精神障害の労災認定実務要領

目次

第1章   はじめに
第2章   認定基準の解説
第3章の1 調査要領1/2
第3章の2 調査要領2/2
第4章   療養中の請求人からの聴取に当たっての留意事項

*0 精神障害の労災認定実務要領(平成27年10月)1/72/73/74/75/76/7及び7/7を掲載しています。
*1 「過労自殺の労災認定」も参照して下さい。
*2 労働省労働基準局が平成4年3月に作成した,事業主賠償との支給調整事務取扱手引1/2及び2/2を掲載しています。 
   左上に「部内限」と書いてあるものの,情報公開請求で開示された文書です。
*3 労働省労働基準局の以下の文書を掲載しています。
① 地方労災医員制度の運用細目について(昭和62年12月22日付の労働省労働基準局長の通達)
② 地方労災医員制度の運用上の留意点について(昭和62年12月22日付の労働省労働基準局労災補償課長の事務連絡)
③ 労災認定における医師の作成する意見書,鑑定書等の早期収集のための医師会,労災病院等との連携について(平成8年3月29日付の労働省労働基準局長の通達)
*4 福祉医療機構(WAM)HP「精神・神経の障害認定に関する専門検討会報告書」(平成15年6月)が載っています。
*5 ゆうメンタルクリニックHP「マンガで分かる心療内科 「はじめての診察」」が載っています。
*6 総務省HP「行政相談FAQ(その他)」に「日常の生活空間で人体に影響を与える電波はありません。また、人体を攻撃する電波(機械や装置)はありません。」などと書いてあります。

第1章 はじめに

1 第2章以下の記載は,厚生労働省労働基準局労災補償部補償課職業病認定対策室が作成した,精神障害の労災認定実務要領(平成24年3月)(外部HPに掲載されているもの)に基づいて記載しています。
 
2(1) 精神障害の労災補償に関するリーフレット,関係通達及び平成14年度以降の労災補償状況については,厚生労働省HPの「精神障害の労災補償について」に掲載されています。
(2) 「過労自殺の労災認定」にあるとおり,労基署による過労自殺の労災認定は1億円前後の損害賠償責任の発生と直結している気がします。

第2章 認定基準の解説

精神障害の労災認定実務要領(平成24年3月)の「認定基準の解説」は以下のとおりです。
 
第1 はじめに

   平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)に定める事項に関し、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(以下「検討会」という。)に事務局が提出した資料の準備作業や、検討会の議論の内容等を踏まえ、認定実務において参考となる事項を以下のとおりまとめているので、認定基準や平成23年12月26日付け基労補発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の運用等について」と併せて理解すること。

 
第2 対象疾病と発病の有無等の判断
1 対象疾病の考え方
   認定基準が「対象疾病のうち業務に関連して発病する可能性のある精神障害」を「主としてICD-10のF2からF4に分類される精神障害」としているのは、F0は器質性の原因によるものであり、F1は有害物質(精神作用物質)の使用によるものであること、F5からF9は、主として個人の生育環境、生活環境等に基づくものと考えられ、業務との関連で発病することはほとんどないことによる。
   また、「いわゆる心身症は、本認定基準における精神障害には含まれない」としているのは、心身症が精神障害の1つと誤解されている面があるが、その定義が、「その発病や経過に心理、社会的因子が密接に関与する身体疾患を言うが、神経症やうつ病など他の精神障害を伴う身体疾患は除外する」とされ、明確に区別されていることから、念のため記載している。
なお、この対象疾病の定義に関しては、検討会の報告は、アメリカ精神医学会による基準(DSM-Ⅳ-TR)など他の診断基準を否定していないが、主治医等の意見を求めるに当たっては、ICD-10に準拠した診断意見となるように意見照会を行うべきとしており、主治医等にこの旨を説明し理解を求める必要がある。
2 発病の有無等の判断
   発病の時期は、他の疾病と異なり、発病日まで特定することには困難を伴うものであり、多くの事案である程度の幅が許容されなければならない事情があるが、労災認定においては、発病の時期が出来事と発病との関係を解明する上できわめて重要な意味を持つことを主治医等に説明し、できる限り時期の範囲を絞り込むよう依頼する必要がある。
   また、発病の時期によっては、発病後に悪化した事案として判断する対象となる場合があることや、算出する時間外労働時間数に大きな違いが生じる可能性があることについて十分認識のうえ調査に当たる必要がある。
 
