労働能力の喪失割合及び喪失期間

第0 目次

第1 労働能力の喪失割合
第2 労働能力の喪失期間
第3 むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間
第4 自賠責保険ポータルサイトHPの「交通事故に関するお役立ち情報」

*1 以下のHPも参照してください。
① 後遺障害における基礎収入の認定
② 中間利息控除係数及び生活費控除
③ 交通事故事件の慰謝料
*2 公益社団法人日本アクチュアリー会HP「標準生命表」に,標準生命表2007及び標準生命表2018が載っています。
*3 東京交通事故相談サポートHP「後遺障害による労働能力喪失率が制限される場合」が載っています。
*4 交通事故に関する赤い本講演録2007年・75頁ないし96頁に「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」が載っていて,97頁ないし130頁に「逸失利益の算定における賃金センサス」が載っています。
*5 交通事故に関する赤い本講演録2012年15頁ないし34頁に「退職金差額請求について」が載っています。
*6 交通事故に関する赤い本講演録2013年41頁ないし70頁に「特殊な職業と後遺障害による逸失利益」が載っています。
*7 交通関係訴訟の実務(著者は東京地裁27民(交通部)の裁判官等)に178頁ないし197頁の「後遺障害の諸問題1(算定方法に伴う諸問題)」には,労働能力喪失率の認定方法,被害者に減収がない場合の喪失率の認定,被害者の職業に応じた喪失率の認定,被害者の具体的な症状に応じた喪失率の認定及び労働能力喪失期間の認定が書いてあります。
   また,198頁ないし216頁に「後遺障害の諸問題2(労働能力への影響が問題となる後遺障害等(醜状障害等))」が載っています。
   さらに,277頁ないし294頁に「定期金賠償の諸問題」が載っています。
*8 後遺障害の内容が外貌醜状,脊柱変形,鎖骨変形,腸骨採取による骨盤骨変形,腓骨の偽関節,1cm以上3cm未満の下肢短縮,歯牙障害,嗅覚・味覚障害及び脾臓喪失である場合,労働能力喪失率が制限されることがあります(東京交通事故相談サポートHPの「後遺障害による労働能力喪失率が制限される場合」参照)。

第1 労働能力の喪失割合

1 総論
(1) 労働能力の低下については,労働省労働基準局長通牒(昭和32年7月2日基発第551号)別表1「労働能力喪失率表」を参考としつつ,障害の部位・程度や被害者の職業等を総合して判断されることとなります。
    そのため,被害者が自賠責保険や労災保険の手続において一定の後遺障害等級の認定を受けていたとしても,裁判所の判断が必ずそれと一致するものではありません。
(2) 交通事故による傷害のため,労働能力の喪失・減退を来たしたことを理由として,逸失利益を算定するにあたって労働能力喪失率表は有力な資料となります。
    しかし,損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害をてん補することを目的とするものですから,被害者の職業と傷害の具体的状況により,同表に基づく労働能力喪失率以上に収入の減少を生じる場合には,その収入減少率に照応する損害の賠償を請求できます(最高裁昭和48年11月16日判決)。
    つまり,具体的事情によっては,労働能力喪失率表所定の労働能力喪失割合を超える逸失利益を請求できる場合があるということです。

2 労働省労働基準局長通牒が定める労働能力喪失割合
   労働省労働基準局長通牒が定める労働能力喪失割合は以下のとおりです。
① 後遺障害1級ないし3級の場合,100%
② 後遺障害4級の場合,92% 
③ 後遺障害5級の場合,79%
④ 後遺障害6級の場合,67%
⑤ 後遺障害7級の場合,56%
⑥ 後遺障害8級の場合,45%
⑦ 後遺障害9級の場合,35%
⑧ 後遺障害10級の場合,27%
⑨ 後遺障害11級の場合,20%
⑩ 後遺障害12級の場合,14%
⑪ 後遺障害13級の場合,9%
⑫ 後遺障害14級の場合,5%
 
3 外貌醜状の場合
(1)   交通事故により顔面を強打し,顔面醜状が残った場合,自賠責保険及び労災保険との関係では,外貌醜状として,後遺障害逸失利益は一律に判断されます。
   しかし,裁判所が後遺障害逸失利益を判断する場合,被害者の職種が,ファッションモデルや俳優といった外貌が重視されたり,対人折衝が多かったりする職種の場合と,デスクワークだけで対人折衝のない職種とでは,逸失利益の判断が異なるものとなることがあります。
   ただし,対人折衝のない職種においても,逸失利益が認められなくても精神的苦痛を被っていることは明らかであって,この点は,慰謝料の算定において考慮されます。
(2) 外貌醜状に関する男女差別は憲法14条1項に違反すると判断した京都地裁平成22年5月27日判決を受けて,平成23年2月1日,外貌醜状に関する男女差別が廃止されました(交通事故 後遺障害認定・異議申立の申請HP「自賠責保険-外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)に関する後遺障害等級(平成23年2月1日改正)」参照)。
 
