症状固定後の交通事故被害者の留意点

第0 目次

第1 症状の改善が続いている場合の留意点
第2 症状固定後の医療費の助成
第3 社会保険及び失業保険
第4 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう場合の留意点
第5 後遺障害の等級認定申請をする場合
第6 後遺障害の等級認定結果が出た場合
第7 示談

*1 本ページでは,交通事故で怪我をした場合に,症状固定後に注意することを中心に記載しています。
*2 症状固定後の注意事項については,「症状固定前の交通事故被害者の留意点」を参照してください。
*3 MRIにつき,外部HPの「閉所恐怖症の人がMRI検査を受ける時の対策方法とは?」が参考になります。
自賠責保険後遺障害診断書1/2
自賠責保険後遺障害診断書2/2

第1 症状の改善が続いている場合の留意点

1 総論
(1) 症状固定とは,①健康時の状態に完全に回復した状態だけをいうのではなく,②傷病の症状が安定し,医学上一般に認められた医療を行っても,その医療効果(=傷病の回復・改善)が期待できなくなった状態をいいます。
   そのため,傷病の症状が,投薬・理学療法等の治療により一時的な回復が見られるに過ぎない場合など症状が残存している場合であっても,医療効果が期待できないと判断される場合,症状固定と判断されることになります。
(2) 症状固定となった後の治療費は原則として損害賠償の対象にはなりませんし,入通院慰謝料が発生することもありませんから,その意味でも症状固定の判断は慎重に行う必要があります。
  
2 場合によっては通院を続けるべきであること 
(1) 裁判になった場合,裁判所が認定したところの症状固定の時期に基づいて入通院慰謝料及び治療費が決まりますところ,裁判でもっとも重視されるのが通院頻度です。
   その関係で,任意保険会社が治療費を打ち切った場合であっても,公的医療保険(例えば,国民健康保険)を使って1週間に2回ぐらいのペースで引き続き通院している場合,後日の裁判において,その分の治療費及び通院慰謝料も支払ってもらえることがあります。
   そのため,症状の改善が続いている場合,任意保険会社が治療費を打ち切った場合であっても,従前と同様のペースで整形外科への通院を続けてもらう方がいいです。
(2)   整骨院については,施術費の相当性が裁判所で否定される可能性が整形外科の治療費よりも遙かに高いことにかんがみ,費用対効果を考えて通院した方がいいです。
(3) 公的医療保険に切り替える場合,交通事故証明書を持参して,「第三者行為による傷病届」(「第三者行為による災害届」ともいわれます。)を市区町村等に提出する必要があります(大阪市HPの「保険給付でのご注意」参照)。
(4) 骨折等による関節の可動域制限に基づいて後遺障害の等級認定申請をする場合,長期間のリハビリ治療により可動域が改善する結果,認定される後遺障害等級が低くなることがあります。
   そのため,関節の可動域制限が後遺障害等級認定の限界ラインにある場合,交通事故から6ヶ月が経過した時点で早い目に症状固定の診断をもらった方がいいです。
  
3 領収書等は全部保管しておくこと
(1)   公的医療保険で通院した分の費用を請求する場合,自賠責保険に対する被害者請求であると,任意保険に対する損害賠償請求であるとを問わず,医療費の領収書が必要になりますから,全部保管しておいて下さい。
(2)   領収書と一緒に診療報酬明細書も交付されている場合,診療報酬明細書も保管しておいて下さい。
 
4 労災保険の利用を検討すること 
(1) 交通事故が業務災害又は通勤災害である場合,任意保険会社からの治療費を打ち切られたとしても,労災保険から治療費を支払ってもらえることがあります。
   そのため,公的医療保険に切り替える前に,労災保険から治療費を支払ってもらえないかどうかについて労基署に相談して下さい。 
(2) 労災保険に切り替える場合,労基署に対し,交通事故証明書を持参して第三者行為災害届を提出する必要があります(大阪労働局HPの「第三者行為災害について」参照)。  

第2 症状固定後の医療費の助成制度等

1 高額療養費制度
(1) 医療機関に支払った医療費が1ヶ月に一定の自己負担限度額を超えたとき,高額療養費制度に基づく高額療養費支給申請をすれば,自己負担限度額を超えた額が高額療養費として国民健康保険等から支給してもらえます(手続につき大阪市HPの「高額療養費制度」参照)。
   ただし,1人から4人の部屋に入院した場合に発生する差額ベッド代,入院中の食事代等は高額療養費制度の対象外です。
(2) 70歳未満の人が「限度額適用認定証」を保険証と併せて医療機関等の窓口に提示すると,1ヵ月 (1日から月末まで)の窓口での支払いが自己負担限度額までとなります。
   そのため,高額な医療費の負担が見込まれる場合,限度額適用認定証を取得しておいた方がいいです。
 
2 自立支援医療制度
(1) 例えば,以下の精神疾患により通院による治療を続ける必要がある場合,自立支援医療制度を利用することで医療費助成を受けられることがありますから,通院先の医療機関又は市区町村に相談してください(入院医療の費用は対象外です。)(手続につき大阪市HPの「自立支援医療(精神通院)」参照)。
① 統合失調症
② うつ病,躁うつ病などの気分障害
③ 不安障害
④ てんかん
(2)   自立支援医療制度を利用できる場合,自立支援医療受給者証を交付されます。
   この場合,自己負担については1割負担となりますし,例えば,住民税非課税世帯の場合,1月当たりの負担上限額は5000円又は2500円となります。
(3) 自立支援医療制度は,平成17年10月1日,精神保健福祉法32条に基づく通院医療費公費負担制度(自己負担は5%)に代わって導入された制度です。
3 重度障がい者医療費助成制度
(1) 交通事故によるケガが原因で身体障害者手帳2級を取得した場合,市町村の条例に基づく重度障がい者医療費助成制度(市町村によって名称が微妙に異なります。)を利用することで医療費助成を受けられることがありますから,通院先の医療機関又は市区町村に相談してください(手続につき大阪市HPの「重度障がい者の医療費を助成します」参照)。
(2) 大阪市の場合,1医療機関1日あたり最大500円(月2日限度)が一部自己負担額となっていますから,例えば,同じ月に3日以上同じ医療機関に通う場合,3日目以降の自己負担はありません。
(3) 財政に余裕がある自治体の場合,身体障害者手帳3級の人についても医療費助成制度の対象としています。
(4) 身体障害者手帳の取得方法については,外部HPの「障害者手帳とは?種類ごとの申請方法と受けられるサービスを一挙にご紹介」が参考になります。
 
