行事務規程18条1項)。
   ただし,自由刑の言渡しを受けた被告人が逃亡し,又は逃亡するおそれがあるときは,検察官は呼び出すことなく直ちに収容状を発付し,又は司法警察員をしてこれを発付させることができます(刑訴法485条,執行事務規程21条)。
(2) 収容状(刑訴法487条)は,勾引状と同一の効力を有し(刑訴法488条),その執行については拘引状の執行に関する規定が準用されます(刑訴法489条)。

第4 自由刑の執行停止及び執行延期

1 自由刑の執行停止
(1) 自由刑の執行停止には,①必要的刑の執行停止,及び②任意的刑の執行停止がありますところ,刑の執行停止の間は,刑の時効は停止します(刑法33条)。
(2) 必要的刑の執行停止は,自由刑の言渡しを受けた者が心神喪失の状態にあるときに認められます(刑訴法480条及び481条,執行事務規程28条)
(3) 任意的刑の執行停止は,以下の事由があるときに認められます(刑訴法482条,執行事務規程29条)ものの,実際に刑の執行停止があるかどうかは,検察官の判断次第です。
① 刑の執行によって,著しく健康を害するとき,又は生命を保つことのできないおそれがあるとき。
② 年齢70年以上であるとき。
③ 受胎後150日以上であるとき。
④ 出産後60日を経過しないとき。
⑤ 刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずるおそれがあるとき。
⑥ 祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で,他にこれを保護する親族がないとき。
⑦ 子又は孫が幼年で,他にこれを保護する親族がないとき。
⑧ その他重大な事由があるとき。
(4) 刑の執行指揮前に刑の執行が停止されたときは,執行係事務官は,刑執行停止者にその旨を通知します(執行事務規程31条2項)。
(5) 保護観察所の長は、刑執行停止者について,検察官の請求(執行事務規程31条7項参照)があったときは,その者に対し,適当と認める指導監督,補導援護並びに応急の救護及びその援護の措置をとることができます(更生保護法88条)。
2 自由刑の執行延期
(1) 自由刑の言渡しを受けた者が,病気等の理由で執行の延期の申立てをしたときは,検察官は,その事由について調査し,やむを得ない事情があると認めるときは,自由刑の執行を延期することができます(執行事務規程20条)。
(2) 自由刑の執行延期は,自由刑の執行停止と異なりますから,刑の時効は停止しません。

第5 未決勾留日数の通算

1 未決勾留とは,勾留状による被告人の勾留をいいますところ,未決勾留日数の通算には以下のものがあります。
① 法定通算(刑訴法495条)
   法定通算とは,未決勾留日数を本刑に通算するかどうかの裁量権が裁判所にゆだねられておらず,本刑が執行される際,法律上当然に本刑に算入されるものをいいます。
(a) 上訴提起期間中の未決勾留日数
   上訴申立後の未決勾留日数を除き,全部これを本刑に通算します(刑訴法495条1項)。
(b) 上訴申立後の未決勾留日数
   検察官が上訴を申し立てたとき,又は検察官以外の者が状を申し立てた場合において,その上訴審において原判決が破棄されたときは,全部これを本刑に通算します(刑訴法495条2項)。
(c) 上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留は,上訴中の未決勾留日数に準じて,これを通算します(刑訴法495条4項)。
② 裁定通算(刑法21条)
   裁定通算とは,裁判所の裁量によって,判決主文において刑の言渡しと同時に,未決勾留日数の全部又は一部を本刑に算入することをいいます。

2 控訴審が被告人の控訴に基づき第一審判決を破棄する場合,控訴申立後の未決勾留日数は,刑訴法495条2項2号により,判決が確定して本刑の執行される際当然に全部本刑に通算されるべきものであって,控訴裁判所には,右日数を本刑に通算するか否かの裁量権が委ねられていません。
   そのため,刑法21条により控訴審判決においてその全部又は一部を本刑に算入する旨の言渡しをすべきではありません(最高裁昭和46年4月15日判決。なお,先例として,最高裁昭和26年3月29日決定)。