第3 業務による心理的負荷の強度の判断
1 心理的負荷の強度の区分
   業務による心理的負荷の強度の判断に当たって用いる「業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)の心理的負荷の強度の区分である「強」、「中」、「弱」は、おおよそ次のように想定されている。
   「強」は、対象疾病を発病させるおそれのある程度の強い心理的負荷となるものである。
   また、「弱」は日常的に経験するものであって一般的に弱い心理的負荷にしかならないもの、「中」は経験の頻度は様々であって「弱」に比べれば心理的負荷は強いものの、対象疾病を発病させるおそれがある程度まで強い心理的負荷とはならない。したがって、日常よく見られる出来事(例えば「ごく軽い叱責を受けた」)が原因で精神障害を発病したようなケースでは、出来事がなかったと判断するのは妥当ではなく、心理的負荷が「弱」と判断される出来事があったとまとめる必要がある。
2 特別な出来事
   別表1に列挙された「特別な出来事」は、次のような趣旨で設けられている。
(1)心理的負荷が極度のもの
   出来事それ自体の心理的負荷が極めて大きいため、出来事後の状況に関係なく強い心理的負荷を与えると認め得るものについて、生死にかかわる、極度の苦痛を残す、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした場合等が「心理的負荷が極度のもの」として示されている。
   また、業務上の傷病によりおおむね6か月を超える期間にわたって療養中の者に発病した精神障害についても、症状が急変し極度の苦痛を伴った場合などについてはこの「心理的負荷が極度のもの」として評価されることとなる。これに該当する出来事としては、じん肺患者等が療養の経過の中で症状が急変し、呼吸機能の低下による重度の呼吸困難の状況となったような状況が想定されている。
(2)極度の長時間労働
   極度の長時間労働、例えば、数週間にわたり生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、それ自体がうつ病等の発病原因となるおそれがあることから、発病日から起算した直前の1か月におおむね160 時間を超える時間外労働を行った場合等が「極度の長時間労働」として示されている。
   なお、労働時間の評価方法の詳細については、4(16 頁)を参照のこと。
3 特別な出来事以外の具体的出来事
   別表1に列挙された「具体的出来事」は、各々、次のようなものを評価するようになっている。
(1)類型①「事故や災害の体験
ア (重度の)病気やケガをした(項目1)
   業務上の病気や、ケガをしたことによる心理的負荷を評価する項目である。「重度の」病気やケガであることを前提に、平均的な心理的負荷(Ⅲ)が定められているが、重度とはいえない病気やケガの場合にも、この項目に当てはめる(その上で、心理的負荷の総合評価は「中」や「弱」となる)こととなる。
   この項目では「重度」の評価が重要となるが、「心理的負荷の総合評価の視点」(以下「総合評価の視点」という。)の欄に示される、病気やケガの程度、後遺障害の程度、社会復帰の困難性等の視点から総合評価を行うこととなる。
   例えば、転倒によって鎖骨骨折し1か月程度の入院が必要になった場合、一般的にはこの程度のケガでは全治するものと理解されており、「重度」とまではいえない。このような場合には、この項目に当てはめた上で総合評価を「中」と判断することとなる。
   ここでいう「重度」とは、「強」の具体例に示されているとおり、社会通念に照らして重篤であると認められる程度の傷病を経験した場合や、以前のような仕事を続けることは到底不可能になるようなケガや病気をした場合が想定されている。
   具体例に示されているもののほか、頭部外傷等に関して意識障害が継続した場合や、簡易なものを除き、観血的な手術を行った場合も含まれる。また、療養の過程では重い後遺障害を残すか否か確定しないが、その可能性が医師から告げられたような場合も同様である。
   この項目については、出来事後の状況は重視しないこととなっているが、この趣旨は、出来事後の状況は病気やケガの程度に比例して定まるとの考え方によるものである。したがって、当該病気やケガによってその後就労していないことは評価を下げるものではない。
   なお、例えば、脊髄損傷等により一生寝たきりを余儀なくされるような場合には、「特別な出来事」として評価される。
   また、業務上の傷病により6か月を超えて療養中の者が、その傷病によって生じた強い苦痛や社会復帰が困難な状況を原因として対象疾病を発病したと判断される場合には、当該苦痛等の原因となった傷病が生じた時期は発病の6か月よりも前であったとしても、発病前おおむね6か月の間に生じた苦痛等が、ときに強い心理的負荷となることにかんがみ、この項目で評価するものとなっている。この場合、発病前おおむね6か月の間において、当該苦痛等が存在していれば、症状の急変等が生じていることは必要な条件ではない。なお、症状が急変し極度の
苦痛を伴った場合には、「特別な出来事」として評価される。
イ 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(項目2)
   業務遂行中に起きた悲惨な体験をしたこと等による心理的負荷を評価する項目である。この出来事では自らがケガをしている必要はない。自らがケガをし、ケガをしたことが心理的負荷となっている場合には、「(重度の)病気やケガをした(項目1)」でも評価する。
   この項目では「悲惨さ」の評価が重要となるが、総合評価の視点の欄では、本人が体験した場合として、予感させる被害の程度、他人の事故を目撃した場合として、被害の程度や被害者との関係等が示されており、これらの視点から総合評価を行うこととなる。これらの視点は、事故の異常性や恐怖感の大きさを要素としても評価できると考えられる。また、本人が体験した場合と目撃したことにとどまる場合は区別されており、本人の体験の場合、自らの死を予感させる(「死ぬかもしれない」と感じるような)程度の事件、事故を体験した場合の総合評価は「強」となることが想定されている。一方、目撃にとどまる場合、傍観者的な立場での目撃は、「強」になることはまれだが、特に悲惨な事故であって、本人が巻き込まれる可能性がある状況(自分が被災していてもおかしくなかったという状況)や、本人が被災者を救助することができたかもしれない状況(救助できなかったという自責感が生じるような状況)を伴う事故を目撃した場合の総合評価は「強」となることが想定されている。
   この項目についても、出来事後の状況は重視しないこととなっており、体験や目撃した事故について、その後本人が対応を行っていないことは、評価を下げるものではない。
(2)類型②「仕事の失敗、過重な責任の発生等」
ア 業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした(項目3)
   労働災害や業務中の交通事故、周辺住民等の第三者を巻き込む事故等、業務に関連して重大な人身事故、重大事故を起こしたことによる心理的負荷を評価する項目である。この出来事では自らがケガをしたことは想定されていない。
   この項目では「重大な人身事故、重大事故」の評価が重要となるが、総合評価の視点の欄に示される、事故の大きさ、内容及び加害の程度、ペナルティ・責任追及の有無及び程度、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行うこととなる。
   上記(1)のアで「重度」とされた程度のケガを負わせた事故や、多数の人を傷害したような事故を発生させ、当該事故についての報告書を作成する等の事後対応を行った場合の総合評価は「強」となることが想定されている。また、事故の程度は「重大」ではないが、その後、通常業務のほかに当該事故の処理業務が加わり業務量が著しく増大した、減給や降格等の重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した等の状況がある場合の総合評価も同様に「強」となることが想定されている。
   なお、業務に関連し、人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた場合(故意によるものを除く。)には、「特別な出来事」として評価される。
イ 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした(項目4)
   業務に関連する失敗(ミス)をしたことによる心理的負荷を評価する項目である。
   この項目では「重大さ」の評価が重要となるが、総合評価の視点の欄に示される、失敗の大きさ・重大性、社会的反響の大きさ、損害等の程度、ペナルティ・責任追及の有無及び程度、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行うこととなる。「重大な」ミスに該当するかどうかは、例えば、倒産を招きかねないミス等のほか、会社の信用を著しく傷つけるほどの失敗は通常重大なミスと考えられる。
   このような会社の経営に影響するなどの「重大な」ミスについて社内で報告書を提出する等、ミスをしたことについての事後対応が指示されている場合は、総合評価は「強」となることが想定されている。また、ミスの程度は「重大」とまではいえないものであっても、通常業務のほかに当該ミスの処理業務が加わり業務量が著しく増大した、減給、降格等の重いペナルティを課された、職場の人間関係が著しく悪化した等の状況がある場合にも、総合評価は「強」となることが想定されている。
ウ 会社で起きた事故、事件について責任を問われた(項目5)
   この項目は、「業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした(項目3)」、「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした(項目4)」とは異なり、部下が起こした事故等、本人が直接引き起こしたものではない事故、事件について、監督責任等を問われた場合の心理的負荷を評価する項目である。本人が直接引き起こした事故等については、項目4(人身事故等の場合は項目3)で評価する。
   直接の行為者の場合の心理的負荷と異なり、平均的な心理的負荷は「Ⅱ」とされているが、総合評価の視点の欄に示される、事故の内容、関与・責任の程度、社会的反響の大きさ等、ペナルティの有無及び程度、責任追及の程度、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行う。
エ 自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた(項目6)
   取引先の倒産など、多額の損失等が生じた原因に本人が関与していないものの、その対応に当たったことによる心理的負荷を評価する項目である。本人のミスによる多額の損失等については、項目4で評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、損失等の程度、社会的反響の大きさ等、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行う。
オ 業務に関連し、違法行為を強要された(項目7)
   法令に違反する行為を命じられたことによる心理的負荷、すなわちその命令に従うか否かの葛藤や従ったときの罪悪感などの心理的負荷を評価する項目である。
   いわゆるコンプライアンス違反もこの項目で評価する。
   総合評価の視点の欄に示された、違法性の程度、強要の程度(頻度、方法)等、事後のペナルティの程度、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行う。
例えば、食べれば健康被害が生じるおそれのある食品を法に反して販売することを命じられた場合は、総合評価は「強」になることが想定されている。
カ 達成困難なノルマが課された(項目8)
   納期、工期、売上目標など会社の中に存在する様々なノルマについて、ノルマが課されたことによる心理的負荷、すなわち、その時点における不安感等による心理的負荷とノルマ達成のために強いられた業務による心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示された、ノルマの内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無等、その後の業務内容・業務量の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
キ ノルマが達成できなかった(項目9)
   ノルマが達成できなかったときの責任やペナルティによる不利益等による心理的負荷を評価する項目である。期限の到達時に実際にノルマが達成できなかったという場合だけでなく、期限に至っていないものの、達成できない状況が明らかになった場合にもこの項目で評価することとなる。
   総合評価の視点の欄に示される、達成できなかったことによる経営上の影響度、ペナルティの程度等、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行う。
ク 新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった(項目10)
   新規プロジェクトや研究開発の責任者への就任、会社の建て直し担当への就任等責任が大きい立場になったことによる心理的負荷、すなわち、課された責任に対する不安感や重い責任感等による心理的負荷を評価する項目である。責任を伴わない単なるスタッフという場合にはこの項目ではなく「仕事内容・仕事量の大きな変化があった(項目15)」によって評価するが、当該新規事業等の最高責任者ではなくとも、責任が大きい立場といえる場合にはこの項目でも評価する。
   総合評価の視点の欄に示された、新規業務の内容、本人の職責、困難性の程度、能力と業務内容のギャップの程度等、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
ケ 顧客や取引先から無理な注文を受けた(項目11)
   顧客や取引先から無理な注文を受けた際の、当該取引先等との安定的な関係の維持や自社の経営への影響を考慮した対応等による心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示される、顧客・取引先の重要性、要求の内容等、事後対応の困難性等の視点から総合評価を行う。
コ 顧客や取引先からクレームを受けた(項目12)
   顧客や取引先からクレームを受けた際の、当該取引先等との安定的な関係の維持や自社の経営への影響を考慮した対応等による心理的負荷を評価する項目である。「クレーム」とは、契約を履行した後の苦情、例えば、納品した製品の不具合の指摘等を指し、受注後履行(納品等)までの過程における相手方の要求等については、「顧客や取引先から無理な注文を受けた(項目11)」により評価する。
   また、この項目は、本人に過失のないクレームについて評価するもので、本人のミスによるものは、「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした(項目4)」で評価する。
総合評価の視点の欄に示される、顧客・取引先の位置付け、会社に与えた損害の内容・程度等の視点から総合評価を行う。
サ 大きな説明会や公式の場での発表を強いられた(項目13)
   発表を強いられたことによる心理的負荷、すなわち、その際の不安感等による心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示される、説明会等の規模、業務内容と発表内容のギャップ、強要・責任、事前準備の程度等の視点から総合評価を行うが、「強」になることはまれと想定されている。
シ 上司が不在になることにより、その代行を任された(項目14)
   上司が不在となり、本来業務と併せて上司が行っていた業務の代行を任されたことによる心理的負荷、すなわち、その際の不安感等による心理的負荷を評価する項目である。代行期間の長短にかかわらず、本来業務と併せて上司が行っていた業務の代行を任された場合に評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、代行した業務の内容、責任の程度、本来業務との関係、能力・経験とのギャップ、職場の人間関係等、代行期間等の視点から総合評価を行うが、「強」になることはまれと想定されている。
(3)類型③「仕事の量・質」
ア 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(項目15)
   仕事内容が大きく変化するような新しい担当を命じられた場合や、受注量の急増に伴って勤務時間が急増した場合等に伴って生じる心理的負荷を評価する項目である。仕事内容・仕事量の変化するきっかけとなった業務上のことがらを出来事としてとらえるものであり、人事異動を伴わずに仕事内容や仕事量が変化した場合を想定している。
   なお、配置転換、転勤、出向等によって仕事内容、仕事量が変化する場合を除外するものではなく、その場合には一つの状況を2つの視点から評価し、いずれかで「強」と評価できる場合には総合評価も「強」とする。(いずれの出来事でも「強」にならない場合には、原則として最初の出来事である配置転換等を「具体的出来事」として当てはめ、仕事内容・仕事量の(大きな)変化については出来事後の状況とみなす方法により、その全体評価を行う。)
