休業損害

第1の1 休業損害における基礎収入の意義

□ 基礎収入は実収入によって認定するのが原則であり,実収入が賃金センサスを下回る場合,特段の事情がない限り,実収入を基礎として算定されます。
□ 賃金センサスは,厚生労働省大臣官房統計情報部から,毎年7月に実施され,翌年2月に公表される「賃金構造基本統計調査」の結果について,翌年6月に「賃金センサス」全5巻として刊行されています。
  第1巻「全国(産業大分類)」,第2巻「全国(産業中分類)」,第3巻「全国(役職,職種,新規学卒者,標準労働者,短時間労働者,企業規模5人~9人)」,第4巻「都道府県別」,第5巻「全国(雇用形態)」となっています。
  そして,交通事故における基礎収入の認定で一般的に使用されるのは,第1巻第1表の産業計・企業規模計の男女別平均賃金です。
□ 平均賃金は,「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で計算されます。
   また,これらの数字は,賃金構造基本統計調査の「政府統計の総合窓口」の「賃金構造基本統計調査」において,「一般労働者」の中の「産業大分類」と題するファイルに記載されています。
□ センサスとは,特定の社会事象について,特定の時点で一斉に行われる全数調査をいい,通常は,官庁の行う大規模調査をいいます。
□ 外部HPの「「賃金センサス」一覧」に, 平成17年以降の男女別の賃金センサス年収額表が掲載されています。

第1の2 個別の類型ごとの基礎収入の認定

□ 個別の類型ごとの基礎収入の認定は以下のとおりです。
① 給与所得者

  受傷のための休業により現実に喪失した収入額を損害と認めます。
  その算定のための基礎収入は,少なくとも事故直前3ヶ月の平均収入を用いますものの,不確定要素の強い職種についてはより長期間の平均収入を用いることがあります。
  休業中,昇格・昇級があった後はその額を基礎とします。休業に伴う賞与の減額・不支給,昇級・昇格遅延による損害も認められます。
 なお,有給休暇は,現実の収入減がなくても,損害として認められます。
② 事業所得者
  受傷のため現実に収入減があった場合に認められ,原則として,事故直前の申告所得額を基礎とし,申告所得額を上回る実収入額の立証があった場合には,実収入額によります。
  所得中に,実質上,資本の利子や近親者の労働によるものが含まれている場合,被害者の寄与部分だけを基礎とします。
  事業を継続する上で休業中も支出を余儀なくされる家賃,従業員給与等の固定費も損害と認められます。
  被害者の代わりに他の者を雇用するなどして収入を維持した場合,それに要した必要かつ相当な費用が損害となります。
③ 会社役員
  会社役員の報酬については,労務提供の対価部分は認められますものの,利益配当の部分は認められません。
④ 家事従事者
  学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎とします。
  ただし,年齢,家族構成,身体状況,家事労働の内容等に照らし,上記平均賃金に相当する労働を行いうる蓋然性が認められない場合,学歴計・女性対応年齢の平均賃金を参照するなどして基礎収入を定めます。
  有職者で家事労働に従事している場合,実収入額が学歴計・女性全年齢平均賃金を上回っているときは実収入額によりますものの,下回っているときは上記の家事従事者に準じます。
⑤ 無職者(④の者を除く。)
   事故前に現に労働の対価である収入を得ていない者に対しては,原則として,休業損害は認められません。
  ただし,治療が長期にわたる場合で,治療期間中に就職する蓋然性が認められるときは,休業損害が認められます。