第6 財産刑等の執行

1 総論
(1) ①罰金,②科料,③没収等の財産刑のほか,④追徴,⑤過料,⑥没取(ぼっしゅ),⑦訴訟費用,⑧費用賠償,⑨仮納付,⑩犯罪被害者等保護法11条1項の費用及び⑪民事訴訟法303条1項の納付金の裁判は,検察官の指揮又は命令によって執行されます(刑訴法472条・490条1項。②没収につき刑訴法496条,⑤過料につき民事訴訟法189条及び非訟事件手続法163条,⑨につき刑訴法494条)。
   なお,③没収を除く10種類のものは徴収金といわれ(徴収事務規程1条),国の債権の管理等に関する法律(昭和31年5月22日法律第114号。昭和32年1月10日施行)の適用がありません(同法3条1項1号)。
(2) 罰金(刑法15条)は1万円以上であるのに対し,科料(刑法17条)は1000円以上1万円未満です。
(3)ア 没収(刑法19条)とは,物の所有権を原所有者から剥奪して国庫に帰属させる処分をいい,証拠品の没収手続については,証拠品事務規程26条ないし43条で定められています。
イ 没収の目的である株券が押収されて検察官に保管されている場合,没収の判決の確定と同時に没収の効力,つまり,株式の国庫帰属の効力を生じ,この場合,特に検察官の執行命令による執行を必要とするものではありません(最高裁昭和37年4月20日判決)。
(4) 犯罪による利得を犯人の手に残さないために,没収が不可能な場合,追徴されます(刑法19条の2)。
(5) 保釈の取消し等があった場合,保証金は没取されます(刑訴法96条2項及び3項)。
(6) 被害者参加人が,裁判所の判断を誤らせる目的で,その資力又は療養費等の額について虚偽の記載のある書面を提出したことによりその判断を誤らせたときは,裁判所は,決定で,当該被害者参加人に対し,被害者参加弁護士の報酬等の全部又は一部を徴収することができます(犯罪被害者等保護法11条1項)。
(7) 民事訴訟における控訴裁判所は,控訴を棄却する場合において,控訴人が訴訟の完結を遅延させることのみを目的として控訴を提起したものと認めるときは,控訴人に対し,控訴提起手数料として納付すべき金額の10倍以下の金銭の納付を命ずることができます(民事訴訟法303条1項)。
(8) 徴収金のうち,罰金,科料,刑事訴訟費用,追徴金又は過料の請求権は,「罰金等の請求権」に当たります(破産法97条6号)。
   そのため,これらの納付義務は,免責許可決定を受けたとしても免責してもらうことはできません(破産法253条1項7号・)。
 
2 徴収金の納付
(1) 徴収金は,所定の納付期限までに,①検察庁が指定する方法で検察庁指定の金融機関に納めるか(徴収事務規程14条1項参照),又は②検察庁に直接納めることになります(徴収事務規程14条2項参照)。
(2) 徴収金が納付期限までに納付されなかったときは,検察官は,必要に応じ,徴収係事務官をして納付義務者に対し,納付書を添付した督促状その他適宜の方法により,その納付を督促させます(徴収事務規程15条)。
(3) 徴収金について納付義務者から納付すべき金額の一部につき納付の申出があったときは,徴収主任(各検察庁の検察事務官から選任されることにつき徴収事務規程3条)は,事情を調査し,その事由があると認めるときは,一部納付願を徴して検察官の許可を受けます(徴収事務規程16条1項)。
(4) 納付義務者から納付延期の申出があったときは,徴収主任は,事情を調査し,その事由があると認めるときは,納付延期願を徴して検察官の許可を受けます(徴収事務規程17条1項・16条1項)。
(5) 納付した罰金は,所得税における事業所得等の必要経費に算入されません(所得税法45条1項6号)し,法人税における各事業年度の所得の金額の計算上,損金に算入されません(法人税法55条4項1号)。
  