   仕事内容・仕事量の「大きな」変化であることを前提に、平均的な心理的負荷(Ⅱ)を定めているが、大きいとはいえない変化の場合にも、この項目に当てはめる(その上で、心理的負荷の総合評価は基本的に「弱」となる)こととなる。
   この項目では「大きな」の評価が重要となるが、通常の業務においても新しい仕事に変われば仕事内容・仕事量の変化は多少なりともあるが、「大きな変化」はこれらの通常の変化を超えた変化を意味する。総合評価の視点の欄に示される、
   業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等、時間外労働、休日労働、業務の密度の変化の程度、仕事内容、責任の変化の程度等の視点から総合評価を行うが、業務量の変化の評価については、通常、具体的に示された労働時間数で評価する。
   また、判断指針(平成11 年9月14 日付け基発第544 号)の「職場における心理的負荷評価表」に掲げられていた「研修、会議等の参加を強要された」、「職場のOA化が進んだ」、「部下が増えた」、「同一事業場内での所属部署が統廃合された」、「担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った」等についても、通常、この項目で評価する。
イ 1か月に80時間以上の時間外労働を行った(項目16)
   この項目で評価することとなるのは、原則として引き続く長時間労働の状況以外には特段の出来事が存在しない場合であるが、この項目で「強」と判断できる場合には、他に出来事が存在してもこの項目でも評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、業務の困難性、長時間労働の継続期間の視点から総合評価を行うが、通常、具体例に示された労働時間数で評価する。
   なお、労働時間の評価方法の詳細については、下記4を参照のこと。
ウ 2週間(12日)以上にわたって、連続勤務を行った(項目17)
   突然の事故の発生等により休日が取得できず、連続勤務を行ったことに伴う精神的・肉体的疲労等による心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示される、業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等、時間外労働、休日労働、業務密度の変化の程度、業務の内容、責任の変化の程度等の視点から総合評価を行う。
エ 勤務形態に変化があった(項目18)
   労働時間数に変更はないが勤務形態が変化することに伴う心理的負荷を評価する項目である。勤務形態の変化には、始業・終業時刻の変更、休日の変更、早出番・遅出番の変更、交代制の変更等が含まれる。
   総合評価の視点の欄に示される、交替制勤務、深夜勤務等変化の程度、変化後の状況等の視点から総合評価を行う。
   生活パターンの大きな変更を伴うような勤務形態の変化があった場合は総合評価が「中」となることが想定されている。
オ 仕事のペース、活動の変化があった(項目19)
   仕事のペースが早くなること等に伴う心理的負荷を評価する項目である。流れ作業のペースの変更等が含まれる。ペースは変化しても労働時間等の変化はない。
   労働時間等の変化があった場合には、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(項目15)」により評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、変化の程度、強制性、変化後の状況等の視点から総合評価を行う。
(4)類型④「役割・地位の変化等」
ア 退職を強要された(項目20)
   さまざまな形で行われる退職を求める働きかけを受けたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。したがって、いわゆる退職勧奨であって、退職を強要されたとはいえない場合にもこの項目で評価する。
   総合評価の欄に示される、解雇または退職強要の経過、強要の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。ここでいう「解雇又は退職」にはいわゆる雇止めの通知が含まれる。
   なお、退職の結果として生じる退職後の生活の不安等による心理的負荷は、個人の生活事情に根ざす業務以外の心理的負荷であることから、この項目の心理的負荷の評価には含まない。
イ 配置転換があった(項目21)
   所属部署(担当係等)等同一職場内での人事異動や、勤務場所の変更に伴う心理的負荷を評価する項目である。勤務場所の変更を伴うものを含み、転居を伴うものは含まない。また、関連会社、子会社等への出向を命じられるような場合についても、転居を伴わない場合はこの項目で評価する。出向も含め、転居を伴う人事異動は、この項目ではなく「転勤をした(項目22)」で評価する。配置転換は、転勤と異なり住環境の変化はないが、対人関係、仕事の内容等あらゆる変化に対応しなければならないのが一般的である。
   総合評価の視点の欄に示される、職種、職務の変化の程度、配置転換の理由・経過等、業務の困難度、能力・経験と業務内容のギャップ等、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。職務の変化には、責任の重さの変化の評価が含まれる。
ウ 転勤をした(項目22)
   転居が必要となる人事異動をしたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   転勤は、配置転換と同様、対人関係、仕事の内容等あらゆる変化に対応しなければならず、さらに住環境の変化も伴うものである。
   総合評価の視点の欄に示される、職種、職務の変化の程度、転勤の理由、経過、単身赴任の有無、海外の治安の状況等、業務の困難度、能力・経験と業務内容のギャップ等、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
   また、総合評価に当たり、「配置転換があった(項目21)」の「強」の具体例に該当するような場合には、同様に評価する。
エ 複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった(項目23)
   これまで複数名で担当していた業務を組織再編等により1人で担当することになったことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示される、業務の変化の程度等、その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
   仕事の責任や、役割、立場などの困難性のほか、他に相談する相手がいなくなったという点も評価に含まれる。
オ 非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた(項目24)
   昇格・昇進等人事面、賃金等労働条件面において組織的に受ける差別、不利益取扱いを受けたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。「非正規社員であるとの理由」は例示であるので、これ以外の理由による差別等もこの項目で評価する。
   ここでいう差別等とは、業績不振等により全員が賃金ベースアップが見送られる等の事態は含まれず、同僚等と比べて明らかに均衡を失した不利益取扱いが該当する。同僚等に比べて賃金等が現に低い等の処遇の差異があり、それを当該労働者が不利益取扱いと主張する場合には、当該処遇の差異が合理的なものであってもこの項目で評価するが、その場合、心理的負荷の総合評価は「弱」となる。
   なお、上司、同僚等が職場内で個人的に行う差別等は類型⑤「対人関係」の各項目によって評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、差別・不利益取扱いの理由、経過、内容、程度、職場の人間関係等とその継続する状況の視点から総合評価を行う。
カ 自分の昇格・昇進があった(項目25)
   会社組織の中で行われている係長、課長等への昇格・昇進に伴う心理的負荷を評価する項目である。通常、昇格や昇進は本人にとって好ましい出来事であるが、経験や能力から見て過大な責任を求めるような昇進については一定の心理的負荷が生じることもある。なお、当該昇進で、プロジェクトチームのリーダーや新製品の開発責任者になったような場合は「新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった(項目10)」で評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、職務、責任の変化の程度等、その後の業務内容、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
キ 部下が減った(項目26)
   部下を減員されたことに表れる役割の低下等による心理的負荷を評価する項目である。
総合評価の視点の欄には、職場における役割・位置付けの変化、業務の変化の内容・程度等、 その後の業務内容、職場の人間関係等が例示されており、この視点から総合評価を行う。
人員が減員されても業務量の総量自体が変わらないため、減員した部下の仕事も担当しなければならなくなり、その結果、労働時間が長くなったというような場合には、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(項目15)」によっても評価する。
ク 早期退職制度の対象となった(項目27)
   早期退職制度の対象となったことに伴う心理的負荷を評価する項目である。ただし、形式的には希望退職募集の形はとっていても、事実上の退職勧奨である場合には「退職を強要された(項目20)」によって評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、対象者選定の合理性、代償措置の内容、制度の事前周知の状況、その後の状況、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
ケ 非正規社員である自分の契約満了が迫った(項目28)
   期間の定めのある労働契約を締結している労働者について、その契約期間の満了が迫ったことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   総合評価の視点の欄に示される、契約締結時、期間満了前の説明の有無、その内容、その後の状況、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
(5)類型⑤「対人関係」
ア (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた(項目29)
   嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。ここでいう嫌がらせ・いじめは、上司が部下に対して行った業務指導の範囲を逸脱した言動と同僚等が多人数で結託して行う不快な言動(誹謗中傷、無視等)を指している。したがって、業務指導の範囲内である指導・叱責や、業務上の対立を原因とする心理的負荷は「上司とのトラブルがあった(項目30)」で評価する。ただし、発端は業務指導であったとしても、結果的に業務指導の範囲を逸脱した言動が含まれる場合にはこの項目で評価する。
   また、「ひどい」嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けたことを前提に、平均的な心理的負荷(Ⅲ)を定めているが、ひどいとはいえない場合にも、この項目に当てはめる(その上で、心理的負荷の総合評価は「中」又は「弱」となる。)。
総合評価の視点の欄に示される、嫌がらせ、いじめ、暴行の内容、程度等とその継続する状況の視点から総合評価を行う。
   なお、嫌がらせ、いじめのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価することから、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とすることに留意する必要がある。
イ 上司とのトラブルがあった(項目30)
   上司と部下の間に生じたトラブルに伴う心理的負荷を評価する項目である。ここでいうトラブルは、仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や、業務指導の範囲内と評価される指導・叱責等を指している。
   叱責等がささいなもので客観的にはトラブルとはいえない場合にもこの項目で評価するが、そのような場合には総合評価は「弱」にとどまる。
   総合評価の視点の欄に示される、トラブルの内容、程度等、その後の業務への支障等の視点から総合評価を行う。
ウ 同僚とのトラブルがあった(項目31)
   同僚間に生じたトラブルに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   対立等がささいなもので客観的にはトラブルとはいえない場合にもこの項目で評価するが、そのような場合には総合評価は「弱」にとどまる。一方、対立等が拡大し同僚等の多人数が結託して嫌がらせ等を行う事態に至った場合には、この項目ではなく、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた(項目29)」によりその程度を評価する。
   総合評価の視点の欄に示される、トラブルの内容、程度、同僚との職務上の関係等、その後の業務への支障等の視点から総合評価を行う。
   なお、今回、ストレス調査に関する評価研究の結果に基づき平均的な心理的負荷の程度をⅠからⅡに引き上げている。
エ 部下とのトラブルがあった(項目32)
   部下と上司との間に生じたトラブルに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   トラブルの相手が部下であっても、トラブルに伴う心理的負荷は生じるものであり、上司が孤立する等の状況によっては心理的負荷の程度は強くなる。
   対立等がささいなもので客観的にはトラブルとはいえない場合にもこの項目で評価するが、そのような場合には総合評価は「弱」にとどまる。
   総合評価の視点の欄に示される、トラブルの内容、程度等、その後の業務への支障等の視点から総合評価を行う。
オ 理解してくれていた人の異動があった(項目33)
   日頃の相談相手等の理解してくれていた人が異動し、身近に相談相手がいなくなったようなことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
カ 上司が替わった(項目34)
   上司が替わったことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   なお、上司が替わったことにより、当該上司との関係に問題が生じた場合には、その態様により、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた(項目29)」又は「上司とのトラブルがあった(項目30)」で評価する。
キ 同僚の昇進・昇格があり、昇進で先を越された(項目35)
   昇進で同僚に先を越されたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
(6)類型⑥「セクシュアルハラスメント」
ア セクシュアルハラスメン卜を受けた(項目36)
   セクシュアルハラスメントを受けたことに伴う心理的負荷を評価する項目である。
   ここでいう「セクシュアルハラスメント」は、男女雇用機会均等法に基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18 年厚生労働省告示第615 号)」(以下、本項において「指針」という。20 頁参照)等により示されている概念・内容と基本的には同義である。
   総合評価の視点の欄に示される、セクシュアルハラスメントの内容、程度等、その継続する状況、会社の対応の有無及び内容、改善の状況、職場の人間関係等の視点から総合評価を行う。
   総合評価の視点のうち会社の対応等に関しては、指針で示されている「事業主が雇用管理上講ずべき措置」等について検討する。具体的には、セクシュアルハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応等に着目し、会社の講じた対処等の具体的内容、実施時期等、さらには職場の人的環境の変化、その他出来事後の状況について、十分に検討の上、心理的負荷の強度を評価する必要がある。
   なお、セクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、繰り返される出来事を一体のものとして評価することから、発病の6か月よりも前にそれが開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からのすべての行為を評価の対象とする。この場合、「その継続する状況」は、心理的負荷を強めるが、継続期間が6か月以内であるからといって、心理的負荷が弱いと評価されるものではない。一方で、単純に継続期間が長いことのみをもって心理的負荷が強いと判断されるものでもなく、例えば、発病前おおむね6か月には発言のみのセクシュアルハラスメントであったが、約1年前に身体接触を含むセクシュアルハラスメントが行われていたような場合には、そのセクシュアルハラスメントは全体として身体接触を含むものとなり、その前提で心理的負荷の強度を判断する(したがって、発病前おおむね6か月の行為のみを評価の対象とする場合よりも心理的負荷が強いと評価される)こととなる。

