人身傷害補償保険

第1 人身傷害補償保険

1(1) 人身傷害補償保険は,交通事故により記名被保険者及びその同居の家族等が損害を被った場合に保険金を支払うものです。
   被害者の過失部分の損害を補償するということで,被保険者らの過失であると,加害者の過失であるとを問わず,一括して保険金が支払われます。
(2) 人身傷害補償保険の保険金は,実際の損害額を基準としているものの,自動車保険約款の基準に基づく金額であって,訴訟基準に基づく金額よりも少ないです。
   ただし,人身傷害補償保険の場合,被保険者の現実収入が少なくても,年齢別平均賃金によって休業損害や逸失利益を算定することが認められている場合がありますから,場合によっては,人身傷害補償保険の保険金が実際の損害額を上回ることがあります。
(3) 人身傷害補償保険は,損害保険市場の自由化を受けて,当時の東京海上火災保険株式会社が平成10年10月1日に発売を始めた保険商品です。

2 人身傷害補償保険は,人身損害の「被害者側が」契約しておき,被害者側に保険金が支払われるものであるという点で,人身損害の「加害者側が」契約しておき,加害者側の損害賠償責任を填補するために保険金が支払われる「賠償責任保険」とは異なります。
 
3 搭乗者傷害保険(定額払い)にも加入している場合,人身傷害補償保険(実損払い)とは別枠で搭乗者傷害保険が適用されます(「搭乗者傷害保険」参照)。
 
4(1) 被害者の過失が0%であり,加害者が対人賠償責任保険に加入している場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に入っている場合と入っていない場合とで異なりません。
   これに対して被害者の過失がわずかでもあったり,加害者が対人賠償責任保険に加入していなかったりした場合,被害者が受領できる損害賠償金は,被害者が人身傷害補償保険に張っている場合の方が多くなります。
(2) はじめて自動車保険HPの「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,対人賠償責任保険の加入率は73.8%であり,自動車共済を含めても加入率は約85%とのことです。
   そのため,約15%の自動車は自賠責保険にしか入っていないこととなりますから,人身傷害補償保険に入っておいた方が安心です。
   実際,「全国・都道府県別の自動車保険の加入率」によれば,平成27年3月末時点において,人身傷害補償保険の加入率は67.0%となっています。
 
5 人身傷害補償保険だけを利用した場合,ノンフリート等級が下がることはありません(「ノンフリート等級」参照)。
 
6 人身傷害補償保険は,自分の側に100%の過失がある場合であっても使えます。 

第2 人身傷害補償保険が適用される場合等

1 人身傷害補償保険が適用される場合
(1) 人身傷害補償保険は以下の場合に適用されます。
① 被保険自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・  搭乗者全員に適用されます。
② 「他の」自動車に乗車中に交通事故が発生した場合
・   記名被保険者及びその家族に適用されます。
   例えば,友人の車に乗っているときに交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
③ 歩行中や自転車運転中に交通事故が発生した場合 
・   記名被保険者及びその家族に適用されます。
   例えば,子供が通学途中に交通事故にあってケガをした場合に適用されます。
(2)  ②及び③の家族の範囲は,記名被保険者(=保険証券に記載されている被保険者),記名被保険者の配偶者,同居の親族及び別居の未婚の子(=婚姻歴がない子)です。
(3)ア ②の「他の自動車」には,自分所有の別の自動車,及び家族所有の自動車は含まれません。
   そのため,例えば,人身障害補償保険に入っていない配偶者の車に乗車中に交通事故が発生した場合,人身障害補償保険が適用されることはありません。
イ 社用車など勤務先の自動車に業務のために搭乗している場合,②の例外として人身障害補償保険は適用されません。
   ただし,この場合,業務災害として労災保険の対象となります。
(3) 二輪自動車又は原動機付自転車に乗車中に交通事故が発生した場合,自動車に関する人身傷害補償保険は通常,適用されません。
 
2 人身傷害補償保険の適用範囲には差があること
(1) 人身傷害補償保険によっては,適用される場合が①の場合に限定されていることがあります。 
   例えば,東京海上日動及び損保ジャパン日本興亜の自動車保険の場合,人身傷害補償保険が適用されるのは①の場合に限られるのであって,特約を付けた場合に限り,②及び③の場合にも適用されることとなります(東京海上日動HPの「人身傷害保険」,及び損保ジャパン日本興亜HPの「人身傷害保険」参照)。
(2) セゾン自動車火災の「おとなの自動車保険」の場合,2016年3月末時点でいえば,97.3%が人身傷害補償保険に加入し,そのうちの86.1%が「車内・車外ともに補償」(=①ないし③の場合すべての補償)を選んでいるとのことです(おとなの自動車保険HPの「人身傷害」参照)。

3 具体例
(1) 搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていた場合において,運転手に過失があるとき,当該運転手に対し,自分の自動車保険から,搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
(2)   友人の自動車に同乗しているときに交通事故にあった場合において,その友人が搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方に入っていたとき,当該同乗者に対し,友人の自動車保険から,対人賠償責任保険に加えて搭乗者傷害保険及び人身障害補償保険の両方から保険金が支払われます。
   この場合において,当該同乗者の同居の父親が,車外事故も対象とする人身傷害補償保険に加入していた場合,当該同乗者は,父親の人身傷害補償保険からも保険金が支払われますものの,友人及び父親の人身傷害補償保険から二重に保険金が支払われるわけではありません。

