損益相殺,相殺禁止及び素因減額

第0 目次

第1 損益相殺の総論
第2 遺族厚生年金と損益相殺
第3 労災保険と損益相殺
第4 民法上の相殺禁止
第5 素因減額

第1 損益相殺の総論

1 被害者が不法行為によって死亡し,その損害賠償請求権を取得した相続人が不法行為と同一の原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平の見地から,その利益の額を相続人が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図ることが必要なときがあり得ます(最高裁大法廷平成27年3月4日判決。先例として,最高裁大法廷平成5年3月24日判決)。

2 損益相殺としての控除が認められた例は以下のとおりです。
① 不法行為による死亡者の生活費(最高裁昭和39年6月24日判決
② 被災労働者が労働者災害補償保険から受領した保険給付(最高裁昭和52年10月25日判決
③ 所得補償保険金(最高裁平成元年1月19日判決
→ 所得補償保険金とは,被害者が傷害又は疾病のために就業不能となった場合に,被保険者が喪失した所得を補填することを目的とした保険金です。
④ 被害者の相続人に対して既に支給され,又は支給されることが確定した地方公務員等共済組合法に基づく遺族年金(最高裁大法廷平成5年3月24日判決
→ 被害者の相続人は,被害者の加害者に対する損害賠償請求権を相続しますところ,それと同時に,遺族年金を受給できるようになる場合がありますから,損害賠償請求権と遺族年金との損益相殺が問題となるわけです。
⑤ 被害者の相続人に対して既に支給され,又は支給されることが確定した国民年金法及び厚生年金保険法に基づく遺族年金(最高裁平成11年10月22日判決
→ 問題状況は④の例と同じです。

3 損益相殺としての控除が認められなかった例は以下のとおりです。
① 死亡によって支払われた生命保険金(最高裁昭和39年9月25日判決
② 会葬者等から送られた香典(最高裁昭和43年10月3日判決
③ 得べかりし営業収益に対して課せられるべき租税(最高裁昭和45年7月24日判決
④ 死亡した幼児の養育費(最高裁昭和53年10月20日判決,最高裁昭和54年3月9日判決(判例秘書))
⑤ 生命保険契約に付加された特約に基づいて被保険者である受傷者に支払われた傷害給付金又は入院給付金(最高裁昭和55年5月1日判決
⑥ 搭乗者傷害保険の死亡保険金(最高裁平成7年1月30日判決
⑦ 被災労働者が労働者災害補償保険から受領した特別支給金(最高裁平成8年2月23日判決

第2 遺族厚生年金と損益相殺

1 国民年金に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に,その相続人のうちに被害者の死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得した者がいるときは,その者が加害者に対して賠償を求め得る被害者の逸失利益(被害者が得べかりし障害基礎年金等)に係る損害の額から,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものとされています(最高裁平成16年12月20日判決)。

2 不法行為により死亡した被害者の相続人が,その死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,被害者が支給を受けるべき障害基礎年金等に係る逸失利益だけでなく,給与収入等を含めた逸失利益全般との関係で,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものとされています(最高裁平成16年12月20日判決)。

3 不法行為の被害者の相続人が受給権を取得した遺族厚生年金等を損害賠償の額から控除するに当たっては,現にその支給を受ける受給権者についてのみこれを行うべきものとされています(最高裁平成16年12月20日判決)。

4(1) 遺族厚生年金について男女の支給要件に差別があることは,憲法14条1項に違反しないと思われます(地方公務員災害補償法の定める遺族補償年金制度に関する最高裁平成29年3月21日判決参照)。
(2) 平成26年4月以降に妻が死亡した場合,遺族基礎年金について男女の支給要件に差はありません(公益社団法人生命保険文化センターHPの「公的な遺族年金の仕組みについて知りたい」参照)。 

第3 労災保険と損益相殺

「労災保険と損益相殺」に移転させました。

第4 民法上の相殺禁止

1 不法行為の加害者が相殺を主張することはできません(民法509条)。

2 民法509条は,不法行為の被害者をして現実の弁済により損害の填補をうけしめるとともに,不法行為の誘発を防止することを目的とするものであるから,不法行為に基づく損害賠償債権を自働債権とし不法行為による損害賠償債権以外の債権を受働債権として相殺をすることまでも禁止する趣旨ではありません(最高裁昭和42年11月30日判決)。
    つまり,不法行為の被害者が相殺を主張することは許されるということです。

3 民法509条の趣旨は,不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせること等にあるから,およそ不法行為による損害賠償債務を負担している者は,被害者に対する不法行為による損害賠償債権を有している場合であっても,被害者に対しその債権をもって対当額につき相殺により右債務を免れることは許されません(最高裁昭和32年4月30日判決)。
    そのため,双方の被用者の過失に基因する同一交通事故によって生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても,民法509条の規定により相殺が許されません最高裁昭和49年6月28日判決)。

4 民法509条は,不法行為の被害者に現実の弁済によって損害の填補を受けさせるとともに不法行為の誘発を防止することを目的とする規定です(最高裁昭和42年11月30日判決参照)。
    そのため,不法行為の加害者が,被害者に対して有する自己の債権を執行債権として被害者の損害賠償債権を差し押え,これにつき転付命令を受け,混同によって右債権を消滅させることは,右規定を潜脱する行為として許されず,このような転付命令はその効力を生じえません(最高裁昭和54年3月8日判決)。

第5 素因減額

「素因減額」に移転させました。
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。