4 時間外労働時間数の算出方法
(1)「極度の長時間労働」等の場合
   業務による心理的負荷の評価に際し、労働時間数が評価の直接の対象となるのは、
① 「特別な出来事」の「極度の長時間労働」
② 「総合評価における共通事項」の恒常的長時間労働
③ 「具体的出来事」の「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」
④ 「具体的出来事」の「1か月に80 時間以上の時間外労働を行った」
の4つであり、このうち①、③、④の項目における評価は、発病前おおむね6か月における1か月間ごとの時間外労働時間数をもとに行うことが前提となっているので、発病前6か月(180 日)における日々の労働時間を基に、以下の手順により発病前1か月間の時間外労働時間数を算出する。
   なお、時間外労働時間数の算出については、原則として、発病日を起点とすることとしているが、発病日の労働時間が短時間であるような場合には、発病日の前日を起点として差し支えない。
   また、発病日が特定できない場合、例えば発病月までしか特定できない場合は、当該発病月に含まれる日すべてについて、あるいは、例えば○月上旬までしか特定できない場合には1日~10 日、中旬の場合は11 日~20 日、下旬の場合は21 日~月末日について算出を行う。
以上により算出した4週間と2日間の総労働時間数(集計表①~⑤欄)と時間外労働時間数(集計表⑥~⑩欄)を合計し、それぞれ発病前1か月間の総労働時間数と時間外労働時間数とする。
   次に、発病前2か月目(発病日から数えて31 日目から60 日目までの30 日間)について、発病前1か月間と同様に、4週間と2日間で時間外労働時間数を算出する。
   以下、30 日単位で4週間と2日間ずつ計算し、1か月間ごとの時間外労働時間数を6か月分算出する。
(2)「恒常的長時間労働」の場合
   「恒常的長時間労働」は、出来事の発生前におけるものと発生後におけるものを別々に評価する必要がある。このため、発病前6か月間の期間を出来事の発生日により、出来事前の期間と、出来事後の期間に分けたうえで、そのそれぞれの期間内で算定し得るすべての連続した30 日について、時間外労働時間数を算出する。
   通常、出来事は当日の就業時間中に生じると考えられることから、出来事前の期間は、発病日の6か月前から出来事の発生日の前日まで、出来事後の期間は、出来事の発生日から発病日までである。
   ただし、就労後に出来事が生じた場合(帰宅直前に暴行を受けた等)には、当日の労働時間は「出来事前」として評価すること。
   なお、発病日、出来事の発生日が特定できない場合については、以下のように算出する。
発病日を特定できない、例えば月までしか特定できなかった場合、当該発病月に含まれる日の一番早い日付の6か月前から出来事の発生日までを出来事前の期間とし、当該発病月に含まれる日の一番遅い日付から出来事の発生日までを出来事後の算出対象の期間として算出する。

第4 業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断
1 業務以外の心理的負荷
   業務以外の心理的負荷の強度については、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられる業務以外の出来事の有無を確認し、別表2「業務以外の心理的負荷評価表」(以下「別表2」という。)を指標として、「Ⅲ」、「Ⅱ」又は「Ⅰ」に区分する。
   別表2は別表1と異なり、総合評価の視点の欄等がないが、これは、業務以外の出来事は業務による出来事以上に多様であり、別表1のように詳細な検討を行うための総合評価の視点を示すことが困難であるとの理由による。
2 個体側要因
   個体側要因としては主に以下のようなものが挙げられるが、それが発病の原因であると判断することの医学的な妥当性については、認定基準に記載された例(就業年齢前の若年期から精神障害の発病と寛解を繰り返しており、請求に係る精神障害がその一連の病態である場合や、重度のアルコール依存状況がある場合等)を参考に検討する。
① 既往歴
   精神障害の既往歴が認められる場合には、その繰り返しの状況によって個体側要因による発病の可能性が考えられる。また、治療のための医薬品による副作用についても考慮する。
② アルコール等依存状況
   軽いアルコール依存傾向といった程度ではなく、アルコール依存症と診断される程度である場合には、個体側要因による発病の可能性が考えられる。
③ 生活史(社会適応状況)、性格傾向
   職場や学校になじむことができず過去に何度も転職や転校を繰り返している場合等には、個体側要因による発病の可能性が考えられる。

第3章の1 調査要領1/2 

第1 請求書の受付と進行管理
1 窓口相談等
   労災請求に関して、事業場関係者や請求人(発病した労働者本人(当該労働者)又はその遺族)から事前に相談がなされたり、請求書が持参された際には、請求人等と直接面談することから、関係する情報の入手や伝達をするよい機会となるから、丁寧な対応に留意しながら以下の対応を行うこと。
   また、相談等に際して、相談時刻や個室の確保等の要望がある場合には、可能な限りその実現に配慮すること。
   特に、セクシュアルハラスメントに関する事案である場合には、「セクシュアルハラスメント事案に関する調査の留意点」(第2の4(3)、48 頁)も参照すること。
(1) 事前の相談
ア 相談の内容を十分理解するように努め、その内容に応じ、労災補償制度や労災認定の考え、認定基準の内容、請求手続、請求後の調査の方法等について、各種のパンフレット等を活用しながら、わかりやすく丁寧な説明を行う。
イ 相談者に説明する際には、請求を諦めさせるものと受け取られるような発言は絶対に行わない。
ウ 相談があった事案については、将来、労災請求がなされることを想定して、相談者の氏名、事案の概要、その主張等を的確に記録し、保管する。
エ 調査を行う上では、当該労働者の勤務状況等に関する記録(手帳、メモ、カレンダー、当該労働者が死亡している場合は遺書等)が存在する場合には、重要な資料となることから、それらを大事に保管し、労災請求をする際に提出するよう相談者に対して依頼しておく。
オ 申立書(様式3参照)の提出は、請求人の負担の軽減と、効率的な調査を図る目的であることを説明し、その提出について協力を依頼する。その際、申立書の提出は強制できるものではないが、申立書が提出されることにより、請求人からの聴取が省略できる場合があることや、聴取が必要な場合でも聴取時間の短縮が図られる等の利点があることを説明する。
カ 郵送での請求書の提出を希望する場合には、郵送での提出が可能であることを説明することとなるが、併せて、後日、聴取のため来署を求める場合があることについても、丁寧に説明する。
2) 請求書の受付
ア 請求人が請求書を持参した場合には、事業場の証明印の有無等の形式審査を行った上で、請求の趣旨を確認するとともに、聴取のためにあらためて来署を求める場合があることを説明する。
   また、申立書が同時に提出されなかった場合には、提出について協力を依頼する。
イ 事前に相談がなされた事案でも、あらためて請求の趣旨を確認して、請求人が主張する業務上の理由の把握に努める。
ウ 請求人が当該労働者の勤務状況等に関する記録を持参した場合には、可能な限りその場で写しをとり、原本は請求人に返す。なお、持参した記録が膨大である等、当日返還することが困難な場合には、翌日以降、速やかに返還する。
エ 請求書が郵送された場合には、形式審査を行った上で、請求書を受付けしたこと及び聴取のための来署を求める場合があることの説明や、申立書の提出についての協力依頼を電話で行う。
オ 請求書を受け付けた際は、その概要を速やかに署管理者及び局あて報告する。
   局においてはこの報告に基づき、処理経過簿(局)(様式8参照)を作成(「脳・心臓疾患及び精神障害事案に係る処理経過簿システム」にデータ入力)し、以降、処分決定時まで随時進捗状況を把握する。
カ 処理経過簿(署)(様式7参照)を作成する。
 