4 自動車の運転に不安がある場合,運転は止めた方がいいこと 
□ 統合失調症,躁うつ病,てんかん等を発症した場合,運転免許証を更新する際,質問票(道路交通法101条4項)においてその旨を記載する必要があります。
    また,統合失調症等の影響により正常な運転が困難な状態に陥って交通事故を起こして人を負傷させた場合,危険運転致傷罪として12年以下の懲役に処せられます(自動車運転死傷行為処罰法3条2項・1項,同法施行令3条。なお,損害保険料率算出機構HPの「運転時の体調に関する法令上の定め」参照)。
   そのため,自立支援医療受給者証を交付された場合,自動車の運転免許証を返納した上で,本人確認書類としての「運転経歴証明書」(道路交通法104条の4第5項)を交付してもらう方がいいと思います(申請手続につき,大阪府警察HPの「運転経歴証明書」参照)。
□ 体調急変による交通事故については,損害保険料率算出機構HPの「自動車運転者の体調急変による事故~要因と防止対策を考える~」が参考になります。
□ 65歳以上の人が運転免許証を自主返納して運転経歴証明書の交付を受けた場合,サポート企業・店舗において運転経歴証明書を提示することにより,様々な特典を受けることができます(大阪府HPの「高齢者運転免許自主返納サポート制度について」参照)。
□ 精神病,てんかんといった一定の病気にかかっており,自動車等の運転に不安がある人及びその家族の相談先として,都道府県警察には運転適性相談窓口があります。
   大阪府警察の場合,門真運転免許試験場適性試験係適性相談コーナー(電話:06-6908-9121内線384)及び光明池運転免許試験場適性試験係適性相談コーナー(電話:0725-56-1881内線384)があります(大阪府警察HPの「運転適性相談と病気の症状等の申告について」参照)。
□ 平成29年3月12日,準中型免許制度が新設されるほか,75歳以上の高齢運転者が運転免許を更新する際,認知症のおそれがあると判断された場合,臨時適性検査(専門医の診断)を受けるか,又は認知症専門医等による診断書の提出が必要となります(外部HPの「改正道路交通法が施行されます-準中型免許等(2017年3月12日)」参照)。

第3 社会保険及び失業保険

1 社会保険
(1) 労災保険からの給付
ア 会社員として労災保険に加入していた場合,後遺障害に対しては以下の支給があります。
① 後遺障害等級が8級以下のとき,(a)障害補償給付(1回給付),(b)障害特別支給金(1回給付)及び(c)障害特別一時金(1回給付)を支給してもらえます。
   (a)及び(b)は毎月の給料に対するものであり,(c)は賞与に対するものです。
② 後遺障害等級が7級以上のとき,(a)障害補償給付(年金形式),(b)障害特別支給金(1回給付)及び(c)障害特別年金(年金形式)を支給してもらえます。
   (a)及び(b)は毎月の給料に対するものであり,(c)は賞与に対するものです。 
イ 障害補償給付は損益相殺の対象となりますから,交通事故に基づく損害賠償金と重複して支給してもらうことはできません(労災保険法12条の4参照)。
   これに対して,労働者災害補償保険特別支給金支給規則に基づいて支給される障害特別支給金,並びに障害特別一時金及び障害特別年金は,損益相殺の対象となりません(最高裁平成8年2月23日判決)から,交通事故に基づく損害賠償金とは別枠で支給してもらえます。
ウ 労災保険の場合,年金形式となる7級と一時金給付となる8級との間には非常に大きな差があります。
エ 障害補償給付等の請求手続については,厚生労働省HPの「障害(補償)給付の請求手続」が参考になります。
(2) 障害基礎年金及び障害厚生年金からの給付
ア 厚生年金に加入していた場合,交通事故後の初診日から1年6月を経過した時点で概ね10級以上に該当する後遺障害が残ったとき,障害手当金の支給対象となり,概ね6級に該当する後遺障害が残ったとき,障害厚生年金3級の支給対象となります。
イ 会社員として国民年金及び厚生年金に加入していた場合,交通事故後の初診日から1年6月を経過した障害認定日において概ね5級又は4級に該当する後遺障害が残ったとき,障害基礎年金・障害厚生年金2級の支給対象となり,概ね3級以上に該当する後遺障害が残ったとき,障害基礎年金・障害厚生年金1級の支給対象となります。
ウ 社会保険の障害認定については,日本年金機構HPの「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」が基準となります。
エ 労災保険及び障害基礎年金・障害厚生年金の両方から年金を支給される場合,併給調整として,労災保険からの支給額が73%,83%又は88%となります。
(3) 国民年金保険料の免除
ア 国民年金に加入していた人が交通事故によって収入が減った場合,翌年7月以降,国民年金手帳又は基礎年金番号通知書等を持参して,市役所等の国民年金担当窓口又は年金事務所において,国民年金保険料の免除申請をすることができます(日本年金機構HPの「保険料を納めることが,経済的に難しいとき」参照)。
イ 厚生年金に加入していたものの,失業によって国民年金に加入した人の場合,前年所得が多い場合でも,所得にかかわらず,失業のあった月の前月から国民年金保険料の免除を受けられます(失業等の特例免除)(日本年金機構HPの「国民年金保険料の免除等の申請が可能な期間」参照)。
   ただし,世帯主や配偶者がいる場合,世帯主や配偶者が所得要件を満たしているか,失業等の特例免除に該当している必要があります。
ウ   国民年金保険料について未納のままにしておくと,障害基礎年金又は遺族基礎年金を支給してもらえなくなったり,将来的に老齢基礎年金を支給してもらえなくなったりする可能性があります。
   そのため,国民年金保険料を支払うことが難しい場合,必ず免除申請をしておいてください。
(4) 国民健康保険料の減額
ア 交通事故による怪我が原因で解雇されたり,退職したりしたことによって国民健康保険に加入した場合,国民健康保険料を軽減してもらえます。
   ただし,例えば,大阪市の場合,①減免を受けるための手続については,減免を受けようとする月の納期限前7日までに申請が必要ですし,②減免の対象となる保険料は,特別な事由のない限り申請があった月以降の保険料となりますし,③保険料の軽減・減免を受けるためには,世帯全員の所得が判明していることが必要であるため,未申告の人がいる場合,必ず所得の申告を行う必要があります(大阪市HPの「国民健康保険料の減額・減免等」参照)。
イ 外部HPの「国民健康保険計算機」を使えば,自治体を選択した後,年齢と年収を入力することで,国民健康保険料を計算することができます。
  