第1の3 休業損害の留意点

1 休業損害の対象期間
□  休業損害は,事故による傷害が治癒し,又は症状固定までの間に,受傷のために休業したことにより得ることができなかった額について認められます。
   そして,症状固定の後に発生した損害については,後遺障害逸失利益となります。
□ 賠償の対象となる休業期間は原則として現実に休業した期間とされます。
   しかし,症状の内容・程度,治療経過等からして就労可能であったと認められる場合,①現実に休業していても賠償の対象にならないことや,②一定の割合に制限されることがあります(②については,休業損害の割合的認定といいます。)。
□ 土日祝日につき,休業初日より連続して欠勤や有給休暇を取得している場合,休業日数に含まれます。
   これに対して,いったん出勤した後の欠勤日や有給休暇取得日に隣接した土日・祝日については,原則として休業日数に含まれません(特に,任意保険会社との事前交渉の場合)。
   そのため,少なくとも勤務先等の理解により休業できるのであれば,無理に就労することは止めて下さい。
□ 自動車事故による頸部(=首)やその周辺の打ち身,捻挫等の通称名は「むち打ち」であります。
   しかし,むち打ちは,損傷そのものではなくその受傷機転(損傷を負うこととなった原因)を示す用語であり,病名ではありませんから,医師の診断書における診断名としては,頸部捻挫,頸椎捻挫,頸部挫傷,頸椎挫傷,外傷性頸部症候群等となります。
  そして,外傷性頸部症候群等が診断名となっている場合,全額の休業損害は長くても1ヶ月ぐらいまでしか出ませんし,その後の休業損害については割合的認定がなされることが多いです。
   また,首や肩が痛んで動かしにくいという症状だけでしびれ等の症状がない場合,任意保険会社は休業損害を渋りやすいです。
□ むち打ちにおける休業損害については, 「むち打ちの治療等」を参照してください。
 
2 休業損害の認定方法 
□ 休業損害における基礎収入は,事故前3ヶ月間の実収入を基準としたり,事故前年の所得を基準としたりします。
□ 休業損害を請求する場合,源泉徴収票等の前年の所得が分かる書類のほか,勤務先から発行してもらう休業損害証明書が必要となります。
   休業損害証明書の書き方については,外部HPの「休業損害証明書の書き方と覚えておくべき3個のこと」が参考になります。
□ 休業損害は,現実に休業により喪失した額が分かる場合,その額が損害と認められ,それが判明しない場合,基礎収入に休業期間を乗じて算定されます。
  賠償の対象となる休業期間は原則として現実に休業した期間とされますものの,症状の内容・程度,治療経過等からして就労可能であったと認められる場合,①現実に休業していても賠償の対象にならないことや,②一定の割合に制限されることがあります(②については,休業損害の割合的認定といいます。)。
 その関係で,病状の推移が診療記録にどのように書かれてあるかが非常に大事になりますから,身体の不具合については余すところなく積極的に主治医に伝え,できる限りカルテに書いておいてもらって下さい。
□ 自賠責保険の場合,休業損害は原則として1日5700円となります。 

3 失業保険受給中の交通事故
□ 雇用保険の失業等給付の基本手当(いわゆる失業保険)受給中に交通事故にあった場合,原則として休業損害は認められません。
   ただし,①治療が長期にわたる場合で,治療期間中に就職する蓋然性が認められるときは休業損害が認められますし,②15日以上就労できないことが予想される場合,雇用保険の失業等給付から,基本手当に代えて傷病手当を支給してもらえます(雇用保険の全体像につき,ハローワークインターネットサービスの「雇用保険制度の概要」参照)。

第2 給与所得者の場合の補足説明

□ 有給休暇を使用した場合,減収は生じていないものの,本来は他に利用できた有給休暇を事故のために使用しなければならなかったのであり,失った余暇等のための時間は財産的価値を有するものと考えることができるから,損害として認められます。
□ 将来,昇級等による収入の増加を得たであろうことが,証拠に基づいて相当の確かさをもって推定できる場合,昇級等の回数,金額等を予測しうる範囲で控えめに見積もって,将来の得べかりし収入額を算出できます(最高裁昭和43年8月27日判決参照)。

第3 事業所得者の場合の補足説明

1 総論
□ 企業主が生命又は身体を侵害されたため,その企業に従事することができなくなったことによって生ずる財産上の損害は,原則として,企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算定すべきであり,企業主の死亡により廃業のやむなきに至った場合といった特段の事情がない限り,企業主生存中の従前の収益の全部が企業主の当該労務等によってのみ取得されていたと見ることはできません。
  よって,企業主の死亡にかかわらず企業そのものが存続し,収益を上げているときは,従前の収益の全部が企業主の当該労務等によってのみ取得されたものではないと推定されることとなります(最高裁昭和43年8月2日判決参照)。
  つまり,個人事業者の場合,家族等が事業を手伝っていることも多く,事業内容や規模,当該事業者や家族の各職務内容等に基づいて,当該事業者の寄与部分が判断されることになります。