2 調査計画の策定
   調査の内容は、関係資料の収集と関係者からの聴取であるが、それらは時間が経過すればするほど保存年限等の関係で資料が廃棄されたり、関係者の記憶が薄れていく可能性が高くなることから、請求書受付後速やかに調査に着手し、早期の資料収集と聴取が重要となる。
   このため、可能な限り速やかに事案検討会を開催し、申立書を受領し、又は請求人から聴取を行い、その内容に基づき、当該事案の業務上外を判断する上で確認が必要な事実関係を把握の上、具体的な調査事項、調査時期、調査方法等について検討し、さらに収集すべき資料とその依頼先、聴取対象者と対象者ごとの聴取事項等について検討を加え、調査計画(様式6参照)を策定して、速やかに調査に着手する。
   なお、調査計画については、必要に応じ地方労災医員協議会精神障害等専門部会(以下「専門部会」という。)の医師の意見を聴取して必要な修正を行う。また、調査を進めていく途中の段階で、聴取対象者の変更や追加、資料収集の遅れ等があった場合には、必要に応じて計画の修正を行う。
   調査計画は、策定又は軽微なものを除く修正の都度、速やかに局へ報告する。
   局は、当該内容を点検し、必要な事項が記載されていないなど、調査計画書として機能しないものについては、署長に対して必要な指示を行う。
   なお、進行管理に係る具体的な期限等については、留意通達、局業務実施計画等を参照すること。
 