2 失業保険
(1) 総論
ア いわゆる失業保険は,失業等給付の一内容である「求職者給付の基本手当」のことです。
イ 交通事故によるケガが原因で解雇されたり,退職するように勧奨されたりした人は通常,特定受給資格者(雇用保険法23条2項)となりますし,少なくとも,体力の不足,心身の障害等により離職するわけですから,特定理由離職者(契約の更新がないことにより離職した者及び正当理由離職者)(雇用保険法13条3項)となります(「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」参照)。
   そのため,一般受給資格者(いわゆる自己都合退職のことです。)と異なり,①6月以上給料の支払があれば失業保険をもらえることがありますし,②失業保険の支給期間が長くなります(「基本手当の所定給付日数」参照)し,③3ヶ月間の給付制限期間(雇用保険法33条1項参照)がありません(7日間の待機期間(雇用保険法21条)はあります。)。
ウ 勤務先において雇用保険への加入手続をしてもらっていなかった場合であっても,ハローワークの職権による被保険者資格の確認(雇用保険法8条及び9条)を経て,最大で2年間遡及して被保険者資格を取得した上で失業保険を支給してもらえることがありますから,最寄りのハローワークに相談してください(大阪ハローワークHPの「ハローワーク管轄MAP」参照)。
   詳細については,雇用保険に関する業務取扱要領(平成28年8月1日以降)の「適用関係」の第5に書いてあります。
(2) ハローワークでの手続
ア 退職後の失業保険の受給方法は,ハローワークインターネットサービスの「雇用保険手続きのご案内」に書いてあります。
イ 失業保険を支給してもらうためにはまず,雇用保険被保険者離職票,運転免許証等の本人確認書類,写真2枚,印鑑及び本人名義の普通預金通帳(郵便局を含む。)を持参して,住所地を管轄するハローワークに行き,「求職の申込み」を行った後,雇用保険被保険者離職票を提出して受給資格を決定してもらう必要があります。
   失業保険の支給手続は,ハローワークにおける「受給資格の決定」から始まりますから,失業した場合,速やかにハローワークに行ってください。
ウ 交通事故によるケガが原因で休職した後に失業した場合,交通事故の日から3年6月が経過するまでに失業したのであれば,失業保険を支給してもらえることがあります(賃金日額の算定対象期間に関する雇用保険法13条参照)から,最寄りのハローワークに相談してください。
エ ハローワークにおける受給資格の決定に際して,離職理由が判定されます。
   仮に会社からもらった雇用保険被保険者離職票において自己都合退職と記載されていた場合,特定受給資格者又は特定理由離職者に該当する旨の異議申立てをしてください。
オ 雇用保険受給資格者証及び失業認定申告書は,雇用保険受給者初回説明会で交付してもらえます。
カ 交通事故によるケガが原因で失業した場合,「被保険者が離職し,労働の意思及び能力を有するにもかかわらず,職業に就くことができない状態」という意味での「失業」(雇用保険法4条3項)に該当しませんから,ケガが治って就労できるようにならない限り,失業保険を支給してもらえませんから,ケガが治るまでに1年間の支給期間が過ぎてしまうことがあります。
   そのため,離職日の翌日から30日を過ぎてから1ヶ月以内に(=離職の31日後から61日後までに),最大で3年間支給期間を延長してもらえる「受給期間の延長申請」(雇用保険法20条1項・雇用保険法施行規則30条1号)をしておいてください(大阪ハローワークの「受給期間延長の手続き」参照)。
 
3 会社を退職した後の公的医療保険及び年金
(1) 公的医療保険との関係

ア 会社を退職した場合,公的医療保険との関係では,以下のいずれか三つを選択します。
① 国民健康保険
② 健康保険の任意継続
③ 健康保険の被扶養者
→ 家族(配偶者,親,子等)が加入している健康保険の被扶養者になることです。
イ 国民健康保険と健康保険の任意継続のどちらがお得であるかについては,ケースバイケースです(外部HPの「国保と任意継続を比較」参照)。
   しかし,健康保険の任意継続を選択するためには,退職した日から20日以内に手続をする必要があります(健康保険法37条1項。なお,最高裁昭和36年2月24日判決参照)から,どちらがいいか分からない場合,とりあえず健康保険の任意継続をした方がいいと思います。
ウ 健康保険の場合,被扶養者が増えたからといって,健康保険料が上がることはありませんから,被扶養者の条件を満たすのであれば,健康保険の被扶養者となるのが一番お得です。

(2) 年金との関係 
ア 会社を退職した場合,年金との関係では,以下のいずれかを選択します。
① 国民年金
② 国民年金の第3号被保険者
→ 厚生年金に加入している配偶者がいる場合において,その被扶養者になることです。 
イ  国民年金の第3号被保険者の場合,自分で年金保険料を支払うことなく国民年金制度に加入できますから,こちらの方がお得です。
 
(3) 失業保険との関係
(1) 失業保険に税金はかかりません(雇用保険法12条)。
(2)   失業保険の基本手当日額が3612円以上となった場合,健康保険の被扶養者及び国民年金の第3号被保険者になることができなくなります(外部HPの「被扶養者になるのがもっとも経済的!」参照)。

第4 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう場合の留意点等

1 総論
(1) 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう場合,「自覚症状」欄の記載漏れがないよう,自覚症状をすべて記載したメモ書きを持参するようにしてください。
   その際,頸部痛,腰部痛,左上肢しびれというふうに,症状のある部位+痛み・しびれという形式で書いておいた方がいいです。
   ただし,「首を動かしたときに痛くなる。」といった動作による痛みを記載したり,「寒い日に痛くなる。」といった天候の変化による痛みを記載したりした場合,安静時等には痛みが出ていない点で症状が恒常的ではないと判断されますから,後遺障害診断書の自覚症状においてこれらの記載はなるべくしない方がいいです。
(2) 主治医に後遺障害診断書を作成してもらう場合,改めてレントゲン検査,CT検査,MRI検査等により画像を撮影してもらうようにしてください。
(3) ヘルニア等の画像所見が明らかな年齢変性による場合であっても,後遺障害診断書に記載しておいてもらった方がいいです。
(4) 後遺障害診断書右下の「障害内容の増悪・緩解の見通しなどについて記入してください」欄には,できる限り,「将来においても回復困難と認められる。」という趣旨の記載をしてもらってください。
(5)  後遺障害診断書の作成料は通常,1万800円であり,作成期間は1週間から2週間ぐらいです。
   後遺障害等級が認定された場合に後遺障害診断書の作成料を任意保険会社に請求できるのは当然ですが,そうでない場合であっても,任意保険会社に請求できることがあります。
(6) 後遺障害部分だけではなく,傷害部分についても,自賠責保険に対する被害者請求をする場合,公的医療保険で通院した期間に関して,自賠責保険指定書式の診断書を作成してもらって下さい。
   この場合,公的医療保険で通院した期間の全部をまとめて1通の診断書を作成してもらうということで大丈夫です。
   また,通院先の医療機関独自の書式で結構ですから,診療報酬明細書を作成してもらって下さい。
(7) 損害保険料率算出機構の平成27年度「自動車保険の概況」の末尾37頁によれば,平成26年度に自賠責損害調査事務所で受け付けた自賠責保険の請求事案の件数は132万6871件です。
   そのため,自賠責保険の請求と後遺障害等級認定(1級から14級まであります。)との間に期間のずれを無視して計算した場合,後遺障害等級が認定されるのは6万2350件/132万6871件=約4.69%となり,13級以上の後遺障害等級が認定されるのは2万5711件/132万6871件=約1.94%となります(「損害保険料率算出機構による後遺障害等級の認定」参照)。
(8) 後遺障害等級の内容等については,「自賠責保険の保険金及び後遺障害等級」を参照して下さい。 