3 徴収停止の処分,及び徴収不能決定の処分
(1) 徴収停止の処分
徴収金の納付義務者について以下の事由がある場合,検察官は,徴収停止の処分をすることができます(徴収事務規程39条)。
   ただし,罰金又は科料に係る徴収金については,(a)納付義務者につき①又は②の事由があり,かつ,(b)納付義務者の所在不明以外の事由により労役場留置の執行をすることができないときに限ります。
① 強制執行をすることができる財産がないとき。
② 強制執行をすることによってその生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき。
③ その所在及び強制執行をすることができる財産がともに不明であるとき。
→ 非訟による過料又は訴訟費用に係る徴収金については,その所在が不明であれば足ります。
(2) 徴収不能決定の処分
ア 以下の場合,法律上執行不能ですから,検察官は徴収不能決定の処分をします(徴収事務規程41条)。
① 時効が完成したとき。 
② 納付義務者が死亡したとき。
→ 罰金又は追徴に係る徴収金について刑訴法491条により相続財産に対し執行することができるときを除きます。
③ 罰金,科料又は追徴に係る徴収金についてその言渡しを受けた者に対し大赦,特赦又は刑の執行の免除があったとき。
④ 没取又は訴訟費用に係る徴収金についてその本案の裁判によって有罪の言渡しを受けた者に対し大赦又は特赦があったとき。 
⑤ その他法律上執行できない事由が生じたとき。
イ 以下の場合,事実上執行不能ですから,検察官は,検事総長又は検事長の許可を受けた上で,徴収不能決定の処分をすることができます(徴収事務規程42条)。
① 納付義務者が解散した法人である場合において,その法人が無資力であるとき。
② 納付義務者が外国人であってその者が出国したとき。
  
4 労役場留置の執行
(1) 罰金又は科料を完納することができない場合,1日以上2年以下の期間,労役場に留置されます(刑法18条1項及び2項)。
ただし,少年に対しては,労役場留置の言渡しをされることはありません(少年法54条)。
(2) 労役場とは,法務大臣が指定する刑事施設に附置する場所をいいます(刑事収容施設法287条1項)。
(3) 裁判所が罰金の言渡しをするときは,その言渡しとともに,罰金を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡します(刑法18条4項)。
   具体的には,罰金判決の主文において,以下のように言い渡されます。
被告人を罰金20万円に処する。これを完納することができないときは,金5,000円を一日に換算した期間(端数があるときは,これを一日に換算する)被告人を労役場に留置する。
(4) 労役場留置者の処遇に関しては,その性質に反しない限り,懲役受刑者に関する処遇が準用されます(刑事収容施設法288条)。
(5) 罰金については裁判が確定した後30日以内,科料については裁判が確定した後10日以内は,本人の承諾がなければ,労役場留置の執行をされることはありません(刑法18条5項)。
(6) 罰金又は科料に係る徴収金について納付義務者が完納しない場合において,労役場に留置するときは,検察官は,刑事施設の長に対し,労役場留置執行指揮書によりその執行を指揮します(徴収事務規程30条1項)。
(7) 検察官が労役場留置の執行をする場合,罰金等の言渡しを受けた者に対し,呼出状を送付したり,収容状を発付したりします(刑訴法505条・484条及び485条,並びに徴収事務規程32条及び33条)。
(8) 刑事施設の長,労役場留置の執行を受けている者又はその関係人から刑訴法480条又は482条各号に規定する事由(=刑の必要的又は任意的執行停止の事由)による労役場留置の執行停止の上申があった場合,検察官は,その事由を審査し,事由があると認めるときは,労役場留置執行停止書を作成し,釈放指揮書によりその者が収容されている刑事施設の長に対し,釈放の指揮をします(徴収事務規程37条1項)。
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2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。