3 処理経過簿(署)
   処理経過簿(署)には調査の事跡のほか次のような事項も記載しておく。処理経過簿(署)は定期的に署長が決裁する。
① 請求書の受理
② 署長等からの指示事項
③ 事案検討会の検討結果
④ 請求人への処理状況等の説明
局においては、定期的に処理状況を署長より報告させ、当該報告内容について、労災補償課長が、労災監察官等との検討を実施し、調査計画により予め定めた調査等が大幅に遅延しているなどの問題点を把握した場合には、署長に対して必要な指示・指導を行うこと。
   局管理となった事案については、労災補償課長及び労災監察官等が署長に対し事案解消のための具体的指示の期限を設定して書面にて行い、署長は当該指示に基づく調査の進捗状況を毎月報告すること。
第2 調査の実施
1 基本的な調査事項
   認定基準に基づき精神障害事案の業務上外を判断するに際しては、
① 精神障害の発病の有無、発病時期及び疾患名の事実認定
② 精神障害発病前おおむね6か月の間に起きた心理的負荷が生じる可能性のある業務による出来事の有無とその内容及びその出来事に関わるその後の状況について、事実認定を行った上で、それらによる心理的負荷の強度の評価
③ 精神障害発病前おおむね6か月の間に起きた心理的負荷が生じる可能性のある業務以外の出来事の有無とその内容についての事実認定と、それによる心理的負荷の強度の評価及び精神障害の既往歴等についての事実認定を行った上で、その個体側要因としての評価
を行うことが必須となる。
   なお、発病の有無等に関する事実認定には主治医の医学意見が必須であり、また、必要に応じ、専門医又は専門部会のいずれかの医学的意見を求める。業務による心理的負荷の評価には専門医又は専門部会のいずれかの医学意見が必要な場合があり、さらに、業務以外による心理的負荷や個体側要因が認められる場合、その評価には専門医又は、専門部会のいずれかの医学意見が必須である。
調査事項は次のとおりである。
(1)発病の有無等に関する調査
ア 治療歴のある事案の場合
   主治医(転医している場合は原則としてそのすべて)に対して必ず意見書(様式4参照)の提出を求め、疾病名、発病の時期その他参考となる事項について、主治医の診断内容等を確認する。
   その際、基本的にICD-10 に準拠した意見となるよう協力を求める。
   また、請求人(当該労働者)から、心身の変調等の内容(例えば、食事量の増減、体重の増減、飲酒量の増減、不眠、中途・早朝覚醒等、動作、気分等の変化、幻覚、妄想等があればその内容)やその出現時期、また、その後の経過、医療機関への受診状況等について聴取する。
イ 治療歴のない自殺事案の場合
   治療歴がなく、請求時に当該労働者が死亡している事案の場合には、事後に医学的な判断をするほかないため、その判断に必要な事実関係を認定する必要がある。
   このため、当該労働者の家族や同僚等といった普段接触する機会の多い者から、当該労働者の様子(心身の変調)等に関して、いつ頃から、どのような言動がなされたのかをできるだけ詳細に聴取する。
(2)業務による出来事とその後の状況に関する調査
   業務による出来事及びその後の状況の内容に関する調査事項は出来事ごとに大きく異なることから、調査の初期段階で、発生した出来事を的確に判断することは効率的な調査を実施する上でも極めて重要となる一方、精神障害の発病原因である出来事が広範な調査の結果ようやく判明する事案もある等、調査の初期段階で発生した出来事を的確に判断することが困難な場合もある。
   このため、調査の最初の段階で請求人から申立書を受領し、又は聴取を行い、請求人が考える精神障害発病の原因となった出来事を把握し、① 原因となったと主張される出来事が明確である場合には、その出来事の事実確認のための調査を優先して行い、当該調査の過程で精神障害発病の原因となる他の出来事の存在が出現したときは、その出来事に関する調査を実施する。② 出来事が明確でない場合には、請求人からの聴取等の内容から精神障害発病の原因となった出来事を推定して数項目程度に絞り込み、その出来事の事実確認のための調査を優先して行い、当該調査の過程で精神障害発病の原因となる他の出来事の存在が出現したときは、その出来事に関する調査を実施する。
   調査に当たっては、別表1に掲げる具体例に合致するか、あるいは具体例との違いは何かを見極めることを念頭に置き、その具体的出来事に対応した総合評価の視点に示される内容について、的確な事実認定ができるよう資料の収集や聴取等の調査を実施する。
   なお、当該精神障害の発病に関与したと考えられる具体的出来事が複数認められる場合には、その各々について同様に調査する。
ア 出来事別の調査事項及び調査方法
平均的な心理的負荷が「Ⅱ」又は「Ⅲ」である出来事について、原則として必須となる調査事項とその方法は次のとおりである。事案の内容によっては、その出来事が起こった背景事情等の、これ以外の調査も必要となる。
(ア)(重度の)病気やケガをした
① 当該病気やケガに係る被災状況(当該病気等の業務関連性)
請求人(原則として当該労働者を指し、遺族の場合は必要に応じて調査対象とする。この章において以下同じ。)からの聴取、事業場からの災害状況の報告の収集
② 当該病気やケガの程度、後遺障害の程度、社会復帰の困難性
当該病気やケガの治療を担当する主治医からの意見書、事業場からの職場復帰の見込み等の報告の収集
(イ)悲惨な事故や災害の体験、目撃をした
(本人が体験した場合)
① 当該事故や災害の状況(当該事故等の業務関連性)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの災害状況の報告の収集
② 予感させる被害の程度
   請求人、目撃者からの聴取
(他人の事故を目撃した場合)
① 当該事故や災害の状況(当該事故等の業務関連性)
   請求人からの聴取、事業場からの災害状況の報告の収集
② 当該事故等の被害者の被害の程度
   請求人、事業場関係者又は被害者からの聴取
③ 当該労働者と被害者との関係、当該労働者が当該事故を目撃した状況(当該労働者が当該事故等に巻き込まれる可能性がある状況や被害者を救助することができたかもしれない状況等)
   請求人、事業場関係者又は被害者からの聴取
(ウ)業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした
① 事故の大きさ、内容及び加害の程度
   請求人からの聴取、事業場からの事故報告の収集
② ペナルティ・責任追及の有無及び程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取
③ 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、事故後の職場の人間関係等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(てん末書等)の収集
(エ)会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
① 失敗の大きさ・重大性、社会的反響の大きさ、損害等の程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの当該ミスの内容・損害額(得られるはずだった利益を含む。)等に係る報告の収集、社会的反響に係る資料(新聞記事等)の収集
② ペナルティ・責任追及(懲戒処分、降格、損害賠償請求等)の有無及び程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からのペナルティ等に係る資料(懲戒辞令、降格辞令等)の収集
③ 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、その後の職場の人間関係等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(損害等を回復するための業務計画、てん末書等)の収集
(オ)会社で起きた事故、事件について、責任を問われた
① 事故等の内容、関与・責任の程度(事故等を起こした者と当該労働者との関係を含む)、社会的反響の大きさ
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの当該事故等の内容・損害(得られるはずだった利益を含む。)等に係る報告や当該労働者の関与等の程度に係る資料(組織図、事務分掌等)の収集、社会的反響に係る資料(新聞記事等)の収集
② ペナルティ(懲戒処分、降格、損害賠償請求等)の有無及び程度、責任追及の程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からのペナルティ等に係る資料(懲戒辞令、降格辞令等)の収集
③ 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、その後の職場の人間関係等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(てん末書等)の収集
(カ)自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた
① 損失等の程度、社会的反響の大きさ
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの当該損失等の内容に係る報告の収集、社会的反響に係る資料(新聞記事等)の収集
② 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、その後の職場の人間関係)等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(損失等を回復するための業務計画等)の収集
(キ)業務に関連し、違法行為を強要された
① 違法性の程度(違法行為の内容、発覚した場合に想定される影響等)、強要の程度(頻度、方法、強要した者との関係、強要の経過、拒んだ場合の不利益等)
   請求人及び事業場関係者(強要したとされる者及び上司等)からの聴取
② ペナルティ(懲戒処分、降格等)の程度、事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、事故後の職場の人間関係等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からのペナルティ等に係る資料(懲戒辞令、降格辞令等)、事後対応の内容に係る資料(社内調査の記録、当該労働者が作成したてん末書等)の収集
(ク)達成困難なノルマが課された
① ノルマの内容、困難性、強制の程度、達成できなかった場合の影響、ペナルティの有無等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からのノルマの内容、困難性等に係る資料(設定された個人ノルマや部署単位のノルマ、当該労働者及び他の労働者の達成状況等)の収集
② その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容や業務量に係る資料(営業マニュアル、業務計画、取引先への提案書、売上金額、契約件数等が記録された日報等)の収集
(ケ)ノルマが達成できなかった
① 達成できなかったことによる経営上の影響度(達成できなかったノルマの内容、未達成の程度等を含む)、ペナルティの程度等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの未達成の状況に係る資料(売上金額、契約件数の記録等)やペナルティ等に係る資料(懲戒辞令、降格辞令等)の収集
② 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、その後の職場の人間関係)等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(売上不足や作業の進捗遅延等を回復するための業務計画等)の収集
(コ)新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった
① 新規業務の内容、本人の職責、困難性の程度、能力と業務内容のギャップの程度等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容やその困難性に係る資料(事業概要、業務計画等)及び担当者の能力・経験等に係る資料(当該労働者やその前任・後任等の職歴等)の収集
② その後の業務内容、業務量(事業の進捗状況等を含む)の程度、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容や業務量に係る資料(進行管理表等)の収集
(サ)顧客や取引先から無理な注文・クレームを受けた
① 顧客、取引先の重要性、注文・クレームの内容、クレームの場合には会社に与えた損害の内容、程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの顧客の注文等の内容を記録した資料の収集
② 事後対応の困難性(事後対応の内容、事後対応に係る業務量、その後の職場の人間関係)等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの事後対応の内容・業務量に係る資料(顧客の注文等への対応方針、そのための業務計画等)の収集
(シ)仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった
① 業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容やその困難性に係る資料(作業マニュアル、作業工程、進行管理表、業務指示書、当該労働者の作成した企画書等)及び担当者の能力・経験等に係る資料(当該労働者やその前任・後任等の職歴等)の収集
② 時間外労働、休日労働、業務の密度の変化の程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務量に係る資料(生産量、売上金額、契約件数等が記録された作業伝票、日報等)の収集
③ 仕事内容、責任の変化の程度等(職場の人間関係等を含む。)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの責任の程度等に係る資料(組織図、事務分掌等)の収集
④ 労働時間
   下記イ(ア)(39 頁)により労働時間について詳細に調査し、集計表による分析を行うこと。
(ス)1か月に80時間以上の時間外労働を行った
① 業務の困難性(長期間にわたる長時間労働の必要性、手待時間の有無等)
   請求人からの聴取、事業場からの業務内容に係る資料の収集
② 労働時間(長時間労働の継続期間)
   下記イ(ア)により労働時間について詳細に調査し、集計表による分析を行うこと。
(セ)2週間以上にわたって連続勤務を行った
① 業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等(休日労働の必要性)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容やその困難性に係る資料(作業マニュアル、作業工程、進行管理表、業務指示書、請求人の作成した企画書等)及び担当者の能力・経験等に係る資料(請求人やその前任・後任等の職歴等)の収集
② 時間外労働、休日労働、業務の密度の変化の程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務量に係る資料(生産量、売上金額、契約件数等が記録された作業伝票、日報等)の収集③ 仕事内容、責任の変化の程度等(職場の人間関係等を含む。)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの責任の程度等に係る資料(組織図、事務分掌等)の収集
④ 労働時間(連続勤務の状況を含む。)
   下記イ(ア)により労働時間について詳細に調査し、集計表による分析を行うこと。
(ソ)退職を強要された
① 解雇又は退職強要の経過(解雇等の理由やその労働者への説明の状況を含む)、強要の程度(頻度、態様)、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者(退職強要・勧奨、解雇通知を行った者等)からの聴取、事業場からの解雇通知書等の収集
(タ)配置転換があった・転勤をした
① 職種、職務の変化(責任の変化を含む)の程度、配置転換・転勤の理由・経過、転勤の場合単身赴任の有無や転勤先の治安の状況等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの職種・職務・責任等の変化の程度に係る資料(組織図、事務分掌、請求人やその前任・後任等の職歴等)、配置転換・転勤の理由や経過に係る資料(辞令、内示書等)、転勤先が海外の場合その国内情勢等に係る資料(外務省が提供する治安に係る渡航情報等)の収集
② 業務の困難性、能力・経験と業務内容のギャップ等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容やその困難性に係る資料(作業マニュアル、作業工程、進行管理表、業務指示書、請求人の作成した企画書等)及び担当者の能力・経験等に係る資料の収集
③ その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容や業務量に係る資料(生産量、売上金額、契約件数等が記録された作業伝票、日報等)の収集
(チ)複数名で担当していた業務を一人で担当するようになった
① 業務の変化(責任の変化を含む)の程度
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務・責任等の変化の程度に係る資料(組織図、事務分掌、請求人やその前任・後任等の職歴等)の収集
② その後の業務内容、業務量の程度、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場からの業務内容や業務量に係る資料(生産量、売上金額、契約件数等が記録された作業伝票、日報等)の収集
(ツ)非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた
① 差別、不利益取扱い(とされる処遇等)の理由・経過、内容、程度
   請求人からの聴取、事業場から当該処遇等の内容、理由等の報告の収集
② 職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者からの聴取
③ 差別、不利益取扱い(とされる処遇等)の継続する状況
   請求人及び事業場関係者からの聴取
④ 差別、不利益取扱い(とされる処遇等)に係る当該労働者の会社側への相談状況、会社側の対応及びその結果等、職場の支援・協力(問題への対処)等の欠如
   請求人及び事業場関係者(事業場内の相談窓口で相談を受けた者及び相談への対応に関する責任者)からの聴取、事業場からの対応等に係る資料(相談記録、会社内の検討過程、対応結果等)の収集
(テ)(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた
① 嫌がらせ、いじめ又は暴行の内容、程度(頻度、態様、その理由・きっかけ等)、その継続する状況
   請求人及び事業場関係者(嫌がらせ等の行為者及び上司・同僚等)からの聴取、当該労働者が嫌がらせ等について個人的に相談等を行っている場合には相談相手からの聴取やその記録の収集
   暴行の治療を受けている場合にはその治療を担当する主治医からの意見書の収集
② 嫌がらせ等に係る当該労働者の会社側への相談状況、会社側の問題認識状況、会社側の対応及びその結果等、職場の支援・協力(問題への対処)等の欠如請求人及び事業場関係者(事業場内の相談窓口で相談を受けた者及び相談への対応に関する責任者)からの聴取、事業場からの対応等に係る資料(相談記録、会社内の検討過程、処分等の対応結果等)の収集
(ト)上司・同僚・部下とのトラブルがあった
① トラブルの内容、程度(叱責等の頻度、態様、その理由、継続期間等)、同僚とのトラブルの場合には当該労働者と当該同僚との職務上の関係
   請求人及び事業場関係者(トラブルの相手方及び上司・同僚等)からの聴取、当該労働者がトラブルについて個人的に相談等を行っている場合には相談相手からの聴取やその記録の収集
② その後の業務への支障等
   請求人及び事業場関係者(トラブルの相手方及び上司・同僚等)からの聴取
(ナ)セクシュアルハラスメントを受けた
① セクシュアルハラスメントの内容、程度(頻度、態様等)、その継続する状況
   請求人及び事業場関係者(セクシュアルハラスメントの行為者及び上司・同僚等)からの聴取、当該労働者がセクシュアルハラスメントについて個人的に相談等を行っている場合には相談相手からの聴取やその記録の収集
② 会社の対応の有無及び内容、改善の状況、職場の人間関係等
   請求人及び事業場関係者(事業場内の相談窓口で相談を受けた者及び相談への対応に関する責任者)からの聴取、事業場からの対応等に係る資料(相談記録、会社内の検討過程、処分等の対応結果、事業主が雇用管理上講ずべき措置の実施状況等)の収集
イ 各出来事に共通する調査事項
(ア)労働時間
   労働時間の調査を行うまでもなく明らかに業務上と認められる場合を除き、労働時間に関する調査は実施する。
   具体的には、タイムカード、出勤簿、業務日報、賃金台帳等の労働時間が記録される資料を収集し、集計表による分析を行う。
   ただし、当該労働時間の記録からは明らかに長時間労働が見込まれず(発病前6か月の間に月の時間外労働時間が50 時間を超える月がないようなケース)、請求人も長時間労働の事実を主張していない場合には、集計表による分析は省略して差し支えない。なお、請求人が長時間労働の事実を主張していないことについては、申立書又は聴取において確認しておくこと。(申立書により確認する場合には、様式3の項目4において1か月間の時間外労働時間が50 時間を超えない旨の記載がされており、項目5において「長時間労働を行った」ことが発病の直接の原因とされていなければ、「請求人が長時間労働の事実を主張していない」と判断して差し支えない。)
   労働時間の記録が存在しないが請求人が長時間労働の事実を主張する場合や、労働時間の記録とは異なる長時間労働の事実を請求人が主張する場合には、次のような調査により、労働時間数を推計すること。
・ 請求人及び同一職場の上司・同僚・部下等からの聴取
・ 事業場からの、警備記録による就業者名簿や施錠者名簿、夜間金庫の利用時間、当該労働者の使用していたパソコンのログイン、ログオフ履歴(ログ)、ファイルの更新日時、家族などとの携帯電話の通話・メールの送受信記録等の資料の収集
・ 同一職場の上司、同僚、部下等の労働時間数から当該労働者の労働時間数を推定し得る場合には、それらに関する調査
・ 請求人からの、手帳、家計簿、カレンダーその他の労働時間や出勤時刻・退勤時刻のメモ等の資料の収集
   なお、関係者の申述が食い違うなどした場合には、例えば出勤時刻、退勤時刻、休憩時間、休日など、着眼項目ごとに聴取対象者の申述を一覧表などに整理して、それぞれの申述内容を十分検討した上で事実認定する。
   また、直接当該労働者が日々記載した資料と、家族が記載したメモ等では、信頼度に差がある場合が多いことにも留意する必要がある。
   聴取の時点で具体的資料がない場合は、その旨を記録しておく。
(イ)その他
   次の状況について請求人が主張している場合や、他の事項に係る調査の過程において著しい事情の存在が窺われる場合等、必要に応じて調査を実施する。
① 仕事の裁量性の欠如(仕事が孤独で単調となった等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取
② 職場環境の悪化(騒音、照明、温度、湿度、換気、臭気の悪化等)
   請求人からの聴取、事業場から職場環境に関する報告、作業環境測定結果等の収集
③ 職場の支援・協力等の欠如(仕事のやり方の見直し改善、応援体制の確立、責任の分散、当該労働者からの相談への対処等の支援(心理的支持等を含む)・協力がなされていない等)
   請求人及び事業場関係者からの聴取、事業場から支援等の内容、その対応時期に係る報告の収集
④ 上記以外の状況であって、出来事に伴って発生したと認められるもの
(3)業務以外の心理的負荷及び個体側要因に関する調査
   業務以外の心理的負荷及び個体側要因に関しては、原則として申立書により確認することとし、調査の過程でその存在が示唆された場合には、その内容を調査する。
   なお、行政による業務以外の心理的負荷及び個体側要因の調査には限界があることから、顕著な事情が確認できなかった場合についても、調査結果としては、これらの事情がないと断定せず、確認できなかったと記録する。
ア 業務以外の心理的負荷に関する調査
   業務以外の心理的負荷に関する調査は、認定基準の別表2において「Ⅲ」と評価される出来事の有無を申立書等により確認する方法により行う。
   当該出来事が存在する場合には、請求人にその内容、程度について詳細に聴取する。また、主治医や関係者からそれらの存在の可能性が示唆される情報を得た場合にも、請求人にその事実の有無、内容、程度について聴取する。
イ 個体側要因に関する調査
   精神障害の発病に関係する主な個体側要因としては、既往歴、アルコール等依存状況、生活史(社会適応状況)がある。個体側要因に関する調査は申立書の記載内容等から確認する方法により行う。
(ア)精神障害の既往歴の調査
   精神障害の既往歴があることが確認された場合には、当該主治医に対し、当該労働者の発病時期、疾患名、病状、治療経過等に関する意見書を求める。
(イ)アルコール等依存状況の調査
   アルコール等依存状況については、飲酒により何らかの問題がある場合、飲酒機会の頻度、1回当たりの飲酒量、酒類の種類等について詳細に調査する。
(ウ)生活史(社会適応状況)の調査
   生活史(社会適応状況)については、職場関係者からの聴取等において、職場における仕事への取組み姿勢、人間関係、言動等における通常範囲から逸脱した面等、また、当該労働者や家族からの聴取において、生い立ち、学生生活、家庭生活において、適応に問題のあることが窺われる申述があった場合には、その内容を確認するが特にそのような状況がなければ、あらためて調査する必要はない。
2 調査の基本的な留意事項
(1)プライバシーの保護
   精神障害に限らず、労災認定のために入手した情報は多くが個人情報であり、その管理には十分な注意が必要であるが、特に精神障害については、当該労働者の業務以外の心理的負荷の有無やその程度、精神障害の既往歴等の個体側要因に関する情報など一般に他人には知られたくない情報や機微にわたる情報も入手することとなるため、収集した情報の管理には十分な注意が必要となる。
   ただし、それらの情報についても、第三者による確認が必要な場合があり、そのような場合にはプライバシーの保護に十分配慮した上で、必要な事実確認を行うこととなる。
(2)調査事項や調査対象者等の適切な選定
   調査の具体的な内容は主に聴取と資料の収集となるが、聴取する事項や相手先、収集する資料は事案の内容や調査の進展とともに変化していくものである。
   このため、随時事案検討会を開催して調査計画を見直し、適切かつ効率的な調査がなされるよう、以下の内容に留意して調査事項、調査方法、調査対象者等を検討すること。
ア 聴取対象者や資料収集先は、当該労働者、関係者等広範に及ぶが、どのような事実を確認したいのかを十分整理した上で、その情報を有していると思われる者を対象者として選定する。
認定事実の客観性を向上させるため複数の者からの申述が望ましいが、原則として申述内容が類似すると考えられる聴取対象者の選定は避ける。
   また、特に利害が相反する者がいる事案については、聴取対象者の選定が偏らないよう配慮する。
イ 聴取に先立ち当該聴取対象者から、どのような事実を入手したいのか、そのためには何を聴取すべきかを検討し、聴取項目を整理した上で聴取を行う。
ウ 調査対象者別の調査の留意事項及び各調査対象者から聴取・収集することができると考えられる事項は下記3のとおりであるので、上記第1の2(30 頁)とともに調査計画の策定等に当たり参考とすること。
   なお、請求人と関係者の聴取内容に食い違いが生じた場合には、原則として、申述内容に誤りがなかったかを確認するための再聴取を行う。
(3)事実認定の重要性
ア 基本的態度
   関係者の申述が食い違う場合等には、両者の食い違いのない部分のみを事実として認定するのではなく、その資料の不足、申述の食い違い等を解消し、完全に食い違い等が解消されない場合であっても、署において事実として認定を行うという態度が必要である。
イ 事実認定の方法
   申述は申述人それぞれの主観に基づくものであることから、調査担当者は多くの主観的申述から、より客観的な事実を認定・評価する必要がある。
   具体的には、複数人の申述が一致すること、申述内容が資料と整合すること、体験に基づいた具体的・詳細な一貫した申述がなされること、申述内容が一般的な社会通念との乖離がないこと等により申述の信憑性が得られる。このため、聴取においては、申述人が直接体験したことについての申述であるか、それとも伝聞であるかを確認して聴取する必要がある。申述の食い違い等により事実認定が困難な事案では、聴取に当たって調査担当者が得た心証も参考となるので、調査担当者は、申述が誇張されていないか等についても十分観察することが必要である。
   なお、関係者が相反する主張をする場合等の事実認定の方法について法律専門家の助言が必要な場合には、労災法務専門員等の法律専門家の意見を積極的に求める。
ウ 調査権限
   請求人、事業主及び診療担当者(主治医等)に対する調査は、第一段階では任意に協力を求めるものではあるが、労災保険法上の調査権限を背景に行うものであるので、そのことを十分認識するとともに、必要に応じてこれらの調査対象者に説明すること。
   請求人、事業主及び診療担当者の協力を得られず業務上外の判断に必要な資料等を収集することができない場合は、労災保険法に基づく報告、出頭等を命ずることを検討すること(「調査権限一覧表」、53 頁参照)。
   命令等を行う場合は、命令を行う理由等を明らかにした文書によること(「出頭命令等における明示事項」、54 頁参照)。命令の効力は、その文書が到着しその内容を知り得たときから発生するため、書留郵便で送付する。
   なお、命令を発するにあたり疑義がある場合は、必要に応じて本省に相談すること。