2 痛みやしびれといった神経症状だけが後遺障害である場合

(1) 後遺障害認定における判断要素及び判断基準等
ア 痛みやしびれといった神経症状が後遺障害となるかどうかの判断要素は以下のとおりです。
① 事故状況,車両損傷状況
② 受傷態様,事故直後の傷害の程度
③ 初診時の診断及び検査内容
④ 治療経過
⑤ 症状固定時に残存する症状の内容
イ 神経症状だけが後遺障害となる場合,自賠責保険では,①障害の存在が他覚的に証明できる場合,12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」と認定され,②障害の存在が医学的に説明できるに過ぎない場合,14級9号「局部に神経症状を残すもの」と認定され,③医学的に説明できない場合,非該当とされます。
   医学的に説明可能といえるためには,①症状が一貫していること,及び②将来においても回復困難と認められること(14級か非該当かのボーダーラインの場合,医師の所見が特に重要になります。)の2点が大事です。
ウ 自賠責保険の場合,14級は以下のいずれかの場合に認定されます。
① 目立った他覚的所見は認められないものの,神経系統の障害が医学的に推定される場合
→ (a)少なくとも6ヶ月以上,なるべく1週間に2回以上(整骨院を併用している場合,少なくとも1週間に1回以上),整形外科に通院し,かつ,(b)初診時から症状固定までの間,自覚症状が連続していて一貫性が認められることが大切です。
② 外傷性の画像所見は認められないものの,自覚症状を説明する神経学的所見が認められる場合
エ   頸部捻挫,頸部挫傷,腰部捻挫,腰部挫傷,外傷性頸部症候群等が診断名となっていて,強烈なしびれ症状がない場合,後遺障害等級は通常,14級止まりですから,閉所恐怖症を「無理に」我慢してMRI検査を受ける必要は乏しいです。
オ 自賠責保険の場合,原則として,自覚症状に一致する外傷性の画像所見と神経学的所見の両方が認められた場合に12級に認定されます。
   ただし,被害者が高齢であるほど,頚部及び腰部に年齢相応の変性が加わっていることから,外傷性の画像所見が得られにくくなります。

カ 自賠責保険の場合,画像所見により神経根の圧迫等を確認できる場合に限り12級が認定されるのに対し,労災保険の場合,そうでない場合を含めて12級が認定されることがあります。
   そのため,神経学的所見の程度によっては,自賠責保険では14級が認定されるのに対し,労災保険では12級が認定されることがあります。
キ 神経系統の障害(例えば,神経麻痺)が電気生理学的検査によって認定された場合,12級が認定される可能性が高くなります。

ク 後遺障害部分に関する自賠責保険からの給付として,後遺障害14級と認定された場合,75万円が支払われ,後遺障害12級と認定された場合,224万円が支払われます。 
ケ 通院期間が半年だけである場合,整形外科への通院頻度等によっては非該当となることがあります。
   ただし,最初の申請で非該当であった場合において,症状固定後もリハビリ目的等で月に1,2回以上,整形外科に通院していた場合,異議申立てにより14級を認定してもらえる可能性が出てきますから,14級の認定があるまでの間,国民健康保険等を使って,月に1,2回以上,整形外科に通院しておく方がいいです。
コ 裁判基準で賠償を受ける場合,後遺障害14級の後遺障害慰謝料は110万円であり,後遺障害逸失利益は原則として事故前年の年収の9%から21%ぐらいです(14級の後遺障害は2年から5年で回復すると考えられています。)。
   そのため,例えば,事故前年の年収が300万円とした場合,後遺障害14級と非該当とでは,最終的な賠償額が137万円から173万円ぐらい異なることとなります。
サ 異議申立てによって初めて後遺障害14級の認定を受けた場合,後遺障害慰謝料は110万円より少なくなりますし,後遺障害逸失利益も少なくなります(2年ぐらいで回復すると認定されることが多いです。)。
   そのため,最初の後遺障害申請において充実した後遺障害診断書を主治医に作成してもらうことが望ましいです。
シ 「後遺障害としてのむち打ち,腰椎捻挫,神経麻痺等」も参照して下さい。 
 
(2) 必要な神経学的検査
ア   痛みやしびれといった神経症状に基づき後遺障害の等級認定申請を予定している場合,以下の神経学的検査をしてもらって下さい。
① 共通の検査
   徒手筋力テスト(MMT)深部腱反射テスト及び筋萎縮検査
② 頸部に関する検査
   スパーリングテストジャクソンテストといった神経根症状誘発テスト
③ 腰部に関する検査
   ラセーグテスト(坐骨神経痛の場合),SLRテストFNSテストといった神経根症状誘発テスト
イ 徒手筋力テストは,医師が手で抵抗を加えて患者の筋力の強さを計る検査であり,正常な場合は「5」と記載されます。
ウ 深部腱反射テストは,ゴムハンマーなどの打腱器で腱を打って刺激を与え,筋肉が収縮する反応を見る検査であり,正常な場合は「+」とだけ記載されますものの,神経根又は末梢神経に異常がある場合,反射が「低下」(±)又は「消失」(-)と記載され,脊髄に異常がある場合,反射が「著名な亢進」(こうしん)(+++)又は「亢進」(++)と記載されます。
   頸部に関係する深部腱反射としては,上腕二頭筋腱反射,上腕三頭筋腱反射及び腕撓骨筋(わんとうこつきん)反射があり,腰部に関係する深部腱反射としては,膝蓋腱(しつがいけん)反射及びアキレス腱反射があります。
エ 筋萎縮検査は,筋肉がやせているかどうかを見える検査です。
   頸部に関する筋萎縮検査では,腕の肘関節の上下(上腕及び前腕)の周径をそれぞれ測定し,腰部に関する筋萎縮検査では,脚の膝関節の上下(大腿及び下腿)の周径をそれぞれ測定します。
オ スパーリングテスト及びジャクソンテストは,医師が患者の頭部を傾けて神経根に圧迫を加えることにより神経根障害の有無を確認する検査です。
   ラセーグテスト,SLRテスト及びFNSテストは,医師が患者を寝かせて,股関節や膝関節を屈曲させたり,下肢を持ち上げて神経根に圧力を加えたりすることにより,神経根障害の有無を確認する検査です。
   これらの検査が実施された場合,後遺障害診断書において,痛みやしびれ等の訴えがある場合は陽性ということで「+」と記載され,痛みやしびれ等の訴えがない場合は陰性ということで「-」と記載されます。
カ 画像所見が他覚的所見に該当することに争いはないのに対し,各種神経学的所見の評価は慎重になされます。
   一般に,患者の意思と無関係に結果を得られる検査方法の方が,患者の応答や協力が不可欠な検査方法よりも客観性が高く,診断価値が高いとされています。
   そのため,患者の意思と無関係に結果を得られる深部腱反射テスト及び筋萎縮検査の検査結果の方が重視されます。
 