4 逸失利益が否定される場合があること
   仮に交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても,その後遺症の程度が比較的軽微であって,しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては,特段の事情のない限り,労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はありません。
   そして,特段の事情の例としては,①事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって,かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合,及び②労働能力喪失の程度が軽微であっても,本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし,特に昇給,昇任,転職等に際して不利益な取扱いを受けるおそれがあるものと認められる場合があります(後遺障害14級の事例を取り扱った最高裁昭和56年12月22日判決参照。最高裁昭和42年11月10日判決の判示内容を詳しくしています。)。
   つまり,具体的事情によっては,労働能力喪失率表所定の労働能力喪失率に基づく逸失利益を請求できない場合があるということです。

第2 労働能力の喪失期間

1 総論
(1) 労働能力喪失期間とは,死亡又は後遺障害確定時から就労可能年数までの期間をいい,以下のとおり認定されます。
① 55歳未満の男性,及び50歳未満の女性については,67歳から被害者の年齢を控除した年数に対応するライプニッツ係数
② 55歳以上の男性,及び50歳以上の女性については,平均余命の2分の1の年数に対応する係数
③ (a)幼児・(b)児童・(c)生徒・(d)18歳未満の学生の場合,就労の終期(67歳)までの年数に対応するライプニッツ係数(67年の係数-死亡時年齢の係数)から就労の始期(18歳)までの年数に対応するライプニッツ係数(18年の係数-死亡時年齢の係数)を控除した係数を使用します。
   例えば,3歳で死亡した場合のライプニッツ係数,8.739となります。
(2) ライプニッツ係数と就労可能期間の表につき,「中間利息控除係数及び生活費控除」を参照してください。
(3) 損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率5%となっています(最高裁平成17年6月14日判決)。 
   新発10年国債利回りの実績(日本相互証券株式会社HPの「長期金利推移グラフ」参照)からすれば,年利5%というのは非常に高いです。
(4)ア 民法の一部を改正する法律(平成29年6月2日法律第44号)による改正後の民法404条2項は,法定利率は年3%であるとしています。
イ 法務省HP「民法の一部を改正する法律案」「新旧対象条文」及び「修正に係る新旧対象条文」(付則15条2項だけが修正されたもの)が載っています。
 
2 就労の始期及び終期の設定根拠
(1) 未就労者の就労の始期を原則として18歳としているのは,高等学校進学率が約98%である(文科省HPの「高等学校教育」コーナー掲載の「高等学校教育の現状」参照)ことから,一般的に高等学校を卒業するであろうと考えられるからです。
    なお,平成28年度の大学進学率は52%であります(外部HPの「大学進学率をグラフ化してみる(2016年)」)ところ,大学進学の蓋然性が認められる場合,大学卒業時である22歳を就労の始期とすることがあります。
(2)ア 死者の労働可能期間は,理論的には,死者の年令,健康状態,職業その他諸般の事情を考慮して認定されます(最高裁昭和40年6月8日判決参照)。
イ 「東京地方裁判所民事交通部の損害賠償算定基準と実務動向」を掲載している判例タイムズ310号59頁(昭和49年10月15日発行)59頁には以下の記載があります。
   稼働終了時期を67才とすることは基準とされた。これは第12回生命表(昭和44年)の0才男子の平均余命67.74才によったものである。すべての年令の者の平均余命即その年令の者の就労可能期間とはいえないであろうが,一応0才のそれを採用した。寿命延長傾向にかんがみ,就労可能年数も早晩改訂を免れまい。男女の平均余命に大差あるが,稼働可能年数を男子に一致させているのは興味ある現象といえる。
ウ 国勢調査は5年に一回実施されており,直近では,平成27年10月1日に実施されました(総務省統計局HPの「平成27年国勢調査」参照)。
(3) 平成28年10月28日発表の,平成28年「高年齢者の雇用状況」集計結果によれば,①定年制の廃止および65歳以上定年企業,②希望者全員66歳以上の継続雇用制度を導入している企業,及び③70歳以上まで働ける企業は増加傾向にあります。
   また,平成29年1月5日に日本老年学会が発表した,「高齢者の定義と区分に関する,日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言(要求)」は,65歳~74歳を准高齢者,75歳~89歳を高齢者,90歳~を超高齢者に区分することを提言しています。
   そのため,将来的には就労の終期が見直されるかもしれません。
(4)ア 厚生労働省HPの「平均寿命と健康寿命をみる」によれば,平成22年時点で,日常生活に制限のない期間である健康寿命は,男性の場合,70.42歳であり,女性の場合,73.62歳となっています。
イ 専業主婦(夫)として健康寿命までの間,家事労働に従事することが見込まれていた場合,労働能力喪失期間の終期を健康寿命とした方が実態に合っている気がします。