第3章の2 調査要領2/2

3 調査対象者別の調査の留意事項及び調査事項
(1)請求人(当該労働者)
ア 請求人からは、申立書(様式3参照)又は聴取により、その主張を必ず確認する。
請求人(当該労働者)が医師による治療、専門家による精神療法等(以下「治療等」という。)を継続している場合には、請求人からの聴取の時期等について治療を行っている医師等と事前に相談する。
   医師等が聴取することにより病状が悪化する旨を指摘した場合には、申立書や文書での照会等により調査する。
   また、セクシュアルハラスメントの被害者から聴取を行う場合には、下記4(3)(48 頁)にも留意すること。
   なお、治療中の請求人からの聴取にあたっての留意事項については、精神科医の患者面接の例から参考(55 頁)にまとめたので参考とすること。
イ 精神障害の発病の有無等に関する事項の聴取
   上記第2の1(1)(32 頁)により具体的に聴取するとともに、当該心身の変調を来したと感じたことを示す具体的エピソード(いつ、どこで、誰と)はどのようなものであったか、そのことを誰かに相談したかについても聴取する。
ウ 業務による心理的負荷に関する事項の聴取
   業務によるどのような具体的出来事が当該精神障害発病の原因と考えているのかについて、上記第2の1(2)(32 頁)により、具体的に聴取するとともに、そのように考えていることを裏付ける具体的資料があるのかについても聴取し、当該資料があれば収集する。
エ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因に関する事項の聴取
   請求人からは、業務以外の心理的負荷及び精神障害の既往歴等個体側要因に関することが明らかになることは少ないが、上記第2の1(3)(41 頁)により申立書等で確認する。また、診療録や関係者からの聴取等により、別表2に示した出来事が存在する可能性が示唆された場合には、必ず再度請求人から、示唆された業務以外の要因及び個体側要因の有無について事実確認を行う。
   既往歴やアルコール等依存状況については、症状が明らかにそれに由来していることが疑われる場合には詳細に聴取する。
オ その他の事項の聴取
   申し立てている内容を明らかにして事跡として残すのは当然であるが、他に申し立てる事柄がないかどうかも聴取して、他になければその旨も事跡に残す。
カ 収集することが考えられる資料には次のものがある。
(ア)申立書
(イ)申述内容を裏付ける資料(当該労働者が業務実態について記入した手帳、日記、
メモ等)
(2)請求人(遺族)
ア 申立書(様式3参照)又は聴取により、その主張を必ず確認する。
   留意事項は上記(1)イからオとおおむね同様である。
   なお、業務による心理的負荷に関し、遺族は業務による出来事を体験しているわけではないことから、その出来事等について誰からどのような情報を得てそれが発病の原因と考えるに至ったかについても聴取し、情報を提供した同僚等について必要に応じて調査対象とする。
イ 収集することが考えられる資料には次のものがある。
(ア)申立書
(イ)申述内容を裏付ける資料(当該労働者又は遺族が業務実態等について記入した手帳、日記、メモ等。なお、資料を作成した者が誰であるかを明確にしておくこと。)
(ウ)遺書がある場合には遺書
(3)事業場関係者
ア 精神障害の発病の有無等に関する事項の聴取
   服装等の外見上の変化、表情、話し方、動作、気分等の変化、その他通常と異なる反応、行動等関係者が気付いた具体的事実及びその出現時期、そしてそれらがその時間経過とともにどのように変化したか、あるいは、それらの変調には気付かなかったか等について、聴取する。
イ 業務による心理的負荷に関する事項の聴取
   上記第2の1(2)(32 頁)により具体的に聴取する。
   なお、業務による出来事が取引先に関係する場合には、必要に応じ取引先からも確認する。
ウ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因に関する事項の聴取
   聴取の過程で業務以外の心理的負荷及び個体側要因に関する申述があった場合には、その内容を確認する。
エ その他の事項の聴取
   請求人が業務に起因する疾病であると考えている理由やそのような請求人の認識に対し、職場の関係者はどのように認識しているかを具体的に聴取する。
   なお、その結果、請求人と職場関係者の聴取内容の一致する点、食い違う点を明確に整理し、食い違う点の解消に努める。
オ 収集することが考えられる資料には次のものがある。
(ア)会社概要、組織図(人員配置図)
(イ)就業規則、時間外及び休日労働に関する協定書、その他労使協定
(ウ)社内履歴、採用時の履歴書、入社時適性検査結果、人事考課等
(エ)健康診断個人票
(オ)タイムカードその他の業務実態等を明らかにする資料
(4)主治医
ア 精神障害の治療を受けている場合には、上記第2の1(1)ア(32 頁)により、主治医(転医している場合は原則としてそのすべて)に対して、
(ア)受診のきっかけ(来院経路等)
(イ)初診時における状況及び主訴
(ウ)疾患名及びその根拠
(エ)発病時期及び治療時期
(オ)発病原因及びその根拠
(カ)投薬状況等治療内容
(キ)治療経過
(ク)精神療法の内容、性格テスト、血液検査等各種検査結果等
(ケ)その他参考となる事項
等について意見書(様式4参照)を求める。
   その際、基本的にICD-10 に準拠した意見となるよう、また、意見書作成の根拠となっている診療録、看護記録等の写しが提出されるよう、協力を求める。
イ 精神障害の既往歴があることが確認された場合には、上記第2の1(3)イ(ア)
(41 頁)により、その当時の主治医に
(ア)当該労働者の発病時期
(イ)疾患名
(ウ)病状
(エ)受診期間、治療経過等
について意見書を求める。
   その際、必要に応じて意見書作成の根拠となっている診療録、看護記録等の写しの提出の協力を求める。
(5)産業医
   当該労働者や上司等が当該労働者の精神状態等について相談等を行っている場合や、産業医が当該労働者に長時間労働に関する面接指導を行っている場合等に、必要に応じ、事業場で行われる健康診断結果等に基づく当該労働者の従来からの健康状態、当該労働者の精神健康上の問題の有無、当該労働者が従事した業務の精神健康上の問題の有無等の情報について意見書を求める。
(6)家族(請求人を除く)
ア 次のような場合には必要に応じ調査対象とする。
(ア)請求人や事業場関係者からの聴取によっても発病時期がはっきりしない場合に、当該労働者の様子等に関して聴取する。
(イ)業務の悩み等について家族に相談していたと考えられる場合に、当該相談内容、相談時期等に関して聴取する。また、当該労働者の労働時間管理が不十分な場合、当該労働者の出勤時刻、退勤時刻、休日などについて聴取する。
(ウ)業務以外の悩み等について家族に相談していたと考えられる場合に、当該相談内容、相談時期等に関して聴取する。また、申立書や主治医の意見書で指摘されるなど、その症状が業務以外の心理的負荷や個体側要因に由来していることが強く疑われる事情がある場合に限り、当該業務以外の心理的負荷や個体側要因の状況(業務以外の出来事の内容、家庭内の人間関係、友人関係、当該労働者の幼年時代、学生時代のり患歴、特徴的なエピソード等)について聴取する。
イ 収集することが考えられる資料には次のものがある。
(ア)申述内容を裏付ける資料(家族が当該労働者の業務実態について記載した手帳、日記、メモ、家計簿、カレンダー等)
(7)友人
   次のような場合には必要に応じ調査対象とする。
   請求人や事業場関係者、家族からの聴取によっても発病時期がはっきりしない場合に、当該労働者の様子等に関して聴取する。また、当該労働者が業務や業務以外の悩み等について友人に相談していたと考えられる場合に、必要に応じ、その相談内容、相談時期等について聴取する。
(8)警察署
   収集することが考えられる資料には次のものがある。
(ア)事故状況調査記録(事故の加害者や被害者となった場合や自殺した場合)
(イ)自殺と判断した理由
4 事案別の調査の留意事項
(1)自殺時の行為等に関する調査の留意事項
   自殺事案については、精神障害の発病の有無、発病時期、疾患名を明らかにし、当該精神障害による自殺と判断できるかを検討するとともに、精神障害発病後相当期間経過した後の自殺である場合には当該精神障害の治療経過等によって治ゆの可能性や、業務以外の新たな出来事による心理的負荷の存在との関係についても検討されなければならない。
   このため、遺書、日記、個人的メモ等の存在が判明した場合には、当該資料の所有者に対し、必ずその写しの提供を求めること。
   自殺か事故かが判然としない場合には、遺族を介して警察の見解を確認するなど、できるだけ死亡時の状況等の確認に努める。
   治療歴のない事案の場合、発病の有無や発病時期を推定することとなるが、そのためには、普段から当該労働者と接している家族、恋人、友人や、職場関係者では同僚、上司、取引先の担当者などから、当該労働者に起こった変化について詳しく調査する。
   変化の内容としては例えば、睡眠が障害されていた、気分が沈んでると述べた、趣味に関心を示さなくなった、笑わなくなった、ぼーっとすることが多くなった、口数が少なくなった、涙もろくなった、身だしなみに気を使わなくなった、食欲不振になった、自責的になった、つり銭の計算ができなくなったなどがある。
(2)発病後の悪化に関する調査の留意事項
   発病後の悪化については、当該事実が請求人側から主張されている場合に調査の対象とすること。
   発病後の悪化が主張されている場合には、まず、主治医等に対して、精神障害が自然経過を超えて著しく悪化しているか否かと、悪化が認められる場合にはその時期について意見を求めること。その上で、主治医が悪化の時期とした時期の前おおむね6か月において、「特別な出来事」に該当する出来事の有無及び有の場合にはその内容を調査すること。
その上で専門部会に協議し、「「特別な出来事」に該当する出来事があり、その後おおむね6か月以内に自然経過を超えて著しく悪化したと医学的に認められる場合」に該当するか否かの判断を行うこと。
(3)セクシュアルハラスメント事案に関する調査の留意事項
ア 相談・請求段階での対応
   セクシュアルハラスメント行為の詳細は、被害者が他人に知られたくない場合が大半である。このため、精神障害を発病した被害者であっても、労災請求やその相談を控える場合があり、そのような事態を解消していくよう、窓口での相談の際には、被害者の心情を十分に考慮して懇切・丁寧に対応し、相談段階において業務上認定が困難として請求を断念させるようなことがないよう留意する。また、相談時には、個室における対応を求められた場合には、できる限り対応する。
イ 調査に当たっての留意事項
(ア)関係者からの聴取
   セクシュアルハラスメント行為の詳細は他人に知られたくない場合が大半であることや、被害者が被害の事実を想起することによって精神障害が悪化する場合があることを考慮し、労働基準監督署での調査のうち、特に、被害者や行為者、事業主、同僚等の関係者からの聴取に当たっては、次のような事項に留意する必要がある。
a 被害者、行為者等のプライバシー保護に関すること
   行為者、同僚等の関係者からの聴取を行う場合には、被害者及び行為者双方のプライバシーに特に配慮すること。
b 聴取の順序に関すること
   聴取の順序については、事実を的確に把握するため、原則として、最初に被害者からの聴取を行い、その供述の内容を基本として、他の関係者からの聴取を行うこと
c 聴取時間、聴取側の人数、担当者の性別に関すること
   精神障害を発病した被害者に対する長時間に及ぶ聴取や、多人数で行う聴取が、被害者の症状の悪化を招く場合がある。このため、主治医の意見も参考にして、短時間の聴取や複数回に分割しての聴取を行うことや、聴取を行う職員が必要以上に多人数とならないようにすることについて配慮すること。
   また、女性の被害者からの聴取は、できる限り女性の職員が実施又は同席するよう配慮し、男性の職員が聴取する場合には、事前に被害者にその旨を説明すること。
d 聴取の内容等に関すること
   聴取の内容や方法によっては被害者が責めたてられているような心理状況に陥り、症状の悪化を招く場合がある。
   このため、認定に必要な事項以外の聴取や、必要以上に詳細な内容の聴取を行わないよう、また、繰り返しの聴取にならないよう考慮すること。
例えば、個体側要因については、被害者の過去の性暴力被害、妊娠経験等は判断要素とならず、成育歴、職歴についても、社会適応状況の確認に必要な程度を超えないよう留意すること。
(イ)当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査
   セクシュアルハラスメント事案は、その事実関係を当事者のみが知る場合も少なくなく、さらに事実関係を客観的に示す証拠がない等の事情により、行為者や一部の関係者がセクシュアルハラスメントの事実を否認するものも多くみられる。
事実関係が客観的に明らかでなく、当事者の主張に大きな相違がある事案の事実関係の把握は非常に困難を伴うものとなる。
   このような場合、次のような手法が有効である場合があることに留意する。
a 被害者の供述のほか、当時の日記、メモ等を収集し、それらの資料に基づき関連する出来事を時系列に整理すること。
b 行為者及び被害者の主張を否定する関係者の聴取では、必要に応じ、具体的な情報を示しつつ、整合しない点の釈明を求めながら聴取を行うこと。
(4)業務上の傷病により療養中の者に関する取扱い
   業務上の傷病により療養中の者について、当初の傷病に伴う一時的なうつ状態、不眠、不定愁訴等に対して行われる投薬等の請求については、当初の傷病に併発するものとして取り扱うこと。具体的には、当初の傷病により休業が必要な期間において精神障害の療養に係る請求がなされた場合には、当初の傷病の状況、精神症状の状況等を確認し、当初の傷病に伴う一時的なうつ状態等と医学的に判断できる場合には給付の対象として差し支えない。
   一方、一時的なうつ状態等とは判断できない場合には、原則として、新たに療養の給付(療養の費用)等の請求をさせ、認定基準に基づき当該精神障害に係る業務上外の判断を行うこと。
第3 医学意見の収集
1 求めるべき医学意見
   求めるべき医学意見を判断するにあたっては、様式2「医学的意見の要否等に係る調査復命書」を参考に事案の内容を整理し、署長まで決裁することにより行うこと。
特に専門医に意見を求めるに当たっては、認定要件のうちどの部分に関して意見を求めるのかを明確にし、できる限り署の見解を添えて意見を求めること(様式5参照)。
   なお、次の事項に留意すること。
(1)主治医意見による判断
〔「強」に該当することが明らかな場合の例〕
・ 「特別な出来事」に該当する場合
・ 「強」の具体例に合致する場合
・ 「中」の具体例に合致し、「恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価」
の1又は2に該当する場合
・ 「弱」の具体例に合致し、「恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価」
の3に該当する場合
(2)専門医意見による判断
〔「強」に該当しない(「中」又は「弱」である)ことが明らかな事案の例〕
・ 「中」の具体例に合致する出来事が1つしかない場合
・ 「中」の具体例に合致する出来事が1つあるほか、「弱」の具体例に合致する出来事しかない場合
・ 「弱」の具体例に合致する出来事しかない場合
・ 具体例には合致しないが、総合評価は「中」又は「弱」のいずれかであって「強」には当たらないことが明らかであると署長が判断する場合
〔業務以外の心理的負荷又は個体側要因が認められる事案(顕著なものを除く)の例〕
・ 別表2で「Ⅰ」又は「Ⅱ」に該当する出来事がある場合
・ 別表2で「Ⅲ」に該当する出来事が1つある場合(その心理的負荷が特に強いと認められる場合は専門部会に協議)
・ 精神障害の既往歴がある場合(発病と寛解を繰り返している場合は専門部会に協議)
(3)専門部会意見による判断
〔「強」に該当するかどうかも含め判断しがたい事案の例〕
・ 「中」の具体例に合致する出来事が複数ある場合
・ 具体例に合致せず、署長が総合評価において「強」に当たらないことが明らかであるとは判断できない場合
〔顕著な業務以外の心理的負荷又は個体側要因が認められる事案の例〕
・ 別表2で「Ⅲ」に該当する出来事が複数ある場合
・ 別表2で「Ⅲ」に該当する出来事が1つあり、その心理的負荷が特に強いと署長が判断する場合
・ 精神障害の既往歴が認められ、発病と寛解を繰り返している場合
なお、専門部会は従来どおり、3名の精神医学の専門家である地方労災医員(以下「精神科医員」という。)で構成する。専門部会は、局署の連携をとりながら時機を失することなく開催し、事案の迅速処理に努めること。
2 医学意見を求めるに当たっての留意事項
(1)精神科医員の効果的な活用について
   署長が精神障害の業務上外の判断を行うに当たっては、医学専門的な意見が不可欠であり、医学的意見を求める際には、十分な調査に基づく事実関係とその資料を提示する必要がある。
   そのため、調査実施計画の策定などの調査の初期の段階から精神科医員に対し医学専門的事項等に関する助言・指導を受けながら調査を進める方法が効果的である。
(2)意見書を依頼するに当たっての留意事項
   調査終了後に、専門医又は専門部会に意見書を依頼するに当たっては、専門医等に面接して、請求人の主張、認定した事実、業務上外を判断する上での問題点等を十分説明した上で、必要となる意見を依頼すること。その際、調査内容等をとりまとめた様式2を活用し、聴取書や医療機関から入手した資料等とともに提示すること。
ア 請求人から提出された医証がある場合には、それについても評価を依頼すること。
イ 意見書の依頼に当たっては、およその提出期限(原則として2週間程度)を示すこと。
ウ 意見書には次の事項を盛り込むよう依頼すること。
(ア)精神障害の発病の有無、発病時期及び疾患名の特定(ICD-10 診断ガイドラ
インに基づく診断名となるよう意見を求めること)
(イ)当該精神障害発病前おおむね6か月の間の当該精神障害の発病に関与したと考えられる、業務による具体的出来事に関わる心理的負荷の強度の評価
(ウ)当該精神障害発病前おおむね6か月の間の当該精神障害の発病に関与したと考えられる、業務以外の具体的出来事に関わる心理的負荷の強度及び精神障害の既往
歴等の個体側要因の評価
(エ)(ア)から(ウ)を具体的に明らかにした上での業務起因性に関する判断