(3) 電気生理学的検査
ア 総論
(ア) 電気生理学的検査としては,針筋電図検査及び神経伝導速度検査があります。
(イ) 電気生理学的検査は,整形外科ではなく神経内科で実施される検査ですから,整形外科医に診療情報提供書(=紹介状)を書いてもらう必要があります。
(ウ) 神経麻痺が電気生理学的検査により認められた場合,12級以上の後遺障害等級の認定につながります。
   そのため,薬指と小指のしびれがひどいとか,手が垂れ下がるとか,足首と足指が垂れ下がるといった症状がある場合,電気生理学的検査で確認できる神経麻痺が原因である可能性がありますから,12級以上の認定を狙う場合,電気生理学的検査を受けて下さい。
イ 針筋電図(はりきんでんず)検査
(ア) 針筋電図検査とは,被検査者の筋肉に針を刺して,筋肉の興奮時の電気活動を観測する検査をいいます。ただし,針を筋肉に刺す検査ですから,痛みを伴います。
(イ) 針筋電図検査により,筋力低下の原因が神経にある(神経麻痺につながります。)のか,筋肉そのものにあるのかが分かることがあります。
(ウ) 針筋電図検査は,筋電図検査(EMG)の一種です。
ウ 神経伝導速度検査
(ア) 神経伝導速度検査(NCS)とは,同一神経の2点に電気刺激を与え,その反応電位の波形の時間差を測定する検査をいいます。
(イ) 外部HPの「神経伝導速度検査」の末尾に,正常値が記載されています。

3 関節の可動域制限が後遺障害である場合

(1) 総論
ア 骨折等による関節の可動域制限について後遺障害が残っている場合,健側(けんそく)(麻痺や障害等がない部位側のことです。)と比べて患側(かんそく)(麻痺や障害等がある部位側のことです。)についてどれぐらい関節を曲げることができるかによって,後遺障害等級が形式的に決まります。
イ 健側の可動域が大きければ大きいほど,健側に比べた患側の可動域が3/4以下であったり,1/2以下であったりしやすくなります。
   そのため,関節の可動域制限について後遺障害診断書を作成してもらう場合,健側がよりよく曲がるよう,事前のストレッチ運動を心がけて下さい。
ウ 関節の可動域制限の後遺障害等級については,外部HPの「上肢機能障害」及び「下肢機能障害」が参考になります。
   また,関節の可動域に関する説明については,外部HPの「上肢・手指の関節機能障害(肩・ひじ・手首・手指の可動域制限など)」及び「下肢・足指の関節機能障害(股関節・ひざ・足首・足指の可動域制限など)」が,模式図が使用されていて非常に分かりやすいです。
エ 関節がどれぐらい曲がらなければ,どれぐらいの後遺障害等級になるのかを事前に認識した上で,関節の可動域を測定してもらって下さい(具体的基準は外部HPの「関節の可動域と測定方法?」に書いてあります。)。
オ 例えば,膝を曲げてしゃがむことができなくなった場合,曲げにくくなった膝の可動域が100度以下になっています(外部HPの「ひざはどんな働きをしているの?」参照)から,ケガをしていない膝の可動域が正常値である135度であるのであれば,後遺障害等級12級が認定されることとなります。

(2) 痛みを無理に我慢して関節を曲げる必要はないこと
ア 基準に照らしてわずかでも多い目に関節が曲がった場合,後遺障害等級が下がりますし,12級の基準より少しでも余分に曲がった場合,後遺障害等級は非該当となりますから,医師が無理に関節を曲げようとした場合,これ以上関節が曲がらないとすぐに伝えてください。
イ せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について(平成16年6月4日付け基発第0604003号)別添「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」には,以下の記載があります(厚生労働省HPの「せき柱及びその他の体幹骨、上肢並びに下肢、眼の障害等級認定基準の一部改正について」参照)。
   関節可動域の測定値については、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定法」に従い、原則として、他動運動による測定値によることとするが、他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考として、障害の認定を行う必要がある。 他動運動による測定値を採用することが適切でないものとは、例えば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性の麻痺となり、他動では関節が可動するが、自動では可動できない場合、関節を可動させるとがまんできない程度の痛みが生じるために自動では可動できないと医学的に判断される場合等をいう。

4 整骨院では後遺障害診断書を作成してもらえないこと  
□ 整骨院を経営している柔道整復師は医師ではありませんから,後遺障害診断書を作成することはできません。
   そのため,整骨院での施術ばかり受けていて,まともに整形外科での治療を受けていなかった場合,主治医が治療経過を把握しにくくなりますから,必要十分な後遺障害診断書を主治医に作成してもらうことが難しくなることがあります。

第5 後遺障害の等級認定申請をする場合の留意点

1 被害者が後遺障害の等級認定申請をする方法
(1) 被害者が後遺障害の等級認定申請をするためには,以下の二つの方法があります。
① 被害者請求(自動車損害賠償保障法16条)
   被害者が自分で必要書類等を用意して直接,自賠責保険会社に対し,後遺障害等級認定申請書を提出する方法です(自賠法施行令3条参照)。
② 一括払(=事前認定)
   加害者側の任意保険会社を通じて,自賠責保険会社に対し,後遺障害等級認定申請書を提出する方法です。
(2) 被害者請求を弁護士に依頼する場合,実印を付いた委任状及び印鑑登録証明書が必要となります。
(3) 交通事故110番のHPに「自賠責保険に対する被害者請求の書式」が掲載されています。
(4) 事故発生状況報告書の記載例が,外部HPの「事故発生状況報告書」に掲載されています。
   ただし,警察が作成した実況見分調書がある場合,事故発生状況報告書の作成を省略できることが多いです。
(5) 自賠責保険の仕組みについては,損害保険料率算出機構(略称は損保料率機構又はGIROJです。)のディスクロージャー資料として掲載されている「自賠責保険(共済)損害調査の仕組み」が参考になります。
(6) 自賠責保険会社の連絡先等については,「自賠責保険の被害者請求及び加害者請求」を参照して下さい。
  