3 簡易生命表及び完全生命表
(1) 我が国では,全国規模の生命表として,簡易生命表と完全生命表の2種類が作成されており,その結果は厚生労働省大臣官房統計情報部から公表されています(厚労省HPの「生命表(加工統計)」参照)。
(2) 簡易生命表は,各年の推計人口(10月1日現在),死亡数(概数),出生数(概数)をベースに簡略化された方法により毎年作成されます。
   完全生命表は,5年ごとに実施される国勢調査の確定人口及び人口動態統計の確定データに基づき,より精密な方法で5年ごとに作成されるものです。
(3) 自賠責保険では,完全生命表が使用されています。

4 平均寿命
(1) 平均寿命というのは,0歳児の平均余命のことであり,男性の平均寿命が50歳を上回るようになったのは,昭和22年国勢調査に基づく第8回完全生命表からです。
(2) 明治24年(1891年)以降の平均寿命の推移は,ガベージニュースHPの「日本の平均寿命の推移をグラフ化してみる(2016年)」に掲載されています。

5 むち打ち症の場合
(1) むち打ち症の場合は通常,労働能力喪失期間につき,12級で5年から10年程度に,14級で2年から5年程度に限定されます。
(2) 労働能力喪失期間を短期間に限定する場合,賃金センサスを使用するときは,原則として学歴計・年齢対応平均賃金を使用します。
   ただし,家事従事者については学歴計・女性全年齢平均賃金を使用します。

6 定期金賠償の場合
 交通事故に起因する後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては,事故の時点で,被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り,就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しません(最高裁令和2年7月9日判決)。

第3 むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間

1 赤い本講演録2007の「むち打ち症以外の原因による後遺障害等級12級又は14級に該当する神経症状と労働能力喪失期間」には,検討結果として以下の趣旨の記載があります。
ア 症状固定後相当期間が経過しているのに改善の徴候がない場合にまで喪失期間を限定するのは相当ではない。
イ 脳挫傷等脳に障害を負ったことに伴う神経症状及び脊髄損傷に伴う神経症状の場合,喪失期間を5年ないし10年に限定するのは慎重にすべきであり,少なくとも12級の場合は限定しないのを原則と考えるべきである。
ウ 自賠責の後遺障害等級に該当しないために神経症状としてとらえられるものの,運動・機能障害が認められる場合には,喪失期間を5年ないし10年に限定するのは慎重にすべきである。
エ 5年ないし10年に限定するのが相当でない場合に,具体的な喪失期間は,年齢,職業,後遺障害の程度に応じて事案ごとの判断になると思われるが,高齢者の場合には就労可能年限まで認められる可能性が高く,逆に若年者であればあるほど就労可能年数まで認められる可能性は低くなると思われる。また,当該神経症状が痛み(疼痛)を中心とする場合には,労働能力喪失率を逓減させるのも合理性がある。
オ 結論として,むち打ち症以外の場合には,神経症状であるとの一事から直ちに喪失期間が5年ないし10年に限定されると論じるには慎重であるべきである。

2 近時の裁判例における,むち打ち症ではない局部の神経症状(14級,12級)に関する労働能力喪失期間の認定傾向(2021年3月1日発行の交通事故相談ニュース46号)には「講演録で示された前記ア~エの考え方についても、14級の運動障害のところなど、一部、近時の裁判例に当てはまらない可能性が認められるものの,それ以外は概ね妥当するといえる。」と書いてあります。

第3 自賠責保険ポータルサイトHPの「交通事故に関するお役立ち情報」

平成29年6月17日現在,国土交通省の自賠責保険ポータルサイトHP「交通事故に関するお役立ち情報」には,以下の情報が載っています。

1 支払基準・てん補基準
① 自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準
② 自動車損害賠償保障事業が行う損害のてん補の基準
③ 労働能力喪失率表
④ 就労可能年数とライプニッツ係数表
⑤ 平均余命年数とライプニッツ係数表
⑥ 全年齢平均給与額

2 統計資料
① 自賠責保険(共済)の損害別支払保険金(共済金)の推移(会計年度)
② 政府保障事業の保障金支払状況の推移(会計年度)

3 国土交通大臣に対する申出様式 

4 その他
① 自動車損害賠償責任保険普通保険約款 
② 自動車損害賠償責任保険料(共済掛金)表
1(1) 被害者側の交通事故(検察審査会を含む。)の初回の面談相談は無料であり,債務整理,相続,情報公開請求その他の面談相談は30分3000円(税込み)ですし,交通事故については,無料の電話相談もやっています(事件受任の可能性があるものに限ります。)
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。

2 予約がある場合の相談時間は平日の午後2時から午後8時までですが,事務局の残業にならないようにするために問い合わせの電話は午後7時30分までにしてほしいですし,私が自分で電話に出るのは午後6時頃までです。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。