第4章 療養中の請求人からの聴取に当たっての留意事項

   精神障害で療養中の請求人からの聴取を行うに当たっては、請求人の疾病の状況を考慮し、次の点に配慮することが望ましい。
1 請求人の心情に対する配慮
   精神障害で療養中の患者は、その疾病の性質上、面接者が偏見をもって接するのではないか、自らの訴えを相手が理解してくれないのではないか、といった不安を他の疾病の患者よりも強く抱いているとされる。
   このため、療養中の請求人から偽りのない真実を聴取し、また、その後の調査を円滑に進めるためには、まず、この不安を除去・軽減しなければならないが、そのためには、言うまでもないことではあるが、請求人をひとりの人間として尊重することが必要である。
   これは、請求人の申述内容を鵜呑みにするということではなく、何か特殊なことを行うということでもない。請求人の不安に対し、相手の緊張を解いて話しやすい雰囲気を作るような、日常的な気遣いをするということである。
   また、精神障害の患者は、上記の不安から、自ら抱いた否定的なイメージを面接者に投影することがあり、例えば、相手のことを批判的であるとか断定的であるとか思うことがあるとされる。
   そのような場合には、そのような不信感について、言葉で表現することによって、請求人の安心感が高まる場合がある。例えば、次のような表現を用いて聴取を行うことが考えられる。
・ このようなことを見ず知らずの私に打ち明けるのは、不安だろうと思います。ですが、あなたの病気が労災であるかどうかを判断ためするには、お仕事でどんな出来事があったのか、くわしく知る必要があるので、ご協力ください。
2 聴取場所についての配慮
   聴取に際しての位置関係については、接近し過ぎた状態で向かい合って着座するのは避けることが望ましく、できれば机をはさんで斜めに位置するのがよいとされる。請求人が圧迫感を受けない、申述しやすい環境づくりを心がける必要がある。
3 質問の方法に関する配慮
   請求人の症状に配慮しつつ、事実を的確に把握するための手段として、次のような方法での問いかけを用いることが考えられる。
(1) 請求人が話しにくい事柄に関する聴取に当たっての問いかけ
ア 標準化した表現を用いる
   標準化とは、本人がとまどいを感じやすい事柄を扱う際に広く用いられる手法であって、これにより、患者が自分の感情や行動にとまどいを感じにくくなるとされる。これは、質問の際に標準化した表現を用いるもので、主なやり方は2通りある。
(ア) その行動が、ある感情や状況に対する正常な反応、了解可能な反応であることを示唆しながら質問を始める。
・ 同僚の方からそのようなことをされたら、相手も同じぐらい嫌な目にあわせてやりたいと考えることもあると思いますが、あなたの場合どうでしたか?
(同僚とのトラブル)
・ そのときあなたが上司から言われた言葉を考えると、それが違法行為であっても断ることは難しいだろうと思うのですが、断った場合には具体的なペナルティなどもあったのでしょうか?(違法行為を強要された)
(イ) 請求人に孤立感を感じさせないために、その行動をしたことのある他の人の話から始める。
・ そのような悲惨な事故にあった場合、被害者を目の前にしても何もできず無力感におそわれたと他の請求人さんから聞いたことがありますが、あなたの場合もそうでしたか?(悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした)
・ 交通事故を起こすと事後処理が大変だと聞いたことがあります。その方は、ケガをされた方への謝罪や補償、会社での給与の減額や、降格などの重いペナルティもあったと仰っていました。こういったことがあなたにもありましたか?(業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした)
標準化した表現を用いることが不適切な場合もある。例えば極端な暴力などは、正常な反応、了解可能な反応と考えることはできないので、このようなことを尋ねる際には標準化の手法を用いることは適当でない。
イ 症状を誇張する
   本人が気にしていたり、恥ずかしいと思っている行動の、実際の頻度を確認するために、症状を誇張する手法が用いられることがある。これは、問題となる行動の頻度、程度について、面接者が予想しているよりも多く言ってみるというもので、本人は、自分の行動はそれより少ないので、事実を述べても面接者にそれほど悪くはとられないだろうと感じるとされている。
・ あなたは毎日日本酒をどれぐらい飲みますか?5合?6合?それとも、もっと多いですか?(個体側要因:アルコール等依存状況)
この手法はふさわしい状況で用いなければならない。例えば、請求人が飲酒の問題をもっていると疑われるような理由がなければ、「1日に何ケースのビールを飲みますか」という質問は侮辱的に聞こえるからである。
ウ 行動について質問するときに本人が使い慣れている言葉を使う
   一般的に、精神障害の患者は、面接者が「自分と同じ言葉を使っている」と感じているほうが話しやすくなるとされる。
   ある研究によると、飲酒と性について質問する際に、あるグループでは「酩酊」「性交」などの「標準的」な言葉を用い、他のグループでは、回答者がふだん使い慣れている言葉、例えば、「酔っぱらう」「愛し合う」などを用いたところ、使い慣れている言葉を使ったほうが、これらの行動の報告が15%増えたとされている。
(例) (「標準的」な言葉) (「使い慣れている」言葉)
「顧客」 → 「お客さん」、「クライアント」
「解雇される」 → 「クビになる」
「時間外労働」 → 「残業」 など
(2) 請求人の記憶があいまいなときの問いかけ
ア 具体例をつけて質問する
請求人の記憶があいまいな場合には、質問の終わりに一連の具体例をつけ、想起を促す方法がある。
聴取者「その場面に居合わせた同僚というのはだれですか」
請求人「だれだったかなあ、ちょっと思い出せません」
聴取者「その時期に同じ部署にいた方は、関川さん。追川さん。西口さんでしたが・・・」
請求人「ああ、そういえば追川さんでした。そのあとで彼と話したのを思い出しました」
イ 用語の意味を明確にする
請求人の記憶があいまいだと思われる状況が、実は言葉の意味を理解していないために生じていることがある。
例えば、請求人がひどいいじめに遭った時期を知りたいとする。
聴取者「あなたが上司からひどいいじめを受けたのはいつからですか?」
請求人「入社当時からでした。私だけ、毎日のように厳しく、仕事のことで注意されていましたから。」
聴取者が、請求人と自分が「ひどいいじめ」に対して違う意味づけをしていることに気がついた場合には、用語の意味を明確にする。
聴取者「言葉の意味を整理しましょう。私は、人格や人間性まで否定されるような言動を『ひどいいじめ』と言っています。注意の仕方が厳しくても、あくまで業務に関連した内容のものは『上司とのトラブル』としています。このように区別したときに、ひどいいじめが始まったのはいつ頃ですか?」
請求人「一昨年の6月ごろからだと思います」
(3) 聴取に対して拒否的な請求人に対する問いかけ
ア あいづちをうつ
   あいづちは、請求人を励まし、申述をスムーズにさせるために用いられる手法とされる。個人的で繊細な情報を打ち明けている患者を促すために、次のような表現が使われる。
・「続けてください」
・「なるほど」
・「あなたが今話していたことを続けてください」
・「本当ですか?」
・「そうですか」
   こういう言葉はしばしば、話を促すような身ぶり手ぶりを交えて用いられる。例えば、うなずき、視線のやりとり、顔の表情の変化などである。一般的に、拒否的な患者に対する面接者の反応が自然で純粋であるほど、患者の警戒心を解きやすいとされている。
イ あたりさわりのない話題を用いる
   聴取者の質問が事案の詳細な内容になるにつれて、請求人が心理的にどんどん離れていってしまうような場合がある。このような場合には、一旦、事案に関係のない話題に切り替えるようにして、請求人の信頼がえられている話題に戻る。
(4) 多弁な請求人に対する問いかけ
   請求人に、無関心でせっかちであると感じさせずに、聴取の流れをコントロールする手法である。
   ある面接技法に関する実験的研究によると、話し過ぎる患者に対しては、概して「てきぱきとした高度に制御的な姿勢」が患者に疎外感を与えることなく制限するのに役立つとされている。
ア 答えが限定される質問や多肢選択式の質問を用いる
   自由回答形式の質問はほとんどの場合に用いられるが、こまごまと詳細に話す請求人の場合には聴取が必要以上の長時間にわたることになりやすい。このような場合には、答えが制限される質問や多肢選択式の質問を用いる方法が考えられる。
(ア) 答えが限定される質問とは、「はい」か「いいえ」で答えられる質問や、答えの幅が限られている質問である。例えば、次のようなものである。
・「今回発病する以前の半年間で、精神科を受診したことはありますか?」(既往歴)
・「今月は何回通院しましたか?」
(イ) 多肢選択式の質問は、答えが限定される質問よりもさらに答えを制限する。
   このような質問は、可能性のある答えの選択肢を質問のなかに含むものであり、それらの選択肢によって面接者の期待する正確さの目安も明らかになる。
・「そのころの残業時間はどうですか?それまでより長かったですか?短かったですか? 同じでしたか?」(仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった)
・「その上司との業務をめぐる方針についてのトラブルは、周囲にどれぐらい知られていましたか?全く知られていませんでしたか?まわりからも認識されるほどの対立でしたか?その後の業務に支障を来たすほど大きな対立でしたか?」(上司とのトラブル)
   多肢選択式の質問に対する一般的な批判として、あらかじめ用意されている答えがバイアスになるのではないかというものがある。しかし、患者はバイアスを受けず、選択肢のおかげで明快で的を射た答えを引き出すことができたとする調査がある。
   一般的に、答えが限定される質問や多肢選択式の質問を多用せざるを得ない状況は、請求人と面談できる時間が限られているなどごく短時間で多くのことを尋ねる必要がある場合などであるが、この種の質問を用いる際には十分な配慮が必要とされる。なぜなら、この種の質問は請求人に疎外感を与えることがあり、話をしたいと考えている請求人を拒絶的にしてしまうおそれもあるからである。
イ 優しく遮る
   請求人の話を遮ることは失礼に当たると思われるかもしれないが、とりとめのない話を聞き続けた結果、必要な事柄を聞く時間がないというような事態は、請求人にとっても好ましくないことから、場合によっては、面接者が積極的に面接をコントロールする必要がある。面接者がこのような手法によって思いやりをもって行えば、請求人を疎外することはないとされる。
臨床の経験則では、細部にわたってとりとめのない話をする患者というのは話を遮られることに慣れているので、面接者が話に割り込んでもひるむことが少なく、特に自分の話で不安になったり怒りを感じているようなときには、話を遮られることに感謝しているような場合すらあるとされる。
   相手を思いやりながら話を遮ることは「話題転換のための表現」としても知られており、さまざまなやり方がある。
(ア) 「共感的な遮断」では、衝撃を和らげるために共感的な言葉を添える。
・「そういう状況はあなたにとって本当に大変だったろうとお察しします。それに対処するために、会社は何かしてくれましたか?」(セクシュアルハラスメントを受けた)
(イ) 「引き延ばし遮断」では、患者の話している話題は重要であり、後でその話題に戻りたいと患者に伝えて安心させる。
・「あなたが会社の労災手続きの担当者について、とても強い感惰をおもちになっているのはわかります。後でそのことについて少しお話しましょう。今、私がお伺いしたいのは、あなたのうつ症状が出始めた時期です。食欲や睡眠は正常でしたか?」
   この引き延ばし遮断の言葉にも共感の語調が含まれている。
(ウ) 2つの遮断方法を数回使ってみて効果がないときには、これから行う質問の内容や、時間の制約について、患者に対して説明を加えて遮断する方法も考えられる。
・「申し訳ないですがまたあなたの話を止めざるを得ません。残された時間20分で、あなたの治療歴や、職歴など伺いたいことがたくさんあります。さらに、少し時間を残して、今後の調査の進め方についてお話ししたいのです。質問に直接答えて、あまり横道にそれないようにしていただけると助かります。どうですか?」
あるいは、
・「次の30分間で聞き取らなければならない事柄が本当にたくさんありますので、あなたにたくさんの質問をします。そのために、あなたのお話を中断することもあります。ご理解ください」
(5) 敵対的な感情をもつ患者
   患者が初回面接中に敵対的になる場合、それは面接者のせいではないことを覚えておく。基本的に敵対的な攻撃は患者の病理の産物であるとされる。初回面接中の患者の怒りの原因として、妄想性障害、うつ病あるいは躁病によるいらつき、事件事故に対する敵意が面接者へ向けられること(投影)等があるとされている。
   例えば、敵対的な妄想患者が面接者に怒りを向けるのは、面接者を直接的な脅威の対象や練り上げられた妄想の一部とみなしているからだとされる。この誤った投影に対処する方法として、ささやかな冗談等をうまく使うことがあり、患者は通常、面接者のこのような態度は悪意と一致しないと感じるとされている。
   また、敵対的なうつ病患者に遭遇することもある。しかし、この敵意は溜まっている心痛を隠すためのものであり、このような場合、次のように、かなり直接的な解釈を与えるのがよい方法であるとされている。
・「怒っているようですね。 でも、その怒りの下には何か悲しみが、あるように私には思えるのですが」
・「あなたが私に対して怒っているのはよくわかります。しかし、あなたを苦しめている怒りの下には何か他のことがあるのではないでしょうか?」
(6) 涙もろい患者
   患者の多くは初回面接で涙を見せるが、不慣れな面接者はこういう事態にとまどうかもしれない。こういう状況での典型的な面接者の反応は感情的になることである。その感情は過剰な共感から不快感までさまざまである。多くの面接者はおそらく本能的に、親友や家族が自分の前で泣いているときのように振る舞いたくなるであろう。例えば、肩を叩いたり、軽く抱きしめたり、優しい言葉をかけたりするかもしれない。しかし、こういうことは職業上の関係では通常誤りであるとされている。
   適切な接し方は患者によって異なる。患者が泣いたとき、まずなすべきことは、涙の意味を理解することである。もちろん、それが常に明らかであるとは限らない。
   例えば、最近離婚したことを語りながら泣く患者では、涙の理由は見捨てられたことかもしれないし、将来の経済的不安かもしれないし、失敗を嘆いているのかもしれない。あるいは、夫婦関係が終わったことへの安堵感かもしれない。
   請求人が涙ぐんできたら、例えば、まずティッシュボックスを請求人が見えるところまで移動させ、共感をもって数秒待つ。そして、次のような質問をする。
・「いろいろとおつらかったんですね。今泣きながら何を考えていますか?」
面接のまさにこの瞬間まで泣かなかったと答える患者はけっこう多いといわれている。
請求人が、泣いてしまったことを恥ずかしがったり、当惑していたりしたら、次のような言葉をかけて、泣いてもよいことを伝える。
・「泣くと気持ちが解放されるかもしれませんね」
・「気が済むまで泣いていいんですよ。自分が泣くことを許す気持ちになることはいいことだそうですから。」
・「泣くことは回復の過程の大切な一部分だそうですね」
   ただし、涙を見せることが常にいいこととは限らない。涙は強い心痛を意味しており、特に自殺念慮に注意を払う必要があるとされるからである。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。