2 被害者請求及び一括払の比較 
(1) 被害者請求の場合,①被害者が自分で必要書類等を用意する必要がある点で結構な手間がかかるものの,②後遺障害の審査に関する進捗状況を確認できますし,③自賠責保険金は直接,被害者又は代理人弁護士の預貯金口座に振り込まれます。
   これに対して一括払の場合,①加害者側の任意保険会社が必要書類を用意してくれますものの,②後遺障害の審査に関する進捗状況を確認できませんし,③被害者に不利な意見書が任意保険会社の顧問医によって作成されることがありますし,④自賠責保険金は被害者の預貯金口座には振り込まれず,示談の際,任意保険会社が被害者に支払うこととなります。
(2) 被害者請求により後遺障害の等級認定申請をした場合,レントゲン検査,CT検査,MRI検査等により撮影した画像の全部を病院から取り寄せた上で,自賠責保険の損害調査事務所に送付する必要があります。
   通常は,自賠責保険会社に対する被害者請求の受付が終了した後に送られてくる,損害保険料率算出機構の自動車損害調査事務所からの「自賠責保険の損害調査資料提出のご依頼」(画像等取付けのご依頼)に基づいて,画像を宅配便で送付すれば足ります。

3 所要時間,過失相殺及び消滅時効
(1)   自賠責保険会社に被害者請求の書類を提出してから損害保険料率算出機構に送付されるまでに大体,2週間ぐらいかかります。
  また,後遺障害の等級認定申請の書類が損害保険料率算出機構に送付されてから,後遺障害の審査結果が出るまでに通常,1ヶ月ぐらいかかります。
   そのため,被害者請求をしてから後遺障害の審査結果が出るまでに通常,1ヶ月半ぐらいかかります。
(2)   過失割合が7割以上となる可能性がある場合,詳細な事故状況を記載した書面の提出が求められるため,1ヶ月以上,余分に時間がかかることが多いです。
(3) 損害保険料率算出機構が作成している「平成28年度自動車保険の概況」(損害保険料率算出機構HPの「ディスクロージャー資料」の一つです。)によれば,自賠責損害調査事務所における損害調査所要日数は以下のとおりです。
① 死亡事案の場合
30日以内が79.8%,31日~60日が10.5%,61日~90日が3.6%,90日超が6.2%
② 後遺障害事案の場合
30日以内が81.9%,31日~60日が10.5%,61日~90日が4.4%,90日超が3.7%
③ 傷害事案の場合 
30日以内が98.7%,31日~60日が0.9%,61日~90日が0.3%,90日超が0.2% 
(4) 自賠責保険の場合,被害者の過失割合が7割以上とならない限り,過失相殺による減額はありません。
(5) 平成22年4月1日以降に発生した交通事故の場合,自賠責保険金の消滅時効は3年です(自賠法19条)。
 
4 一括払事案において事前認定が出ている場合,自賠責保険に基づく支払だけを先に受けることができること
   一括払事案において被害者が加害者の任意保険会社との間で示談が成立していない場合であっても,任意保険会社が損害保険料率算出機構に対し,後遺障害の等級認定を事前に取得しているとき,被害者は,自賠責保険会社に対し,被害者請求(自賠法16条1項)をすることで,自賠責保険に基づく支払だけを先に受けることができます。
  この場合,被害者は,加害者の自賠責保険会社に対し,所定の添付書類と一緒に,自賠責保険の支払請求書兼支払指図書を提出することになります(自賠法施行令3条参照)。

第6 後遺障害の等級認定結果が出た場合の留意点

1 後遺障害の等級認定に関する説明資料
(1) 後遺障害の等級認定結果が出た場合,①後遺障害等級の有無,②認定された後遺障害の等級及び③認定理由が書面で開示されます。
(2) 自賠責保険会社に対して書面で請求すれば,以下の書類を送ってくれます(自動車損害賠償保障法16条の5・支払適正化措置省令7条参照)。
① 後遺障害事案整理票 
→ (a)初診時の傷病名,(b)初期の症状及び態様,(c)治療経過,(d)傷病名,(e)既存障害,(f)自覚症状,(g)他覚的所見・検査結果等が記載されている書類です。
   後遺障害診断書を提出した事案であれば,後遺障害に該当しない場合であっても作成されています。
② 損害の細目及びその積算根拠を記載した書面
→ 治療費,通院費,文書料,休業損害,慰謝料という損害項目ごとの支払金額及びその内容等が記載されています書類です。
   自賠責保険からの支払額が,自賠責保険の限度額(例えば,傷害部分は120万円)に満たない場合に取り寄せる実益があります。
 
2 後遺障害の等級認定結果に対する不服申立手段 
(1) 後遺障害の等級認定結果に対して不服がある場合,以下の不服申立手段があります。
① 自賠責保険会社に対する異議申立て
② 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に対する調停の申立て
③ 裁判所に対する訴訟の提起
(2) 一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構に対する調停の申立てをした場合に結論が変わった割合は,8.8%(平成24年度),7.5%(平成25年度),8.2%(平成26年度),9.4%(平成27年度)という風に推移しています。
(3) 自賠責保険会社に対する異議申立てには,後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効を中断する効力はありません(最高裁平成16年12月24日判決参照)。
   そのため,遅くとも症状固定となってから3年以内に訴訟提起することによって消滅時効を中断する必要があります。
(4) 労災保険からも後遺障害等級認定を受けている場合,労災の方が自賠責よりも認定が甘いですから,労災保険の後遺障害等級認定に関して,認定を知った日から3ヶ月以内に(労働保険審査官及び労働保険審査会法8条1項),都道府県労働局労災保険審査官(例えば,大阪労働局労働基準部労災補償課にいる大阪労働局大阪労災保険審査官)に対する審査請求をした方がいいです(「労災保険に関する不服申立方法」参照)。
   ただし,労災保険の後遺障害等級認定に関する取消訴訟は,審査請求に対する労災保険審査官の決定を経た後でなければ,提起することができません(労災保険法40条)。
(5) 大阪労働局労働基準部労災補償課は,大阪市交通局の谷町四丁目駅の近くにある大阪合同庁舎第2号館(西隣にある大阪合同庁舎第4号館とは異なります。)9階にあります(大阪労働局HPの「大阪労働局へのアクセス」参照)。
   また,館内に入館する場合,受付で入館証を記載する必要があります。
(6)   労災保険審査官に対する審査請求をした日から3箇月を経過しても審査請求についての決定がない場合,労災保険審査官が審査請求を棄却したものとみなした(労災保険法38条2項)上で,取消訴訟を提起することができます。
(7) 都道府県労働局労災保険審査官の決定に対しては,決定を知った日から2ヶ月以内に(労働保険審査官及び労働保険審査会法38条1項),厚生労働省労働保険審査会に対する再審査請求(厚生労働省HPの「労働保険審査会」参照)をすることができます。
   ただし,労働保険審査会HPの「労働保険再審査取扱状況」によれば,平成24年度ないし平成27年度の場合,後遺障害等級に関する取消裁決がありませんから,直接,取消訴訟を提起した方がいいと思います。
(8) 裁判所に対する訴訟提起に関しては,「弁護士依頼時の一般的留意点」「陳述書」「証人尋問及び当事者尋問」を参照して下さい。
 
