交通事故の示談をする場合の留意点

第0 目次

第1 弁護士に依頼すべきであること
第2 自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと
第3 示談とは別枠で支払を受けることができるお金
第4 示談金における主な項目等
第5 任意保険会社との示談の形式(示談書・免責証書)
第6 第三者行為災害として労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があること
第7 人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと
第8 金員仮払いの仮処分命令

*1 後日,労災保険に対して障害補償給付等を請求する予定がある場合,加害者側の損害保険会社との間で示談をすることができません。
*2 「任意保険の示談代行制度」及び「後遺障害の等級認定に不服がない場合の手続」も参照して下さい。
*3 外部HPの「自動車事故の示談における,損保の恐ろしい実態」には,「自動車保険の落とし穴(朝日新書)」からの引用として,「損保会社がやっている示談交渉サービスには,真実追及とか原因究明なんて高尚な理念はありません。一言で言うなら,いかに会社側の損害を抑えられるかってことですね。」などと書いてあります。

第1 弁護士に依頼すべきであること

1 任意保険会社が示談交渉で示す示談金は,裁判基準に基づく金額を下回ることはもとより,弁護士が介入した後に示す金額よりも低いことが通常です。
   そのため,任意保険会社から示談金を示された場合,弁護士に相談することが非常に望ましいです。

2   
弁護士費用特約を利用できる場合,加害者に対する損害賠償請求について,依頼者となる被害者に弁護士費用の自己負担が発生することはありません(「弁護士費用特約」参照)。

第2 自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと

1 平成14年3月11日付の国土交通省自動車交通局保障課長通知「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」(国土交通省HPの告示・通達検索参照)に基づき,任意保険会社は,被害者と初期に接触した時点で,一括払の金額は自賠責保険支払限度額内では自賠責保険の「支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示)(自動車損害賠償保障法16条の3)による積算額を下回らないことを記載した書面を交付することにより,任意保険会社の支払額は自賠責保険の「支払基準」を下回らないことが義務づけられています。
   これは,任意保険会社が過失相殺なり損害算定なりについて厳しい主張をする場合がありますところ,被害者が自賠責保険会社に自分で請求手続をとれば,「支払基準の水準で損害賠償額の支払を受けられるのに,任意保険会社から直接,賠償金を受け取ることにより,「支払基準」に達しない賠償しか受けられなくなるという事態を回避するためのものです。
   つまり,任意保険会社が示談をする場合,自賠責保険の「支払基準」(自動車損害賠償保障法16条の3)を下回る金額で被害者と示談することはできません。

2 一般のHPとしては,「自賠責保険金の支払基準」の記載が分かりやすいです。

第3 示談とは別枠で支払を受けることができるお金

   最高裁判例によれば,以下の保険金は,加害者からの損害賠償金,自賠責保険金等とは別枠で支払を受けることができます。
① 生命保険の死亡保険金(最高裁昭和39年9月25日判決
② 生命保険の傷害給付金及び入院給付金(最高裁昭和55年5月1日判決
→ 最高裁判例はないものの,医療保険の入院給付金及び通院給付金,並びに都道府県民共済(大阪府の場合,大阪府民共済)の入院給付金及び通院給付金についても同様の取扱いを受けると思われます。
③ 搭乗者傷害保険の保険金(最高裁平成7年1月30日判決参照)
④ 労災保険から受領した特別支給金(最高裁平成8年2月23日判決

第4 示談金における主な項目等

1 任意保険会社が示談交渉で示す示談金のうち,金額の大きな項目は通常,以下のとおりです。
   ただし,自賠責保険の後遺障害等級認定がない場合,④後遺障害逸失利益及び⑤後遺障害慰謝料を支払ってもらうことはできません。
① 治療費
② 休業損害
③ 入院慰謝料及び通院慰謝料
④ 後遺障害逸失利益
→ 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間によって計算します。
⑤ 後遺障害慰謝料

2(1) 義肢,歯科補てつ,義眼,眼鏡(コンタクトレンズを含む。),補聴器,松葉杖等の買換費用は治療関係費に含まれますから,物損に関する示談が成立している場合であっても請求できます。
   自賠責保険の場合,眼鏡(コンタクトレンズを含む。)は5万円が上限とされていますが,任意保険の場合,こうした上限はありません。
(2) 眼鏡等は身体の機能を補完するために必要なものである点で眼鏡等の損傷は人損ですし,交通事故時と同じ眼鏡等を再調達するのに必要な費用が損害となる点で減価償却は不要です。

3 痛み,しびれ等の後遺障害が14級に該当する場合,労働能力喪失期間は2年から5年であり,12級に該当する場合,労働能力喪失期間は5年から10年です。

4 弁護士に依頼して訴訟を提起して判決をもらった場合,遅延損害金(年5%)及び弁護士費用(損害額の10%)を追加で支払ってもらえます。
   ただし,訴訟を提起した後に和解をした場合,若干の遅延損害金はプラスされますものの,弁護士費用(損害額の10%)を加害者から支払ってもらうことはできません。

第5 任意保険会社との示談の形式(示談書及び免責証書)

