恩赦

第1 恩赦の種類

1 恩赦とは,裁判手続によらずに刑事裁判の内容を変更し,その効力を変更又は消滅させるものをいい,①政令で恩赦の対象となる罪や刑の種類等を定めてその要件に該当する人に対して一律に行われる政令恩赦(大赦),及び②特定の人について個別に審査して行われる個別恩赦があります(憲法7条6号,73条7号)。

2 大赦は,有罪の言渡しを受けた者についてはその言渡しの効力を失わせるものであり,まだ有罪の言渡しを受けない者については公訴権を消滅させるものです(恩赦法3条)。
   そのため,起訴されている犯罪について大赦があった場合,裁判所は免訴判決を下します(刑訴法337条3号)。

3 個別恩赦の種類としては以下のものがあります。
① 特赦(恩赦法4条及び5条)
  有罪の言渡しそのものの効力を失わせるものをいいます。
② 減刑(恩赦法6条及び7条)
  言渡しを受けた刑を減軽し,又は刑の執行を減軽するものをいいます。
ただし,刑の執行猶予の言渡しを受けてまだ猶予の期間を経過しない者に対しては,刑を減軽する減刑のみを行うものとし,また,これとともに猶予の期間を短縮することができます。
③ 刑の執行の免除(恩赦法8条)
   確定した刑の執行を将来に向かって全部免除するものをいいます。
④ 復権(恩赦法9条及び10条)
   刑の執行を終了した人等に対し,法令の定めにより喪失し,又は停止されている資格を回復させるものをいいます。

第2 大赦令の実例

1 戦後の大赦令の実例は以下のとおりです。
① 大赦令(昭和20年10月17日勅令第579号。同日施行)
→ 太平洋戦争の終結に伴って下されたものであり,昭和20年9月2日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
② 大赦令(昭和21年11月3日勅令第511号。同日施行)
→ 日本国憲法の公布に伴って下されたものであり,昭和21年11月3日までに犯された①陸軍刑法,海軍刑法違反等の罪の一部(例えば,敵前逃亡の罪),②治安維持法違反等の罪が大赦となりました。
③ 大赦令(昭和27年4月28日政令第117号。同日施行)
→ 対日平和条約の発効に伴って下されたものであり,昭和27年4月28日までに犯された占領目的阻害行為処罰令違反等の罪の一部が大赦となりました。
④ 大赦令(昭和31年12月19日政令第355号。同日施行)
→ 国際連合加盟に伴って下されたものであり,昭和31年12月19日までに犯された公職選挙法違反等の罪が大赦となりました。
⑤ 大赦令(平成元年2月13日政令第27号。平成元年2月24日施行)
→ 昭和天皇の大喪の礼に伴って下されたものであり,未成年者喫煙禁止法,未成年者飲酒禁止法,軽犯罪法違反等の罪が大赦となりました。

2  大赦令(昭和27年4月28日政令第117号)2条にいう「他の罪名に触れる行為」とは,平和条約発効後も犯罪として存続し且つ赦免されない罪にあたる行為をいい,平和条約発効と共に刑の廃止となり処罰し得なくなる行為は含まれません(最高裁大法廷昭和30年9月28日判決)。

3  被告人の行為が大赦令(平成元年2月13日政令第27号)により赦免の対象とされる罪に当たり,包括一罪を構成する場合に,その一部の行為が同時に赦免されない他の罪名に触れるため同政令2条により赦免されないときは,その余の行為についても赦免されません(最高裁平成4年6月15日判決)。

第3 恩赦の手続

1 恩赦の手続は,①恩赦法(昭和22年3月28日法律第20号。昭和22年5月3日施行)及び②恩赦法施行規則(昭和22年10月1日司法省令第78号。同日施行)で定められています。