3 後遺障害の等級認定結果に不服がない場合の手続
(1) 総論
ア 後遺障害の等級認定結果に不服がない場合,等級認定結果を基準として,①示談交渉,②公益財団法人交通事故紛争処理センターへの和解斡旋の申立て(同センターHPの「法律相談,和解あっ旋および審査の流れ」参照),③裁判所に対する訴訟提起により,損害賠償額を確定することとなります。
イ 裁判所に対する訴訟提起をした後に,交通事故紛争処理センター(略称は「紛センン」です。)を利用することはできません。
ウ 「交通事故紛争処理センター体験レポート」には,交通事故紛争処理センターを利用した人の体験談が載っています。

(2) 交通事故紛争処理センターのメリット・デメリット
ア 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのメリットは以下のとおりです。
① 訴訟と比べると,手続が簡単です。
② 和解斡旋後に出される審査会の裁定には拘束力がありますから,訴訟提起した場合よりも早く解決することが多いです。
③ 法律相談,和解斡旋及び審査に関する費用を交通事故紛争処理センターに支払う必要はありません。
イ 裁判所に対する訴訟提起と比べた場合の,交通事故紛争処理センターのデメリットは以下のとおりです。
① 後遺障害の等級認定結果について争うことはできません。
② 遅延損害金及び弁護士費用を請求できません。
③ 損害賠償請求権の消滅時効を中断することはできません。
ウ 交通事故紛争処理センターは,訴訟と示談の中間みたいな手続です。

(3) 裁判所に訴訟を提起した場合,事前交渉提示額より下がる場合があること
   以下のような事情があるため,裁判所に訴訟を提起した場合,訴訟上の和解又は判決での認容額が事前交渉提示額より下がることがあります。
① 訴訟提起後に実況見分調書,被害者のカルテ等を確認した結果,被害者に不利な事実が訴訟提起後に判明する場合があること。
→ 例えば,(a)交通事故の時に被害者がシートベルトをしていなかった事実,(b)治療中に事故の負傷部位にさらに別の事故での負傷が加わった事実,(c)後縦靱帯骨化症(OPLL)が治療の長期化・後遺障害の程度に大きく影響している事実があります。
② 早期解決ができることを条件として,訴訟では認められない可能性のある損害を任意保険会社が争っていない場合があること。
→ 例えば,介護のための家族の高額なホテル代があります。
③ 最終的に決裂した事前交渉中に,タクシー代支払の合意,休業損害額の合意といった,一部の事項だけの合意が成立していた場合
→ 訴訟提起後に合意の事実を被告が争った場合,決裂した合意の中の一部の中間的な合意については「法的に」成立していたという主張は非常に認められにくいです。

第7 交通事故の示談をする場合の留意点

1 弁護士に依頼すべきであること
(1) 任意保険会社が示談交渉で示す示談金は,裁判基準に基づく金額を下回ることはもとより,弁護士が介入した後に示す金額よりも低いことが通常です。
   そのため,任意保険会社から示談金を示された場合,弁護士に相談することが非常に望ましいです。
(2)   弁護士費用特約を利用できる場合,加害者に対する損害賠償請求について,依頼者となる被害者に弁護士費用の自己負担が発生することはありません。
 
2 自賠責保険の支払基準を下回ることはないこと

(1) 平成14年3月11日付の国土交通省自動車交通局保障課長通知「自動車損害賠償保障法及び関係政省令の改正等に伴う事務の実施細目について」(国土交通省HPの告示・通達検索参照)に基づき,任意保険会社は,被害者と初期に接触した時点で,一括払の金額は自賠責保険支払限度額内では自賠責保険の「支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示)(自動車損害賠償保障法16条の3)による積算額を下回らないことを記載した書面を交付することにより,任意保険会社の支払額は自賠責保険の「支払基準」を下回らないことが義務づけられています。
   これは,任意保険会社が過失相殺なり損害算定なりについて厳しい主張をする場合がありますところ,被害者が自賠責保険会社に自分で請求手続をとれば,「支払基準」の水準で損害賠償額の支払を受けられるのに,任意保険会社から直接,賠償金を受け取ることにより,「支払基準」に達しない賠償しか受けられなくなるという事態を回避するためのものです。
   つまり,任意保険会社が示談をする場合,自賠責保険の「支払基準」(自動車損害賠償保障法16条の3)を下回る金額で被害者と示談することはできません。
(2) 一般のHPとしては,「自賠責保険金の支払基準」の記載が分かりやすいです。
 
3 示談とは別枠で支払を受けることができるお金
   最高裁判例によれば,以下の保険金は,加害者からの損害賠償金,自賠責保険金等とは別枠で支払を受けることができます。
① 生命保険の死亡保険金(最高裁昭和39年9月25日判決
② 生命保険の傷害給付金及び入院給付金(最高裁昭和55年5月1日判決
→ 最高裁判例はないものの,医療保険の入院給付金及び通院給付金,並びに都道府県民共済(大阪府の場合,大阪府民共済)の入院給付金及び通院給付金についても同様の取扱いを受けると思われます。
③ 搭乗者傷害保険の保険金(最高裁平成7年1月30日判決参照)
④ 労災保険から受領した特別支給金(最高裁平成8年2月23日判決
 
4 示談金における主な項目等
(1) 任意保険会社が示談交渉で示す示談金のうち,金額の大きな項目は通常,以下のとおりです。
   ただし,自賠責保険の後遺障害等級認定がない場合,④後遺障害逸失利益及び⑤後遺障害慰謝料を支払ってもらうことはできません。
① 治療費
② 休業損害
③ 入院慰謝料及び通院慰謝料
④ 後遺障害逸失利益
→ 基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間によって計算します。
⑤ 後遺障害慰謝料
(2)ア 義肢,歯科補てつ,義眼,眼鏡(コンタクトレンズを含む。),補聴器,松葉杖等の買換費用は治療関係費に含まれますから,物損に関する示談が成立している場合であっても請求できます。
   自賠責保険の場合,眼鏡(コンタクトレンズを含む。)は5万円が上限とされていますが,任意保険の場合,こうした上限はありません。 
イ 眼鏡等は身体の機能を補完するために必要なものである点で眼鏡等の損傷は人損ですし,交通事故時と同じ眼鏡等を再調達するのに必要な費用が損害となる点で減価償却は不要です。
(3) 弁護士が訴訟提起前に示談をする場合,入院慰謝料及び通院慰謝料については,裁判基準と任意保険基準の間の金額で示談をすることとなります。
(4) 痛み,しびれ等の後遺障害が14級に該当する場合,労働能力喪失期間は2年から5年であり,12級に該当する場合,労働能力喪失期間は5年から10年です。
(5)   裁判基準では,専業主婦等の家事従事者の場合,学歴計・女性全年齢平均賃金である372万7100円(平成27年に症状固定となった場合)を基準として後遺障害逸失利益を計算できます。