1 総論
(1)   加害者(=被保険者)側の任意保険会社と示談をする場合,被害者にも過失があるときは示談書を作成し,被害者に全く過失がないときは免責証書を作成します。
(2) 過失割合に争いがない場合,まずは物損について示談をし,症状固定となった後に人損について示談することとなります。
(3) 示談書及び免責証書は通常,3枚複写となっており,示談金の振込口座となる被害者又はその代理人弁護士の預貯金口座は2枚目及び3枚目にだけ記載されるのであって,加害者側の控えとなる1枚目には記載されません。

2 示談書
(1) 示談書とは,加害者及び被害者がお互いに対していくら支払うことで交通事故を解決するかを記載した書面であり,加害者及び被害者の両方の署名押印がなされます。
   つまり,示談書の場合,加害者及び被害者の両方の署名押印が必要となる点で作成に手間が掛かります。
(2)   被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が加害者との間で示談書を作成した場合,加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できることとなります。

3 免責証書
(1) 免責証書とは,被害者が一方的に加害者及び任意保険会社宛に金○○円を受領することにより,加害者に対する損害賠償請求権を放棄することを宣言して署名押印する書面をいい,加害者の署名押印,及び任意保険会社の記名押印はなされません。
   つまり,免責証書の場合,被害者の署名押印だけで足りますから,示談書の作成ほどは手間が掛かりません。
(2)   損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が免責証書を作成した場合, 加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できるということです。
(3)ア 東京海上日動火災保険株式会社と示談をする場合,免責証書の本文は以下のような文面になっています。
「上記事故によって乙の被った一切の損害に対する賠償金として,乙は「甲・丙」の保険契約に基づき丁より既払額○○万円の他に○○万円を受領後には,その余の請求を放棄するとともに,上記金額以外に何ら権利・義務関係の無いことを確認し,甲・丙および丁に対し今後裁判上・裁判外を問わず何ら異議の申立て,請求および訴えの提起等をいたしません。」
イ   甲及び丙は加害者であり,乙は被害者であり,丁は甲及び丙が被保険者となっている任意保険会社のことです。
   ただし,加害者が1人だけの場合,丙はいません。

第6 第三者行為災害として労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があること

1 交通事故が労働災害に該当する場合,被災者は,使用者とは別の第三者の加害行為によってケガをしたこととなりますから,第三者行為災害となります。

2 第三者行為災害の場合,労災保険は,被災者である交通事故被害者に支払った障害補償給付等を,被災者の過失割合に応じて損害保険会社に請求します。
   そのため,後日,労災保険に対して障害補償給付等を請求する予定がある場合,加害者側の損害保険会社との間で示談をすることができません。

3   示談が真正に成立し,かつ,その示談内容が,受給権者の第三者に対する損害賠償請求権(保険給付と同一の事由に基づくものに限る。)の全部の填補を目的とするものである場合,放棄した損害賠償請求権について,労災保険からの支給を受けることができなくなります(最高裁昭和38年6月4日判決参照)。
   また,慰謝料「以外の」名目で加害者から損害賠償金を支払ってもらった場合,その分,労災保険からの支給が減ります(労災保険法12条の4第2項)。
   そのため,労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があります。

4 詳細については,「第三者行為災害としての交通事故」を参照してください。

第7 人身傷害補償保険からの給付があるかもしれないこと

1 被害者に過失がある事故であっても,被害者について人身傷害補償保険が適用される場合,示談の前後を問わず,過失部分について人身傷害補償保険からの給付があります。
   具体的にどのような場合に適用されるかについては,「人身傷害補償保険」を参照して下さい。

2 加害者に対する損害賠償請求訴訟をした上で,判決又は訴訟上の和解により損害賠償金を回収した場合,自分の過失部分について,金額が少ない人身傷害基準ではなく,金額が多くなる訴訟基準に基づく保険金を支払ってもらえます。

   そのため,自分の過失割合が少ない場合,実質的に自分に過失がなかった場合と同額の損害賠償金を受領できることとなります「人身傷害補償保険」参照)。

3 人身傷害補償保険の内容によっては,
自分又は家族について,他の自動車に乗車中に交通事故が発生したり,歩行中や自転車運転中に交通事故が発生したりした場合であっても,過失部分について人身傷害補償保険から給付されることがあります
「人身傷害補償保険」参照)

第8 金員仮払いの仮処分命令

1 交通事故の被害者において相手方から直ちに損害賠償金を回収しないと生活に困窮するといった事情がある場合,民事保全法23条2項所定の「仮の地位を定める仮処分命令」の一種である,金員仮払いの仮処分命令を利用することができます。

2 金員仮払いの仮処分命令を利用するためには,①被保全権利(例えば,交通事故に基づく損害賠償請求権)の疎明(民事保全法13条2項参照),及び②「争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)に該当することを疎明する必要があります。
②については,(a)直近2ヶ月分の家計簿を提出するとともに,(b)依頼者名義の預貯金通帳をすべて開示し,預貯金の残高がほとんど残っていないことを裁判所に説明する必要があります。

3 金員仮払いの仮処分命令は,原則として,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ない限り,発令してもらうことができません(民事保全法23条4項)。

4 交通事故事件において人身傷害補償保険を利用できる場合,民事保全法23条2項所定の事由がありませんから,金員仮払いの仮処分を利用することはできません。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。