2 過少申告又は赤字申告をしていた場合
□ 過少申告なり赤字申告なりをしていた事業所得者が実際の所得額に基づいて基礎収入の額を主張する場合,過少申告等が単純な売上除外によるものであれば,会計帳簿の他,預貯金通帳等の客観的資料により実際の売上額を立証し,もって実際の所得額を立証できる可能性はあります。
   しかし,過少申告等が経費の水増しによるものであれば,客観的資料により実際の経費の額を立証することは事実上無理ですから,①確定申告の所得額か,②営業規模や入出金の状況,営業の状況,仕事の形態,家族を含めた生活状況,借入金の返済状況,扶養家族の人数等により,性別・学歴別・年齢別平均賃金相当額又は何割かの額を認定してもらえるに過ぎません(詳細につき,平成19年度「赤い本」下巻の116頁以下参照)。

3 関与税理士との間で紛争が生じる可能性があること
□ 税理士は,不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ,又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき,指示をし,相談に応じ,その他これらに類似する行為をしてはなりません(税理士法36条)。
  また,税理士は,税理士業務を行うに当たって,委嘱者が①不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れている事実,②不正に国税若しくは地方税の還付を受けている事実又は③国税若しくは地方税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部若しくは一部を隠ぺいし,若しくは仮装している事実があることを知ったときは,直ちに,その是正をするよう助言する必要があります(税理士法41条の3)。
   よって,税理士に頼んで確定申告をしていた場合,訴訟で実際の所得額を主張すると関与税理士との間で紛争が生じる可能性があります。

4 税務調査等の可能性があること
□ 過少申告等をしていたにもかかわらず,損害賠償請求訴訟において実際の所得額を主張した場合,加害者である被告等が被害者である原告の実際の所得額を税務署等に通報する可能性があります。
  この場合,税務署等から,被害者に対し,以下の調査が入る結果,①増差所得(=実際の所得と申告所得との差額)に対する所得税,住民税,事業税及び消費税,並びに②これらの追加納付税額について(a)原則10%の過少申告加算税(国税通則法65条)・過少申告加算金(地方税である住民税及び事業税の分)又は(b)35%若しくは40%の重加算税(国税通則法68条)・重加算金(地方税である住民税及び事業税の分)を徴収される可能性がないとはいえません。
□ 税務署等の担当部署は以下のとおりです。
① 税務署個人課税部門の税務調査
→ 質問検査権(国税通則法74条の2)に基づき行われる任意調査です。
  この場合,国税調査官がやってきます。
② 国税局査察部の査察
→ 国税犯則取締法に基づき,裁判所の許可状を得て行われる強制調査であり(令状主義を定める憲法35条参照),質問だけでなく,捜索差押え等まで実施します(憲法38条1項に基づく供述拒否権の保障が及ぶことにつき最高裁昭和59年3月27日判決参照)。
   この場合,国税査察官(=マルサ)がやってきます。
□ 税務調査に基づいて過去の税額について更正処分があった場合,納税者は,処分があったことを知った日から3ヶ月以内であれば,国税不服審判所長に対する審査請求を行うことができます。
□  平成28年4月1日施行の国税不服申立て制度の改正につき,国税不服審判所HPの「不服申立制度の改正の概要」が参考になります。

第4 会社役員の場合の補足説明

□ 会社役員が会社から受ける報酬には,労務の対価だけでなく,利益配当等も含まれますところ,損害賠償の対象となるのは,労務対価の部分です。
   労務の対価が役員報酬に占める割合は,会社の規模・営業状態,当該役員の職務内容・報酬額,他の役員や従業員の職務内容・給与額等を勘案して判断されることとなります。 

第5 家事従事者の場合の補足説明

□ 家事従事者は,女性に限らず,家事労働に従事していると認められる男性も含まれます。
□ 家事労働に専念する妻は、平均的労働不能年令に達するまで、女子雇傭労働者の平均的賃金に相当する財産上の収益を挙げるものと推定されます(最高裁昭和49年7月19日判決)。
□ 死亡時に現実収入のない就労前の年少女子の場合,女子労働者の平均給与額を基準として収入額が算定されます(最高裁昭和62年1月19日判決)。
1 相談予約の電話番号は06-6364-8525であり,交通事故及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)の略歴取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ等はこちらであり,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図はこちらです。