5 第三者行為災害として労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があること

(1) 交通事故が労働災害に該当する場合,被災者は,使用者とは別の第三者の加害行為によってケガをしたこととなりますから,第三者行為災害となります。
(2) 第三者行為災害の場合,労災保険は,被災者である交通事故被害者に支払った障害補償給付等を,被災者の過失割合に応じて損害保険会社に請求します。
   そのため,後日,労災保険に対して障害補償給付等を請求する予定がある場合,加害者側の損害保険会社との間で示談をすることができません。
(3)   示談が真正に成立し,かつ,その示談内容が,受給権者の第三者に対する損害賠償請求権(保険給付と同一の事由に基づくものに限る。)の全部の填補を目的とするものである場合,放棄した損害賠償請求権について,労災保険からの支給を受けることができなくなります(最高裁昭和38年6月4日判決参照。なお,外部HPの「第三者行為災害と示談」参照)。
   また,慰謝料「以外の」名目で加害者から損害賠償金を支払ってもらった場合,その分,労災保険からの支給が減ります(労災保険法12条の4第2項)。
   そのため,労災保険からの支給がある場合,労基署に相談した上で示談する必要があります。 
 
6 被害者について人身傷害補償保険が適用される場合,過失部分について人身傷害補償保険からの給付があること
(1) 被害者に過失がある事故であっても,被害者について人身傷害補償保険が適用される場合,示談の前後を問わず,過失部分について人身傷害補償保険からの給付があります。
   具体的にどのような場合に適用されるかについては,「人身傷害補償保険」を参照して下さい。
(2) 加害者に対する損害賠償請求訴訟をした上で,判決又は訴訟上の和解により損害賠償金を回収した場合,自分の過失部分について,金額が少ない人身傷害基準ではなく,金額が多くなる訴訟基準に基づく保険金を支払ってもらえます。
   そのため,自分の過失割合が少ない場合,実質的に自分に過失がなかった場合と同額の損害賠償金を受領できることとなります「人身傷害補償保険」参照)。
(3) 人身傷害補償保険の内容によっては,自分又は家族について,他の自動車に乗車中に交通事故が発生したり,歩行中や自転車運転中に交通事故が発生したりした場合であっても,過失部分について人身傷害補償保険から給付されることがあります「人身傷害補償保険」参照)
(4) 人身傷害補償保険の協定書は,「乙に対する損害賠償請求権及び自賠責保険損害賠償請求権は,貴社に移転し,貴社が優先して請求・受領すること」という文言を含んでいることが多いですが,この文言を受け入れた場合,人身傷害補償保険の損害保険会社が儲かり,被害者の最終的な回収額はその分,減りますから,弁護士に依頼すべきです(
「人身傷害補償保険」参照)。

7 任意保険会社との示談の形式(示談書及び免責証書)
(1) 総論
ア   加害者(=被保険者)側の任意保険会社と示談をする場合,被害者にも過失があるときは示談書を作成し,被害者に全く過失がないときは免責証書を作成します。
イ 過失割合に争いがない場合,まずは物損について示談をし,症状固定となった後に人損について示談することとなります。
ウ 示談書及び免責証書は通常,3枚複写となっており,示談金の振込口座となる被害者又はその代理人弁護士の預貯金口座は2枚目及び3枚目にだけ記載されるのであって,加害者側の控えとなる1枚目には記載されません。
(2) 示談書
ア 示談書とは,加害者及び被害者がお互いに対していくら支払うことで交通事故を解決するかを記載した書面であり,加害者及び被害者の両方の署名押印がなされます。
   つまり,示談書の場合,加害者及び被害者の両方の署名押印が必要となる点で作成に手間が掛かります。
イ   被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、書面による合意が成立した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が加害者との間で示談書を作成した場合,加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できることとなります。
(3) 免責証書
ア 免責証書とは,被害者が一方的に加害者及び任意保険会社宛に金○○円を受領することにより,加害者に対する損害賠償請求権を放棄することを宣言して署名押印する書面をいい,加害者の署名押印,及び任意保険会社の記名押印はなされません。
   つまり,免責証書の場合,被害者の署名押印だけで足りますから,示談書の作成ほどは手間が掛かりません。
イ   損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合,被害者は,加害者側の任意保険会社に対し,自動車保険約款に基づき,損害賠償金の直接請求権を取得します。
   そして,被害者が免責証書を作成した場合, 加害者側の任意保険会社に対して直接,損害賠償金を支払うように請求できるということです。
ウ(ア) 東京海上日動火災保険株式会社と示談をする場合,免責証書の本文は以下のような文面になっています。
「上記事故によって乙の被った一切の損害に対する賠償金として,乙は「甲・丙」の保険契約に基づき丁より既払額○○万円の他に○○万円を受領後には,その余の請求を放棄するとともに,上記金額以外に何ら権利・義務関係の無いことを確認し,甲・丙および丁に対し今後裁判上・裁判外を問わず何ら異議の申立て,請求および訴えの提起等をいたしません。」
(イ)   甲及び丙は加害者であり,乙は被害者であり,丁は甲及び丙が被保険者となっている任意保険会社のことです。
   ただし,加害者が1人だけの場合,丙はいません。

8 金員仮払いの仮処分命令
(1) 交通事故の被害者において相手方から直ちに損害賠償金を回収しないと生活に困窮するといった事情がある場合,民事保全法23条2項所定の「仮の地位を定める仮処分命令」の一種である,金員仮払いの仮処分命令を利用することができます。
(2) 金員仮払いの仮処分命令を利用するためには,①被保全権利(例えば,交通事故に基づく損害賠償請求権)の疎明(民事保全法13条2項参照),及び②「争いがある権利関係について債権者に生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)に該当することを疎明する必要があります。
②については,(a)直近2ヶ月分の家計簿を提出するとともに,(b)依頼者名義の預貯金通帳をすべて開示し,預貯金の残高がほとんど残っていないことを裁判所に説明する必要があります。
(3) 金員仮払いの仮処分命令は,原則として,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ない限り,発令してもらうことができません(民事保全法23条4項)。
(4) 交通事故事件において人身傷害補償保険を利用できる場合,民事保全法23条2項所定の事由がありませんから,金員仮払いの仮処分を利用することはできません。
1(1) 交通事故(検察審査会を含む。)及び債務整理の初回の面談相談は無料であり,相続情報公開請求等の面談相談は30分3000円(税込み)です。
   交通事故及び債務整理については,無料の電話相談もやっています。
(2) 相談予約の電話番号は「お問い合わせ」に載せています。
  
2 執務時間は原則として平日の午前10時から午後7時30分までですが,事前のご予約があれば,午後8時30分まで夜間相談可能です。
 
3 弁護士山中理司(大阪弁護士会所属)については,略歴及び取扱事件弁護士費用事件ご依頼までの流れ,「〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目7番3号 冠山ビル2・3階」にある林弘法律事務所の地図を参照してください。