2(1) 個別恩赦は,刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が,職権又は本人からの出願に基づき,中央更生保護審査会に上申をし(恩赦法施行規則1条),中央更生保護審査会が審査の結果,恩赦を実施すべきであると認める場合には法務大臣に対しその旨の申出を行い(恩赦法12条及び13条,並びに更生保護法89条),その申出がなされた者について内閣が閣議により決定し(憲法73条7号),国事行為としての天皇の認証がなされます(憲法7条6号)。
(2) 戦前の恩赦は天皇大権の一つでした(明治憲法16条)。

3 被収容者は刑事施設の長,保護観察中の者は保護観察所の長,その他の者は有罪の言渡しを受けた裁判所に対応する検察庁の検察官に対し,特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願を行えます。
   そして,この出願を受けた刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官は,意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則1条の2)。

4 特赦,減刑又は刑の執行の免除の出願に当たっては,出願書に添えて,以下の書類を提出しなければなりません(恩赦法施行規則2条)。
① 判決の謄本又は抄本
② 刑期計算書
③ 犯罪の情状,本人の性行,受刑中の行状,将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類

5 保護観察所の長又は検察官は,本人から復権の出願があったときは,意見を付して中央更生保護審査会にその上申をしなければなりません(恩赦法施行規則3条2項)。

6 特赦、減刑又は刑の執行の免除の出願は,刑法28条所定の期間が経過するまではすることができません(恩赦法施行規則6条参照)。

7 復権の出願は,刑の執行を終わり又は執行の免除のあった後でなければできません(恩赦法施行規則7条)。

8 刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官が本人の出願によりした特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,その出願の日から1年を経過した後でなければ,更に出願をすることができません(恩赦法施行規則8条)。

9 個別恩赦の出願書には以下の事項を記載し,かつ,戸籍の謄抄本を添付しなければなりません(恩赦法施行規則9条)。
① 出願者の氏名,出生年月日,職業,本籍及び住居
② 有罪の言渡しをした裁判所及び年月日
③ 罪名,犯数,刑名及び刑期又は金額
④ 刑執行の状況
⑤ 上申を求める恩赦の種類
⑥ 出願の理由

10 中央更生保護審査会は,特赦,減刑,刑の執行の免除又は復権の上申が理由のないときは,上申をした者(=刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官)にその旨を通知しなければならず,この通知を受けた者は,出願者にその旨を通知しなければなりません(恩赦法施行規則10条)。
 
11 中央更生保護審査会は,恩赦を実施すべきである旨の申出を法務大臣に対してする場合,あらかじめ,申出の対象となるべき者の性格,行状,違法な行為をするおそれの有無,その者に対する社会の感情その他の事項について、必要な調査を行う必要があります(更生保護法90条1項)。
   また,中央更生保護審査会は,刑事施設若しくは少年院に収容されている者又は労役場に留置されている者について,特赦,減刑又は刑の執行の免除の申出をする場合,その者が,社会の安全及び秩序を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮しなければなりません(更生保護法90条2項)。

12 特赦,特定の者に対する減刑,刑の執行の免除又は特定の者に対する復権があったときは,法務大臣は中央更生保護審査会をして,有罪の言渡しをした裁判所に対応する検察庁の検察官に特赦状,減刑状,刑の執行の免除状又は復権状(=恩赦状)を送付させます(恩赦法施行規則11条1項)。
   恩赦状の送付を受けた検察官は,自ら上申をしたものであるときは,直ちにこれを本人に交付し,その他の場合においては,速やかにこれを上申をした者に送付し,上申をした者は,直ちにこれを本人に交付しなければなりません(恩赦法施行規則11条2項)。

13 恩赦法による復権によっては,単に一旦喪失した資格を回復するにとどまり,有罪の言渡しに基づく既成の効果が復権によって変更されるものではありません。
   そのため,裁判所が,刑の量定にあたって,復権した公職選挙法違反の前科を参酌することは憲法14条及び39条に違反しません(最高裁昭和39年12月15日判決)。
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