第3 人身傷害補償保険の請求時期と,最終的な回収額との関係

1 前提となる事例等
(1)   訴訟基準に基づく被害額が1000万円となり,人身障害補償保険の基準に基づく被害額が800万円となり,過失割合が40%の交通事故の被害者が,加害者の対人賠償責任保険及び自分の人身傷害補償保険の両方を利用できる。
(2) 訴訟基準に基づく被害額というのは,民法上認められるべき過失相殺前の損害額のことです(最高裁平成24年2月20日判決)。
 
2 被害者が先に人身傷害補償保険の保険金の支払を受けた場合(人傷先行型)
(1) 被害者は,自分の過失割合に関係なく,人身傷害補償保険から800万円を支払ってもらえます。
    その後,加害者Yに対して損害賠償請求訴訟を提起した場合,差額の200万円を支払ってもらえます(最高裁平成24年2月20日判決)。
   そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
(2) 人傷先行型の場合,人身傷害補償保険の保険会社が加害者の対人賠償責任保険に対して加害者の過失部分600万円について求償することとなります。
    その関係で人身傷害補償保険の保険会社の手間が増えますから,被害者の過失割合が小さい場合,被害者にとっての必要性が小さいことと相まって,手続を嫌がられることがあります。
   また,損害賠償請求訴訟を提起した場合,訴訟上の和解をするにしても5%の遅延損害金を考慮してもらえますから,先に人身傷害補償保険の保険金を受領した場合,その分,遅延損害金が減ることとなります。
(3) 人傷先行型の場合,支払われた保険金額の限度において,被保険者が加害者に対して有する損害賠償請求権が保険会社に移転します(請求権代位)。
   この場合,保険会社は,被保険者に対し,人身傷害補償保険(=協定保険金)を支払う前に,請求権代位に関する協定書を作成することとなりますところ,以下のような文言にしておくと安全です。
① 本件事故に関して,私と貴社との間に上記協定保険金以外に人身傷害補償保険に関する債権債務がないこと
→ 「人身傷害補償保険に関する」を入れた方がいいです。
② 乙に対する損害賠償請求権及び自賠責保険損害賠償請求権は,最高裁判例及び改正保険法の規定に従い,上記支払保険金を限度として貴社に移転すること。
→ 青文字部分が「貴社に移転し,貴社が優先して請求・受領すること」といった文言になっている場合,被害者の最終的な回収額が減少する危険があります。
(4) 被害者が人身傷害補償保険に基づく傷害保険金を受領した場合,保険会社の代位の成否及びその範囲を確定するため,裁判所としては,人身傷害補償保険の約款の具体的内容を必ず確認する必要があります(最高裁平成20年10月7日判決参照)。
 
3 被害者が先に加害者から損害賠償金を回収した場合(賠償先行型)
(1)    被害者は,加害者から600万円(=1000万円×加害者の過失割合60%)の損害賠償金を支払ってもらえます。
   その後,被害者が人身傷害補償保険に保険金を請求した場合,以下の二つの取扱いがあります。
① 人傷基準差額説に基づく取扱い(大阪高裁平成24年6月7日判決
   この場合,人身傷害補償保険の基準に基づく被害額は800万円であり,既に600万円の損害賠償金が支払われているから,差額の200万円しか支払ってもらえません。
   そのため,被害者の最終的な回収額は800万円となります。
② 訴訟基準差額説に基づく取扱い(最高裁平成24年5月29日判決の裁判官田原睦夫の補足意見)
   この場合,訴訟基準に基づく被害額は1000万円であり,既に支払われた600万円との差額400万円を支払ってもらえます。
   そのため,被害者の最終的な回収額は1000万円となります。
(2)ア 自分が被保険者となっている保険会社が賠償先行型において人傷基準差額説と訴訟基準差額説のどちらを採用しているかを知るためには,弁護士に自動車保険約款を確認してもらった方がいいです。
   特に,加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起した上で損害賠償金を回収した場合,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれる保険会社が増えてます。
イ 「交通事故事件21のメソッド」94頁には,平成28年9月時点の主要な保険約款では,「判決又は訴訟上の和解において賠償義務者が負担すべきとされた損害賠償額」(いわゆる訴訟基準損害額)が人傷基準損害額と異なる場合,訴訟基準損害額を人傷基準損害額とみなす旨の条項が設けられていると書いてあります。
   これによれば,主要な保険会社では,賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてくれることとなります。
ウ 賠償先行型でも訴訟基準差額説で人身傷害補償保険の対応をしてもらえる場合,訴訟上の和解をするのであれば,過失割合よりも損害額にこだわった方がいいです。
(3) 賠償先行型で人身傷害補償保険金を請求する場合,以下の資料が必要となります。
① 交通事故証明書
② 診断書及び診療報酬明細書
③ 休業損害関連資料
④ 訴状
⑤ 判決書,又は和解調書及び和解金の内訳が分かる文書
⑥ その他認定された損害の立証資料
(4) 賠償先行型において,加害者側の任意保険会社との間で,訴訟外で示談をしたり,交通事故紛争処理センターで解決したりした場合,通常は人傷基準差額説での対応しかしてもらえません。
(5) 賠償先行型であると,人傷先行型であるとを問わず,被害者の過失が大きい場合,被害者の最終的な回収額は,訴訟基準損害額に満たないことがあります。
   例えば,被害者の過失割合が100%である場合,被害者は人身傷害補償保険しか受領できませんから,訴訟基準損害額の全額を回収することはできません。 
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。